125 / 128
余談編
贈り物
しおりを挟む
あれほど暑かった夏がいつの間にか終わり、季節は冬となった。
「クリスマス?」
突然、皇宮の中で呼び止められたローズは、小夜から懐かしい言葉を聞く。
「はいです。西洋の文献に師走の25日、西洋の神子様の誕生をお祝いすると書いていたのです。ローズさんならご存知かと思ったです」
「懐かしいわねぇ。まさか、小夜ちゃんからそんな言葉が出てくるなんて。うん、小夜ちゃんの知識で間違っていないわ。クリスマスって言うのはね…」
小夜はローズから、クリスマスが西洋における宗教の神子の誕生を祝う日、そして、純粋な子供たちに贈り物が届くということを教えられた。
「贈り物なのですか?」
「普段からちゃんといい子にしてたら、サンタっていう白い髭をしたおじさんが、枕元に贈り物を置いてくれるわ。小夜ちゃんにも届くかもね」
「そうなのですか。で、でも、私は子どもじゃないのです。だから、別に…」
別に要らないという顔をするが、ローズには小夜が内心期待していることを見透かしていた。
「ふふ…"いい事思いついちゃった"」
小夜と分かれたローズは彼女の姿が見えなくなると、ある場所へと向けて歩いていった。
皇宮 餐ノ部屋
いい匂いにつられてやって来た餐ノ部屋と呼ばれる皇宮の食堂では、女中や侍女たちが慌ただしく食事の準備に勤しんでいた。その中には、急遽人手不足を補うために手伝いに来た、ユーリ、ミィアン、千代の姿もあった。
「あら、小夜ちゃん」
「失礼しますです。何を作っておられるのですか?」
「今日は皇宮にて皇様主催の晩餐会が行われますから、その席にお出しする御馳走です」
「うちはお酒が呑めたらええんやけどなぁ」
「ミィアン様、くすねたお客様用のお酒の件、懲りていない様ですね?」
ミィアンにそう言う千代の顔は笑っていない。どうやら、こっそり賓客用のお酒を飲んでしまったのが発覚し、罰として手伝わされている様であった。
千代の顔を見て、ミィアンは罰の悪そうな表情になる。
「うぅ、そんな怒らんといてぇな、千代はん」
「怒ってません。寧ろ、懲りていない様で呆れています」
「ふえぇ、いつもの千代はんに戻ってぇ」
「私も、お手伝いしても良いですか?」
小夜の言葉を聞いたユーリは、にっこりと笑顔を見せる。
「えぇ、小夜ちゃんが良ければ是非とも」
「はいです!」
晩餐会に向けた準備に小夜も加わり、予定よりも半刻ほど早く準備が完了した。
料理を皿に盛り付け、座卓に料理を並べていく。
「ふぅ、やっと終わったぇ…」
「皆様、お疲れ様でございました。後は、無事に晩餐会が終わる事を祈りましょう」
「小夜ちゃん、わざわざお手伝いありがとう」
ユーリはそう言って、小夜の頭を優しく撫でる。
「い、いえっ、その…あっ」
小夜は当たり前のことをしただけ、と言おうとしたが、あまりにも心地よかったため、なかなか言い出せなかった。
皇宮 渡り廊下
晩餐会の準備を終えた小夜は、いつもの様に巻物の束を盆に載せ、政務室へと向かった。
「失礼しますです。あれ?」
「おぉ、小夜。追加分はそこに置いておいてくれ」
政務室では瑞穂のほか、御剣に仁、右京の姿があった。皆、山積みになった巻物の束を、一つ一つ分配して処理していた。
「ありがとう小夜」
「いえいえ。では、お茶をお淹れするです」
小夜は巻物を山に載せると、部屋の隅にある棚に仕舞っていた茶箱から茶葉を取り出し、火鉢で温めていたお湯を急須に注いでお茶を作った。
「姉様、はいです」
「うん、ありがとう」
瑞穂たちにお茶を淹れた小夜は、右京の隣に座り、手付かずの巻物を手に取る。
「私も手伝うです」
「本当に?じゃあ、遠慮なくお願いするわ。小夜が手伝ってくれるから、晩餐会までに全部終わりそうね」
「そうだな。助かる」
「なんたって、俺の自慢の妹だからな。がっはっは」
「確かに、お兄様より誠実で、何より自発的ですからね」
「い、言ってくれるねぇ、侍大将」
「間違った事は言っておりませんが」
小夜も加わり、政務は晩餐会までに終了した。
晩餐会の後、小夜は寒さに耐えながら、自室へと戻り布団を敷く。
すぐに寝るわけでもなく、暗くなった部屋を灯籠の灯りで照らし、棚から取り出した古代学の文献を広げる。
「くりすます、ですか…」
小夜は遠い西洋の異国の文化に憧れを持つ。その根端にあるのは、彼女の尽きることのない探究心だろう。
「あっ…」
小夜はふと、文献で読んだ一文を思い出し、枕元に自分の足袋を置く。
"きっと作り話です。でも、雰囲気は味わいたいので、とりあえず置いておくです"
