見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
4 / 276
奮闘記

4、出迎えたるは懐かしき……

しおりを挟む
 翌日の午後。
 護は出雲行きの新幹線に乗車していた。
 昨晩、父親に夢渡りで月美に出雲で何かが起こることと、自分が呼び出されたことを話した結果だ。
 だが、翼もこのことは占いで見えていたらしく、意外にもすんなりと許可をもらえた。
 そればかりか、翌日の午前中には東京を離れ、その日のうちに目的地へと行ける新幹線に乗れるように事前に手配していたほど。

――多分、最初から俺を向かわせるつもりだったんだな……だったら最初から言ってくれればいいのに

 と、心中で文句を言う護と一緒に、出雲へ同行する人間はいない。
 本来ならば、月美の実家がある風森神社と様々な面で縁の深い父親が付いてくるところだが、新幹線の席を二人分用意することが難しかった。
 翼にも片付けなければならない仕事が残っており、護の同伴にまで手を回すことができなかったようだ。
 とはいえ、仕事があるため、すぐに行動できないからといって、まだ見習いである護一人を派遣することはありえない。
 依頼が寄せられていないとはいえ、災厄が起きる可能性があるのなら、少なくとも護以上の実力を持っている弟子を一人でも同伴させてしかるべきだ。

 だが、翼はあえてそうしなかった。
 千年前ならばいざ知らず、現代ならばメールや電話を使って今回の事態を伝えることもできたはず。
 なのに、あえて夢で伝えるというまどろっこしい方法を取っていたことに、直接連絡を取ることが難しく、緊急を要する事態に発展しているのかもしれないと推察し、護を先行させ、様子を伺うことにしたのだ。

――俺だけでどうこうできる状況でなければ、すぐに連絡するように言われたから、助っ人は用意してるんだろうな……まぁ、だから見習いの俺一人でも向かわせることにしたんだろうけど

 出発前の翼とのやり取りを思い出し、護はため息をついた。
 自分が信頼されていないことについての不満ではない。
 どのような状況であるのか、助っ人を送ってもらうとしても、その助っ人が到着する前に、事態が悪化することはないか。
 何より、自分に助けを求めてきた幼馴染は無事だろうか。
 そんなことが頭をよぎり、少しでも戦力がほしいという状態で見習いの自分一人で大丈夫なのか。
 そんな不安から出てきたものだった。
 その心を察したのか、呆れたような声色で護に声がかけられる。

「下手に心配するのは、あまり得策とは言えないぞ」

 普通の人間では聞こえない声が、護の頭の中に響いてきた。
 だが、護は慌てることなく、そっと目を閉じ、心のうちでその声に応える。

――それは無理。得策ではないことはわかっているけど、どうしても心配になるんだから、仕方ねぇだろ

 人間、誰しも心配で仕方がないという他人が一人や二人はいるもの。
 護の場合、それが家族以外で唯一、心を開いている幼馴染であるというだけの話だ。
 むろん、年に一度、日本の神々が集う地で高い霊力を有する巫女である彼女のことだから、こうしている間に自力で異変を解決しているかもしれない。
 それだけの実力を持っていることを、護は知っている。
 それでも、無事であることを信じつつも、月美が心配で仕方がない。
 その矛盾を抱えた様子に、声をかけてきたものは再び、やれやれ、とため息をついていた。

「人間嫌いといっても過言ではないお前がそこまで気にかける女ってのは、いったいどんな奴なんだ?」
――そうか。お前はあいつに会うのは初めてか
「あぁ。教えてくれないか?できることなら、だが」

 頭の中に響く声の調子から、声の主がにやにやと微笑みを浮かべながら語りかけてきている様子が、護の脳裏に浮かんできていた。
 いや、そもそもこの声の主は人ではないため、笑うという感情表現が存在するのかどうかは怪しいのだが。
 だが、楽しんでいることは確かなので、どうしたものか、と思案にふけっていると、列車は目的地である出雲に到着したことを告げるアナウンスを響かせる。
 護はアナウンスを聞くと、さほど慌てずに荷物を取り出し、列車から降りた。

 目的地が護と同じ人々の波に身を投じ、人の動きの流れに任されるまま改札口を出ると、そこには服装こそ違っているが、夢殿で護に出雲に来るよう呼びかけた張本人が立っていた。
 迎えに来てくれた月美は、護の姿を確認すると、ぱたぱたと駆けてきて、そのままの勢いで、いきなり護に抱きついてくる。
 その予想外の行動に、護は驚きはしたものの、できる限り倒れないようにして、彼女を抱きとめた。

――変わらないな、本当に……

 護は抱きついた少女の頭をなでながら、少女と出会った時のことを思い出していた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

Re:D.A.Y.S.

結月亜仁
ファンタジー
足音、車のエンジン音、カラスの鳴き声。草の匂い、魚の焼けた匂い、香水の香り。 体を包む熱、服がこすれ合う感触、肌を撫でる風。電柱を照り付ける夕日、長く伸びた影、 闇に染まっていく空。そのすべてが調和したこの平凡な世界に、自分という人間は存在する。 今日も何事も無く、家へ帰り、風呂に入って、飯を食べて、寝るのだろう。 それは、もう決まりきったことだ。だから、今日という日が何か特別な意味を持っているというわけではない。たぶん明日だって、明後日だって、一か月後だって、一年後、三年後だって、自分を取り囲む環境や状況は変わったとしても、本質は変わることは無いと思う。それが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。ただ、この世界が、そういう風に出来ているだけのことだ。そんなこと、当たり前で、何気ない普通の出来事だと、そう思っていた。 はずだった。 気が付くと、そこは森の中。何故か記憶喪失となって目覚めたユウトは、どこか見覚えのある仲間と共に、自分は剣士として行動していた。わけも分からず付いて行くと、未知の化物と遭遇し、ユウトたちは危機に瀕してしまう。なんとか切り抜けることができたものの、ユウトは気を失ってしまった。 次に目が覚めた時は、いつもの教室。何事も無く笑い合う仲間を前に、ユウトは違和感を覚えるが…? それは、これから始まる物語の、序章にすぎなかった。 これは、二つの世界が交錯する、たった一人の少女を救うための異世界ファンタジー。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

処理中です...