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【続編】

4:ドキドキが静まることはない

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聞いたところによると、アズレークは会議もなく、執務室で書類仕事に取り組んでいるという。

「スノー、なんだかドキドキするわね」
「はい! これはサプライズというものですよね!?」
「そうよ。アズレークを……魔術師レオナルドを驚かせましょう」

スノーと顔を見合わせ、笑い合う。
魔術師レオナルドは。
この王宮内において。
優雅さで知られている。
そのレオナルドが、私とスノーの突然の登場に驚く顔を想像すると……。

まるで少女に戻ったかのように、胸がワクワクしてしまう。

扉をノックする。

「コン、コン」「コン、コン」

スノーと二人で扉をノックした。
いい大人はこんな風にノックはしない。
だからもうアズレークには私達のことがバレているかもしれなかった。

だが。

反応がない。
「どうぞ」の一言も聞こえてこない。

「キイィィィィィ……」

ゆっくり扉が開いた。
数センチほど。
つまり鍵はかかっておらず、このまま扉を押せば中へ入れる。

スノーとを顔を見合わせる。そして扉の脇で控える警備の騎士の顔を見た。

警備の騎士はまっすぐ前を見て、微動だにしない。
スノーと私が来るという報告は受けている。
魔術師レオナルドの婚約者とその従者。
余計なことは一切するつもりはないのだろう。

「魔術師レオナルドは中にいるはずよ。入りましょう」

小声でスノーに告げると、「心得ました!」という顔でスノーが頷く。そのまま扉をゆっくり押す。

さすが王宮内の一室だけある。
扉もずっしり、いい木材が使われていた。
重量感のある扉は全身で押さないとしっかりは開いてくれない。

ということでようやく開けることができた扉から、スノーと一緒に中へ入った瞬間。

あんなに重かった扉がパタリと閉まり、そして。

背中からふわりと抱きしめられていた。

「……!」

抱きしめられる瞬間はふわりだったのに。
私の体がその胸にしっかり収まった瞬間、両腕に力が込められた。すると背中にその存在が強く感じられ、心臓がドキドキし始める。胸の前でクロスされている手を見ると、黒いシャツが見える。

「アズレーク!?」

てっきり魔術師レオナルドの姿でこの部屋にいると思ったので、驚いてしまう。

「……!」

返事の代わりなのか。
アズレークの唇が私の首筋に優しく触れた。
抱きしめられた瞬間、ドキッとしたが。
その比ではないほど、心臓がドキドキしている。

「アズレークさま! 今日は魔術師レオナルドのお姿ではないのですね!」

スノーの声にアズレークの唇は首筋から離れたが。
ドキドキが静まることはない。
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