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再思編
第40話 二つの選択肢
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斎国 国都
斎国の首都たる場所には名はなく、国の都、国都と呼ばれている。これは、斎国が宇都見国の属国であり、独自の文化を築くことが許されなかった事に起因する。
その国都の中心部に位置する宮殿には、仮初の権力者として君臨する烈丕の姿があった。
「越境から4日経つ、未だ何の情報も入ってこないのか…」
「申し訳ございません。国都に戻ってくるはずの早馬が何らかの理由で足止めされていて」
本来であれば、遠く離れた地での出来事を本国に伝えるため、伝馬を用いた伝使が情報伝達を行う。
しかし、南征軍が国境を越えて今日に至るまで、前線の情報が全くと言っていいほど入ってこない状態が続いていた。
実は、琥珀をはじめ各地に放たれた刑部に所属する志能備たちが、国都に向かう伝者を片っ端から始末しているのだ。
徹底した情報管理と証拠隠滅によって、琥珀
たちの存在は斎国に悟られていない。そのため、伝者が敵方に始末されていることすら、烈丕たちは気付いていない。
「急いで情報をかき集めてくれ。これは本国との共同戦線だ。でなければ、我らの不手際になってしまい、責任を取らなくては…」
烈丕が不安に駆られる中、政務室に息を切らした文官が走り込んできた。
「ほ、報告します!国都周辺に多数の軍勢あり!旗印から見て、軍勢は皇国、そして胡ノ国と思われます!」
「何だって!?」
「そのような兆候はなかったぞ!」
「現在、この国都は敵軍に完全に包囲されています…」
「何と言うことだ…」
烈丕は背もたれにぐったりともたれかかる。南征が失敗に終わり、その責任をどう取るか吟味しなくてはならない中、すでに敵軍に国の中心であるこの国都が包囲されているのだ。
国都の周辺を守備していた自軍は撃退されたか、もしくは敗走したとみるべきだ。
勝利を前提に編成した南征軍が国軍のほとんどを占めていたことから、本土に兵士は今ほとんど残っておらず、国都の守備隊も必要最低限の数しかいない。
それ以前に、自分たちが敗北を喫し、逆に国土を攻め込まれるという考えを持っていなかったのが、何よりもこの事態を引き起こした一番の要因であった。
「敵軍より、使いの者がこれを」
文官から受け取った巻物を見た烈丕は、その内容に腰を抜かしそうになる。
『会談の場を設けよ。列席は三国の首長のみとする』
それは、皇国の皇姫である瑞穂、胡ノ国の輝夜姫、そして斎国の長である烈丕の三人による会談の申し入れだった。
◇
「遂に辿り着いたわね…」
国都の様相を一望できる丘の上に私たちはいた。国境を越えて斎国の領地へとやってきた私たちは、道中の守備隊を突破し、国の中心たる国都へと軍を進めていた。
周囲は簡素な城壁に囲まれているだけだが、問題は、斎国の国都は平坦な地形ではなく、山を切り開いて造られた高低差のある町となっている事だ。
平坦な地形であれば、勢いに任せて突撃を敢行すれば容易く侵入できるが、その高低差が天然の防壁としての役割を担っているのだ。
「何か、手はないかしら…」
「正面突破はどう?」
「それもいいけど。実のところは、あまり相手に被害を出したくないわ」
「どうしてなのですか?」
ある意味、この戦いが初めて私たちが経験する初めての侵略であった。これまでは自国領土での防衛戦ばかりであったが、ここは明らかに他国の領土。
統一を目指す私にとって、戦いの勝利を欲するのはもちろんのことであったが、何よりも勝利した後のことを考えていた。
侵略者による占領統治、それがもたらすのは戦への飽くなき怨嗟、統治者への憎しみ。
占領とはその国の文化を否定し、従順を強要する行為なのだ。
圧政からの解放という大義名分を掲げたとしても、視点が変われば解放は更なる抑圧を生んでしまう。
例えそれが先に相手が侵攻したとしても。
そこで私は、ある作戦を取る事にした。
「待たせたわね、瑞穂皇」
振り返るとそこには、月姫と称される麗人。
胡ノ国の皇姫、華宵輝夜姫がいた。
◇
斎国軍は南征に参加した2万の軍勢が全滅を喫し、残った本国軍が1万。国都の防衛についているのは、そのうち約5千。
対する皇国軍は、千賀の兵士を補充することで、現在1万5千の戦力を保持している。
そこに北から援軍として南下してきた胡ノ国軍約8千が加わる。
戦力差は圧倒的であった。
胡皇連合軍によって、斎国の国都は完全に包囲された。
一触即発の状況であったが、瑞穂と咲夜は一向に動こうとしなかった。
それには理由があった。
「まさか、このような場を設ける事になるとは…」
そう切り出すのは、斎国の元首である烈丕。
瑞穂たちは、無血での占領、もしくは講和による同盟関係を結ぶことを目的に、烈丕に会談を持ちかけたのだ。
彼は目の前に座る瑞穂と輝夜を見る。
彼にとって今この場は、二人の敵国の国家元首を討ち取ることができる絶好の機会だ。
しかし、それをすることができない。国都の周りが倍ほどの兵に囲まれ、護衛には腕の立つ武人が何人もいる。
ここで二人を斬ったとしても、良い結果にならないのは明白であることを、烈丕は理解していた。
「さて、斎国の烈丕殿。貴公に問う」
「何でしょう…」
瑞穂の言葉に、烈丕は不安げな表情を見せる。
「貴公には二つの選択肢が存在するわ。一つは、このまま私たちと戦い、国として最後を迎えること」
「脅しでしょうか。そのような脅しに屈するわけには…」
一つ目の選択肢は、ごく普通の内容だ。戦いで勝敗を決め、その結果に従う。
この選択肢に答えなどない。あるのは、分かりきった敗北という結果だけだった。
「そして二つ目。これは貴公の気持ち、否、心に直接問いたい」
まるで吸い込まれそうな魅力を持つ彼女の瞳が、真っ直ぐ烈丕を見つめる。
「私と一緒に、新しい世界を見てみたいと思わない?」
「新しい、世界?」
予想だにしない選択肢の内容に、烈丕はしばらく思考することに時間を要した。
「その、新しい世界とは?」
「大御神を頂点とし、この神州が一つの国に纏められた世界。戦や争いもない、真の太平の世。私はそんな世を創るのが夢なの」
「人の争わない世…。あなたは本気で、そんな世が創れると思っているのですか?」
あまりにも率直で、綺麗事に聞こえるその説明に、烈丕は疑問を抱いた。
「可能よ」
烈丕の疑問に答えたのは、瑞穂の隣に座っていた輝夜姫だった。
「輝夜姫、同じ華河族としてお聞きします。貴女はいかなる理由で、皇国皇に賛同された?」
「私は、皇国皇の夢と志に惚れたわ」
「夢と志であられますか」
「烈丕、私たち人はこの乱世を生き残るために、様々な道を歩き、そして今を生きた。大和、迦ノ国、そして宇都見国といった大国が覇権を争う群雄割拠の時代。私は皇国皇の夢が叶えられた世界を思い浮かべてみた…。そこには、一切の差別なく。そして、争いのない太平の世。誰もが平等に暮らす世…」
「平等な世…」
「さぁ、どうする斎国の長よ。このまま大国の属国としてこの世から消えるか、それとも私と一緒に、夢を追いかけてみるか」
しばらく時間を置き、烈丕は瞑っていた目をゆっくりと見開いた。
「これは、私が属国として仮初の王としての最後の役目となりますね。分かりました、良いでしょう。私たち斎国人は、貴女に付きましょう」
◇
瑞穂たちが会談に勤しんでいる中、護衛である俺と藤香は邪魔が入らない様に部屋の外で待っていた。
本来であれば、会談の最中も瑞穂の側に控えておきたかったが、国の代表同士の会話には、護衛であってもおいそれと列席するわけにもいかなかった。
「久方ぶりでございますね。従者御剣殿」
「確か、輝夜姫の従者の…」
「輝夜姫の侍女、日和でございます。そちらの方は?」
「皇国左近衛大将、藤香」
「藤香殿でございましたか。先の戦のご活躍はかねがね伺っております」
異国風の衣装を身に纏った日和は、俺たちと同じように外で待つように指示されたらしい。
「なぜ、輝夜姫がここに?」
「貴国の宰相であるユーリ様から、使いの者と親書をお受けしました。本来であれば、貴国に援軍を送りたいところでしたが、地理的要因から皇国への援軍は断念しました。ですが、ここ斎国であれば我が国とは隣国。すぐにでも出向くことができましたという訳です」
「それで、この会談を持ちかけ、わざわざ王都から出向いたのね」
「その通りです。私たち胡ノ国と斎国は同じ華河族ですから。紆余曲折があったとしても、同胞同士で血を流すことはなるべく避けたいものです」
「ッ!?」
俺たちがそんな話をしていると、こちらに向けて歩いてくる一団がいる事に気づいた。
「何だ、あいつら?」
先頭を歩くのは、紫を基調とした着物に身を包み、煙管を蒸かした妖美な女。
その女は後ろに何人もの美形な男を引き連れている。
左手が無意識に刀の鍔に触れる。本能が、この女は危険だと警告しているのだ。
その女からは邪悪な力を感じた。
その背から蠢くように現れる邪悪な呪力の渦。女は俺の前までやってくると、その雪のように白い顔でほくそ笑む。
「なっ、なっ…」
女の顔を見た日和が、言葉を失って呆然とする。
「へぇ、初めて見るけども、中々良い男じゃないの。あなたが御剣くんかしらぁ?」
「う、宇都見国王妃、咲耶波姫…」
日和がそう言うと、女は舌舐めずりをして俺の顔を覗き込んできた。
「宇都見国の王妃だと…?」
「あらぁ。どこかで見たかと思ったら、あなた輝夜の侍女だったかしら。ということは、輝夜もいるのね」
咲耶波と呼ばれた女は会談の行われている部屋へと入ろうとする。
俺は女の前に立ちはだかる。
「何が目的かは知らんが、ここを通すわけにはいかん」
「あらあら。怖い顔したら、せっかくのいい顔が台無しだわぁ。別に、とって食ったりやしないから」
俺は、身体が小刻みに震えている事に気づく。
咲耶波は目を細めて笑う。
「皇国の皇姫、瑞穂之命って子に会わせてくれないかしら」
「出来ない。貴女をここへ立ち入らせる理由がない」
「ふぅん。どうしても、そこを退かないつもりかしら?」
冷たい、氷土の如き冷たい視線だった。その視線を向けられたのが普通の人間ならば、恐怖のあまり気を失ってしまうのではないかと思う。
それほど、この人物の纏う雰囲気は異質だ。
「ふふ、まぁいいわ。面白そうな話にさじを投げるような無粋な真似はしたくないのが、私の本音だからね。例えそれが、講和なり同盟なりの話であってもね」
咲耶波はそう言うと、両手で俺の両頬に触れてきた。
その手は冷たく、一切の温もりすら感じられなかった。
「ッ!?」
「気に入ったわぁ。どうかしら、私の元にくる気はない?」
「えっ!?」
「な、何を言って…」
刀を持つ左手が握られている。その力はとてつもなく強力で、自分の意思でまともに動かすことができなかった。
「何をしている!」
その声が響くと、その場にいた全員が動きを止めた。
「私の従者から離れなさい」
会談を行なっていた部屋から出てきた瑞穂の声だった。瑞穂の背後には輝夜姫、そして斎国の長である烈丕が立っている。
「さ、咲耶波姫っ!?」
「久しぶりね、烈丕。それに、輝夜」
驚き動揺する烈丕とは対照的に、輝夜は落ち着いて状況を理解する。どうやら、輝夜はこの女が発する異様な空気を感じとっていたらしい。
「やはり、貴女だったのね。これほどまで澱んだ呪力は、私が知っている中だったら、貴女ぐらいだもの」
咲耶波はそう言った輝夜から、隣に立つ瑞穂へと視線を向ける。視線を向けられた瑞穂は、表情を硬らせる。
「あなたが、皇国の皇姫、瑞穂之命かしら」
「えぇ、そうよ。宇都見国の王妃、咲耶波姫。こうしてあなたと会うのは、初めてね」
「敵同士だからねぇ。それにしてもあなた、期待していたほどの人物じゃなさそうね」
「なっ!?」
咲耶波は瑞穂に近づく。俺は間に入ろうとするが、瑞穂自身に手で制さた。
"構わない"
そう聞こえた俺は、いつでも動ける様に準備をしておく。
煙管を咥えた咲耶波は、吸い込んだ煙を瑞穂の顔にわざとまとわり付く様に吐き出す。
「その様子じゃ、和平なりが成立したって感じね」
「………」
「皇国皇、私から一つ忠告しておくわ。斎国を無血で引き込んだからって、油断しないほうがいいわよ。確かに斎国は宇都見国の属国、軍の大半が壊滅した現状でも、味方に引き入れればその影響力は絶大。でもねぇ、この国がどういう立場にあって、どういう位置に存在するのか、考えてみるといいわ」
恐らく、咲耶波は斎国の地理的重要性について説いているのだろう。
「…話はそれだけ?」
予想外の反応であったが、瑞穂は素っ気なく返す。
「ふぅん、そんな反応するの。可愛くないわねぇ」
「さっきから聞いていれば、失礼極まりないわ。仮にも一国の王妃なら、同等の相手に対してそれ相応の態度を見せるべきよ」
「………」
その場にいたほとんどの人間が背筋を凍らすような一言。しかし、瑞穂は一切の感情も込めず、ただ淡々と言葉を発する。
「言うじゃないの小娘。私とあなたが同等?妄言ね、身の丈に合った話し方をなさい」
「身の丈など関係ないわ。確かに国力の差は、皇国と宇都見国では天と地ほどの差がある。でも、それを理解した上で、一国の長と同等に会話することができるのが、大国の長の器じゃなくて?」
「くくく、あははは!いやぁ、これほどまでとはねぇ。気に入ったわ。私は、あなたのことを存分に気に入ったわ」
咲耶波は瑞穂に背を向け、その場から立ち去ろうとする。
「近々、宇都見国は兵を挙げる。私が催す狂気の戦を前に、精々部屋の隅で怯えているといいわ。私の戦は、残酷だから」
その場にいた誰も、その言葉に反論することができなかった。
宇都見国の王妃である咲耶波姫が突然現れるという偶然があったものの、胡ノ国を含めた会談は、斎国が宇都見国に対する従属から離反するという結果となった。
