AQUA☆STAR短編集

AQUA☆STAR

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last train 最終夜行列車【ドラマ】

1 客室乗務員の新藤さん

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ゲートルームに入って、壁面の表示が変わっているのに気がついた。
一から十までの表示になってる。これは階層を表してるんだな。
一を選んでタップする。

転移時の浮遊感と共に、見慣れた一階層の小部屋に立っている。
ダンジョンの出入り口はすぐ傍だ。
念のために壁に手の平を当てる。すぐに二から十までの数字とGの文字が浮かび、床が青白く光る。うん、チュートリアル通りだ。これでいつでも行き来できる。

ダンジョンの出口には見張り番のおじさんが立ってて、訝しそうに僕を見る。
僕が一人で、何も持ってないのに気がつくと、何とも気の毒そうな顔をした。
ポーターが置き去りにされるのは良くある事なので、それを察したんだ。
「坊主、良く無事だったな」
「うん、何とか逃げられたよ」わざと弱々しい声で答えておく。

僕たちのねぐらは街を通って流れる川に渡った橋の下。
端切れ板を組み合わせて、何とか雨風を凌げるようにしたオンボロだ。
入り口のぼろ布をかき分けて中に入る。
「ただいまー」
「アッシュ!」一斉に声がかかる。

「パーティーが全滅したって聞いて。もう駄目かと思ってたよお!十日もどうしてたの?」
カティが抱きついてきた。十歳の女の子。痩せてガリガリだ。食べ物がお土産だって言ったら喜ぶだろうな。

でも、十日って?潜って三日、管理者ルームに居たのは一日くらいだったぞ?
一番ありそうなのは、僕が亜空間に入ってゲートに出現するまで、何日か掛かっていたんだと思う。多分、ダンジョンが僕を解析するのに必要な時間だったんだろう。その間の記憶が無いのは、おそらく感覚が遮断されていたんだ。

「うん、囮にされたんだけど、うまく逃げられた。あれ、ターニャはまだ?」
カティを抱き返しながら、周りに聞く。
「ギルドに行ってるよ。アッシュがどうなったか確かめるって」
オルトは帰ってるか。僕より二つ上の兄貴分。僕より頭一つ高い。ひょろひょろだけど。
「あいつら、全滅か。自業自得だな」
僕には何の感慨も浮かばない。バックパックに入ってた筈の装備が無くて焦っただろうな。

「怪我してない?治癒魔法掛けようか?」
ミルカが駆け寄ってくる。七歳なのにもう魔法が使える。天才の女の子。
奥の方で眠そうに目を擦っているのはダイン。九歳の男の子。なぜか料理は一番うまい。
「あれ?アッシュ?幽霊?ゾンビ?」
「殺すなよ、ダイン。あ、そうだ、皆に良い土産があるよ」
僕は亜空間から、パーティーから預かっていた食料を取り出す。
「あいつら全滅したんだからもう要らないよね?」

全員が目を剥く。そして一斉に舌なめずり。
うん、僕たちはいつも空腹だ。食料が足りていない。
ポーターは、まあ、そこそこ稼ぎになる。でも途切れなく仕事にありつける訳でもない。
ターニャは今年十六。もう冒険者登録して稼いでいる。まあ、F級なのでポーターよりは良いけど、それ程の稼ぎはない。今でも僕らを見捨てないで稼ぎを入れてくれる。それでもギリギリ。

ダインが早速、食材を見繕って料理を始めた。
川縁に組んだ石のかまどに拾い集めた木材を燃やし、どこかでくすねてきた鍋で色々放り込んで煮ている。良い匂いがしてきた。
出来上がるまで、保存食の干し肉を皆でかじる。

「アッシュ!」
ターニャが帰ってきて、いきなり僕を胸に抱きしめる。
いや、ターニャはもう十六なんだからね。色々育ってきて当たるんだからね。
「心配掛けたね、ターニャ。でも大丈夫だから」
軽く髪を撫でる。感謝を込めて。

「今回の仕事は無駄足だったねえ。気を落とさず今度頑張ろうぜ」
優しいターニャは慰めようとしてくれる。パーティー全滅ならポーター料は未払いになるからだ。ほんとに僕たちの頼りになる姉御だ。
「いや、無駄足でもないさ。お土産たっぷりだよ」
僕はにやりとして、亜空間から全滅したパーティーの装備と、討伐した魔物の素材を出してみせる。

ターニャは目を丸くして、すぐに悪い笑みを浮かべる。
「お前も悪よのう、エチゴヤ」
「いえいえ、お代官ほどでも」
これは僕の前世話から、皆がお気に入りになったやり取り。

「この装備、売ったら結構な金になるね」
オルトが早速品定め。
僕がここの仲間になってから、皆に読み書きと計算を教えるようになっていた。
出来るのが八歳まで王子だった僕だけだったから。五才頃から教師が付いていたからね。読み書きとか魔法とか剣術とか。これで他の浮浪児グループより生きやすくなる。

一緒に生きてきた子供達。生き延びるための手段として身につけて欲しかった。
最初は面倒がってたけど、知識があると騙そうとした相手を見破られるのに気づいて、段々熱心になり始めた。ミルカには魔法の基礎を教えた。これで上達が早くなるだろう。
ターニャにも剣術の型を教えた。すぐに僕より強くなったのには参ったな。
教えた子供達の中でオルトが図抜けて優秀だった。彼なら結構良い商店で雇って貰えるだろう。

「こっちの素材、売れるかなあ」
ダインが首を傾げる。食材になる物はとっておく気満々だ。
「まあ、その前に小細工しないとね。そのままホイホイって訳にはいかないさ」
ターニャの言う通り、普通のポーターが素材屋に持って行ったら怪しまれる。
「どうするの?」
ミルカが首を傾げる。うん、その仕草、可愛いな。

「【腐肉漁りスカベンジャー】をやった振りをするのさ」
ターニャがウィンクして、ニヤリと笑った。

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