5 / 18
囚人ガチャ開始~気弱なメイドと天気予報~
しおりを挟む
彼女の名前は使用人のメアリ。
婚約披露パーティで給仕をしていたらしい。
問題の夜に起こった惨事。
男爵令嬢アンナを殺害した罪で、牢獄送りにされたと言う。
「彼女は死んだのか。どうして」
「わ、わかりません。突然パーティの最中にアンナ様とおっしゃる方が二人いらして。侯爵令嬢様がその場で殿下と言い争いになっていたのですが」
途中までは彼女の計画が上手く行っていたようだ。
「最終的には陛下が出ていらして、仲裁をされました。その場を預かり、関係者の証言を聞くというような。そんな話を人伝えにお聞きして」
「アンナは?」
「その夜のうちに、ナイフで胸を突かれて」
あの子を、そんな風に殺したのか。
牢屋送りにするには飽き足らず。
僕自身が冷たい刃で貫かれたような気持ちになる。
同時に、今まで感じたことのない怒りと熱がこみ上げる。
事態が大きくなったことで強引な手段で証拠隠滅でも図ったのか。
都合の悪い証言をされることでも嫌って?
「許せない。あの子が何をしたと言うんだ」
王太子。顔も知らない相手におぞましい憎しみが湧いた。
「私には何もかもがわかりません」
「メアリ。よく聞いてくれ、僕には力がある。君をやり直すことのできる力だ」
彼女を一度過去に飛ばし、また元に戻ってくる。
戻ったのは例の婚約破棄の真っただ中だったと言う。
二人のアンナが現れた瞬間。よりにもよって、最悪の状況だ。
「使用人である私に出来ることなんてなくて、ただうろたえるしかありませんでした」
彼女は頭の回転も良くないらしく、戸惑っているうちに同じ結果になったらしい。
祝福は軽い痛みを緩和させる程度。この場においては役に立ちそうもない。
「落ち着くんだ。とにかく誰か相談できる相手を探して。可能な限り身分の高い相手を」
ともあれアンナを救う道を模索する。
大丈夫だ。まだやり直せる。そう信じるしかない。
しかしメアリは心が弱かった。
恐ろしくてたまらないと弱音を吐くばかり。
僕は一連の事情を打ち明け、彼女に土下座をして頼む。
「お願いだ。アンナを救ってくれ。君しか頼れる相手が居ないんだ」
「そんなことを言われてましても」
「死にたくないだろう? 助けるのが無理そうならとにかく身分の高い相手に取り次いでくれ。アンナを何とか保護したいんだ」
「わ、わかりました。出来ることをしてみます」
幸いにも彼女は従順な性格だった。
強い口調で言われた相手には従うところがあるらしい。
繰り返し逆行し、数回目にしてようやく状況が好転する。
メアリが接触可能な顔見知りの令嬢に匿ってもらえそうだと話す。
「頼む。どうかアンナのことも救ってもらえるように頼んでくれ」
「わかりました。あぁ、でも私自身を優先してもどうか、恨まないで」
彼女は懇願するように訴え、そのまま消えた。
次に現れたのはアンナでもメアリでもない。
身なりと品の良さから恐らく貴族の娘だと感じた。
「あぁ、どうしてこんなことに」
悲嘆に暮れる女性に声を掛ける。
「あなたは誰ですか?」
「わ、私は子爵家のマリアベルです」
メアリに相談されたと言う令嬢。アンナよりも身分は上。
どういう経緯かは不明だが身代わりは彼女に移ったらしい。
「メアリには以前、足を挫いた際に介抱してもらったことがあって。とても恐ろしいことが起こるから助けて欲しい、と頼まれたんです。ただあの場でアンナ様に近づくことはとてもできず」
「それは本当? 彼女を見下して見捨てたりはしなかった?」
「口さがない噂は聞こえていましたが、私自身には思うところはありません。無実であるならば気の毒に思います」
青色。嘘は言っていない。
距離が遠ければそもそも興味すら持たないということか。
口調も落ち着いているし、大人しい性格なのだろう。
「何もできぬままにアンナ様は殺されてしまい、後日メアリを庇う証言をしたところ、私が犯人だと」
「メアリは?」
「わ、わかりません。特に死んだと言う話も聞きませんでしたし」
とにかく、マリアベルに話をした。
メアリには素直に話したが、多少嘘を交えるべきだと遅まきながら気づく。
今起こっているのは何がしかの陰謀であり、誰かしらが殺されてしまう。
そして自分は女神が遣わした天使であり、君を助けに来たと。
そんな話を捏造した。
強引のでっち上げだが、このままでらちが明かない。
幸いにも嘘を見抜く祝福で相手をある程度信用させられた。
二つの祝福を持つ者など、そうは居ない。
夜明けへと刻一刻と近づいている。
巻き戻りがアンナ殺害より後になった時点で終わりだ。
いや、止める暇がなくなった時点で全ては泡となる。
「身分の高い相手に取り次いでくれ。アンナが殺されると。彼女を救わなければ君も救われない」
もはやなりふり構わず、半ば命じるようにそれを伝える。
「何とかやってみます」
「ところで君の祝福は?」
「天候の乱れを感じ取ることが出来ます。ちなみに明日は雨なのでお洗濯には向いていません」
「気を付けるよ」
マリアベルを過去へと送る。
果たして無事アンナは明日を迎えられるだろうか。
僕は、ここからは出られない。
だからせめて、彼女だけは。
婚約披露パーティで給仕をしていたらしい。
問題の夜に起こった惨事。
男爵令嬢アンナを殺害した罪で、牢獄送りにされたと言う。
「彼女は死んだのか。どうして」
「わ、わかりません。突然パーティの最中にアンナ様とおっしゃる方が二人いらして。侯爵令嬢様がその場で殿下と言い争いになっていたのですが」
途中までは彼女の計画が上手く行っていたようだ。
「最終的には陛下が出ていらして、仲裁をされました。その場を預かり、関係者の証言を聞くというような。そんな話を人伝えにお聞きして」
「アンナは?」
「その夜のうちに、ナイフで胸を突かれて」
あの子を、そんな風に殺したのか。
牢屋送りにするには飽き足らず。
僕自身が冷たい刃で貫かれたような気持ちになる。
同時に、今まで感じたことのない怒りと熱がこみ上げる。
事態が大きくなったことで強引な手段で証拠隠滅でも図ったのか。
都合の悪い証言をされることでも嫌って?
「許せない。あの子が何をしたと言うんだ」
王太子。顔も知らない相手におぞましい憎しみが湧いた。
「私には何もかもがわかりません」
「メアリ。よく聞いてくれ、僕には力がある。君をやり直すことのできる力だ」
彼女を一度過去に飛ばし、また元に戻ってくる。
戻ったのは例の婚約破棄の真っただ中だったと言う。
二人のアンナが現れた瞬間。よりにもよって、最悪の状況だ。
「使用人である私に出来ることなんてなくて、ただうろたえるしかありませんでした」
彼女は頭の回転も良くないらしく、戸惑っているうちに同じ結果になったらしい。
祝福は軽い痛みを緩和させる程度。この場においては役に立ちそうもない。
「落ち着くんだ。とにかく誰か相談できる相手を探して。可能な限り身分の高い相手を」
ともあれアンナを救う道を模索する。
大丈夫だ。まだやり直せる。そう信じるしかない。
しかしメアリは心が弱かった。
恐ろしくてたまらないと弱音を吐くばかり。
僕は一連の事情を打ち明け、彼女に土下座をして頼む。
「お願いだ。アンナを救ってくれ。君しか頼れる相手が居ないんだ」
「そんなことを言われてましても」
「死にたくないだろう? 助けるのが無理そうならとにかく身分の高い相手に取り次いでくれ。アンナを何とか保護したいんだ」
「わ、わかりました。出来ることをしてみます」
幸いにも彼女は従順な性格だった。
強い口調で言われた相手には従うところがあるらしい。
繰り返し逆行し、数回目にしてようやく状況が好転する。
メアリが接触可能な顔見知りの令嬢に匿ってもらえそうだと話す。
「頼む。どうかアンナのことも救ってもらえるように頼んでくれ」
「わかりました。あぁ、でも私自身を優先してもどうか、恨まないで」
彼女は懇願するように訴え、そのまま消えた。
次に現れたのはアンナでもメアリでもない。
身なりと品の良さから恐らく貴族の娘だと感じた。
「あぁ、どうしてこんなことに」
悲嘆に暮れる女性に声を掛ける。
「あなたは誰ですか?」
「わ、私は子爵家のマリアベルです」
メアリに相談されたと言う令嬢。アンナよりも身分は上。
どういう経緯かは不明だが身代わりは彼女に移ったらしい。
「メアリには以前、足を挫いた際に介抱してもらったことがあって。とても恐ろしいことが起こるから助けて欲しい、と頼まれたんです。ただあの場でアンナ様に近づくことはとてもできず」
「それは本当? 彼女を見下して見捨てたりはしなかった?」
「口さがない噂は聞こえていましたが、私自身には思うところはありません。無実であるならば気の毒に思います」
青色。嘘は言っていない。
距離が遠ければそもそも興味すら持たないということか。
口調も落ち着いているし、大人しい性格なのだろう。
「何もできぬままにアンナ様は殺されてしまい、後日メアリを庇う証言をしたところ、私が犯人だと」
「メアリは?」
「わ、わかりません。特に死んだと言う話も聞きませんでしたし」
とにかく、マリアベルに話をした。
メアリには素直に話したが、多少嘘を交えるべきだと遅まきながら気づく。
今起こっているのは何がしかの陰謀であり、誰かしらが殺されてしまう。
そして自分は女神が遣わした天使であり、君を助けに来たと。
そんな話を捏造した。
強引のでっち上げだが、このままでらちが明かない。
幸いにも嘘を見抜く祝福で相手をある程度信用させられた。
二つの祝福を持つ者など、そうは居ない。
夜明けへと刻一刻と近づいている。
巻き戻りがアンナ殺害より後になった時点で終わりだ。
いや、止める暇がなくなった時点で全ては泡となる。
「身分の高い相手に取り次いでくれ。アンナが殺されると。彼女を救わなければ君も救われない」
もはやなりふり構わず、半ば命じるようにそれを伝える。
「何とかやってみます」
「ところで君の祝福は?」
「天候の乱れを感じ取ることが出来ます。ちなみに明日は雨なのでお洗濯には向いていません」
「気を付けるよ」
マリアベルを過去へと送る。
果たして無事アンナは明日を迎えられるだろうか。
僕は、ここからは出られない。
だからせめて、彼女だけは。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

婚約破棄された伯爵令嬢は錬金術師となり、ポーションを売って大金持ちになります〜今更よりを戻してくれと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは婚約者のラインハルトから真実の愛に目覚めたと婚約破棄される。そして、フィーナは家を出て王都からも追放される。
行く宛もなく途方に暮れていたところを錬金術師の女性に出会う。フィーナは事情を話し、自分の職業適性を調べてもらうとなんと魔法の才能があると判明する。
その才能を活かすため、錬金術師となりポーションを売ることに。次第にポーションが評判を呼んでいくと大金持ちになるのであった。
一方、ラインハルトはフィーナを婚約破棄したことで没落の道を歩んでいくことになる。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる