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呪怨劇
19、苛立ちながらの追跡
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法師を無視して護は教室を飛び出し、佳代を追いかけた。
幸いにして、佳代がどこへ向かったか、方向はわかる。
なぜなら。
「な、なんだったんだ、あれ……」
「お、俺が知るかよ」
「あ、ありえない……つ、角?あ、あんなの、嘘よ……」
「あ、あはは……あははははははは……」
「………………」
佳代が通った跡には、死屍累々、とまではいかずとも、かなりの数の一般人が震え、あるいはうずくまり、あるいは狂ったように笑っていた。
人ではないものだが、あきらかにコスプレではないものを見てしまい、目の前を通ったそれが現実のものだということに気づいてしまったためだろう。
むろん、好奇心でカメラを向けたものもいたはずだ。
その時に反撃をされたのか、あるいは何かしらの攻撃を受けたのか、それともカメラの性能の良さゆえに、肉眼ではみずにすんだものを見てしまったのか。
いずれにしても佳代に恐怖した結果、発狂しているとしか思えない人々の群れができているのだ。
これを追っていけば、佳代が行った先へむかうことができる。
楽と言えば楽なのだが、護は心中で忌々し気に舌打ちしていた。
――ちっ……しかし厄介なことになりやがった
確かに、いつもならばそこら中に式を飛ばしたり、五色狐たちに捜索を命じるところなのだが、そんなことをしなくても済むあたり、気をもむ必要がないのは楽だ。
だがその分、隠密行動により一層、気を配る必要があるため、厄介なことになった、と思っている。
そのため、現在、隠形術を自身に施しながら佳代を追っているのだ。
さほど走っていないはずなのに額には汗が浮かび、息も荒くなる。
さらに悪いことに、隠形術もいつも以上にほころびがあるらしく、時折、護の方を振り向く人が見かけられた。
いや、走っているだけならばこうはならない。
隠形術に集中できていない要因が護の頭の中にあるということだ。
――くそっ!どうすりゃいいんだ、ほんとに!!
むろん、その原因は生なりとなってしまった佳代を救う方法だった。
いつもならば放っておくのだが、ほんの一瞬であったとはいえ、佳代と関わってしまった以上、生成りとして処分してしまうのは目覚めが悪い。
何より。
――このままじゃ、あの爺のシナリオに乗っかることになるような気がしてならない
それは腹が立つし、何より佳代をこのままにしておくということは、到底、受け入れることができない。
だが、いまだにどうすればこの状況を打開することができるのか、その策が浮かんでこなかった。
そもそも、鬼が人間になった、という伝承は存在しない。
もちろん、それは伝承にある鬼という存在が総じて、人外の存在であるためだ。
人外ということは、人の理の外にある存在、ということ。
――普通なら、人間の理の中に収めることはできないが……
通常、すなわち『常の通りのこと』というものは、覆すことができないわけではない。
法律やゲーム上のルール、果てはこの世界の法則であっても、抜け穴のようなものは存在する。
その抜け穴になりうるものがあれば、あるいは。
そう考えているのだが、なかなか思い当たるものがなかった。
――あぁ、そうか!あるいはこの手なら……けどなぁ、それはそれで面倒だな
思考を巡らせるうちに、一つの策が浮かんできたが、護はそれを実行する算段をつけようとはしなかった。
面倒だからということもあるが、何よりできるかどうかがわからない、不確実な手段だからだ。
そもそも、急ごしらえの策が浮かんだところで、本当に佳代を救うことができるかどうかもわからない。
――共倒れになることはないだろうが、不確定要素が多い。それに、本来、こういうのは綿密な準備が必要になる
急ごしらえで術を行使することは、却ってひどいしっぺ返しを食らってしまう可能性がある。
だが、だからといって他に策があるわけではない上に、時間もあまりかけられないこの状況。
もはや、手段を選んでいる場合ではないことは、護も十分にわかっていた。
――あぁ、くそ!本当に面倒なことになっちまったな!!それもこれも、あのくそ爺のせいだ!!
