見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
6 / 276
奮闘記

6、少女との出会い~少年と少女は大樹の下で出会い~

しおりを挟む

 鎮守の森に入ると、近所に在る森とはまた違う、厳かで清浄な雰囲気を護はその肌で感じ取る。
 その雰囲気に呑まれ、つい立ち止まって周囲を見回してしまう。
 だが、自分がここにきた役割を思い出し、頭を振り、気合いを入れ直し、眼を閉じ、森に流れる風を感じ取ろうとした。
 だが、不思議なことに、何も感じない。

「……変なの」

 初めての感覚に、護はぽつりとつぶやく。
 風は確かに森の中を吹き抜け、護の体をなでている。
 だが、その風に霊的な力を感じない。

――いつもなら風にも霊力を感じるのに、何かに邪魔されてるような感じがする

 狐は土の性質を持つ獣で、葛葉姫命は『天狐』と呼ばれる霊力を備えた狐の中で最上位に存在する霊獣としての側面を持っている。
 この森がその神の神域であるためか、土の力を強いようだ。
 普段なら風から感じ取ることができる霊力を、まったく感じ取ることができないのは、強すぎる土の霊力に阻害されているからだろう。
 だが、それは護にとって困った事態でもある。

「まいったな……」

 護は風に関わる術には長けているが、反面、木や土に関わる術は少し苦手だ。
 だからと言って、避けてきているわけではないし、基本的な遁術と互いの属性で補助しあう術ならある程度使うことはできる。
 苦手だからと使わないわけにはいかず、護は近くにあった木に触れて、眼を閉じた。

「森に潜むその息吹、根より感じ、我に伝えたまえ――急々如律令《きゅうきゅうじょりつりょう》」

 紡いだ言葉に霊力を込め、護は意識を集中させる。
 その瞬間、触れている木から森全体に視覚を広がっていき、やがて視界は森の全体へと広がっていく。
 徐々に視界が絞られ、最後に浮かんだのは、この森の中央にある大樹。その根元で眼を閉じ、眠っている装束をまとった人影が見える。
 そこまで見えたとき、視界はゆっくりとブラックアウトし、やがて何も見えなくなった。
 どうやら、森の木が護に協力できるのはここまでだったようだ。

「……ありがとう」

 額を木の幹にあて、そっと木に対して礼を言った。そのまま、桜の大樹が見えた方向へ走って行った。

――けど、最後に見えたあの女の子……あれ?

 ふと、走りながら考えていると、護の中に一つの疑問が浮かんで来た。
 なぜ、女の子だと思ったのだろう。
 直感的にそう思ってしまったのだろうが、なぜ装束しか見えていないのに、同じ年齢くらいの少女だと感じたのだ。
 もっとも、あの神使が巫女と口にしたから、先入観で少女と思ったのかもしれないが、徐々にいつまでもわからないことを考えていても仕方がない、と思うようになり。

「……ま、考えても仕方ないか……」

 とつぶやいて、それ以上、このことについて考えることはやめ、走り続けた。
 やがて護は桜の木の近くに到着し、一度立ち止まりゆっくりと息を整えてから、護は桜の近くまで歩み寄っていく。
 そこには、先ほど木が見せてくれたように、一人の黒い長髪の少女が桜の木の根元で眠っている。

――……かわいい

 護はその少女を見た瞬間、そう思った。
 寝ていることがわからなければ、人形なのではないかと思ってしまうくらいだ。
 そんな感想を抱きながら、護はそっと少女に近づき、肩をたたいたり、前後に揺らしたりして、なんとか起こそうとした。

「……んにゅ……」

 とろんとした眼を護に向け、少女はそっと腕を伸ばし、抱きついた。
 あまりに突然と言えば突然だったので、護は対応することができず、なされるがままに抱きつかれ、押し倒されてしまう。

「な、お、おい……」
「すぴぃ……」

 少女は護に抱きついたまま、眠っていた。

「……はぁ……どうしたものかな、これ……」

 護はそうつぶやきながらため息をついた。
 だが、起こしては悪いと思い、護は少女を抱き上げ、出会った時と同じように桜の木の根元に寝かせてその傍らに腰かけ、少女が完全に目を覚ますのを待つことに。
 だが、一時間近くが経過しても少女は一向に目を覚ます気配はなかった。
 彼女が目を覚ますまでここにいると決めはしたが、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。

