125 / 276
呪怨劇
27、昔語り~4、そして彼は他人を嫌う~
しおりを挟む
狼藉を働こうとしたクラスメイトたちが、逆に成敗された翌日。
その日の教室はなぜか静かだった。
いつもなら、仲のいい友達同士でおしゃべりしたり、遊んだりしているため、それなりに騒がしい。
だが、この日に限って、ひそひそ話をするばかりで騒ぐようなことはなかった。
――何かあったのか?まぁ、俺にはあんま関係ないだろうけど
護はそんなことは知ったことではないといった風に、いつも通り、自分の席に向かっていき、変ないたずらが仕掛けられていないか、チェックを始めた。
五分ほど掛けて念入りにチェックして、特に何もしかけられていないことがわかると、護はようやく椅子に座る。
ランドセルの中に入っている荷物をすべて机の中にしまい終えると、クラスメイトの一人が、恐る恐るといった様子で護に近づいてきた。
「な、なぁ、土御門……一つ、聞いていいか?」
「ん?」
「土御門の家の神社って、お化け屋敷、なのか?」
「……は?なんだそれ」
失礼極まりない質問に、思わず、怒りの声が出てしまった。
いや、無理もないといえば無理もない。誰であれ、自分が住んでいる家がお化け屋敷などと呼ばれれば、苛立ちもするだろう。
それも、由緒正しいことをわかっていればなおのこと。
だが、その子がそう問いかけたことにも、しっかりとした理由があった。
「え?だって、そう言ってたよ?」
「なるほど、納得した」
返ってきた答えに、護は呆れたようなため息をついて返す。
大方、噂の根源は昨日、粗相をして幻惑にとらわれたクラスメイトたちだろうことはすぐに予想がついた。
だが、護が呆れたのは、クラス中がその噂に翻弄されているからではない。
幻惑から助けた恩を忘れ、仇で返すようなことをしでかしているクラスメイトたちの態度に呆れているのだ。
同時に、なぜ恩を仇で返すようなことをしたのか。そうまでして、何がしたいのか。彼らの目的も、自分が置かれている状況から自ずと理解できた。
だからこそ。
――まったく……こんなことなら助けてやらなきゃよかった
呆れると同時に、助けたことを後悔した。
『恩義は恩義でもって返す。仇で返すようなことは以ての外である』
人間ならばそうすることが理想であり、良識というものだ。
十にも満たない子供にそれを理解しろ、ということが無理なことだが、護は学校以外の時間で自分の倍以上、年齢が離れている大人たちと過ごしている。
その影響を受けてか、その良識が常識となり、クラスメイトたちもそう思っていると勘違いしていた。
その勘違いが、護の今の状況を生み出し、事態は最悪の方向へと向かわせることとなる。
それからというもの、クラスを超えて学校中に土御門神社の怪談として悪さをしようとしたクラスメイトたちの体験が広まっていく。
怪談の舞台に住んでいる護は化け物という、根も葉もない誹謗中傷が広まったことで、護は本当に化け物として扱われるようになり、孤立した。
むろん、担任をはじめとした教師たちはこの状況を打開しようと、ひそかに動いてはいたのだが、その努力が実ることはなく。
結局、卒業までの間に、護に貼られたレッテルを引きはがすことはできなかった。
その状況は、中学に入っても変わることはなかった。
----------------------------
「それ以来、護は家族とわたし、それからわたしの家族……のような人たち以外を信頼することはなくなったし、助けるつもりもなくなっちゃったの」
「そんなことが……あれ?けど、わたしのことは助けてくれた、んだよね??」
月美の口から、護の過去の大まかなことを聞いた佳代は、護の自分に対しての行動と、護の状態に矛盾を感じ、首を傾げる。
その問いかけに、月美はあくまでも自分の推測であることを前置きして答えた。
「たぶん、吉田さんが妖になるのを止めたかったからじゃないかな?」
「え?け、けど、化け物になっちゃったほうが、土御門くんにとって都合がいいんじゃ」
たとえ、それが元々は人間、それも自分のクラスメイトであったとしても、妖であれば、護は気兼ねなく退治することができる。
それはつい数時間前に浴びせられた威圧感で、嫌というほど実感できた。
だが、月美はそれを否定する。
「確かに妖になってたら、護は何も気にしないで退治したかもしれない」
妖や化け物に敵対された場合、容赦なく退治することは、佳代も肌で感じることで理解した。
だが、月美もそれはわかっているのだが、月美の場合は護がただ妖を退治をするだけの術者ではないことも知っている。
「護は妖の命を奪うようなことはほとんどないよ。それにね、人間が嫌いになったっていっても、殺したいほど憎んでいるわけじゃないと思うの」
そう話す根拠はある。
出雲にいた頃、特に何もなければずっと一緒にいるはずだった親友が二人いた。
中学に上がってからの友人であったが、その頃、護はすでに人間が嫌いになってしまっていたため、護に話しかけたことはないし、紹介したこともない。
