おもらしの想い出

吉野のりこ

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塚本葉紀子のおもらし2

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 電車内でおもらしをしてしまい、逃げるように降りた葉紀子は腰に力が入らなくてホームに座り込んでいた。そんな葉紀子へホームにいる人たちの視線が集まってきた。 
「あれ、星丘の制服だっけ?」 
「だね、あのガリ勉ばっか行くとこ」 
 ホームにいたのは底辺校である白尾女子学園の女子高生たちが多かった。この駅が白尾女子学園の最寄り駅なので帰宅するためだった。駅が地形の都合で上り線と下り線を一つのホームでやりくりするアイランド形なので、葉紀子が降りた電車とは反対の方向に帰宅する生徒たちが同じホームに大勢いる。 
「あの子、なんでスカートが濡れてるのかな」 
「というか、変なとこ触ってない? 自分で自分のおっぱいまで握って」 
「…ハァっ…」 
 また尿意が高まって、おもらししそうになっている葉紀子は座り込んだ状態で右手を股間に入れ、左手では左胸の名札を強く握っている。顔を隠していた教科書は落としてしまった。不幸中の幸い、落ちた教科書が運良く同じく落としたカバンの名札を隠してくれている。そして顔は隠せないけれど、眼鏡を外していたので印象は大きく違うはずだった。ただ、そのために周囲が、ぼんやりとしか見えない。葉紀子は学習のために近眼が進んだので裸眼だと1メートル先にいる人物の顔も判別できない。せいぜい男性か女性か、大きい人か小さい人か、がわかる程度だったので反射的に目を細めて見ようとしてしまう。 
「なんか、こいつガンつけてくるんですけど」 
「なにガンくれてるわけ?」 
「……。…ハァっ…」 
 葉紀子は目をそらして俯く。今はおしっこが漏れそうで、とにかく立ってトイレに行きたい。なのに、脚がいうことをきいてくれない。力を入れてもプルプルと震えるだけで立てない。さらに両手までプルプルと震えてきた。葉紀子の股間と胸を押さえている手がプルプルと震え、それを見ている白女の女子たちには自慰行為に見えてしまった。 
「こいつ、もしかしてオナニーとかしてる?」 
「うわぁ、マジで。ありえない」 
「…ハァっ…違っ…」 
 葉紀子は否定しようとしたけれど、舌や唇、喉まで意志の通りに動かせなくて困惑した。それでもとにかく名札は見られたくないし、おしっこを漏らすのも嫌なので手に力を入れる。 
 プルプルブルブルガクガク… 
 手に力を入れると、ますます手が大きく震え、やはり他人から見ると自分の股間と乳房を刺激しているように見えてしまった。 
「ちょっと、ちょっと、こんなところでオナニーショーおっ始めてさぁ」 
「勉強のしすぎで頭が腐った? よくできるね、こんなとこでさ」 
「…ハァっ…んぐ…」 
 話そうとしても自分の頬や舌を噛みそうな上、口まで痙攣したようにパクパクと動いてしまって、葉紀子はヨダレを垂らした。 
「うわぁ、アヘ顔になってるよ」 
「ってかさ、女子の私たちに見せつけて、あんた楽しいわけ?」 
「…ハァっ…痛っ…」 
 葉紀子は足が攣るのを感じた。さらに腰まで攣ると、座っている姿勢さえ維持できずに後方へ倒れ込む。攣っている脚がうねり、爪先をそらせたり、M字開脚になったりしてしまう。 
「マジでイキ始めたよ、この子」 
「もうビッチとか、そういう次元さえ超えてる」 
「…ハァっ…ぅじゅ…」 
 変な声まで漏らしてしまうし、指先で股間を押さえるのも腕が攣るせいで、きちんと押さえられない。ときおり隙間ができて、おしっこが漏れてしまう。 
 ピュッ…ピュッ… 
 おしっこが間欠的に噴き出してきて半乾きだったショーツを濡らしていく。 
「潮まで拭いて……」 
「……よっぽど、気持ちいいんだね」 
「…ハァっ…ぎゅが…」 
 とうとう腕や指が、まったく葉紀子の意志とは違う動きをする。 
 ビっ! ビっ! 
 名札だけは絶対に隠したいと力を入れていたせいで制服の上着を引き破り、胸のボタンが飛んでブラジャーが露わになり、股間を押さえていた指はショーツの股布にうねって引っかかり、腕が攣る動きで大きく引いたり戻したりしてしまうので身体の中で一番、他人に見せてはいけないところまで見せてしまっている。 
「ソコまで見せる……」 
「これ警察を呼んだ方がよくない?」 
 指での押さえがなくなって、おしっこが一気に噴き出してしまう。 
 プシャァアアアアア! 
 ショーツを引っ張っていたので、おしっこは放物線を描いて駅のホームに飛び散った。 
「潮吹き、すごっ…」 
「なんで女子校最寄りの駅でやるかな。男子校いけば?」 
「それは、あれじゃない? 女だけど女が好き、みたいな」 
「で、女子校にお相手を求めて遠征してきたと」 
「なるほど。じゃあ、レズのノリコちゃんとしては、どうですか、この子」 
「顔は好みだけどさ、私も女の子なら誰でもいいわけじゃないよ。こんな駅のホームで……地べたに寝っ転がってオナニーするなんて……ホント、頭、大丈夫?」 
「どう見ても大丈夫じゃないよね」 
「ないない」 
「…ハァっ…助けっ…て…」 
 もう葉紀子は恥ずかしさより生命の危険を感じていた。感情的には、とっくに涙を流していそうなのに、眼球が乾いて痛い。涙どころか汗もでない。喉が渇いて舌が口蓋に張り付きそう。利尿剤のせいで身体にとって必要な水分が、おしっこになって出て行ってしまい、死ぬのではないかと思うほど身体が変調をきたしている。 
 ドっ…ドドっ………ドっ… 
 心臓まで拍動のリズムが乱れてきて2秒ほど、心臓が止まっているのがわかるし、呼吸する胸の筋肉まで攣る。手足はタコが暴れているように、うねって人間の動きができていない。 
「人として終わってるというか……もう人じゃないよ」 
「いつまでイク気なの……イキすぎじゃ…」 
「これ、本当にオナニーかな……何かの発作じゃ?」 
「うん、なんか、やばそう。救急車、呼んだ方がいいかも……あ、園田さん! あんた、テンカンだったよね、この子もテンカンじゃない?!」 
「あんまり大きな声でテンカンって言わないで。どうしたの? この人……星丘に行った……塚本さん…」 
 園田と呼ばれた少女は葉紀子に近づくと、膝を着いて声をかけてくる。 
「しっかりして! 舌は噛んでない?! 息できてる?!」 
「…ハァっ…っぼぼ…」 
 葉紀子はグルグルと回る視界と近眼のために認識しづらいけれど、園田が中学の同級生だったことを思い出した。とても可愛らしい顔立ちで学校一の美少女と言われ、アダ名が東中のお嬢様となっていたけれど、テンカン持ちで中学2年生のとき修学旅行の昼食が遅れ、そのせいで薬を飲むタイミングが狂ってしまい、食事中に全身を痙攣させて、おしっこを漏らし、大便まで垂れ流して、嘔吐もして、その糞尿と吐瀉物の水たまりをのたうち回ったので男子たちがアダ名を東中の汚嬢様に変えた。それ以降は不登校になり中学3年生では出席日数ゼロで卒業し、私立底辺校の白女に入ったことを葉紀子もウワサで聴いたことがあった。 
「塚本さんもテンカンを隠してたのね」 
「…ハァっ…違っ…」 
「薬は、もってる?!」 
「…ハァっ…れょせ…」 
「私の薬だけど効くかもしれないから飲んで!」 
 園田が何かの錠剤を葉紀子の口へ突っ込もうとしてくる。 
「うっぬう!」 
 葉紀子は自由にならない身体で全力を出して拒否した。これ以上、得体の知れない薬を飲まされるのは絶対に嫌だった。少なくとも、これがテンカン発作でないことはわかっている。混乱する頭で葉紀子はザッと読んだはずの利尿剤の副作用を思い出してみる。おしっこを大量に出すための薬なので体内に必要なナトリウムやカリウムなどの電解質も失われ、そのために筋肉が正常な動きができず、身体が攣ったり、ひどいと心筋も動きが悪くなり不整脈になることを思い出した。そして副作用の治療方法は書いていなかったけれど、論理的に考えて電解質の補給が必要だと思われる。葉紀子はおしっこと汗で身体の水分と電解質を失ったのに、炭酸入りオレンジジュースとお茶しか飲んでいない。そのせいだと思い至ると、そばにいる白女の生徒が持っているスポーツドリンクのペットボトルを食い入るように見つめた。 
「お水がほしいの? ごめん、それあげて!」 
「え、うん、まあ、いいけど」 
「…ハァっ…うぶぶ…」 
 他人が飲みかけだったペットボトルから飲む抵抗感もないほど、葉紀子は切羽詰まっていて与えられたスポーツドリンクを噎せながら飲んだ。 
「あーっ…ハァっ…」 
「もっと欲しい?」 
「うを…」 
「ごめん、もっと買ってきて」 
 園田が自分の財布を出して頼んでくれている。葉紀子はスポーツドリンクを大量に飲み、それでようやく身体が攣ったり、心臓のリズムが狂うのが治まった。 
「…ハァっ…ハァっ…」 
 汗も出る。涙も滲んだ。 
「あ、電車きた」 
「じゃあね、オナニーとか言って、ごめん」 
「発作だったんだね、お大事に」 
 葉紀子のことを蔑んでいた女子たちが電車が来たので一応は謝って心配してくれた上で去っていった。園田は地元が葉紀子と同じ方向なので残っている。 
「塚本さん、大丈夫?」 
「……」 
 まだ口の動きに自信がないのと、答える気力が無くて葉紀子は頷くだけにした。 
「……」 
「……」 
「………。どういう病気か、訊いていい?」 
「……」 
「うん、言いたくないなら、いいよ」 
「……。ごめんなさい。もう1本、買ってきて。あと、さっきの分のお金、これから取って」 
 葉紀子は財布から千円札を出して園田に渡した。園田は自動販売機でスポーツドリンクを買い、お釣りをすべて返してくる。葉紀子は気力が無くて受け取った。すぐには飲まずペットボトルを頬につける。冷たさが心地よかった。そして、尿意を覚えて駅のトイレを目で探し、座っていたベンチから立ち上がった。 
 ジャアァアァァ… 
 立った瞬間、おしっこが漏れてしまい、ショーツを透過してスカートの前部を濡らし、足元に拡がった。 
「……」 
 葉紀子は泣く気力もなくて、立っているのも身体が重いので、またベンチに座った。園田はおしっこを漏らしたことには触れずにいてくれる。 
「……」 
「……。元気を出して、って、こういうとき、言われても、つらいよね。気にしないことも難しいと思うけど、さっき見てた子たちは方向違うし、この駅には男子高生はいなかったから」 
「……」 
「あ、もちろん、私も誰に言わないし。だから、どうか、安心して」 
「………。ありがとう……」 
 礼を言って葉紀子は一口だけスポーツドリンクを飲んだ。どれだけの電解質が失われて、どの程度補給すればいいのか、わからない。飲まないのも不安だったし、あまり飲んでおもらしするのも嫌だった。 
「電車、来たよ。乗れる? もう少し休憩する?」 
「……」 
 ここにいても仕方ない上、早く帰宅したかったので葉紀子は立った。園田といっしょに乗車して10分ほどすると尿意を覚えた。この車両にもトイレがないので次の駅まで我慢する。今度はわずかな尿意のうちに判断したので、まだ我慢できそうだった。 
「私は次で降りるわ。園田さん、ありがとう」 
「いっしょに降りるよ」 
「ううん、一人にさせて」 
「……。元気を出してね。塚本さんは強い人だったから大丈夫だと思うけど」 
 園田と別れた葉紀子はホームに降り立った。この駅はホームが上下線に別れた一般的な造りだったけれど、かなりの田舎で降りたのは葉紀子一人だけ、駅員もいないし、周囲には田んぼが拡がり少し離れたところに寺院と集落があるだけだった。 
「トイレは……」 
 トイレも一つしかなく、反対のホームにある。反対のホームへ移動するのも高架橋ではなく線路に降りて歩く形式だったけれど、むしろ長い階段を登らなくて済む分、今はありがたかった。 
「あと少し……」 
 やっとトイレに辿り着く。おもらしではなく、ちゃんとおしっこができると思った。なのに、仮説トイレのような小さな一人用のトイレは使用中で鍵がかかっている。 
「そんな……うぅ……もう、おもらしは嫌」 
 このままだと再び漏らすのがわかり、葉紀子は周囲を見る。コンビニなどは無い。けれど、何もない分、誰もいない。見渡す限り人はいない。せっかく半乾きになってきているショーツやスカートを濡らすより、ちゃんと排泄したかったので葉紀子は意を決してスカートへ両手を入れ、ショーツを膝までおろした。 
 シャァァア! 
