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奮闘記
1、時流れるとも闇は側に……
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東京から遠く、西方にある地。『神が集う地』として知られる出雲。
その地に住む青年は、心に陰りを持つ人間の一人だった。
いや、心に陰りを持たない人間などこの世にはいない。
とはいえ、彼は自分が置かれた現状を打破し、よりよい結果を得るために自分で考え、行動することを心掛ける程度には、精神的に正常な状態だ。
だが、目の前にある課題について、いくら自分で考えても答えを導き出すことができず、眉唾物と思いながらも、第三者に相談する程度のつもりで占い師に頼ることにした。
――結局、テンプレというか、ありきたりなことしか答えてくれなかったけど、ほかの人に話聞いてもらってちょっとはすっきりしたかな
残念ながら、答えを見出すことはできなかったが、それなりに有意義な時間となった。
少し心が軽くなり、明日も頑張ろうと思い、帰宅し、自室に入ったその瞬間。
「な、なんだよ、これっ?! くっそ……離せ、離せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
青年の声が、彼の住む部屋に響く。
しかし、同居人、あるいは近隣にいる住民の誰にも気づかれず、青年は、闇の中へと姿を消した。
あとに残されていたものは、墨で塗りつぶされたかのように黒い、一枚の紙のみ。
当然、青年が行方不明となったことは、小さな事件となり、捜査が行われることとなったが、警察の懸命な捜査にも関わらず、青年が発見されることもなかった。
青年が失踪したその日の夜。
神社の付近にある屋敷の一室で、窓を開けて月を眺める少女がいた。
どこかはかなげな表情と、腰まで伸びた黒髪、透き通るような白い肌。
そして、元々の整った顔立ちは、大和撫子と呼ぶには十分すぎるものだ。
「……」
そっと、少女はため息をついた。
原因はわかっている。
胸中にある、このもやもやとしたもの。
それが何かの予兆である事を、それも、吉兆ではなく、凶兆であることを彼女は知っている。
――この胸のもやもやは、何か事件が起きているってこと。それも、警察や探偵じゃ絶対に解決できない。そんな存在が引き起こしている事件が、この地で起きているんだ
今をさかのぼること、およそ千年。
時の帝であった村上天皇が、現在の京都に都を移した時代。
のちに平安時代と呼ばれるその時代は、人と闇のものとが共に生活していた時代であり、人々は闇に住むものを認識し、害悪となるものを『鬼』『もののけ』『妖』と称し、怖れた。
だが時は流れ、世界も人も混沌の渦に飲まれ、様々に変化していく。
数十年、数百年と時間を経るごとに、それまで無意識に認識し畏れてきた闇に住まうものを認識しなくなった。
だが、自分たちが捨て去った闇に住まう存在が、科学万能のこの時代でも牙をむき、襲いかかってくる。
そのことを知っている人間は少なく、対抗できる人間もまた少ない。
「呼ぶしかない、のかな」
ぽつりと、少女はそうつぶやく。
これから起きるであろう事態に対応できる人間は、少ない。
二十一世紀という新たな時代を迎えるまで、あと半世紀という時。
二度にわたって勃発した、のちに『世界大戦』と呼ばれることとなる巨大な戦乱の渦の中で、科学技術は目覚ましい進化を遂げる。
それと同時に培ってきた闇の存在に対抗するための手段が失われることとなったが、細々とその技術は受け継がれてきたため、対抗する手段を持つ人間がいなくなるということはなかった。
その技術を受け継ぐ、数少ない知り合いに声をかけるつもりのようだ。
――きっと、あの人ならわたしを信じて力を貸してくれる
心のうちで最も頼りにしているだけでなく、何よりも大切に想っている青年の姿を浮かべながら、少女は両手の指を絡め、目を閉じた。
その地に住む青年は、心に陰りを持つ人間の一人だった。
いや、心に陰りを持たない人間などこの世にはいない。
とはいえ、彼は自分が置かれた現状を打破し、よりよい結果を得るために自分で考え、行動することを心掛ける程度には、精神的に正常な状態だ。
だが、目の前にある課題について、いくら自分で考えても答えを導き出すことができず、眉唾物と思いながらも、第三者に相談する程度のつもりで占い師に頼ることにした。
――結局、テンプレというか、ありきたりなことしか答えてくれなかったけど、ほかの人に話聞いてもらってちょっとはすっきりしたかな
残念ながら、答えを見出すことはできなかったが、それなりに有意義な時間となった。
少し心が軽くなり、明日も頑張ろうと思い、帰宅し、自室に入ったその瞬間。
「な、なんだよ、これっ?! くっそ……離せ、離せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
青年の声が、彼の住む部屋に響く。
しかし、同居人、あるいは近隣にいる住民の誰にも気づかれず、青年は、闇の中へと姿を消した。
あとに残されていたものは、墨で塗りつぶされたかのように黒い、一枚の紙のみ。
当然、青年が行方不明となったことは、小さな事件となり、捜査が行われることとなったが、警察の懸命な捜査にも関わらず、青年が発見されることもなかった。
青年が失踪したその日の夜。
神社の付近にある屋敷の一室で、窓を開けて月を眺める少女がいた。
どこかはかなげな表情と、腰まで伸びた黒髪、透き通るような白い肌。
そして、元々の整った顔立ちは、大和撫子と呼ぶには十分すぎるものだ。
「……」
そっと、少女はため息をついた。
原因はわかっている。
胸中にある、このもやもやとしたもの。
それが何かの予兆である事を、それも、吉兆ではなく、凶兆であることを彼女は知っている。
――この胸のもやもやは、何か事件が起きているってこと。それも、警察や探偵じゃ絶対に解決できない。そんな存在が引き起こしている事件が、この地で起きているんだ
今をさかのぼること、およそ千年。
時の帝であった村上天皇が、現在の京都に都を移した時代。
のちに平安時代と呼ばれるその時代は、人と闇のものとが共に生活していた時代であり、人々は闇に住むものを認識し、害悪となるものを『鬼』『もののけ』『妖』と称し、怖れた。
だが時は流れ、世界も人も混沌の渦に飲まれ、様々に変化していく。
数十年、数百年と時間を経るごとに、それまで無意識に認識し畏れてきた闇に住まうものを認識しなくなった。
だが、自分たちが捨て去った闇に住まう存在が、科学万能のこの時代でも牙をむき、襲いかかってくる。
そのことを知っている人間は少なく、対抗できる人間もまた少ない。
「呼ぶしかない、のかな」
ぽつりと、少女はそうつぶやく。
これから起きるであろう事態に対応できる人間は、少ない。
二十一世紀という新たな時代を迎えるまで、あと半世紀という時。
二度にわたって勃発した、のちに『世界大戦』と呼ばれることとなる巨大な戦乱の渦の中で、科学技術は目覚ましい進化を遂げる。
それと同時に培ってきた闇の存在に対抗するための手段が失われることとなったが、細々とその技術は受け継がれてきたため、対抗する手段を持つ人間がいなくなるということはなかった。
その技術を受け継ぐ、数少ない知り合いに声をかけるつもりのようだ。
――きっと、あの人ならわたしを信じて力を貸してくれる
心のうちで最も頼りにしているだけでなく、何よりも大切に想っている青年の姿を浮かべながら、少女は両手の指を絡め、目を閉じた。
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