苛立たし気に頭を掻きむしりながら、護は法師に悪態をついた。
もっとも、齢二十にも満たない護に悪態をつかれようと、あの狸のような法師にはほんの少しも響きはしないのだろうが。
そうこうしているうちに、護は行き止まりまでたどり着くが、そこに佳代の姿はなかった。
気配は確かにあるのだが、姿だけ見えない。
――隠形か?いや、これは霊体になって姿を隠しているって感じか
隠形術ならば、気配も完全とはいかないまでもよほど勘のいい人間でない限り、見つけることができないほど小さくすることができる。
だが、護が立っている場所は、はっきりと護以外の誰かがいると感じることができた。
つまり、今の佳代は姿だけを隠している状態にすぎないということだ。
どうやら、ある程度の理性は残っているらしい。
そう推測した護は、ひとまず、佳代に声をかけてみることにした。
「吉田」
「……づ、ぢみがど、ぐん?」
しっかりと、しかし激しくならないよう配慮しながら、護は佳代に声を掛ける。
声をかけられた佳代は、ゆっくりと護の方へ顔を向け、護の名前をつぶやいた。
ひどく、しゃがれた声だ。
鬼へと変貌している最中であるため、致し方ないことではある。
だが、どうやら、肉体はもうかなり瘴気にあてられてしまう、変貌してしまっているようだ。
だが、そんなことは気にするようすはなく、護は佳代に問いかけた。
「吉田。お前は人間に戻りたいか?それとも、鬼になっても呪詛を完成させたいか?」
幸いにして、佳代がどこへ向かったか、方向はわかる。
なぜなら。
「な、なんだったんだ、あれ……」
「お、俺が知るかよ」
「あ、ありえない……つ、角?あ、あんなの、嘘よ……」
「あ、あはは……あははははははは……」
「………………」
佳代が通った跡には、死屍累々、とまではいかずとも、かなりの数の一般人が震え、あるいはうずくまり、あるいは狂ったように笑っていた。
人ではないものだが、あきらかにコスプレではないものを見てしまい、目の前を通ったそれが現実のものだということに気づいてしまったためだろう。
むろん、好奇心でカメラを向けたものもいたはずだ。
その時に反撃をされたのか、あるいは何かしらの攻撃を受けたのか、それともカメラの性能の良さゆえに、肉眼ではみずにすんだものを見てしまったのか。
いずれにしても佳代に恐怖した結果、発狂しているとしか思えない人々の群れができているのだ。
これを追っていけば、佳代が行った先へむかうことができる。
楽と言えば楽なのだが、護は心中で忌々し気に舌打ちしていた。
――ちっ……しかし厄介なことになりやがった
確かに、いつもならばそこら中に式を飛ばしたり、五色狐たちに捜索を命じるところなのだが、そんなことをしなくても済むあたり、気をもむ必要がないのは楽だ。
だがその分、隠密行動により一層、気を配る必要があるため、厄介なことになった、と思っている。
そのため、現在、隠形術を自身に施しながら佳代を追っているのだ。
さほど走っていないはずなのに額には汗が浮かび、息も荒くなる。
さらに悪いことに、隠形術もいつも以上にほころびがあるらしく、時折、護の方を振り向く人が見かけられた。
いや、走っているだけならばこうはならない。
隠形術に集中できていない要因が護の頭の中にあるということだ。
――くそっ!どうすりゃいいんだ、ほんとに!!
むろん、その原因は生なりとなってしまった佳代を救う方法だった。
いつもならば放っておくのだが、ほんの一瞬であったとはいえ、佳代と関わってしまった以上、生成りとして処分してしまうのは目覚めが悪い。
何より。
――このままじゃ、あの爺のシナリオに乗っかることになるような気がしてならない
それは腹が立つし、何より佳代をこのままにしておくということは、到底、受け入れることができない。
だが、いまだにどうすればこの状況を打開することができるのか、その策が浮かんでこなかった。
そもそも、鬼が人間になった、という伝承は存在しない。
もちろん、それは伝承にある鬼という存在が総じて、人外の存在であるためだ。
人外ということは、人の理の外にある存在、ということ。
――普通なら、人間の理の中に収めることはできないが……
通常、すなわち『常の通りのこと』というものは、覆すことができないわけではない。
法律やゲーム上のルール、果てはこの世界の法則であっても、抜け穴のようなものは存在する。
その抜け穴になりうるものがあれば、あるいは。
そう考えているのだが、なかなか思い当たるものがなかった。
――あぁ、そうか!あるいはこの手なら……けどなぁ、それはそれで面倒だな
思考を巡らせるうちに、一つの策が浮かんできたが、護はそれを実行する算段をつけようとはしなかった。
面倒だからということもあるが、何よりできるかどうかがわからない、不確実な手段だからだ。
そもそも、急ごしらえの策が浮かんだところで、本当に佳代を救うことができるかどうかもわからない。
――共倒れになることはないだろうが、不確定要素が多い。それに、本来、こういうのは綿密な準備が必要になる
急ごしらえで術を行使することは、却ってひどいしっぺ返しを食らってしまう可能性がある。
だが、だからといって他に策があるわけではない上に、時間もあまりかけられないこの状況。
もはや、手段を選んでいる場合ではないことは、護も十分にわかっていた。
――あぁ、くそ!本当に面倒なことになっちまったな!!それもこれも、あのくそ爺のせいだ!!
苛立たし気に頭を掻きむしりながら、護は法師に悪態をついた。
もっとも、齢二十にも満たない護に悪態をつかれようと、あの狸のような法師にはほんの少しも響きはしないのだろうが。
そうこうしているうちに、護は行き止まりまでたどり着くが、そこに佳代の姿はなかった。
気配は確かにあるのだが、姿だけ見えない。
――隠形か?いや、これは霊体になって姿を隠しているって感じか
隠形術ならば、気配も完全とはいかないまでもよほど勘のいい人間でない限り、見つけることができないほど小さくすることができる。
だが、護が立っている場所は、はっきりと護以外の誰かがいると感じることができた。
つまり、今の佳代は姿だけを隠している状態にすぎないということだ。
どうやら、ある程度の理性は残っているらしい。
そう推測した護は、ひとまず、佳代に声をかけてみることにした。
「吉田」
「……づ、ぢみがど、ぐん?」
しっかりと、しかし激しくならないよう配慮しながら、護は佳代に声を掛ける。
声をかけられた佳代は、ゆっくりと護の方へ顔を向け、護の名前をつぶやいた。
ひどく、しゃがれた声だ。
鬼へと変貌している最中であるため、致し方ないことではある。
だが、どうやら、肉体はもうかなり瘴気にあてられてしまう、変貌してしまっているようだ。
だが、そんなことは気にするようすはなく、護は佳代に問いかけた。
「吉田。お前は人間に戻りたいか?それとも、鬼になっても呪詛を完成させたいか?」
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