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第34話:何やつ
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階段の横板から廊下に、背が高く細い制服の人物が姿を現した。
手に小さなバケツを持ち、水を入れて運んでいる。
数歩歩き出してからこちらを見返り、ひどくたじろいだ様子を見せた。
「う、わっ……!?」
生徒は、バケツの水をこぼして叫んだ。
驚愕の表情を見せ、バケツを置きあわてて後ろを見て二歩ほど下がったが、すぐ足を止めた。
逃げようとした、そして無駄だと諦めた。そういう所作に見えた。
怪しい、そして霊には見えない。
「……ここで、何をしている、立ち入り禁止だぞ」
「あ……えっと、その」
「なぜ、旧校舎に入ったんだ」
少しとまどってから、おずおずこちらを見上げて、ようやく口を開く。
「あの、僕……歴史研究会のものです。
おととい旧校舎に入れてもらって古い建築資料と郷土研究資料を借りたんですが、今日レポートの作成中に資料が足りないことに気が付いたんです。
その、もう明日が提出締め切りなんです。
……先生に校舎の鍵開けを頼もうと思ったんですが、その、明日締め切りなのにまだ終わってないって思われるのが、恥ずかしくて……。
それで今日は鍵が開いているって聞いて、資料を取りに来てしまいました、どうもすいません……」
怯えてかすれた声。
ごく普通の地味な生徒、と言った印象。
「その手のバケツは何だ?」
「あの、上の階で雨漏りが起きてて、それでとっさにバケツを置いたんですが、資料を探してる間に一杯になっちゃったんで捨てようとしてました。」
「そうか……事情は分かった、理由はどうあれ旧校舎は許可の無い立ち入りは禁止だ。資料も貸し出し許可が必要だ。
急いでいても手続きはちゃんと踏むように。
とはいってもその資料は早めに必要だな。
本部に連絡し資料を貸し出してくれるか確認して、許可が出たら一緒に取りに行こう。
その時に雨漏りの場所も教えてほしい、報告する必要がある。
今は人を待っているところなので、彼らが戻ってきたら一緒に行こう」
「え、あの、待って下さい。
その、上の部屋に、カバンを置いてきてるんです。ちょっと取ってきますから」
そわそわと、あちこちを見つつそう言う。
「それも後で一緒に取りに行こう。一人で行かないように」
「恐川、そいつはどうしたんだ?」
後ろから生徒会長の声がする。
戻ってきたらしい。
「歴史研究会のレポート用の資料を取りに来たそうだ」
「レポート?」
生徒会長は怪訝そうに眉をひそめる。
「締め切りが近いので資料貸し出し連絡をせず借りに来てしまったらしい。
今日中に必要らしいので、本部に許可を取って見回りのついでに一緒に取りに行こうと思う」
生徒会長の眉間のシワが深くなる。
「……歴史研究会?
レポート発表は先月終わってて当分無いって聞いたぞ。
お前、何しに」
生徒会長が言い終わるのを待たず、生徒は駆け出した。
間髪おかず生徒会長も追いかけて走り出す。
「高田!不審者が出た!先に行くぞ!」
聞こえる程度の距離のはず、言い置いてすぐ彼らの後を追った。
手に小さなバケツを持ち、水を入れて運んでいる。
数歩歩き出してからこちらを見返り、ひどくたじろいだ様子を見せた。
「う、わっ……!?」
生徒は、バケツの水をこぼして叫んだ。
驚愕の表情を見せ、バケツを置きあわてて後ろを見て二歩ほど下がったが、すぐ足を止めた。
逃げようとした、そして無駄だと諦めた。そういう所作に見えた。
怪しい、そして霊には見えない。
「……ここで、何をしている、立ち入り禁止だぞ」
「あ……えっと、その」
「なぜ、旧校舎に入ったんだ」
少しとまどってから、おずおずこちらを見上げて、ようやく口を開く。
「あの、僕……歴史研究会のものです。
おととい旧校舎に入れてもらって古い建築資料と郷土研究資料を借りたんですが、今日レポートの作成中に資料が足りないことに気が付いたんです。
その、もう明日が提出締め切りなんです。
……先生に校舎の鍵開けを頼もうと思ったんですが、その、明日締め切りなのにまだ終わってないって思われるのが、恥ずかしくて……。
それで今日は鍵が開いているって聞いて、資料を取りに来てしまいました、どうもすいません……」
怯えてかすれた声。
ごく普通の地味な生徒、と言った印象。
「その手のバケツは何だ?」
「あの、上の階で雨漏りが起きてて、それでとっさにバケツを置いたんですが、資料を探してる間に一杯になっちゃったんで捨てようとしてました。」
「そうか……事情は分かった、理由はどうあれ旧校舎は許可の無い立ち入りは禁止だ。資料も貸し出し許可が必要だ。
急いでいても手続きはちゃんと踏むように。
とはいってもその資料は早めに必要だな。
本部に連絡し資料を貸し出してくれるか確認して、許可が出たら一緒に取りに行こう。
その時に雨漏りの場所も教えてほしい、報告する必要がある。
今は人を待っているところなので、彼らが戻ってきたら一緒に行こう」
「え、あの、待って下さい。
その、上の部屋に、カバンを置いてきてるんです。ちょっと取ってきますから」
そわそわと、あちこちを見つつそう言う。
「それも後で一緒に取りに行こう。一人で行かないように」
「恐川、そいつはどうしたんだ?」
後ろから生徒会長の声がする。
戻ってきたらしい。
「歴史研究会のレポート用の資料を取りに来たそうだ」
「レポート?」
生徒会長は怪訝そうに眉をひそめる。
「締め切りが近いので資料貸し出し連絡をせず借りに来てしまったらしい。
今日中に必要らしいので、本部に許可を取って見回りのついでに一緒に取りに行こうと思う」
生徒会長の眉間のシワが深くなる。
「……歴史研究会?
レポート発表は先月終わってて当分無いって聞いたぞ。
お前、何しに」
生徒会長が言い終わるのを待たず、生徒は駆け出した。
間髪おかず生徒会長も追いかけて走り出す。
「高田!不審者が出た!先に行くぞ!」
聞こえる程度の距離のはず、言い置いてすぐ彼らの後を追った。
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