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塚本葉紀子の大失禁 バス旅行で下剤を飲まされて 高校2年生のとき
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夏休み、木村と奈々、三井はインターネットカフェの防音されたカラオケ個室内で秘密会議を開いていた。議長の木村が言う。
「では、第7回、塚本葉紀子をつぶす会を開催します」
「「イェエー♪」」
「まず冒頭、オペレーション・ナプキンの成功を祝って、乾杯!」
「「乾杯!」」
ドリンクバーの炭酸飲料で乾杯し、三井が戦利品の葉紀子の髪を眺めつつ言う。
「夏休みに入って油断してるとこ、カマしてやったから今頃、凹んでるだろうね」
「さすがに泣いてるかも。髪切ってやったし」
「ナプキン貼り付けも、きついでしょ。きゃははは!」
木村が嗤いながら菓子を食べる。三人で協力し、葉紀子に大きなダメージを与える作戦を成功させていた。星丘高校には夏休みはあるようで無い、終業式の翌日から自由登校になり、登校すると普段通りの授業時刻にチャイムが鳴り、その間は自習となる。自習中は私語禁止であるものの教え合いはできるし途中退席でトイレへ行くこともできるので、どれほど人員を用意できても、さすがに丸一日、葉紀子がトイレを使うことを阻止することはできない。代わりに壮大な罠を仕掛けることができた。化学の知識と器具を悪用し、揮発性の催眠ガスを作り、それを前日から2組の天井裏にガラス瓶に入れてガラス蓋と釣り糸で仕掛けをつくり、葉紀子の席の真上に5ミリの穴をあけ、ガスがくだるようにして自習中に木村を含めたクラス全員が眠った頃、水泳部で肺活量が豊富な三井が息を止めて入り、葉紀子がセミロングまで伸ばしている髪をすぐにはバレない後ろ髪の内側をハサミで大きく斜めに切り、一度息継ぎして、次は葉紀子が女子トイレの汚物入れに捨てた月経血で汚れたナプキンを背中に貼り付け、それから窓を開けて換気しておいた。教師のいない自習中の教室で全員が居眠りしてしまっても、起きた順に不審に思わず勉強を再開している。葉紀子の背中に使用済みナプキンが貼り付けられていることに女子は気づいても言わないし、男子も言いにく過ぎて誰も教えない。そのまま帰宅したはずだった。
「そういえば、今日は茉莉那ちゃん、来てなかったね。サボり?」
「なんか初等部の子たちと泊まりで遊んでるらしいよ。鹿狩くんの妹が中心のメンバーで、鹿狩家の別荘だって。やっぱ内部生は違うよね。木村さんも内部生だけど、別荘とかある?」
「一応ね」
「「うわっ…こいつもお嬢か」」
「いやいや、ホントたいしたことないよ」
「とか言って豪華過ぎるクルーザー付き別荘だったりするんでしょ」
「ううん、タイムシェアマンションっていうショボいの。一年のうち数日だけ所有してる。ほんの50万円くらいで買えるらしいよ」
「「ふーん……」」
その50万円が庶民には余らないお金なのになぁ……やっぱりプチお嬢だ、と奈々と三井は思った。それに気づかず木村が言う。
「でも、永戸さんも、ちょっと腹黒いよね。私たちが塚本をイジメ回してるの、見て見ぬフリするし。ときどきは止めようかなってポーズだけはしておいて、結局は自分が手を汚さずに塚本が苦しむなら、むしろラッキーくらいの顔してる」
「どっちかというと鹿狩くんと会話するのに夢中で、もう塚本なんて、どうでもいい世界にいるのかも。塚本が成績を落として108位だったのはザマァみろだったけど、茉莉那ちゃんも62位まで落ちたし、ついでに加藤も87位だったから生徒会、総崩れだね。松井は安定の最下位だったし」
「きゃはっは、塚本が108位を知ったときの顔、嗤えたね!」
「あははは! 目が死んでた!」
「ビビってオムツに漏らしてそう!」
「結局、学期中はオムツ離れさせなかったし」
「期末テスト前までは、ちょくちょくパンツで来てたけどね。期末テスト後は気力が尽きた顔してた。ずっと、オムツ濡らして帰ってたよ。あははは!」
嗤った後、三井が問う。
「でもさ、最初に大規模な作戦を仕掛けたスターヒル仮面って、正体は誰なのかな? 私は、この三人の中にいる気がする」
奈々が言う。
「さて、どうだろうねぇ」
木村は考える。
「いるかもしれないけど、それは、はっきりさせない方がイジメがバレたとき首謀者が不明で都合いいじゃん。塚本は死ぬようなタイプじゃないけど、もしかしたら今日とか、首吊るかもよ。そうなったとき、私らはスターヒル仮面に弱みを握られて、やるしかなかった、とか答えれば逃げられる」
三井が頷く。
「うん、それいいね。あとは一番疑われる茉莉那ちゃんをカバーするため、いっそ、あの鹿狩くんの妹が真の裏ボスってことにする?」
「小学生が?」
「天才小学生だし」
「星丘の小学生ならありえるね」
「さて、そろそろ本題、次の作戦オペレーション・全裸、ならびにオペーレション・下剤について煮詰めますか」
「だね、我が水泳部女子の総力を結集して、塚本を一気に追い込んでやる」
「この作戦が成功したら、マジで自殺するかも。きゃはは!」
「死ぬ前に茉莉那ちゃんに謝ってから死ねっての」
「それにしても楽しいね。たった一人を大勢でイジメるの、めちゃめちゃワクワクする」
「うん、小学校の頃はバカみたいって思ったけど、綿密に計画を練って証拠を残さずやると、こんなに楽しいことない」
「また塚本が気が強くて、すぐ泣かないから余計面白い。だんだん目が死んでいくのが見てて最高」
楽しく女子高生同士の会話を終えた三人はバラバラに帰宅する。奈々は駅の近くを歩きながら考えた。
「次の作戦でも塚本が心折れなかったら、その次は………フ、戦いとは、常に二手三手先を考えておこなうものだ、とか層川が言ってたなぁ」
一人言を午後の夏空へつぶやいていると、駅へ向かう英雄に出会った。
「あ、鹿狩くん。どこ行くの?」
「よぉ、三井だっけ?」
「吉田だよぉ。覚えてよ。外部生なんて、どうでもいいとか思ってない?」
「思ってないって。仲良くしような」
「とくに茉莉那ちゃんと?」
「べ、別に、そういう仲じゃねぇし!」
「はいはい。で、どこ行くの?」
「……。まあ、その…永戸さんと、うちの妹、その他、小学生が何人も女の子ばっかりで泊まってるらしくて、女子ばっかりの外泊は物騒だからオレも行けっオヤジが言うから」
「きゃは♪ 親公認で茉莉那ちゃんと外泊だね」
「そういう風に解釈するな! 別に永戸さんとは何でもないからな!」
「はいはい、今のところはね。17歳の夏は一度きりだもんね。イってらっしゃい」
「……。じゃあな」
英雄が駅に向かい、奈々は再び空を見上げた。
「その一度きりの夏を………私はイジメに精を出すのか……ううん、これは正当な懲罰、茉莉那ちゃんをおとしめた悪女を抹殺するための」
奈々は軽い自己欺瞞をして帰宅した。
数週間後、遠泳合宿と呼ばれる星丘高校の体力育成行事で琵琶湖に向かう修学旅行バスの中、茉莉那と英雄はイチャイチャと触れ合いながら会話していた。
「私、泳ぎは苦手だし、無理に遠泳しないで浜辺にいようかなぁ」
「茉莉那がそうするなら、オレもそっちでもいいかな」
「でも体育の成績が大きく変わるよ?」
「体育は、どうでもいいし」
付き合い始めてデートでのキスも終え、二日前に処女と童貞を卒業した二人はバスの座席を同級生に替わってもらい、肩をくっつけて会話し、ときどき誰も自分たちを見ていないタイミングを狙ってキスをしたり、英雄がスカートに手を入れて茉莉那の腿に触ったりして、とても楽しく乗車時間を過ごしていた。
「茉莉那は可愛いな」
「やん、もう、そこまでは触らないでよ。みんなが居るのに、気づかれるよ」
茉莉那は男の指が何度も何度もショーツの中央を擦ってくるので、嫌がるフリをしつつ興奮してきていた。二人とも覚えたての性交をしたくてしたくてたまらない17歳の男女で、もう周囲が見えなくなってくる。深いキスをしながら、茉莉那は男の指を受け入れた。
「フフ、茉莉那、なんだか、ここが濡れてるぞ。また、おもらししたのか?」
「ハァっ…もお、わかってるくせに、英雄くんのエッチ」
「こんなに濡らして」
「英雄くんだって勃ってるもん」
「茉莉那、オレの膝の上に乗れよ」
「え…でも……。ここで? するの?」
「大丈夫だって、スカートで見えなくなるから」
「……じゃあ、ちょっとだけ…」
茉莉那が男に跨り上下に動くと、さすがに寝たフリをしていた通路を隔てて隣に座っている層川が言う。
「本番までやるのは、いくらなんでもまずいだろ」
「「っ……起きて…」」
「みんな見て見ぬフリしてるだけで半径2メートルの連中はお前らの所業に気づいてるからな」
「「…………」」
二人が黙り込み、茉莉那は恥ずかしくなって跨っていた男からおりた。層川が言い加える。
「あと、ちゃんとゴムは着けろよ。射精しないから大丈夫とか、甘いぞ。うちの親が言ってたけど、まったく射精してない、ちょっと挿入してみただけの状態でも妊娠するときはするらしい」
「そんな状態で? マジで?」
英雄が少し心配になり問うた。
「ああ、げんにオレはそうやって生まれてきた。だから親に、お前はメチャメチャ生命力が強いし運もあるって賞められた。その時点で三人の兄姉がいたからな、もう子供はつくらないつもりでいたのに、久しぶりにしたセックスでできたらしい。コンドーム着ける前に、ちょっとだけ生を味わいたくて挿入したらデキたと。さすがに、それで中絶するのは可哀想だからオレが誕生したそうだ」
「お前らしいな……うちは母さんが娘が欲しくて、なのに三人目のオレも男で、それで四人目、やっと純子が娘で嬉しかったらしい」
「そうか。でも、お前はまだ子供つくるなよ。ちゃんとゴム持ってきたか?」
「ああ、ちゃんと最初のときも使ったし」
男同士の露骨な会話が聞こえていて、それほど遠くない席から木村が言う。
「一応さ、これは学校行事であって二人のハネムーンでも観光旅行でもないからエッチは控えようね」
「「………」」
返す言葉がない英雄と茉莉那が黙っているうちに1組から10組までを乗せた5台のバスは高速道路のサービスエリアにトイレ休憩で停車した。木村が葉紀子に聞こえる程度の声で言う。
「ちゃんとトイレに行かないと、おもらししちゃうかもね。あ、オムツなら平気かな」
「……」
葉紀子は無視して席を立つ。学期中さんざんに証拠の残らない嫌がらせをされた。上靴に画鋲を入れておくような先生に報告しやすい嫌がらせは一つも無く、枯れ葉が一枚、入っているだけだったり、帰りには靴に砂粒が入っているだけだったり、体育がバスケットボールだったりすると一回だけ後方から不意にボールをぶつけられたり、ソフトボールだとデッドボールが飛んできたりと、一回なら偶然、という狙いで嫌がらせがあったし、体育が終わって制服を着ると、ビチョ濡れではなく、コップ一杯分程度に衣類が濡らされていたりと、細々とした嫌がらせが続いた。トイレも邪魔されるのでオムツをやめてショーツを着けたいのに、やや頻尿気味になってしまったこともあって、ショーツで登校すると執拗に邪魔され失禁させられてしまう。ようやく夏休みになって自習中もいつでもトイレへ立てるになり、ショーツで学校に来ていたけれど、この合宿は不安だったのでオムツを穿いている。とくにバス移動中はサービルエリアなど限られた場所でしかトイレに行けないので、なにをしてくるか、とても警戒していた。
「……」
葉紀子は早足で女子トイレに向かった。公共のサービスエリアなので嫌がらせで全部塞ぐような真似はできないはず、と思いつつも急ぎ、女子トイレに入ると行列はなく、すぐに個室へ入れた。
「……」
さすがに公共の場所ではやらない………当然……、と葉紀子は気分が鬱気味だったけれど、気を取り直してオムツをおろし、洋式便器へおしっこをした。
ちょろ…
それほど貯まっていたわけではないけれど念のために排泄している。
「……」
葉紀子はポケットにショーツも入れていたのでオムツからショーツへ穿き替えた。個室を出て手を洗い、鏡を見る。
「……」
左の瞼がピクピクと痙攣したように動く。使用済みナプキンを背中に貼られ、髪を切られていた日から、生じるようになった症状だった。気持ちが塞ぐとより激しくなる。
「……」
………負けない……、と葉紀子はぼんやりと考えた。女性教師が叫ぶ。
「そろそろバスへ戻りなさーい」
「……」
他の生徒たちがトイレを出るし、葉紀子もバスに戻る。バスの通路を歩いていると、木村が言う。
「オムツやめたの? 大丈夫かな? おもらししないかな?」
「……」
何か言うのも面倒で葉紀子は自分の席に座った。左の瞼がピクピクと動くのが鬱陶しくて手で撫でた。隣席には安田という気弱そうな外部生がいて会話したことはない。葉紀子は次のサービスエリアでもバスを降りてトイレに入った。ここでも邪魔されず用を足せる。目的地に着くまで一度も邪魔されなかったのでショーツを濡らさず琵琶湖岸にある古くて大きな民宿のような宿泊施設に到着できた。あまり尿意は覚えていないけれど、ここでも早めにトイレに入っておく。そんな葉紀子に木村がついていき、三井は作戦通りに葉紀子の荷物を漁る。奈々は早めに葉紀子が戻ってきたときの見張り役をする。
「「「………」」」
数人の女子が三井がしていることを見ているものの見ないフリをし、三井は葉紀子の荷物にあった学校指定の白い競泳水着と、隠し持ってきた同じサイズの競泳水着を交換した。何も知らず葉紀子は戻ってきて女子専用と本日はされている大部屋で他の女子たちと着替える。
「……」
葉紀子は水泳が苦手でもないし得意でもない。遠泳合宿の課題は琵琶湖という日本最大の湖を2キロも泳ぐことだった。泳ぎが不得手な者や健康上の理由がある者は浜辺で水遊び程度の水泳教室を選択することができるけれど、体育の成績評価には大きく影響する。当然、葉紀子は遠泳を選んでいた。
「……」
女子しかいない大部屋で葉紀子が制服の上着を脱ぐと、周囲にいた女子たちは汗の匂いを感じた。臭いというほどではないけれど、まだ午前中でバスに乗って移動しただけなのに葉紀子の腋から、しっかり汗の匂いがする。水着を着て、髪をまとめている様子を見ると、腋毛が1センチ以上も伸びていた。
「「「………」」」
水泳があるって……わかってるのに腋を剃ってこないとか……それに、この匂い……もう、この人、基本的な身だしなみができないくらい鬱ってる……目が半分死んでるし……このままイジメ続けたら本当に自殺するんじゃないかな……まあ、でもそれで逮捕されるのは木村さんあたりで私たちは、たまたま同じクラスだっただけ………トイレを塞ぐのに少し協力したけど、首謀者じゃないから大丈夫なはず……たぶん……、と女子たちは無関係という顔で競泳水着に着替える。葉紀子以外の女子は、男子の目もある水泳合宿なので、いつも以上にキレイに腋を剃ったり、親に頼んでレーザー処理しているので、どの女子も腋毛は伸びていない。日焼け止めも塗り、浜辺に集合した。層川が女子たちの水着姿を鑑賞して目についた女子に色々と言っている。
「お~、木村も可愛いな」
「ジロジロ見んな」
「ではチラチラ見よう」
「あーっもお! お前ってガキの頃から変わらないなァ!」
木村が層川の腿を蹴っている。子供の頃からの幼馴染みという雰囲気が出ていた。層川は茉莉那にも言う。
「これは売約済みだな。鹿狩様、お買い上げだ」
「もお! 人を商品みたいに!」
茉莉那は手で層川の背中を叩いている。体格差がありすぎて触れられた程度にしか層川はダメージを受けていない。さらに層川は男子の加藤にも言う。
「貧弱だな」
「うるさい!」
加藤も層川を蹴ったけれど、喘息もあって加藤の身体は本当に貧弱だった。アトピーもあるので日光もつらそうに見える。そして当然のように層川は葉紀子にも言ってくる。
「眼鏡なしは、やっぱりいいな。コンタクトか?」
「……水中眼鏡に度が入っているのよ」
近眼者らしい睨むような目で葉紀子は層川を見ているけれど、蹴るにあたいすることを言わなかったので何もしない。思い返すと、もう層川くらいしか葉紀子と会話しなくなっている。体育教師が拡声器で二年生300人へ告げる。
「よーし、遠泳に参加する者は水へ入れ!」
「おっしゃ、いくぜ!」
松井が張り切っていた。松井の他にも10組にはスポーツ推薦入学の生徒が多いので、やる気になっている。英雄も体力には自信があったけれど、茉莉那とイチャつきたいので水へ入らない。加藤や安田も残る。遠泳に参加するのは生徒の8割だった。
「よし! 出発しろ! 水泳部、全員をフォローしろよ!」
「「「「「はい!」」」」」
水泳部員は腰に紐をつけ、それで浮き輪を二つずつ曳航している。万一に備えてのことだった。その水泳部員が安全措置なだけで琵琶湖にサメなどの脅威となる生物はいないので漁船や教師は引率しない。三井は水泳部員なので沖へ出れば、葉紀子の生殺与奪は握ったも同然だった。そして交換した水着は長期間かけて細工した特製で、縫い合わせの糸を抜き、代わりに水溶性の強力接着剤で生地を貼り合わせてある。水に入って、しばらくすれば水着の形を保てなくなる代物だった。葉紀子は遠浅の砂浜を肩が水に浸かるまでは歩き、そこから水中眼鏡をして平泳ぎをする。
「ハァ!」
琵琶湖は真水なので海水と違って、やや身体を重く感じる。
「ハァ!」
そして泳いでいるうちに葉紀子の競泳水着は股間を守る一番大切なところが解けてしまい、丸出しになる。それに本人は気づかず泳いでいるけれど、後方から追跡していた三井はほくそ笑む。
「ぷ、ハァ♪」
やった、オペレーション・全裸、開始、あの作業時間は無駄じゃなかった、と三井はわざわざ学校指定の競泳水着を余分に買い、細い糸を生地を傷つけずに抜きながら水溶性接着剤で成形していくという気の遠くなるような作業をした日々を想った。
「ハァ!」
まだ葉紀子は気づかず泳いでいる。もう肩紐も解け、水着全体が崩壊してきている。
「ハァ! …?」
崩壊した水着が泳いでいる身体から離れていく感触がした。その感触はワカメか昆布に身体を撫でられたような感じだったけれど、琵琶湖にワカメや昆布はないはずで不思議に思って泳ぎながら水中眼鏡で自分の身体を見て驚いた。
「っ?! ぶっぼ! ゴホっ!」
驚きのあまり水を吸い込み、噎せてしまう。
「ゴホッ! ゴホッ!」
いつのまにか全裸で泳いでいて葉紀子はパニックになる。思わず両手で胸と股間を守ると泳げない。すでに肺へ水が入っていて噎せて苦しい。やむをえず両手を使って泳ぎ、呼吸を確保した。
「ハァ、ハァ、ハァ!」
「塚本さーん、遅れてるよぉ、みんなとペースを合わせてぇ」
三井が白々しく言う。パニック気味の葉紀子は三井へ助けを求めた。
「み、水着が、ハァ、ハァ! 無くなったの、ハァ!」
「へぇ、それは大変だねぇ、でも、休憩ポイントまでは頑張らないと」
「う、浮き輪を貸して!」
「溺れたらね」
「ハァ…ハァ……」
これも罠だと、ハメられたと、葉紀子は気づいた。
「くっ! よくも!」
葉紀子が三井に迫る。けれど、水中での動きに慣れた三井にかなうはずもなく、三井は迫ってきた葉紀子から水中眼鏡を奪うと同時に腹部へ蹴りを入れた。
「ぶぼっ! ゴホっ! ヒュッ…ケハッ…」
視界も失い、完全な全裸で、為す術が無くなる。もう進行方向さえ不明になった。
「フフ、スマートフォンも無いね。指紋も残らないねぇ、困ったねぇ、困ったねぇ、ここで溺れて死んじゃっても、事故ってことで終わりだねぇ?」
「…ハァ…ゴホ…ハァ…」
「助けてください、三井様って言ってごらん?」
「……。助けてください、三井様」
「棒読みはダメ、もっと感情ゆたかに」
「くっ……」
水から頭を出して浮いているだけでも葉紀子は体力を消耗するのに水泳部の三井は平気そうだった。葉紀子は目を細めて周囲を見る。
「……」
やっぱり進行方向さえわからない。そもそも、みんなと合流しても葉紀子は全裸で周囲にはタオル一枚ない。
「……」
どうすれば……、と葉紀子が途方に暮れていると三井が言ってくる。
「とにかく休憩ポイントまで行くしかないよ。おいで。溺れたら、さすがに助けてあげる」
殺意までは無いので三井は葉紀子を誘導した。休憩ポイントは遠浅の砂浜が自然に形成した砂島で水位によっては水没するので地図にも載っていない砂だけで構成された高さ30センチもない島だった。そこに松井たちが到着して休憩している。葉紀子は裸なので水から揚がりたくない。島の近くまで来て足が着くようになると進むのをやめた。なのに三井たち水泳部の女子が両手をつかんで引いてくる。
「くっ…離して!」
「水に入ったままだと体温が低下するよ。ほら、揚がって、揚がって♪」
「離して! 嫌!」
嫌がっても、すでに体力を失っていて抵抗らしい抵抗ができない。ろくに手足へ力が入らなかった。抵抗虚しく全裸のまま砂島に揚げられた。
「…ハァ………ハァ…」
草木の一本さえない、砂だけの島に360人くらいの男女の生徒たちがいて葉紀子に注目してくるのに隠れる場所さえない。松井が騒ぐ。
「うお! 副会長、なんで裸?! なんのサービス?!」
木村は嗤う。
「あはは、すっぽんぽんじゃん! オムツどうしたの?! あ、水着か」
「「「「「……………」」」」」
一部の良識ある生徒たちは、あまりにひどいし可哀想になってきて、何か身体を隠すものを与えてやりたいと考えるけれど、まったく完全に砂しかない島なので何もない。葉紀子は座り込んで胸と股間を手で隠しているしかできることがなかった。そんな葉紀子を木村たち女子が囲み、奈々は自分の水着の胸元から一辺が10センチ程度の三角形の白いシート状の物を出した。
「さすがに、アソコ丸出しはダメでしょ。これで隠してあげる」
「……。やめて! 私に触らないで!」
罠としか思えないので葉紀子が拒否したのに木村たちは強引に手足を押さえ込み、葉紀子の股間に三角のシートを貼った。おかげで陰毛は隠れる。
「…ハァ……ハァ…くっ……」
「ほら、よかったね。これで安心して泳げるよ」
「………」
一応は最も隠すべきあたりは隠れているけれど、やはり罠としか思えない。案の定、木村は手を伸ばすと、一気にシートを剥がしてきた。
ベリッ!!!
