上 下
3 / 6

第三話 王宮魔術師からの告白

しおりを挟む
 疲れた。

 一刻も早く自室のベットに戻って眠りたいです。
 よほど気分が悪そうに見えたのでしょうか。

「大丈夫ですか? 何なら私の肩に」

 傍を控えるように歩くダルタニアスが身を寄せてきます。

 「今は結構です」と首を振りました。

 指摘する気力はありませんが、少し距離が近く感じます。  
 そういう性分なのか、彼は私に対してやや過保護気味です。

「ル、ルイーズどの」

 再び声をかけられます。

「アズベル様」

 王宮魔術師のアズベル様でした。
 突然目の前にぬっ、と現れ少し驚きます。

 長い黒髪を腰まで伸ばし、頭からフードを被ったいでたち。
 高身長と相まってどこか異様な空気を漂わせています。

 相当に目に付く姿ですが、今まで接近に気づきませんでした。
 気配を消す魔術を使っていたのかもしれません。

「き、君は、今とても困っているんじゃないか」

「はい? どういうお話でしょう」

「あの王子と、男爵令嬢の件をずっと観察し、記録していた。これから国王に訴えるのであれば、証拠の提出をしたい」

「それは助かりますが……」

「だから、詳しい話を別室でしないか。積もる話もある」

「申し訳ありませんが、今はそれどころではないのですが。あ、魔術の使用はお控えください」

 彼の周囲か淡い光が溢れたので、何かをしようとしたことを察します。
 私は魔術は使えませんが、感覚は鋭い方です。

「いや、この場から離れようと」

「急に姿を消しては周りの噂になります。お話ならこちらで」

「オレは、君の助けになりたい。その、ずっと前から君のことを想っていた、オレと付き合ってほしい!!」

「はい?」
 

 思わず聞き返してしまいました。
 おっしゃっている意味は分かりますが、今夜はあまり聞きたくない言葉です。

 どうして次々殿方からのお声がかかるのでしょう。
 そんなに、尻軽な女にでも見えるのでしょうか。

 少し悲しくなります。

「君が望むならあいつらに制裁を与える。秘密裏に、誰にも気づかれないよう。君が彼らの断罪を強く求めるのならば毒や麻痺等の苦痛を与えることもできる。憂さを晴らすなら協力する」

 話が不穏な方向へ流れていくのを感じます。
 若干恐ろしくなり、彼を押しとどめました。

 もしも急に抱き締められたりしたら、と思うと背筋に冷たいものが走ります。

「いえ、結構ですわ。私は彼らが今後受けるであろう罰だけで十分です。本当なら、ここまで話が拗れるよりも前に解決するのが私の望みでした。ご親切には本当に感謝いたしますわ。証拠を頂けるのは後々大変助かります。ですが、今は非常に気分が良ろしくありませんので……」

「すまない、俺が手をこまねいていたせいで。あの男爵令嬢には魔術で警告は発していたのだが、多少の痛みを与える程度では生ぬるかったようだ」

「は? あの、ひょっとして彼女に何かされていました?」

 そういえば、原因のわからない嫌がらせを受けていたというような話を聞きました。

「あぁ、君の婚約者にすり寄っていたのを知っていたから。様々な呪いをかけていた」

「ミナ=アルカナ男爵令嬢に色々と仕掛けていたということは。あのそれは、アンドリュー様や彼女の誤解を加速させる原因の一つだったのではないでしょうか」

 ことと次第によってはこの方にも詳しい話を聞く必要がありそうです。

「あの女が悪い。婚約者が居る男に近づき、あまつさえ恋人のように振舞っていた。あぁ、あの男も一刻も早く呪いを」

「申し訳ありませんが、無関係の方が余計な手を出すことで拗れてしまう場合もありましてよ」

「それは、オレは君のためだと思って」

「お気持ちは嬉しいのですけれど、状況が複雑化したのはその嫌がらせも一因だったかもしれません。ハッキリとお伝えさせていただければ、若干迷惑に思います」

「め、迷惑……?」

 どうもこの方、いささか他者との対話力が不足しておられるようです。
 悪人と言うよりも少し厄介な人と言うべきでしょうか。

 というか、これで王宮魔術師が務まるのか地味に心配です。

 焦ったように、あわあわと何やら話をまくしたてられました。
 どもりながら、切れ切れの言葉を紡がれます。

  
「元引きこもりで女神様から与えられたチート能力を持たされた転生者? はぁ、それはすごいですわね。でも、今はそれは特に関係はないと思います。私は貴方に特に好意は抱いておりませんので、申し訳ありませんが、一切のお誘いはお断りしますわ」

「あ、うぅぅぅぅぅ」

 何なんでしょう。元引きこもりとかチート転生とか。
 よく意味は分かりませんでした。

 ご自分のことばかり話されても、困りますわね。
 一連の騒動の黒幕、としては何だか子どものようで力が抜けてしまいました。

「すいません、気分が悪いのでこれで」

 ともあれ部屋へと戻ります。
 親しんだメイドの姿を見つけると心底ホッとしました。
 椅子に腰かけ、飲み物で喉を潤わせます。

 目を閉じて、しばらく気持ちを静めることに致します。
 頭の中でぐるぐると不穏な音が響いています。

 しばらくすると、不意に声をかけられました。

「お嬢様、大事なお話があります」

「なんですの、ダルタニアス」

 額に手を当てながら周囲を見渡すと、何故かメイドの姿がありません。

「私はお嬢様をお慕いしております! どうか私の想いを受け入れていただけはしないでしょうか!」

 お前もですの。

 唖然としてしまい、何も返せませんでした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】なんで、あなたが王様になろうとしているのです?そんな方とはこっちから婚約破棄です。

西東友一
恋愛
現国王である私のお父様が病に伏せられました。 「はっはっはっ。いよいよ俺の出番だな。みなさま、心配なさるなっ!! ヴィクトリアと婚約関係にある、俺に任せろっ!!」  わたくしと婚約関係にあった貴族のネロ。 「婚約破棄ですわ」 「なっ!?」 「はぁ・・・っ」  わたくしの言いたいことが全くわからないようですね。  では、順を追ってご説明致しましょうか。 ★★★ 1万字をわずかに切るぐらいの量です。 R3.10.9に完結予定です。 ヴィクトリア女王やエリザベス女王とか好きです。 そして、主夫が大好きです!! 婚約破棄ざまぁの発展系かもしれませんし、後退系かもしれません。 婚約破棄の王道が好きな方は「箸休め」にお読みください。

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

悪役令嬢を追い込んだ王太子殿下こそが黒幕だったと知った私は、ざまぁすることにいたしました!

奏音 美都
恋愛
私、フローラは、王太子殿下からご婚約のお申し込みをいただきました。憧れていた王太子殿下からの求愛はとても嬉しかったのですが、気がかりは婚約者であるダリア様のことでした。そこで私は、ダリア様と婚約破棄してからでしたら、ご婚約をお受けいたしますと王太子殿下にお答えしたのでした。 その1ヶ月後、ダリア様とお父上のクノーリ宰相殿が法廷で糾弾され、断罪されることなど知らずに……

処理中です...