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【視点更新】
アルベルトの心境(1)「69:どうする、どうする、どうする……!?」
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魔術師レオナルド。
ガレシア王国の王宮付きの魔術師で、この国で一番強い魔力を持ち、様々な魔法を使える。魔術師ではあるが、剣術もたしなんでいる。そしてその腕は、三騎士であり、剣の騎士ミゲルとも互角に渡り合うことが出来た。
普段、彼と接点を持つことはなかった。
魔術師レオナルドは、会えばとても優雅にしている。余裕たっぷりに微笑み、美しい仕草で紅茶を口に運ぶ。彼だったら、目の前に百万の軍勢が迫っても、動じることがないだろうと思ったが。
わたしがカロリーナから呪いをかけられたと知った時。一瞬、口元が歪んだ。
それはほんのわずかのこと。
だがそれで十分だった。
魔術師レオナルドは心底怒っている。そして本気になった。わたしの呪いを解くために。
「カロリーナが王太子さまにかけた『呪い』は、実に厄介です。『呪い』というのは、解く際、かけた時と同じ条件が必要だと言われています。カロリーナは王太子さまを憎みつつも、愛しているという矛盾をはらんだ気持ちで、この『呪い』をかけました。ですからこの『呪い』は、王太子さまが愛する人、もしくは、王太子さまを愛する人が、王太子さまを殺そうとすることで、解くができるのです」
わたしにかけられた呪いを確認した魔術師レオナルドは、あっさりその呪いがどんなものであるかを明かした。その一方で、呪いを解くのが厄介なものであると、わたしに打ち明ける。
「王太子さま。お気持ちを隠さずに、教えてください。呪いを解くために必要なことだからです。愛する方はいらっしゃいますか? 心から愛した女性の名を、教えてください」
魔術師レオナルドからそう問われた時。
答えを口にすることが躊躇われた。
常に行動を共にする三騎士にさえ、明かしていない。
わたしが心から愛する女性の名を。
その名を明かしたら……わたしは頭がおかしいと思われかねない。
彼女は王都から消えた。
彼女自らが望み、消えたわけではない。
わたしと父である国王の決断により、この王都から消えることになった。
パトリシア・デ・ラ・ベラスケス。
ベラスケス公爵の令嬢であり、彼女のことは幼い頃より知っている。
パトリシアとカロリーナとわたし。
この三人は幼馴染みでもある。
そして、パトリシアとカロリーナはライバルだった。
わたしの婚約者になるために、二人は競い合っていた。
カロリーナの家もまた公爵家。そう、ドルレアン公爵の令嬢であった。
同じ、公爵家同士。
家柄は同格、そして親同士は政治の舞台でライバル。
パトリシアとカロリーナは恋の火花を散らし、親同士は政治ゲームで競い、そして勝敗がついた。
ドルレアン公爵は腹黒い人間だった。
ベラスケス公爵にやってもいない横領の罪をきせ、その信用を失墜させた。それだけでは収まらなかった。両家は長年に渡り、競い続けることで、修復不可能なまでの犬猿の仲になっていた。潰すなら、徹底的に。つまり、ドルレアン公爵はベラスケス公爵の一族郎党そのすべてを、断頭台送りにするつもりでいた。
それはあまりにもひどい。だが今、ドルレアン公爵はとんでもないほど力をつけている。排除するには証拠を集め、一気に叩き潰さないといけない。だがそれはすぐに対処できることではなかった。
その結果。
ベラスケス公爵は爵位剥奪、一家は離散し、パトリシアは王都から消えた。
自分の手で不幸のどん底へ追いやった女性のことを愛しているなんて。
とても誰かに言えることではない。
だが。
呪いを解くため、という建前の元、もう一度パトリシアに会えるなら。
恥を忍び、打ち明けることにした。魔術師レオナルドに。パトリシアのことを。
魔術師レオナルドはパトリシアの名を聞くと、すぐに旅立った。
蹄鉄を模したペンダントを残して。
このペンダントは呪いを解くことはできないが、抑えることはできる。呪いにより、徐々にわたしの体には、不調が起きるという。その不調が最大限出る状態は、このペンダントで防げるというのだ。パトリシアが見つかるまでの間、カロリーナにバレないよう、これを秘かにつけておくようにと言われた。
そのペンダントをつけた時にはまだ、そこまで呪いの力を感じていなかったが……。次第に不調が出るようになった。
最大限の呪いの影響は、魔術師レオナルドの魔法が込められたペンダントにより出ることはない。
本当にそうだろうか? わたしの魔力は信じられないほど弱まり、全身が重く、自分でも感じるのだが、覇気がなくなった。そんなわたしの様子を見て、カロリーナとドルレアン公爵は冷たい笑みを浮かべている。
パトリシア……。
君に会いたい。
君に会い、君に想いを告げ、やり直したい。
呪いの不調を紛らわすのは、思い出の中のパトリシアの笑顔だけだった。
ガレシア王国の王宮付きの魔術師で、この国で一番強い魔力を持ち、様々な魔法を使える。魔術師ではあるが、剣術もたしなんでいる。そしてその腕は、三騎士であり、剣の騎士ミゲルとも互角に渡り合うことが出来た。
普段、彼と接点を持つことはなかった。
魔術師レオナルドは、会えばとても優雅にしている。余裕たっぷりに微笑み、美しい仕草で紅茶を口に運ぶ。彼だったら、目の前に百万の軍勢が迫っても、動じることがないだろうと思ったが。
わたしがカロリーナから呪いをかけられたと知った時。一瞬、口元が歪んだ。
それはほんのわずかのこと。
だがそれで十分だった。
魔術師レオナルドは心底怒っている。そして本気になった。わたしの呪いを解くために。
「カロリーナが王太子さまにかけた『呪い』は、実に厄介です。『呪い』というのは、解く際、かけた時と同じ条件が必要だと言われています。カロリーナは王太子さまを憎みつつも、愛しているという矛盾をはらんだ気持ちで、この『呪い』をかけました。ですからこの『呪い』は、王太子さまが愛する人、もしくは、王太子さまを愛する人が、王太子さまを殺そうとすることで、解くができるのです」
わたしにかけられた呪いを確認した魔術師レオナルドは、あっさりその呪いがどんなものであるかを明かした。その一方で、呪いを解くのが厄介なものであると、わたしに打ち明ける。
「王太子さま。お気持ちを隠さずに、教えてください。呪いを解くために必要なことだからです。愛する方はいらっしゃいますか? 心から愛した女性の名を、教えてください」
魔術師レオナルドからそう問われた時。
答えを口にすることが躊躇われた。
常に行動を共にする三騎士にさえ、明かしていない。
わたしが心から愛する女性の名を。
その名を明かしたら……わたしは頭がおかしいと思われかねない。
彼女は王都から消えた。
彼女自らが望み、消えたわけではない。
わたしと父である国王の決断により、この王都から消えることになった。
パトリシア・デ・ラ・ベラスケス。
ベラスケス公爵の令嬢であり、彼女のことは幼い頃より知っている。
パトリシアとカロリーナとわたし。
この三人は幼馴染みでもある。
そして、パトリシアとカロリーナはライバルだった。
わたしの婚約者になるために、二人は競い合っていた。
カロリーナの家もまた公爵家。そう、ドルレアン公爵の令嬢であった。
同じ、公爵家同士。
家柄は同格、そして親同士は政治の舞台でライバル。
パトリシアとカロリーナは恋の火花を散らし、親同士は政治ゲームで競い、そして勝敗がついた。
ドルレアン公爵は腹黒い人間だった。
ベラスケス公爵にやってもいない横領の罪をきせ、その信用を失墜させた。それだけでは収まらなかった。両家は長年に渡り、競い続けることで、修復不可能なまでの犬猿の仲になっていた。潰すなら、徹底的に。つまり、ドルレアン公爵はベラスケス公爵の一族郎党そのすべてを、断頭台送りにするつもりでいた。
それはあまりにもひどい。だが今、ドルレアン公爵はとんでもないほど力をつけている。排除するには証拠を集め、一気に叩き潰さないといけない。だがそれはすぐに対処できることではなかった。
その結果。
ベラスケス公爵は爵位剥奪、一家は離散し、パトリシアは王都から消えた。
自分の手で不幸のどん底へ追いやった女性のことを愛しているなんて。
とても誰かに言えることではない。
だが。
呪いを解くため、という建前の元、もう一度パトリシアに会えるなら。
恥を忍び、打ち明けることにした。魔術師レオナルドに。パトリシアのことを。
魔術師レオナルドはパトリシアの名を聞くと、すぐに旅立った。
蹄鉄を模したペンダントを残して。
このペンダントは呪いを解くことはできないが、抑えることはできる。呪いにより、徐々にわたしの体には、不調が起きるという。その不調が最大限出る状態は、このペンダントで防げるというのだ。パトリシアが見つかるまでの間、カロリーナにバレないよう、これを秘かにつけておくようにと言われた。
そのペンダントをつけた時にはまだ、そこまで呪いの力を感じていなかったが……。次第に不調が出るようになった。
最大限の呪いの影響は、魔術師レオナルドの魔法が込められたペンダントにより出ることはない。
本当にそうだろうか? わたしの魔力は信じられないほど弱まり、全身が重く、自分でも感じるのだが、覇気がなくなった。そんなわたしの様子を見て、カロリーナとドルレアン公爵は冷たい笑みを浮かべている。
パトリシア……。
君に会いたい。
君に会い、君に想いを告げ、やり直したい。
呪いの不調を紛らわすのは、思い出の中のパトリシアの笑顔だけだった。
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