おそらくは知らないままだったかもしれないが、今年の春先に土御門家を頼らなければならない事件を予知し、護に声をかけ、出雲に来てもらった。
その際、護は二人と出会ったのだが、意外にも、護は二人がいることを許容してくれていた。
――麻衣と桃花がわたしの親友だったってことが大きいいのかもしれないけど、護があの二人に強い敵意を向けることはなかった
おまけに、彼女たちの悪乗りにも、ため息交じりではあったが付き合ってくれていた。
そのことから護は、人間が嫌いなだけで、まだ憎悪を抱いているわけではないのではないか。
月美はそう信じている。
その日の教室はなぜか静かだった。
いつもなら、仲のいい友達同士でおしゃべりしたり、遊んだりしているため、それなりに騒がしい。
だが、この日に限って、ひそひそ話をするばかりで騒ぐようなことはなかった。
――何かあったのか?まぁ、俺にはあんま関係ないだろうけど
護はそんなことは知ったことではないといった風に、いつも通り、自分の席に向かっていき、変ないたずらが仕掛けられていないか、チェックを始めた。
五分ほど掛けて念入りにチェックして、特に何もしかけられていないことがわかると、護はようやく椅子に座る。
ランドセルの中に入っている荷物をすべて机の中にしまい終えると、クラスメイトの一人が、恐る恐るといった様子で護に近づいてきた。
「な、なぁ、土御門……一つ、聞いていいか?」
「ん?」
「土御門の家の神社って、お化け屋敷、なのか?」
「……は?なんだそれ」
失礼極まりない質問に、思わず、怒りの声が出てしまった。
いや、無理もないといえば無理もない。誰であれ、自分が住んでいる家がお化け屋敷などと呼ばれれば、苛立ちもするだろう。
それも、由緒正しいことをわかっていればなおのこと。
だが、その子がそう問いかけたことにも、しっかりとした理由があった。
「え?だって、そう言ってたよ?」
「なるほど、納得した」
返ってきた答えに、護は呆れたようなため息をついて返す。
大方、噂の根源は昨日、粗相をして幻惑にとらわれたクラスメイトたちだろうことはすぐに予想がついた。
だが、護が呆れたのは、クラス中がその噂に翻弄されているからではない。
幻惑から助けた恩を忘れ、仇で返すようなことをしでかしているクラスメイトたちの態度に呆れているのだ。
同時に、なぜ恩を仇で返すようなことをしたのか。そうまでして、何がしたいのか。彼らの目的も、自分が置かれている状況から自ずと理解できた。
だからこそ。
――まったく……こんなことなら助けてやらなきゃよかった
呆れると同時に、助けたことを後悔した。
『恩義は恩義でもって返す。仇で返すようなことは以ての外である』
人間ならばそうすることが理想であり、良識というものだ。
十にも満たない子供にそれを理解しろ、ということが無理なことだが、護は学校以外の時間で自分の倍以上、年齢が離れている大人たちと過ごしている。
その影響を受けてか、その良識が常識となり、クラスメイトたちもそう思っていると勘違いしていた。
その勘違いが、護の今の状況を生み出し、事態は最悪の方向へと向かわせることとなる。
それからというもの、クラスを超えて学校中に土御門神社の怪談として悪さをしようとしたクラスメイトたちの体験が広まっていく。
怪談の舞台に住んでいる護は化け物という、根も葉もない誹謗中傷が広まったことで、護は本当に化け物として扱われるようになり、孤立した。
むろん、担任をはじめとした教師たちはこの状況を打開しようと、ひそかに動いてはいたのだが、その努力が実ることはなく。
結局、卒業までの間に、護に貼られたレッテルを引きはがすことはできなかった。
その状況は、中学に入っても変わることはなかった。
----------------------------
「それ以来、護は家族とわたし、それからわたしの家族……のような人たち以外を信頼することはなくなったし、助けるつもりもなくなっちゃったの」
「そんなことが……あれ?けど、わたしのことは助けてくれた、んだよね??」
月美の口から、護の過去の大まかなことを聞いた佳代は、護の自分に対しての行動と、護の状態に矛盾を感じ、首を傾げる。
その問いかけに、月美はあくまでも自分の推測であることを前置きして答えた。
「たぶん、吉田さんが妖になるのを止めたかったからじゃないかな?」
「え?け、けど、化け物になっちゃったほうが、土御門くんにとって都合がいいんじゃ」
たとえ、それが元々は人間、それも自分のクラスメイトであったとしても、妖であれば、護は気兼ねなく退治することができる。
それはつい数時間前に浴びせられた威圧感で、嫌というほど実感できた。
だが、月美はそれを否定する。
「確かに妖になってたら、護は何も気にしないで退治したかもしれない」
妖や化け物に敵対された場合、容赦なく退治することは、佳代も肌で感じることで理解した。
