見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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異端録

39、反撃開始

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 半数近くを吹き飛ばされた異形たちは、動揺し始めた。
 それを見逃す護と月美ではない。

「東海の神、名は阿明あめい、西海の神、名は祝良しゅくりょ、南海の神、名は巨乗きょじょう、北海の神、名は禺強ぐきょう!四海の大神、百鬼を退け、凶災を祓う!急々如律令!!」
神火しんか清明せいめい神水しんすい清明、神風しんぷう清明!」

 護は百鬼夜行を退ける呪文を、月美は邪気を払う秘咒を唱え、残った異形たちに霊力をぶつける。
 二つの霊力の波にさらわれ、異形たちはなすすべもなく、その姿を消滅させたはずだった。
 だが。

「くっそ!数がまったく減ってないぞ!!」
「おいおい、霊力は十分だったはずだろ!どうなってんだ!!」

 二つの秘咒の霊力を同時に受けたにも関わらず、異形の数は半分も減っていない。
 その事実に、職員の数名がうめき声をあげる。
 数にものを言わせ、同胞を盾にしたのか、それとも、他に何か要因があるのか。
 いずれにしても、援軍なしにこの場を切り抜けることは難しいようだ。
 護と月美は急いで結界を張りなおし、向かってくる異形たちの進行を防いだ。
 だが、二人とも霊力に不安があるらしく、いつ結界が破られるかわからない状態のようだ。
 現に、結界の壁には細かいながらもひびが入り始めていた。

「月美!調査局の援軍が来るまで、もつか?」
「正直、わからない!!そういう護は?!」
「こっちも同じく!……ったく、どれだけいるんだよ、こいつら!!」
「まったく同意見!」

 護と月美は互いに文句を言い合いながら、それでもどうにか結界を崩壊させないように努めていた。
 光たちも再び、先ほど行った技を行使しようと必死に術を紡いでいたが、全員が動揺しているためか、うまく霊力を練ることができず。

「おいっ!しっかりしてくれ!!」
「お前が言うかっ!!」
「えぇい、ごちゃごちゃやかましい!術に集中しろ!!」

 しまいには術がうまく実行できない責任をなすりつけあうようになってしまった。
 むろん、隊長である光は彼らの無駄な争いを止めようしたのだが。

――止めるより先に、自分だけでも術を行使できる状態に持っていかなければならない!

 という判断が先立ってしまい、争いを始めてしまっている職員たちに意識をむける余裕がなくなっていた。

「……本当はあまり見せたくないんだけどなぁ……」

 不意に、護のぼやくような呟きが聞こえてきた。
 あまり見せたくないということは、何か切り札が。この状況を打開できるほどの強力な切り札があるということなのだろう。
 その呟きが聞こえてきた光は苛立ちよりも先に、なぜそうつぶやいたのか、そのことへの納得と理解ができていた。
 強力な切り札であればあるほど、使いどころは慎重に選ばなければならない。
 それはわかるため、いままで使わなかったことに対して何も言うつもりはないが。

「気持ちはわかるが、使いどころは今なんじゃないのかっ?!」
「まぁ、背に腹は代えられないから、使うけどさ」

 そう言って、護はため息をつき、隣に立っている月美に声をかけた。

「ちょっとだけ、一人で支えてもらうことになるぞ。大丈夫か?」
「大丈夫。土御門家の祭神を祀る巫女の一族、なめないでよ?」

 まるで挑発するかのような返しに、護はにやりと笑みを浮かべる。
 印を結んでいた手をほどき、腰に下げていたケースから五枚の色が異なる人形ヒトガタを取り出し、異形たちにむかって投げつけた。
 人形は結界をすり抜け、異形たちの頭上を飛ぎ、途中で五方向に別れて停止する。

「赤、青、黄、白、黒の人形……これは、五行?」

 取り出した人形の色から、それらが何を意味しているのかを瞬時に理解した光だったが、そこからの予測がつかない。
 そうこうしているうちに、人形に淡い光が灯った。

土火木金水とほきかみ笑み給め、寒言かんごん神尊しんそん利棍陀見りこんだけん、祓い給い清め給う!」

 吉田神道に伝わる、三種の祓詞はらえことばを高らかに唱えた瞬間、人形に光が灯り、五芒星を描くように互いを結びだした。
 天井に五芒星が描かれた瞬間、護の霊力と祓詞に込められた神気が、五色の光となって異形たちの頭上に降り注いだ。
 その光を浴びた異形たちは、断末魔をあげることもなく、まるで光に飲まれるかのように消えていった。

「な……い、いまのは一体……」
「術者が自分の手の内を明かすわけないだろ……それよか、第二波がさっさと先に進んだ方がいいんじゃないか?」

 やや息を荒くしながら、護は戸惑っている光に問いかけた。
 その問いかけに光は、ひくり、と眉を動かす。

「……君たちはこのエリアの洗浄準備を!私は協力者二名と・・・・・・ともに・・・奥のエリアの探索へ向かう!!」

 凛とした号令に、調査局の職員たちはきびきびとした動きで何かの作業を始める。
 護も月美も、なんとなく、何をしようとしているのかはわかったが、彼らを止めるつもりはなかったし、そもそも興味がなかった。
 二人の、いや、護の目的はこの施設から脱走してきたのであろう異形をせん滅し、交友関係を結んでいる魑魅魍魎たちの安全を確保すること。
 そして、調査局の目的もまた、この施設の排除にある。
 ならば、過程がどうあれ、結果が満足いくものであるなら、止める必要もないということだ。

「さ、第二波が来る前にここの職員が残っているかどうか、捜索を始めよう」
「了解」
「えぇ」

 いつの間にかリーダーシップを握った光だったが、護も月美もそのことに文句を言うことはなく、彼女の方針に従うことにした。
 なお、三人が部屋を出て数分後、ようやく光が呼び寄せた援軍がやってきたそうな。
 もっとも、光がそのことを知ったのは、すべてが終わり、報告書の見直しを行っていたときだったのだが。
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