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呪怨劇
23、女同士の話し合い
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護との話を終えた月美は、佳代と話をするため佳代に割り当てられた部屋に、佳代と向かい合って座っていた。
心なしか、佳代の顔には緊張が、月美の顔にはうすら寒い笑顔が浮かんでいる。
それもそのはず。
いくら緊急避難としての処置であり、一時的なものであるとはいえ、佳代は護に使役されている状態だ。
術者の使役下に置かれるということは、物理的な距離とは関係なしに、常に繋がっている状態であり。
――恋人のわたしを差し置いて、そんなこと許せるわけないじゃない
面白くないと思わない要素がないわけがない。
執着や嫉妬だということはわかっているが、十年近くこじらせ、ようやく恋心が成就したというのに、横やりを入れられたようなものだ。
面白くないと思うことは当然だろうし、怒りたくもなるだろう。
とはいえ。
――まぁ、けど、いままで呪詛とか霊術に関わってこなかったのに、生成りになりかけたことにはちょっと同情するけど
それだけでなく、法師と呼ばれている悪霊に出くわしたり、呪詛をかけたりしていたことで、少なからず精神をすり減らし、混乱しているはず。
そんな状態を少しでも鎮静化するために、話し相手になろうという意図もあった。
護でもいいのだろうが、そこは同性同士。
気兼ねなく話すことのできることもあるだろう、という護の気遣いからだった。
もっとも、月美が二人だけで話をさせてほしい、と頼んだから、ということもあるのだが。
閑話休題。
「初めましてっていうのも、変かな?こんな形で話をするとは思わなかったよ、吉田さん」
「そう、だね……けど、こうして話をするのは初めてだから、初めまして、でいいの、かも?」
難しい顔をしながら、月美の言葉に佳代は返す。
そこに敵意はなく、悪意もないのだが、ただただ戸惑っていた。
クラス、いや、学園で五指に入ると言われている月美と二人きりの状況なのだから、仕方ないといえば仕方ない。
それだけでなく、佳代は元々、あまり人と話したことがないため、どうしても緊張してしまうのだ。
だが、その静寂を破ったのは、月美だった。
「なんだか、大変な目に遭っちゃったね?」
「え?」
「だって、いきなり化け物になったり、人間に戻ったり。それだけじゃなくて、護に殺されるかもしれない、なんて言われたりしたって」
「あぁ……うん。正直、いまも頭が追い付いてないよ」
今まで普通の人間として、妖や呪詛とは無縁の世界で生きてきた。
オカルト関係の本を読んだり、調べたりしていたことはあったが、いじめのことがなければ、護と接点を持つこともなかっただろう。
それに。
「そもそも、いじめられさえしなければ、呪詛をやろうなんて思わなかった」
「うん」
「なのに、誰にもばれない方法で仕返ししようとしたら、こうだよ?混乱するなって言わるほうが無理に決まってるじゃない」
「そうだね」
月美の相槌を皮切りに、二人は他愛ないことをあれこれと話し始めた。
学校でのこともそうだが、月美が出雲にいた間のことや休みの日のこと。
身勝手かもしれないが、先生や学校についての不平不満、クラスメイトのことだけではない。
いじめてきた女子生徒たちのことや、護のことも話題に上がる。
話しているうちに、佳代はどうしても気になっていたことを月美に問いかけた。
「……あ、あの、一つ聞きたいんだけど、いい、かな?」
「うん?」
「か、風森さんと、つ、土御門くんって……あ、あの……その……つ、つきあ」
「護は、わたしの幼馴染で、恋人だよ」
月美の口から出てきたその言葉に、佳代は脳天に雷が落ちたような感覚を覚える。
普段の様子からすれば、この二人が交際していないはずがないことはすぐにわかること。
だが、ただの幼馴染というだけで、まだ交際していない可能性もないわけではないと自分に言い聞かせてきた。
――そうじゃなきゃ、耐えられなかった……けど、やっぱりそうだったんだ
しかし、突き付けられた事実は残酷で、佳代は言葉を失い、沈黙してしまった。
その沈黙に意味に月美は気づいたようで。
「……もしかして、吉田さん。護のこと……」
佳代が月美の問いかけに黙ってうなずくと、月美は怒るでもなく、笑うでもなく。
「……そっか」
ただそうつぶやいた。
ふと、佳代は月美がどんな表情をしているのか気になり、顔を上げる。
そこには、穏やかな笑みを浮かべている月美の姿があった。
「……どう、して?」
「うん?」
「どうして、怒らない、の?」
普通なら、自分の恋人を渡さない、とばかりに攻撃的になるものだ。
