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第37話:火の手
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(話の展開を変えたため、それに伴い前話の終り10行程度も修正しています。
合わせてお読みください)
これは……!
生徒が使っていた火が燃え広がったのか?それで隣の部屋に逃げ込み倒れたか。
ノブを回してもドアはびくともしない。積まれたステージ台やらその上の棚がつかえているようだ
ドアを蹴やぶろうと体を引いたその途端、けたたましい音が鳴り響き、一瞬すくむ。非常ベルだ。
つんざくような音の中で体勢を立て直しドアを蹴りこんだ。
木のドアはへこみ、めり込んでバキバキと音を立てるも、そのすぐ向こうに積まれたステージ台の壁がよほど重いのか、ドアは壊れたままドア枠に張り付いてしまった。
ノブを引いてもドア枠に引っかかり、こちら側にはがすことも出来ない。
ならば……、
「起きろ!おい、起きろ!」
ともかく起こそうとドアの破れから室内に叫んだが、生徒はピクリとも動かない。
クソ、ここからではらちがあかない。
右手を向くと、壁があった。
先ほど呪いの儀式があった部屋から飛び出して将棋倒しになったらしいガラクタが、うず高く重なって廊下の真ん中に天井までの壁を作っていた。
押しても、引いてもどうにもならない。
飛び出した板材やらポールやらを小さくうごかすことは出来るが、廊下をまたいで倒れ階段方面にある棚に噛んだ長いポールを芯にして複雑な動力機構のようにガラクタがかみ合い、人一人通れる隙間を空けることが出来なかった。
俺の側からは完全に廊下をふさがれている、火元の部屋にも上ってきた階段にも行けない。
束ねた木材とそれにかぶさった布の隙間から透かし見ると、生徒会長と、高田がポールの下で床に伸びているのが見えた。
駄目だ、ともかく通報だ。
第一報は火災報知機から伝わっているだろうが、詳細を伝えるべく無線機を取り出しスイッチを入れる。
「……こちら、恐川です。
火災が発生しました。
火元は旧校舎大講堂、舞台左袖3階の螺旋階段横の控え室です。
生徒が三名、火元近くの部屋で意識を失っており逃げ遅れています。
発見時に火はすでに天井に達していて初期消火は出来ませんでした。
消防、救急への連絡をお願いします」
すでに電話口の向こうでやり取りされていたらしい消防との連絡通話に、俺の報告の内容が乗せられていくのが聞こえる。その合間合間に更に詳細な状況を報告した。
報告しながら廊下突き当たりの窓を開けて下を覗く。
窓から地上に樋が降りている。俺だけなら伝ってすぐに逃げられそうだ。
「ただちにそちらに向かう。とにかくすぐそこから離れてくれ!
もし講堂内とその付近に他の生徒が居るようなら連絡して避難させてくれ」
「おい」
無線を切ると同時に、背後から声が掛かった。
生徒会長が瓦礫の隙間から目を覗かせている。
無事だったか。…良かった。
「お前、怪我は」
「ねえよ。それより状況だ。
さっき報告してた事以外に何かねえのか」
先ほどの報告を聞いていたようだ。
「……俺とお前の間にあるその瓦礫の壁だが、押しても引いてもビクともしない。俺はそっちに行けないんだ」
瓦礫の隙間から眉をひそめるのが見えた。
「じゃお前、そっから出られないのか!?」
「いや、俺はそこの窓から樋を伝って逃げられそうだから問題ない。
それよりも高田を連れてすぐ避難してくれないか」
生徒会長たちが居る側は登ってきた階段のある道に通じている。
この二人を逃がせば後は一人だけだ。
「分かった」
生徒会長は短く応えるや高田を担ぎ上げすぐ階下へ消えた。
下っていく足音を背に聞きながら、また階段の部屋の窓に張り付いて室内を覗く。
火元の部屋の天井まで火が達している場合、もう初期消火はできない。木造ならそこから燃え広がるのはあっという間だ。
昔起こった木造デパート火災の折に1つの階全てに火が拡がるのに掛かった時間は15分以内だったと聞いたことがある。
山間部なので遅れるかもしれない消防車の到着も先生の応援も待つことは出来ない。とにかく、すぐ生徒を助ける手段を探さねば。
目を皿にして室内を覗いているうちに、先ほど見えていた火の影が無いことに気がついた。
……これは。
もしや、もう火元の部屋の酸素を燃やし尽くしたのか?
螺旋階段の部屋の右側にある、火元の部屋に通じるドアは閉じている。
火元の部屋のもう一つのドア―――俺達が通ったドアは、先ほど廊下のガラクタ壁越しに見たときは閉まっていたようだった。
つまりあの部屋は閉め切られている。
火は、閉め切られた部屋で酸素を舐め尽くすと燃焼が緩やかになる。その状態を一定時間保った後にドアや窓などを開けると、急速に流れ込んだ酸素によって爆発的に火災が広がる―――バックドラフトとして知られている現象だ。
ドアを開けずとも、壁材が燃えて穴が開いたりすれば発生するかもしれない。
もう一刻の猶予もない、と更に集中してドアの窓から室内を見回す。 と、螺旋階段の向こうに窓があるのが目に入った。
室の左側の窓はどれも鉄格子で閉じられているが、奥の窓は鉄格子が無いのだ。
もっとよく見ようと覗き込んだ時、階下から物音が響いた。
それは通路をふさぐ瓦礫の壁の前で止まった。……生徒会長だった。
合わせてお読みください)
これは……!
生徒が使っていた火が燃え広がったのか?それで隣の部屋に逃げ込み倒れたか。
ノブを回してもドアはびくともしない。積まれたステージ台やらその上の棚がつかえているようだ
ドアを蹴やぶろうと体を引いたその途端、けたたましい音が鳴り響き、一瞬すくむ。非常ベルだ。
つんざくような音の中で体勢を立て直しドアを蹴りこんだ。
木のドアはへこみ、めり込んでバキバキと音を立てるも、そのすぐ向こうに積まれたステージ台の壁がよほど重いのか、ドアは壊れたままドア枠に張り付いてしまった。
ノブを引いてもドア枠に引っかかり、こちら側にはがすことも出来ない。
ならば……、
「起きろ!おい、起きろ!」
ともかく起こそうとドアの破れから室内に叫んだが、生徒はピクリとも動かない。
クソ、ここからではらちがあかない。
右手を向くと、壁があった。
先ほど呪いの儀式があった部屋から飛び出して将棋倒しになったらしいガラクタが、うず高く重なって廊下の真ん中に天井までの壁を作っていた。
押しても、引いてもどうにもならない。
飛び出した板材やらポールやらを小さくうごかすことは出来るが、廊下をまたいで倒れ階段方面にある棚に噛んだ長いポールを芯にして複雑な動力機構のようにガラクタがかみ合い、人一人通れる隙間を空けることが出来なかった。
俺の側からは完全に廊下をふさがれている、火元の部屋にも上ってきた階段にも行けない。
束ねた木材とそれにかぶさった布の隙間から透かし見ると、生徒会長と、高田がポールの下で床に伸びているのが見えた。
駄目だ、ともかく通報だ。
第一報は火災報知機から伝わっているだろうが、詳細を伝えるべく無線機を取り出しスイッチを入れる。
「……こちら、恐川です。
火災が発生しました。
火元は旧校舎大講堂、舞台左袖3階の螺旋階段横の控え室です。
生徒が三名、火元近くの部屋で意識を失っており逃げ遅れています。
発見時に火はすでに天井に達していて初期消火は出来ませんでした。
消防、救急への連絡をお願いします」
すでに電話口の向こうでやり取りされていたらしい消防との連絡通話に、俺の報告の内容が乗せられていくのが聞こえる。その合間合間に更に詳細な状況を報告した。
報告しながら廊下突き当たりの窓を開けて下を覗く。
窓から地上に樋が降りている。俺だけなら伝ってすぐに逃げられそうだ。
「ただちにそちらに向かう。とにかくすぐそこから離れてくれ!
もし講堂内とその付近に他の生徒が居るようなら連絡して避難させてくれ」
「おい」
無線を切ると同時に、背後から声が掛かった。
生徒会長が瓦礫の隙間から目を覗かせている。
無事だったか。…良かった。
「お前、怪我は」
「ねえよ。それより状況だ。
さっき報告してた事以外に何かねえのか」
先ほどの報告を聞いていたようだ。
「……俺とお前の間にあるその瓦礫の壁だが、押しても引いてもビクともしない。俺はそっちに行けないんだ」
瓦礫の隙間から眉をひそめるのが見えた。
「じゃお前、そっから出られないのか!?」
「いや、俺はそこの窓から樋を伝って逃げられそうだから問題ない。
それよりも高田を連れてすぐ避難してくれないか」
生徒会長たちが居る側は登ってきた階段のある道に通じている。
この二人を逃がせば後は一人だけだ。
「分かった」
生徒会長は短く応えるや高田を担ぎ上げすぐ階下へ消えた。
下っていく足音を背に聞きながら、また階段の部屋の窓に張り付いて室内を覗く。
火元の部屋の天井まで火が達している場合、もう初期消火はできない。木造ならそこから燃え広がるのはあっという間だ。
昔起こった木造デパート火災の折に1つの階全てに火が拡がるのに掛かった時間は15分以内だったと聞いたことがある。
山間部なので遅れるかもしれない消防車の到着も先生の応援も待つことは出来ない。とにかく、すぐ生徒を助ける手段を探さねば。
目を皿にして室内を覗いているうちに、先ほど見えていた火の影が無いことに気がついた。
……これは。
もしや、もう火元の部屋の酸素を燃やし尽くしたのか?
螺旋階段の部屋の右側にある、火元の部屋に通じるドアは閉じている。
火元の部屋のもう一つのドア―――俺達が通ったドアは、先ほど廊下のガラクタ壁越しに見たときは閉まっていたようだった。
つまりあの部屋は閉め切られている。
火は、閉め切られた部屋で酸素を舐め尽くすと燃焼が緩やかになる。その状態を一定時間保った後にドアや窓などを開けると、急速に流れ込んだ酸素によって爆発的に火災が広がる―――バックドラフトとして知られている現象だ。
ドアを開けずとも、壁材が燃えて穴が開いたりすれば発生するかもしれない。
もう一刻の猶予もない、と更に集中してドアの窓から室内を見回す。 と、螺旋階段の向こうに窓があるのが目に入った。
室の左側の窓はどれも鉄格子で閉じられているが、奥の窓は鉄格子が無いのだ。
もっとよく見ようと覗き込んだ時、階下から物音が響いた。
それは通路をふさぐ瓦礫の壁の前で止まった。……生徒会長だった。
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