44 / 276
奮闘記
44、帰還~家族として~
しおりを挟む
境内を抜け、敷地内に建てられている屋敷の中に入ると、翼と雪美が玄関で出迎えてくれた。
どうやら、青龍と騰蛇が知らせてくれていたらしい。
「おかえり、護。それといらっしゃい、月美ちゃん」
「ご、ご無沙汰してますおば様!」
「うふふふ、そんなに緊張しなくていいわよ。さ、上がってちょうだいな」
久しぶりに会ったからなのか、それとも護と恋人同士になれたことで心証が変わったからなのか。
とにかく、月美はものすごく緊張していた。
そんな様子の月美に、雪美は優しい笑みを浮かべながら出迎え、リビングへと案内する。
二人はそのままリビングまで通されると、椅子を勧められた。
「護。お前も座りなさい」
当然、翼は護にも座るように指示した。
だが。
「長くなるんだろ?なら、用意しておいてもいいじゃないか」
「……それもそうだな」
護は話が少し長くなることを予測し、護は椅子には座らず、お茶の準備を始める。
話が長くなるであろうことからの気遣いであることを翼も理解し、それ以上は何も言わなかった。
「い、一杯あるんですね。ハーブ」
「あぁ、ここにあるものはうちの庭で栽培したものだよ」
「へぇ……って、えぇっ?!」
「驚くことか?医者に診せるわけにはいかない傷とか、医者じゃどうにもならない毒とかもあるだろ、妖退治なんてやってると」
「それもそうね……」
土御門神社はあくまで神社であるため、その主な仕事内容は祈祷や占いだ。
とはいえ、妖退治や除霊といった仕事がまったくないというわけではない。
そういった仕事の中には、怪我を負ったり、毒を受けたりするようなものもある。
その中で負った傷や毒は、医者に診せたところでどうにもならないことが多い。
そのため治療するための薬草が、土御門家の庭には大量に植えられているのだ。
「ちなみに、ハーブのブレンドは護が行っている」
「そうなんですか?」
「薬湯の延長線にある知識、と考えているようだ。実際、薬効はあるから、薬といえる」
「へぇ……」
数分して、月美の前にハーブティーを入れたティーカップが置かれる。
ペパーミントの清涼な香りが月美の鼻に届くと、自然と緊張が和らいでいくのを感じ、自然と安堵のため息が出てきた。
護はそれを横目に、月美の目の前に置かれたものと同じカップを、他にも三つ用意すると、翼と雪美の前に置く。
そして、護は自分のティーカップを持って、ようやく椅子に座る。
護が座ったところで、翼は本題を切りだした。
「さてと。久しぶりだね、月美ちゃん。だいたいのことは護から聞いているよ。今回の件では君にずいぶん、迷惑をかけてしまったようだ」
翼は座ったまま頭を下げる。
月美はその様子を見て。
「い、いえ。わたしがしたいからやったことですから」
と、慌てて同じように頭を下げる。
二人のそんな様子に、雪美は微笑み、話をつないだ。
「あなたのことは、土御門家で面倒を見ます……「家族」として、ね」
家族、という言葉にどのような真意があったのかは分からないが、月美はそれを聞いて赤面する。
その表情を見た翼も雪美もその様子を微笑みながら見守っていた。
だが、翼はその微笑みを消し、護の方へ真剣な視線を向ける。
その真剣な表情に、護も、思わず表情を引き締めた。
「護。月美ちゃんの扱いだが、分家には『無期限滞在の客人』ということにしている。その意味が、わかるな?」
無期限滞在の客人ということは、本人の気が済むまで。あるいは、土御門家の方で退出を願われない限り、土御門家に滞在するということを意味している。
客人である以上、恋仲になっていたとしても、節度のある付き合いをするように努力しろ。
翼はそう言いたいらしい。
そのことを理解できないほど、護も鈍感ではないし、頭の回転が遅いわけではなかった。
「……意に添えるよう、努力します」
そっけないが、しっかりとしたまなざしを翼に向けて、護は返す。
ほほに冷や汗を伝わせてながら答えた息子の様子に翼は、本当に大丈夫なのだろうか、と一抹の不安を現すかのように微苦笑を浮かべた。
――案ずるより産むがやすしともいう。ここはひとまず、こいつのできるところまでやらせてみるか
自身のうちでそう結論を出した翼は、目の前に置かれているカップを手に取った。
「さて、と。それじゃ、月美ちゃんを部屋まで案内しましょうか」
翼が護に何か言いたげにしていることを察し、雪美は月美を部屋に案内するため、リビングを出る。
月美は一度だけ振り向いて、護を見た。
護はその視線を感じてうなずく。
その態度に大丈夫だということを察し、雪美の後に続いた。
二人がリビングを出たことを察すると、翼は少しため息をつき、護に語りかける。
「護、お前は土御門の。安倍晴明の血脈に眠っている葛葉姫様の神通力を解放したのか?」
「はい……正直、伊邪那美が出てこられては、こうするより他に手段がありませんでした」
護は翼に月美がこの家に滞在する理由を事細かに説明した。
その説明を聞き、翼は護が神通力を解放せざるを得ない状況に置かれていたことと、それを示唆する件の予言があったことを聞き、ため息をつく。
「件の予言がお前にもたらされたのならば、しかたあるまい」
翼にもその力は宿っているが、その大きさは護のそれと比べるまでもなく小さい。
しかし、それが本来の状態だ。
千年の間に葛葉姫命、神狐の力は薄れ、今ではその片鱗をようやく感じ取れるかどうか。
だというのに、護の体に宿っている力は、現当主である自分はおろか先代、先々代の比ではないほど大きい。
それが解放されれば、何が起こるのか、翼も最悪の事態だけは予測できていた。
だからこそ、むやみやたらと力を使わないように教育してきたのだ。
だが、護は力を解放した。
その背景に何があったのか、聞きだし、ようやく合点がいったのだろう。
説明を聞き、翼はようやくほっとした様子で。
「よく、生きて帰ってきた」
と、護をねぎらった。
だが、労われた当の本人は。
「ご心配、おかけしましたか?」
と、可愛げなく問いかけてくる。
「いや、まさか。お前なら、なすべきことをなして帰ってくるとわかっていた……だが、ほっとしたということもまた、事実だな」
翼は微笑みを返し、息子が淹れたハーブティーに口をつけていた。
どうやら、青龍と騰蛇が知らせてくれていたらしい。
「おかえり、護。それといらっしゃい、月美ちゃん」
「ご、ご無沙汰してますおば様!」
「うふふふ、そんなに緊張しなくていいわよ。さ、上がってちょうだいな」
久しぶりに会ったからなのか、それとも護と恋人同士になれたことで心証が変わったからなのか。
とにかく、月美はものすごく緊張していた。
そんな様子の月美に、雪美は優しい笑みを浮かべながら出迎え、リビングへと案内する。
二人はそのままリビングまで通されると、椅子を勧められた。
「護。お前も座りなさい」
当然、翼は護にも座るように指示した。
だが。
「長くなるんだろ?なら、用意しておいてもいいじゃないか」
「……それもそうだな」
護は話が少し長くなることを予測し、護は椅子には座らず、お茶の準備を始める。
話が長くなるであろうことからの気遣いであることを翼も理解し、それ以上は何も言わなかった。
「い、一杯あるんですね。ハーブ」
「あぁ、ここにあるものはうちの庭で栽培したものだよ」
「へぇ……って、えぇっ?!」
「驚くことか?医者に診せるわけにはいかない傷とか、医者じゃどうにもならない毒とかもあるだろ、妖退治なんてやってると」
「それもそうね……」
土御門神社はあくまで神社であるため、その主な仕事内容は祈祷や占いだ。
とはいえ、妖退治や除霊といった仕事がまったくないというわけではない。
そういった仕事の中には、怪我を負ったり、毒を受けたりするようなものもある。
その中で負った傷や毒は、医者に診せたところでどうにもならないことが多い。
そのため治療するための薬草が、土御門家の庭には大量に植えられているのだ。
「ちなみに、ハーブのブレンドは護が行っている」
「そうなんですか?」
「薬湯の延長線にある知識、と考えているようだ。実際、薬効はあるから、薬といえる」
「へぇ……」
数分して、月美の前にハーブティーを入れたティーカップが置かれる。
ペパーミントの清涼な香りが月美の鼻に届くと、自然と緊張が和らいでいくのを感じ、自然と安堵のため息が出てきた。
護はそれを横目に、月美の目の前に置かれたものと同じカップを、他にも三つ用意すると、翼と雪美の前に置く。
そして、護は自分のティーカップを持って、ようやく椅子に座る。
護が座ったところで、翼は本題を切りだした。
「さてと。久しぶりだね、月美ちゃん。だいたいのことは護から聞いているよ。今回の件では君にずいぶん、迷惑をかけてしまったようだ」
翼は座ったまま頭を下げる。
月美はその様子を見て。
「い、いえ。わたしがしたいからやったことですから」
と、慌てて同じように頭を下げる。
二人のそんな様子に、雪美は微笑み、話をつないだ。
「あなたのことは、土御門家で面倒を見ます……「家族」として、ね」
家族、という言葉にどのような真意があったのかは分からないが、月美はそれを聞いて赤面する。
その表情を見た翼も雪美もその様子を微笑みながら見守っていた。
だが、翼はその微笑みを消し、護の方へ真剣な視線を向ける。
その真剣な表情に、護も、思わず表情を引き締めた。
「護。月美ちゃんの扱いだが、分家には『無期限滞在の客人』ということにしている。その意味が、わかるな?」
無期限滞在の客人ということは、本人の気が済むまで。あるいは、土御門家の方で退出を願われない限り、土御門家に滞在するということを意味している。
客人である以上、恋仲になっていたとしても、節度のある付き合いをするように努力しろ。
翼はそう言いたいらしい。
そのことを理解できないほど、護も鈍感ではないし、頭の回転が遅いわけではなかった。
「……意に添えるよう、努力します」
そっけないが、しっかりとしたまなざしを翼に向けて、護は返す。
ほほに冷や汗を伝わせてながら答えた息子の様子に翼は、本当に大丈夫なのだろうか、と一抹の不安を現すかのように微苦笑を浮かべた。
――案ずるより産むがやすしともいう。ここはひとまず、こいつのできるところまでやらせてみるか
自身のうちでそう結論を出した翼は、目の前に置かれているカップを手に取った。
「さて、と。それじゃ、月美ちゃんを部屋まで案内しましょうか」
翼が護に何か言いたげにしていることを察し、雪美は月美を部屋に案内するため、リビングを出る。
月美は一度だけ振り向いて、護を見た。
護はその視線を感じてうなずく。
その態度に大丈夫だということを察し、雪美の後に続いた。
二人がリビングを出たことを察すると、翼は少しため息をつき、護に語りかける。
「護、お前は土御門の。安倍晴明の血脈に眠っている葛葉姫様の神通力を解放したのか?」
「はい……正直、伊邪那美が出てこられては、こうするより他に手段がありませんでした」
護は翼に月美がこの家に滞在する理由を事細かに説明した。
その説明を聞き、翼は護が神通力を解放せざるを得ない状況に置かれていたことと、それを示唆する件の予言があったことを聞き、ため息をつく。
「件の予言がお前にもたらされたのならば、しかたあるまい」
翼にもその力は宿っているが、その大きさは護のそれと比べるまでもなく小さい。
しかし、それが本来の状態だ。
千年の間に葛葉姫命、神狐の力は薄れ、今ではその片鱗をようやく感じ取れるかどうか。
だというのに、護の体に宿っている力は、現当主である自分はおろか先代、先々代の比ではないほど大きい。
それが解放されれば、何が起こるのか、翼も最悪の事態だけは予測できていた。
だからこそ、むやみやたらと力を使わないように教育してきたのだ。
だが、護は力を解放した。
その背景に何があったのか、聞きだし、ようやく合点がいったのだろう。
説明を聞き、翼はようやくほっとした様子で。
「よく、生きて帰ってきた」
と、護をねぎらった。
だが、労われた当の本人は。
「ご心配、おかけしましたか?」
と、可愛げなく問いかけてくる。
「いや、まさか。お前なら、なすべきことをなして帰ってくるとわかっていた……だが、ほっとしたということもまた、事実だな」
翼は微笑みを返し、息子が淹れたハーブティーに口をつけていた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
花ひらく妃たち
蒼真まこ
ファンタジー
たった一夜の出来事が、春蘭の人生を大きく変えてしまった──。
亮国の後宮で宮女として働く春蘭は、故郷に将来を誓った恋人がいた。しかし春蘭はある日、皇帝陛下に見初められてしまう。皇帝の命令には何人も逆らうことはできない。泣く泣く皇帝の妃のひとりになった春蘭であったが、数々の苦難が彼女を待ちうけていた。 「私たち女はね、置かれた場所で咲くしかないの。咲きほこるか、枯れ落ちるは貴女次第よ。朽ちていくのをただ待つだけの人生でいいの?」
皇后の忠告に、春蘭の才能が開花していく。 様々な思惑が絡み合う、きらびやかな後宮で花として生きた女の人生を短編で描く中華後宮物語。
一万字以下の短編です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる