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第41話:路③
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背をかがめて螺旋階段を登ると、鉄を組んだ足場に出た。すぐ近くに壁があり、逆側を見れば足場の端らしい手すりの向こうに上から下がっているステージの垂れ幕が見えた。舞台脇の上空の足場らしい。
上階の足場や舞台天井からきらびやかな幕や飾りが下がって足場の上やその向こうのステージ側に下りているのが目につく。足場はベニヤや上から下がった幕が広がって散らばっている。
燃え広がるのを防ぐため階段から可燃物を離そうと振り返ったその時、
強くはぜる音と共に火が階段口から吹き上がった。
諦めて、散らばるベニヤや幕を踏みつけステージ側を見下ろせる足場の端へと急ぐ。
生徒はよろよろ、やっと歩くような様子だが支えた体から咳き込んだり苦しい呼吸の様子は感じられず、煙は吸わなかったらしいと安心した。
と思った途端、生徒が金魚と水草を模したド派手な幕に足をとられ転びかける。とっさに体を引き寄せてとどまらせ、再び早歩きで足場の端の手すりに着いた。
生徒会長に連絡しようとしたところで上空から何かが降りてきた。
バトンだ。
ステージ上に垂れ幕などを下げるためにステージの横方向に水平に吊り下げられた上下動できるバーだ。
スッと降りてきたそれは膝のあたりで留まった。
見れば7つ、観客席側の方向からステージ奥方向へ30センチ程度の間隔を空け並んでいる。
一番観客席寄りのバトンにだけ垂れ幕がついており、黒の布地が吊り下げられていた。他のものには雲の飾りの縫い付けられた細長い布や、星の飾りなどが下がっている。
「そのバトンに乗って降りてこい!」
ポケットのスマホからのものと直接の声が二重になって聞こえた。
手すりから身を乗り出し下を見るとこちらと反対側の舞台のすそに生徒会長が居るのが見えた。制御盤らしきものに手をやっている。
ステージの上にはマットが敷いてあった。
机や椅子などを土台にして宙に浮かせるように置かれている。
窓に火が回ったと告げてからの間でこれが用意できるはずがない、その可能性を考えて先回りしていたようだ。
生徒会長が合図をするように手を振った。
「そいつに横ばいになって乗れ!
乗ったら下に降ろすからな!
そいつは耐加重が1トンあるし、この間お前らより重いものを吊って動かしたから動作に問題はねえ!
乗り終わったら合図しろ!」
そういう手か…!
火災時に電動のもので逃げるのは危険だが、これなら確かに他の手段より早く地上に着くだろう。綱で降りるのも今の状況では悠長だ。
もちろんここからマットに飛び降りるのが一番早いが、ステージまで4階程度の高さがあるのでそれは最終手段。
バトンが途中で止まったとしても下降した分だけ地面に近くなるのだからそこから飛び降りればよい。
選んでいる時間も無い…!
「聞こえたか?バトンに乗って降りるぞ」
生徒の両肩を掴んで告げると、小さくうなずいた。
それをみてから被っていたヘルメットを外し生徒に被せた。
驚いたように目を見張る生徒に背を向けてバトンが横づけされた足場の端、手すりが切れている箇所に体をかがめてバトンへと手を伸ばす。
バトンを吊りさげているワイヤーは二メートル程度の間隔で取り付けられている、一番端にもワイヤーが掛かっているためそれを避けて隙間からバトンに乗りうつった。
耐加重が1トンある上に5本程度のバトンに体がかかるので負荷は分散されるとはいえ、一番端に二人乗るのは避けたいのでバトン中央方向へと伏せたまま進む。
生徒はバトン上を余り移動できないだろうし、俺も生徒に手が届く距離に居る必要があるからそんなに端から離れられるわけではないが、多少でも離れておきたい。
ワイヤーのある箇所まで横ばいで進み、そこで留まった。
先ほどと違い足場がバトンなのでワイヤーをくぐるのが難しい、生徒にできるとは思えないのでここまでだ。
上手くバランスをとらないと、バトンが体に対して前後に広がりそうになるので、手と足でバトンを抑えながら生徒の方へ顔を向ける。
「俺と同じ姿勢をとって乗るんだ、できれば俺のところまで来てくれ。無理そうなら端に居たままでいい」
生徒はバトンのワイヤーに取り付いた。俺はバランスをとって真ん中のバトンの間を少し開けるようにして、そこを通るよう伝えた。
苦戦して生徒がくぐろうとする、そのたびゆれるので、力をこめて体を支える。
生徒の後方、俺たちの登ってきた階段口からあがる煙の束が太くなり、周りの可燃物に引火したのが見えた。
「床のものに引火した始めたぞ、急げ! ……だが絶対に焦るなよ」
焦燥を感じつつもここは待つしかないと生徒を見ていたが、数十秒程度で乗り終えてくれた。
腹ばいになってそのままこちらに近づいてきたので、手が届くようになった時点で服を掴む。近くまで来たところで背中から手を回して向こう側のバトンを掴み、生徒の体を上から抑えた。
「よくやった、バトンに均等に体をつけろ」
びく、と生徒の体が震えるが構わず体を押さえつける。
「乗り終わったぞ!降ろしてくれ!」
「いくぞ!」
上階の足場や舞台天井からきらびやかな幕や飾りが下がって足場の上やその向こうのステージ側に下りているのが目につく。足場はベニヤや上から下がった幕が広がって散らばっている。
燃え広がるのを防ぐため階段から可燃物を離そうと振り返ったその時、
強くはぜる音と共に火が階段口から吹き上がった。
諦めて、散らばるベニヤや幕を踏みつけステージ側を見下ろせる足場の端へと急ぐ。
生徒はよろよろ、やっと歩くような様子だが支えた体から咳き込んだり苦しい呼吸の様子は感じられず、煙は吸わなかったらしいと安心した。
と思った途端、生徒が金魚と水草を模したド派手な幕に足をとられ転びかける。とっさに体を引き寄せてとどまらせ、再び早歩きで足場の端の手すりに着いた。
生徒会長に連絡しようとしたところで上空から何かが降りてきた。
バトンだ。
ステージ上に垂れ幕などを下げるためにステージの横方向に水平に吊り下げられた上下動できるバーだ。
スッと降りてきたそれは膝のあたりで留まった。
見れば7つ、観客席側の方向からステージ奥方向へ30センチ程度の間隔を空け並んでいる。
一番観客席寄りのバトンにだけ垂れ幕がついており、黒の布地が吊り下げられていた。他のものには雲の飾りの縫い付けられた細長い布や、星の飾りなどが下がっている。
「そのバトンに乗って降りてこい!」
ポケットのスマホからのものと直接の声が二重になって聞こえた。
手すりから身を乗り出し下を見るとこちらと反対側の舞台のすそに生徒会長が居るのが見えた。制御盤らしきものに手をやっている。
ステージの上にはマットが敷いてあった。
机や椅子などを土台にして宙に浮かせるように置かれている。
窓に火が回ったと告げてからの間でこれが用意できるはずがない、その可能性を考えて先回りしていたようだ。
生徒会長が合図をするように手を振った。
「そいつに横ばいになって乗れ!
乗ったら下に降ろすからな!
そいつは耐加重が1トンあるし、この間お前らより重いものを吊って動かしたから動作に問題はねえ!
乗り終わったら合図しろ!」
そういう手か…!
火災時に電動のもので逃げるのは危険だが、これなら確かに他の手段より早く地上に着くだろう。綱で降りるのも今の状況では悠長だ。
もちろんここからマットに飛び降りるのが一番早いが、ステージまで4階程度の高さがあるのでそれは最終手段。
バトンが途中で止まったとしても下降した分だけ地面に近くなるのだからそこから飛び降りればよい。
選んでいる時間も無い…!
「聞こえたか?バトンに乗って降りるぞ」
生徒の両肩を掴んで告げると、小さくうなずいた。
それをみてから被っていたヘルメットを外し生徒に被せた。
驚いたように目を見張る生徒に背を向けてバトンが横づけされた足場の端、手すりが切れている箇所に体をかがめてバトンへと手を伸ばす。
バトンを吊りさげているワイヤーは二メートル程度の間隔で取り付けられている、一番端にもワイヤーが掛かっているためそれを避けて隙間からバトンに乗りうつった。
耐加重が1トンある上に5本程度のバトンに体がかかるので負荷は分散されるとはいえ、一番端に二人乗るのは避けたいのでバトン中央方向へと伏せたまま進む。
生徒はバトン上を余り移動できないだろうし、俺も生徒に手が届く距離に居る必要があるからそんなに端から離れられるわけではないが、多少でも離れておきたい。
ワイヤーのある箇所まで横ばいで進み、そこで留まった。
先ほどと違い足場がバトンなのでワイヤーをくぐるのが難しい、生徒にできるとは思えないのでここまでだ。
上手くバランスをとらないと、バトンが体に対して前後に広がりそうになるので、手と足でバトンを抑えながら生徒の方へ顔を向ける。
「俺と同じ姿勢をとって乗るんだ、できれば俺のところまで来てくれ。無理そうなら端に居たままでいい」
生徒はバトンのワイヤーに取り付いた。俺はバランスをとって真ん中のバトンの間を少し開けるようにして、そこを通るよう伝えた。
苦戦して生徒がくぐろうとする、そのたびゆれるので、力をこめて体を支える。
生徒の後方、俺たちの登ってきた階段口からあがる煙の束が太くなり、周りの可燃物に引火したのが見えた。
「床のものに引火した始めたぞ、急げ! ……だが絶対に焦るなよ」
焦燥を感じつつもここは待つしかないと生徒を見ていたが、数十秒程度で乗り終えてくれた。
腹ばいになってそのままこちらに近づいてきたので、手が届くようになった時点で服を掴む。近くまで来たところで背中から手を回して向こう側のバトンを掴み、生徒の体を上から抑えた。
「よくやった、バトンに均等に体をつけろ」
びく、と生徒の体が震えるが構わず体を押さえつける。
「乗り終わったぞ!降ろしてくれ!」
「いくぞ!」
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