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総撃編
第46話 侵攻と真実
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嶺浜より東方 宇都見国 西方 烈
烈の砦は斎国が宇都見国の従属を脱した時から、進攻に備えて防衛部隊の充足化を図っていた。
「なぁ、聞いたか。皇国が胡ノ国、斎国と手を組んで連合軍を結成したって噂」
「そうなのか?」
「俺もついさっき聞いたばかりだが、どうやら将の間で動揺が起こっているらしい」
砦の城壁で見張りの任に就く兵士は、仲間のに噂話をする。
「奴らが連合を組むことなんかあり得るのか?」
「可能性はあり得る。そうなれば、攻めてきた時に真っ先に火の海になるのがこの烈だろう」
「まぁ、あくまで噂。俺たちが防人の任務を終えるまでは、こっちに攻め込んでは来ないだろうよ」
「それなら良いがな…ん?」
兵士は目を細めて遠くを見つめる。
「お、おい。今日は西で演習の予定なんてあったか?」
「いや、確かなかったはずだが。どうしてだ?」
「あれって、何処かの軍じゃないのか?」
地平線の先に見えるのは、平地を埋め尽くすほどの大軍。それは、1日前に嶺浜を出立した三国連合軍であった。
「おやおや、宇都見国の連中はまだ準備していないのかい?」
その大軍を率いる胡ノ国咲洲軍の筆頭、咲洲凶月は、馬に引かせた戦車の上から瓢箪に入った酒を飲み、城壁の上で慌てふためく宇都見国の兵士たちを見てにやりと笑う。
「こちとら端っから全力だぜ。せいぜい気張りなよ」
酒を一口飲んだ凶月は、先頭を走る戦車を止め、地面に降り立つ。
「敵だ!敵が攻めてきたぞ!」
「守備隊総員配置に着け!皇国が攻めてきたぞ!」
城壁の兵士たちは、武器を手に慌てて決められた場所へと配置につく。
「畜生‼︎あと少しで休暇だってのに、何だって任解前に来るんだよ!」
「つべこべ言うな!防衛準備整えろ!」
「投石機、発射準備完了しました!」
「よぉし、ぶちかませぇ!」
烈の城壁に設置された投石機から、凶月たちに向けて投石が行われる。凶月は右手に呪力を纏わせると、目の前に幕の様に結界を創り上げた。
結界の幕によって阻まれ、飛来した石は結界に衝突し粉々に飛散する。凶月は連合軍に降り注ぐはずだった全ての投石を、その結界で防いでしまったのだ。
「なっ、結界だと!?」
「じ、次弾装填急げ!」
「させんよ」
凶月は戦車から飛び降りると、城壁に向かって走り抜ける。そして、右手の拳を握り、後ろに大きく振りかぶった。
「おい、まさか」
「冗談だよな…」
振りかぶった拳を、城壁へと叩きつける。凶月の常人離れした打撃は、叩きつけられた場所から四方に衝撃が広がり、空気を揺らがせる。
「ぶっ飛べ!」
真上の城壁に立っていた兵士たちはその反動で宙に吹き飛ばされる。打撃を受けた城壁は凶月の周囲に大きな凹みを作り、そこから円状にひびが広がっていく。
守備隊長が声を張り上げる。
「ひ、被害報告!」
「た、隊長!砦の西側城壁ひと区画、は、破壊されました!」
「破壊だと!?報告はもっと詳しく行え!」
「申し訳ございません!先ほど、敵将と思われる女が、城壁を一発殴りつけた模様です!」
「な、殴っただけで城壁を破壊するのか…ま、まさか!?」
そして、再び鳴り響く轟音。その衝撃で城壁が揺れ、やがて砂埃が立ち込め、砕け散り破片が周囲に吹き飛ぶ。
「ひゅぅ」
砦内の砂埃が晴れると、そこには瓢箪を片手に酒を飲む凶月が立っていた。
「ふぃ、到着到着っと」
「あぁ、あ…」
「こいつは!」
「さ、咲洲凶月…」
「殲滅の凶月だぁ‼︎」
突如として砦に現れた凶月を、烈の守備兵たちが武器を手に取り囲む。敵軍の中に単騎で乗り込み、その上取り囲まれたこの状況であっても、凶月は余裕の表情を見せていた。
「怯むな!敵はひとりだ!全員で囲んで迎え撃て!」
慌てて兵士たちが自分を取り囲む中、凶月は右手で兵士たちを挑発する。
「や、やってやる!」
「うぉおお、死にやがれぇ!!」
恐怖が人に与える影響は、恐怖に怯え膠着させ、時には恐怖から逃れようとし、そして恐怖を排除しようとする。
兵士たちが凶月から感じ取ったのは、彼女から逃げることができないこの現状で、彼女という存在を排除しようとする衝動を起こさせた。
凶月に向けて、無数の矢と槍、そして人の波が押し寄せる。それを言い表すのなら、まさに絶体絶命の危機。
瓢箪を落ち着いて腕に下げた凶月は、ほのかに赤らめた顔の口角を吊り上げる。
「ぎゃあ!?」
凶月は兵士の一人の顔を鷲掴みにすると、宙に飛び掴んでいた兵士を集団に投げつける。城壁をも破壊するほどの力で投げつけられた兵士は、周囲を囲んでいた他の兵士たちを薙ぎ倒していく。
まるでずた袋を扱うかのように、成人の兵士を軽々と掴んでは振り回し、叩きつける。凶月の周囲には、瞬く間に兵士の死体の山が出来上がった。
「おらおら、どうした掛かってきな!早くあたしを倒さないと、4万の大軍が乗り込んでくるよ!」
しかし、いくら数に勝るも一般兵が殲滅の異名を持つ凶月に全く歯が立たず、一刻も経たずに砦の守備隊は瓦解してしまった。
◇
皇国東方 伊勢野灘
皇国の東方には、伊勢野灘と呼ばれる海が存在する。一年を通して波が穏やかで、海流の影響から多くの魚が獲れる漁場でもあった。
「網を引き揚げるぞ」
「は、はい!」
伊勢野灘の中心では、漁民たちが中型の漁船で沖に向かい、いつもの様に網を使った漁に勤しんでいた。
「おっ、大漁大漁」
「陸じゃあ戦の真っ只中だが、それに比べて海は静かなもんだな」
皇国の東方は国境を接しておらず、代わりに広い海が広がっている。漁師たちがその海面から網を引くと、豊富な種類の魚が引き揚げられる。
「今日はこれくらいにしておくか。天気も悪くなってきたしな…」
漁師が空を見上げると、青かった空はいつの間にか灰色の雲で淀み始めていた。
波も穏やかで種類豊富な漁場である伊勢野灘は、天気の移り変わりが早いという特徴を持っている。
先ほどまで晴れ間が広がっていたのが、いつの間にかどんよりとした雲に包まれている。
漁師たちはきりの良いところで漁を止め、港のある西へ戻ろうとした時だった。
「んだ、ありゃ?」
北東の水平線上に現れた無数の船影。それは水平線を埋め尽くし、海域を西へ、皇国方面に向けて進んでいた。
「ど、どど、どこの船じゃ!?」
「あれは、あれは宇都見国の船だ!!」
帆に描かれているのは、鷹をあしらった宇都見国の国章。宇都見国が誇る海上部隊であり、その総隻は約120にも達する。
「咲耶波様、海上に複数の漁船が航行しておりますが、如何なさいますか?」
「興味ないわ」
「は、はぁ…」
艦隊の先頭を航行する船の甲板、豪華な椅子に腰掛け下男に風を扇がせる咲耶波は、部下からの報告に気ほどの興味も見せなかった。
「それとも、あなた達はその位の判断も私に頼らなければならないほど、無能なのかしら?」
「い、いえっ。滅相もありません」
咲耶波の口調とは裏腹に、甲板に立つ将たちの空気は張り詰めていた。
先の東征軍陣中における咲耶波の行った根切り騒ぎ、その対象になったのが彼女に無能と認定された将軍王離とその配下。例え一国の将軍であっても、自身の感情次第で首を刎ねてしまう。そんな彼女の一挙手一投足を、将たちは緊張しながら見守っていた。
「皇国まであとどの位かしら?」
「最短で行けば、先遣艦が到着するのは今日の暮れ。全艦が到着するのは明日の明朝を予定しております」
「到着すれば報告なさい。それまで、私は奥で休んでいるわ」
咲耶波はそう言うと、男たちを連れて船の中へと入っていく。
咲耶波率いる宇都見国軍が目指すのは、皇国東方。
彼の地における死闘が繰り広げられるまで、あと半日。
◇
戦時中とはいえ、皇都は意外にも穏やかで落ち着いていた。
思い起こせば、あの日以来俺たちの日常にはいつも戦が付きまとっている。それは、民も同じだろう。
俺は皇都の南側、貧困層の住まう地区へと足を運んだ。ここは、緋ノ国時代から社会に囚われることを望まぬ者たちや、戦によって家族を失った者、疫病によって心身喪失に陥った者など、そういった者たちが集まり街を形成していた。
万代都計画によって、都市の区画化が進められる中、真っ先に問題視されたのがこの南側だ。中には貧困層を皇都外へと退去させ、文字通り一掃するという意見もあったが、瑞穂は全く違う選択肢を選んだ。
瑞穂は彼らに、普通の家と、普通の仕事を与えたのだ。
仕事が無ければ犯罪が起き、犯罪が起きれば人が寄り付かなくなる。そうした悪循環を瑞穂は断ち切った。
万代都計画に従って、区画も整えた。
そのおかげで、検非違使ですら数十人の徒党を組まなければ危険だったこの場所も、今では子どもたちが仲良く外で遊び回り、住民たちによる自警団まで出来上がるほどに治安が回復していた。
「おっ、御剣の旦那。いつも世話になってます」
道を歩いていると、任侠者の一人が声をかけて来た。彼は、もともとはこの貧困街を仕切る任侠一派の頭だったが、足を洗う際に俺が面倒を見てやったひとりでもある。
「仕事の方はどうだ?」
「おかげさまで上々ってとこです。ここに来られたのは、例の件で?」
「あぁ」
俺は男に続いて長屋の中へと入る。長屋では男の家族が普通に生活をしていたが、俺は気にすることなく男の後に続いて座敷の奥へと上がる。
「こいつを捕まえるのに、5人が犠牲になりました」
「悪かったな。で、こいつがその一人か?」
「えぇ、いくら脅しても一向に口を割ろうとしません。それ以前に何を聞いても、一言も発しませんが…」
そこにはいたのは、頭巾を目深に被り、柱に括り付けられた黒装束の人物。
「生きているのか?」
「動きませんが、息はしてます」
「こいつはどこで?」
「皇都中心の物資集積所です。そこで何をしていたかは知りませんが、まぁ良からぬことには間違いないでしょうね」
「こいつと話す。少し外してくれ」
俺は部屋から他の者を出す。そして、黒装束の頭巾をめくる。
「お、お前は…」
その男に、俺は見覚えがあった。記憶が間違っていなければ、こいつは真那村で洞窟の見張りをしていたハギリという男だ。こいつの同郷で、俺たちを案内したイスケという男は、神滅刀を奪った黒装束を追う俺たちを妨害するために立ち塞がった。
“なぜ、こいつが…”
「なぜこいつが、そう思っているのだろう。御剣とやら」
「ッ!?」
唐突に口を開いたハギリは、俺の顔を見上げてそう言った。
「お前が俺たちの事を探っているのは分かっている。しかし、その努力は徒労に終わるだろう」
「何を言っているか知らんが、何か知っている様な口ぶりだな?」
「一つ警告しておく。我らを一人や二人倒したとて、主の復活は止められん」
“主だと?”
「我らはただの手足に過ぎぬ」
「貴様らは一体何者だ。主とは誰だ!」
「………」
「答えろ!」
すると、男は高笑いし、その目を赤く輝かせて俺を見て来た。その目は、あの斎国との戦で見た死にかけの黒装束と同じ目をしていた。
「では教えてやろう。我はタタリ、その存在こそが万物の憎しみであり、怨念である。近いうちに、相見えようぞ」
「目的は何だ?」
「我を葬った大御神への復讐だ」
それだけを言い残しハギリは顔をがくりと項垂れさせた。呼吸がなくなり、息絶えていた。
「旦那」
「悪いが、こいつの処理を任せた」
「了解しましたが、成果は得られましたか?」
「あぁ」
俺は立ち上がり部屋を後にする。
◇
皇宮 瑞穂の私室
建国から今この時に至るまで、私の人生は取り憑かれたかのように戦ばかりの日々だ。大切な人を失い、多くの人々の命を奪って来た。それは否定しないし、そもそも否定するつもりもない。
「くぅう…ぐ、ふぅ」
固まった身体をほぐし、最後の巻物を閉じてそのまま後ろへと倒れる。
こうしている間にも、皇都から離れた場所では何百、何千という人の命が失われている。私の一声で、軍が動き、兵士が人の命を奪い、一つの文化に終焉をもたらす。何とも罪深い、そして愚かなものなのだろうか。
それでもなお、皆は私を慕ってついて来てくれる。
「本当に、度し難い」
自分の心の甘さを責める。信念のためとは言え、戦を重ねるごとに人の命を奪うことに躊躇いがなくなって来た。
すると、襖の向こうから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「姉様、失礼しますです」
襖を開けてやって来たのは、小夜だった。小夜はいつも決まった時間になると、こうしてお茶を運んできてくれる。
「いつもありがとう、小夜」
「いえ、こんな事しかできませんし…って、うにゃ!?」
私はお茶を卓に置いてくれた小夜の着物の袖を掴んで、自分の身体へと引き寄せる。小夜は体勢を崩して私の上に倒れ込んだ。もともと小さい身体ゆえか、倒れて来た衝撃はとても軽かった。
「あ、姉様!?」
「いつもやってもらってばっかりだし、今日は私がご褒美をあげる」
「あ、あの、姉様ぁ、あっ、やぁ……」
小さな身体を抱きしめ、後頭部をゆっくりと撫でてやる。少し抵抗しつつも、小夜は逃げようとせず私に身体を委ねていた。
「ふにゅ…姉様の手…気持ち良いです…」
気持ちの良さそうに目を細める小夜を見て、思わず笑みを溢してしまう。抱きしめる小夜からは、ほんのりと薬草の匂いが漂ってくる。おそらく、先ほどまで調合に精を出していたのだろう。
「昨日はシラヌイがいたから出来なかったけど、本当は小夜にこうしてあげたかったの」
「そ、それは…嬉しい…なのですが。だ、誰かが来たら…」
確かに誰かにこの姿を見られては、皇たる私の尊厳も、小夜の尊厳も蔑ろにしてしまう。しかし、この時間に私室まで来るのは、顔役連中くらい。
よって、ここで小夜を存分に堪能したところで、何の問題もない。
「にゃっ、く、くすぐったいのです…」
私がその小さな喉を掻き撫でると、目を細めながらも身体を小さく震わせた。
「ご、ごめん小夜。嫌だった?」
「い、いえ。嫌では…」
そう言って、喉元を私に委ねてくる。
“お姉ちゃん”
「シロ…ッ!?」
「ど、どうしたですか姉様?」
一瞬だった。小夜が白い服に白い髪をした少女に重ねて見えた。そして、無意識に私はその子のことをシロと呼んでいた。
「ううん、何でもないよ」
その子が誰かは、結局分からなかった。私はこの後も、御剣が部屋に来るまで小夜を甘やかしていた。
◇
皇宮の北側、祈ノ間。ここに入ることのできるのは、千代やユーリを初めとする巫女などの神道関係者と、高位の役職、そして皇のみに限られている。
その祈ノ間では、すでに外が暗闇に包まれても灯篭の光が灯され、祭壇の前で祝詞を詠唱する千代の姿があった。
「人智及ばぬ処にあられます大御神や、畏み畏み白す…」
祝詞を唱え終わった千代は、祭壇に向けてゆっくりと頭を下げる。全てが終わったのを見計らい、千代の背後で腰を下ろしていたシラヌイが口を開く。
「流石は斎ノ巫女と言ったところじゃな」
「大神様直々にお褒めいただけるとは光栄です、シラヌイ様。長らくお待たせいたしました。私に何かご用でございましょうか?」
「白雪千代や、其方にいくつか話しておきたいことがあるのじゃ」
「え。私に、でございますか?」
シラヌイは千代に対して、初代斎ノ巫女である白雪舞花のことについて話し始めた。
「初代様の事は存じておりますが、何故にシラヌイ様が初代様のお話を?」
「其方は、自らの生い立ちを知らぬのではないか?」
「生い立ち…」
物心つく前から、七葉に育てられてきたが、本当の母親でない事は知っている。しかし、千代は自分の本当の両親のことについては知っておらず、それを七葉に聞いたこともない。
「シラヌイ様は、私の何をご存知なのですか?」
「全てと言えば偽りにはなるが、妾は瑞穂之命殿がカミコであった時から其方らを側で見てきたのだ。大抵のことなら知っておるつもりじゃ」
そう言うと、シラヌイは千代の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「斎ノ巫女として大御神殿に仕えるのであれば、其方は己のことを理解しておかなければならない」
「……」
「いきなり言われてもどうするか答えられぬだろう。覚悟が出来てからでも…」
「構いません」
「良いのか?」
「斎ノ巫女になったときから、すでに覚悟はできておりました」
篝火が千代の言葉に呼応するかのように揺らいだ。
「妾は神代、所謂大神と人が共存していた時代に大御神殿の下にいた。ある日、大御神殿はある少女を斎ノ巫女として自らに仕えさせた」
「それが、初代様でございますね」
「うむ。舞花は斎ノ巫女として大御神と共に様々な苦難を乗り越えおった。そして、あの大戦が終結し、記憶を取り戻した舞花はある者と結ばれ子を宿したのじゃ」
初代斎ノ巫女に子がいる話は、千代は聞いたことがなかった。
「しかし、舞花はもともと呪詛の呪いを身に受けている上に、度重なる呪力の使い過ぎておった。そのせいで衰弱した身体は、到底出産に耐えられるものではなかったのじゃ。そんな中、ある巫女が代わりに舞花の子を宿り受けることを申し出た」
シラヌイは一呼吸置いてその名を口にする。
「その者の名は七葉」
「七葉…お母様?えっ、ですが初代様がいたのは百数年も前の話。それでは、その七葉という方は私の母と同名ということにしか…」
「何を言っておる。七葉は其方の母君じゃ」
その事実を聞いた千代は唖然とする。
「で、ですが、そうなると私の母の年齢が、とてつもない歳に…」
「一つ言い忘れておったが、其方の母君は歳を取らぬのじゃ」
「歳を取らない、でございますか。それはまるで、母が人ではないと仰るように聞こえますが…」
「その通りじゃ。其方の母君は人ではない」
「えっ…」
「其方の母君は自ら人を捨て、式神となった。そして、大御神殿が生まれ変わるその時まで、初代斎ノ巫女の御子をその身に宿し続けていたのじゃ。そして、大御神殿の生まれ変わりである瑞穂之命殿が生まれ、その身に仕える事が宿命付けられた初代斎ノ巫女の子を、七葉は無事に出産したのじゃ」
そしてシラヌイは、七葉の産んだ子が初代斎ノ巫女と同じ金色の髪を持ち、そして美しい碧眼を持っていると告げた。
「千代、其方は初代斎ノ巫女である舞花の実の娘なのじゃ」
烈の砦は斎国が宇都見国の従属を脱した時から、進攻に備えて防衛部隊の充足化を図っていた。
「なぁ、聞いたか。皇国が胡ノ国、斎国と手を組んで連合軍を結成したって噂」
「そうなのか?」
「俺もついさっき聞いたばかりだが、どうやら将の間で動揺が起こっているらしい」
砦の城壁で見張りの任に就く兵士は、仲間のに噂話をする。
「奴らが連合を組むことなんかあり得るのか?」
「可能性はあり得る。そうなれば、攻めてきた時に真っ先に火の海になるのがこの烈だろう」
「まぁ、あくまで噂。俺たちが防人の任務を終えるまでは、こっちに攻め込んでは来ないだろうよ」
「それなら良いがな…ん?」
兵士は目を細めて遠くを見つめる。
「お、おい。今日は西で演習の予定なんてあったか?」
「いや、確かなかったはずだが。どうしてだ?」
「あれって、何処かの軍じゃないのか?」
地平線の先に見えるのは、平地を埋め尽くすほどの大軍。それは、1日前に嶺浜を出立した三国連合軍であった。
「おやおや、宇都見国の連中はまだ準備していないのかい?」
その大軍を率いる胡ノ国咲洲軍の筆頭、咲洲凶月は、馬に引かせた戦車の上から瓢箪に入った酒を飲み、城壁の上で慌てふためく宇都見国の兵士たちを見てにやりと笑う。
「こちとら端っから全力だぜ。せいぜい気張りなよ」
酒を一口飲んだ凶月は、先頭を走る戦車を止め、地面に降り立つ。
「敵だ!敵が攻めてきたぞ!」
「守備隊総員配置に着け!皇国が攻めてきたぞ!」
城壁の兵士たちは、武器を手に慌てて決められた場所へと配置につく。
「畜生‼︎あと少しで休暇だってのに、何だって任解前に来るんだよ!」
「つべこべ言うな!防衛準備整えろ!」
「投石機、発射準備完了しました!」
「よぉし、ぶちかませぇ!」
烈の城壁に設置された投石機から、凶月たちに向けて投石が行われる。凶月は右手に呪力を纏わせると、目の前に幕の様に結界を創り上げた。
結界の幕によって阻まれ、飛来した石は結界に衝突し粉々に飛散する。凶月は連合軍に降り注ぐはずだった全ての投石を、その結界で防いでしまったのだ。
「なっ、結界だと!?」
「じ、次弾装填急げ!」
「させんよ」
凶月は戦車から飛び降りると、城壁に向かって走り抜ける。そして、右手の拳を握り、後ろに大きく振りかぶった。
「おい、まさか」
「冗談だよな…」
振りかぶった拳を、城壁へと叩きつける。凶月の常人離れした打撃は、叩きつけられた場所から四方に衝撃が広がり、空気を揺らがせる。
「ぶっ飛べ!」
真上の城壁に立っていた兵士たちはその反動で宙に吹き飛ばされる。打撃を受けた城壁は凶月の周囲に大きな凹みを作り、そこから円状にひびが広がっていく。
守備隊長が声を張り上げる。
「ひ、被害報告!」
「た、隊長!砦の西側城壁ひと区画、は、破壊されました!」
「破壊だと!?報告はもっと詳しく行え!」
「申し訳ございません!先ほど、敵将と思われる女が、城壁を一発殴りつけた模様です!」
「な、殴っただけで城壁を破壊するのか…ま、まさか!?」
そして、再び鳴り響く轟音。その衝撃で城壁が揺れ、やがて砂埃が立ち込め、砕け散り破片が周囲に吹き飛ぶ。
「ひゅぅ」
砦内の砂埃が晴れると、そこには瓢箪を片手に酒を飲む凶月が立っていた。
「ふぃ、到着到着っと」
「あぁ、あ…」
「こいつは!」
「さ、咲洲凶月…」
「殲滅の凶月だぁ‼︎」
突如として砦に現れた凶月を、烈の守備兵たちが武器を手に取り囲む。敵軍の中に単騎で乗り込み、その上取り囲まれたこの状況であっても、凶月は余裕の表情を見せていた。
「怯むな!敵はひとりだ!全員で囲んで迎え撃て!」
慌てて兵士たちが自分を取り囲む中、凶月は右手で兵士たちを挑発する。
「や、やってやる!」
「うぉおお、死にやがれぇ!!」
恐怖が人に与える影響は、恐怖に怯え膠着させ、時には恐怖から逃れようとし、そして恐怖を排除しようとする。
兵士たちが凶月から感じ取ったのは、彼女から逃げることができないこの現状で、彼女という存在を排除しようとする衝動を起こさせた。
凶月に向けて、無数の矢と槍、そして人の波が押し寄せる。それを言い表すのなら、まさに絶体絶命の危機。
瓢箪を落ち着いて腕に下げた凶月は、ほのかに赤らめた顔の口角を吊り上げる。
「ぎゃあ!?」
凶月は兵士の一人の顔を鷲掴みにすると、宙に飛び掴んでいた兵士を集団に投げつける。城壁をも破壊するほどの力で投げつけられた兵士は、周囲を囲んでいた他の兵士たちを薙ぎ倒していく。
まるでずた袋を扱うかのように、成人の兵士を軽々と掴んでは振り回し、叩きつける。凶月の周囲には、瞬く間に兵士の死体の山が出来上がった。
「おらおら、どうした掛かってきな!早くあたしを倒さないと、4万の大軍が乗り込んでくるよ!」
しかし、いくら数に勝るも一般兵が殲滅の異名を持つ凶月に全く歯が立たず、一刻も経たずに砦の守備隊は瓦解してしまった。
◇
皇国東方 伊勢野灘
皇国の東方には、伊勢野灘と呼ばれる海が存在する。一年を通して波が穏やかで、海流の影響から多くの魚が獲れる漁場でもあった。
「網を引き揚げるぞ」
「は、はい!」
伊勢野灘の中心では、漁民たちが中型の漁船で沖に向かい、いつもの様に網を使った漁に勤しんでいた。
「おっ、大漁大漁」
「陸じゃあ戦の真っ只中だが、それに比べて海は静かなもんだな」
皇国の東方は国境を接しておらず、代わりに広い海が広がっている。漁師たちがその海面から網を引くと、豊富な種類の魚が引き揚げられる。
「今日はこれくらいにしておくか。天気も悪くなってきたしな…」
漁師が空を見上げると、青かった空はいつの間にか灰色の雲で淀み始めていた。
波も穏やかで種類豊富な漁場である伊勢野灘は、天気の移り変わりが早いという特徴を持っている。
先ほどまで晴れ間が広がっていたのが、いつの間にかどんよりとした雲に包まれている。
漁師たちはきりの良いところで漁を止め、港のある西へ戻ろうとした時だった。
「んだ、ありゃ?」
北東の水平線上に現れた無数の船影。それは水平線を埋め尽くし、海域を西へ、皇国方面に向けて進んでいた。
「ど、どど、どこの船じゃ!?」
「あれは、あれは宇都見国の船だ!!」
帆に描かれているのは、鷹をあしらった宇都見国の国章。宇都見国が誇る海上部隊であり、その総隻は約120にも達する。
「咲耶波様、海上に複数の漁船が航行しておりますが、如何なさいますか?」
「興味ないわ」
「は、はぁ…」
艦隊の先頭を航行する船の甲板、豪華な椅子に腰掛け下男に風を扇がせる咲耶波は、部下からの報告に気ほどの興味も見せなかった。
「それとも、あなた達はその位の判断も私に頼らなければならないほど、無能なのかしら?」
「い、いえっ。滅相もありません」
咲耶波の口調とは裏腹に、甲板に立つ将たちの空気は張り詰めていた。
先の東征軍陣中における咲耶波の行った根切り騒ぎ、その対象になったのが彼女に無能と認定された将軍王離とその配下。例え一国の将軍であっても、自身の感情次第で首を刎ねてしまう。そんな彼女の一挙手一投足を、将たちは緊張しながら見守っていた。
「皇国まであとどの位かしら?」
「最短で行けば、先遣艦が到着するのは今日の暮れ。全艦が到着するのは明日の明朝を予定しております」
「到着すれば報告なさい。それまで、私は奥で休んでいるわ」
咲耶波はそう言うと、男たちを連れて船の中へと入っていく。
咲耶波率いる宇都見国軍が目指すのは、皇国東方。
彼の地における死闘が繰り広げられるまで、あと半日。
◇
戦時中とはいえ、皇都は意外にも穏やかで落ち着いていた。
思い起こせば、あの日以来俺たちの日常にはいつも戦が付きまとっている。それは、民も同じだろう。
俺は皇都の南側、貧困層の住まう地区へと足を運んだ。ここは、緋ノ国時代から社会に囚われることを望まぬ者たちや、戦によって家族を失った者、疫病によって心身喪失に陥った者など、そういった者たちが集まり街を形成していた。
万代都計画によって、都市の区画化が進められる中、真っ先に問題視されたのがこの南側だ。中には貧困層を皇都外へと退去させ、文字通り一掃するという意見もあったが、瑞穂は全く違う選択肢を選んだ。
瑞穂は彼らに、普通の家と、普通の仕事を与えたのだ。
仕事が無ければ犯罪が起き、犯罪が起きれば人が寄り付かなくなる。そうした悪循環を瑞穂は断ち切った。
万代都計画に従って、区画も整えた。
そのおかげで、検非違使ですら数十人の徒党を組まなければ危険だったこの場所も、今では子どもたちが仲良く外で遊び回り、住民たちによる自警団まで出来上がるほどに治安が回復していた。
「おっ、御剣の旦那。いつも世話になってます」
道を歩いていると、任侠者の一人が声をかけて来た。彼は、もともとはこの貧困街を仕切る任侠一派の頭だったが、足を洗う際に俺が面倒を見てやったひとりでもある。
「仕事の方はどうだ?」
「おかげさまで上々ってとこです。ここに来られたのは、例の件で?」
「あぁ」
俺は男に続いて長屋の中へと入る。長屋では男の家族が普通に生活をしていたが、俺は気にすることなく男の後に続いて座敷の奥へと上がる。
「こいつを捕まえるのに、5人が犠牲になりました」
「悪かったな。で、こいつがその一人か?」
「えぇ、いくら脅しても一向に口を割ろうとしません。それ以前に何を聞いても、一言も発しませんが…」
そこにはいたのは、頭巾を目深に被り、柱に括り付けられた黒装束の人物。
「生きているのか?」
「動きませんが、息はしてます」
「こいつはどこで?」
「皇都中心の物資集積所です。そこで何をしていたかは知りませんが、まぁ良からぬことには間違いないでしょうね」
「こいつと話す。少し外してくれ」
俺は部屋から他の者を出す。そして、黒装束の頭巾をめくる。
「お、お前は…」
その男に、俺は見覚えがあった。記憶が間違っていなければ、こいつは真那村で洞窟の見張りをしていたハギリという男だ。こいつの同郷で、俺たちを案内したイスケという男は、神滅刀を奪った黒装束を追う俺たちを妨害するために立ち塞がった。
“なぜ、こいつが…”
「なぜこいつが、そう思っているのだろう。御剣とやら」
「ッ!?」
唐突に口を開いたハギリは、俺の顔を見上げてそう言った。
「お前が俺たちの事を探っているのは分かっている。しかし、その努力は徒労に終わるだろう」
「何を言っているか知らんが、何か知っている様な口ぶりだな?」
「一つ警告しておく。我らを一人や二人倒したとて、主の復活は止められん」
“主だと?”
「我らはただの手足に過ぎぬ」
「貴様らは一体何者だ。主とは誰だ!」
「………」
「答えろ!」
すると、男は高笑いし、その目を赤く輝かせて俺を見て来た。その目は、あの斎国との戦で見た死にかけの黒装束と同じ目をしていた。
「では教えてやろう。我はタタリ、その存在こそが万物の憎しみであり、怨念である。近いうちに、相見えようぞ」
「目的は何だ?」
「我を葬った大御神への復讐だ」
それだけを言い残しハギリは顔をがくりと項垂れさせた。呼吸がなくなり、息絶えていた。
「旦那」
「悪いが、こいつの処理を任せた」
「了解しましたが、成果は得られましたか?」
「あぁ」
俺は立ち上がり部屋を後にする。
◇
皇宮 瑞穂の私室
建国から今この時に至るまで、私の人生は取り憑かれたかのように戦ばかりの日々だ。大切な人を失い、多くの人々の命を奪って来た。それは否定しないし、そもそも否定するつもりもない。
「くぅう…ぐ、ふぅ」
固まった身体をほぐし、最後の巻物を閉じてそのまま後ろへと倒れる。
こうしている間にも、皇都から離れた場所では何百、何千という人の命が失われている。私の一声で、軍が動き、兵士が人の命を奪い、一つの文化に終焉をもたらす。何とも罪深い、そして愚かなものなのだろうか。
それでもなお、皆は私を慕ってついて来てくれる。
「本当に、度し難い」
自分の心の甘さを責める。信念のためとは言え、戦を重ねるごとに人の命を奪うことに躊躇いがなくなって来た。
すると、襖の向こうから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「姉様、失礼しますです」
襖を開けてやって来たのは、小夜だった。小夜はいつも決まった時間になると、こうしてお茶を運んできてくれる。
「いつもありがとう、小夜」
「いえ、こんな事しかできませんし…って、うにゃ!?」
私はお茶を卓に置いてくれた小夜の着物の袖を掴んで、自分の身体へと引き寄せる。小夜は体勢を崩して私の上に倒れ込んだ。もともと小さい身体ゆえか、倒れて来た衝撃はとても軽かった。
「あ、姉様!?」
「いつもやってもらってばっかりだし、今日は私がご褒美をあげる」
「あ、あの、姉様ぁ、あっ、やぁ……」
小さな身体を抱きしめ、後頭部をゆっくりと撫でてやる。少し抵抗しつつも、小夜は逃げようとせず私に身体を委ねていた。
「ふにゅ…姉様の手…気持ち良いです…」
気持ちの良さそうに目を細める小夜を見て、思わず笑みを溢してしまう。抱きしめる小夜からは、ほんのりと薬草の匂いが漂ってくる。おそらく、先ほどまで調合に精を出していたのだろう。
「昨日はシラヌイがいたから出来なかったけど、本当は小夜にこうしてあげたかったの」
「そ、それは…嬉しい…なのですが。だ、誰かが来たら…」
確かに誰かにこの姿を見られては、皇たる私の尊厳も、小夜の尊厳も蔑ろにしてしまう。しかし、この時間に私室まで来るのは、顔役連中くらい。
よって、ここで小夜を存分に堪能したところで、何の問題もない。
「にゃっ、く、くすぐったいのです…」
私がその小さな喉を掻き撫でると、目を細めながらも身体を小さく震わせた。
「ご、ごめん小夜。嫌だった?」
「い、いえ。嫌では…」
そう言って、喉元を私に委ねてくる。
“お姉ちゃん”
「シロ…ッ!?」
「ど、どうしたですか姉様?」
一瞬だった。小夜が白い服に白い髪をした少女に重ねて見えた。そして、無意識に私はその子のことをシロと呼んでいた。
「ううん、何でもないよ」
その子が誰かは、結局分からなかった。私はこの後も、御剣が部屋に来るまで小夜を甘やかしていた。
◇
皇宮の北側、祈ノ間。ここに入ることのできるのは、千代やユーリを初めとする巫女などの神道関係者と、高位の役職、そして皇のみに限られている。
その祈ノ間では、すでに外が暗闇に包まれても灯篭の光が灯され、祭壇の前で祝詞を詠唱する千代の姿があった。
「人智及ばぬ処にあられます大御神や、畏み畏み白す…」
祝詞を唱え終わった千代は、祭壇に向けてゆっくりと頭を下げる。全てが終わったのを見計らい、千代の背後で腰を下ろしていたシラヌイが口を開く。
「流石は斎ノ巫女と言ったところじゃな」
「大神様直々にお褒めいただけるとは光栄です、シラヌイ様。長らくお待たせいたしました。私に何かご用でございましょうか?」
「白雪千代や、其方にいくつか話しておきたいことがあるのじゃ」
「え。私に、でございますか?」
シラヌイは千代に対して、初代斎ノ巫女である白雪舞花のことについて話し始めた。
「初代様の事は存じておりますが、何故にシラヌイ様が初代様のお話を?」
「其方は、自らの生い立ちを知らぬのではないか?」
「生い立ち…」
物心つく前から、七葉に育てられてきたが、本当の母親でない事は知っている。しかし、千代は自分の本当の両親のことについては知っておらず、それを七葉に聞いたこともない。
「シラヌイ様は、私の何をご存知なのですか?」
「全てと言えば偽りにはなるが、妾は瑞穂之命殿がカミコであった時から其方らを側で見てきたのだ。大抵のことなら知っておるつもりじゃ」
そう言うと、シラヌイは千代の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「斎ノ巫女として大御神殿に仕えるのであれば、其方は己のことを理解しておかなければならない」
「……」
「いきなり言われてもどうするか答えられぬだろう。覚悟が出来てからでも…」
「構いません」
「良いのか?」
「斎ノ巫女になったときから、すでに覚悟はできておりました」
篝火が千代の言葉に呼応するかのように揺らいだ。
「妾は神代、所謂大神と人が共存していた時代に大御神殿の下にいた。ある日、大御神殿はある少女を斎ノ巫女として自らに仕えさせた」
「それが、初代様でございますね」
「うむ。舞花は斎ノ巫女として大御神と共に様々な苦難を乗り越えおった。そして、あの大戦が終結し、記憶を取り戻した舞花はある者と結ばれ子を宿したのじゃ」
初代斎ノ巫女に子がいる話は、千代は聞いたことがなかった。
「しかし、舞花はもともと呪詛の呪いを身に受けている上に、度重なる呪力の使い過ぎておった。そのせいで衰弱した身体は、到底出産に耐えられるものではなかったのじゃ。そんな中、ある巫女が代わりに舞花の子を宿り受けることを申し出た」
シラヌイは一呼吸置いてその名を口にする。
「その者の名は七葉」
「七葉…お母様?えっ、ですが初代様がいたのは百数年も前の話。それでは、その七葉という方は私の母と同名ということにしか…」
「何を言っておる。七葉は其方の母君じゃ」
その事実を聞いた千代は唖然とする。
「で、ですが、そうなると私の母の年齢が、とてつもない歳に…」
「一つ言い忘れておったが、其方の母君は歳を取らぬのじゃ」
「歳を取らない、でございますか。それはまるで、母が人ではないと仰るように聞こえますが…」
「その通りじゃ。其方の母君は人ではない」
「えっ…」
「其方の母君は自ら人を捨て、式神となった。そして、大御神殿が生まれ変わるその時まで、初代斎ノ巫女の御子をその身に宿し続けていたのじゃ。そして、大御神殿の生まれ変わりである瑞穂之命殿が生まれ、その身に仕える事が宿命付けられた初代斎ノ巫女の子を、七葉は無事に出産したのじゃ」
そしてシラヌイは、七葉の産んだ子が初代斎ノ巫女と同じ金色の髪を持ち、そして美しい碧眼を持っていると告げた。
「千代、其方は初代斎ノ巫女である舞花の実の娘なのじゃ」
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