強い粘着力で毛に貼りついていたシートは葉紀子の陰毛をすべて引き抜いた。猛烈な痛みで葉紀子は全身に鳥肌が立つ。
「ううぅうううっ!!」
「あははは、どう? ブラジリアンワックスシートは。いいね、一気に全部、抜けちゃったね!」
「うううっ…うううっ…」
あまりの痛さで葉紀子はおしっこを漏らしてしまう。
ピ~っ…
弱々しい放物線が飛んだ。
「きゃはっははは! おしっこ漏らしてる!」
「やっぱりオムツが要るねぇ!」
「ううっ…うううっ…」
葉紀子は両手で股間を押さえて呻き、しばらく苦しんだし、木村たちはしばらく嗤った。
「はい、証拠隠滅、陰毛消滅♪」
三井が沖の方へシートを投げた。広大な琵琶湖で一度失われた一枚のシートを見つけるのは、かなり困難となる。教師はおらず監視カメラもスマートフォンも無い、この環境は虐待に最高だった。
「さて、そのカッコで泳いで、他の観光客もいる目的地まで行こうね」
「………」
葉紀子は痛む股間を押さえ黙って木村たちを睨む。気力的にも体力的にも、もう対抗できない。身一つで何もない。木村が楽しそうに言う。
「さあ、土下座して泣き入れてみなよ。私ら内部生に逆らったら、どうなるか思い知ったでしょ」
「「…」」
奈々と三井は顔を見合わせる。一応、二人とも高校から入ったので外部生という括りになるはずだったけれど、もう木村は仲間とみなしてくれている感じだったのが、嬉しいような、仲間に入れてもらわないとやっぱり居場所の無い学園なのかと残念なような、複雑な気持ちだった。むしろ奈々と三井としては外部と内部の隔たり無く、イジメという共通目的のために頑張れたという気持ちだったのに、とも感じている。そんな女子たちに内部生である層川が声をかけてくる。
「おい、木村、さすがにやり過ぎだろ」
「男子は引っ込んでな」
「出るとこ出させ過ぎだ。塚本、これ着ろ」
そう言って層川は自分の水着を脱いだ。
「「「キャーーー?!」」」
女子の数人が悲鳴をあげる。木村も驚いた。
「ちょ、層川! お前、何を出してんのよ?!」
「はははは! 引っ込まずに出たぞ」
「アホか、お前は!」
木村が股間を狙って蹴るのを、さすがに層川は避けた。剥き出しに直撃はさけたい。
「ってことで、塚本、これを着て泳げ。おっぱいは諦めて」
「………。あなたは、どうする気?」
「うむ、いい質問だ。それを待っていたぞ」
「「「「「……………」」」」」
その答えは一堂も知りたいので静かになる。
「オレは全裸で泳ぐ。そして観光客もいるゴールポイントに堂々と到着する」
「「「「「……………」」」」」
「当然、大騒ぎになる。変態参上だ。もしかしたら、警察を呼ばれるかもしれない」
「「「「「……………」」」」」
「だが、そこに塚本が現れ、私が水着を流してしまったので、彼が貸してくれたの、彼はヒーローよ、と言ってくれる。すると、オレは変態から一挙にヒーローだ。どうだ? たぶん、警察官も、まあいいか、で帰ってくれるはずだ。あいつら、仕事しないからな」
「「「「「……………」」」」」
それで、なんとかなりそうな気もした。木村が舌打ちして言う。
「ちっ……層川、お前、空気を読めよな」
「うむ、窒素78%、酸素21%、アルゴン0.93%、炭酸ガス0.03%だ」
「………あーっ! もおっいい! 白けた! 引き上げるよ!」
木村が手を振り撤収を命じると、奈々と三井は、だんだんこの人は悪役が板についてきたなぁ、と思いつつ従った。そうして全裸の層川が浜辺に着くと、やはり騒ぎになる。とくに教師が怒った。
「層川、お前、なんだそれは?!」
「ははっはは! これがオレの真実の姿だ!」
「バカかお前は!! 捕まるぞ!! 小学生じゃないんだから隠せ!!」
「隠し事はいけない。人は正直でなければ」
「いいから隠せ! 警察を呼ばれるぞ!」
騒ぎが大きくならないうちに葉紀子は教師たちに告げなければと急ぐ。いっしょに泳いで欲しいと頼んだのに、層川は単独で上陸したかったようで葉紀子より早く泳いだ。そのために追いつくのが大変だった。やっと足が着くところまで来て、葉紀子は胸を隠しながら走る。
「ハァハァっ! せ、先生! わ、私の水着が流れたから! 層川くんが貸してくれただけっ、ハァハァ! ゴホっ…だから騒がないで!」
「塚本の………」
教師は葉紀子の胸元から目をそらしつつ、層川に言う。
「そうだったのか……いや、だからって、せめて手で隠せよ!!」
「ははははっはーっははっは!」
層川のバカ笑いが琵琶湖岸に響いて遠泳は終わった。宿泊施設での夕食となりクラス担任は深いタメ息をつき、ビールを呑みたいのを我慢しつつ言う。
「はぁぁ……層川といい、永戸といい、まったく、うちのクラスは…」
「永戸がオレみたいなことを?」
するわけないだろ、という突っ込みを期待して層川は問うたのに、クラス担任は嘆かわしそうに答える。
「ああ、方向性は違うが、結局は似てる」
クラス担任がチラリと廊下を見る。廊下では茉莉那と英雄が正座されられていたので、なんとなく層川たちにもわかった。結ばれたばかりの17歳の男女が浜辺という環境で何をして正座させられているのか、欲望が羞恥心を上回ったのだと察した。葉紀子は夕食を終えると、疲労感の強さで身体が重かったけれど、ともかく入浴するために大浴場へ行った。大浴場は一つしかなく、男女が時間入れ替え制なので女子は9時までに終え、9時以降は男子とされている。おかげで混雑していた。
「はぁぁ……」
タメ息をついて身体を洗い、髪も洗う。洗顔しているときだった。
バシャッ!!
冷水を桶で背中からかけられた。
「っ?!」
冷たさに身体が強張る。
バシャッ!!
次は熱湯を桶でかけられ、大火傷したかと思うほど熱い。
「うううっ!」
さらに冷水をかけられる。
「あああっ!」
神経が温度に順化する性質があるのを知っての攻撃で、火傷しないギリギリの熱さと冷水による交互の攻撃は頭が真っ白になるほど刺激性が強い。なんとか犯人を見てやろうと、誰がやっているのか察しつつ手で眼鏡を探したけれど、置いた場所にない。近眼なので目を開けても見えないし、冷水と熱湯に加えて、ときどき目を狙ってシャンプー混じりの水鉄砲を撃ってくるので視界が無い。
「ううっ! あああっ!」
もう葉紀子は洗い場でうずくまり身体を丸くして防御するしかできない。その背中に冷水と熱湯をかけられるので気が狂いそうだった。なんとか犯人がいそうな方向へ手を伸ばし、せめて引っ掻いてやろうとしたのに、視界が無いために逆に腹部を殴られた。
「うっ?!」
さらに殴る蹴るされる。相手は自分たちが特定されないため無言でやってきている。痣が残らない程度の軽めとはいえ、四方八方から暴行され続け、冷水と熱湯の交互攻撃も続き、葉紀子は気が遠くなり気絶した。
「おーい、塚本ぉ」
「女子のイジメって、ここまでやるんだ……」
層川と加藤の声がする。松井の声も響いてくる。
「もはや鬼だな」
「うぅっ…」
葉紀子は目が醒めた。風呂場で男子たちに囲まれている。時間が来て男女入れ替えされたようだった。
「っ?!」
本能的に胸へ手をやると、タオルがかけられていた。このタオルは男子たちがかけてくれたもので、おそらく全裸で放置されていたのだと察しがつく。
「塚本、大丈夫か?」
「……平気…」
「「「…………」」」
どう見ても平気じゃないだろ、と男子たちは思ったけれど、葉紀子は急いで風呂場を出る。脱衣所で、また困った。
「くっ……また私の着替えを…」
置いた場所に衣類が無かった。仕方がないので男子に頼む。
「ごめんなさい、誰か、タオルと服を貸して」
「オレでよければ。しかし、塚本、よく目をそらさないな。オレたちの身体から」
層川が言い、葉紀子は目を細めないようにして答える。
「近眼だから、ぜんぜん見えてないのよ」
「なるほど。あ、眼鏡、湯船の中に落ちてたぞ。たぶん、投げ入れられた感じに」
眼鏡を手渡してくれたので葉紀子は習慣的にかけようとして男子の前でかけるのはやめた。女子専用の大部屋に戻ると、嫌な視線を感じる。
「………」
正直、眠りたくなかった。寝ている間に何をされるかわからない。この前は教室で急激に眠くなった後、髪を切られていた。変な風に斜めに切られた髪を美容室で切りそろえたりはしていない。そのままにしている。犯人が自分につけた傷を残すために。
「………」
眠らず起きていよう、そう思ったのに遠泳の疲れで眠ってしまい、朝になった。
「……っ…」
起きると布団が濡れていた。まるでオネショしたように下着も濡れている。けれど、オネショではないと確信できる。もしオネショだったら尿意が無くなるはずなのに、今はトイレに行きたい。朝の尿意が普通にある。なので、これは眠っている間に誰かが葉紀子の下半身にかけたものだと察することができた。
「………」
どこまでも卑怯な人たち……ううっ……眠い……頭が……、と葉紀子は睡眠不足を強く感じた。もう、どうせイタズラされた後なので二度寝する。寝ない方がいいと考えても、眠すぎて無理だった。
「あーっ♪ 塚本さんがオネショしてるぅ!」
「ホントだ、高校生にもなって、オネショだ!」
「お布団にシーシーなんて恥ずかしいぃ!」
「………」
このサンバカトリオ………、と葉紀子は予想していたので木村と奈々、三井の罵詈雑言を聞き流した。自分のおしっこではないとわかっているので、まったく恥ずかしくない。葉紀子の反応が面白くないので、すぐに三人も口撃をやめた。濡れている布団のことは宿泊施設の職員に相談すると、本当にオネショする生徒もいるらしく細かく追及されたり清掃料金を請求されることもなかった。
「よーし、見学に出発するぞ」
一泊二日合宿の二日目は社会科見学で福井県敦賀市の原発関連施設を回るだけで、そこで嫌がらせはなかった。あとは昼食を食べて帰るだけ、道の駅にある大きな食堂で生徒たちの配膳で和食が提供される。安田は奈々から渡されたトレーを葉紀子へ差し出した。
「一つ取ってください」
「ありがとう」
トレーには班員分の六つの味噌汁があって葉紀子はそのうち一つを選んで取った。その直後に木村が安田の背中を押しつつ葉紀子へからむ。
「放射能漏れもヤバイけど、あんたの尿漏れもヤバイよね。きゃははは! あ、ごめん、安田さん! 大丈夫、火傷してない?!」
「は、はい、大丈夫です…」
安田は指示された通り、残り五つの味噌汁を床に零した。それで他の班員の分は汲み直しになる。そして葉紀子と同じテーブルの班員たちはソースと醤油を使わず、あまり美味しくない和食を我慢して塩だけで食べた。葉紀子は他人が食べているものに興味をもたず醤油を使って食べ終えた。そうして帰りのバスに乗った。
「………」
バスに乗って20分、葉紀子は便意を覚える。
グゥゥ、ゴロゴロ…
お腹が痛い。
「……」
とても痛い。
ゴロゴロゴロ!
今までに経験したことがないような腹痛だった。
「うぅっ…」
葉紀子は呻き、何か盛られたと確信した。思い返してみると、安田が運んできた味噌汁が怪しい。あえて葉紀子に椀を選ばせてくれたけれど、その六つのうち、すべてに何かを盛っていて、それゆえ残り五つを零したのだと悟る。気にしなかったけれど、醤油やソースも他の班員たちは使わなかった。木村たち内部生は先輩から旅程を細かく聴ける。どんな昼食が出るか、去年の写真や記憶を調べられる。砂の島で全裸にされたのも綿密な計画なら、今の腹痛も罠だと確信できた。
「うっ……くっ……」
冷や汗が出るほど痛い。どんどん便意は増してきて、いずれ失禁させられる気がした。葉紀子は旅程を思い出してみる。バスのトイレ休憩があるのは30分後、そのサービスエリアまで我慢できる気はしないし、葉紀子たちが乗っているのは1号車ではあるけれど、修学旅行バスは5号車を先頭にするのが慣習で、行きの休憩でも1組2組の生徒たちがサービスエリアに入るのは最後になっていた。この腹痛が罠だとすれば、サービスエリアに着いた時点で3組以下の女子たちがトイレを塞いでいると予想できた。となると恥ずかしくはあるけれど、自分一人のためにバスを停めてもらってパーキングエリアに寄ってもらうしかない。言いにくいことではあったけれど、葉紀子は決断し隣席の安田に頼む。
「ちょっと、お願いがあるの。先生にバスを停めてもらうよう頼んできてくれない?」
「……」
安田は声をかけられても目を閉じ、イヤフォンをしていて答えない。葉紀子が肩に触れて言ってみても目を開けない。窓際席にいる葉紀子は立って教師が座っている先頭まで行くのもつらいので頼んでいるのに、安田が反応しないのでイヤフォンを抜かせてもらった。
「ごめんなさい、聴いて」
「………」
安田は目を閉じたまま、聴きたく無さそうに身を小さくしている。
「先生に頼んでほしいの」
「………」
安田は小さく首を振った。震えるような振り方で安田の気弱さが感じられる。葉紀子は苛立って問うてみる。
「お昼のお味噌汁、何か入ってたの?」
「………知りません……私は……渡されたものを出しただけ……私だって外部生なんです……あの人たちに目をつけられたくない……私は何も知りません……同じ班だから配っただけ、それだけ……」
「……そう」
葉紀子は安田が気弱さから木村たちに逆らえないことを察した。もともと1組と2組は外部生が少ないのに、逆らえばどうなるか葉紀子の例をみればわかるし、葉紀子の次にターゲットにされるのは嫌という、わかりやすい反応だった。
「もういいわ。…………層川くん!」
男子に頼むのは少し迷ったけれど、女子に頼んでも無駄なことは明白で、恥ずかしいけれど層川に言ってみる。
「先生にバスをどこかの休憩所で停めてもらえるよう頼んでくれない? 気分が悪いの」
「んー……花を摘むのか?」
「っ、遠回しなようで露骨な言い方をしないで! デリカシーがないわね!」
「ははっは! では、花の多そうなところだといいな」
層川は冗談を言いつつも席を立ってくれた。木村たちと同じ内部生でも女子の空気に流されないでいてくれる。層川は教師に停車を求め、バスの運転手はすぐに最寄りのパーキングエリアへ入ってくれる。
ゴロゴロゴロ!
どんどん腹痛は激しくなっている。葉紀子はバスが停車すると同時に立ち上がったけれど、安田が足を出して進路を塞いでいる。
「足をどけて」
「………」
安田は申し訳なさそうな怯えた顔で俯き、足を出したまま葉紀子が通路に出るのを妨害している。
パン…
軽く葉紀子は安田の頬を叩いた。
「これで言い訳がたつでしょ。どけて」
「…」
安田は足を引っ込めた。腹痛に耐えながら葉紀子はバスを降りる。停車したのは、ごくごく小さなパーキングエリアで山の中腹にあり見晴らしはよくて日本海が見えるけれど、そんなことは葉紀子にとって、どうでもいい。
「……」
急いでトイレに向かった。女子トイレのそばにある身障者向けトイレが使用中で、しかも星丘高校の女子が見張るように並んでいたので嫌な予感がした。予感は当たって女子トイレに入ると、たった4つしかない個室を女子たちが塞いでいて木村も並んでいる。奈々と三井もいる。3組は4号車なので奈々たちも運転手に頼んで停めてもらったようだった。
「きゃは♪ 私たちも急にお腹が痛くなって、ね」
「「ね」」
「……。ここは公共のトイレよ、こんなイタズラに使っていいと思ってるの?! 大迷惑でしょ! うぅっ…」
大きな声を出すと、お腹に響いた。そして葉紀子の指摘通り、一般の利用者も女子トイレへ入ってくる。切羽詰まった顔をした女子中学生を連れた母親が個室が塞がっているのに困惑し、木村は想定していたので親子へ声をかける。
「あ、どうぞ、どうぞ、私たちは修学旅行なんで迷惑かけてすみません。どうぞ、お先に。中村さん、譲ってあげて」
「はーい」
個室内でショーツをおろしてもいなかった中村が親子へ個室を譲る。親子には譲ったけれど、葉紀子には譲らないという顔で個室の前に立ち塞がる。その後も仕事中らしきパンツスーツ姿の女性が入ってくると、すぐに木村たちは個室を譲り、葉紀子以外にはトイレを使ってもらう。そして教師は男性なので女子トイレには入ってこない。再び木村たちが支配できる場だった。
「……うぅっ…」
呻くほど葉紀子は便意が強くなってきて、木村に頼む。
「お願い。トイレを使わせて」
「私たちもお腹が痛いの。順番は守ろうよ」
「……白々しいこと言わないで……うぅ…」
「お昼ご飯が悪かったのかな? かなり痛いね」
「…うぅ……お願い……」
もう葉紀子は便意が強すぎて、お尻の力だけでは漏らしそうなので両手でお尻の左右をギュッと押さえ、割れ目を塞ぐようにして我慢し、やや前屈みにもなっている。
「あらあら、大変だね」
「…おねがい……木村さん……あなただって女でしょ……大きい方を漏らすのは絶対、嫌……どうか、トイレを使わせて……ぅうぅ…」
「ふふふん♪ いいね、棒読みじゃなくなってきた。やっぱ、大は嫌だよね。きゃはは!」
「うぅぅ…」
学校でトイレを邪魔されて、おしっこは漏らしても大便は家まで我慢できた。拭いて乾かせば、おしっこは被害が少ない。それに比べて大便は物理的な被害も精神的なダメージも大きい。気の強い葉紀子が本気で頼んでくるのが楽しくて木村はペシペシと葉紀子の頬を叩いた。
「困ったね、漏らしちゃうね?」
「うぅぅ……おねがい……お願いだから……ど、どうすればいい? どうすれば?」
「そーぉだねぇ。やっぱり、永戸さんへ謝ってもらおうか?」
「うぅぅ……私は何も…してない…」
「あそう。私たちも何もしてない。ただトイレに並んでるだけ」
「わ、わかった、わかったわ。たしかに、あのとき私は少し意地悪だった。ステージの上で永戸さんが挨拶する前に替わってほしいといったのを断ったのが、悪かったと認めるわ。その点について、彼女に謝るから今はトイレを譲って、お願い。永戸さんだって、おしっこを一回漏らしただけじゃない。私は学期中、何度も失禁させられて、もう十分でしょ?!」
「利尿剤を盛ったよね? 永戸さんが飲んでたスポーツドリンクのペットボトルに」
「そんなことしてない!」
「あーそう、じゃあ我慢を続けるしかないね」
「うぅぅ…お願い…大は嫌……お願いします、トイレ…」
横から奈々が指摘する。
「昼休みの校内放送でも茉莉那ちゃんへ、ひどいこと言ったよね?」
「うぅぅ……はい…すみません…」
「おーおー♪ いいね、素直だね、そうやって素直に謝れば私たちも鬼じゃないから。うん、じゃあ、あのとき、なんで、あんなひどい言い方したの? 言ってみなさい」
「うぅ……ハァハァ…その前にトイレ…」
「反省が先」
「わ…、私は……私が……悪かったわ。……永戸さんがおしっこを漏らしたから、もうみんなの前に立つのがつらいかもって……だから、生徒会長を辞めて……くれたら……私が生徒会長になれるかもって……そう考えたの。と……とても、卑怯だった。悪かった、謝る、謝るから、お願い! 今はトイレに行かせて…ぅぅ…」
「やっぱり、そういう汚いこと考えて茉莉那ちゃんを、わざと傷つけたんだね? 認める?」
「み……認めます……ごめんなさい」
「よしよし」
三井が畳みかける。
「つまり、あんたは茉莉那ちゃんに利尿剤を飲ませ、球技大会で忙しいのに仕事を全部、茉莉那ちゃんに押しつけてトイレへ行かせず、おもらしさせて傷つけたあと、もっと傷つけて辞めさせようとした。そういうことでしょ」
「うぅぅ……違う……利尿剤なんか飲ませてない……うぅぅ…仕事を押しつけたのは認めます……面倒だったから……勉強を優先したくて……それは、とても無責任な態度で、悪かったです。副会長なのに……すみません。悪かったです、ごめんなさい。永戸さんにも謝ります。だから、だから、今はトイレに行かせてください。うぅ……お腹が痛い…痛い……お腹がよじれて………腸がちぎれそう…」
「きゃははは♪ うんうん、警戒心が強いゴリラやチンパンジーにも効く下剤って、あるらしいよ。まあ、あなたの腹痛は自業自得だけど」
「うぅ…利尿剤や下剤を入れたのは、あなたたちの方……ハァ…ハァ…お願い…私が悪かったです……永戸さんに謝るから…」
「ごめんで済むと思ってる?」
「うぅ…じゃあ、どうすれば?」
「う~ん♪ やっぱり茉莉那ちゃんは全校生徒の前で漏らしたわけだし…、あ、二学期の始業式、あれで挨拶を替わりに副会長として、やりなよ。で、その場でおしっこ漏らしながら茉莉那ちゃんに謝るの。すべての罪を告白して認め、懺悔しなよ、心の底から、きちんと。それで茉莉那ちゃんが許す気になるなら、私たちも許してあげるよ」
「そんな……生き恥を……」
「茉莉那ちゃんは全校生徒の前だったよ」
「二学期の始業式は全学園が集まる場で……幼小中高…大学まで…」
「そのくらいの利息はつくよ」
「…うぅ……もう何度も学校でおもらしさせられたわ……オムツもさんざんバカにされて…」
「加害者のくせに、さんざん茉莉那ちゃんを叩いたよね。茉莉那ちゃんは何も悪くないのに」
「それは………、……それも、謝るから…うぅっ…」
もう便意のあまり葉紀子は青ざめている。木村が葉紀子のお尻を撫でながら言う。
「ここに大きなお土産をブラさげて帰るか、すべての罪を認めるか、二つに一つ、どうする?」
「わ…私が悪かったわ。……当初、永戸さんに意地悪した……認めます…」
「利尿剤を盛ったよね?」
「……ううっ……ううっ……ハァ……」
葉紀子が口には出さず、小さく首を横に振った。やってもいないことは認めたくない。なのに木村たちは自白を強要してくる。
「もう認めなよ」
「その方が楽だよ」
「ちゃんと謝るなら、私たちも鬼じゃないから」
「うぅぅ……うぅぅ…」
だんだん葉紀子は迷えてくる。もう認めてしまう方が丸くおさまるかもしれないし、とにかく今はトイレへ入らせてほしい。おしっこおもらしならともかく大便なんて嫌すぎて考えたくない。そんな迷いにある葉紀子のそばに安田が来て、木村へ言う。
「すいません。木村さん、トイレに入りたいです」
「いいけど、なんで?」
「……おしっこしたくなって…です…」
恥ずかしそうに安田が答え、木村は個室内へ声をかける。
「中村さん、ちょい出て」
「はーい」
また中村が出てきて安田と個室を替わり、安田はおしっこをしてから出てくる。葉紀子は望みをかけて安田に頼んでみる。
「や、安田さん、先生を呼んできて。男の先生でも緊急事態だからって…ぅぅ…」
「………」
安田は葉紀子と目を合わせない。まるで見えない、聞こえない、そんな風に通り過ぎていく。通り過ぎながら、ごく小さな声で言った。
「…人のこと…叩いておいて…都合良すぎ…」
木村は安田へ念押ししておく。
「安田さん、余計なことしない方がいいからね?」
「…はい…」
安田は足早に去った。木村は取調する刑事のように葉紀子へ自白を迫る。
「あんたは永戸さんへ利尿剤を盛って、おもらしさせて生徒会長の座から引き摺りおろそうとした。そうだよね?」
「違うわ」
「あんたのポケットから利尿剤が落ちた証拠だってあるよ」
「あれこそ…ぅぅ…あれこそ、変よ。もしも仮に私が利尿剤を盛ったのなら、その証拠になるような物は持ち歩かないはず…ぅぅ、そう言ったでしょ」
「どうかな? こうも考えられるよね、一度おもらしさせたのに永戸さんは周囲に支えられて立ち直ってしまった。あんたは計画通りにいかず、焦って二度目のおもらしを永戸さんにさせようとチャンスを探すため利尿剤を持ち歩いていた」
「バカな妄想よ……ぅぅ……」
ますます葉紀子が青ざめる。
ゴロゴロ…ギュル…ギュロロロロ…
便意は経験したことがないほどの激痛になってきて葉紀子が両手で押さえているお尻がブルブルと震えた。
「はぐぅ…うぐぅ…わ、わかったわ! それでいい!」
そう言い出す葉紀子の口からヨダレが飛んで、顎に滴る。それを手で拭く余裕もないほど葉紀子は切迫している。
「そ、それでいいから! 謝るから!」
「は? なにその態度?」
「わ、わかりました」
「なにがわかったの?」
「私が悪かったのッ! 全部、私が悪い!」
「そう、なにをしたの?」
「永戸さんに利尿剤を飲ませましたっ…ぅうぅ…挨拶を交替せず、おもらしさせて、放送で意地悪なことを言って会長を辞めさせようと…うぐっ…ハァハァ…なのに立ち直ったから、また利尿剤を飲ませようとして持ち歩いて…ううっ…他にも叩いたりしました。ごめんなさい、ごめんなさい!」
葉紀子の目から涙が零れて頬を一筋流れた。やってもいないことを謝罪する苦痛で涙が零れ、それでも謝ってから頼む。
「うぅ…本当に私が悪かったです。永戸さんに謝ります。だ、だからトイレ!」
「「「………」」」
木村と奈々、三井が顔を見合わせる。もう目的は達せられた。秘かに録音もしている。ただ迷う。このままトイレに行かせてやるか、それとも漏らさせて、どんな顔をするか、見てみるか、好奇心はある。けれど、かなり臭そうで、それはそれで嗅ぎたくない。奈々が言う。
「まあ、いいんじゃない?」
「「そうね」」
ようやく葉紀子の前に道が開けた。
「ハァ…やっと…」
葉紀子が一歩を踏み出した。
ブリュ!
もう一歩でも動いたら漏れそうな便意に耐えていて、その一歩を踏み出したためにお尻が少しだけゆるみ、そのゆるみが決壊をもたらした。
「ひっ?!」
わずかでも決壊すると、もう持ち直せない。
ブリュリュリュ! ブブブムリムリ…
スカートの上からでもわかるほど葉紀子のお尻が膨らみ、小麦色のスカートに茶色い染みができる。
「では、第7回、塚本葉紀子をつぶす会を開催します」
「「イェエー♪」」
「まず冒頭、オペレーション・ナプキンの成功を祝って、乾杯!」
「「乾杯!」」
ドリンクバーの炭酸飲料で乾杯し、三井が戦利品の葉紀子の髪を眺めつつ言う。
「夏休みに入って油断してるとこ、カマしてやったから今頃、凹んでるだろうね」
「さすがに泣いてるかも。髪切ってやったし」
「ナプキン貼り付けも、きついでしょ。きゃははは!」
木村が嗤いながら菓子を食べる。三人で協力し、葉紀子に大きなダメージを与える作戦を成功させていた。星丘高校には夏休みはあるようで無い、終業式の翌日から自由登校になり、登校すると普段通りの授業時刻にチャイムが鳴り、その間は自習となる。自習中は私語禁止であるものの教え合いはできるし途中退席でトイレへ行くこともできるので、どれほど人員を用意できても、さすがに丸一日、葉紀子がトイレを使うことを阻止することはできない。代わりに壮大な罠を仕掛けることができた。化学の知識と器具を悪用し、揮発性の催眠ガスを作り、それを前日から2組の天井裏にガラス瓶に入れてガラス蓋と釣り糸で仕掛けをつくり、葉紀子の席の真上に5ミリの穴をあけ、ガスがくだるようにして自習中に木村を含めたクラス全員が眠った頃、水泳部で肺活量が豊富な三井が息を止めて入り、葉紀子がセミロングまで伸ばしている髪をすぐにはバレない後ろ髪の内側をハサミで大きく斜めに切り、一度息継ぎして、次は葉紀子が女子トイレの汚物入れに捨てた月経血で汚れたナプキンを背中に貼り付け、それから窓を開けて換気しておいた。教師のいない自習中の教室で全員が居眠りしてしまっても、起きた順に不審に思わず勉強を再開している。葉紀子の背中に使用済みナプキンが貼り付けられていることに女子は気づいても言わないし、男子も言いにく過ぎて誰も教えない。そのまま帰宅したはずだった。
「そういえば、今日は茉莉那ちゃん、来てなかったね。サボり?」
「なんか初等部の子たちと泊まりで遊んでるらしいよ。鹿狩くんの妹が中心のメンバーで、鹿狩家の別荘だって。やっぱ内部生は違うよね。木村さんも内部生だけど、別荘とかある?」
「一応ね」
「「うわっ…こいつもお嬢か」」
「いやいや、ホントたいしたことないよ」
「とか言って豪華過ぎるクルーザー付き別荘だったりするんでしょ」
「ううん、タイムシェアマンションっていうショボいの。一年のうち数日だけ所有してる。ほんの50万円くらいで買えるらしいよ」
「「ふーん……」」
その50万円が庶民には余らないお金なのになぁ……やっぱりプチお嬢だ、と奈々と三井は思った。それに気づかず木村が言う。
「でも、永戸さんも、ちょっと腹黒いよね。私たちが塚本をイジメ回してるの、見て見ぬフリするし。ときどきは止めようかなってポーズだけはしておいて、結局は自分が手を汚さずに塚本が苦しむなら、むしろラッキーくらいの顔してる」
「どっちかというと鹿狩くんと会話するのに夢中で、もう塚本なんて、どうでもいい世界にいるのかも。塚本が成績を落として108位だったのはザマァみろだったけど、茉莉那ちゃんも62位まで落ちたし、ついでに加藤も87位だったから生徒会、総崩れだね。松井は安定の最下位だったし」
「きゃはっは、塚本が108位を知ったときの顔、嗤えたね!」
「あははは! 目が死んでた!」
「ビビってオムツに漏らしてそう!」
「結局、学期中はオムツ離れさせなかったし」
「期末テスト前までは、ちょくちょくパンツで来てたけどね。期末テスト後は気力が尽きた顔してた。ずっと、オムツ濡らして帰ってたよ。あははは!」
嗤った後、三井が問う。
「でもさ、最初に大規模な作戦を仕掛けたスターヒル仮面って、正体は誰なのかな? 私は、この三人の中にいる気がする」
奈々が言う。
「さて、どうだろうねぇ」
木村は考える。
「いるかもしれないけど、それは、はっきりさせない方がイジメがバレたとき首謀者が不明で都合いいじゃん。塚本は死ぬようなタイプじゃないけど、もしかしたら今日とか、首吊るかもよ。そうなったとき、私らはスターヒル仮面に弱みを握られて、やるしかなかった、とか答えれば逃げられる」
三井が頷く。
「うん、それいいね。あとは一番疑われる茉莉那ちゃんをカバーするため、いっそ、あの鹿狩くんの妹が真の裏ボスってことにする?」
「小学生が?」
「天才小学生だし」
「星丘の小学生ならありえるね」
「さて、そろそろ本題、次の作戦オペレーション・全裸、ならびにオペーレション・下剤について煮詰めますか」
「だね、我が水泳部女子の総力を結集して、塚本を一気に追い込んでやる」
「この作戦が成功したら、マジで自殺するかも。きゃはは!」
「死ぬ前に茉莉那ちゃんに謝ってから死ねっての」
「それにしても楽しいね。たった一人を大勢でイジメるの、めちゃめちゃワクワクする」
「うん、小学校の頃はバカみたいって思ったけど、綿密に計画を練って証拠を残さずやると、こんなに楽しいことない」
「また塚本が気が強くて、すぐ泣かないから余計面白い。だんだん目が死んでいくのが見てて最高」
楽しく女子高生同士の会話を終えた三人はバラバラに帰宅する。奈々は駅の近くを歩きながら考えた。
「次の作戦でも塚本が心折れなかったら、その次は………フ、戦いとは、常に二手三手先を考えておこなうものだ、とか層川が言ってたなぁ」
一人言を午後の夏空へつぶやいていると、駅へ向かう英雄に出会った。
「あ、鹿狩くん。どこ行くの?」
「よぉ、三井だっけ?」
「吉田だよぉ。覚えてよ。外部生なんて、どうでもいいとか思ってない?」
「思ってないって。仲良くしような」
「とくに茉莉那ちゃんと?」
「べ、別に、そういう仲じゃねぇし!」
「はいはい。で、どこ行くの?」
「……。まあ、その…永戸さんと、うちの妹、その他、小学生が何人も女の子ばっかりで泊まってるらしくて、女子ばっかりの外泊は物騒だからオレも行けっオヤジが言うから」
「きゃは♪ 親公認で茉莉那ちゃんと外泊だね」
「そういう風に解釈するな! 別に永戸さんとは何でもないからな!」
「はいはい、今のところはね。17歳の夏は一度きりだもんね。イってらっしゃい」
「……。じゃあな」
英雄が駅に向かい、奈々は再び空を見上げた。
「その一度きりの夏を………私はイジメに精を出すのか……ううん、これは正当な懲罰、茉莉那ちゃんをおとしめた悪女を抹殺するための」
奈々は軽い自己欺瞞をして帰宅した。
数週間後、遠泳合宿と呼ばれる星丘高校の体力育成行事で琵琶湖に向かう修学旅行バスの中、茉莉那と英雄はイチャイチャと触れ合いながら会話していた。
「私、泳ぎは苦手だし、無理に遠泳しないで浜辺にいようかなぁ」
「茉莉那がそうするなら、オレもそっちでもいいかな」
「でも体育の成績が大きく変わるよ?」
「体育は、どうでもいいし」
付き合い始めてデートでのキスも終え、二日前に処女と童貞を卒業した二人はバスの座席を同級生に替わってもらい、肩をくっつけて会話し、ときどき誰も自分たちを見ていないタイミングを狙ってキスをしたり、英雄がスカートに手を入れて茉莉那の腿に触ったりして、とても楽しく乗車時間を過ごしていた。
「茉莉那は可愛いな」
「やん、もう、そこまでは触らないでよ。みんなが居るのに、気づかれるよ」
茉莉那は男の指が何度も何度もショーツの中央を擦ってくるので、嫌がるフリをしつつ興奮してきていた。二人とも覚えたての性交をしたくてしたくてたまらない17歳の男女で、もう周囲が見えなくなってくる。深いキスをしながら、茉莉那は男の指を受け入れた。
「フフ、茉莉那、なんだか、ここが濡れてるぞ。また、おもらししたのか?」
「ハァっ…もお、わかってるくせに、英雄くんのエッチ」
「こんなに濡らして」
「英雄くんだって勃ってるもん」
「茉莉那、オレの膝の上に乗れよ」
「え…でも……。ここで? するの?」
「大丈夫だって、スカートで見えなくなるから」
「……じゃあ、ちょっとだけ…」
茉莉那が男に跨り上下に動くと、さすがに寝たフリをしていた通路を隔てて隣に座っている層川が言う。
「本番までやるのは、いくらなんでもまずいだろ」
「「っ……起きて…」」
「みんな見て見ぬフリしてるだけで半径2メートルの連中はお前らの所業に気づいてるからな」
「「…………」」
二人が黙り込み、茉莉那は恥ずかしくなって跨っていた男からおりた。層川が言い加える。
「あと、ちゃんとゴムは着けろよ。射精しないから大丈夫とか、甘いぞ。うちの親が言ってたけど、まったく射精してない、ちょっと挿入してみただけの状態でも妊娠するときはするらしい」
「そんな状態で? マジで?」
英雄が少し心配になり問うた。
「ああ、げんにオレはそうやって生まれてきた。だから親に、お前はメチャメチャ生命力が強いし運もあるって賞められた。その時点で三人の兄姉がいたからな、もう子供はつくらないつもりでいたのに、久しぶりにしたセックスでできたらしい。コンドーム着ける前に、ちょっとだけ生を味わいたくて挿入したらデキたと。さすがに、それで中絶するのは可哀想だからオレが誕生したそうだ」
「お前らしいな……うちは母さんが娘が欲しくて、なのに三人目のオレも男で、それで四人目、やっと純子が娘で嬉しかったらしい」
「そうか。でも、お前はまだ子供つくるなよ。ちゃんとゴム持ってきたか?」
「ああ、ちゃんと最初のときも使ったし」
男同士の露骨な会話が聞こえていて、それほど遠くない席から木村が言う。
「一応さ、これは学校行事であって二人のハネムーンでも観光旅行でもないからエッチは控えようね」
「「………」」
返す言葉がない英雄と茉莉那が黙っているうちに1組から10組までを乗せた5台のバスは高速道路のサービスエリアにトイレ休憩で停車した。木村が葉紀子に聞こえる程度の声で言う。
「ちゃんとトイレに行かないと、おもらししちゃうかもね。あ、オムツなら平気かな」
「……」
葉紀子は無視して席を立つ。学期中さんざんに証拠の残らない嫌がらせをされた。上靴に画鋲を入れておくような先生に報告しやすい嫌がらせは一つも無く、枯れ葉が一枚、入っているだけだったり、帰りには靴に砂粒が入っているだけだったり、体育がバスケットボールだったりすると一回だけ後方から不意にボールをぶつけられたり、ソフトボールだとデッドボールが飛んできたりと、一回なら偶然、という狙いで嫌がらせがあったし、体育が終わって制服を着ると、ビチョ濡れではなく、コップ一杯分程度に衣類が濡らされていたりと、細々とした嫌がらせが続いた。トイレも邪魔されるのでオムツをやめてショーツを着けたいのに、やや頻尿気味になってしまったこともあって、ショーツで登校すると執拗に邪魔され失禁させられてしまう。ようやく夏休みになって自習中もいつでもトイレへ立てるになり、ショーツで学校に来ていたけれど、この合宿は不安だったのでオムツを穿いている。とくにバス移動中はサービルエリアなど限られた場所でしかトイレに行けないので、なにをしてくるか、とても警戒していた。
「……」
葉紀子は早足で女子トイレに向かった。公共のサービスエリアなので嫌がらせで全部塞ぐような真似はできないはず、と思いつつも急ぎ、女子トイレに入ると行列はなく、すぐに個室へ入れた。
「……」
さすがに公共の場所ではやらない………当然……、と葉紀子は気分が鬱気味だったけれど、気を取り直してオムツをおろし、洋式便器へおしっこをした。
ちょろ…
それほど貯まっていたわけではないけれど念のために排泄している。
「……」
葉紀子はポケットにショーツも入れていたのでオムツからショーツへ穿き替えた。個室を出て手を洗い、鏡を見る。
「……」
左の瞼がピクピクと痙攣したように動く。使用済みナプキンを背中に貼られ、髪を切られていた日から、生じるようになった症状だった。気持ちが塞ぐとより激しくなる。
「……」
………負けない……、と葉紀子はぼんやりと考えた。女性教師が叫ぶ。
「そろそろバスへ戻りなさーい」
「……」
他の生徒たちがトイレを出るし、葉紀子もバスに戻る。バスの通路を歩いていると、木村が言う。
「オムツやめたの? 大丈夫かな? おもらししないかな?」
「……」
何か言うのも面倒で葉紀子は自分の席に座った。左の瞼がピクピクと動くのが鬱陶しくて手で撫でた。隣席には安田という気弱そうな外部生がいて会話したことはない。葉紀子は次のサービスエリアでもバスを降りてトイレに入った。ここでも邪魔されず用を足せる。目的地に着くまで一度も邪魔されなかったのでショーツを濡らさず琵琶湖岸にある古くて大きな民宿のような宿泊施設に到着できた。あまり尿意は覚えていないけれど、ここでも早めにトイレに入っておく。そんな葉紀子に木村がついていき、三井は作戦通りに葉紀子の荷物を漁る。奈々は早めに葉紀子が戻ってきたときの見張り役をする。
「「「………」」」
数人の女子が三井がしていることを見ているものの見ないフリをし、三井は葉紀子の荷物にあった学校指定の白い競泳水着と、隠し持ってきた同じサイズの競泳水着を交換した。何も知らず葉紀子は戻ってきて女子専用と本日はされている大部屋で他の女子たちと着替える。
「……」
葉紀子は水泳が苦手でもないし得意でもない。遠泳合宿の課題は琵琶湖という日本最大の湖を2キロも泳ぐことだった。泳ぎが不得手な者や健康上の理由がある者は浜辺で水遊び程度の水泳教室を選択することができるけれど、体育の成績評価には大きく影響する。当然、葉紀子は遠泳を選んでいた。
「……」
女子しかいない大部屋で葉紀子が制服の上着を脱ぐと、周囲にいた女子たちは汗の匂いを感じた。臭いというほどではないけれど、まだ午前中でバスに乗って移動しただけなのに葉紀子の腋から、しっかり汗の匂いがする。水着を着て、髪をまとめている様子を見ると、腋毛が1センチ以上も伸びていた。
「「「………」」」
水泳があるって……わかってるのに腋を剃ってこないとか……それに、この匂い……もう、この人、基本的な身だしなみができないくらい鬱ってる……目が半分死んでるし……このままイジメ続けたら本当に自殺するんじゃないかな……まあ、でもそれで逮捕されるのは木村さんあたりで私たちは、たまたま同じクラスだっただけ………トイレを塞ぐのに少し協力したけど、首謀者じゃないから大丈夫なはず……たぶん……、と女子たちは無関係という顔で競泳水着に着替える。葉紀子以外の女子は、男子の目もある水泳合宿なので、いつも以上にキレイに腋を剃ったり、親に頼んでレーザー処理しているので、どの女子も腋毛は伸びていない。日焼け止めも塗り、浜辺に集合した。層川が女子たちの水着姿を鑑賞して目についた女子に色々と言っている。
「お~、木村も可愛いな」
「ジロジロ見んな」
「ではチラチラ見よう」
「あーっもお! お前ってガキの頃から変わらないなァ!」
木村が層川の腿を蹴っている。子供の頃からの幼馴染みという雰囲気が出ていた。層川は茉莉那にも言う。
「これは売約済みだな。鹿狩様、お買い上げだ」
「もお! 人を商品みたいに!」
茉莉那は手で層川の背中を叩いている。体格差がありすぎて触れられた程度にしか層川はダメージを受けていない。さらに層川は男子の加藤にも言う。
「貧弱だな」
「うるさい!」
加藤も層川を蹴ったけれど、喘息もあって加藤の身体は本当に貧弱だった。アトピーもあるので日光もつらそうに見える。そして当然のように層川は葉紀子にも言ってくる。
「眼鏡なしは、やっぱりいいな。コンタクトか?」
「……水中眼鏡に度が入っているのよ」
近眼者らしい睨むような目で葉紀子は層川を見ているけれど、蹴るにあたいすることを言わなかったので何もしない。思い返すと、もう層川くらいしか葉紀子と会話しなくなっている。体育教師が拡声器で二年生300人へ告げる。
「よーし、遠泳に参加する者は水へ入れ!」
「おっしゃ、いくぜ!」
松井が張り切っていた。松井の他にも10組にはスポーツ推薦入学の生徒が多いので、やる気になっている。英雄も体力には自信があったけれど、茉莉那とイチャつきたいので水へ入らない。加藤や安田も残る。遠泳に参加するのは生徒の8割だった。
「よし! 出発しろ! 水泳部、全員をフォローしろよ!」
「「「「「はい!」」」」」
水泳部員は腰に紐をつけ、それで浮き輪を二つずつ曳航している。万一に備えてのことだった。その水泳部員が安全措置なだけで琵琶湖にサメなどの脅威となる生物はいないので漁船や教師は引率しない。三井は水泳部員なので沖へ出れば、葉紀子の生殺与奪は握ったも同然だった。そして交換した水着は長期間かけて細工した特製で、縫い合わせの糸を抜き、代わりに水溶性の強力接着剤で生地を貼り合わせてある。水に入って、しばらくすれば水着の形を保てなくなる代物だった。葉紀子は遠浅の砂浜を肩が水に浸かるまでは歩き、そこから水中眼鏡をして平泳ぎをする。
「ハァ!」
琵琶湖は真水なので海水と違って、やや身体を重く感じる。
「ハァ!」
そして泳いでいるうちに葉紀子の競泳水着は股間を守る一番大切なところが解けてしまい、丸出しになる。それに本人は気づかず泳いでいるけれど、後方から追跡していた三井はほくそ笑む。
「ぷ、ハァ♪」
やった、オペレーション・全裸、開始、あの作業時間は無駄じゃなかった、と三井はわざわざ学校指定の競泳水着を余分に買い、細い糸を生地を傷つけずに抜きながら水溶性接着剤で成形していくという気の遠くなるような作業をした日々を想った。
「ハァ!」
まだ葉紀子は気づかず泳いでいる。もう肩紐も解け、水着全体が崩壊してきている。
「ハァ! …?」
崩壊した水着が泳いでいる身体から離れていく感触がした。その感触はワカメか昆布に身体を撫でられたような感じだったけれど、琵琶湖にワカメや昆布はないはずで不思議に思って泳ぎながら水中眼鏡で自分の身体を見て驚いた。
「っ?! ぶっぼ! ゴホっ!」
驚きのあまり水を吸い込み、噎せてしまう。
「ゴホッ! ゴホッ!」
いつのまにか全裸で泳いでいて葉紀子はパニックになる。思わず両手で胸と股間を守ると泳げない。すでに肺へ水が入っていて噎せて苦しい。やむをえず両手を使って泳ぎ、呼吸を確保した。
「ハァ、ハァ、ハァ!」
「塚本さーん、遅れてるよぉ、みんなとペースを合わせてぇ」
三井が白々しく言う。パニック気味の葉紀子は三井へ助けを求めた。
「み、水着が、ハァ、ハァ! 無くなったの、ハァ!」
「へぇ、それは大変だねぇ、でも、休憩ポイントまでは頑張らないと」
「う、浮き輪を貸して!」
「溺れたらね」
「ハァ…ハァ……」
これも罠だと、ハメられたと、葉紀子は気づいた。
「くっ! よくも!」
葉紀子が三井に迫る。けれど、水中での動きに慣れた三井にかなうはずもなく、三井は迫ってきた葉紀子から水中眼鏡を奪うと同時に腹部へ蹴りを入れた。
「ぶぼっ! ゴホっ! ヒュッ…ケハッ…」
視界も失い、完全な全裸で、為す術が無くなる。もう進行方向さえ不明になった。
「フフ、スマートフォンも無いね。指紋も残らないねぇ、困ったねぇ、困ったねぇ、ここで溺れて死んじゃっても、事故ってことで終わりだねぇ?」
「…ハァ…ゴホ…ハァ…」
「助けてください、三井様って言ってごらん?」
「……。助けてください、三井様」
「棒読みはダメ、もっと感情ゆたかに」
「くっ……」
水から頭を出して浮いているだけでも葉紀子は体力を消耗するのに水泳部の三井は平気そうだった。葉紀子は目を細めて周囲を見る。
「……」
やっぱり進行方向さえわからない。そもそも、みんなと合流しても葉紀子は全裸で周囲にはタオル一枚ない。
「……」
どうすれば……、と葉紀子が途方に暮れていると三井が言ってくる。
「とにかく休憩ポイントまで行くしかないよ。おいで。溺れたら、さすがに助けてあげる」
殺意までは無いので三井は葉紀子を誘導した。休憩ポイントは遠浅の砂浜が自然に形成した砂島で水位によっては水没するので地図にも載っていない砂だけで構成された高さ30センチもない島だった。そこに松井たちが到着して休憩している。葉紀子は裸なので水から揚がりたくない。島の近くまで来て足が着くようになると進むのをやめた。なのに三井たち水泳部の女子が両手をつかんで引いてくる。
「くっ…離して!」
「水に入ったままだと体温が低下するよ。ほら、揚がって、揚がって♪」
「離して! 嫌!」
嫌がっても、すでに体力を失っていて抵抗らしい抵抗ができない。ろくに手足へ力が入らなかった。抵抗虚しく全裸のまま砂島に揚げられた。
「…ハァ………ハァ…」
草木の一本さえない、砂だけの島に360人くらいの男女の生徒たちがいて葉紀子に注目してくるのに隠れる場所さえない。松井が騒ぐ。
「うお! 副会長、なんで裸?! なんのサービス?!」
木村は嗤う。
「あはは、すっぽんぽんじゃん! オムツどうしたの?! あ、水着か」
「「「「「……………」」」」」
一部の良識ある生徒たちは、あまりにひどいし可哀想になってきて、何か身体を隠すものを与えてやりたいと考えるけれど、まったく完全に砂しかない島なので何もない。葉紀子は座り込んで胸と股間を手で隠しているしかできることがなかった。そんな葉紀子を木村たち女子が囲み、奈々は自分の水着の胸元から一辺が10センチ程度の三角形の白いシート状の物を出した。
「さすがに、アソコ丸出しはダメでしょ。これで隠してあげる」
「……。やめて! 私に触らないで!」
罠としか思えないので葉紀子が拒否したのに木村たちは強引に手足を押さえ込み、葉紀子の股間に三角のシートを貼った。おかげで陰毛は隠れる。
「…ハァ……ハァ…くっ……」
「ほら、よかったね。これで安心して泳げるよ」
「………」
一応は最も隠すべきあたりは隠れているけれど、やはり罠としか思えない。案の定、木村は手を伸ばすと、一気にシートを剥がしてきた。
ベリッ!!!
強い粘着力で毛に貼りついていたシートは葉紀子の陰毛をすべて引き抜いた。猛烈な痛みで葉紀子は全身に鳥肌が立つ。
「ううぅうううっ!!」
「あははは、どう? ブラジリアンワックスシートは。いいね、一気に全部、抜けちゃったね!」
「うううっ…うううっ…」
あまりの痛さで葉紀子はおしっこを漏らしてしまう。
ピ~っ…
弱々しい放物線が飛んだ。
「きゃはっははは! おしっこ漏らしてる!」
「やっぱりオムツが要るねぇ!」
「ううっ…うううっ…」
葉紀子は両手で股間を押さえて呻き、しばらく苦しんだし、木村たちはしばらく嗤った。
「はい、証拠隠滅、陰毛消滅♪」
三井が沖の方へシートを投げた。広大な琵琶湖で一度失われた一枚のシートを見つけるのは、かなり困難となる。教師はおらず監視カメラもスマートフォンも無い、この環境は虐待に最高だった。
「さて、そのカッコで泳いで、他の観光客もいる目的地まで行こうね」
「………」
葉紀子は痛む股間を押さえ黙って木村たちを睨む。気力的にも体力的にも、もう対抗できない。身一つで何もない。木村が楽しそうに言う。
「さあ、土下座して泣き入れてみなよ。私ら内部生に逆らったら、どうなるか思い知ったでしょ」
「「…」」
奈々と三井は顔を見合わせる。一応、二人とも高校から入ったので外部生という括りになるはずだったけれど、もう木村は仲間とみなしてくれている感じだったのが、嬉しいような、仲間に入れてもらわないとやっぱり居場所の無い学園なのかと残念なような、複雑な気持ちだった。むしろ奈々と三井としては外部と内部の隔たり無く、イジメという共通目的のために頑張れたという気持ちだったのに、とも感じている。そんな女子たちに内部生である層川が声をかけてくる。
「おい、木村、さすがにやり過ぎだろ」
「男子は引っ込んでな」
「出るとこ出させ過ぎだ。塚本、これ着ろ」
そう言って層川は自分の水着を脱いだ。
「「「キャーーー?!」」」
女子の数人が悲鳴をあげる。木村も驚いた。
「ちょ、層川! お前、何を出してんのよ?!」
「はははは! 引っ込まずに出たぞ」
「アホか、お前は!」
木村が股間を狙って蹴るのを、さすがに層川は避けた。剥き出しに直撃はさけたい。
「ってことで、塚本、これを着て泳げ。おっぱいは諦めて」
「………。あなたは、どうする気?」
「うむ、いい質問だ。それを待っていたぞ」
「「「「「……………」」」」」
その答えは一堂も知りたいので静かになる。
「オレは全裸で泳ぐ。そして観光客もいるゴールポイントに堂々と到着する」
「「「「「……………」」」」」
「当然、大騒ぎになる。変態参上だ。もしかしたら、警察を呼ばれるかもしれない」
「「「「「……………」」」」」
「だが、そこに塚本が現れ、私が水着を流してしまったので、彼が貸してくれたの、彼はヒーローよ、と言ってくれる。すると、オレは変態から一挙にヒーローだ。どうだ? たぶん、警察官も、まあいいか、で帰ってくれるはずだ。あいつら、仕事しないからな」
「「「「「……………」」」」」
それで、なんとかなりそうな気もした。木村が舌打ちして言う。
「ちっ……層川、お前、空気を読めよな」
「うむ、窒素78%、酸素21%、アルゴン0.93%、炭酸ガス0.03%だ」
「………あーっ! もおっいい! 白けた! 引き上げるよ!」
木村が手を振り撤収を命じると、奈々と三井は、だんだんこの人は悪役が板についてきたなぁ、と思いつつ従った。そうして全裸の層川が浜辺に着くと、やはり騒ぎになる。とくに教師が怒った。
「層川、お前、なんだそれは?!」
「ははっはは! これがオレの真実の姿だ!」
「バカかお前は!! 捕まるぞ!! 小学生じゃないんだから隠せ!!」
「隠し事はいけない。人は正直でなければ」
「いいから隠せ! 警察を呼ばれるぞ!」
騒ぎが大きくならないうちに葉紀子は教師たちに告げなければと急ぐ。いっしょに泳いで欲しいと頼んだのに、層川は単独で上陸したかったようで葉紀子より早く泳いだ。そのために追いつくのが大変だった。やっと足が着くところまで来て、葉紀子は胸を隠しながら走る。
「ハァハァっ! せ、先生! わ、私の水着が流れたから! 層川くんが貸してくれただけっ、ハァハァ! ゴホっ…だから騒がないで!」
「塚本の………」
教師は葉紀子の胸元から目をそらしつつ、層川に言う。
「そうだったのか……いや、だからって、せめて手で隠せよ!!」
「ははははっはーっははっは!」
層川のバカ笑いが琵琶湖岸に響いて遠泳は終わった。宿泊施設での夕食となりクラス担任は深いタメ息をつき、ビールを呑みたいのを我慢しつつ言う。
「はぁぁ……層川といい、永戸といい、まったく、うちのクラスは…」
「永戸がオレみたいなことを?」
するわけないだろ、という突っ込みを期待して層川は問うたのに、クラス担任は嘆かわしそうに答える。
「ああ、方向性は違うが、結局は似てる」
クラス担任がチラリと廊下を見る。廊下では茉莉那と英雄が正座されられていたので、なんとなく層川たちにもわかった。結ばれたばかりの17歳の男女が浜辺という環境で何をして正座させられているのか、欲望が羞恥心を上回ったのだと察した。葉紀子は夕食を終えると、疲労感の強さで身体が重かったけれど、ともかく入浴するために大浴場へ行った。大浴場は一つしかなく、男女が時間入れ替え制なので女子は9時までに終え、9時以降は男子とされている。おかげで混雑していた。
「はぁぁ……」
タメ息をついて身体を洗い、髪も洗う。洗顔しているときだった。
バシャッ!!
冷水を桶で背中からかけられた。
「っ?!」
冷たさに身体が強張る。
バシャッ!!
次は熱湯を桶でかけられ、大火傷したかと思うほど熱い。
「うううっ!」
さらに冷水をかけられる。
「あああっ!」
神経が温度に順化する性質があるのを知っての攻撃で、火傷しないギリギリの熱さと冷水による交互の攻撃は頭が真っ白になるほど刺激性が強い。なんとか犯人を見てやろうと、誰がやっているのか察しつつ手で眼鏡を探したけれど、置いた場所にない。近眼なので目を開けても見えないし、冷水と熱湯に加えて、ときどき目を狙ってシャンプー混じりの水鉄砲を撃ってくるので視界が無い。
「ううっ! あああっ!」
もう葉紀子は洗い場でうずくまり身体を丸くして防御するしかできない。その背中に冷水と熱湯をかけられるので気が狂いそうだった。なんとか犯人がいそうな方向へ手を伸ばし、せめて引っ掻いてやろうとしたのに、視界が無いために逆に腹部を殴られた。
「うっ?!」
さらに殴る蹴るされる。相手は自分たちが特定されないため無言でやってきている。痣が残らない程度の軽めとはいえ、四方八方から暴行され続け、冷水と熱湯の交互攻撃も続き、葉紀子は気が遠くなり気絶した。
「おーい、塚本ぉ」
「女子のイジメって、ここまでやるんだ……」
層川と加藤の声がする。松井の声も響いてくる。
「もはや鬼だな」
「うぅっ…」
葉紀子は目が醒めた。風呂場で男子たちに囲まれている。時間が来て男女入れ替えされたようだった。
「っ?!」
本能的に胸へ手をやると、タオルがかけられていた。このタオルは男子たちがかけてくれたもので、おそらく全裸で放置されていたのだと察しがつく。
「塚本、大丈夫か?」
「……平気…」
「「「…………」」」
どう見ても平気じゃないだろ、と男子たちは思ったけれど、葉紀子は急いで風呂場を出る。脱衣所で、また困った。
「くっ……また私の着替えを…」
置いた場所に衣類が無かった。仕方がないので男子に頼む。
「ごめんなさい、誰か、タオルと服を貸して」
「オレでよければ。しかし、塚本、よく目をそらさないな。オレたちの身体から」
層川が言い、葉紀子は目を細めないようにして答える。
「近眼だから、ぜんぜん見えてないのよ」
「なるほど。あ、眼鏡、湯船の中に落ちてたぞ。たぶん、投げ入れられた感じに」
眼鏡を手渡してくれたので葉紀子は習慣的にかけようとして男子の前でかけるのはやめた。女子専用の大部屋に戻ると、嫌な視線を感じる。
「………」
正直、眠りたくなかった。寝ている間に何をされるかわからない。この前は教室で急激に眠くなった後、髪を切られていた。変な風に斜めに切られた髪を美容室で切りそろえたりはしていない。そのままにしている。犯人が自分につけた傷を残すために。
「………」
眠らず起きていよう、そう思ったのに遠泳の疲れで眠ってしまい、朝になった。
「……っ…」
起きると布団が濡れていた。まるでオネショしたように下着も濡れている。けれど、オネショではないと確信できる。もしオネショだったら尿意が無くなるはずなのに、今はトイレに行きたい。朝の尿意が普通にある。なので、これは眠っている間に誰かが葉紀子の下半身にかけたものだと察することができた。
「………」
どこまでも卑怯な人たち……ううっ……眠い……頭が……、と葉紀子は睡眠不足を強く感じた。もう、どうせイタズラされた後なので二度寝する。寝ない方がいいと考えても、眠すぎて無理だった。
「あーっ♪ 塚本さんがオネショしてるぅ!」
「ホントだ、高校生にもなって、オネショだ!」
「お布団にシーシーなんて恥ずかしいぃ!」
「………」
このサンバカトリオ………、と葉紀子は予想していたので木村と奈々、三井の罵詈雑言を聞き流した。自分のおしっこではないとわかっているので、まったく恥ずかしくない。葉紀子の反応が面白くないので、すぐに三人も口撃をやめた。濡れている布団のことは宿泊施設の職員に相談すると、本当にオネショする生徒もいるらしく細かく追及されたり清掃料金を請求されることもなかった。
「よーし、見学に出発するぞ」
一泊二日合宿の二日目は社会科見学で福井県敦賀市の原発関連施設を回るだけで、そこで嫌がらせはなかった。あとは昼食を食べて帰るだけ、道の駅にある大きな食堂で生徒たちの配膳で和食が提供される。安田は奈々から渡されたトレーを葉紀子へ差し出した。
「一つ取ってください」
「ありがとう」
トレーには班員分の六つの味噌汁があって葉紀子はそのうち一つを選んで取った。その直後に木村が安田の背中を押しつつ葉紀子へからむ。
「放射能漏れもヤバイけど、あんたの尿漏れもヤバイよね。きゃははは! あ、ごめん、安田さん! 大丈夫、火傷してない?!」
「は、はい、大丈夫です…」
安田は指示された通り、残り五つの味噌汁を床に零した。それで他の班員の分は汲み直しになる。そして葉紀子と同じテーブルの班員たちはソースと醤油を使わず、あまり美味しくない和食を我慢して塩だけで食べた。葉紀子は他人が食べているものに興味をもたず醤油を使って食べ終えた。そうして帰りのバスに乗った。
「………」
バスに乗って20分、葉紀子は便意を覚える。
グゥゥ、ゴロゴロ…
お腹が痛い。
「……」
とても痛い。
ゴロゴロゴロ!
今までに経験したことがないような腹痛だった。
「うぅっ…」
葉紀子は呻き、何か盛られたと確信した。思い返してみると、安田が運んできた味噌汁が怪しい。あえて葉紀子に椀を選ばせてくれたけれど、その六つのうち、すべてに何かを盛っていて、それゆえ残り五つを零したのだと悟る。気にしなかったけれど、醤油やソースも他の班員たちは使わなかった。木村たち内部生は先輩から旅程を細かく聴ける。どんな昼食が出るか、去年の写真や記憶を調べられる。砂の島で全裸にされたのも綿密な計画なら、今の腹痛も罠だと確信できた。
「うっ……くっ……」
冷や汗が出るほど痛い。どんどん便意は増してきて、いずれ失禁させられる気がした。葉紀子は旅程を思い出してみる。バスのトイレ休憩があるのは30分後、そのサービスエリアまで我慢できる気はしないし、葉紀子たちが乗っているのは1号車ではあるけれど、修学旅行バスは5号車を先頭にするのが慣習で、行きの休憩でも1組2組の生徒たちがサービスエリアに入るのは最後になっていた。この腹痛が罠だとすれば、サービスエリアに着いた時点で3組以下の女子たちがトイレを塞いでいると予想できた。となると恥ずかしくはあるけれど、自分一人のためにバスを停めてもらってパーキングエリアに寄ってもらうしかない。言いにくいことではあったけれど、葉紀子は決断し隣席の安田に頼む。
「ちょっと、お願いがあるの。先生にバスを停めてもらうよう頼んできてくれない?」
「……」
安田は声をかけられても目を閉じ、イヤフォンをしていて答えない。葉紀子が肩に触れて言ってみても目を開けない。窓際席にいる葉紀子は立って教師が座っている先頭まで行くのもつらいので頼んでいるのに、安田が反応しないのでイヤフォンを抜かせてもらった。
「ごめんなさい、聴いて」
「………」
安田は目を閉じたまま、聴きたく無さそうに身を小さくしている。
「先生に頼んでほしいの」
「………」
安田は小さく首を振った。震えるような振り方で安田の気弱さが感じられる。葉紀子は苛立って問うてみる。
「お昼のお味噌汁、何か入ってたの?」
「………知りません……私は……渡されたものを出しただけ……私だって外部生なんです……あの人たちに目をつけられたくない……私は何も知りません……同じ班だから配っただけ、それだけ……」
「……そう」
葉紀子は安田が気弱さから木村たちに逆らえないことを察した。もともと1組と2組は外部生が少ないのに、逆らえばどうなるか葉紀子の例をみればわかるし、葉紀子の次にターゲットにされるのは嫌という、わかりやすい反応だった。
「もういいわ。…………層川くん!」
男子に頼むのは少し迷ったけれど、女子に頼んでも無駄なことは明白で、恥ずかしいけれど層川に言ってみる。
「先生にバスをどこかの休憩所で停めてもらえるよう頼んでくれない? 気分が悪いの」
「んー……花を摘むのか?」
「っ、遠回しなようで露骨な言い方をしないで! デリカシーがないわね!」
「ははっは! では、花の多そうなところだといいな」
層川は冗談を言いつつも席を立ってくれた。木村たちと同じ内部生でも女子の空気に流されないでいてくれる。層川は教師に停車を求め、バスの運転手はすぐに最寄りのパーキングエリアへ入ってくれる。
ゴロゴロゴロ!
どんどん腹痛は激しくなっている。葉紀子はバスが停車すると同時に立ち上がったけれど、安田が足を出して進路を塞いでいる。
「足をどけて」
「………」
安田は申し訳なさそうな怯えた顔で俯き、足を出したまま葉紀子が通路に出るのを妨害している。
パン…
軽く葉紀子は安田の頬を叩いた。
「これで言い訳がたつでしょ。どけて」
「…」
安田は足を引っ込めた。腹痛に耐えながら葉紀子はバスを降りる。停車したのは、ごくごく小さなパーキングエリアで山の中腹にあり見晴らしはよくて日本海が見えるけれど、そんなことは葉紀子にとって、どうでもいい。
「……」
急いでトイレに向かった。女子トイレのそばにある身障者向けトイレが使用中で、しかも星丘高校の女子が見張るように並んでいたので嫌な予感がした。予感は当たって女子トイレに入ると、たった4つしかない個室を女子たちが塞いでいて木村も並んでいる。奈々と三井もいる。3組は4号車なので奈々たちも運転手に頼んで停めてもらったようだった。
「きゃは♪ 私たちも急にお腹が痛くなって、ね」
「「ね」」
「……。ここは公共のトイレよ、こんなイタズラに使っていいと思ってるの?! 大迷惑でしょ! うぅっ…」
大きな声を出すと、お腹に響いた。そして葉紀子の指摘通り、一般の利用者も女子トイレへ入ってくる。切羽詰まった顔をした女子中学生を連れた母親が個室が塞がっているのに困惑し、木村は想定していたので親子へ声をかける。
「あ、どうぞ、どうぞ、私たちは修学旅行なんで迷惑かけてすみません。どうぞ、お先に。中村さん、譲ってあげて」
「はーい」
個室内でショーツをおろしてもいなかった中村が親子へ個室を譲る。親子には譲ったけれど、葉紀子には譲らないという顔で個室の前に立ち塞がる。その後も仕事中らしきパンツスーツ姿の女性が入ってくると、すぐに木村たちは個室を譲り、葉紀子以外にはトイレを使ってもらう。そして教師は男性なので女子トイレには入ってこない。再び木村たちが支配できる場だった。
「……うぅっ…」
呻くほど葉紀子は便意が強くなってきて、木村に頼む。
「お願い。トイレを使わせて」
「私たちもお腹が痛いの。順番は守ろうよ」
「……白々しいこと言わないで……うぅ…」
「お昼ご飯が悪かったのかな? かなり痛いね」
「…うぅ……お願い……」
もう葉紀子は便意が強すぎて、お尻の力だけでは漏らしそうなので両手でお尻の左右をギュッと押さえ、割れ目を塞ぐようにして我慢し、やや前屈みにもなっている。
「あらあら、大変だね」
「…おねがい……木村さん……あなただって女でしょ……大きい方を漏らすのは絶対、嫌……どうか、トイレを使わせて……ぅうぅ…」
「ふふふん♪ いいね、棒読みじゃなくなってきた。やっぱ、大は嫌だよね。きゃはは!」
「うぅぅ…」
学校でトイレを邪魔されて、おしっこは漏らしても大便は家まで我慢できた。拭いて乾かせば、おしっこは被害が少ない。それに比べて大便は物理的な被害も精神的なダメージも大きい。気の強い葉紀子が本気で頼んでくるのが楽しくて木村はペシペシと葉紀子の頬を叩いた。
「困ったね、漏らしちゃうね?」
「うぅぅ……おねがい……お願いだから……ど、どうすればいい? どうすれば?」
「そーぉだねぇ。やっぱり、永戸さんへ謝ってもらおうか?」
「うぅぅ……私は何も…してない…」
「あそう。私たちも何もしてない。ただトイレに並んでるだけ」
「わ、わかった、わかったわ。たしかに、あのとき私は少し意地悪だった。ステージの上で永戸さんが挨拶する前に替わってほしいといったのを断ったのが、悪かったと認めるわ。その点について、彼女に謝るから今はトイレを譲って、お願い。永戸さんだって、おしっこを一回漏らしただけじゃない。私は学期中、何度も失禁させられて、もう十分でしょ?!」
「利尿剤を盛ったよね? 永戸さんが飲んでたスポーツドリンクのペットボトルに」
「そんなことしてない!」
「あーそう、じゃあ我慢を続けるしかないね」
「うぅぅ…お願い…大は嫌……お願いします、トイレ…」
横から奈々が指摘する。
「昼休みの校内放送でも茉莉那ちゃんへ、ひどいこと言ったよね?」
「うぅぅ……はい…すみません…」
「おーおー♪ いいね、素直だね、そうやって素直に謝れば私たちも鬼じゃないから。うん、じゃあ、あのとき、なんで、あんなひどい言い方したの? 言ってみなさい」
「うぅ……ハァハァ…その前にトイレ…」
「反省が先」
「わ…、私は……私が……悪かったわ。……永戸さんがおしっこを漏らしたから、もうみんなの前に立つのがつらいかもって……だから、生徒会長を辞めて……くれたら……私が生徒会長になれるかもって……そう考えたの。と……とても、卑怯だった。悪かった、謝る、謝るから、お願い! 今はトイレに行かせて…ぅぅ…」
「やっぱり、そういう汚いこと考えて茉莉那ちゃんを、わざと傷つけたんだね? 認める?」
「み……認めます……ごめんなさい」
「よしよし」
三井が畳みかける。
「つまり、あんたは茉莉那ちゃんに利尿剤を飲ませ、球技大会で忙しいのに仕事を全部、茉莉那ちゃんに押しつけてトイレへ行かせず、おもらしさせて傷つけたあと、もっと傷つけて辞めさせようとした。そういうことでしょ」
「うぅぅ……違う……利尿剤なんか飲ませてない……うぅぅ…仕事を押しつけたのは認めます……面倒だったから……勉強を優先したくて……それは、とても無責任な態度で、悪かったです。副会長なのに……すみません。悪かったです、ごめんなさい。永戸さんにも謝ります。だから、だから、今はトイレに行かせてください。うぅ……お腹が痛い…痛い……お腹がよじれて………腸がちぎれそう…」
「きゃははは♪ うんうん、警戒心が強いゴリラやチンパンジーにも効く下剤って、あるらしいよ。まあ、あなたの腹痛は自業自得だけど」
「うぅ…利尿剤や下剤を入れたのは、あなたたちの方……ハァ…ハァ…お願い…私が悪かったです……永戸さんに謝るから…」
「ごめんで済むと思ってる?」
「うぅ…じゃあ、どうすれば?」
「う~ん♪ やっぱり茉莉那ちゃんは全校生徒の前で漏らしたわけだし…、あ、二学期の始業式、あれで挨拶を替わりに副会長として、やりなよ。で、その場でおしっこ漏らしながら茉莉那ちゃんに謝るの。すべての罪を告白して認め、懺悔しなよ、心の底から、きちんと。それで茉莉那ちゃんが許す気になるなら、私たちも許してあげるよ」
「そんな……生き恥を……」
「茉莉那ちゃんは全校生徒の前だったよ」
「二学期の始業式は全学園が集まる場で……幼小中高…大学まで…」
「そのくらいの利息はつくよ」
「…うぅ……もう何度も学校でおもらしさせられたわ……オムツもさんざんバカにされて…」
「加害者のくせに、さんざん茉莉那ちゃんを叩いたよね。茉莉那ちゃんは何も悪くないのに」
「それは………、……それも、謝るから…うぅっ…」
もう便意のあまり葉紀子は青ざめている。木村が葉紀子のお尻を撫でながら言う。
「ここに大きなお土産をブラさげて帰るか、すべての罪を認めるか、二つに一つ、どうする?」
「わ…私が悪かったわ。……当初、永戸さんに意地悪した……認めます…」
「利尿剤を盛ったよね?」
「……ううっ……ううっ……ハァ……」
葉紀子が口には出さず、小さく首を横に振った。やってもいないことは認めたくない。なのに木村たちは自白を強要してくる。
「もう認めなよ」
「その方が楽だよ」
「ちゃんと謝るなら、私たちも鬼じゃないから」
「うぅぅ……うぅぅ…」
だんだん葉紀子は迷えてくる。もう認めてしまう方が丸くおさまるかもしれないし、とにかく今はトイレへ入らせてほしい。おしっこおもらしならともかく大便なんて嫌すぎて考えたくない。そんな迷いにある葉紀子のそばに安田が来て、木村へ言う。
「すいません。木村さん、トイレに入りたいです」
「いいけど、なんで?」
「……おしっこしたくなって…です…」
恥ずかしそうに安田が答え、木村は個室内へ声をかける。
「中村さん、ちょい出て」
「はーい」
また中村が出てきて安田と個室を替わり、安田はおしっこをしてから出てくる。葉紀子は望みをかけて安田に頼んでみる。
「や、安田さん、先生を呼んできて。男の先生でも緊急事態だからって…ぅぅ…」
「………」
安田は葉紀子と目を合わせない。まるで見えない、聞こえない、そんな風に通り過ぎていく。通り過ぎながら、ごく小さな声で言った。
「…人のこと…叩いておいて…都合良すぎ…」
木村は安田へ念押ししておく。
「安田さん、余計なことしない方がいいからね?」
「…はい…」
安田は足早に去った。木村は取調する刑事のように葉紀子へ自白を迫る。
「あんたは永戸さんへ利尿剤を盛って、おもらしさせて生徒会長の座から引き摺りおろそうとした。そうだよね?」
「違うわ」
「あんたのポケットから利尿剤が落ちた証拠だってあるよ」
「あれこそ…ぅぅ…あれこそ、変よ。もしも仮に私が利尿剤を盛ったのなら、その証拠になるような物は持ち歩かないはず…ぅぅ、そう言ったでしょ」
「どうかな? こうも考えられるよね、一度おもらしさせたのに永戸さんは周囲に支えられて立ち直ってしまった。あんたは計画通りにいかず、焦って二度目のおもらしを永戸さんにさせようとチャンスを探すため利尿剤を持ち歩いていた」
「バカな妄想よ……ぅぅ……」
ますます葉紀子が青ざめる。
ゴロゴロ…ギュル…ギュロロロロ…
便意は経験したことがないほどの激痛になってきて葉紀子が両手で押さえているお尻がブルブルと震えた。
「はぐぅ…うぐぅ…わ、わかったわ! それでいい!」
そう言い出す葉紀子の口からヨダレが飛んで、顎に滴る。それを手で拭く余裕もないほど葉紀子は切迫している。
「そ、それでいいから! 謝るから!」
「は? なにその態度?」
「わ、わかりました」
「なにがわかったの?」
「私が悪かったのッ! 全部、私が悪い!」
「そう、なにをしたの?」
「永戸さんに利尿剤を飲ませましたっ…ぅうぅ…挨拶を交替せず、おもらしさせて、放送で意地悪なことを言って会長を辞めさせようと…うぐっ…ハァハァ…なのに立ち直ったから、また利尿剤を飲ませようとして持ち歩いて…ううっ…他にも叩いたりしました。ごめんなさい、ごめんなさい!」
葉紀子の目から涙が零れて頬を一筋流れた。やってもいないことを謝罪する苦痛で涙が零れ、それでも謝ってから頼む。
「うぅ…本当に私が悪かったです。永戸さんに謝ります。だ、だからトイレ!」
「「「………」」」
木村と奈々、三井が顔を見合わせる。もう目的は達せられた。秘かに録音もしている。ただ迷う。このままトイレに行かせてやるか、それとも漏らさせて、どんな顔をするか、見てみるか、好奇心はある。けれど、かなり臭そうで、それはそれで嗅ぎたくない。奈々が言う。
「まあ、いいんじゃない?」
「「そうね」」
ようやく葉紀子の前に道が開けた。
「ハァ…やっと…」
葉紀子が一歩を踏み出した。
ブリュ!
もう一歩でも動いたら漏れそうな便意に耐えていて、その一歩を踏み出したためにお尻が少しだけゆるみ、そのゆるみが決壊をもたらした。
「ひっ?!」
わずかでも決壊すると、もう持ち直せない。
ブリュリュリュ! ブブブムリムリ…
スカートの上からでもわかるほど葉紀子のお尻が膨らみ、小麦色のスカートに茶色い染みができる。
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