見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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奮闘記

23、やっと見つけた

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 朝食を取り終えて、護と月美は行方不明になっている少年と少女についての情報収集を始めた。
 しかし、行方不明というより家出という扱いになっているためだろうか、目新しい情報はなかなか出てこない。

「警察のほうになければ……あとは、町内会か?」

 そう呟きながら、護は町内会のサイトを覗いてみた。
 すると、そこには目撃情報を求める欄がある。
 もしやと思ってそこを開くと、そこに書かれていた内容に、護は口角をかすかに吊り上げた。

「ビンゴ」

 そこに載っていたのは家出人の情報を求めるもの。
 そして、年齢はほぼ全員、中学生あるいは高校生だった。

――家の外へ出た形跡がないのに、姿を消してしまった。全部にそう書かれてるってことは、妖が絡んでるとみて間違いないだろうな

 日本の警察は非常に優秀だ。
 その警察にすら発見できないほど完璧に痕跡を隠すことなど、一介の中高生にはまず不可能。
 月美が感じ取っている災厄の気配と、自分たちが今まで占いでつかんできた情報から考えれば、この行方不明になっている中高生たちが、妖にさらわれた被害者とみてまず間違いない。
 そう考えた護は、そのリストの中で最近、行方不明になった「風間友尋」の名を近くに置いていたメモ用紙に書きとめ、パソコンを閉じた。

「ここまで来れれば、あとは夢殿で見てみるだけだ」

 そうつぶやき、護は「風間友尋」の夢へ入る準備を始めた。
 いつもならば、知りたい人間の夢に入る場合、髪の毛などその人間の一部や、何かしらの霊的つながりを持っている必要がある。
 だが、今回、護は彼の名前を知った。
 名前というものは魂を現世につなぎとめる楔のような役割を持つ。
 体の一部や霊的つながりの代替品として、十分その機能を果たしてくれる。

――こんなもんか。あとは

 準備を終え、護は部屋に戻り、衝立を四つ引っ張りだし、自分を囲うように並べる。
 さらに数枚の護符を懐にしまい込んだうえ、使鬼たちに守護を頼むと、目を閉じ、夢殿へ足を踏み入れた。

----------------------------

 護が夢渡りを始めたころ。
 月美は麻衣の情報網を使って、行方不明になっている人々を探そうと考えていた。
 新聞部であり、将来は記者を目指している麻衣は、学校で何が起きているのかだけでなく、何か面白い話はないか、自力で調査する癖がある。
 そのせいだろうか、学校という枠を超えて、この地域のありとあらゆる情報に精通しており、地域一の情報ツウとして近所の奥様方にも有名だ。
 そんな彼女と、月美は近所の喫茶店で落ち合うことを約束し、今現在、舞に話をしていた。

「行方不明になってる中学生や高校生の共通点、ね……」

 話を聞いた麻衣は少し考え込み、何かを思い出したのか、鞄から付箋が大量についた手帳を取りだした。
 麻衣の持っている手帳には、大量の情報が書き記されている。
 親友の片割れである桃花曰く。

『あれはもう取材メモっていうより、閻魔帳だね』

 ということらしい。
 麻衣はそんな閻魔帳をぱらぱらとめくっていくと、一つのページで止まった。
 どうやら、月美の求めている情報が見つかったようだ。

「うん。家出って扱いになってるけど、行方不明になっている子たちが結構いるよね。その子たち全員、占いにはまってたみたいなのよ」
「占い?」
「そう、占い」

 聞き返した月美に、麻衣はしれっとした態度で答え、続けた。
 どうやら、ここ最近、若者の間で人気急上昇中の占い師がいるそうで、その占い師の占いを受けた若者が行方不明になっているらしい。
 もっとも、年齢が中学生や高校生であるため、たいしておおごとにはなっておらず、家出として処理されているらしい。

「その占い師って?」
「あぁ、ちょっと待ってね……」

 月美のもう一つの質問に、麻衣は白紙のメモ用紙を取り出し、手帳に書かれていることを写して、月美に渡した。

「この時間、この場所にたいていの時間は占いをしてるみたい」
「ありがとう、助かるわ」

 お礼を言いながら、メモを受け取る月美だったが、手渡した麻衣は心配そうな表情を浮かべている。

「何をするつもりかは知らないし、聞かないけど、気をつけてね?わたし、月美が行方不明になるのは嫌だからね」
「わかってる。ありがとう、麻衣」

 親友を心配してそんなことを言ってくる麻衣をよそに、月美は優しい笑顔でお礼を言い、メモ帳をかばんの中にしまった。
そんな月美を眺めながら、麻衣は目の前に置かれたアイスティーのストローに口をつける。

「あ、そうだ。この情報の埋め合わせ、頼んじゃっていいかな?」
「え?まぁ、無理なものじゃなければ、いいけど」

 突然の麻衣の提案に、月美はキョトンとした顔で答えた。
 麻衣は、自分が得た情報を他人に渡すときに、あるルールを設けている。
 それが、埋め合わせ、と称した新情報の提供だ。
 情報の対価は情報で、が彼女のモットーらしく、自分の手元にある取材ノートに記載されていない新しい情報を、情報を欲しがっている人間に関する新情報を要求する。
 それが彼女のやり方だ。

――情報料を今すぐ寄越せって……これ、絶対護のこと聞いてくるよね?

 知っていることとはいえ、親友のそのちゃっかり具合に、月美は苦笑を浮かべていた。
 そんな様子には気づかず、麻衣はさっそく。

「月美の彼氏、土御門くんだっけ?彼のこと、教えて」

 と、月美の予想通りの要求をしてきた。

「教えられる範囲のものでよければ。それから、まだ彼氏じゃないわよ」
「『まだ』ねぇ?」
「な、なによ?」
「べっつにぃ~?」

 月美はその要求があるであろうことはある程度予想していたので、たいして動揺することなく受け答えた。
 だが、『まだ』と言ってしまったために麻衣に面白おかしい推論を立てさせたあたり、まったく動じていないというわけではないようだ。
 そして、これはまだ始まりにすぎない。

「それじゃ、早速で悪いんだけど」

 許可が下りたため、麻衣は早速、月美を質問攻めにした。
 護という人間がどういう人物なのか、ということから始まり、月美と護の出会い、護との関係やどこまで進展したのか。そして、護のどこが好きなのか。
 麻衣は、それこそ根掘り葉掘り聞いてくる。
 親友である月美相手でも遠慮は無いあたり、ジャーナリストの卵らしいと言えるだろうが、麻衣は一つだけ誤算があった。
 月美は護に好意を寄せている。
 それは確かなのだが、その好意がどの程度のものなのか、それをわかっていなかった。

「それでね、私が眠そうにしていると、嫌な顔一つしないで『眠いなら、俺の肩を貸してやるよ』って言って、上着まで貸してくれるの」
「……へ……へぇ……」
「でね、でね!私がすごく不安だったり、寂しかったりすると、東京にいても、誕生日とかお祝いの時はいっつも電話をくれるんだよ。あ、あとあと……」
「……も、もういいです……月美があの人のことがどんだけ好きなのか、十分にわかったから」

 いつもなら、相手に無遠慮な質問をぶつけ、相手をノックダウンさせる麻衣なのだが、今回は質問をぶつけた自分が圧倒されてしまった。
 いや、圧倒されるだけではなく、恋人にすらなっていないというのに、甘い惚気話を延々と聞かされている。
 スイーツの類は何も注文していないはずなのに、なぜか胸焼けを覚えるほど、糖度の高いその内容に。

――いままで、いろんな人に迷惑かけてきたつけが回ってきたかなぁ……

 と今までの行いを反省するのだった。
 ちなみに、月美の惚気話は一時間も続き、この後、麻衣は。

『親友とはいえ、他人の惚気話で胸焼けを覚える日が来るとは思わなかった』

 と、桃花に愚痴をこぼしていた。
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