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奮闘記
4、出迎えたるは懐かしき……
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翌日の午後。
護は出雲行きの新幹線に乗車していた。
昨晩、父親に夢渡りで月美に出雲で何かが起こることと、自分が呼び出されたことを話した結果だ。
だが、翼もこのことは占いで見えていたらしく、意外にもすんなりと許可をもらえた。
そればかりか、翌日の午前中には東京を離れ、その日のうちに目的地へと行ける新幹線に乗れるように事前に手配していたほど。
――多分、最初から俺を向かわせるつもりだったんだな……だったら最初から言ってくれればいいのに
と、心中で文句を言う護と一緒に、出雲へ同行する人間はいない。
本来ならば、月美の実家がある風森神社と様々な面で縁の深い父親が付いてくるところだが、新幹線の席を二人分用意することが難しかった。
翼にも片付けなければならない仕事が残っており、護の同伴にまで手を回すことができなかったようだ。
とはいえ、仕事があるため、すぐに行動できないからといって、まだ見習いである護一人を派遣することはありえない。
依頼が寄せられていないとはいえ、災厄が起きる可能性があるのなら、少なくとも護以上の実力を持っている弟子を一人でも同伴させてしかるべきだ。
だが、翼はあえてそうしなかった。
千年前ならばいざ知らず、現代ならばメールや電話を使って今回の事態を伝えることもできたはず。
なのに、あえて夢で伝えるというまどろっこしい方法を取っていたことに、直接連絡を取ることが難しく、緊急を要する事態に発展しているのかもしれないと推察し、護を先行させ、様子を伺うことにしたのだ。
――俺だけでどうこうできる状況でなければ、すぐに連絡するように言われたから、助っ人は用意してるんだろうな……まぁ、だから見習いの俺一人でも向かわせることにしたんだろうけど
出発前の翼とのやり取りを思い出し、護はため息をついた。
自分が信頼されていないことについての不満ではない。
どのような状況であるのか、助っ人を送ってもらうとしても、その助っ人が到着する前に、事態が悪化することはないか。
何より、自分に助けを求めてきた幼馴染は無事だろうか。
そんなことが頭をよぎり、少しでも戦力がほしいという状態で見習いの自分一人で大丈夫なのか。
そんな不安から出てきたものだった。
その心を察したのか、呆れたような声色で護に声がかけられる。
「下手に心配するのは、あまり得策とは言えないぞ」
普通の人間では聞こえない声が、護の頭の中に響いてきた。
だが、護は慌てることなく、そっと目を閉じ、心のうちでその声に応える。
――それは無理。得策ではないことはわかっているけど、どうしても心配になるんだから、仕方ねぇだろ
人間、誰しも心配で仕方がないという他人が一人や二人はいるもの。
護の場合、それが家族以外で唯一、心を開いている幼馴染であるというだけの話だ。
むろん、年に一度、日本の神々が集う地で高い霊力を有する巫女である彼女のことだから、こうしている間に自力で異変を解決しているかもしれない。
それだけの実力を持っていることを、護は知っている。
それでも、無事であることを信じつつも、月美が心配で仕方がない。
その矛盾を抱えた様子に、声をかけてきたものは再び、やれやれ、とため息をついていた。
「人間嫌いといっても過言ではないお前がそこまで気にかける女ってのは、いったいどんな奴なんだ?」
――そうか。お前はあいつに会うのは初めてか
「あぁ。教えてくれないか?できることなら、だが」
頭の中に響く声の調子から、声の主がにやにやと微笑みを浮かべながら語りかけてきている様子が、護の脳裏に浮かんできていた。
いや、そもそもこの声の主は人ではないため、笑うという感情表現が存在するのかどうかは怪しいのだが。
だが、楽しんでいることは確かなので、どうしたものか、と思案にふけっていると、列車は目的地である出雲に到着したことを告げるアナウンスを響かせる。
護はアナウンスを聞くと、さほど慌てずに荷物を取り出し、列車から降りた。
目的地が護と同じ人々の波に身を投じ、人の動きの流れに任されるまま改札口を出ると、そこには服装こそ違っているが、夢殿で護に出雲に来るよう呼びかけた張本人が立っていた。
迎えに来てくれた月美は、護の姿を確認すると、ぱたぱたと駆けてきて、そのままの勢いで、いきなり護に抱きついてくる。
その予想外の行動に、護は驚きはしたものの、できる限り倒れないようにして、彼女を抱きとめた。
――変わらないな、本当に……
護は抱きついた少女の頭をなでながら、少女と出会った時のことを思い出していた。
護は出雲行きの新幹線に乗車していた。
昨晩、父親に夢渡りで月美に出雲で何かが起こることと、自分が呼び出されたことを話した結果だ。
だが、翼もこのことは占いで見えていたらしく、意外にもすんなりと許可をもらえた。
そればかりか、翌日の午前中には東京を離れ、その日のうちに目的地へと行ける新幹線に乗れるように事前に手配していたほど。
――多分、最初から俺を向かわせるつもりだったんだな……だったら最初から言ってくれればいいのに
と、心中で文句を言う護と一緒に、出雲へ同行する人間はいない。
本来ならば、月美の実家がある風森神社と様々な面で縁の深い父親が付いてくるところだが、新幹線の席を二人分用意することが難しかった。
翼にも片付けなければならない仕事が残っており、護の同伴にまで手を回すことができなかったようだ。
とはいえ、仕事があるため、すぐに行動できないからといって、まだ見習いである護一人を派遣することはありえない。
依頼が寄せられていないとはいえ、災厄が起きる可能性があるのなら、少なくとも護以上の実力を持っている弟子を一人でも同伴させてしかるべきだ。
だが、翼はあえてそうしなかった。
千年前ならばいざ知らず、現代ならばメールや電話を使って今回の事態を伝えることもできたはず。
なのに、あえて夢で伝えるというまどろっこしい方法を取っていたことに、直接連絡を取ることが難しく、緊急を要する事態に発展しているのかもしれないと推察し、護を先行させ、様子を伺うことにしたのだ。
――俺だけでどうこうできる状況でなければ、すぐに連絡するように言われたから、助っ人は用意してるんだろうな……まぁ、だから見習いの俺一人でも向かわせることにしたんだろうけど
出発前の翼とのやり取りを思い出し、護はため息をついた。
自分が信頼されていないことについての不満ではない。
どのような状況であるのか、助っ人を送ってもらうとしても、その助っ人が到着する前に、事態が悪化することはないか。
何より、自分に助けを求めてきた幼馴染は無事だろうか。
そんなことが頭をよぎり、少しでも戦力がほしいという状態で見習いの自分一人で大丈夫なのか。
そんな不安から出てきたものだった。
その心を察したのか、呆れたような声色で護に声がかけられる。
「下手に心配するのは、あまり得策とは言えないぞ」
普通の人間では聞こえない声が、護の頭の中に響いてきた。
だが、護は慌てることなく、そっと目を閉じ、心のうちでその声に応える。
――それは無理。得策ではないことはわかっているけど、どうしても心配になるんだから、仕方ねぇだろ
人間、誰しも心配で仕方がないという他人が一人や二人はいるもの。
護の場合、それが家族以外で唯一、心を開いている幼馴染であるというだけの話だ。
むろん、年に一度、日本の神々が集う地で高い霊力を有する巫女である彼女のことだから、こうしている間に自力で異変を解決しているかもしれない。
それだけの実力を持っていることを、護は知っている。
それでも、無事であることを信じつつも、月美が心配で仕方がない。
その矛盾を抱えた様子に、声をかけてきたものは再び、やれやれ、とため息をついていた。
「人間嫌いといっても過言ではないお前がそこまで気にかける女ってのは、いったいどんな奴なんだ?」
――そうか。お前はあいつに会うのは初めてか
「あぁ。教えてくれないか?できることなら、だが」
頭の中に響く声の調子から、声の主がにやにやと微笑みを浮かべながら語りかけてきている様子が、護の脳裏に浮かんできていた。
いや、そもそもこの声の主は人ではないため、笑うという感情表現が存在するのかどうかは怪しいのだが。
だが、楽しんでいることは確かなので、どうしたものか、と思案にふけっていると、列車は目的地である出雲に到着したことを告げるアナウンスを響かせる。
護はアナウンスを聞くと、さほど慌てずに荷物を取り出し、列車から降りた。
目的地が護と同じ人々の波に身を投じ、人の動きの流れに任されるまま改札口を出ると、そこには服装こそ違っているが、夢殿で護に出雲に来るよう呼びかけた張本人が立っていた。
迎えに来てくれた月美は、護の姿を確認すると、ぱたぱたと駆けてきて、そのままの勢いで、いきなり護に抱きついてくる。
その予想外の行動に、護は驚きはしたものの、できる限り倒れないようにして、彼女を抱きとめた。
――変わらないな、本当に……
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