だが、月美もそれはわかっているのだが、月美の場合は護がただ妖を退治をするだけの術者ではないことも知っている。
「護は妖の命を奪うようなことはほとんどないよ。それにね、人間が嫌いになったっていっても、殺したいほど憎んでいるわけじゃないと思うの」
そう話す根拠はある。
出雲にいた頃、特に何もなければずっと一緒にいるはずだった親友が二人いた。
中学に上がってからの友人であったが、その頃、護はすでに人間が嫌いになってしまっていたため、護に話しかけたことはないし、紹介したこともない。
おそらくは知らないままだったかもしれないが、今年の春先に土御門家を頼らなければならない事件を予知し、護に声をかけ、出雲に来てもらった。
その際、護は二人と出会ったのだが、意外にも、護は二人がいることを許容してくれていた。
――麻衣と桃花がわたしの親友だったってことが大きいいのかもしれないけど、護があの二人に強い敵意を向けることはなかった
おまけに、彼女たちの悪乗りにも、ため息交じりではあったが付き合ってくれていた。
そのことから護は、人間が嫌いなだけで、まだ憎悪を抱いているわけではないのではないか。
月美はそう信じている。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます
空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。
勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。
事態は段々怪しい雲行きとなっていく。
実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。
異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。
【重要なお知らせ】
※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。
※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
神楽
モモん
ファンタジー
前世を引きずるような転生って、実際にはちょっと考えづらいと思うんですよね。
知識だけを引き継いだ転生と……、身体は女性で、心は男性。
つまり、今でいうトランスジェンダーってヤツですね。
時代背景は西暦800年頃で、和洋折衷のイメージですか。
中国では楊貴妃の時代で、西洋ではローマ帝国の頃。
日本は奈良時代。平城京の頃ですね。
奈良の大仏が建立され、蝦夷討伐や万葉集が編纂された時代になります。
まあ、架空の世界ですので、史実は関係ないですけどね。

【完結】炎輪の姫巫女 〜教科書の片隅に載っていた少女の生まれ変わりだったようです〜
平田加津実
ファンタジー
昏睡状態に陥っていった幼馴染のコウが目覚めた。ようやく以前のような毎日を取り戻したかに思えたルイカだったが、そんな彼女に得体のしれない力が襲いかかる。そして、彼女の危機を救ったコウの顔には、風に吹かれた砂のような文様が浮かび上がっていた。
コウの身体に乗り移っていたのはツクスナと名乗る男。彼は女王卑弥呼の後継者である壱与の魂を追って、この時代に来たと言うのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
薔薇の耽血(バラのたんけつ)
碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。
不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。
その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。
クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。
その病を、完治させる手段とは?
(どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの)
狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
~巻き込まれ少女は妖怪と暮らす~【天命のまにまに。】
東雲ゆゆいち
ライト文芸
選ばれた七名の一人であるヒロインは、異空間にある偽物の神社で妖怪退治をする事になった。
パートナーとなった狛狐と共に、封印を守る為に戦闘を繰り広げ、敵を仲間にしてゆく。
非日常系日常ラブコメディー。
※両想いまでの道のり長めですがハッピーエンドで終わりますのでご安心ください。
※割りとダークなシリアス要素有り!
※ちょっぴり性的な描写がありますのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる