13 / 276
奮闘記
13、二人で出かけよう
しおりを挟む
ある程度、雑誌やら新聞やらを整頓し、所定の場所に戻すと、二人は身支度を整えるため、部屋へ戻った。
身支度といっても、護はあまり時間がかからなず、十分と経たないうちに風森家の玄関に出て、月美を待っていた。
普段から持ち歩いている文庫本を読みながら時間をつぶしていたが、月美はなかなか現れない。
「……遅いな」
「……だな」
あまりに時間がかかっていると感じたのか、肩に乗っている使鬼の呟く言葉に、声を出して答えてしまった。
普段ならそんなことはしないのだが、道路までそこそこ距離があるし、口元は文庫本の影に隠れている。
仮に見られてとしても、独り言を呟いているようには見えないはず。
そのため、こうして声を出して言葉を交わすことになんの躊躇もないらしい。
「ま、女子だからな。色々と支度があるんだろうよ」
「正直、女子とどこかに出かけるなんてことないから、よくわからんが」
女性の身支度は男性のそれよりも長いということは、護でも知っている。
だが、実際にはどれくらいかかるのか、実体験をしたことがないため、なんとも言えない。
いや、人付き合いそのものを避けてきたために、同性であってもどれくらいの時間がかかるのかわからない。
そのため、未経験を通りこして無知と言ってもいいくらいで、どうこう言うつもりはないという以前に、どうこう言うことすらできないというのが正直なところだ。
「けど、いくらなんでもそろそろ声かけた方が」
いいだろうか、と言いかけたその時。
「ごめんね、待った?」
扉の向こうから、月美が歩み寄って声をかけてきた。
振り返ると、そこには桃色のワンピースを着て、その下にクリーム色のストッキングをはいている月美が視界に飛び込んでくる。
「え……」
「ほぉ、こりゃまた」
自分が知っている範囲に限定しての話だが、月美はあまり目立ちたがらない性格で、かわいらしい色やデザインの服はあまり着ない。
だが目の前にいる彼女のスタイルは、それなりに似合っているし、同年代と比較すれば大人しいのだろうが、十分かわいい。
「……ど、どう?似合う、かな?」
護にまじまじと見つめられているからなのか、恥じらうように頬を赤く染めながら問いかける月美に、護はこくこくとうなずいて答えた。
無言ではあったものの、肯定してくれたことが嬉しかったのか、月美は顔をもっと紅くして、うつむいてしまう。
互いに何もできず、言葉も交わすことができなかったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
何より、こんな現場を亜妃に見つかりでもしたら、どうなるかわからない。
そこまで考えた護は、自分の方から月美の手を取り。
「い、行こうか」
と、出発を促した。
「う、うん。えっと、こっちだよ」
手を握られたことに驚いてしまい、月美は息を呑んだ。
しかし、嫌悪感は抱いていないらしく、手を握り返し、うなずいてショッピングモールまでの道順を案内し始めた。
ちなみに、到着するまでずっとその手を離さなかったことはいうまでもない。
身支度といっても、護はあまり時間がかからなず、十分と経たないうちに風森家の玄関に出て、月美を待っていた。
普段から持ち歩いている文庫本を読みながら時間をつぶしていたが、月美はなかなか現れない。
「……遅いな」
「……だな」
あまりに時間がかかっていると感じたのか、肩に乗っている使鬼の呟く言葉に、声を出して答えてしまった。
普段ならそんなことはしないのだが、道路までそこそこ距離があるし、口元は文庫本の影に隠れている。
仮に見られてとしても、独り言を呟いているようには見えないはず。
そのため、こうして声を出して言葉を交わすことになんの躊躇もないらしい。
「ま、女子だからな。色々と支度があるんだろうよ」
「正直、女子とどこかに出かけるなんてことないから、よくわからんが」
女性の身支度は男性のそれよりも長いということは、護でも知っている。
だが、実際にはどれくらいかかるのか、実体験をしたことがないため、なんとも言えない。
いや、人付き合いそのものを避けてきたために、同性であってもどれくらいの時間がかかるのかわからない。
そのため、未経験を通りこして無知と言ってもいいくらいで、どうこう言うつもりはないという以前に、どうこう言うことすらできないというのが正直なところだ。
「けど、いくらなんでもそろそろ声かけた方が」
いいだろうか、と言いかけたその時。
「ごめんね、待った?」
扉の向こうから、月美が歩み寄って声をかけてきた。
振り返ると、そこには桃色のワンピースを着て、その下にクリーム色のストッキングをはいている月美が視界に飛び込んでくる。
「え……」
「ほぉ、こりゃまた」
自分が知っている範囲に限定しての話だが、月美はあまり目立ちたがらない性格で、かわいらしい色やデザインの服はあまり着ない。
だが目の前にいる彼女のスタイルは、それなりに似合っているし、同年代と比較すれば大人しいのだろうが、十分かわいい。
「……ど、どう?似合う、かな?」
護にまじまじと見つめられているからなのか、恥じらうように頬を赤く染めながら問いかける月美に、護はこくこくとうなずいて答えた。
無言ではあったものの、肯定してくれたことが嬉しかったのか、月美は顔をもっと紅くして、うつむいてしまう。
互いに何もできず、言葉も交わすことができなかったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
何より、こんな現場を亜妃に見つかりでもしたら、どうなるかわからない。
そこまで考えた護は、自分の方から月美の手を取り。
「い、行こうか」
と、出発を促した。
「う、うん。えっと、こっちだよ」
手を握られたことに驚いてしまい、月美は息を呑んだ。
しかし、嫌悪感は抱いていないらしく、手を握り返し、うなずいてショッピングモールまでの道順を案内し始めた。
ちなみに、到着するまでずっとその手を離さなかったことはいうまでもない。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
酔っぱらった神のせいで美醜が逆転している異世界へ転生させられた!
よっしぃ
ファンタジー
僕は平高 章介(ひらたか しょうすけ)20歳。
山奥にある工場に勤めています。
仕事が終わって車で帰宅途中、突然地震が起こって、気が付けば見知らぬ場所、目の前に何やら机を囲んでいる4人の人・・・・?
僕を見つけて手招きしてきます。
う、酒臭い。
「おうおうあんちゃんすまんな!一寸床に酒こぼしちまってよ!取ろうとしたらよ、一寸こけちまってさ。」
「こけた?!父上は豪快にすっころんでおった!うはははは!」
何でしょう?酒盛りしながらマージャンを?
「ちょっとその男の子面くらってるでしょ?第一その子あんたのミスでここにいるの!何とかしなさいね!」
髪の毛短いし男の姿だけど、この人女性ですね。
「そういう訳であんちゃん、さっき揺れただろ?」
「え?地震かと。」
「あれな、そっちに酒瓶落としてよ、その時にあんちゃん死んだんだよ。」
え?何それ?え?思い出すと確かに道に何か岩みたいのがどかどか落ちてきてたけれど・・・・
「ごめんなさい。私も見たけど、もうぐちゃぐちゃで生き返れないの。」
「あの言ってる意味が分かりません。」
「なあ、こいつ俺の世界に貰っていい?」
「ちょっと待て、こいつはワシの管轄じゃ!勝手は駄目じゃ!」
「おまえ負け越してるだろ?こいつ連れてくから少し負け減らしてやるよ。」
「まじか!いやでもなあ。」
「ねえ、じゃあさ、もうこの子死んでるんだしあっちの世界でさ、体再構築してどれだけ生きるか賭けしない?」
え?死んでる?僕が?
「何!賭けじゃと!よっしゃ乗った!こいつは譲ろう。」
「じゃあさレートは?賭けって年単位でいい?最初の1年持たないか、5年、10年?それとも3日持たない?」
「あの、僕に色々な選択肢はないのでしょうか?」
「あ、そうね、あいつのミスだからねえ。何か希望ある?」
「希望も何も僕は何処へ行くのですか?」
「そうねえ、所謂異世界よ?一寸あいつの管理してる世界の魔素が不安定でね。魔法の元と言ったら分かる?」
「色々突っ込みどころはありますが、僕はこの姿ですか?」
「一応はね。それとね、向こうで生まれ育ったのと同じように、あっちの常識や言葉は分かるから。」
「その僕、その人のミスでこうなったんですよね?なら何か物とか・・・・異世界ならスキル?能力ですか?何か貰えませんか?」
「あんた生き返るのに何贅沢をってそうねえ・・・・あれのミスだからね・・・・いいわ、何とかしてあげるわ!」
「一寸待て!良い考えがある!ダイスで向こうへ転生する時の年齢や渡すアイテムの数を決めようではないか!」
何ですかそれ?どうやら僕は異世界で生まれ変わるようです。しかもダイス?意味不明です。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
キャラ文芸
廃業寸前だった小晴の飴細工店を救ったのは、突然現れた神様だった。
「ずっと傍にいたい。番になってほしい」
そう言い出したのは土地神である白蛇神、紫苑。
人外から狙われやすい小晴は、紫苑との一方的な婚約関係を結ばれてしまう。
紫苑は人間社会に疎いながらも、小晴の抱えていた問題である廃業寸前の店を救い、人間関係などのもめ事なども、小晴を支え、寄り添っていく。
小晴からのご褒美である飴細工や、触れ合いに無邪気に喜ぶ。
異種族による捉え方の違いもありすれ違い、人外関係のトラブルに巻き込まれてしまうのだが……。
白蛇神(土地神で有り、白銀財閥の御曹司の地位を持つ)
紫苑
×
廃業寸前!五代目飴細工店覡の店長(天才飴細工職人)
柳沢小晴
「私にも怖いものが、失いたくないと思うものができた」
「小晴。早く私と同じ所まで落ちてきてくれるといいのだけれど」
溺愛×シンデレラストーリー
#小説なろう、ベリーズカフェにも投稿していますが、そちらはリメイク前のです。
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記
陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
※コミカライズ進行中。
なんか気が付いたら目の前に神様がいた。
異世界に転生させる相手を間違えたらしい。
元の世界に戻れないと謝罪を受けたが、
代わりにどんなものでも手に入るスキルと、
どんな食材かを理解するスキルと、
まだ見ぬレシピを知るスキルの、
3つの力を付与された。
うまい飯さえ食えればそれでいい。
なんか世界の危機らしいが、俺には関係ない。
今日も楽しくぼっち飯。
──の筈が、飯にありつこうとする奴らが集まってきて、なんだか騒がしい。
やかましい。
食わせてやるから、黙って俺の飯を食え。
貰った体が、どうやら勇者様に与える筈のものだったことが分かってきたが、俺には戦う能力なんてないし、そのつもりもない。
前世同様、野菜を育てて、たまに狩猟をして、釣りを楽しんでのんびり暮らす。
最近は精霊の子株を我が子として、親バカ育児奮闘中。
更新頻度……深夜に突然うまいものが食いたくなったら。
異世界のんびり冒険日記
リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。
精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。
とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて…
================================
初投稿です!
最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。
皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m
感想もお待ちしております!
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる