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90:ここでパニックを起こしてはいけない
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樽ごとどこかへ運ばれていると分かったが、どうすることもできない。
ただ、声は聞こえるので、男達の会話に耳をそばだてる。
「まったく。あの三人を始末したところで、もはやドルレアン家はお終いだ。何の意味があるのか」
「まあ、金さえ手に入れば、意味なんて関係ない」
「思うに、あの三人の始末がおまけで、こっちの方がメインなんじゃないか?」
ドルレアン家……。
ここでこの名を聞くことになるとは。
この期に及んでまだ、悪あがきをしていたのか。
「まあ、そうだろうな。ドルレアン家の娘は、この樽の中の娘と、王太子の婚約者の座を争っていた。だから始末した騎士より、この娘への恨みの方が、強いのだろうな」
「なるほど。そうなると、ただ殺すのでは勿体ないな。婚約者になるために、相当磨き込んだはずだ。普通なら手が届かない、上玉の元公爵家の令嬢だ。しかも王太子の婚約者に返り咲くという噂がある。つまり手垢はついていないと」
「我々は殺しが専門。だが、その美しい花を摘んでも構わないと、言われている。男を知らないお嬢さんを、好きにしていいと。そう言われたらな。どうせ後で始末する。たっぷり可愛がってやろう」
とんでもない会話を聞いてしまった。
そしてドルレアン家が出した指示が、とても卑劣であると理解する。
表向きは、ドルレアン家の息がかかっている騎士を、口封じで始末しろ。ついでにベラスケス家の令嬢を好きにした後、闇に葬れと。
でも本当はこの下衆な男達の言う通り、私を貶め、始末するがメインなのだろう。
どうしてこんなヒドイことができる?
これではカロリーナが、悪役令嬢なのでは?
これからとんでもない目に遭うと分かっていたが、私の腹は据わっていた。
なぜなら。
魔法が使えると、判明したからだ。
難しい魔法は、無理だろう。
でもこれまでやることができた魔法なら。
例えばゴーストに向けて放った光。
あの光を、直接目を狙って放てば、動きを封じることができるはず。
大丈夫。
ここでパニックを起こしてはいけない。
そう分かっていたが。
体は小刻みに震えている。
大丈夫だから。落ち着いて、私。
ガンッ。
ガンッ、ガン、ガンッ。
突然の音に驚いていると、木くずが落ちてきて、唐突に光が差し込む。
目が眩んで固まっていると。
「おい、おい、おい。こいつ、起きてやがるぞ?」
「何? 眠りの香りをかがせたんだぞ」
「信じられないな。まあ、いい。起こす手間が省けた」
そんなことを口々に言っている間にも、樽が揺れる。ようやく目が慣れてきたのに、今度は焦点があわないと思ったら。
樽が倒れ、床に転がり出た。
なんて乱暴なのだろう。
樽がどかされ、三人の男達の姿が目に入る。
その姿に恐怖で鳥肌が立つ。
三人とも屈強な体をしている。
まるでレスラーのようだ。
腕力ではまず100%敵わない相手だと分かる。
しかも三人とも髭を蓄え、そのせいで威圧感がある。
「そういえば、ハコブとホエルは? フリアンもまだ来ないのか?」
「確かに何しているんだ? 俺達はこの樽を運んでいたが、奴らは手ぶらだろう?」
男の一人がドアに向かい、そして振り返る。
「おい、お前ら二人だけで、先に始めるなよ」
「だが、六人で同時は無理だろう。先に始めてもいいだろうが」
「誰が一番かは、全員揃ってから決める」
そう捨て台詞を言うと、男は部屋を出た。
部屋から一人減った。
だからといって、この二人の男にかなう気は……全くしない。
でも魔法を使えれば、まだチャンスはある。
布を外したくて、口を動かそうとすると。
「おい、何をしようとしている?」
男の腕が伸びてきて、首を掴まれた。
恐怖で全身がすくみ、悲鳴をあげることすらできない。
濁った魚のような目で見られ、血の気が引きそうになる。
「しかし、確かにこれは上玉だ」
ガウンは羽織っていない。
薄手の綿で作られた、白いネグリジェしか着ていない。
男がゴクリと息を飲む。
全身に悪寒が走る。
「なあ、俺達二人で先に始めようぜ」
そばに立つ男に目配せすると。
「そうだな。早い者勝ちだ」
もう一人の男も近づいてきた。
そのまま首をつかまれ、床に押し倒された瞬間。
魔法を唱えることもできず、身動きも取れず、もうダメだと絶望した。
脳裏にアズレークの顔が浮かんだ。
おへその下あたりが、とんでもなく熱く感じる。
助けて……。
ただ、声は聞こえるので、男達の会話に耳をそばだてる。
「まったく。あの三人を始末したところで、もはやドルレアン家はお終いだ。何の意味があるのか」
「まあ、金さえ手に入れば、意味なんて関係ない」
「思うに、あの三人の始末がおまけで、こっちの方がメインなんじゃないか?」
ドルレアン家……。
ここでこの名を聞くことになるとは。
この期に及んでまだ、悪あがきをしていたのか。
「まあ、そうだろうな。ドルレアン家の娘は、この樽の中の娘と、王太子の婚約者の座を争っていた。だから始末した騎士より、この娘への恨みの方が、強いのだろうな」
「なるほど。そうなると、ただ殺すのでは勿体ないな。婚約者になるために、相当磨き込んだはずだ。普通なら手が届かない、上玉の元公爵家の令嬢だ。しかも王太子の婚約者に返り咲くという噂がある。つまり手垢はついていないと」
「我々は殺しが専門。だが、その美しい花を摘んでも構わないと、言われている。男を知らないお嬢さんを、好きにしていいと。そう言われたらな。どうせ後で始末する。たっぷり可愛がってやろう」
とんでもない会話を聞いてしまった。
そしてドルレアン家が出した指示が、とても卑劣であると理解する。
表向きは、ドルレアン家の息がかかっている騎士を、口封じで始末しろ。ついでにベラスケス家の令嬢を好きにした後、闇に葬れと。
でも本当はこの下衆な男達の言う通り、私を貶め、始末するがメインなのだろう。
どうしてこんなヒドイことができる?
これではカロリーナが、悪役令嬢なのでは?
これからとんでもない目に遭うと分かっていたが、私の腹は据わっていた。
なぜなら。
魔法が使えると、判明したからだ。
難しい魔法は、無理だろう。
でもこれまでやることができた魔法なら。
例えばゴーストに向けて放った光。
あの光を、直接目を狙って放てば、動きを封じることができるはず。
大丈夫。
ここでパニックを起こしてはいけない。
そう分かっていたが。
体は小刻みに震えている。
大丈夫だから。落ち着いて、私。
ガンッ。
ガンッ、ガン、ガンッ。
突然の音に驚いていると、木くずが落ちてきて、唐突に光が差し込む。
目が眩んで固まっていると。
「おい、おい、おい。こいつ、起きてやがるぞ?」
「何? 眠りの香りをかがせたんだぞ」
「信じられないな。まあ、いい。起こす手間が省けた」
そんなことを口々に言っている間にも、樽が揺れる。ようやく目が慣れてきたのに、今度は焦点があわないと思ったら。
樽が倒れ、床に転がり出た。
なんて乱暴なのだろう。
樽がどかされ、三人の男達の姿が目に入る。
その姿に恐怖で鳥肌が立つ。
三人とも屈強な体をしている。
まるでレスラーのようだ。
腕力ではまず100%敵わない相手だと分かる。
しかも三人とも髭を蓄え、そのせいで威圧感がある。
「そういえば、ハコブとホエルは? フリアンもまだ来ないのか?」
「確かに何しているんだ? 俺達はこの樽を運んでいたが、奴らは手ぶらだろう?」
男の一人がドアに向かい、そして振り返る。
「おい、お前ら二人だけで、先に始めるなよ」
「だが、六人で同時は無理だろう。先に始めてもいいだろうが」
「誰が一番かは、全員揃ってから決める」
そう捨て台詞を言うと、男は部屋を出た。
部屋から一人減った。
だからといって、この二人の男にかなう気は……全くしない。
でも魔法を使えれば、まだチャンスはある。
布を外したくて、口を動かそうとすると。
「おい、何をしようとしている?」
男の腕が伸びてきて、首を掴まれた。
恐怖で全身がすくみ、悲鳴をあげることすらできない。
濁った魚のような目で見られ、血の気が引きそうになる。
「しかし、確かにこれは上玉だ」
ガウンは羽織っていない。
薄手の綿で作られた、白いネグリジェしか着ていない。
男がゴクリと息を飲む。
全身に悪寒が走る。
「なあ、俺達二人で先に始めようぜ」
そばに立つ男に目配せすると。
「そうだな。早い者勝ちだ」
もう一人の男も近づいてきた。
そのまま首をつかまれ、床に押し倒された瞬間。
魔法を唱えることもできず、身動きも取れず、もうダメだと絶望した。
脳裏にアズレークの顔が浮かんだ。
おへその下あたりが、とんでもなく熱く感じる。
助けて……。
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