BL世界に迷い込んだ人、死を賭し風紀を取り締まる(旧:オリジナルBLでよくある設定の世界に迷い込んだ人の話)

とりのようこ

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第26話:共闘

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 雪崩を打ちこちらへ向かってきた一派の先陣を切った坊主頭の男は細めの角材を振りかぶりうち掛かってくる。
 握りづらそうなそれは雨で滑るのか水の飛沫にけぶる視界でもはっきりと撃ち下ろす筋が見て取れる。
 大振りに振り下ろした右手を右腕で打ち、手を交差させ敵の手と獲物の短く握っている方の先をそれぞれ横から引っつかんで得物を体に巻き込むように横ざまに回転する。
 と、体を捻られた相手はそのまま切りもんで武器から手を離し前のめりに水溜りに倒れこむ。弱い勢いだったのですぐ起き上がろうとするところを背から踵で踏みおろした。

 後の生徒はそれを見て怯んだか波のように俺を避け他の生徒へと向かっていった。

 余裕ができたため生徒会長のほうに横目をやると、ちょうど一人の生徒が生徒会長めがけて拳を振りかぶるところだった。軸足をずらし打ち込まれた拳を皮一枚で避けた生徒会長は相手の開いた体の脇からひねりの効いたカウンターを顎に打ち込む。
 手本のように綺麗に決まり、倒れ込んだ相手はそのまま起き上がらない。完全なダウンだ。
 続けざまに脇からかかって来た別の男の蹴りを両手でガードし、がら空きになった相手の腹に流れるようにアッパーを打ちまた一人沈める。
 次また次とかかってくる敵の拳をくぐり、的確に急所に拳を打って一人ずつ仕留めている。
  最初は勢いよくかかっていった生徒達だったが、軽いフットワークで押し掛かる敵を捌く隙の無い様子に恐れをなしたように段々遠巻きに伺うような次第になってきていた。

 助太刀の必要はどうやら無さそうだと他の風紀委員の方へと駆けた。
 風紀委員の後ろから掛かろうとしている男の肩を駆けつけざまに掌底で押し込み、体勢を崩した相手の襟元と袖を掴んで一番人が固まっている辺りの足元へえいと投げつける。後続で駆けつけようとした敵が足を取られてもたつく隙に近場に居るものからとにかく手当たり次第に畳んでいった。
  
 武道を嗜んでようが無かろうが多人数相手の乱闘はとにかく不利だ。基本はしないに限るのだが、相手がその利をあまり生かさずバラバラに掛かって来ているのは幸いだった。
 戦っている相手以外に晒す体の面積を小さくするよう位置取り、打ち込む動作も小さめにして一人一人をなるべく手早く捌くよう心掛けて立ち回る。

「おい!まさかと思ったがそこのボクシング野郎は生徒会長だぞ!」
 
 そのうちに、乱闘のどこかから暴露の声が上がった。

「はあ!?何でだよ!」

 声の方を振り向いて叫んだ生徒の上がった顎に低い姿勢から決めた生徒会長のストレートが入り、生徒は言い終わるやいなや吹っ飛んで倒れ込む。

「何で風紀と一緒にうろついてんだよ!」
 
 俺の目の前の生徒がそう叫んだところに足払いをかけ突っ転ばせる。

「やべ、恐川と会長のタッグとか無理、俺抜けるわ!」

 3人目はそう言った時点ですでに走り始めていた。

 その脱走を皮切りに敵は一気に散会し始める。
 特に結束もない烏合の衆らしく、てんでバラバラの方へと駆けて行くそれを追い風紀委員達も走り始めた。

 俺は捕まっている男子生徒を解放しようと倒れたフェンスを踏み越え寮のコの字型に開けた庭へ足を踏み入れた。

 先に突入した風紀委員達が、あちこちで逃げ出そうとした不良たちをぬかるむ地面の泥の中に押さえつけている。
 拿捕(だほ)の方法が警察めいていて、本当に警察代わりの役割なんだと改めて思った。
 その中で幾人かの風紀委員が、不良たちを後ろ手に縛り上げているのには驚いた、まるで捕物帖の景色だ。
 実際の警察でもないのだから手錠まで使うわけには行かないが、それでも生徒を拘束する必要がある場合は苦肉の策としてそうしているのだろうか。
 本来は問題を起こした生徒に対しては調書を取って後日処分をする手はずらしいのでそこまでする必要は無いはずだが、今回は対応人数が多いので暴れ出されないようにそうしているのかもしれない。
 当然の事という風に、俺が何も言わずとも風紀委員達はてきぱき作業を進めている。
 逃げ出した者達の処理は彼らに任せる事にして、改めて被害者の元へと向かった。
  
 コの字型の建物の凹みに沿ってきられた庭の最奥、突き出した二階の下にあり雨から守られた一角まで走ってたどり着く。
 そこでは先に着いていた風紀委員の一人が被害者を介抱していた。
 風紀委員に抱えられた華奢な少年は、半裸のまましゃくり上げて泣いている。
 様子を伺うと、どうやらすんでのところで助け出す事は出来たらしい。
 
 少年の居る場所のすぐ近くにあるガラス戸から入った寮の廊下の上に、もう一人縄跳びでぐるぐる巻きにされ転がされていた生徒が居たらしく、一人の風紀委員がその生徒を伴って戸から庭へと出てきた。
 拘束を解かれた生徒はすぐに捕まっていた少年のところへ走り出した。
 少年も生徒の顔を見ると身を起こして駆け出す。

 様子からそのまま身を寄せ合うのかと思うきや、少年は駆け寄った男子生徒の頬を助走をつけた勢いのままに思い切りパンと張った。
 これには驚いた。少年は頬を打った姿勢のままに少しの間肩で息をしていたが、すぐ息を整えて叩いた相手に怒鳴り付けた。

「最低だ!先に逃げようとするなんて…!」

 男子生徒もまた打たれた後しばらくの間は呆然と叩いた相手を見返していたが、はっとしたように赤くなった頬を抑え怒鳴り返す。

「な、何すんだよ!痛ぇな!」

「あんなに好き好き言ってた後に、ちょっと絡まれたらすぐへこへこして逃げ出して…!あり得ない、心底見損なったよ!」

「…ぁあ?…見損なっただと!?
 お前だって男だろーが!自分で跳ねのけられないのを人のせいにしてんじゃねぇよ!
 大体俺は逃げたんじゃねえよ!」

「それ以外の何だって言うんだよ!」

「お前みたいにしょっちゅう生徒会長やら委員長やらの追っかけやってる尻軽野郎ならさぞ喜ぶだろうと思って譲ってやったって言ってんだよ!」

「……は!?自分がどれだけクズな事言ってるか分かってる!?言い訳するにしても最悪だ…!!」

 二人は恋人同士…だったらしい。
 逆切れした上情けない言い分を言い立てる男子生徒とそれに涙ぐみ怒る少年との言い合いは、修羅場と言っていい様相だ。
  
 男子生徒の言い分があまりに見苦しいので割って入ろうとしたが、その自分の行動にふと引っかかる物を感じて足を止めてしまった。
 見苦しい、という感覚は人間が人間を相手にした時にしか持ち得ないものだ。
 動物や、無機物相手に見苦しいと言う人をまず見た事がない。
 俺は確かに、男子生徒の言い訳の中に人間の嫌らしい感情のリアリティを見出していた。
 …それは、何を意味しているのか?

 考えに入っていた間は多分一瞬だったと思うが、その間に生徒会長が俺の前を横切っていった。
 そのまま少年の所まで歩いて行く。その途中で既に脱いでいたらしい合羽の上半分をコンクリートの上にばさりと投げ捨てた。
 そして少年の前に立つとその肩にそっと手を置き、顔を寄せて何事か耳元で囁いた。
 すると少年は顔を真っ赤にして口ごもる。
 
「あー、お前はもうどっか行け。」

 生徒会長は大人しくなった少年の肩に手を置いたまま、もう片方の手で男子生徒を追い払う仕草をとる。

「何だあんた、突然出てきて!関係無いだろうが!」

 男子生徒はそう言って威嚇こそしたものの、明らかに腰が引けたような態度となっていた。声のトーンも少年に怒鳴りつけた時と明らかに違い、弱々しいものとなっている。
 それをいかにも侮蔑した目で見、おっくうそうに生徒会長は言葉を返した。

「他の男に襲われてもいいと思ったんならお前こそこいつとは無関係の他人だろ。開放してやったんだからわめいてないでとっとと行けよ。」

「そうだ!言われた事もやった事も忘れてやるから、これ以上恥晒す前にとっととどっか行けよ!」

「てめえ…。」

 男子生徒は生徒会長に身を寄せている少年を目をすがめ睨みつけていたが、生徒会長がじろと一睨みすると大きな舌打ちを残しすぐに去っていった。

「あの、御堂様…助けて頂いて…その…本当にどうも有難うございました……。」

 男子生徒の姿が見えなくなると、少年は生徒会長を見上げ、先ほどまでと打って変わったおずおずとした様子で礼を述べた。
 頬を染めて生徒会長の顔を見たりすぐそむけたりを繰り返しながら、たどたどしい様子で言葉を紡いでいる。

「…怖かったろ。」

 生徒会長は礼を言い終えたあと頬を染めたまま硬直したように動かなくなった少年の肩を引き、間近く寄せたその顔を見つめ囁いた。

「御堂様……!……はい……とても……怖かったです…!」
 
 生徒会長は少年を抱きよせなだめるように背を撫でている。
 少年は明らかに恍惚とした様子で生徒会長の胸に手を置き身を預けていた。

 強姦されかかり不安に震える少年を宥めている、全くもって悪いところのある景色では無い。
 無い、無いはずなのだがどうにもこうにもさっきの食堂での一幕が思い起こされてしまう。
 また頭痛が出るかもしれないと思い横を向いて眼前で繰り広げられていた睦言めいた情景から目を逸らす。

 すると倒れていた白黒髪の男がなにやら動いている様子が視界に入った。何をしているかと見ればスマホを取り出して何か打ち込んでいるところだった。

「ちきしょう……応援を…。」

 独り言を言いながら、そのままスマホを耳元に構える。

 しまった、応援を呼んだらしい。
 こちらももうじき時計回りに寮外周を回っていた連中と合流する手はずだが、相手の応援の人数がわからない。
 一旦ボスであるらしき白黒髪の男と被害者の少年を連れて外へ逃げた方がいいかもしれない、そう思い電話をしている男の元へ走り出そうとしたところで、前方の地面に何かが落下し破裂音が響いた。
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