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決戦編
第68話 高野決戦 前編
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高野に陣取るコチョウの隊への攻撃を兇蓮と千狼の部隊に任せ、帝京に向けて北上していたオルルカン、ジュラが率いる迦軍は、帝京と高野の半分ほどに位置する塩瀬へと到着していた。
塩瀬でその迦軍と相対するのが、赤を基調とした鎧に身を包んだ、カゲロウ率いる朝廷軍。
オルルカンは目を細めて朝廷軍の配置を確認する。
「良いところに陣を構えましたね。簡単には攻めることが出来ませんか…」
そうつぶやくオルルカンの視線の先、カゲロウが陣取るのは川を挟んで緩やかな傾斜をした丘の上。
カゲロウはそこに即席の陣地を構え、稜線の下方から迫る迦軍を迎え撃つ作戦を立てていた。
カゲロウの率いる迦軍には特徴がある。軍の大半は通常の歩兵、騎馬兵、弓兵などと変わらないが、それらを全てこなす事が可能な要撃兵、そして歩兵ながら呪術を使いこなす呪装兵がいる。
彼の得意とする戦略で、この二つの兵種は特に強力な力を発揮する。
これに対し、オルルカンは両翼に即席の防御陣地を築き、カゲロウを正面に見据える。
"あれは一体?"
オルルカンは、平原に均等に立てられた旗を気にかけるが、罠ではないと判断し、注意する必要はないと考えた。
「そろそろ、始めましょうか」
「なら、私が行こう」
「いえ、お待ちを。試したい事があります」
戦線へ向かおうとするジュラを止めたオルルカンは、右手を上げる。すると、迦軍の本陣後方から異質な軍勢が現れる。
赤や黒の塗料で塗られた戦化粧、獣の皮で作られた露出の多い戦衣装。手には槍や剣、そして弓、絵の描かれた盾を持つ。
彼らは、南方の島々に住む民族、獰牙族。迦ノ国と同盟関係にある詠が、南方の島々から傭兵として募った者たちであった。
常人よりも優れた身体能力を持ち、縄張り争いで磨き上げられた戦闘能力以外にも、彼らには恐ろしい能力があった。
それが、獣化と呼ばれる呪術の一種である。彼らは、自らを獰猛な獣に変態させることが可能であり、詠が彼らを南東の未開の地で戦わせたところ、その地域からたった2日で4つの部族が滅びたという。
「先の戦いでは彼らを使いませんでしたから、ここで彼らの力量を確認したいのです」
「良かろう、ならば私はその後ろから攻め上がろうとするか」
「よろしく頼みます」
一方、丘の上で扇状の陣形を整え迎え撃つカゲロウの軍勢は、眼前の迦軍を見据えていた。
「ランカ、指示した通り部隊を動かせ」
「分かりました」
カゲロウが副官のランカにそう言うと、ランカは部下に指示を出し、部隊前列へある兵器を配置させる。
投石器、連弩砲。これらは大陸の宋帝国が好んで使用する兵器であるが、地理的に大陸と密接な関係にあった大和は、これらの兵器を早期に導入し、改良を重ねていた。
迦軍は、獣化した獰牙族を先頭にして、大和軍の陣中へ迫るべく丘へと近づく。
「第1射、目標を見誤るな」
「了解しました」
投石兵達は、予め測量を終えていた平原を走り、陣中へと迫る迦国兵に向けて、第1射目から目標を見誤ることなる投射した。
「放てぇ!!」
人の何倍にもなる巨大な石が宙を舞う。宙を舞う石は一寸の狂いなく、先頭を行く獰牙族の傭兵達の頭上へと降り注いだ。
「ギャッ!?」
「ガァァ!?」
石は大きさに関係なく凶器である。小石程度でも当たりどころが悪ければ、人程度は簡単に死ぬ。
押しつぶされ、転がる石に激突し、そして彼らに躓き後方の兵士たちがつかえる。
動きが止まった。
それは、大和軍が待ち望んだ状態だった。大和軍はここで間髪入れずに、足を止めた迦国兵に向けて、連弩砲と弓隊による容赦ない矢の掃射が行われる。
雨の様に降り注ぐ矢に、正確無比な投石による攻撃。しかし、大和軍の攻撃はこれだけにとどまらなかった。
崩れた迦軍の前線に投入されたのは、騎兵、そして、胡ノ国が宇都見国討伐戦で使用した牽引式の騎馬戦車であった。
「戦車が来るぞ!迎え撃て!」
迦軍は予想外の攻撃に戸惑うが、指揮官の指示に従って迎撃態勢を整える。騎馬兵への攻撃には、盾と長物を持つ歩兵による密集陣形が有効な対抗手段となり得る。
その手段に従って、迦国兵たちは密集陣形を構築する。しかし、大和軍は予めこの陣形になることを読み、ある布石を打っていた。
それが、呪術兵による正確な遠距離投射呪術による攻撃だった。これにより、密集した迦国兵は狙い撃ちにされ、呪術の命中を受けて離散したところを、騎馬兵たちによって刈り取られていた。
「やはり、七星将、それも謀聖の名を冠するほどです。ですが、これは全て想定の範囲内です」
そう言ったオルルカンは、手にしていた団扇を横へと振るう。
「まさに、天狗の団扇みたいですね」
オルルカンがそう呟くと、本陣の両側からそれぞれ5騎ずつ、合わせて10騎の騎馬が飛び出す。
注目すべくは、その騎馬に括り付けられ、そりの様に引く台車の上には、大量の白い粉が積まれていた。
これは、海辺の迦ノ国で水揚げされ、中身だけ食用として消費された貝殻を、何度も粉砕することによって粉塵になるまで粉々にした代物であった。
「旋風を巻き起こしなさい」
この戦法は、砂漠のある迦ノ国において、無尽蔵に存在する砂を利用して砂嵐を起こし、敵の視界を遮るというものであった。しかし、一歩間違えれば自らも敵を見失うことになる諸刃の剣とも言える戦法である。
砂がなく、平原が広がる大和において、先に述べた砂による粉塵を巻き起こすのは難しい。そこで、大量の粉塵を砂の代用としているのだ。
"砂による目眩しは、先が見えないという不安を攻め側に与える。それが狙いなら、奴等はこちらの足が止まった時を狙って反撃に転じるはず…ならば"
「盾兵と歩兵の大隊を前進させ、戦車隊の後退を掩護しろ」
カゲロウは歩兵戦力の一団を粉塵の中へと前進させ、すでに粉塵の中に捕らわれてしまった戦車隊を救出させる。
粉塵はすでに浜風によって高く舞い上がり、まるで白い布の様に周囲を覆い尽くしていた。
「まずい、全く前が見えんぞ…」
「戦車隊はどうなってやがる…」
「固まれ、どこからきても対処できる様にするぞ…」
歩兵隊は不安に駆られながらも、前へと進んでいく。
「うわっ!?」
「な、なんだ!?」
突然、歩兵隊の目の前に大きな影が現れる。彼らはそれを敵と思い込み武器を構えるが、現れたのは自軍の戦車隊であった。
「ま、待てっ!味方だ!」
「み、味方か!?」
「敵がいない!どうすれば良い!?」
「後退命令が出た!急いで前戦へと後退するぞ!」
その様子を本陣から見ていたカゲロウは、迦軍の動きに違和感を覚える。
"後退しているだと?この戦法に慣れているのなら、突撃するのが定石ではないのか…"
「全く気付いていませんか。第一陣は後退できましたか?」
「はっ!全て粉塵の中から撤退済みであります」
「なら…」
オルルカンは副官から弓を受け取ると、その先に火の付いた矢をつがえる。
「一網打尽ですね」
火矢が粉塵に向けて飛ぶ。そして、火矢の先端が粉塵に触れた瞬間。
粉塵に火が点き、それが舞い上がった粉塵全てに広がる。
「なっ!?」
「こ、これは」
大爆発が引き起こされ、轟音と爆発による熱線が迫り来る。爆発による煙が晴れると、そこに立っている者はいなかった。
戦車隊、歩兵、全てが等しく黒く焦げ地面に折り重なる様に倒れる。あれほどの爆発を受け、生きている者などいないだろう。それほどの衝撃と熱が、離れていたカゲロウ、そしてオルルカン双方へと感じられたのだ。
「さて、本番はこれからですよ。楽しみましょう、カゲロウ」
◇
山を降りた御剣たちは、倒した迦軍の騎馬兵から馬を何頭か拝借、残りは白狼となったシラヌイに乗ることで、足早にウルイの跡を追った。
「御剣、あなた、何を見たの?」
瑞穂は前で馬の手綱を握る御剣に聞く。
「言葉で言い表すには、難しすぎる光景だった。大地は割れ、空は黒く染まり、一面は火の海と化していた。あれはまるで、根の国の様だった」
「そうだったの。そういえば、御剣は祠にいた時、根の国を見たの?」
「あぁ、根の国の大樹から黄泉の国へと渡った。そこで、先代の御剣だった剣史郎という男に出会ったんだ」
「剣史郎、カミコの御剣だった男ね」
「知っているのか?」
「うん、カミコに全て教えてもらったから」
カミコはすでに、深層世界で全てのことを瑞穂に伝えていた。唯一分からないのが、現世に潜むタタリの行方とその正体だった。
「タタリは、とても狡猾なの。目的のためなら、何でもする。恐らく、その時が来るまで自分の力や配下を強くして、来るべく日に決起するはず。大和も、奴にとっては手駒の一つに過ぎないわ」
「なら、タタリが今回の件、裏で糸を引いているのか?」
「今回だけじゃないわ。最初からずっと。全て奴の筋書き通りになっているでしょうね」
しばらく道を進むと、村が見えてくる。しかし、その村はすでに迦軍によって焼き払われ、村人たちの遺骸が無惨に転がっているだけとなっていた。
「ここもダメか」
「皆、救えずすまぬ…」
「カヤ、高野まであとどれくらいだ?」
「ここからじゃと、馬を走らせて半刻といったところじゃ」
「なら、急ぎましょう。皆で、ウルイを止めましょう」
そうして再び走り出すこと半刻。ついに、七星将の一人であるコチョウが指揮を執る高野の砦へと到着した。
「これは…」
すでに高野は、攻められたであろう側の城壁が半分くらい崩され、最早突破されるのも時間の問題もとれる状況だった。
「くっ、高野までもか!」
「いや、まだ分からないぞカヤ。砦の方ではまだ戦っている」
御剣が指差した方角では、籠城を諦め打って出たであろう大和軍と、ウルイ率いる迦ノ国軍で衝突が起こっていた。
「コチョウ!早く助けなければ!」
「七星将のコチョウ、彼女が高野で指揮をとっていたのね」
「瑞穂、どうする。俺たちはいつでも出られるぞ」
「行きましょう。私たちはこれより、大和軍に加勢して迦ノ国と戦う。御剣、ここでウルイを仕留めなさい」
「承知した」
「シラヌイ、千代とカヤを任せたわ。他は私についてきなさい」
瑞穂と御剣を先頭にして、迦軍に対して後方から奇襲を仕掛ける。前方の大和兵に気を取られていた迦国兵たちは、突然背後から襲いかかってきた瑞穂たちから奇襲を受けてしまう。
「ほぅ、もう追いついて来たか…」
「ウルイ様、どういたしますか?」
迦国軍の陣形中央、一際大きな馬に跨るウルイの視線は、後方から奇襲をかける瑞穂たちを捉えていた。
「敵の七星将については兇蓮に任せる。千浪、お前には奴らの相手を任せよう。存分に戦うといい」
「御心のままに」
その様子は、砦から討って出たコチョウにも見えていた。
「コチョウ様、迦国軍の背後から皇国皇と思わしき一団が!」
「見えているわ」
「その中に、カヤ殿下もおられるとのこと」
「カヤ様、来ていただけたのですね」
高野において、今、この戦いの命運を左右する一戦が始まろうとしていた。
塩瀬でその迦軍と相対するのが、赤を基調とした鎧に身を包んだ、カゲロウ率いる朝廷軍。
オルルカンは目を細めて朝廷軍の配置を確認する。
「良いところに陣を構えましたね。簡単には攻めることが出来ませんか…」
そうつぶやくオルルカンの視線の先、カゲロウが陣取るのは川を挟んで緩やかな傾斜をした丘の上。
カゲロウはそこに即席の陣地を構え、稜線の下方から迫る迦軍を迎え撃つ作戦を立てていた。
カゲロウの率いる迦軍には特徴がある。軍の大半は通常の歩兵、騎馬兵、弓兵などと変わらないが、それらを全てこなす事が可能な要撃兵、そして歩兵ながら呪術を使いこなす呪装兵がいる。
彼の得意とする戦略で、この二つの兵種は特に強力な力を発揮する。
これに対し、オルルカンは両翼に即席の防御陣地を築き、カゲロウを正面に見据える。
"あれは一体?"
オルルカンは、平原に均等に立てられた旗を気にかけるが、罠ではないと判断し、注意する必要はないと考えた。
「そろそろ、始めましょうか」
「なら、私が行こう」
「いえ、お待ちを。試したい事があります」
戦線へ向かおうとするジュラを止めたオルルカンは、右手を上げる。すると、迦軍の本陣後方から異質な軍勢が現れる。
赤や黒の塗料で塗られた戦化粧、獣の皮で作られた露出の多い戦衣装。手には槍や剣、そして弓、絵の描かれた盾を持つ。
彼らは、南方の島々に住む民族、獰牙族。迦ノ国と同盟関係にある詠が、南方の島々から傭兵として募った者たちであった。
常人よりも優れた身体能力を持ち、縄張り争いで磨き上げられた戦闘能力以外にも、彼らには恐ろしい能力があった。
それが、獣化と呼ばれる呪術の一種である。彼らは、自らを獰猛な獣に変態させることが可能であり、詠が彼らを南東の未開の地で戦わせたところ、その地域からたった2日で4つの部族が滅びたという。
「先の戦いでは彼らを使いませんでしたから、ここで彼らの力量を確認したいのです」
「良かろう、ならば私はその後ろから攻め上がろうとするか」
「よろしく頼みます」
一方、丘の上で扇状の陣形を整え迎え撃つカゲロウの軍勢は、眼前の迦軍を見据えていた。
「ランカ、指示した通り部隊を動かせ」
「分かりました」
カゲロウが副官のランカにそう言うと、ランカは部下に指示を出し、部隊前列へある兵器を配置させる。
投石器、連弩砲。これらは大陸の宋帝国が好んで使用する兵器であるが、地理的に大陸と密接な関係にあった大和は、これらの兵器を早期に導入し、改良を重ねていた。
迦軍は、獣化した獰牙族を先頭にして、大和軍の陣中へ迫るべく丘へと近づく。
「第1射、目標を見誤るな」
「了解しました」
投石兵達は、予め測量を終えていた平原を走り、陣中へと迫る迦国兵に向けて、第1射目から目標を見誤ることなる投射した。
「放てぇ!!」
人の何倍にもなる巨大な石が宙を舞う。宙を舞う石は一寸の狂いなく、先頭を行く獰牙族の傭兵達の頭上へと降り注いだ。
「ギャッ!?」
「ガァァ!?」
石は大きさに関係なく凶器である。小石程度でも当たりどころが悪ければ、人程度は簡単に死ぬ。
押しつぶされ、転がる石に激突し、そして彼らに躓き後方の兵士たちがつかえる。
動きが止まった。
それは、大和軍が待ち望んだ状態だった。大和軍はここで間髪入れずに、足を止めた迦国兵に向けて、連弩砲と弓隊による容赦ない矢の掃射が行われる。
雨の様に降り注ぐ矢に、正確無比な投石による攻撃。しかし、大和軍の攻撃はこれだけにとどまらなかった。
崩れた迦軍の前線に投入されたのは、騎兵、そして、胡ノ国が宇都見国討伐戦で使用した牽引式の騎馬戦車であった。
「戦車が来るぞ!迎え撃て!」
迦軍は予想外の攻撃に戸惑うが、指揮官の指示に従って迎撃態勢を整える。騎馬兵への攻撃には、盾と長物を持つ歩兵による密集陣形が有効な対抗手段となり得る。
その手段に従って、迦国兵たちは密集陣形を構築する。しかし、大和軍は予めこの陣形になることを読み、ある布石を打っていた。
それが、呪術兵による正確な遠距離投射呪術による攻撃だった。これにより、密集した迦国兵は狙い撃ちにされ、呪術の命中を受けて離散したところを、騎馬兵たちによって刈り取られていた。
「やはり、七星将、それも謀聖の名を冠するほどです。ですが、これは全て想定の範囲内です」
そう言ったオルルカンは、手にしていた団扇を横へと振るう。
「まさに、天狗の団扇みたいですね」
オルルカンがそう呟くと、本陣の両側からそれぞれ5騎ずつ、合わせて10騎の騎馬が飛び出す。
注目すべくは、その騎馬に括り付けられ、そりの様に引く台車の上には、大量の白い粉が積まれていた。
これは、海辺の迦ノ国で水揚げされ、中身だけ食用として消費された貝殻を、何度も粉砕することによって粉塵になるまで粉々にした代物であった。
「旋風を巻き起こしなさい」
この戦法は、砂漠のある迦ノ国において、無尽蔵に存在する砂を利用して砂嵐を起こし、敵の視界を遮るというものであった。しかし、一歩間違えれば自らも敵を見失うことになる諸刃の剣とも言える戦法である。
砂がなく、平原が広がる大和において、先に述べた砂による粉塵を巻き起こすのは難しい。そこで、大量の粉塵を砂の代用としているのだ。
"砂による目眩しは、先が見えないという不安を攻め側に与える。それが狙いなら、奴等はこちらの足が止まった時を狙って反撃に転じるはず…ならば"
「盾兵と歩兵の大隊を前進させ、戦車隊の後退を掩護しろ」
カゲロウは歩兵戦力の一団を粉塵の中へと前進させ、すでに粉塵の中に捕らわれてしまった戦車隊を救出させる。
粉塵はすでに浜風によって高く舞い上がり、まるで白い布の様に周囲を覆い尽くしていた。
「まずい、全く前が見えんぞ…」
「戦車隊はどうなってやがる…」
「固まれ、どこからきても対処できる様にするぞ…」
歩兵隊は不安に駆られながらも、前へと進んでいく。
「うわっ!?」
「な、なんだ!?」
突然、歩兵隊の目の前に大きな影が現れる。彼らはそれを敵と思い込み武器を構えるが、現れたのは自軍の戦車隊であった。
「ま、待てっ!味方だ!」
「み、味方か!?」
「敵がいない!どうすれば良い!?」
「後退命令が出た!急いで前戦へと後退するぞ!」
その様子を本陣から見ていたカゲロウは、迦軍の動きに違和感を覚える。
"後退しているだと?この戦法に慣れているのなら、突撃するのが定石ではないのか…"
「全く気付いていませんか。第一陣は後退できましたか?」
「はっ!全て粉塵の中から撤退済みであります」
「なら…」
オルルカンは副官から弓を受け取ると、その先に火の付いた矢をつがえる。
「一網打尽ですね」
火矢が粉塵に向けて飛ぶ。そして、火矢の先端が粉塵に触れた瞬間。
粉塵に火が点き、それが舞い上がった粉塵全てに広がる。
「なっ!?」
「こ、これは」
大爆発が引き起こされ、轟音と爆発による熱線が迫り来る。爆発による煙が晴れると、そこに立っている者はいなかった。
戦車隊、歩兵、全てが等しく黒く焦げ地面に折り重なる様に倒れる。あれほどの爆発を受け、生きている者などいないだろう。それほどの衝撃と熱が、離れていたカゲロウ、そしてオルルカン双方へと感じられたのだ。
「さて、本番はこれからですよ。楽しみましょう、カゲロウ」
◇
山を降りた御剣たちは、倒した迦軍の騎馬兵から馬を何頭か拝借、残りは白狼となったシラヌイに乗ることで、足早にウルイの跡を追った。
「御剣、あなた、何を見たの?」
瑞穂は前で馬の手綱を握る御剣に聞く。
「言葉で言い表すには、難しすぎる光景だった。大地は割れ、空は黒く染まり、一面は火の海と化していた。あれはまるで、根の国の様だった」
「そうだったの。そういえば、御剣は祠にいた時、根の国を見たの?」
「あぁ、根の国の大樹から黄泉の国へと渡った。そこで、先代の御剣だった剣史郎という男に出会ったんだ」
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「知っているのか?」
「うん、カミコに全て教えてもらったから」
カミコはすでに、深層世界で全てのことを瑞穂に伝えていた。唯一分からないのが、現世に潜むタタリの行方とその正体だった。
「タタリは、とても狡猾なの。目的のためなら、何でもする。恐らく、その時が来るまで自分の力や配下を強くして、来るべく日に決起するはず。大和も、奴にとっては手駒の一つに過ぎないわ」
「なら、タタリが今回の件、裏で糸を引いているのか?」
「今回だけじゃないわ。最初からずっと。全て奴の筋書き通りになっているでしょうね」
しばらく道を進むと、村が見えてくる。しかし、その村はすでに迦軍によって焼き払われ、村人たちの遺骸が無惨に転がっているだけとなっていた。
「ここもダメか」
「皆、救えずすまぬ…」
「カヤ、高野まであとどれくらいだ?」
「ここからじゃと、馬を走らせて半刻といったところじゃ」
「なら、急ぎましょう。皆で、ウルイを止めましょう」
そうして再び走り出すこと半刻。ついに、七星将の一人であるコチョウが指揮を執る高野の砦へと到着した。
「これは…」
すでに高野は、攻められたであろう側の城壁が半分くらい崩され、最早突破されるのも時間の問題もとれる状況だった。
「くっ、高野までもか!」
「いや、まだ分からないぞカヤ。砦の方ではまだ戦っている」
御剣が指差した方角では、籠城を諦め打って出たであろう大和軍と、ウルイ率いる迦ノ国軍で衝突が起こっていた。
「コチョウ!早く助けなければ!」
「七星将のコチョウ、彼女が高野で指揮をとっていたのね」
「瑞穂、どうする。俺たちはいつでも出られるぞ」
「行きましょう。私たちはこれより、大和軍に加勢して迦ノ国と戦う。御剣、ここでウルイを仕留めなさい」
「承知した」
「シラヌイ、千代とカヤを任せたわ。他は私についてきなさい」
瑞穂と御剣を先頭にして、迦軍に対して後方から奇襲を仕掛ける。前方の大和兵に気を取られていた迦国兵たちは、突然背後から襲いかかってきた瑞穂たちから奇襲を受けてしまう。
「ほぅ、もう追いついて来たか…」
「ウルイ様、どういたしますか?」
迦国軍の陣形中央、一際大きな馬に跨るウルイの視線は、後方から奇襲をかける瑞穂たちを捉えていた。
「敵の七星将については兇蓮に任せる。千浪、お前には奴らの相手を任せよう。存分に戦うといい」
「御心のままに」
その様子は、砦から討って出たコチョウにも見えていた。
「コチョウ様、迦国軍の背後から皇国皇と思わしき一団が!」
「見えているわ」
「その中に、カヤ殿下もおられるとのこと」
「カヤ様、来ていただけたのですね」
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