これにより、皇国は北の胡ノ国、南の皇国、そして二国に挟まれる斎国という縦の同盟線が築かれた。
◇
斎国・宇都見国の連合軍との戦いから約半月。皇国領土内に残った残党の処理を終えた瑞穂率いる第6軍は、北部の防衛を担う部隊を残し、約半数が本拠地である皇都へと帰還を果たしていた。
皇都の外周では、皇民たちが城壁の上に登り、帰還してくる第6軍の兵士たちを盛大に出迎えた。
死闘を繰り広げた第6軍の兵士たちは疲弊しきっていた。斎国と講和が成ったとはいえ、宇都見国との戦いは続いており、戦力の半分を防衛に回す必要があった。
瑞穂は、残留し北部の防衛任務に就く第6軍第1防衛隊の指揮をローズとリュウに任せ、先の皇都へと戻ってきた。
「戻ったわ。私の留守の間、皇都を守ってくれてありがとう」
瑞穂は皇宮で出迎えた仁たちに礼を言う。
「姉様ぁ!」
「わっ、さ、小夜っ!?」
半月ぶりに帰ってきた瑞穂に、涙を浮かべた小夜が抱きつく。
「良かったです。ご無事で、本当に良かったです…」
「ただいま、小夜」
「おかえりなのです、姉様」
涙目になって笑顔を見せる小夜を、瑞穂は優しく頭を撫でる。
小夜が落ち着いたのを見計らって、仁が瑞穂に頭を下げる。
「聖上、お戻りになられて早々で申し訳ございませんが、聖上を訪ねてきた者たちがいます」
「私を?」
「はい。その者たちはカヤと名乗る少女を中心とした一団で、聖上に目通りをするために半月前から城下に滞在しておりました」
「半月前?それって、斎国との戦が始まってからのことよね」
「はい、そうなりますね」
訪ねた相手が戦に出征しているとなれば、その帰還がいつになるのかも分からないものだ。瑞穂は律儀に自分の帰りを待っていたその一団を評価した。
「この後、その一団に会ってみるわ。その前に、身なりを整えるから、その間に皇城へ案内しておいて」
「承知しました」
瑞穂は千代やミィアンたちを連れて、皇城の一画にある大浴場へと向かった。
◇
湯浴みの後、謁見の間に向かう。
そこで彼女たちを最初に見た印象は、外見とは裏腹にどこか貴賓のある印象だった。
その動作は、特別な教育を受けているため、ここまで鮮麗されているのだろう。
外見で判断してはいけないと悟った。そして、私は緩みかけていた兜の緒を締めて臨む。
眼帯を着けた銀髪の女性が頭を下げると、その横に控えていた少女、そしてその後ろの侍女たちが一斉に座礼を行った。
「お初にお目に掛かります、豊葦原瑞穂皇国皇、瑞穂之命様。この度は、御拝謁の機会を与えてくださり、一同感謝いたしております」
「面を上げていただいて結構です」
「では、お言葉に甘えて。申し遅れました。私、この一団のまとめ役を担っております、シオンと申します。以後、お見知り置きを」
シオンと名乗った女性は再び頭を下げる。
「シオン殿、此度、貴女らはどの様な用件で皇国へ参られた?」
「我らが帝より、皇国皇へお渡しする親書を預かっております」
「帝?」
ユーリからその親書を受け取った私は、その親書に押されていた封蝋の璽を見て唖然とする。
そこに描かれていたのは、【大和朝廷帝】
の文字だった。
「帝は是非とも帝京にて、皇国皇を歓待したいと申されております」
「では、貴女たちは…」
私の問いに、シオンの横に座っていた赤髪の少女が口を開く。
「身分を隠していたことを許してほしい。余はカヤ。現帝の帝位後継者である」
◇
宇都見国 後宮
後宮、ここは元王の妃である咲耶波姫をはじめ、宮殿で仕事をする宮女たちの生活の場となっている。
その後宮の、最奥部。そこには、ごく一部の限られた宮女のみしか近づくことを許されていない離れがあった。
なぜならその離れは、咲耶波姫の居所であるからだ。
「姫様、どうか、お許しを、アァッ!?」
闇に包まれた一室に乾いた殴打の音が響き渡る。
「どうした、もっと鳴け」
そこでは、恥部などを曝け出した状態の咲耶波姫が、目隠しをさせられた数人の全裸の男と戯れていた。
咲耶波姫は四つん這いにさせた一人を椅子代わりにし、そして二人に自分の胸や陰部を舐めさせ、一人の身体に鞭を叩きつけていた。
国中の好男子を集めては、自分の玩具として毎晩姦淫に耽っていた。
彼女を突き動かすのは、飽くなき欲求。夫である元王と頻繁に床を共にしない彼女は、その欲求をこうして発散していた。
「ふふ、いい男だったわねぇ。あの子」
彼女の背後に、蠢く複数の尾が現れる。
「必ず私の物にしてやる。ふふふ、楽しみだわぁ」
唯一の光源である蝋燭の火に照らされたのは、邪悪な笑みを浮かべながら、男と身体を交える咲耶波姫の姿だった。
斎国の首都たる場所には名はなく、国の都、国都と呼ばれている。これは、斎国が宇都見国の属国であり、独自の文化を築くことが許されなかった事に起因する。
その国都の中心部に位置する宮殿には、仮初の権力者として君臨する烈丕の姿があった。
「越境から4日経つ、未だ何の情報も入ってこないのか…」
「申し訳ございません。国都に戻ってくるはずの早馬が何らかの理由で足止めされていて」
本来であれば、遠く離れた地での出来事を本国に伝えるため、伝馬を用いた伝使が情報伝達を行う。
しかし、南征軍が国境を越えて今日に至るまで、前線の情報が全くと言っていいほど入ってこない状態が続いていた。
実は、琥珀をはじめ各地に放たれた刑部に所属する志能備たちが、国都に向かう伝者を片っ端から始末しているのだ。
徹底した情報管理と証拠隠滅によって、琥珀
たちの存在は斎国に悟られていない。そのため、伝者が敵方に始末されていることすら、烈丕たちは気付いていない。
「急いで情報をかき集めてくれ。これは本国との共同戦線だ。でなければ、我らの不手際になってしまい、責任を取らなくては…」
烈丕が不安に駆られる中、政務室に息を切らした文官が走り込んできた。
「ほ、報告します!国都周辺に多数の軍勢あり!旗印から見て、軍勢は皇国、そして胡ノ国と思われます!」
「何だって!?」
「そのような兆候はなかったぞ!」
「現在、この国都は敵軍に完全に包囲されています…」
「何と言うことだ…」
烈丕は背もたれにぐったりともたれかかる。南征が失敗に終わり、その責任をどう取るか吟味しなくてはならない中、すでに敵軍に国の中心であるこの国都が包囲されているのだ。
国都の周辺を守備していた自軍は撃退されたか、もしくは敗走したとみるべきだ。
勝利を前提に編成した南征軍が国軍のほとんどを占めていたことから、本土に兵士は今ほとんど残っておらず、国都の守備隊も必要最低限の数しかいない。
それ以前に、自分たちが敗北を喫し、逆に国土を攻め込まれるという考えを持っていなかったのが、何よりもこの事態を引き起こした一番の要因であった。
「敵軍より、使いの者がこれを」
文官から受け取った巻物を見た烈丕は、その内容に腰を抜かしそうになる。
『会談の場を設けよ。列席は三国の首長のみとする』
それは、皇国の皇姫である瑞穂、胡ノ国の輝夜姫、そして斎国の長である烈丕の三人による会談の申し入れだった。
◇
「遂に辿り着いたわね…」
国都の様相を一望できる丘の上に私たちはいた。国境を越えて斎国の領地へとやってきた私たちは、道中の守備隊を突破し、国の中心たる国都へと軍を進めていた。
周囲は簡素な城壁に囲まれているだけだが、問題は、斎国の国都は平坦な地形ではなく、山を切り開いて造られた高低差のある町となっている事だ。
平坦な地形であれば、勢いに任せて突撃を敢行すれば容易く侵入できるが、その高低差が天然の防壁としての役割を担っているのだ。
「何か、手はないかしら…」
「正面突破はどう?」
「それもいいけど。実のところは、あまり相手に被害を出したくないわ」
「どうしてなのですか?」
ある意味、この戦いが初めて私たちが経験する初めての侵略であった。これまでは自国領土での防衛戦ばかりであったが、ここは明らかに他国の領土。
統一を目指す私にとって、戦いの勝利を欲するのはもちろんのことであったが、何よりも勝利した後のことを考えていた。
侵略者による占領統治、それがもたらすのは戦への飽くなき怨嗟、統治者への憎しみ。
占領とはその国の文化を否定し、従順を強要する行為なのだ。
圧政からの解放という大義名分を掲げたとしても、視点が変われば解放は更なる抑圧を生んでしまう。
例えそれが先に相手が侵攻したとしても。
そこで私は、ある作戦を取る事にした。
「待たせたわね、瑞穂皇」
振り返るとそこには、月姫と称される麗人。
胡ノ国の皇姫、華宵輝夜姫がいた。
◇
斎国軍は南征に参加した2万の軍勢が全滅を喫し、残った本国軍が1万。国都の防衛についているのは、そのうち約5千。
対する皇国軍は、千賀の兵士を補充することで、現在1万5千の戦力を保持している。
そこに北から援軍として南下してきた胡ノ国軍約8千が加わる。
戦力差は圧倒的であった。
胡皇連合軍によって、斎国の国都は完全に包囲された。
一触即発の状況であったが、瑞穂と咲夜は一向に動こうとしなかった。
それには理由があった。
「まさか、このような場を設ける事になるとは…」
そう切り出すのは、斎国の元首である烈丕。
瑞穂たちは、無血での占領、もしくは講和による同盟関係を結ぶことを目的に、烈丕に会談を持ちかけたのだ。
彼は目の前に座る瑞穂と輝夜を見る。
彼にとって今この場は、二人の敵国の国家元首を討ち取ることができる絶好の機会だ。
しかし、それをすることができない。国都の周りが倍ほどの兵に囲まれ、護衛には腕の立つ武人が何人もいる。
ここで二人を斬ったとしても、良い結果にならないのは明白であることを、烈丕は理解していた。
「さて、斎国の烈丕殿。貴公に問う」
「何でしょう…」
瑞穂の言葉に、烈丕は不安げな表情を見せる。
「貴公には二つの選択肢が存在するわ。一つは、このまま私たちと戦い、国として最後を迎えること」
「脅しでしょうか。そのような脅しに屈するわけには…」
一つ目の選択肢は、ごく普通の内容だ。戦いで勝敗を決め、その結果に従う。
この選択肢に答えなどない。あるのは、分かりきった敗北という結果だけだった。
「そして二つ目。これは貴公の気持ち、否、心に直接問いたい」
まるで吸い込まれそうな魅力を持つ彼女の瞳が、真っ直ぐ烈丕を見つめる。
「私と一緒に、新しい世界を見てみたいと思わない?」
「新しい、世界?」
予想だにしない選択肢の内容に、烈丕はしばらく思考することに時間を要した。
「その、新しい世界とは?」
「大御神を頂点とし、この神州が一つの国に纏められた世界。戦や争いもない、真の太平の世。私はそんな世を創るのが夢なの」
「人の争わない世…。あなたは本気で、そんな世が創れると思っているのですか?」
あまりにも率直で、綺麗事に聞こえるその説明に、烈丕は疑問を抱いた。
「可能よ」
烈丕の疑問に答えたのは、瑞穂の隣に座っていた輝夜姫だった。
「輝夜姫、同じ華河族としてお聞きします。貴女はいかなる理由で、皇国皇に賛同された?」
「私は、皇国皇の夢と志に惚れたわ」
「夢と志であられますか」
「烈丕、私たち人はこの乱世を生き残るために、様々な道を歩き、そして今を生きた。大和、迦ノ国、そして宇都見国といった大国が覇権を争う群雄割拠の時代。私は皇国皇の夢が叶えられた世界を思い浮かべてみた…。そこには、一切の差別なく。そして、争いのない太平の世。誰もが平等に暮らす世…」
「平等な世…」
「さぁ、どうする斎国の長よ。このまま大国の属国としてこの世から消えるか、それとも私と一緒に、夢を追いかけてみるか」
しばらく時間を置き、烈丕は瞑っていた目をゆっくりと見開いた。
「これは、私が属国として仮初の王としての最後の役目となりますね。分かりました、良いでしょう。私たち斎国人は、貴女に付きましょう」
◇
瑞穂たちが会談に勤しんでいる中、護衛である俺と藤香は邪魔が入らない様に部屋の外で待っていた。
本来であれば、会談の最中も瑞穂の側に控えておきたかったが、国の代表同士の会話には、護衛であってもおいそれと列席するわけにもいかなかった。
「久方ぶりでございますね。従者御剣殿」
「確か、輝夜姫の従者の…」
「輝夜姫の侍女、日和でございます。そちらの方は?」
「皇国左近衛大将、藤香」
「藤香殿でございましたか。先の戦のご活躍はかねがね伺っております」
異国風の衣装を身に纏った日和は、俺たちと同じように外で待つように指示されたらしい。
「なぜ、輝夜姫がここに?」
「貴国の宰相であるユーリ様から、使いの者と親書をお受けしました。本来であれば、貴国に援軍を送りたいところでしたが、地理的要因から皇国への援軍は断念しました。ですが、ここ斎国であれば我が国とは隣国。すぐにでも出向くことができましたという訳です」
「それで、この会談を持ちかけ、わざわざ王都から出向いたのね」
「その通りです。私たち胡ノ国と斎国は同じ華河族ですから。紆余曲折があったとしても、同胞同士で血を流すことはなるべく避けたいものです」
「ッ!?」
俺たちがそんな話をしていると、こちらに向けて歩いてくる一団がいる事に気づいた。
「何だ、あいつら?」
先頭を歩くのは、紫を基調とした着物に身を包み、煙管を蒸かした妖美な女。
その女は後ろに何人もの美形な男を引き連れている。
左手が無意識に刀の鍔に触れる。本能が、この女は危険だと警告しているのだ。
その女からは邪悪な力を感じた。
その背から蠢くように現れる邪悪な呪力の渦。女は俺の前までやってくると、その雪のように白い顔でほくそ笑む。
「なっ、なっ…」
女の顔を見た日和が、言葉を失って呆然とする。
「へぇ、初めて見るけども、中々良い男じゃないの。あなたが御剣くんかしらぁ?」
「う、宇都見国王妃、咲耶波姫…」
日和がそう言うと、女は舌舐めずりをして俺の顔を覗き込んできた。
「宇都見国の王妃だと…?」
「あらぁ。どこかで見たかと思ったら、あなた輝夜の侍女だったかしら。ということは、輝夜もいるのね」
咲耶波と呼ばれた女は会談の行われている部屋へと入ろうとする。
俺は女の前に立ちはだかる。
「何が目的かは知らんが、ここを通すわけにはいかん」
「あらあら。怖い顔したら、せっかくのいい顔が台無しだわぁ。別に、とって食ったりやしないから」
俺は、身体が小刻みに震えている事に気づく。
咲耶波は目を細めて笑う。
「皇国の皇姫、瑞穂之命って子に会わせてくれないかしら」
「出来ない。貴女をここへ立ち入らせる理由がない」
「ふぅん。どうしても、そこを退かないつもりかしら?」
冷たい、氷土の如き冷たい視線だった。その視線を向けられたのが普通の人間ならば、恐怖のあまり気を失ってしまうのではないかと思う。
それほど、この人物の纏う雰囲気は異質だ。
「ふふ、まぁいいわ。面白そうな話にさじを投げるような無粋な真似はしたくないのが、私の本音だからね。例えそれが、講和なり同盟なりの話であってもね」
咲耶波はそう言うと、両手で俺の両頬に触れてきた。
その手は冷たく、一切の温もりすら感じられなかった。
「ッ!?」
「気に入ったわぁ。どうかしら、私の元にくる気はない?」
「えっ!?」
「な、何を言って…」
刀を持つ左手が握られている。その力はとてつもなく強力で、自分の意思でまともに動かすことができなかった。
「何をしている!」
その声が響くと、その場にいた全員が動きを止めた。
「私の従者から離れなさい」
会談を行なっていた部屋から出てきた瑞穂の声だった。瑞穂の背後には輝夜姫、そして斎国の長である烈丕が立っている。
「さ、咲耶波姫っ!?」
「久しぶりね、烈丕。それに、輝夜」
驚き動揺する烈丕とは対照的に、輝夜は落ち着いて状況を理解する。どうやら、輝夜はこの女が発する異様な空気を感じとっていたらしい。
「やはり、貴女だったのね。これほどまで澱んだ呪力は、私が知っている中だったら、貴女ぐらいだもの」
咲耶波はそう言った輝夜から、隣に立つ瑞穂へと視線を向ける。視線を向けられた瑞穂は、表情を硬らせる。
「あなたが、皇国の皇姫、瑞穂之命かしら」
「えぇ、そうよ。宇都見国の王妃、咲耶波姫。こうしてあなたと会うのは、初めてね」
「敵同士だからねぇ。それにしてもあなた、期待していたほどの人物じゃなさそうね」
「なっ!?」
咲耶波は瑞穂に近づく。俺は間に入ろうとするが、瑞穂自身に手で制さた。
"構わない"
そう聞こえた俺は、いつでも動ける様に準備をしておく。
煙管を咥えた咲耶波は、吸い込んだ煙を瑞穂の顔にわざとまとわり付く様に吐き出す。
「その様子じゃ、和平なりが成立したって感じね」
「………」
「皇国皇、私から一つ忠告しておくわ。斎国を無血で引き込んだからって、油断しないほうがいいわよ。確かに斎国は宇都見国の属国、軍の大半が壊滅した現状でも、味方に引き入れればその影響力は絶大。でもねぇ、この国がどういう立場にあって、どういう位置に存在するのか、考えてみるといいわ」
恐らく、咲耶波は斎国の地理的重要性について説いているのだろう。
「…話はそれだけ?」
予想外の反応であったが、瑞穂は素っ気なく返す。
「ふぅん、そんな反応するの。可愛くないわねぇ」
「さっきから聞いていれば、失礼極まりないわ。仮にも一国の王妃なら、同等の相手に対してそれ相応の態度を見せるべきよ」
「………」
その場にいたほとんどの人間が背筋を凍らすような一言。しかし、瑞穂は一切の感情も込めず、ただ淡々と言葉を発する。
「言うじゃないの小娘。私とあなたが同等?妄言ね、身の丈に合った話し方をなさい」
「身の丈など関係ないわ。確かに国力の差は、皇国と宇都見国では天と地ほどの差がある。でも、それを理解した上で、一国の長と同等に会話することができるのが、大国の長の器じゃなくて?」
「くくく、あははは!いやぁ、これほどまでとはねぇ。気に入ったわ。私は、あなたのことを存分に気に入ったわ」
咲耶波は瑞穂に背を向け、その場から立ち去ろうとする。
「近々、宇都見国は兵を挙げる。私が催す狂気の戦を前に、精々部屋の隅で怯えているといいわ。私の戦は、残酷だから」
その場にいた誰も、その言葉に反論することができなかった。
宇都見国の王妃である咲耶波姫が突然現れるという偶然があったものの、胡ノ国を含めた会談は、斎国が宇都見国に対する従属から離反するという結果となった。
これにより、皇国は北の胡ノ国、南の皇国、そして二国に挟まれる斎国という縦の同盟線が築かれた。
◇
斎国・宇都見国の連合軍との戦いから約半月。皇国領土内に残った残党の処理を終えた瑞穂率いる第6軍は、北部の防衛を担う部隊を残し、約半数が本拠地である皇都へと帰還を果たしていた。
皇都の外周では、皇民たちが城壁の上に登り、帰還してくる第6軍の兵士たちを盛大に出迎えた。
死闘を繰り広げた第6軍の兵士たちは疲弊しきっていた。斎国と講和が成ったとはいえ、宇都見国との戦いは続いており、戦力の半分を防衛に回す必要があった。
瑞穂は、残留し北部の防衛任務に就く第6軍第1防衛隊の指揮をローズとリュウに任せ、先の皇都へと戻ってきた。
「戻ったわ。私の留守の間、皇都を守ってくれてありがとう」
瑞穂は皇宮で出迎えた仁たちに礼を言う。
「姉様ぁ!」
「わっ、さ、小夜っ!?」
半月ぶりに帰ってきた瑞穂に、涙を浮かべた小夜が抱きつく。
「良かったです。ご無事で、本当に良かったです…」
「ただいま、小夜」
「おかえりなのです、姉様」
涙目になって笑顔を見せる小夜を、瑞穂は優しく頭を撫でる。
小夜が落ち着いたのを見計らって、仁が瑞穂に頭を下げる。
「聖上、お戻りになられて早々で申し訳ございませんが、聖上を訪ねてきた者たちがいます」
「私を?」
「はい。その者たちはカヤと名乗る少女を中心とした一団で、聖上に目通りをするために半月前から城下に滞在しておりました」
「半月前?それって、斎国との戦が始まってからのことよね」
「はい、そうなりますね」
訪ねた相手が戦に出征しているとなれば、その帰還がいつになるのかも分からないものだ。瑞穂は律儀に自分の帰りを待っていたその一団を評価した。
「この後、その一団に会ってみるわ。その前に、身なりを整えるから、その間に皇城へ案内しておいて」
「承知しました」
瑞穂は千代やミィアンたちを連れて、皇城の一画にある大浴場へと向かった。
◇
湯浴みの後、謁見の間に向かう。
そこで彼女たちを最初に見た印象は、外見とは裏腹にどこか貴賓のある印象だった。
その動作は、特別な教育を受けているため、ここまで鮮麗されているのだろう。
外見で判断してはいけないと悟った。そして、私は緩みかけていた兜の緒を締めて臨む。
眼帯を着けた銀髪の女性が頭を下げると、その横に控えていた少女、そしてその後ろの侍女たちが一斉に座礼を行った。
「お初にお目に掛かります、豊葦原瑞穂皇国皇、瑞穂之命様。この度は、御拝謁の機会を与えてくださり、一同感謝いたしております」
「面を上げていただいて結構です」
「では、お言葉に甘えて。申し遅れました。私、この一団のまとめ役を担っております、シオンと申します。以後、お見知り置きを」
シオンと名乗った女性は再び頭を下げる。
「シオン殿、此度、貴女らはどの様な用件で皇国へ参られた?」
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「帝?」
ユーリからその親書を受け取った私は、その親書に押されていた封蝋の璽を見て唖然とする。
そこに描かれていたのは、【大和朝廷帝】
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「帝は是非とも帝京にて、皇国皇を歓待したいと申されております」
「では、貴女たちは…」
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「身分を隠していたことを許してほしい。余はカヤ。現帝の帝位後継者である」
◇
宇都見国 後宮
後宮、ここは元王の妃である咲耶波姫をはじめ、宮殿で仕事をする宮女たちの生活の場となっている。
その後宮の、最奥部。そこには、ごく一部の限られた宮女のみしか近づくことを許されていない離れがあった。
なぜならその離れは、咲耶波姫の居所であるからだ。
「姫様、どうか、お許しを、アァッ!?」
闇に包まれた一室に乾いた殴打の音が響き渡る。
「どうした、もっと鳴け」
そこでは、恥部などを曝け出した状態の咲耶波姫が、目隠しをさせられた数人の全裸の男と戯れていた。
咲耶波姫は四つん這いにさせた一人を椅子代わりにし、そして二人に自分の胸や陰部を舐めさせ、一人の身体に鞭を叩きつけていた。
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彼女を突き動かすのは、飽くなき欲求。夫である元王と頻繁に床を共にしない彼女は、その欲求をこうして発散していた。
「ふふ、いい男だったわねぇ。あの子」
彼女の背後に、蠢く複数の尾が現れる。
「必ず私の物にしてやる。ふふふ、楽しみだわぁ」
唯一の光源である蝋燭の火に照らされたのは、邪悪な笑みを浮かべながら、男と身体を交える咲耶波姫の姿だった。
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