見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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奮闘記

44、帰還~家族として~

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 境内を抜け、敷地内に建てられている屋敷の中に入ると、翼と雪美が玄関で出迎えてくれた。
 どうやら、青龍と騰蛇が知らせてくれていたらしい。

「おかえり、護。それといらっしゃい、月美ちゃん」
「ご、ご無沙汰してますおば様!」
「うふふふ、そんなに緊張しなくていいわよ。さ、上がってちょうだいな」

 久しぶりに会ったからなのか、それとも護と恋人同士になれたことで心証が変わったからなのか。
 とにかく、月美はものすごく緊張していた。
 そんな様子の月美に、雪美は優しい笑みを浮かべながら出迎え、リビングへと案内する。
 二人はそのままリビングまで通されると、椅子を勧められた。

「護。お前も座りなさい」

 当然、翼は護にも座るように指示した。
 だが。

「長くなるんだろ?なら、用意しておいてもいいじゃないか」
「……それもそうだな」

 護は話が少し長くなることを予測し、護は椅子には座らず、お茶の準備を始める。
 話が長くなるであろうことからの気遣いであることを翼も理解し、それ以上は何も言わなかった。

「い、一杯あるんですね。ハーブ」
「あぁ、ここにあるものはうちの庭で栽培したものだよ」
「へぇ……って、えぇっ?!」
「驚くことか?医者に診せるわけにはいかない傷とか、医者じゃどうにもならない毒とかもあるだろ、妖退治なんてやってると」
「それもそうね……」

 土御門神社はあくまで神社であるため、その主な仕事内容は祈祷や占いだ。
 とはいえ、妖退治や除霊といった仕事がまったくないというわけではない。
 そういった仕事の中には、怪我を負ったり、毒を受けたりするようなものもある。
 その中で負った傷や毒は、医者に診せたところでどうにもならないことが多い。
 そのため治療するための薬草が、土御門家の庭には大量に植えられているのだ。

「ちなみに、ハーブのブレンドは護が行っている」
「そうなんですか?」
「薬湯の延長線にある知識、と考えているようだ。実際、薬効はあるから、薬といえる」
「へぇ……」

 数分して、月美の前にハーブティーを入れたティーカップが置かれる。
 ペパーミントの清涼な香りが月美の鼻に届くと、自然と緊張が和らいでいくのを感じ、自然と安堵のため息が出てきた。
 護はそれを横目に、月美の目の前に置かれたものと同じカップを、他にも三つ用意すると、翼と雪美の前に置く。
 そして、護は自分のティーカップを持って、ようやく椅子に座る。
 護が座ったところで、翼は本題を切りだした。

「さてと。久しぶりだね、月美ちゃん。だいたいのことは護から聞いているよ。今回の件では君にずいぶん、迷惑をかけてしまったようだ」

 翼は座ったまま頭を下げる。
 月美はその様子を見て。

「い、いえ。わたしがしたいからやったことですから」

 と、慌てて同じように頭を下げる。
 二人のそんな様子に、雪美は微笑み、話をつないだ。

「あなたのことは、土御門家で面倒を見ます……「家族」として、ね」

 家族、という言葉にどのような真意があったのかは分からないが、月美はそれを聞いて赤面する。
 その表情を見た翼も雪美もその様子を微笑みながら見守っていた。
 だが、翼はその微笑みを消し、護の方へ真剣な視線を向ける。
 その真剣な表情に、護も、思わず表情を引き締めた。

「護。月美ちゃんの扱いだが、分家には『無期限滞在の客人』ということにしている。その意味が、わかるな?」

 無期限滞在の客人ということは、本人の気が済むまで。あるいは、土御門家の方で退出を願われない限り、土御門家に滞在するということを意味している。
 客人である以上、恋仲になっていたとしても、節度のある付き合いをするように努力しろ。
 翼はそう言いたいらしい。
 そのことを理解できないほど、護も鈍感ではないし、頭の回転が遅いわけではなかった。

「……意に添えるよう、努力します」

 そっけないが、しっかりとしたまなざしを翼に向けて、護は返す。
 ほほに冷や汗を伝わせてながら答えた息子の様子に翼は、本当に大丈夫なのだろうか、と一抹の不安を現すかのように微苦笑を浮かべた。

――案ずるより産むがやすしともいう。ここはひとまず、こいつのできるところまでやらせてみるか

 自身のうちでそう結論を出した翼は、目の前に置かれているカップを手に取った。

「さて、と。それじゃ、月美ちゃんを部屋まで案内しましょうか」

 翼が護に何か言いたげにしていることを察し、雪美は月美を部屋に案内するため、リビングを出る。
 月美は一度だけ振り向いて、護を見た。
 護はその視線を感じてうなずく。
 その態度に大丈夫だということを察し、雪美の後に続いた。
 二人がリビングを出たことを察すると、翼は少しため息をつき、護に語りかける。

「護、お前は土御門の。安倍晴明の血脈に眠っている葛葉姫様の神通力を解放したのか?」
「はい……正直、伊邪那美が出てこられては、こうするより他に手段がありませんでした」

 護は翼に月美がこの家に滞在する理由を事細かに説明した。
 その説明を聞き、翼は護が神通力を解放せざるを得ない状況に置かれていたことと、それを示唆する件の予言があったことを聞き、ため息をつく。

「件の予言がお前にもたらされたのならば、しかたあるまい」

 翼にもその力は宿っているが、その大きさは護のそれと比べるまでもなく小さい。
 しかし、それが本来の状態だ。
 千年の間に葛葉姫命、神狐の力は薄れ、今ではその片鱗をようやく感じ取れるかどうか。
 だというのに、護の体に宿っている力は、現当主である自分はおろか先代、先々代の比ではないほど大きい。
 それが解放されれば、何が起こるのか、翼も最悪の事態だけは予測できていた。
 だからこそ、むやみやたらと力を使わないように教育してきたのだ。
 だが、護は力を解放した。
 その背景に何があったのか、聞きだし、ようやく合点がいったのだろう。
 説明を聞き、翼はようやくほっとした様子で。

「よく、生きて帰ってきた」

 と、護をねぎらった。
 だが、労われた当の本人は。

「ご心配、おかけしましたか?」

 と、可愛げなく問いかけてくる。

「いや、まさか。お前なら、なすべきことをなして帰ってくるとわかっていた……だが、ほっとしたということもまた、事実だな」

 翼は微笑みを返し、息子が淹れたハーブティーに口をつけていた。
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