だが、月美は怒ることはせず、むしろ、安心したかのような笑みを浮かべるだけ。
そこに疑問を感じずにはいられなかった。
「そうだね。普通なら、怒るのかもしれない。けどね、変だと思うかもしれないけど、わたし、少しうれしいの」
「え?どういう、こと??」
わけがわからない、とばかりに、佳代は首を傾げた。
「護は人にあまり好かれるってことがないの」
「そんなわけ……あるね、たしかに」
「否定しないんだ?」
「ごめん、さすがにフォローできない」
一瞬だけ否定しようとしたが、これまでの護の態度を思い出すと、月美の言っていることが正しいため、月美に同意する。
たしかに月美が転校してくるまで、護は人を避ける傾向にあり、自分から周囲に交わろうとせず、必要以上の集団行動は避けて行動していた。
なぜそうしていたのか聞こうにも、声をかけるよりも早く、護の姿が消えてしまうため、聞くに聞けない。
結果的に、一人でいることが好きな人種であるという結論に落ち着いていた。
「けど、土御門くんがその気になれば、友達の一人や二人、できそうな気がするけど……」
「うん。けど、護は人間が嫌いになっちゃったから……あ、けど勘解由小路くんは何度追っ払ってもしつこく寄ってくるから、諦めたって言ってたかな?」
言われてみれば、たしかに護は清と一緒にいる印象が強い。
一部の女子の間では、二人がそんな関係であると邪推されているのだが、実際のところは追い払っても追い払っても、しつこく寄ってくる。
そのため、追い払うことを諦めて、近くにいることに慣れることにしたようだ。
最近では、月美の近くにいる明美も、自分の近くにいることに慣れることにしたらしい。
そこまで聞いた佳代だったが。
――ま、ますますわからなくなっちゃった……
近くに嫌いなものがあることに慣れる、というのは、生半可なものではない。
少なくとも表情やしぐさといったものから、本当は拒絶しているというサインが見られるのだが、そういったものを一切見せていない。
それどころか。
――見かねたって言ってたけど、土御門くんはわたしを助けてくれた……人間が嫌いだっていうなら、なんでわざわざわたしを助けてくれたんだろう?
そう考えると、疑問しか浮かんでこない。
そんな疑問が佳代の脳裏に浮かんできていることを察したのか、月美は。
「ほんとなら、わたしの口から話すことじゃないと思うんだけど」
前置きした上で、自分が知っている範囲のことを話し始めた。
護が人間を嫌うようになった、その経緯を。
心なしか、佳代の顔には緊張が、月美の顔にはうすら寒い笑顔が浮かんでいる。
それもそのはず。
いくら緊急避難としての処置であり、一時的なものであるとはいえ、佳代は護に使役されている状態だ。
術者の使役下に置かれるということは、物理的な距離とは関係なしに、常に繋がっている状態であり。
――恋人のわたしを差し置いて、そんなこと許せるわけないじゃない
面白くないと思わない要素がないわけがない。
執着や嫉妬だということはわかっているが、十年近くこじらせ、ようやく恋心が成就したというのに、横やりを入れられたようなものだ。
面白くないと思うことは当然だろうし、怒りたくもなるだろう。
とはいえ。
――まぁ、けど、いままで呪詛とか霊術に関わってこなかったのに、生成りになりかけたことにはちょっと同情するけど
それだけでなく、法師と呼ばれている悪霊に出くわしたり、呪詛をかけたりしていたことで、少なからず精神をすり減らし、混乱しているはず。
そんな状態を少しでも鎮静化するために、話し相手になろうという意図もあった。
護でもいいのだろうが、そこは同性同士。
気兼ねなく話すことのできることもあるだろう、という護の気遣いからだった。
もっとも、月美が二人だけで話をさせてほしい、と頼んだから、ということもあるのだが。
閑話休題。
「初めましてっていうのも、変かな?こんな形で話をするとは思わなかったよ、吉田さん」
「そう、だね……けど、こうして話をするのは初めてだから、初めまして、でいいの、かも?」
難しい顔をしながら、月美の言葉に佳代は返す。
そこに敵意はなく、悪意もないのだが、ただただ戸惑っていた。
クラス、いや、学園で五指に入ると言われている月美と二人きりの状況なのだから、仕方ないといえば仕方ない。
それだけでなく、佳代は元々、あまり人と話したことがないため、どうしても緊張してしまうのだ。
だが、その静寂を破ったのは、月美だった。
「なんだか、大変な目に遭っちゃったね?」
「え?」
「だって、いきなり化け物になったり、人間に戻ったり。それだけじゃなくて、護に殺されるかもしれない、なんて言われたりしたって」
「あぁ……うん。正直、いまも頭が追い付いてないよ」
今まで普通の人間として、妖や呪詛とは無縁の世界で生きてきた。
オカルト関係の本を読んだり、調べたりしていたことはあったが、いじめのことがなければ、護と接点を持つこともなかっただろう。
それに。
「そもそも、いじめられさえしなければ、呪詛をやろうなんて思わなかった」
「うん」
「なのに、誰にもばれない方法で仕返ししようとしたら、こうだよ?混乱するなって言わるほうが無理に決まってるじゃない」
「そうだね」
月美の相槌を皮切りに、二人は他愛ないことをあれこれと話し始めた。
学校でのこともそうだが、月美が出雲にいた間のことや休みの日のこと。
身勝手かもしれないが、先生や学校についての不平不満、クラスメイトのことだけではない。
いじめてきた女子生徒たちのことや、護のことも話題に上がる。
話しているうちに、佳代はどうしても気になっていたことを月美に問いかけた。
「……あ、あの、一つ聞きたいんだけど、いい、かな?」
「うん?」
「か、風森さんと、つ、土御門くんって……あ、あの……その……つ、つきあ」
「護は、わたしの幼馴染で、恋人だよ」
月美の口から出てきたその言葉に、佳代は脳天に雷が落ちたような感覚を覚える。
普段の様子からすれば、この二人が交際していないはずがないことはすぐにわかること。
だが、ただの幼馴染というだけで、まだ交際していない可能性もないわけではないと自分に言い聞かせてきた。
――そうじゃなきゃ、耐えられなかった……けど、やっぱりそうだったんだ
しかし、突き付けられた事実は残酷で、佳代は言葉を失い、沈黙してしまった。
その沈黙に意味に月美は気づいたようで。
「……もしかして、吉田さん。護のこと……」
佳代が月美の問いかけに黙ってうなずくと、月美は怒るでもなく、笑うでもなく。
「……そっか」
ただそうつぶやいた。
ふと、佳代は月美がどんな表情をしているのか気になり、顔を上げる。
そこには、穏やかな笑みを浮かべている月美の姿があった。
「……どう、して?」
「うん?」
「どうして、怒らない、の?」
普通なら、自分の恋人を渡さない、とばかりに攻撃的になるものだ。
だが、月美は怒ることはせず、むしろ、安心したかのような笑みを浮かべるだけ。
そこに疑問を感じずにはいられなかった。
「そうだね。普通なら、怒るのかもしれない。けどね、変だと思うかもしれないけど、わたし、少しうれしいの」
「え?どういう、こと??」
わけがわからない、とばかりに、佳代は首を傾げた。
「護は人にあまり好かれるってことがないの」
「そんなわけ……あるね、たしかに」
「否定しないんだ?」
「ごめん、さすがにフォローできない」
一瞬だけ否定しようとしたが、これまでの護の態度を思い出すと、月美の言っていることが正しいため、月美に同意する。
たしかに月美が転校してくるまで、護は人を避ける傾向にあり、自分から周囲に交わろうとせず、必要以上の集団行動は避けて行動していた。
なぜそうしていたのか聞こうにも、声をかけるよりも早く、護の姿が消えてしまうため、聞くに聞けない。
結果的に、一人でいることが好きな人種であるという結論に落ち着いていた。
「けど、土御門くんがその気になれば、友達の一人や二人、できそうな気がするけど……」
「うん。けど、護は人間が嫌いになっちゃったから……あ、けど勘解由小路くんは何度追っ払ってもしつこく寄ってくるから、諦めたって言ってたかな?」
言われてみれば、たしかに護は清と一緒にいる印象が強い。
一部の女子の間では、二人がそんな関係であると邪推されているのだが、実際のところは追い払っても追い払っても、しつこく寄ってくる。
そのため、追い払うことを諦めて、近くにいることに慣れることにしたようだ。
最近では、月美の近くにいる明美も、自分の近くにいることに慣れることにしたらしい。
そこまで聞いた佳代だったが。
――ま、ますますわからなくなっちゃった……
近くに嫌いなものがあることに慣れる、というのは、生半可なものではない。
少なくとも表情やしぐさといったものから、本当は拒絶しているというサインが見られるのだが、そういったものを一切見せていない。
それどころか。
――見かねたって言ってたけど、土御門くんはわたしを助けてくれた……人間が嫌いだっていうなら、なんでわざわざわたしを助けてくれたんだろう?
そう考えると、疑問しか浮かんでこない。
そんな疑問が佳代の脳裏に浮かんできていることを察したのか、月美は。
「ほんとなら、わたしの口から話すことじゃないと思うんだけど」
前置きした上で、自分が知っている範囲のことを話し始めた。
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