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知らぬ者と知る者~使える武器も、使えぬ武器も隠し持て~

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 次に現れたのは女性だった。

「下級役人の娘、エリザベスです。学園の生徒ではなくロドリグ様の婚約者で。彼に誘われてパーティに参加していました」

「何があってここへ?」

「ロドリグ様が突然見知らぬ男性たちを追い回しはじめて、残された私はその場に留まっていて、兵士の方から身分の確認などを受けました。後日、アンナ様殺害の事情聴取と言う形で呼び出された挙句にこちらに収監されてしまいました」

 ここまでメアリ、エリザベス、ロバート、フィリップ、ロドリグの五人が順番に現れた。彼らが過去へ飛んだことで容疑から外れる行動を取り、近くに居た彼女に立場が移ったということだろうか。しかし、あの男。婚約者は守ってやれよと言いたくなる。

「頼む。アンナを助けてくれ」

「いえ、あの、面識も何もない方なんですけど」

「侯爵令嬢に守ってもらえないか取り継げない?」

「え、いやぁ。それはちょっと」

「そうだね悪かった。ロドリグをどうにか宥めて、君たち全員どこかで身を隠した方がいいと思う。元は王太子殿下による何らかの策略に巻き込まれただけなんだ。そう説明して」

「わ、わかりました。彼は血の気が多いだけで、私には優しいんですよ」

 取り成すようなことを言う。
 彼女が語るのは一貫して、真実を示す青色。
 ロドリグの人となりと照らし合わせて見ればやはり悪人ではないのだろう。

 婚約者には優しいが、態度が横柄で弱い立場からは嫌われる。色んな奴が居るなぁと思う。
 
「あなたの祝福は?」

「触れた相手に痛みを与えます。こんな感じで」

「痛っ。足の指先を固い壁にぶつけたような痛み!」

「ロドリグ様を止めるのはお任せください」

 見えない力関係を感じさせた。上手く使えば何事かが出来そうで出来なさそうである。

 尋問や拷問には間違いなく有効だ。
 しかし、尋問を受ける側では役に立たない。
 祝福の内容も改められるだろうから、下手なことをさせるのも不味いだろう。
 だからこそ無抵抗で捕まったのだ。 

 僕の祝福についても言えるが、使い時は本当に難しい。使えそうで使えない、というのはある意味一番厄介だ。

 こうなると使い道のハッキリしているアンナの木炭の方がよほど実用的だ。
 様々な祝福を知るにつれてその有用さがわかる。
 加えて、一つ不思議なことがあった。

 何故だか、繰り返しを行っても彼女の出した木炭は消えていない。握りしめて、彼女の痕跡を少しでも感じようとする。

「男爵家のミザリー、です。祝福は耳が少しだけ良いこと、です」

 途中までは真実だったが、後半に嘘が含まれていた。祝福の内容をごまかしているようだ。

「アンナについては何か知ってる?」

「し、知りません。何も」

 嘘を示す赤色をまとう。
 続けて聞いてみる。

「本当に? 無関係ならどうして捕まったの?」

「それは、身分が低いからでしょうか」

 一瞬の青から赤へと代わり、間で揺れる。半信半疑と言うか、確信が持てない様子というところか。

「君はアンナの殺害に関して何か事情を知っているんじゃないか?」

「いいえ、何も知りません。わかりません」

 真っ赤に染まる。
 これまでにも尋問があったはずなのになぜ隠す必要がある?

「実は僕は天使でね。相手の嘘を見抜くことが出来る」

「えっ」

 先ほどまでの発言を指摘し、実際に無理のない嘘をつかせてそれを指摘した。誘導して、彼女しか知りえない個人的な趣味や食事などに話を向かわせれば、ある程度信じてくれたらしい。

「僕には、君を救うことも見捨てることもできる。時間の巻き戻しを行ってね」

「それは、本当ですか?」

「その代わりに、アンナの死を防ぐ必要がある。知っていることを教えてくれるかい」

 彼女も精神的に限界なのか、しばらく見つめると口を開く。

「お願いします。私の家も助けてください」

 彼女が語ったところによれば、ミザリーはアンナとは比較的関わりがあったらしい。
 友人と言うほどではないが、顔見知り。
 王太子殿下に頼まれて彼女への手紙を渡したり、言付けをしたり。
 二人の逢瀬をそれとなく繋ぐような役割だったらしい。立場的にはとても断れなかった。

「だけど次第に殿下が何がしかの嫌がらせを行っていることに気づいてしまい、護衛の方に命じて動物の死骸を用意させたり、恐ろしいことが行われていると漠然と感じていました」

 今度は青色。本当のことだろう。
 気づくにしてもいささか具体的過ぎる。
 先ほどの嘘交じりの真実に思い当たるところがあった。
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