「……一体、どのくらい寝るんだ。この子は……」

 苛立ちをおさえながら、半ば呆れたような口調で、近くにいる少女に視線を向けて、護はつぶやいた。
 それもそのはず。
 寝ぼけて抱き着いてきた名も知らない少女は、今もなお、護に寄りかかる形でただただ静かなに寝息を立てて、眠り続けているのだから。
 護自身はそれなりに気が長いというか、かなりのんびりとしている性格だという自覚はある。

 だから、この少女が目を覚ますまではこのままでいてもいいだろう、と判断して、彼女が目を覚ますまで待っているつもりでいた。
 そのつもりだったのだが、我慢の限界が近くなってくる。
 いくら両親への伝令として式を残してきたとはいえ、あまり長く時間をかけるといらぬ心配をかけるかもしれない、と思い至り、仕方なく最終手段をとることを決意した。

――少し荒っぽいけど、ごめん

 心の中で謝り、少女の目の前で思いっきり手をたたいた。
 ぱん、という鋭い音が森中に鳴り響きわたると、少女も眼を開け、何事かと周囲を見回す。
 先ほど、一瞬だけ眼を覚ました時とは違い、眼はしっかりとあいている。
 またすぐに眠りに落ちそうな様子もない。
 どうやら、今のでようやく目が覚めたようだ。

「あれ……?ここは……??あ、そっか。わたし、寝てたんだ」

 少女は自分が置かれた状況を理解したのか、そうつぶやいた。
 その様子に、呆れた、と思いつつも、護はそれを態度に出すことなく、少女に声をかける。

「おはよう。そして、はじめまして」

 目を覚ました少女に対し、護はそっと溜息をついて挨拶を交わした。
 当然、少女は声がした方向、つまり護の方へ視線を向け。

「あ、えと……」

 少女はいきなり目の前に現れた少年に対し、何を言っていいのかわからず、おろおろと首を振りだした。
 その様子を察した護は、少し困ったような顔で、どうしたものかと考える。
 だが、ひとまずは自己紹介か、ということに思い至り、自分の名前を名乗ることにした。

「おれは土御門護。君は?」

 いい加減、自分が置かれた状況にいらだっていたのか、ややぶっきらぼうになりながら、護は少女に名乗った。
 少女は、護はなぜ不機嫌そうにしているのかわからなかったためか、それとも内気な性格であるためなのか、少女は少しおどおどとした態度で口を開く。

「わ……わたしは、風森月美……ここの神社の巫女、なの。修行中だけど」

 月美と名乗った少女は、そこまで言うと、顔を伏せてしまった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

魔術師セナリアンの憂いごと

野村にれ
ファンタジー
エメラルダ王国。優秀な魔術師が多く、大陸から少し離れた場所にある島国である。 偉大なる魔術師であったシャーロット・マクレガーが災い、争いを防ぎ、魔力による弊害を律し、国の礎を作ったとされている。 シャーロットは王家に忠誠を、王家はシャーロットに忠誠を誓い、この国は栄えていった。 現在は魔力が無い者でも、生活や移動するのに便利な魔道具もあり、移住したい国でも挙げられるほどになった。 ルージエ侯爵家の次女・セナリアンは恵まれた人生だと多くの人は言うだろう。 公爵家に嫁ぎ、あまり表舞台に出る質では無かったが、経営や商品開発にも尽力した。 魔術師としても優秀であったようだが、それはただの一端でしかなかったことは、没後に判明することになる。 厄介ごとに溜息を付き、憂鬱だと文句を言いながら、日々生きていたことをほとんど知ることのないままである。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

人外さんに選ばれたのは私でした ~それでも私は人間です~

こひな
ライト文芸
渡利美里30歳。 勤めていた会社を訳あって辞め、フリーターをやっている美里は、姉のフリーマーケットのお手伝いに出かけた日に運命の出会いをする。 ずっと気になっていたけれど、誰にも相談できずにいた、自分の肩に座る『この子』の相談したことをきっかけに、ありとあらゆる不思議に巻き込まれていく…。

処理中です...