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奮闘記
30、消えた少女
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桃花が護に告白し、玉砕する少し前。
一足先に戻った月美は自室に入り、買ってきたものの整理を始めたが、今集めている漫画や小説の類だけだったため、整理にはそれほど時間を要しなかった。
――ほかにしまい忘れたものは……あれ?これって
月美がカバンの中身を確認すると、見覚えのない呪符を見つけた。
黒い紙に白い墨で言霊が記されたその呪符に、恐る恐る手を伸ばす。
――これ、触ったらだめなものだ!!
この呪符は、「呪物《じゅぶつ》」と呼ばれている呪詛の道具だったらしく、指が触れた瞬間、月美の脳が警鐘を発した。
――どんな力があるかわからないけど、一度これに触れたら大変なことになる!!
そう確信した月美はそのままカバンから距離を取り、必要になるであろう最低限の呪具を持って、部屋を出ようとした。
だが、呪符から距離を置こうとした瞬間。
「何、これっ?!」
呪符から感じられていた邪念が黒い液体のようなものとなって具現化し、月美を包み込んだ。
月美は必死に液体を振りほどこうとしたが、液体はまるで意思を持っているかのように月美にまとわりついてくる。
動かない手足を何とか動かそうとするが、ついには首から下が全て液体に包み込まれてしまい、最後には全身を包み込まれてしまった。
体が徐々に沈んでいく感覚と同時に、月美の意識は薄れていく。
――まも、る……
薄れていく意識の中で、月美は護の名前を呼んだ。
どうか、無事でいてほしい。そう願いながら。
それからしばらく後、亜妃が月美を呼びに部屋まで上がってきたが、月美の姿は無く、いまだ負の感情を漏らしている、一枚の符だけが残されていた。
そんなことは露知らぬ護が風森家に戻ると、敷地に入る前から肌をピリピリと突き刺すような感覚を覚えた。
まるで儀式の前のような厳かな緊迫感が漂っていると思わせるほど、空気が張りつめている。
――何かあったのか?
護は嫌な予感がして、駆け足で家の中に入る。
家に入った瞬間、友護と白桜が同時に護に声をかけた。
「護くん、ちょうどよかった。緊急事態だ」
「護、大変なことになったぞ!」
「同時に言われても困るんですが……まさか、月美に何かあったんですか?」
「……あぁ、君が今、考えている通りだ」
自分の不甲斐なさを悔いているのか、友護は奥歯をかみしめて目を伏せて答える。
予感はあったが、友護の口からその予感が事実であることを告げられたことで、護は感情のまま、友護の胸ぐらをつかみ、問い詰めた。
「いったい、いったい何があったんですか?!月美は無事なんですか?!」
「おい、落ち着け!」
「落ち着いていらいでか!!」
「月美が心配なのはわかるし、それは俺も同じだ。だが、ここで感情的になってどうする?」
使鬼の白桜に言われ、護は反発したが、友護の声が落ち着いているが、かすかに震えていることに気づいた。
感情を抑え、できる限り冷静であろうと努めているようだ。
それを理解した護は、どうにか怒りを抑え、友護を離した。
「すみません」
「いいや、気持ちはわかるからな。気にすることはない」
突然、詰め寄ったことに謝罪する護に、友護は気にしていない様子で答える。
護にしても友護にしても、大切に想っている人が被害に遭ったのだ。
術者ならば冷静であることに努めるべきだろうが、二人とも術者である以前に、一人の人間。
自分に近しい人間が被害に遭えば、特に護のように理性よりも感情が先に出てくる若者は、冷静でいられることのほうが難しいだろう。
友護もそれをわかっていたから、強く責めるつもりはないようだ。
「で、もう大丈夫だな?」
「えぇ、どうにか……それで、いったい、何があったんですか?」
「俺にも何が何だか。妙な気配を感じたから、月美の部屋に行ってみたんだが、その時はすでに月美の姿が消えていた」
月美が消えた。
友護のその言葉に、護は一つの可能性に思い至る。
――今回の事件の被害者は全員、いたはずの部屋から忽然と姿を消している。てことは、月美もほかの被害者と同じ方法で、どこか別の場所に転移させられたのか?
そこまで考えた護は、被害者の一人の部屋に残されていたものを思い出し、友護に問いかけた。
「友護さん。月美の部屋に何か変わったものはありませんでしたか?」
予想が正しければ、彼女の部屋のどこかに呪符が置かれているはず。
それを確かめるため護が問いかけると、友護は何か思い出したらしく、険しい顔つきで答えた。
「あった。白い墨で言霊を記した黒い呪符だ」
それを聞くと、護は急いで家に上がり月美の部屋に入った。
部屋に入ると、確かに部屋の中央に黒い呪符が置かれている。
護は自分が普段持ち歩いている呪符を取り出し、黒い呪符と見比べた。
――風間友尋の部屋に残されていたものと同じ……てことは、これが月美を連れ去るために使われた仕掛けってことになる
護はそう推測する。
どうすれば、月美はどこに連れて行かれたのか、どうすれば月美のいる場所に行くことができるのか。
――今回の事件と、月美の失踪はつながっている。なら、鍵になるものはすでに見つけているはず……
護は必死にそれを思い出そうとする。
不意に、ぴちゃん、と脳裏で水が滴る音が聞こえた気がした。
「水……?」
その音に、護は月美の水鏡でも学校にあるらしい池が写っていたことを思い出す。
――この呪符を水のある場所で使えば、あるいは月美のいる場所に行くことができるかもしれない。けど、いったいどうすれば……
術者と術は強くつながってため、この呪符をたどっていけば、鳴海のいる場所を知ることはできる。
彼女が水鏡の向こう側の世界にいるのだとしたら、そこで決着をつけることができるかもしれない。
しかし、問題はそこに月美がいるかどうか。
鳴海の逮捕も重要だが、護の中での最優先事項は月美の無事な救出だ。
こればかりは月美の存在を感じることのできる何かが必要になる。
護は必死になって思考を巡らせていたが、突然、耐えがたい睡魔に襲われ、倒れこんでしまった。
一足先に戻った月美は自室に入り、買ってきたものの整理を始めたが、今集めている漫画や小説の類だけだったため、整理にはそれほど時間を要しなかった。
――ほかにしまい忘れたものは……あれ?これって
月美がカバンの中身を確認すると、見覚えのない呪符を見つけた。
黒い紙に白い墨で言霊が記されたその呪符に、恐る恐る手を伸ばす。
――これ、触ったらだめなものだ!!
この呪符は、「呪物《じゅぶつ》」と呼ばれている呪詛の道具だったらしく、指が触れた瞬間、月美の脳が警鐘を発した。
――どんな力があるかわからないけど、一度これに触れたら大変なことになる!!
そう確信した月美はそのままカバンから距離を取り、必要になるであろう最低限の呪具を持って、部屋を出ようとした。
だが、呪符から距離を置こうとした瞬間。
「何、これっ?!」
呪符から感じられていた邪念が黒い液体のようなものとなって具現化し、月美を包み込んだ。
月美は必死に液体を振りほどこうとしたが、液体はまるで意思を持っているかのように月美にまとわりついてくる。
動かない手足を何とか動かそうとするが、ついには首から下が全て液体に包み込まれてしまい、最後には全身を包み込まれてしまった。
体が徐々に沈んでいく感覚と同時に、月美の意識は薄れていく。
――まも、る……
薄れていく意識の中で、月美は護の名前を呼んだ。
どうか、無事でいてほしい。そう願いながら。
それからしばらく後、亜妃が月美を呼びに部屋まで上がってきたが、月美の姿は無く、いまだ負の感情を漏らしている、一枚の符だけが残されていた。
そんなことは露知らぬ護が風森家に戻ると、敷地に入る前から肌をピリピリと突き刺すような感覚を覚えた。
まるで儀式の前のような厳かな緊迫感が漂っていると思わせるほど、空気が張りつめている。
――何かあったのか?
護は嫌な予感がして、駆け足で家の中に入る。
家に入った瞬間、友護と白桜が同時に護に声をかけた。
「護くん、ちょうどよかった。緊急事態だ」
「護、大変なことになったぞ!」
「同時に言われても困るんですが……まさか、月美に何かあったんですか?」
「……あぁ、君が今、考えている通りだ」
自分の不甲斐なさを悔いているのか、友護は奥歯をかみしめて目を伏せて答える。
予感はあったが、友護の口からその予感が事実であることを告げられたことで、護は感情のまま、友護の胸ぐらをつかみ、問い詰めた。
「いったい、いったい何があったんですか?!月美は無事なんですか?!」
「おい、落ち着け!」
「落ち着いていらいでか!!」
「月美が心配なのはわかるし、それは俺も同じだ。だが、ここで感情的になってどうする?」
使鬼の白桜に言われ、護は反発したが、友護の声が落ち着いているが、かすかに震えていることに気づいた。
感情を抑え、できる限り冷静であろうと努めているようだ。
それを理解した護は、どうにか怒りを抑え、友護を離した。
「すみません」
「いいや、気持ちはわかるからな。気にすることはない」
突然、詰め寄ったことに謝罪する護に、友護は気にしていない様子で答える。
護にしても友護にしても、大切に想っている人が被害に遭ったのだ。
術者ならば冷静であることに努めるべきだろうが、二人とも術者である以前に、一人の人間。
自分に近しい人間が被害に遭えば、特に護のように理性よりも感情が先に出てくる若者は、冷静でいられることのほうが難しいだろう。
友護もそれをわかっていたから、強く責めるつもりはないようだ。
「で、もう大丈夫だな?」
「えぇ、どうにか……それで、いったい、何があったんですか?」
「俺にも何が何だか。妙な気配を感じたから、月美の部屋に行ってみたんだが、その時はすでに月美の姿が消えていた」
月美が消えた。
友護のその言葉に、護は一つの可能性に思い至る。
――今回の事件の被害者は全員、いたはずの部屋から忽然と姿を消している。てことは、月美もほかの被害者と同じ方法で、どこか別の場所に転移させられたのか?
そこまで考えた護は、被害者の一人の部屋に残されていたものを思い出し、友護に問いかけた。
「友護さん。月美の部屋に何か変わったものはありませんでしたか?」
予想が正しければ、彼女の部屋のどこかに呪符が置かれているはず。
それを確かめるため護が問いかけると、友護は何か思い出したらしく、険しい顔つきで答えた。
「あった。白い墨で言霊を記した黒い呪符だ」
それを聞くと、護は急いで家に上がり月美の部屋に入った。
部屋に入ると、確かに部屋の中央に黒い呪符が置かれている。
護は自分が普段持ち歩いている呪符を取り出し、黒い呪符と見比べた。
――風間友尋の部屋に残されていたものと同じ……てことは、これが月美を連れ去るために使われた仕掛けってことになる
護はそう推測する。
どうすれば、月美はどこに連れて行かれたのか、どうすれば月美のいる場所に行くことができるのか。
――今回の事件と、月美の失踪はつながっている。なら、鍵になるものはすでに見つけているはず……
護は必死にそれを思い出そうとする。
不意に、ぴちゃん、と脳裏で水が滴る音が聞こえた気がした。
「水……?」
その音に、護は月美の水鏡でも学校にあるらしい池が写っていたことを思い出す。
――この呪符を水のある場所で使えば、あるいは月美のいる場所に行くことができるかもしれない。けど、いったいどうすれば……
術者と術は強くつながってため、この呪符をたどっていけば、鳴海のいる場所を知ることはできる。
彼女が水鏡の向こう側の世界にいるのだとしたら、そこで決着をつけることができるかもしれない。
しかし、問題はそこに月美がいるかどうか。
鳴海の逮捕も重要だが、護の中での最優先事項は月美の無事な救出だ。
こればかりは月美の存在を感じることのできる何かが必要になる。
護は必死になって思考を巡らせていたが、突然、耐えがたい睡魔に襲われ、倒れこんでしまった。
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