見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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奮闘記

14、出かけた先での出会い

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 尾行している人間がいるとはつゆ知らず、護と月美はシッピングモールの中を歩いていた。
 入り口につくまでの間に普通に会話できる程度には落ち着きを取り戻せたようだ。

「でさ、そん時のあいつらの反応が面白くて」
「ふふふ、ほんと、いろんなのがいるのね」

 もっとも、その話題は毎晩出くわす百鬼夜行の話題であったり、依頼で出くわした浮遊霊や地縛霊との体験談であったり、とても普通の人間が会話していて面白いと感じられるものではない。

「月美に呼ばれる少し前にも、同級生から依頼があったな」
「そうなんだ?どんなこと頼まれたの?」
「あれ?月美?」
「え?」

 話している途中で呼びとめられて、月美は思わず振り返える。
 そこには、二人組の少女が。
 地元ではないため、当たり前といえば当たり前なのだが、見覚えのない少女二人に護は眉根をひそめて月美に問いかけた。

「……誰だ?」
「わたしの友達……ごめん、護。少し待ってて?」

 問いかけられた月美は耳打ちして、少女たちの所へ走って行く。
 その背中を見送った護は、少しの間、三人の様子を眺めてから、その場を離れ、手近な喫茶店に入って行った。

「いらっしゃいませ。おひとりで?」
「はい。禁煙席、ありますか?」

 店に入ると、そこそこ顔立ちの整った店員が声をかけてきた。
 護は少し無愛想に問いかけると、店員が指示した方へと進んでいき、腰かける。

「お決まりですか?」
「ブレンドコーヒーで」
「かしこまりました……以上でよろしいでしょうか?」
「はい」

 護がそう答えると、少々お待ちください、といって店員はその場を去っていった。
 店員との言葉のやり取りを終えて、護はカバンから文庫本を取り出し、栞をはさんでいたページを開く。
 が、数ページも読み進まないうちに店員がやってきて、注文したコーヒーを目の前に置き。

「ほかにご注文は?」
「いえ」
「ごゆっくりどうぞ」

 店員は伝票を置いて、ごゆっくり、と決まり文句を言ってその場を立ち去っていった。

「……さて……」

 注文したブレンドコーヒーを飲みながら、手にした文庫本を読みつつ、このあとはどうしようか、と思案し始めた。
 本当なら、月美といろいろと回ってみたいが。

――友達が合流したなら、あいつらと行動したいだろうし、一人で気ままに書店を回ってみるってのもありだろうな

 だが、そこまで考えてからここは人が多すぎる。
 ショッピングモールで春休みという行楽シーズンなのだから、人が多いことは最初から覚悟していた。
 だが、人混みが苦手な性格であるため、やはりためらってしまう。

――けどなぁ。ここ、人が多いんだよなぁ

 かといって、人混みを避けるため、この喫茶店で月美が満足するまで待っているということになると、店にも迷惑だ。
 何より、自分の方が先に我慢の限界を迎えるであろうことは簡単に予測できる。

「……さて、本当にどうしたものかなぁ……」

 ぽつり、と本から目を離してつぶやいた。
 独り言のつもりだったのだが、そのつぶやきに返す声が聞こえてきた。

「何が?」
「うわっ?!」

 あまりに突然のことで、護は思わず驚きの声をあげてしまった。
 声のした方を見ると、そこには先ほど月美を呼びとめた二人組の少女の一人が手をあげて笑みを浮かべている。

――な、なんでこいつがここにいんだよ?!

 初対面であることは間違いないため、この少女に追いかけられるいわれはない。
 一体、何が目的で自分を追いかけてきたのかわからず、護は少女に問いかけようとしたが。

「……えっと?」

 当然、名前を知っているはずもない。
 そのことに気づいた少女は少し申し訳なさそうにして。

「あ、ごめん。初対面だったね。あたし、綾瀬桃花《あやせももか》。月美の親友、その一かな?よろしく」

 桃花、と名乗った月美の友人は初対面の人間にも関わらず、護に対して気兼ねない様子で接してきた。
 その勢いに、護は一瞬、気押されそうになったが。

「土御門護、月美の幼馴染だ。よろしく」

 気を取り直して自分の名前を名乗った。
 あまり関わりあいになりたくないと思ってしまったため、必要最低限のことを話し、護は席を立とうとした。
 だが、腕を抑えられ、半ば無理やり席に座らせられてしまう。

――こいつ、合気道を使えるのか

 大して力を加えられていないはずなのに、立ち上がることができない。
 合気道という武道はそういう特性があるものであり、下手に相手取るには危険であると、護は知っている。

――おとなしくしておいた方が身のため、か

 護は立ち去ることを早々に諦め、そのまま席に着き、彼女からの要求を待つことにした。
 よろしい、と言わんばかりの目を向け、桃花は真向かいにあった椅子に腰かける。

「……で、用件は?」
「ん~、用件というかなんというか……あぁ、そうだ。あなたの大事な人、ある人に引き渡したよってのを伝えに来たんだった」
「……はい?」

 護は一瞬、自分の耳を疑った。
 だが冗談の類ではないことを感じ取ると、剣呑な瞳を桃花に向ける。
 その瞳をものともせず、桃花は護を見ていた。
 見つめ返してくるその目からは、さきほどの言葉が本気なのかそれとも冗談なのか、判断がつかない。

「……何が望みだ?」

 鎌をかけるという意味もあっての問いかけだった。
 その手には、すでに文庫本はない。
 代わりに、いつでも抵抗、あるいは桃花を制圧できるように身構えていた。
 それに気づいてか気づいていないのか、桃花はいたずら小僧のような笑みを浮かべながら、少しばかり拍子抜けする答えを返してくる。

「時間稼ぎ、かな?」
「……時間稼ぎ?」

 護は要領を得ない返答にいらだちを隠せずにいた。
 しばらくの間、二人が硬直状態になっていると、桃花の携帯が鳴り響く。
 その着信を見ると、麻衣と書かれている。おそらく、もう一人の茶髪の少女の名なのだろう。

「もしもし?うん、うん……了解、それじゃいまからそっちに連れていくから」

 少女との会話を手短に終え、桃花は電話を切り、護について来てほしいと告げ、手をつかみ、引っ張ってきた。
 親友だ、と自分で言っている以上、そういうことはないと思いたいが、月美の命がかかっている可能性が否定できない以上、護は従わざるを得なかったのだが。

「……ついていくのは構わんが、せめてコーヒー代を払わせてくれ」
「あ……ごめん」

 どうやら、護がコーヒーを注文していたことをすっかり忘れていたらしく、桃花は微苦笑しながら謝罪する。
 護が喫茶店の勘定をすませると、桃花はなおも護の腕を引いてファッションコーナーへ向かった。

「……ほんとのところ、何が目的なんだ?」

 護はようやく彼女が言っていた『時間稼ぎ』の意味に納得がいき、そっとため息をついて桃花に質問する。
 その瞳に敵意は宿っていなかったが、その代わりに呆れの色が浮かんでいた。
 護からの質問に、桃花はあごに指を添え、天井を見上げて考え込んだ。

「ん~……まあ、恋する乙女の応援ってとこかな?」

 そういうと、茶髪の少女が手招きしている様子がうかがえた。
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