見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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呪怨劇

24、昔語り~1、言えないながらのやり方~

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「本当は、わたしの口から話すことじゃないのだけれど……」

 そう前置きして、月美は護の過去を自分が知っている範囲で語り始めた。
 心なしか、その表情はどこか寂しそうで、同時に静かな怒りをたたえているようにも思える。
 そのことに気づいていた佳代は、恐る恐る、月美に問いかけた。

「あ、あの……な、なんでそんなに怒ってる、の?」
「え?……あ、ごめん。顔に出てたかな?」
「顔、というか……雰囲気?」

 若干、おびえながらも佳代はそう返す。
 佳代の反応に月美は謝罪をしたものの、それでもその怒りの感情を抑えきれていないようだった。
 それだけのことが、護の過去にあるということだ。
 だが、それは護に何かされた、というわけではないらしい。

「勘違いしないでほしいのは、護がわたしに何かしたから怒ってるんじゃないの」
「え?」
「護にしてもらっていたことを知らないで、理不尽なことをしてきた人たちのことを怒ってるの」
「土御門くんにしてもらっていた、こと?」

 月美の弁明に、佳代は首を傾げた。
 根暗で陰気というわけではないが、とにかく人間嫌いで必要以上の関わりを持とうとはせず、用事もないのに近寄ろうものなら切って捨てる。
 そんな雰囲気を垂れ流していた護が、人のために何かしていたという時期があった、ということに驚いているようだ。
 もっとも、護のその印象は護の一面にすぎない、ということを佳代は知ることとなる。

「……ちょうど、今くらいの時期だったらしいんだけど……」

 そう前置きして、月美は佳代に語り始めた。
 自分が聞きかじった護の昔の話を。
 土御門護という青年が、人間を嫌うようになった、その経緯を。

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 元々、護は人間が嫌いというわけではなかった。
 ちゃんとあいさつもするし、御礼と謝罪を忘れない、礼儀正しい子だ。
 近所の大人たちの評判もよく、可愛がられていたのだが、それも長くは続かなかった。
 近所の大人たちの態度が一変したのは、護が小学生に上がり、一年が過ぎた頃。ちょうど、月美と初めて出会ってから一年が経とうとしていた頃だった。
 うだるような暑さが続く夏のある日のこと。
 その日、護はプールの授業でクラスメイトたちとともに学校に併設されている屋外プールにいたのだが、ふとプールの一角に、黒い影のようなものを見つけた。

――あれは、近づいたら危ないな

 物心ついたころから人ならざる者や妖の存在を見聞きすることができていたため、見つかって取り込まれないように。
 両親や祖父から危ないものとそうでないものの見分け方を徹底的に叩き込まれたことがあって、護にはその区別ができるようになっていた。
 だが、自分がそういうものを感知できることを大っぴらにしてはいけない。
 そう祖父から教えられていたせいか、その影が佇んでいる場所に近づいてはいけないと警告を発するにはどうしたらいいのか、悩んでしまった。
 そうこうしているうちに、影が近くを通りかかった児童に寄りかかり始めていた。
 あの影に近づいたらいけない。
 本能に近い部分でそれを察した護は、かといって口で警告を出すこともできないため。

「うわっ??!!」
「え?ちょっ??!!」

 無理やり、その児童を巻き込んで自分も一緒にプールの中へ飛び込んだ。
 どぼん、と盛大な音を立てて、小さな水柱が二本立ち上がったかと思うと、すぐに沈んでいく。
 それから間もなくして、水に落ちた二人が顔を出し、それと同時に、監督をしていた先生が慌てた様子で覗き込んできた。

「大丈夫かっ?!」
「げほっ!ごほっ!!」
「はぁ……はぁ……」

 先生が心配になって声をかけたが、どうにか無事だったらしく、少しだけ飲み込んでしまった水を吐き出し、肩で息をしていた。
 息もだいぶ落ち着いて、プールサイドに上がると、巻き込まれる形でプールに落ちてしまった児童が護を睨みながら、本人としては威圧しながら問いかける。

「……また・・か?土御門」
「あぁ……うん、ごめん……ほんとごめん」

 しおらしくしながら、護は児童に謝罪した。
 また、というのは、護のドジ・・のことだ。
 護は小学校に上がってから、何もないところで、誰かを巻き込んで転ぶことが多くなった。
 もっとも、巻き込まれた児童も護もけがが全くないうえに、回数もそこまで多くないため、あまり文句を言われることはない。
 とはいえ、巻き込まれた側はたまったものではないため、毎度毎度、睨み殺されるのではないかというほど、巻き込んでしまった児童から睨み付けられた。
 護本人としても、この状況をどうにかしたいとは思ってはいるのだが。

――俺以外に見える奴がいないのに、霊のことを話したって嘘ついてるって思うだけだろうし

 そう考えているため、護はクラスメイトが霊障を被らないよう、言葉ではなく行動で守る以外に手段がないのだ。
 そんな状況であるため、睨まれることは必要なこととして受け入れていた。
 それはクラスメイトも同じことのようで、護に悪意がないことがわかっているからか、悪態づいたり、文句を言ったりするだけ。
 それ以上のことに発展することはなく、今回もあまりお咎めを受けることはなかった。

――まぁ、いじめられるわけでもなし、慣れてきちゃったから別にどってことないんだけど

 そのため、今回も護は申し訳なさそうにしながらも、心中では涼し気な様子でその視線を受け流していた。
 もはや慣れた様子であったのだが、当たり前になりかけていたこの光景がこの日を最後に見られなくなるとは。
 当時の護は、予想すらしていなかった。
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