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死を待つ牢屋と彼女の願い~天気予報の結果~
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地下牢の中に愛しい彼女の姿があった。
「シュテファン、あぁようやく会えた」
「アンナ!」
喜びが爆発しそうになるのと同時に血の気が引く。
どうして彼女が「牢屋に入っている」んだ?
混乱していると、アンナは何事もない風に扉を開けてこちら側に出て来た。
「あ、アンナ。どうして?」
「オリヴィア様にお願いして、あなたと会えるまでここに入れていただいたの」
「そうだったのか。あぁ、本当に無事なんだね。どこも痛くない? 何もされてないか? すまない。もっと早くに助けてあげられたら、辛い思いをさせて、ごめんよ。ごめんよ」
気が付くと僕は泣いていた。
とても弱い生き物になって、アンナと抱き合う。
彼女もまた泣いていた。
「大丈夫。そんなに大変なことがあったんだね。私はあなたと別れてから数日しか経っていないよ。何かされたという記憶もない。全てはなかったことになったんだと思う」
「良かった、良かったよ」
「ねぇ、シュテファン。ここから、出よう」
彼女は僕に顔を近づけて言う。
「え、でもそれは」
「とても色々なことがあってね。王太子殿下のことや、その他のことも。私達は今までと同じ生活はもう送れないと思う。あまりに大きなことに関わり過ぎた。侯爵家の庇護に入って、姿を隠した方がいいと言われたの」
「それは、そうだろう。祝福を盛大に使ってしまったからね。すっかり露見してしまった。僕はこれからどうなるだろう」
「わからない。でも、とにかくここから出よう。数日ここで寝泊まりさせてもらったけど、やっぱり人間が長く留まるような場所じゃないよ。あなたの存在を感じていたから耐えられたけど、もしも姿が見えるようにならなかったら、ってすごく不安だった」
「それは、そうだろう。ここは死を待つ牢屋だもの。君のような美しい人が来る場所ではない」
「あなたのような優しい人が留まる場所でもないよ」
彼女の言葉の一つ一つに思いやりが溢れている。
まるで亡くなった母親の言葉を聞いているようだ。
「だけど、僕が居なくなれば、また誰か別の人が牢番として縛られるよ」
「そうだね。でも、それも仕方のないことだよ」
「そうかな」
「王太子殿下が暗殺されたの」
「えっ?」
「ギルフォード殿下は元から隣国の密偵に接触されていたらしくて。詳細はわからないけど、国家転覆を狙う動きとして彼もまたなにがしかの陰謀に翻弄されていた。その結果、彼は命を奪われた。私は彼に殺されかけたから、許せはしないけど、何かの罪は感じたよ。私の代わりに殿下は死んだんだろうって」
「そんなことは。君は何にも悪くないじゃないか」
「生きることはきっと、そう言うことだよ。何の罪も背負わずに生きていくことなんてできない。でもね、自分が何を一番守りたいかだけはきっと選べると思う」
「何を守りたいか?」
「私はあなたが一番大事なの」
力強くそれを伝えて来るアンナ。
「一緒に日の当たる場所で、話がしたい。もっと触れ合いたい。そして、いつか死ぬ時が来るのならさ、最後まで一緒に寄り添って居ようよ」
彼女の涙を滲ませながらの言葉に、僕は心を抉られた。
その温かさにもっともっと触れていたい。
ずっと側に居たい。離れたくなんてない。
「うん。うん、わかったよ。ありがとう」
愛していると、その場で言えるほど強くなかった。
僕はちっぽけで己の運命一つ自分で変えられない愚かな人間だ。
でも、アンナは僕に微笑みかけてくれた。
だったら、せめて彼女に見合う人間にならなければ。
そして僕は、牢屋から出た。
一番の囚人は僕だったのかもしれない。
外は天候を読める誰かが言っていたように雨だった。
よく当たる祝福だ。
日の出はまだ拝めないね、とアンナと共に困った笑みを交わし合う。
暗い夜明けだ。これから訪れる困難を予想させる。
同時に絶対に日の光の下で彼女と笑い合いたいと言う気持ちも湧いた。
何事も捉え方次第だ。
心構えは出来ている。
今日が雨だと教えてくれた誰かに、感謝した。
「シュテファン、あぁようやく会えた」
「アンナ!」
喜びが爆発しそうになるのと同時に血の気が引く。
どうして彼女が「牢屋に入っている」んだ?
混乱していると、アンナは何事もない風に扉を開けてこちら側に出て来た。
「あ、アンナ。どうして?」
「オリヴィア様にお願いして、あなたと会えるまでここに入れていただいたの」
「そうだったのか。あぁ、本当に無事なんだね。どこも痛くない? 何もされてないか? すまない。もっと早くに助けてあげられたら、辛い思いをさせて、ごめんよ。ごめんよ」
気が付くと僕は泣いていた。
とても弱い生き物になって、アンナと抱き合う。
彼女もまた泣いていた。
「大丈夫。そんなに大変なことがあったんだね。私はあなたと別れてから数日しか経っていないよ。何かされたという記憶もない。全てはなかったことになったんだと思う」
「良かった、良かったよ」
「ねぇ、シュテファン。ここから、出よう」
彼女は僕に顔を近づけて言う。
「え、でもそれは」
「とても色々なことがあってね。王太子殿下のことや、その他のことも。私達は今までと同じ生活はもう送れないと思う。あまりに大きなことに関わり過ぎた。侯爵家の庇護に入って、姿を隠した方がいいと言われたの」
「それは、そうだろう。祝福を盛大に使ってしまったからね。すっかり露見してしまった。僕はこれからどうなるだろう」
「わからない。でも、とにかくここから出よう。数日ここで寝泊まりさせてもらったけど、やっぱり人間が長く留まるような場所じゃないよ。あなたの存在を感じていたから耐えられたけど、もしも姿が見えるようにならなかったら、ってすごく不安だった」
「それは、そうだろう。ここは死を待つ牢屋だもの。君のような美しい人が来る場所ではない」
「あなたのような優しい人が留まる場所でもないよ」
彼女の言葉の一つ一つに思いやりが溢れている。
まるで亡くなった母親の言葉を聞いているようだ。
「だけど、僕が居なくなれば、また誰か別の人が牢番として縛られるよ」
「そうだね。でも、それも仕方のないことだよ」
「そうかな」
「王太子殿下が暗殺されたの」
「えっ?」
「ギルフォード殿下は元から隣国の密偵に接触されていたらしくて。詳細はわからないけど、国家転覆を狙う動きとして彼もまたなにがしかの陰謀に翻弄されていた。その結果、彼は命を奪われた。私は彼に殺されかけたから、許せはしないけど、何かの罪は感じたよ。私の代わりに殿下は死んだんだろうって」
「そんなことは。君は何にも悪くないじゃないか」
「生きることはきっと、そう言うことだよ。何の罪も背負わずに生きていくことなんてできない。でもね、自分が何を一番守りたいかだけはきっと選べると思う」
「何を守りたいか?」
「私はあなたが一番大事なの」
力強くそれを伝えて来るアンナ。
「一緒に日の当たる場所で、話がしたい。もっと触れ合いたい。そして、いつか死ぬ時が来るのならさ、最後まで一緒に寄り添って居ようよ」
彼女の涙を滲ませながらの言葉に、僕は心を抉られた。
その温かさにもっともっと触れていたい。
ずっと側に居たい。離れたくなんてない。
「うん。うん、わかったよ。ありがとう」
愛していると、その場で言えるほど強くなかった。
僕はちっぽけで己の運命一つ自分で変えられない愚かな人間だ。
でも、アンナは僕に微笑みかけてくれた。
だったら、せめて彼女に見合う人間にならなければ。
そして僕は、牢屋から出た。
一番の囚人は僕だったのかもしれない。
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よく当たる祝福だ。
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暗い夜明けだ。これから訪れる困難を予想させる。
同時に絶対に日の光の下で彼女と笑い合いたいと言う気持ちも湧いた。
何事も捉え方次第だ。
心構えは出来ている。
今日が雨だと教えてくれた誰かに、感謝した。
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