見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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異端録

3、いつもと変わらない日常~昼の光景~

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 朝、ドタバタしながらもどうにか遅刻することなく、教室にたどり着いた護と月美だったが、護は清に捕まり、月美はクラスメイトの女子数名とおしゃべりしていたため、学校での会話はほとんどなかった。

 もっとも、二人ともそのことを特に気にしているような様子はなかった。
 確かに、二人はつい先日になって恋人同士になった幼馴染で、月美の実家の事情により、同棲している間柄だが、それが互いの学校生活を拘束する理由にはならない。
 それに、護から見れば、月美にはここにいる同級生たちと少しでも早く友達を作ってほしいと願っているのだ。
 月美が月華学園に転入してくる以前は、二人の親友がいて、女子高生としての日常を謳歌していた。だが、ある事件で確実に失われるはずだった護の命を救うため、月美は彼女たちとの友情や家族を捨て、なければならなくなってしまった。

 いま、月美は失ってしまったものの穴埋めをしようとしている。そう思っている護に、学校でまで自分につき合う必要はない、自分の時間を自由に過ごしてほしいと思っているのだ。
 もっとも、だからといって、他の男子が月美に色目を使うことを許容できるかといえば、そうではないし、月美も護以外の男子に興味があるかと聞かれれば、答えは否である。
 現に今も。

「おい、お前、気になってたんだろ?風森のこと」
「あ、あぁ、そうだけどさぁ……」
「いまなら土御門がそばにいないから、声かけるチャンスだって!!」

 と、月美と少しでも親しくなろうとする男子たちが話し合っている声が耳に入れば、護は殺気が漏れない程度に鋭い視線を不埒な考えを持った男子の方へ向けていた。
 が、それに気づかない男子たちは、いざ月美のもとへ向かい、声をかけた。

「か、風森さん。よかったら放課後、どっか遊びに……」
「……なんで、わたしがあなたたちと一緒に遊びにいかなきゃいけないの?」
「え?……そ、それは……」
「ほ、ほら、風森さん、まだこっちに来たばかりでまだ慣れてないだろうから、色々案内しようかなぁと」
「学校の周りと、お世話になってる場所の周辺だったら、護から色々教えてもらっているから、必要ないわ。それに、みんなからも教えてもらってるし」

 どうにか、放課後デートに誘おうと必死になっている男子だったが、月美はあっさりと切り返してきた。
 はっきり言って、勝負はすでに見えているのだが、それでもなお粘ろうと、男子はしどろもどろになっていた。そんな様子を見て、いい加減しつこい、とばかりに月美はにっこりと愛らしい笑みを浮かべつつ、その背後に般若の仮面を浮かびあがらせた。

「いい加減にしてくれないかしら?それとも、きっぱり言わないとわからないほど、あなたは鈍感さんなの?」
「え、えぇとそれは……」

 普段見せない月美の笑っていない笑顔に、男子の顔に冷や汗が伝い始めた。
 そして、その影響は月美に声をかけるよう仕向けた男子たちにも出始めていた。

「あんまりしつこいと……どうなっても知らないわよ?……ね?護」
「……そうだな」

 月美が男子の背後にむかってそう声をかけたので、男子たちは恐る恐る、背後に視線を向けた。
 そこには、いかにも不機嫌そうな顔をして、どす黒いオーラを漂わせている護の姿があった。
 男子たちは護のその状態を見て、今すぐこの場から逃げろ、と生存本能が警鐘を鳴らしていることに気づいた。

 敗戦の色が濃く、これ以上の戦闘は余計な被害を生むだけ。
 そう判断した男子は、月美にむかって、すみませんでした、と謝罪しながら、フェードアウトしていった。
 公言こそしていないが、護と月美が一緒にいる頻度の多さと、なにより、ぶっきらぼうなうえに不愛想で、笑うことがほとんどなく、何より人を寄せ付けない雰囲気を常にまとっていることで有名な護が、月美と一緒に話しているときだけはその雰囲気を柔らかくなっていることを知っている女子たちは、護と月美がそういう関係恋人同士であることを察していたため、いい気味だ、とすら思っていた。
 もっとも、思うだけで口に出すことはないのだが。

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 放課後になり、護と月美は帰路へついていた。いや、つこうとしていた、というところだろう。
 いつもなら、二人だけでしゃべりながら歩いているのだが、今回はその背後に清の姿があった。

 近寄りがたい雰囲気を常にまとっている護を、人並みの付き合いができるようにしようと画策している清としては、このまままっすぐ帰らせるのではなく、どこか遊びに行ける場所に誘おうとしていたのだ。
 が、やはりいつもの通り。

「お~い、護~、風森~」
「……」
「……」
「振り返ってくれよ~、お二人さ~ん」
「……」
「……」
「……二人して同じ扱いなんて、ひどくないか?この似たもの夫婦」
「なっ??!!ふ、夫婦じゃないだろっ!!」
「そ、そうよ!まだ夫婦じゃないわよ!!」

 清がいじけながらつぶやいた言葉に、護と月美は同時に顔を真っ赤にして叫んだ。
 だが、その反応こそ、清が待っていたものだった。

「こうでもしないと、お前ら二人とも振り向かないだろ?」
「……てめぇ、からかいやがったな……」
「はっはっは!我勝利を得たり!!」

 顔を赤くしたまま、ややかすれた低い声で護が問いかけると、清は高らかに笑いながら勝利宣言をしてきた。
 その様子に、護は呆れて何も言えず、顔を覆ってうなだれるのだった。
 一方の月美は、清の「夫婦」という単語が脳裏にループ再生しているらしく、顔を紅くしたまま、呆然としてしまっていた。
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