花衣ー皇国の皇姫ー

AQUA☆STAR

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統一編

第73話 大和国

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「カヤ様、民たちが待っております」
「うむ、行こうか」

 カヤたちが胡ノ国でムネモリと合流したことにより、極秘裏に進められていた計画が実行に移されることになった。

「親愛なる大和の民よ、この国難の中、よくぞ集まってくれた‼︎」

 胡ノ国の水蓮園、その中心に位置する水蓮亭の中庭には、胡ノ国に避難してきた大和の民達が、中庭から溢れるほど集まっていた。

 中庭を見渡すことのできる水蓮亭の華宵殿に立つは、大和の帝の正統なる後継者、カヤであった。

「いよいよだな」
「えぇ…」

 その後ろには、私たちが控える。

 そして、中庭に集まった大和の民の目的、それは帝亡き今、大和を統べる真なる指導者の言葉を聞くことであった。

「不安に思う者、悲しみに暮れる者もいるだろう。それは間違っていない、人として当然の感情である」

 カヤの姿を見て涙を流す者、不安に駆られる者、様々だ。しかし、その場にいる全ての者の視線は、一様にカヤへと向けられていた。

「今、大和は未曾有の危機に瀕している。余の父であり、我らの指導者である帝は、邪な考えを持つ者達により亡き者とされ、今や我らが大和は、かつての栄光を失いつつある‼︎」

 その演説は、大和の民のみならず、そばに控える七星将、輝夜、烈丕、そして私達も聞き入っていた。

「我らが大和は、二度目の試練を受けている。一度目は、皆も存じているであろう初代帝の頃、大和大神の策略に落ち、我らが祖先が災厄に飲み込まれた禍ツ大和大戦の時。そして、今がその二度目の試練の最中である‼︎余は、祖国を、そして我らの育った国を取り戻すため、ここに正当なる大和、大和国の建国を宣言する‼︎余の同胞はらからであり、余が心から愛する親愛なる民に問う‼︎故郷を取り戻し、帝を亡き者にした者たちの偽りの国を打ち倒すため、余と共に立ち上がるのだ‼︎」

 その瞬間、中庭にいた民たちは歓声を上げる。カヤはその歓声の冷めぬうちに言葉を続ける。

「余は明朝、兵を率いて故郷奪還の戦いへ身を投じるつもりだ‼︎皇国、胡ノ国、斎国が我らと命運を共にすることを約束してくれた。だが、それでも足りぬ‼︎敵は強大で、かつ凶悪である‼︎しかし、このまま野放しにすれば、我らの子、そのまた子の世に大和という国は存在しなくなる‼︎そんな事は、世が断じて認めぬ‼︎余と共に戦陣を駆ける勇士となる者は、武器を手に取り余の元に集うのだ‼︎」
「「「オォオオオ‼︎」」」
「立派になられましたね…カヤ様」

 カヤの演説を聞いた大和の民たちは、老若男女子どもを問わず、彼女の元へと集った。そして明朝、新生大和国、皇国、胡ノ国、斎国の連合軍が結成され、カヤを総大将とする連合軍は一路、帝京へ向けて進軍を開始した。

 仁の率いる遠征軍が、胡ノ国国境へと到着したのは、私たちが帝京へ向けて出陣する日の翌朝であった。仁たちは迦ノ国の長居城を占領した後、迦国軍の背を討つために北上していた。

 千代の思念により、連合軍結成の報を受けた仁たちは、迦国軍と遭遇するよりも前に私たちの進路上に待機し、合流を待っていたのであった。

「姉様‼︎」
「小夜」

 久しい再会を前にして、遠征軍に軍師として同行していた小夜が瑞穂に飛びつく。

「会いたかったです姉様‼︎ご無事で何よりなのです‼︎」
「小夜こそ、無事で良かったわ」
「聖上、侍大将仁、参上いたしました」
「うん、よく間に合ってくれたわ。リュウ、ローズも」
「お久しぶり、瑞穂」
「気のせいか、雰囲気が少し変わった気がするな」
「そうかしら?」

 恐らく、死の淵から復活したことにより、私の呪力に変化が生じたためだろう。かつての不安定だった呪力が安定したことが、雰囲気を変えたのだろうか。

「これより、我々遠征軍は連合軍に合流し、その指揮を聖上にお返しします。皆、聖上と共に戦うことを心待ちにしております」
「相分かったわ」

 皇国遠征軍の国章の御旗に『大御神』の御旗が新たに建てられる。これは名実ともに私が率いる軍。その象徴であった。

 皇国軍を加えた遠征軍は、国境付近で胡国軍、そして斎国軍と合流する。胡ノ国軍との連合軍結成は、かつての宇都見国侵攻以来であった。

 ここから帝京まで、丸一日の道のりだ。まさか、歓待の誘いで歩いたこの道を、大和奪還のため御旗を掲げたカヤと共に戦うため、軍を率いて進むとは思わなかった。

「………」
「瑞穂?」
「私たち、緋ノ国の頃は、村でずっと皆で遊んでて、生活は厳しかったけど、それでも楽しかった。お祖母様が亡くなって、敵討ちをして、それから段々と、自分達の日常が戦に染まっていってしまったわね」
「…まぁな。でも、それは平和な世を創るためだろう?」

 迷いなどとうの昔に捨てた。これは、平和な世を創るための戦だ。しかし、私はひと時でも、戦が普通だと思う事はしないと決めていた。人が戦で死なない世を創るために、戦で戦い人を死なせる。そんな矛盾をなんとも思わなくなってしまえば、それは心が私利私欲に支配されたと同義だからだ。

「大丈夫だ。この責を背負うのはお前だけじゃない。俺たちも、お前と同じだけの責を背負う覚悟が出来ている。だから、戦うんだ。な、皆」

 御剣の言葉に、周囲にいた皆が頷く。

「そうですよ、瑞穂様」
「それが、瑞穂の決めたことだから」
「私もです。姉様」
「私たちもです、聖上」

 皇国の結束は固い。だからこそ、他国のための戦であっても、私が歩めばついてきてくれる。

「行くわよ、皆」

 例え何が待ち受けていようとも、例えどんなにつらい事実を目にしようとも、私は止まらない。

「瑞穂様…」
「どうしたの、千代?」
「何か分かりませんが、とてつもなく嫌な感じがします…今まで、感じたことのないくらい、禍々しいものです…」

 千代が小刻みに震えていた。私も感じていたが、あえて口には出さなかった。

 帝京の方角から漂う、不気味な呪力の正体を。

「姉様、雪が」
「雪?」

 手の平に落ちた物を見る。

 それは雪ではなく、灰であった。



 ◇


 連合軍が国境を越えたところで、空気がガラリと変わったことに御剣は気付いた。道中の村々はすでに焼け落ちており、人の気配すらも感じられない。

 相変わらず灰が降る中、大部隊の先頭を歩く瑞穂は、ある村に到着したところで足を止める。そこには、数百程度の兵を率いて彼女達を待ち構える、迦ノ国の武将、千浪がいた。

「その程度の兵で俺たちを止めるつもりか?」
「俺たちは戦うつもりはない。話を聞いてほしい」

 迦国兵達は自ら武器を地面に捨て、瑞穂達へと投降する。

「迦国将軍の千浪と言ったわね。話とは?」
「帝京へ行くつもりだろう。先に忠告しておく、あそこへは行くな」
「何故?」
「もう手遅れだ。迦軍も、おそらく壊滅しているだろう。昨日から本隊に何度も伝令も送っているが、一人として帰ってきていない。間に合わなかったのだ」
「間に合わなかった?」

 千浪はこれまでの経緯について話し始めた。

 此度の迦ノ国による大和侵攻は、表向きは武皇ウルイによる領地拡大のための侵攻と言われている。

 しかし、本来の目的は違った。

 皇国が宇都見国と戦を繰り広げている最中、ウルイの元にある人物が訪ねてきた。その人物は、大神をも殺すことができる妖刀神滅刀をウルイに譲り渡した。

 ウルイは、商人であるヤムトから情報を買い、彼らが、かつてこの地を支配しようとしたタタリという存在を蘇らせようと企む一派であることを知る。

 すでに、その計画は進められており、大和の中枢は一部を除き、ほとんどがその影響下にあった。

 タタリが目論むのは、人をただの贄と見なし、自らの思うがままの世界を手に入れることであったが、ウルイにとってそれは、自らの野望を叶えるための弊害となった。

 そこで、大和に侵攻し、大御神を斬るために譲り受けた神滅刀で、人外のもの達を斬り伏せようと考えた。

「一番の懸念はあなた方皇国勢、強いて言えば皇国皇、あなただった。あなたが神滅刀の存在を知り、それを奪い返そうとすれば、その間にタタリの復活を許してしまう。だから、我々は幾度もあなた方の攻撃を阻んだ。それも、今となっては失敗したが」
「千浪、お前が知る最も新しい帝京の情勢はどうなんだ」
「赤き月が昇り、空が黒く染められた、ということしか分からない。本隊から伝令が戻らないとなれば、お前なら向こうがどうなっているか見当がつくだろう?」

 千浪はそう言うと、二刀のうち一刀を鞘から抜き取り、自らの首にその刀の刀身を添えた。

「待て、千浪」
「俺にまだ何か用か?」
「お前には、まだやるべき事が残っているでしょう」
「師も失い、皇も国も失った俺に未練はない」
「まだ、そうと決まったわけじゃない。お前も一人の武人なら、付き従った皇を助けるべきじゃないのか?お前の師、泰縁ならそうしたはずよ」
「………」

 千浪はそれを聞くと、首に添えていた刀を離し、鞘へと戻す。

「なぜ、お前が師に勝ったのか分かった気がする。良いだろう。帝京まで同行してやる」


 ◇


 部隊を焼け落ちた村に残し、私たちは千浪の案内で帝京を見渡すことのできる丘へとたどり着く。

「これは…一体…」

 目の前には、まるで別の世界を見ているかのような光景が広がっていた。一度訪れたことのある大和の国都である帝京は、最早見る影も残っていない。

 聖廟を中心として巨大な穴が広がり、まるで都が飲まれるように中心に向けて崩れかかっている。辛うじて城壁近くの町は形を保っているも、目に見えるほど黒く染まった呪力に、まるで纏わりつかれているようだった。

「や、大和が…私たちの故郷、帝京が…」
「父上…父上ぇ‼︎」

 その光景を見て、誰もがそこに生き残りがいないと思えるほどだった。カヤは、父親の死を悟り泣き崩れ、七星将や護衛の大和兵たちは膝をつき絶望に打ちひしがれる。

「まさか、二度もこの光景を目にすることになるとは…」
「それは、どう言うことなの?」

 シラヌイは丘の先に立ち、口を開く。

「タタリが復活したのじゃろう」
「ッ⁉︎」
「瑞穂殿、あの穴の中心が見えるか?」
「誰か筒鏡を」

 私は、兵士から手渡された筒鏡を覗く。そこには、帝宮を貫くように、赤黒い巨大な水晶がそびえ立っていた。その先端から呪力が空に向けて広がり、黒い雲を作り出していた。

「あれは、タタリが生み出した黄泉喰らいと呼ばれる大水晶じゃ。あれを現世に立て、黄泉の呪力を吸い取り現世に吐き出しておる」
「放置すれば、どうなるの」
「黄泉は死者の国、そこから吸い上げられる呪力は本来現世にあってはならぬもの。つまり、現世に黄泉の呪力が満たされた時、この世界は根の国のように灰に沈み、亡者の国となる」
「そ、そんな…」
「嘘じゃ、こんな事、余は、余はっ!」
「聖上…」
「どうするぇ、お姉さん」
「…何が起こっているか、確かめないと」
「帝京には60万の民がいたと聞く。それがあの呪力の中にいたとすれば、ただでは済まないだろう」

 この呪力が人に影響を与え、残っていた帝京の民が妖となっているとすれば、その数は計り知れないものになる。単純に計算して、4万程度の部隊が60万の妖に勝てるとは思わない。

