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異端録
19、消滅した手掛かり
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護が家路につき、土御門神社に到着した頃。
特殊生物調査局内にある一室に、狼男に変身した青年と、数名の調査員が向かい合っていた。
だが、青年はいっこうに目を覚ます気配がなく、気を失ったままだ。
「……いったい、どうなってる?」
「さぁな。もしかしたら、あのガキ、加減を間違えたなんてことないよな?」
「生命反応はある。それはない。第一、あの少年が使っていた術のほとんどは縛魔の類。魂魄へのダメージもそこまで大きいものではないはずだ」
あのガキ、というのは護のことだろう。
ここにいる面々は、どうやら護が青年と戦った現場に居合わせた、いや、見学を決め込んでいた職員たちのようだ。
そのため、護がどのように目の前で眠っている青年と戦ったのか、その過程のすべてを見ていた。
だからこそ、目の前の青年が眠り続けていることがどれほど異常なのか、よくわかっている。
「確かに。通常なら、もうそろそろ起きても……」
いいはず。
そう言いかけた瞬間、青年は目を開ける。
職員たちは安堵のため息をつき、仕事に取りかかろうとした、その瞬間だった。
突然、青年の顔がしわだらけになっていった。
むろん、そんなありえない現象に職員たちに動揺が走る。
「お、おいっ!!」
「な、なにが起きている??!!」
「俺に聞くな!くそっ!!どうにかならんのか?!」
職員たちが混乱し、対処に困っているうちにも、青年の姿は変化し続けていき、最後には骨と皮だけの状態になり。
――ぐしゃり
水が落ちるような大きい音を立てて、崩れ落ちる。
その音が響いた瞬間、職員たちの間にさらなる動揺が走り、その場は狂気の渦と化していった。
----------------------------
その頃、局長室では光が保通に報告をしていた。
「以上が、つちみか……協力者から得た情報です。現在、この情報をもとに、取り調べを行います」
「そうか。頼んだぞ」
「はい。では」
「待ちなさい」
そう言って、光は退室しようとしたが、保通はそれを止めた。
引き留められた光は、怪訝な顔で振り返る。
「まだなにか?報告するべきことは報告したかと」
「我々が追っている特殊生物の件については、な」
報告するべきことはすべて報告したことは確か。
自分たちが追っているものと思しき特殊生物を捕縛、それに至るまでの経緯と今後の方針について、報告漏れは一切ないはずだ。
だというのに、保通の含みのある言葉を返してきたことに、光は眉をひそめた。
「ほかに何かございましたか?」
「まだ、言ってないだろ?あの若者はどうだった?」
あの若者というのが、護のことを言っているということは、光も察しがついた。
土御門と賀茂は時代をたどれば師弟関係にあった間柄であり、一時期は宮廷陰陽師の二大勢力として台頭していた。
その片割れの後継者の実力、特に、実戦での動きを知っておきたいということなのだろう。
とはいえ。
「判断しかねます」
「その根拠は?」
「先ほどの戦闘と、わたしとの衝突だけではなんとも」
何しろ、護の戦闘における行動のほとんどが捕縛に主軸を置いたものになっていたのだ。
となれば、それなりに手加減もしていたはず。
もし、修祓の対象となっている妖と対峙したのなら、彼がどう行動するのか。
現時点ではまだそれがはっきりとわからない。
だが、現時点で少なくとも報告できることはあった。
「少なくとも、縛魔の術やそれに類する術の扱いに関しては私と同等かと」
「ということは、現時点で一般職員よりも腕が立つということになるか」
「そう考えて、差し支えないかと」
その言葉に、保通は顎に指を添えた。
光の実力は高い水準に達しており、ある程度の実戦経験を積めばすぐに部下を付けることができる。
保通は親の贔屓目なしに見ているし、光もその正確さはともかくとして、自分の実力は把握しているらしい。
そんな彼女が護の実力を、ほんの一部分ではあるが自分と同等だと評価しているのだ。
どこまで正確かは実際に自分で判断しない限りわからない。
だが、保通からすれば、護の実力が調査局の一般職員よりも高いという基準がわかっただけでも収穫だったらしい。
「そうか……わかった、下がって大丈夫だ」
今度こそ保通は光に退出するよう伝えようとした。
まさにその瞬間、慌てた様子の職員が、突然、部屋に入ってきたのだ。
「きょ、局長!大変です、捕縛した狼男が!!」
慌てた様子の職員が口にした狼男という単語に、光は素早く反応し、行動に移った。
職員が保通に何が起きたのかその詳細を報告している間に、光は取り調べを行っているはずの部屋へと走る。
数分としないうちに、光は取り調べ室に到着し、ノックもしないまま、部屋のドアを開け、目の前に飛びこんできた光景に絶句した。
狼男を座らせたはずの椅子に、その姿はなく、代わりに狼男が着ていた服と灰のようなものが大量に積もっているだけだった。
「どうなっている?!」
「わ、わかりません!目を覚ましたと思ったら、いきなり吠えだして、しわくちゃになって……」
「……とりあえず、落ち着いてから話を聞きます。映像は録画していますね?」
見張らせていた職員も、あまりに突然の出来事であったため動揺しているらしい。
しっかりした状況説明をできないと判断した光は、ひとまず先に、取り調べ室に仕掛けられているカメラの確認を行なった。
だが、狼男が塵となる原因となった現象を写した映像は、コンマ一秒すらも残されておらず、一瞬で狼男が灰になる場面以外、何も残されていない。
「なんてことだ……」
結局、この取り調べ中に起きた不可解な現象は原因不明のまま処理されることとなり、調査は振り出しに戻ってしまう。
映像を見た光は、その状況に陰鬱な気持ちになってしまい、ため息を漏らしながらうなだれた。
特殊生物調査局内にある一室に、狼男に変身した青年と、数名の調査員が向かい合っていた。
だが、青年はいっこうに目を覚ます気配がなく、気を失ったままだ。
「……いったい、どうなってる?」
「さぁな。もしかしたら、あのガキ、加減を間違えたなんてことないよな?」
「生命反応はある。それはない。第一、あの少年が使っていた術のほとんどは縛魔の類。魂魄へのダメージもそこまで大きいものではないはずだ」
あのガキ、というのは護のことだろう。
ここにいる面々は、どうやら護が青年と戦った現場に居合わせた、いや、見学を決め込んでいた職員たちのようだ。
そのため、護がどのように目の前で眠っている青年と戦ったのか、その過程のすべてを見ていた。
だからこそ、目の前の青年が眠り続けていることがどれほど異常なのか、よくわかっている。
「確かに。通常なら、もうそろそろ起きても……」
いいはず。
そう言いかけた瞬間、青年は目を開ける。
職員たちは安堵のため息をつき、仕事に取りかかろうとした、その瞬間だった。
突然、青年の顔がしわだらけになっていった。
むろん、そんなありえない現象に職員たちに動揺が走る。
「お、おいっ!!」
「な、なにが起きている??!!」
「俺に聞くな!くそっ!!どうにかならんのか?!」
職員たちが混乱し、対処に困っているうちにも、青年の姿は変化し続けていき、最後には骨と皮だけの状態になり。
――ぐしゃり
水が落ちるような大きい音を立てて、崩れ落ちる。
その音が響いた瞬間、職員たちの間にさらなる動揺が走り、その場は狂気の渦と化していった。
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その頃、局長室では光が保通に報告をしていた。
「以上が、つちみか……協力者から得た情報です。現在、この情報をもとに、取り調べを行います」
「そうか。頼んだぞ」
「はい。では」
「待ちなさい」
そう言って、光は退室しようとしたが、保通はそれを止めた。
引き留められた光は、怪訝な顔で振り返る。
「まだなにか?報告するべきことは報告したかと」
「我々が追っている特殊生物の件については、な」
報告するべきことはすべて報告したことは確か。
自分たちが追っているものと思しき特殊生物を捕縛、それに至るまでの経緯と今後の方針について、報告漏れは一切ないはずだ。
だというのに、保通の含みのある言葉を返してきたことに、光は眉をひそめた。
「ほかに何かございましたか?」
「まだ、言ってないだろ?あの若者はどうだった?」
あの若者というのが、護のことを言っているということは、光も察しがついた。
土御門と賀茂は時代をたどれば師弟関係にあった間柄であり、一時期は宮廷陰陽師の二大勢力として台頭していた。
その片割れの後継者の実力、特に、実戦での動きを知っておきたいということなのだろう。
とはいえ。
「判断しかねます」
「その根拠は?」
「先ほどの戦闘と、わたしとの衝突だけではなんとも」
何しろ、護の戦闘における行動のほとんどが捕縛に主軸を置いたものになっていたのだ。
となれば、それなりに手加減もしていたはず。
もし、修祓の対象となっている妖と対峙したのなら、彼がどう行動するのか。
現時点ではまだそれがはっきりとわからない。
だが、現時点で少なくとも報告できることはあった。
「少なくとも、縛魔の術やそれに類する術の扱いに関しては私と同等かと」
「ということは、現時点で一般職員よりも腕が立つということになるか」
「そう考えて、差し支えないかと」
その言葉に、保通は顎に指を添えた。
光の実力は高い水準に達しており、ある程度の実戦経験を積めばすぐに部下を付けることができる。
保通は親の贔屓目なしに見ているし、光もその正確さはともかくとして、自分の実力は把握しているらしい。
そんな彼女が護の実力を、ほんの一部分ではあるが自分と同等だと評価しているのだ。
どこまで正確かは実際に自分で判断しない限りわからない。
だが、保通からすれば、護の実力が調査局の一般職員よりも高いという基準がわかっただけでも収穫だったらしい。
「そうか……わかった、下がって大丈夫だ」
今度こそ保通は光に退出するよう伝えようとした。
まさにその瞬間、慌てた様子の職員が、突然、部屋に入ってきたのだ。
「きょ、局長!大変です、捕縛した狼男が!!」
慌てた様子の職員が口にした狼男という単語に、光は素早く反応し、行動に移った。
職員が保通に何が起きたのかその詳細を報告している間に、光は取り調べを行っているはずの部屋へと走る。
数分としないうちに、光は取り調べ室に到着し、ノックもしないまま、部屋のドアを開け、目の前に飛びこんできた光景に絶句した。
狼男を座らせたはずの椅子に、その姿はなく、代わりに狼男が着ていた服と灰のようなものが大量に積もっているだけだった。
「どうなっている?!」
「わ、わかりません!目を覚ましたと思ったら、いきなり吠えだして、しわくちゃになって……」
「……とりあえず、落ち着いてから話を聞きます。映像は録画していますね?」
見張らせていた職員も、あまりに突然の出来事であったため動揺しているらしい。
しっかりした状況説明をできないと判断した光は、ひとまず先に、取り調べ室に仕掛けられているカメラの確認を行なった。
だが、狼男が塵となる原因となった現象を写した映像は、コンマ一秒すらも残されておらず、一瞬で狼男が灰になる場面以外、何も残されていない。
「なんてことだ……」
結局、この取り調べ中に起きた不可解な現象は原因不明のまま処理されることとなり、調査は振り出しに戻ってしまう。
映像を見た光は、その状況に陰鬱な気持ちになってしまい、ため息を漏らしながらうなだれた。
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