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異端録
5、月美の新しい友人
しおりを挟む――ど、どうしよう。また迷った……
翌日になり、毎朝同じようなやりとりをして、護と一緒に登校した月美は、廊下で困り果てていた。
現在時刻は十三時、午後の授業が始まろうとしている時間だ。
だというのに、月美は現在進行形で右往左往している。
その理由が。
――更衣室の場所、わかんなくなっちゃったよぉっ!!
少しばかり方向音痴な嫌いがある月美は、実のところ道を覚えることが苦手だ。
そのため、転校してからしばらく経つのに、いまでも教室移動の時では護と一緒に教室へ向かうということが多いのである。
だが、男女別々に用意されている更衣室まで、護に同行してもらうわけにもいかない。
一人でどうにか行けると思い、思い切ってみたはいいのだが、こうして完全に迷子になってしまったというわけだ。
「次の授業、体育なのに……どうしよう」
「なら、あたしが案内しようか?」
困惑しながらつぶやいていると、突然、背後から声を掛けられ、月美は驚いて振り向く。
すると、月美の視界に、いかにも快活そうな印象を受けるショートヘアの女子がいた。
女子は問いかけてきたというのに、答えが返ってくるまで待たず、月美の手をつかみ、猛スピードで走り出す。
「え?ちょっ??!!」
「ほら、早く行かないと、遅刻するよ?」
「だ、だからせめて、手を離して~~~っ!」
あまりの速さに体が宙に浮くということはない。
だが、足の動きがついていけず、引きずられるような形で月美はその女子とともに更衣室へと向かった。
数秒後。
「いやぁ、ごめんごめん。遅刻するって思ったらつい足が」
「……死ぬかと思ったって、言ったら大げさだけど、さすがにびっくりだわ」
「あははは……ごめん」
月美は引っ張られるようにして更衣室に案内され、無事、授業が始まる前にジャージに着替え、授業に参加することができた。
もっとも、半ば無理やり引っ張られたことに文句がないわけではないようだ。
「あ、そういえば自己紹介し忘れてたわね。風森さん」
「……えっと、たしか桜沢さん、だったっけ?」
ここまで案内してくれた女子に、月美は不安そうな顔でそう問いかけた。
一応、転校したのが新学期のということもあり、クラスメイトになる生徒たち同士で自己紹介しあったことがある。
そのため、名前は把握しているのだが、まだ顔と名前が一致していない。
どうやら月美の勘が当たったらしく、女子は満足そうな笑みを浮かべてうなずいていた。
「そそ。まぁ、そんなに他人行儀にならないで、明美でいいわよ。クラスメイトなんだし」
月美の問いかけに、明美はにっこりと笑いながら、そう返してくる。
その笑顔とさっぱりした口調に、月美もわずかながらに残っていた警戒心を解いて、微笑みを返した。
「それなら、わたしも月美でいいよ」
「決まり!ね、ところで、今日の放課後、暇?」
名前で呼び合うことを許されたことがうれしいのか、明美は目を輝かせながら、月美を放課後の遊びに誘おうとしていた。
が、誘われた本人はというと。
「うん!大丈夫。ただ、あんまり遅くなると、お世話になってる人達が心配するから、あんまり長くは無理だけど」
「大丈夫、大丈夫!あたしもあんまり遅くなると親がうるさいから」
一応、土御門家の人々が心配しないよう、配慮しているらしく、要望を伝えたのだが、どうやら明美もあまり遅くなることを好ましく思わないようだ。
明美の言質を取った月美は、それなら、と放課後は一緒に遊びに行くことにした。
----------------------------------
放課後になり、月美は明美と一緒に駅前のゲームセンターに来ていた。
どうやら、ここが明美がいつも来る場所のようだ。
シューティングゲームやリズムゲーム、あるいはクレーンゲームから出てくる音。
それらが奏でる不揃いな音の嵐の中、月美と明美はクレーンゲームにチャレンジしていた。
だが、月美はこういった場所に来るのは初めてで、クレーンゲームをやったことがない。
必然的に。
「あ、またやった……」
「ははは。まぁ、クレーンゲームは難易度高いからねぇ。仕方ないよ」
三度目も景品を取りこぼしてしまい、月美はがっくりとうなだれる。
明美は苦笑しながら、慰めるが。
「てか、月美。あんた、もう少し狙うことできないの?」
三度も取りこぼしをしていることに、さすがに疑問を覚えたらしい。
この三回、月美が下したクレーンはすべて、景品にかすりもしないほど遠い場所に移動させていた。
苦手なのか得意なのか以前に、そもそも基本がなっていない状態だ。
「そんなこと言ったってぇ」
しょんぼりとしながら月美が明美に返す。
明美は再び苦笑を浮かべながら。
「貸して?」
と言って月美と位置を変わり、明美が挑戦する。
いつになく真剣な表情と視線をクレーンゲームのケース内に向けながら、明美はクレーンを操作し始めた。
「……よしっ!ここ!!」
明美が気合いのこもった声を出したと同時に、クレーンが下へ降りていく。
クレーンが景品をつかんで持ち上げると、ゆっくりとゴールまで運んでいき。
「よっしゃ!ゲットだぜぇっ!!」
明美は景品の取りだし口から勝ちとった景品を取り出し、十年以上前から放送されているアニメ主人公の決めセリフを口にする。
その見事な手際と明美のテンションに、月美は呆然としてしまっていた。
その後もゲームセンターのゲームを一通り堪能したが。
「ちょっとお腹空いたぁ……どっか行かない?」
という明美の提案で、近くのハンバーガーショップに向かうことになった。
だが、人気のバーガーセットを注文した明美に対し、月美が注文したのはアイスコーヒーだけだ。
「あれ?月美、食べないの?」
「うん、晩御飯、入らなくなっちゃうから」
「ふ~ん?まぁ、あたしは燃費悪いから食べちゃうんだけど」
明美の疑問に、月美は苦笑しながらそう返す。
本当のところを言えば、ハンバーガーショップのハンバーガーに興味がないわけではない。
だが、この後に雪美の作った夕食が控えていることを考えると、あまり食べるのは得策ではないと判断したらしい。
「ところでさ、月美、土御門の家に居候してるってほんとなの?」
「うん、ほんとだよ?それがどうしたの??」
唐突な質問に、月美は動揺することなく返し、逆になぜそのことを聞いてきたのか、問い返した。
「いやぁ、ほら。あいつ人を避けてるというか、『関わるんじゃねぇっ!』ってオーラばりばり出してるからさ。ちょっと想像しづらくて」
「最近はそうでもないんじゃない?」
「そりゃね。二年になってからはちょっと丸くなったみたいだけど」
明美はセットでついてきたオレンジシェイクを飲みながら、ここ最近の護に抱いている印象を正直に口にする。
明美だけでなく、一年の頃から護を知っている生徒たちは全員、護に対して人を拒絶していると感じさせる部分があるらしい。
ここ最近はこちらから話しかけやすい雰囲気になってきたとはいえ、まだ清以外に積極的に話しかける猛者がいないのも事実だ。
「ちょっと、なんだ?いつだったか護にものすごくべったりしてくる男子がいたけど」
「あぁ、勘解由小路のこと?あいつは誰にだってあぁなのよ。まぁ、さすがに女子には違うみたいだけど」
清の護に対する態度を思い出した月美はそのことを話すと、明美は嫌そうな顔をしてそう返した。
どうやら、清のあのしつこさは周囲もわかっているらしい。
あそこまでしつこくするのは男子限定であり、さすがに女子は慎重に接しているようだが。
「女子にもあぁだったら、あの人、変態確定なんじゃ?」
「それもそうね。というか、変態ってことでバッシングしてるわ。いや、完全に村八分にしてるわね」
月美のその反応に、明美はあっけらかんとした態度で返す。
その言葉に、月美はさらに苦笑を浮かべていた。
なお、二人がそんなことを言い合っているとき、違う場所にいた清は盛大に二回、くしゃみをしたことは言うまでもない。
翌日になり、毎朝同じようなやりとりをして、護と一緒に登校した月美は、廊下で困り果てていた。
現在時刻は十三時、午後の授業が始まろうとしている時間だ。
だというのに、月美は現在進行形で右往左往している。
その理由が。
――更衣室の場所、わかんなくなっちゃったよぉっ!!
少しばかり方向音痴な嫌いがある月美は、実のところ道を覚えることが苦手だ。
そのため、転校してからしばらく経つのに、いまでも教室移動の時では護と一緒に教室へ向かうということが多いのである。
だが、男女別々に用意されている更衣室まで、護に同行してもらうわけにもいかない。
一人でどうにか行けると思い、思い切ってみたはいいのだが、こうして完全に迷子になってしまったというわけだ。
「次の授業、体育なのに……どうしよう」
「なら、あたしが案内しようか?」
困惑しながらつぶやいていると、突然、背後から声を掛けられ、月美は驚いて振り向く。
すると、月美の視界に、いかにも快活そうな印象を受けるショートヘアの女子がいた。
女子は問いかけてきたというのに、答えが返ってくるまで待たず、月美の手をつかみ、猛スピードで走り出す。
「え?ちょっ??!!」
「ほら、早く行かないと、遅刻するよ?」
「だ、だからせめて、手を離して~~~っ!」
あまりの速さに体が宙に浮くということはない。
だが、足の動きがついていけず、引きずられるような形で月美はその女子とともに更衣室へと向かった。
数秒後。
「いやぁ、ごめんごめん。遅刻するって思ったらつい足が」
「……死ぬかと思ったって、言ったら大げさだけど、さすがにびっくりだわ」
「あははは……ごめん」
月美は引っ張られるようにして更衣室に案内され、無事、授業が始まる前にジャージに着替え、授業に参加することができた。
もっとも、半ば無理やり引っ張られたことに文句がないわけではないようだ。
「あ、そういえば自己紹介し忘れてたわね。風森さん」
「……えっと、たしか桜沢さん、だったっけ?」
ここまで案内してくれた女子に、月美は不安そうな顔でそう問いかけた。
一応、転校したのが新学期のということもあり、クラスメイトになる生徒たち同士で自己紹介しあったことがある。
そのため、名前は把握しているのだが、まだ顔と名前が一致していない。
どうやら月美の勘が当たったらしく、女子は満足そうな笑みを浮かべてうなずいていた。
「そそ。まぁ、そんなに他人行儀にならないで、明美でいいわよ。クラスメイトなんだし」
月美の問いかけに、明美はにっこりと笑いながら、そう返してくる。
その笑顔とさっぱりした口調に、月美もわずかながらに残っていた警戒心を解いて、微笑みを返した。
「それなら、わたしも月美でいいよ」
「決まり!ね、ところで、今日の放課後、暇?」
名前で呼び合うことを許されたことがうれしいのか、明美は目を輝かせながら、月美を放課後の遊びに誘おうとしていた。
が、誘われた本人はというと。
「うん!大丈夫。ただ、あんまり遅くなると、お世話になってる人達が心配するから、あんまり長くは無理だけど」
「大丈夫、大丈夫!あたしもあんまり遅くなると親がうるさいから」
一応、土御門家の人々が心配しないよう、配慮しているらしく、要望を伝えたのだが、どうやら明美もあまり遅くなることを好ましく思わないようだ。
明美の言質を取った月美は、それなら、と放課後は一緒に遊びに行くことにした。
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放課後になり、月美は明美と一緒に駅前のゲームセンターに来ていた。
どうやら、ここが明美がいつも来る場所のようだ。
シューティングゲームやリズムゲーム、あるいはクレーンゲームから出てくる音。
それらが奏でる不揃いな音の嵐の中、月美と明美はクレーンゲームにチャレンジしていた。
だが、月美はこういった場所に来るのは初めてで、クレーンゲームをやったことがない。
必然的に。
「あ、またやった……」
「ははは。まぁ、クレーンゲームは難易度高いからねぇ。仕方ないよ」
三度目も景品を取りこぼしてしまい、月美はがっくりとうなだれる。
明美は苦笑しながら、慰めるが。
「てか、月美。あんた、もう少し狙うことできないの?」
三度も取りこぼしをしていることに、さすがに疑問を覚えたらしい。
この三回、月美が下したクレーンはすべて、景品にかすりもしないほど遠い場所に移動させていた。
苦手なのか得意なのか以前に、そもそも基本がなっていない状態だ。
「そんなこと言ったってぇ」
しょんぼりとしながら月美が明美に返す。
明美は再び苦笑を浮かべながら。
「貸して?」
と言って月美と位置を変わり、明美が挑戦する。
いつになく真剣な表情と視線をクレーンゲームのケース内に向けながら、明美はクレーンを操作し始めた。
「……よしっ!ここ!!」
明美が気合いのこもった声を出したと同時に、クレーンが下へ降りていく。
クレーンが景品をつかんで持ち上げると、ゆっくりとゴールまで運んでいき。
「よっしゃ!ゲットだぜぇっ!!」
明美は景品の取りだし口から勝ちとった景品を取り出し、十年以上前から放送されているアニメ主人公の決めセリフを口にする。
その見事な手際と明美のテンションに、月美は呆然としてしまっていた。
その後もゲームセンターのゲームを一通り堪能したが。
「ちょっとお腹空いたぁ……どっか行かない?」
という明美の提案で、近くのハンバーガーショップに向かうことになった。
だが、人気のバーガーセットを注文した明美に対し、月美が注文したのはアイスコーヒーだけだ。
「あれ?月美、食べないの?」
「うん、晩御飯、入らなくなっちゃうから」
「ふ~ん?まぁ、あたしは燃費悪いから食べちゃうんだけど」
明美の疑問に、月美は苦笑しながらそう返す。
本当のところを言えば、ハンバーガーショップのハンバーガーに興味がないわけではない。
だが、この後に雪美の作った夕食が控えていることを考えると、あまり食べるのは得策ではないと判断したらしい。
「ところでさ、月美、土御門の家に居候してるってほんとなの?」
「うん、ほんとだよ?それがどうしたの??」
唐突な質問に、月美は動揺することなく返し、逆になぜそのことを聞いてきたのか、問い返した。
「いやぁ、ほら。あいつ人を避けてるというか、『関わるんじゃねぇっ!』ってオーラばりばり出してるからさ。ちょっと想像しづらくて」
「最近はそうでもないんじゃない?」
「そりゃね。二年になってからはちょっと丸くなったみたいだけど」
明美はセットでついてきたオレンジシェイクを飲みながら、ここ最近の護に抱いている印象を正直に口にする。
明美だけでなく、一年の頃から護を知っている生徒たちは全員、護に対して人を拒絶していると感じさせる部分があるらしい。
ここ最近はこちらから話しかけやすい雰囲気になってきたとはいえ、まだ清以外に積極的に話しかける猛者がいないのも事実だ。
「ちょっと、なんだ?いつだったか護にものすごくべったりしてくる男子がいたけど」
「あぁ、勘解由小路のこと?あいつは誰にだってあぁなのよ。まぁ、さすがに女子には違うみたいだけど」
清の護に対する態度を思い出した月美はそのことを話すと、明美は嫌そうな顔をしてそう返した。
どうやら、清のあのしつこさは周囲もわかっているらしい。
あそこまでしつこくするのは男子限定であり、さすがに女子は慎重に接しているようだが。
「女子にもあぁだったら、あの人、変態確定なんじゃ?」
「それもそうね。というか、変態ってことでバッシングしてるわ。いや、完全に村八分にしてるわね」
月美のその反応に、明美はあっけらかんとした態度で返す。
その言葉に、月美はさらに苦笑を浮かべていた。
なお、二人がそんなことを言い合っているとき、違う場所にいた清は盛大に二回、くしゃみをしたことは言うまでもない。
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