「仁にこのことを伝えて、部隊をここに連れてくるか?」
「例え連合軍全軍で突撃したとしても、勝算は限りなく低いと思う。犠牲が増えるだけなら、私たちだけで行くべきだわ」
「グ、ギギ…」
「ッ⁉︎」

 金切り声に気づいた皆が武器を構える。私たちのいる丘に向けて、帝京の方角から地を埋め尽くすほどの成れの果てたちが迫ってくるのが見えた。

「えらいぎょうさん来おったぇ。どうする、お姉さん」
「千代、仁に思念を送って。全軍砦にて防衛陣を敷き待機、あそこへ行くのは、私たちだけよ」
「その言葉を待ってた」

 藤香が刀を抜く。

「そうこなくっちゃあなぁ」

 御剣が刀を抜く。

「やってやるぇ」

 ミィアンが方天戟を抱える。

「カヤ、あなた達はどうする」
「余は…余は。余は大和国の帝、カヤじゃ。これは余たちの戦、余たちが始末をつけなければならん」
「えぇ、そのとおりです聖上」
「例え死地であっても、最後までお供致します」
「私も、覚悟はできております。カヤ様」
「なら、決まりね」

 私は桜吹雪を抜くと、もう片方の手で扇子を構え、その先を大水晶へ向けた後、広げた。

「向かうは大水晶、ゆくぞぉっ‼︎」
「「「オオッ‼︎」」」


 ◇


 瑞穂達が丘に着いたその頃、大水晶が生え、最早かつての面影がなくなった聖廟の天守では、タタリが瑞穂達のいる丘の方を見据えていた。

「ついにきたか、この時が…。さぁ、来い大御神。我は此処にいるぞ。お前のために用意したこの大舞台で、決着をつけようではないか。それまで死ぬでないぞ」

 瑞穂達は、丘の斜面を駆け下りながら、迫り来る妖と対峙する。妖とはいえ、元は帝京の民達。苦しまずに逝かせてやらねばならない。
 
「てやぁっ‼︎」

 瑞穂は桜吹雪で成れの果てを斬りつける。攻撃する瑞穂の隙を埋めるように、左右に立つ御剣と藤香が迫り来る成れの果てを斬り伏せていく。

「千代様!右に敵集団です!」
「氷符『氷花流星』‼︎」

 シラヌイの背に乗る小夜が戦場を把握し、千代に指示を出す。指示を受けた千代が強力な呪術で成れの果てを一気に殲滅する。

「余の手で常世へと誘わん」

 カヤは自らに幻符『遅滞』、射符『五月雨撃ち』を掛け、成れの果ての動きを鈍く見せ、矢を連続で放っていく。放たれた矢は成れの果てを貫き、その凄まじい威力で成れの果ての体を崩壊させる。シオンがカヤの側につき、近づこうとする成れの果てを凍らせ斬撃で砕く。

「聖上に遅れをとるわけにはいかないわね」
「あぁ」

 かつて、犬猿の仲であったコチョウとゴウマが、互いに背を預け合い道を切り開く。

「師匠‼︎」

 ムネモリの周りに、成れの果てたちが集まる。取り囲まれたことで、コチョウがムネモリの身を案じるが、それは無用であった。

 ムネモリはゆっくりと鞘から刀身を覗かせると、目を見開く。刹那、居合斬りによって彼を取り囲んでいた成れの果て達は、細切れになり消滅する。

「弟子に心配されるほど、老いてはおらんよ」

 ムネモリの側では、千浪が隙のない連撃で瞬く間に成れの果てを斬り伏せていく。泰縁に劣らない実力を持つ彼が操る二刀流は、まるで一本の刀を持つように無駄のない動きだった。

 一同は成れの果てを倒しながら、城門へとたどり着く。その周囲には、城門を攻めようとしたであろう迦国兵達の亡骸が散らばっていた。そして、城門はすでに開かれていた。

「迦ノ国の連中は中まで入ったみたいね。行くわよ」

 瑞穂達が城門を潜ると、背後で門が閉まる音が聞こえる。

「門が!」
「閉じ込められた⁉︎」

 門が閉まると同時に、焼けた家屋の残骸の中から、黒い呪力に取り憑かれた大和兵達が現れる。

「囲まれているわ⁉︎」
「そう簡単にここを通すわけにはいかないんだよ」
「その声、まさか⁉︎」

 瑞穂達が声のした方向を向くと、そこには七星将、謀聖のカゲロウが立っていた。

「カゲロウ、なぜ主がここにいる!」
「城門の守護を任されましたので。聖上、申し訳ありませんが、あなたにはここで死んでいただきます」
「カゲロウ、貴様!七星将の誇りすら失ったのか⁉︎」

 シオンがカゲロウに向けて刀を振るうと、刀身の斬撃が氷へと変化し、カゲロウに向けて撃ち放つ。その斬撃を、側に控えていたカゲロウの副官であるランカが剣で叩き落とした。

「ちっ‼︎」
「誇り?そんなもの、最初から持ったことすらないな。僕には七星将なんて、ただの肩書きに過ぎないんだから」
「あらあら、黙って聞いていれば随分と身勝手な言い分ねぇ」

 そう言って、コチョウが先頭へと歩み出す。その手に握られる刀には、光符によって生み出された光の蝶が、刀の等身を埋め尽くすほど止まっていた。

「あなたは私が殺してあげる。高野の件といい、身勝手なあなたに失望したわ。それに、あなたを殺さないと私の殺意に納まりが付かないの」
「やってみるといいよ。行け、ランカ」
「はい。カゲロウ様」

 手にしていた筒で赤い液体を飲んだランカは、地面に飛び降り、その目を赤く輝かせる。その両手には、鉤爪が備えられ、獲物を狙う猛獣のようにジリジリとコチョウヘ迫る。

 飛びついてきたランカを、コチョウは紙一重で躱す。ランカの鉤爪が、コチョウの鼻先を掠めた。

「中々良い動きね」

 コチョウは合間なく繰り出されるランカの鉤爪を、避けては弾き、躱しては受け流す。コチョウがランカと戦っている間、周囲の幽鬼兵達を瑞穂達が斬り伏せていく。

「妖の力を使って、動きを早くしたようだけど、あなたには決定的に足りないものがあるわ」
「⁉︎」
「それは、力よ」

 コチョウはそう言って刀を振り下ろす。ランカは両手の鉤爪を交差させ、刀を押し戻そうとするが、徐々にその刀身が首元へと近づいてくる。

 ランカの表情は苦しくなるが、コチョウは薄ら笑いの表情から少しも変化がない。

「あいつは嫌いだけど、あなたは嫌いじゃなかったわ。さようなら、ランカ」

 コチョウは鍔迫り合いの状況から、一気に刀を振り下ろす。その刀身は鉤爪ごとランカの首から胴にかけて斬り裂いた。

 胸を斬られたランカはその場に倒れる。コチョウは目を見開いてこと切れたランカの目を閉じてやる。

「やられたか。全く、少しは使えると期待していたのに。役に立たんやつだッ⁉︎」

 カゲロウは強烈な痛みを感じる。視線を下ろすと、一本の矢が胸を貫いていた。その矢は、部下を使い捨て、挙句の果てに心なき言葉を放ったカゲロウに対して、怒ったカヤが放った一本の矢だった。

「かっ、はっ」
「か、カヤ様」
「カゲロウ、主を七星将に任じたのは我が父だ。父に代わり、余が主に引導を渡す。コチョウ」
「承知しました、聖上」
「そ、そんな。僕が…僕がここで終わるなんて…」

 コチョウがカゲロウにとどめを刺す。首を切り裂かれたカゲロウはゆっくりと後ろへ倒れ、燃え盛る火の中に消えていった。

「そういえば、あなた、頭は良くても腕はからっきしだったわね。因果応報。一生、根の国で彷徨っていなさい」

 すると、周囲を取り囲んでいた幽鬼兵たちが倒れ、肉体を失い骨と化する。この幽鬼兵は、カゲロウが黒の呪力を使い、肉体を再構築した兵士たちの亡骸だった。カゲロウが討ち取られたことにより、その力で生み出された幽鬼兵は次々と倒れていった。

「行きましょう」
「うむ」

 一同は休む間もなく、大水晶へ向けて再び走り出した。
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