 しゃがむと同時に、おしっこが噴き出してくる。 
「はぁぁ……」 
 蕩けるほど気持ちよかった。おもらしではなく排泄できるのが気持ちいい。トイレではないけれど、一応は衣服を汚さずに済ませられる。 
 シャァア! 
 まだ出る。かなり大量に葉紀子のおしっこがホームのコンクリートに拡がっていく。勢いよく前に飛び、葉紀子から1メートル先まで濡れ拡がり水たまりをつくっている。 
「ふーっ…」 
 こんなところを人に見られたら嫌だな、と思っていたら使用中だったトイレから誰か出てきた。 
「「……」」 
 出てきたのは初老の上品そうな婦人で葉紀子の所業を見て目を丸くして驚き、言ってくる。 
「あらあら」 
「……」 
 行儀の悪いバカな子ね、こんなところでおしっこをするなんて、最近の高校生は恥じらいもないの、と罵られるのを葉紀子は覚悟し、罵られても聞き流そうと心の壁をつくった。 
「我慢できなかったのね、ごめんなさいね、私が長く使っていたせいで」 
「……」 
「年頃の女の子に、こんなことをさせてしまって。どうか許してくださいな。お腹の調子が悪くて、列車が来ているのもわかっていたけれど、出られなかったくらいなの」 
「……」 
「どうぞ、これを使ってください」 
 老婦人がポケットティッシュを差し出してくれる。それを受け取って、お股を拭き、ショーツをあげると葉紀子は嗚咽があがってくるのを感じた。罵られると覚悟したのに、謝られて気持ちがゆれ、今日の午後から自分を襲ってきた出来事が想い出され、もう涙が我慢できなくなった。 
「…ヒッ……ヒッ……ヒッ……」 
 変な笑い声みたいに嗚咽が漏れる。 
「……ヒッ……ヒーッ……ヒーッんゥー! ヒーーッんゥゥう!」 
 ポロポロと涙が両目から溢れ、開けたくないのに大きな口を開けて葉紀子は泣き出した。 
「ヒーーーッんゥゥーう!」 
「ごめんなさいね、ごめんなさい、とっても恥ずかしかったのね」 
「ヒーーーッんゥゥーう!」 
 葉紀子が手で拭っても、どんどん涙が溢れてきて止まらない。悲しかったし恥ずかしかった。最初のおもらしでは全校の女子が敵に回っていると感じた。二度目のおもらしは立つのを邪魔されてお尻がビチョ濡れになった。三度目は電車内、四度目はホームで自慰していると蔑まれ、五度目は立った瞬間に。利尿剤の副作用で死ぬのではないかと思ったのも怖かった。そんな全てが溢れてきて涙になった。 
「ヒーーーッんゥゥーう!」 
 こんな風に声をあげて泣いたのは中学1年生で父親を亡くしたとき以来だった。その直前、葉紀子が学年1位の成績を取ったのでご褒美に三重県鈴鹿市の遊園地へ二泊三日で連れて行ってくれて、とっても嬉しかった。なのに一週間後に仕事中の事故で死んでしまい、火葬場でお父さんを焼かないで、と泣いた。もしかして、また学年1位を取ればお父さんが帰ってきてくれるかもしれない、と自分でもありえないと理解していても期待して、何度も学年1位を取った。それが県内トップ高に入ってから、取れなくなって1組にさえ入れない。一度くらい1位を取りたいと思うのに、かなわない。せめて生徒会長にと思ったのに、茉莉那に抜かれた。現実は冷酷だったし、敵ばかりだった。 
「ヒーーーッんゥゥーう!」 
「ごめんなさい、ごめんなさい。どうか、泣き止んでちょうだい」 
 あまりに老婦人が謝ってくれるのが心苦しくて葉紀子は本当のことを言う。 
「違うんですぅ! 学校で意地悪されて! 変なクスリを飲まされて、おしっこ漏らせって、みんながトイレに行かせてくれなくてぇ! ヒーーーッんゥゥーう! 何度も何度もおもらしさせられてぇ! まだ、おしっこがどんどん出るのぉ!」 
「まあ、そんな、ひどいことを……可哀想にね」 
「ヒーーーッんゥゥーう! もう学校いきたくないぃい! お父さぁん、お父さんッ、助けてぇえ!」 
 心の奥底から泣いた葉紀子はしばらくして涙を止めた。 
「……ぐすっ……すみません。……見苦しいところを。あなたのせいではないですから、どうか、忘れてください」 
「たくさん泣いて塩分がほしいでしょう。こんなものしかないけれど、どうぞ」 
 老婦人が梅干しの御菓子を差し出してくれる。理にかなっていると感じ、受け取っていただいた。もう副作用は懲り懲りなのでスポーツドリンクも少し飲む。けれど、おもらしもしたくない。 
「……いったい……何回……おしっこ出るの……我慢もできないし……電車にも乗れない……」 
 まだ葉紀子の家は遠い。老婦人が葉紀子のために考えてくれる。 
「不安に思うと余計にトイレへ行きたくなるし、恥ずかしくて嫌かもしれないけれど、私が持っているオムツをあげましょう」 
「…オムツ……」 
「スカートならわからないし、人前で漏らしてしまうより、ずっといいはずですよ」 
「……それは……そうですけど……」 
「私は病気のせいですけれど、あなたは薬が抜ければ、すぐにオムツは必要なくなるし、ほんのしばらくの我慢で恥をかかなくて済むわ」 
「………はい、……いただいてもいいですか?」 
 また人前で漏らす恥ずかしさに比べれば、生理用品が大きくなった物と考えることにして葉紀子は大人用オムツを受け取ってトイレで着替えてみる。何度もおしっこを染み込ませたショーツを脱ぎ、オムツを穿いてみる。 
 ガサ… 
 かなり大きくて恥ずかしい。けれど、おしっこを3回分、吸収してくれるらしかった。スカートをおろすと、シルエットはお尻や股間がもっこりしているけれど、よほど注視して見ないとわからない。さすがに前屈みになると、ショーツとはお尻のラインが大きく違うものの、そんな姿勢を乗車中に取ることは少ない。ガサガサする音も電車内ではわからないと思われた。 
「ありがとうございます。使ってみます」 
「元気を出してね」 
 老婦人とは次に来た電車へいっしょに乗った。一駅ごとに下車して旅をしているという老婦人とは、すぐに別れてしまい。葉紀子が不安ながらも電車にゆられていると、地元に近づき、今朝会った中学の同級生に再会した。 
「あ、塚本様」 
「その様付け、やめて」 
 普段でも恥ずかしいのに、オムツを穿いているときに言われると赤面しそうだった。 
「懐かしいね、眼鏡をしてない塚本様の顔、コンタクトにしたの?」 
「あ……ちょっと気分で外しただけよ」 
 葉紀子はカバンから眼鏡を出してかけた。くっきりと車内の人々が見えると、余計にオムツを着けていることが恥ずかしくなってくる。 
「顔、赤いよ? どうかした? 目も赤いし、泣いた?」 
「ちょっと羽虫が目に入っただけ」 
「だよね、塚本様が泣くわけないもん」 
「……」 
 また葉紀子は尿意を覚えてきた。次の駅まで数分ある。すぐに我慢できなくなった。 
 チョロ…チョロ…シャァァァァァ… 
 せめて音を立てないように葉紀子は調節しつつ漏らした。 
「…ハァっ…」 
「顔が真っ赤だけど、大丈夫? 熱でもある?」 
 元同級生が額に触れてきた。様付けで接してくるけれど、それは冗談であって基本的に上下の関係はない。 
「ちょっと熱中症気味になっただけ」 
「ふ~ん、けっこう汗臭いよ。体育までハードなの? 星丘は」 
「そうね、それなりに」 
「通学も片道2時間、大変だね」 
 おしっこをオムツの中に済ませたことを地元の友人にバレずに済み、葉紀子は老婦人に感謝する。もしも、オムツが無かったら今頃は泣いていたかもしれない。葉紀子の地域から星丘に通っている生徒は、三年生一年生でも居ないので今日の出来事も伝わるのは遅いはずだし、きっと歪んで伝わる気がした。ようやく自宅の最寄り駅に着き、葉紀子は一人で歩き出したけれど、駅前の商店で立ち止まった。昔ながらの万屋で食品から日用品までを老婆が売っている。ほぼ年中無休だけれど、夜はコンビニと違い閉まる。今もそろそろ店じまいの時刻だった。迷っている時間はないので葉紀子は店内に入ると、大人用オムツを探した。明日も片道2時間、電車に乗らなければいけない。途中下車すれば遅刻する。利尿剤の効果が切れてくれなければ、オムツが必要なのは自明の理だった。 
「これ、ください」 
「あいよ」 
 小さな店で品揃えも多くないけれど、高齢者の多い田舎なので大人用オムツはあったし、スポーツドリンクと熱中症対策の塩飴もあった。それらを買い、葉紀子は帰宅した。 
「あ、姉ちゃん。遅かったな」 
「ただいま」 
 そう言った瞬間、帰宅した安心からか、おしっこを漏らしてしまう。 
 ショォォォォ… 
 オムツの中から音が響いてしまい、電車内と違って周りにも拡がり、葉紀子は焦ったけれど、弟の塚本覇王(はおう)は気づかない。 
「姉ちゃん、顔が赤いけど、どうかした?」 
「何でもない。お母さんは?」 
「コンビニでバイト中」 
「そう」 
 母は国道沿いのコンビニへパートに行っているようで都合が良かった。おしっこで濡らしたハーフパンツや下着、靴下、靴を洗い、制服もドライクリーニングする。母親に気づかれたくないし、心配もかけたくないので後始末を一人で終え、シャワーを浴びる。 
「はぁぁ……」 
 疲れきっていて立ってシャワーを浴びていたのに座り込んだ。 
「……ぐすっ……」 
 泣きそうになったけれど、泣かずに顔を洗い。髪も洗ってサッパリすると、お風呂場でおしっこしてから脱衣所にあがった。 
「………家の中だし大丈夫かな」 
 買ってはみたもののオムツを着けるのに抵抗があり、ライムグリーンのショーツを穿いて白のキャミソールを着た。その姿でリビングに出る。家には弟しかいない。覇王は姉の半裸に興味をもたないし、エアコンの電気代を節約しているので覇王もパンツ一枚だったりする。小学生ながら少し逞しい身体をしているのは、とび職だった亡き父が、男は勉強だけでなく強くなければならない、と空手をやらせていたからで今も続けている。 
「覇王、宿題やった?」 
「まだ」 
「ちゃんとしなさいね。空手だけじゃバカになるよ」 
 葉紀子は母が作っておいてくれたカレーを食べ、スポーツドリンクを飲み、トイレでおしっこをしてから二階の自室に入った。 
「はぁぁ……」 
 勉強しなければ、と思いつつもベッドに横になると、泥のように眠ってしまった。しばらくして覇王が宿題の計算ドリルを持って入室してくる。 
「姉ちゃん、分数の計算がわからないんだけど」 
「…ぅ~…」 
 葉紀子は悪夢に魘されていた。学校でトイレへ行かせてもらえない夢で茉莉那と木村たちに邪魔をされ、おしっこを漏らしてしまうという昼間の追体験だった。 
 シュ~… 
 夢の中でおもらしになり、ベッドの上でもショーツを濡らしてしまう。 
「姉ちゃん………」 
 覇王が見ている前で葉紀子のライムグリーンのショーツから水のように透明なおしっこが流れ出ている。葉紀子が眠っている姿勢が横向きで手足を曲げて丸くなっているため、覇王からはお尻が丸見えで、その股間の布地からキラキラと照明を反射して、おしっこが流れ続けている。女性の股から液体が流れ出る光景を見ているうちに覇王は無自覚に勃起していた。姉にこんな衝動を覚えたのは初めてだった。とても悪いことをしている気がしたし、見てはいけないものを見た気がして、覇王はそっと部屋を出た。 
「……姉ちゃん………オネショ……するんだ……部屋にオムツもあった……」 
 知ってしまったけれど、これを言うと殴り殺される気がする。姉は空手を習っていないけれど、まだ小学生の自分では本気になった姉に勝てる気がしない。部屋にオムツがあったのも、とても意外だった。覇王から見て葉紀子は成績優秀で悪い教師を辞めさせるほど気が強くて、周りから賢くて怖い美人のお姉さんと思われている。そんな姉とオネショやオムツというものが意外過ぎて覇王は混乱しつつも、小学生ながら絶対に黙っておくことにした。 
  
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