暫くして、まぶたが限界になった小夜は、灯籠の明かりを消して静かに目を閉じた。
「何なのです、これは…」
翌朝、目を覚ました小夜は、目の前に置かれていた箱に目を疑う。身体を起こし布団から這い出ると、綺麗に袋に包まれた箱を指先で突っつく。
持ち上げようとすると、少し重かった。
「むぅ…」
その後も、何度も何度も箱を突き、箱と睨み合いを続けること半刻ほど。ついに決心がついた小夜は、袋を破り、箱の蓋を開けて中を覗く。
「こ、これは…」
目を輝かせながら箱から取り出したのは、小夜が以前から欲しいと思っていた懐中筆と墨硯、良質な紙の束、髪飾り、防寒着、帽子、文献、動物の置き物、飴細工、短刀と様々な物が入っていた。
「ひえっ、一体何が何なのです!?これは…」
小夜は箱の底からある紙切れを拾い上げた。
『めりぃくりすます。今夜はほぉりぃないとじゃ、良い子していた君に贈り物を贈ろうぞ。大切に使っておくれよ』
「めりぃ…ほぉりぃ?」
小夜は暫くの間考えこむ。そして、昨日のローズとの会話を思い出す。
「ま、まさか、さんたさん!?」
余談ではあるが小夜の他に、琥珀の枕元にも、同じ大きさの箱が置かれていた。
その後、自室で贈り物の筆を嬉しそうに使う小夜を、大人たちがこれまた嬉しそうに眺めていたというお話。
『Merry Christmas!and Happy Holidays!皆さんのもとには、サンタさんは来ましたか?2020年も良いお年を!作者より』
「クリスマス?」
突然、皇宮の中で呼び止められたローズは、小夜から懐かしい言葉を聞く。
「はいです。西洋の文献に師走の25日、西洋の神子様の誕生をお祝いすると書いていたのです。ローズさんならご存知かと思ったです」
「懐かしいわねぇ。まさか、小夜ちゃんからそんな言葉が出てくるなんて。うん、小夜ちゃんの知識で間違っていないわ。クリスマスって言うのはね…」
小夜はローズから、クリスマスが西洋における宗教の神子の誕生を祝う日、そして、純粋な子供たちに贈り物が届くということを教えられた。
「贈り物なのですか?」
「普段からちゃんといい子にしてたら、サンタっていう白い髭をしたおじさんが、枕元に贈り物を置いてくれるわ。小夜ちゃんにも届くかもね」
「そうなのですか。で、でも、私は子どもじゃないのです。だから、別に…」
別に要らないという顔をするが、ローズには小夜が内心期待していることを見透かしていた。
「ふふ…"いい事思いついちゃった"」
小夜と分かれたローズは彼女の姿が見えなくなると、ある場所へと向けて歩いていった。
皇宮 餐ノ部屋
いい匂いにつられてやって来た餐ノ部屋と呼ばれる皇宮の食堂では、女中や侍女たちが慌ただしく食事の準備に勤しんでいた。その中には、急遽人手不足を補うために手伝いに来た、ユーリ、ミィアン、千代の姿もあった。
「あら、小夜ちゃん」
「失礼しますです。何を作っておられるのですか?」
「今日は皇宮にて皇様主催の晩餐会が行われますから、その席にお出しする御馳走です」
「うちはお酒が呑めたらええんやけどなぁ」
「ミィアン様、くすねたお客様用のお酒の件、懲りていない様ですね?」
ミィアンにそう言う千代の顔は笑っていない。どうやら、こっそり賓客用のお酒を飲んでしまったのが発覚し、罰として手伝わされている様であった。
千代の顔を見て、ミィアンは罰の悪そうな表情になる。
「うぅ、そんな怒らんといてぇな、千代はん」
「怒ってません。寧ろ、懲りていない様で呆れています」
「ふえぇ、いつもの千代はんに戻ってぇ」
「私も、お手伝いしても良いですか?」
小夜の言葉を聞いたユーリは、にっこりと笑顔を見せる。
「えぇ、小夜ちゃんが良ければ是非とも」
「はいです!」
晩餐会に向けた準備に小夜も加わり、予定よりも半刻ほど早く準備が完了した。
料理を皿に盛り付け、座卓に料理を並べていく。
「ふぅ、やっと終わったぇ…」
「皆様、お疲れ様でございました。後は、無事に晩餐会が終わる事を祈りましょう」
「小夜ちゃん、わざわざお手伝いありがとう」
ユーリはそう言って、小夜の頭を優しく撫でる。
「い、いえっ、その…あっ」
小夜は当たり前のことをしただけ、と言おうとしたが、あまりにも心地よかったため、なかなか言い出せなかった。
皇宮 渡り廊下
晩餐会の準備を終えた小夜は、いつもの様に巻物の束を盆に載せ、政務室へと向かった。
「失礼しますです。あれ?」
「おぉ、小夜。追加分はそこに置いておいてくれ」
政務室では瑞穂のほか、御剣に仁、右京の姿があった。皆、山積みになった巻物の束を、一つ一つ分配して処理していた。
「ありがとう小夜」
「いえいえ。では、お茶をお淹れするです」
小夜は巻物を山に載せると、部屋の隅にある棚に仕舞っていた茶箱から茶葉を取り出し、火鉢で温めていたお湯を急須に注いでお茶を作った。
「姉様、はいです」
「うん、ありがとう」
瑞穂たちにお茶を淹れた小夜は、右京の隣に座り、手付かずの巻物を手に取る。
「私も手伝うです」
「本当に?じゃあ、遠慮なくお願いするわ。小夜が手伝ってくれるから、晩餐会までに全部終わりそうね」
「そうだな。助かる」
「なんたって、俺の自慢の妹だからな。がっはっは」
「確かに、お兄様より誠実で、何より自発的ですからね」
「い、言ってくれるねぇ、侍大将」
「間違った事は言っておりませんが」
小夜も加わり、政務は晩餐会までに終了した。
晩餐会の後、小夜は寒さに耐えながら、自室へと戻り布団を敷く。
すぐに寝るわけでもなく、暗くなった部屋を灯籠の灯りで照らし、棚から取り出した古代学の文献を広げる。
「くりすます、ですか…」
小夜は遠い西洋の異国の文化に憧れを持つ。その根端にあるのは、彼女の尽きることのない探究心だろう。
「あっ…」
小夜はふと、文献で読んだ一文を思い出し、枕元に自分の足袋を置く。
"きっと作り話です。でも、雰囲気は味わいたいので、とりあえず置いておくです"
暫くして、まぶたが限界になった小夜は、灯籠の明かりを消して静かに目を閉じた。
「何なのです、これは…」
翌朝、目を覚ました小夜は、目の前に置かれていた箱に目を疑う。身体を起こし布団から這い出ると、綺麗に袋に包まれた箱を指先で突っつく。
持ち上げようとすると、少し重かった。
「むぅ…」
その後も、何度も何度も箱を突き、箱と睨み合いを続けること半刻ほど。ついに決心がついた小夜は、袋を破り、箱の蓋を開けて中を覗く。
「こ、これは…」
目を輝かせながら箱から取り出したのは、小夜が以前から欲しいと思っていた懐中筆と墨硯、良質な紙の束、髪飾り、防寒着、帽子、文献、動物の置き物、飴細工、短刀と様々な物が入っていた。
「ひえっ、一体何が何なのです!?これは…」
小夜は箱の底からある紙切れを拾い上げた。
『めりぃくりすます。今夜はほぉりぃないとじゃ、良い子していた君に贈り物を贈ろうぞ。大切に使っておくれよ』
「めりぃ…ほぉりぃ?」
小夜は暫くの間考えこむ。そして、昨日のローズとの会話を思い出す。
「ま、まさか、さんたさん!?」
余談ではあるが小夜の他に、琥珀の枕元にも、同じ大きさの箱が置かれていた。
その後、自室で贈り物の筆を嬉しそうに使う小夜を、大人たちがこれまた嬉しそうに眺めていたというお話。
『Merry Christmas!and Happy Holidays!皆さんのもとには、サンタさんは来ましたか?2020年も良いお年を!作者より』
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ずっとあのままでいられたら
初めての書き出し小説風
恋愛
永遠の愛なんてないのかもしれない。あの時あんな出来事が起きなかったら…
同棲して13年の結婚はしていない現在33歳の主人公「ゆうま」とパートナーである「はるか」の物語。
お互い結婚に対しても願望がなく子供もほしくない。
それでも長く一緒にいられたが、同棲10年目で「ゆうま」に起こったことがキッカケで、これまでの気持ちが変わり徐々に形が崩れていく。
またあの頃に戻れたらと苦悩しながらもさらに追い討ちをかけるように起こる普通ではない状況が、2人を引き裂いていく…
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!


最後に言い残した事は
白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
どうして、こんな事になったんだろう……
断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。
本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。
「最後に、言い残した事はあるか?」
かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。
※ファンタジーです。ややグロ表現注意。
※「小説家になろう」にも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる