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鹿狩純子のおもらし2
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三日後の朝、純子は起きてパジャマから星丘小学校の制服に着替えていた。
「……」
母親にバレないよう、そして保健室へは自分のタンスにあった女児パンツを返却して、今も男児向けのパンツを穿いている。自室を出て中庭の見える廊下をグルリとまわり、リビングに入った。もともとが加賀藩の藩医をしていた鹿狩家は築300年の屋敷を何度もリホームして住んでおり、リビングは洋式になっていた。
「おはよう、純子」
「お母さん、おはよう」
助産師でもあり看護師でもある母親と、家事手伝いの老婦人が朝食を用意してくれていて、もう父親は出勤し、三人の兄たちは食べ始めたところだった。
「よぉ、純子」
「よぉ、兄貴」
長兄と同じ口調で返したのに母が注意してくる。
「純子、そういう言い方はやめなさい。女の子らしくないわ」
「……。いただきます」
純子は食べ始める。三人の兄は二浪して私立の地元医大に入った長兄、現役で地元の国立医大に四月から通っている次兄、そして星丘高校に通う末兄だった。純子が気になって問う。
「チビ兄ぃ」
「オレはもうチビじゃないぞ」
「三日前にさ、球技大会あった?」
「ああ、あった」
「そのとき、女の子の生徒会長さんが、おしっこおもらししたの知ってる?」
「まあ知ってるというか、全員が目撃したからな」
「その人、ちゃんと学校に出席してる?」
「いや、休んでる。というか、オレらが乗ってるスクールバスに、いつもなら同乗してるんだ。まあ、お前は知らなかったろうけど、昨日も一昨日も顔を見なかったから欠席したか、遅刻したかだろうな。帰りも見かけないから、遅刻のうえに早退か、やっぱり欠席なのかもな」
「不登校になりそう?」
「どうだろうな。ショックは大きいだろうからな。ってか、初等部の方まで、その話は回ってるのか。それ聴いたら余計ショックだろうな」
「ううん、オレがたまたま見かけただけ」
また母親が注意してくる。
「純子、自分のことをオレなんて言っちゃいけません」
「……」
「お返事は?」
「……はい」
返事をして朝食を食べ終わると母が髪をツインテールに結ってくれる。
「今日の髪飾りは何がいい? 可愛い輪島塗があるの、それにする? でも、なくさないでね」
「……お母さん、髪を切りたい。もっと短く」
「お願いよ、そう言わずに伸ばしていて。絶対に、その方が純子には似合ってるから」
「………」
「お願いだから勝手に自分で切ったりしないでね」
「……はい…」
幼稚園の頃、生まれた頃から一度も切られたことの無かった髪を自分で切った。うっとおしいのと、男の子のようにしたいと感じて。だけれども、母に大泣きされて以来また伸ばしている、正確には伸ばさされている。ふわりとボリュームあるツインテールが仕上がった。
「うん、可愛い。あなたは一番可愛いわよ」
「……ありがと……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ランドセルを背負ってスクールバスが停車する近所の駐車場まで歩いた。末兄は先に着いていて、妹を見ても何も言わない。純子も黙ってバスを待った。すぐにスクールバスが来て乗り込む。
「…………あ」
純子は茉莉那を見つけた。なるべく目立たないように奥の座席に座っていて二人の友人も左右にいた。見た感じでは二人は路線違いなのに不登校になりそうな茉莉那を迎えに来た様子だった。茉莉那は下を見ていて誰とも目を合わせようとしない、純子と友人二人とは目が合った。
「「………」」
茉莉那ちゃんへ何か余計なことを言ったらタダじゃすまさない、という敵愾心の強いアイコンタクトが飛んできて、純子は目をそらせて離れた席に座ったし、末兄も妹に習う。
「……」
まあ二日の欠席で済めばいい方なのかな、と純子は思い遣り、バスは動き出して次の停車場所で愛歌を含めた数人の学園生徒を乗せた。
「おはよう、純子ちゃん」
「おはよう、愛歌ちゃん」
挨拶して愛歌は隣りに座り、ヒソヒソ声で純子に囁いてくる。
「昨日、ギリギリ漏らさなかったよ。なんとか、おうちのトイレまで我慢できた」
「そう、よかったね」
「今日も一日ずっとトイレを我慢してみるね。私が成功したし彩花ちゃんと美月ちゃんも、いっしょにチャレンジしてみるって。すごくスリルがあって、この遊び、ドキドキするね」
「……遊びってわけじゃ…」
おもらししたのに泣かなかった純子のクールさに、なぜかクラスの女子たちが反応して学校のトイレを使わないということを真似してきていた。
「ウフフ、もし、おもらししちゃったら、どうしようって思うと、すごいスリル」
「……いずれ、すると思うよ、一日って、けっこうきついから。喉も渇くし」
「だよね。でも、それがまた面白い」
ヒソヒソと愛歌と純子が囁き合っているのを気配で感じた茉莉那は胃が痛くなった。スクールバスの中には高校生も中学生も小学生もいる。そして高校生は全員が、おしっこおもらしした茉莉那のことを見覚えている。
「………ぅぅ…」
雑談している学園生たちが、みんながみんな自分のことを噂話にして笑っているような気がしてきて、茉莉那は吐き気さえ覚えた。
「……やっぱり学校……行きたくない……帰りたい…」
「「茉莉那ちゃん……」」
友人二人が優しく身体を撫でて茉莉那を慰める。今のところ、誰も茉莉那を笑ったりしていないし、無関係の雑談をしたり、教科書を予習したり、音楽を聴いたりしていた。
キッ…
スクールバスが学園のロータリーに到着した。ぞろぞろと生徒たちが降り、小学生は小学校の校舎へ、中学生も高校生もそれぞれの校舎に向かっていく。茉莉那たちは一番最後に降りた。できるだけ人に出会わないように昇降口が空くタイミングを狙って校舎へ入る。
「……はぁ……気持ち悪い……吐きそう」
通学靴から上履きに履き替えるだけでも茉莉那は手が震え、おしっこおもらししたときに笑われた声がフラッシュバックしてきた。
「茉莉那ちゃん、無理そうなら、まず保健室にいこう」
「……うん……ごめん…」
とても自分の教室に向かえず、茉莉那たちは保健室へ登校した。養護教諭の提案で、とりあえず一限目は保健室で自習し、二限目の途中から教室へ出席することになり友人二人と別れた。
「……………」
何も考えたくないので茉莉那は自習に集中する。休んだ二日分のノートは友人がくれているので、それを急いで頭に入れないと授業についていけなくなる。進学校の生徒らしい真面目さで茉莉那が勉強してると、養護教諭は用事ができて出ていった。入れ替わりで男子小学生が入ってくる。入ってきた男児はズブ濡れだった。
「先生、服が濡れました。貸してください。小4の石見大輝です」
「え……、えっと…」
自分以外に誰もいないので茉莉那が戸惑う。
「あのね、今、先生、いないの。私だけ」
「そうなんだ」
「……でも、いったい、どうやったら、そんな頭からズブ濡れになるの?」
石見は頭から足の先まで、完全にズブ濡れだった。
「誰かに意地悪されたの?」
「違う。池に落ちた。校庭の」
「あ~、たしか小学校の方にはビオトープがあったね。それにしても、あれに頭から落ちる? 落ちても濡れるのは脚だけですまないの、普通。水深は30センチくらいじゃ?」
「池のそばで空き缶に乗ってたら、転がったんだ」
「缶蹴りでもしてたの?」
「違う。リニアの浮遊感を体験してみたくて、池のふちをリニア路線にして空き缶をならべて歩いたんだ」
「……それ、ほぼ確実に池に落ちるんじゃ……」
どうにも石見にしか理解できない必要性があって何かを実験したようだった。
「はくしゅん!」
「そのままだと風邪ひいちゃうね。ちょっと待って、バスタオルもってくるから、服を脱いで」
茉莉那は棚を開けてみる。自分がおもらしして入室したときは泣いてばかりいたので覚えていないけれど、生徒会長なので少しは把握していた。
「たしか、このへんにあったはず。あと、着替えも」
バスタオルと男児に合いそうな着替えも用意できた。そして振り返ると石見は全裸だった。
「……はい、タオル」
「ありがとうございます」
「………」
小学生のおチンチンって……こんなに小さくて可愛いんだ……私の小指もないくらい……あんまり見ちゃ悪いかな……と茉莉那は戸惑う。石見は思春期前の男児らしく何も気にせず茉莉那の前で身体を拭いている。頭をゴシゴシと拭いていると、下半身がプルプルと揺れて可愛かった。思わず、ちょっと摘んでみたくなる。
「……」
ダメダメ、それってセクハラだし……これが男女逆だったら、どうしようもないロリコン事件になるもん、と茉莉那は17歳の自分が10歳で無防備な石見に何かするのを戒めた。もしも年齢と性別が逆転して、17歳の石見が10歳の茉莉那に触れるとしたら、それは汚点にしかならないし、事件だった。茉莉那の背後で扉が開いて養護教諭が戻ってきた。
「石見くん、またリニアごっこをしたのね」
「今度は3メートル進みました」
「もうやめなさい。永戸さん、ありがとうね」
「いえ」
どうやら、いつものことらしく処理を養護教諭に任せて茉莉那は自習を再開する。石見のおかげで落ち込んでいた気分は少し軽くなっている。着替えが終わった石見は不思議そうに茉莉那を見てきた。
「お姉さん、どこか身体の具合が悪いの? なんで、ここで勉強を?」
「ぇ………っと、……ちょっと熱があるの」
おしっこおもらしをして教室に行けないとは言えなくて茉莉那は嘘をついた。もちろん養護教諭は聞き流してくれるし、石見も疑わない。
「そっか、お大事に。どうも、ありがとう。じゃ」
「じゃあね」
「列車はただいま復旧いたしました。発車オーライ、出発進行」
「「………」」
茉莉那と養護教諭が見送る中、石見は走っていった。
「私も教室に行ってみます」
少し勇気が出た茉莉那は二限目ではなく一限目の途中から授業に参加してみることにして、保健室から高校の校舎に入った。
「………」
授業中の校舎は静かで廊下には誰もいない。
「………おトイレ……いっておこう……万一のため…」
朝起きてトイレに行ったし、家を出る前にもトイレに入ったので、まったく尿意は無かったけれど、不安から茉莉那は女子トイレに入った。個室に入り、カバンを棚に置く。私立学校の女子トイレは充実していて、カバンや小物を置く棚もそれぞれの個室にあり、掃除も生徒が当番でするだけでなく外部の業者が土日に行っているので清潔感もある。
「………はぁ…」
胃が再び少し痛くなってきた。手も指先が震えてくる。その手をスカートに入れて下着を脱ぐ。ショーツを膝までおろして便座に座った。
チョロ…
おしっこが少しだけ出た。
「………ぐすっ…」
おしっこおもらしを全校生徒の前でした瞬間の光景がまた蘇ってきた。まだ我慢できると思っていたのにマイクを握って挨拶を始めた途端、おしっこが噴き出してきて、もう止められなかった。何が起こっているのか、自分でも理解できなかったし、理解したくなかった。あっという間に下着の中が洪水になって、その洪水がハーフパンツも濡らして足元に水たまりをつくった。
「……ぅぅ…」
全校生徒の視線が自分の股間に集まってきて、シーンと静まりかえった。おしっこおもらしした自分を全員が見ていた。そして男子の誰かが何か言って、大爆笑が起こった。ドッとみんなが笑い、茉莉那は腰が抜けた。お尻がビッチャッと音を立てて水たまりに浸かった。濡れた股間が恥ずかしくて泣いた。生徒会長という注目される存在なのに、おしっこおもらしをしてしまい、もう泣くしかなかった。
「…ぐすっ…」
家に帰ってからも泣いたし、翌朝も起きようとしても泣けてきた。友達が迎えに来てくれても部屋を出られなかった。二日目になって涙が枯れたし、やっと三日目になって学校に来られたけれど、教室が怖い。養護教諭の提案では、授業中の静かさの中、そっと教室へ後方から入れば、誰も何も言わないから大丈夫、とのことだった。でも怖い。みんながおもらしした生徒会長がやっと出席してきたと内心で思うに違いない。だからといって休み時間に入るのも怖い。みんなが雑談している中、そっと教室へ入れば、来たよ、来たよ、おもらし生徒会長、と小声で言われるような気がする。
「……これから一年なんて絶対無理……」
しかも生徒会長という役割上、これからも全校生徒の前に何度も立たなければいけない。一学期末の終業式でも、二学期の始業式でも、文化祭でも体育祭でも、あらゆる場面で全校生徒の前に、おしっこおもらしした生徒会長という視線を浴びて立たなければいけない。恥ずかしくて死にたくなる。吐きそうだった。
「…ハァ………ハァ……」
なかなか茉莉那が個室から出られずにいると、誰かが女子トイレに駆け込んでくる足音がした。
「やだ、漏れる、漏れる!」
おしっこを我慢しながら駆け込んできたようで急いでいる。
「っ、ぅーーーっ…」
パシャパシャパシャ…
間に合わなかったようで、おしっこおもらしになり床とおしっこが音を立てている。
「……あぁ……もう、やだ………この歳でおもらしとか……ホント……マジで…ぐすっ…だいたい、この学校の制度が悪い……」
「………」
それは茉莉那も同感だった。入学試験も各期末試験も途中退席しなければ10点加点される。そして、普段の授業も一度も途中退席しなければ10点加点されるけれど、一度退席するごとに1点加点が引かれる。加点されないのは相対的には減点されるのと同義なので、多くの生徒がギリギリまで我慢する。なるべく授業を大切にするよう、という意味合いは理解できる。とくに公立中学にいたときは授業中に好き勝手歩き回る生徒がいたし、男子は何度もオシッコと言ったりして授業妨害した。そういう質の悪い生徒は星丘高校には一人もいないし、そもそも学力が足りないので入学できない。真面目な生徒ばかりなのに、途中退席で1点減点と言われると、こういう悲劇は起こりやすかった。
「……ぐすっ……ひっく……よかった……誰にも見られなくて……」
「………」
私なんか全校生徒に………と茉莉那が思っているうちに、おしっこおもらしした女子は個室で下着と靴下を脱いで、洗面台で洗っている。
「スカート濡れてないよね………仕方ないノーパンで……靴下は履いておいた方がいいよね。でないとバレる」
隠蔽工作をしている様子だった。衣服が整うと、おしっこの水たまりを片付け始める。奥の掃除用具入れからホースを出して床を水道で流し始めた。
「……そこ、誰か入ってるの?」
「っ…」
茉莉那が個室に入っていることに今になって気づいたようで問われた。
「誰か、いるんでしょ?」
「……」
声にして返事をすると茉莉那だとバレるので、軽くノックする。
コン…コン…
「いるんだ………あのさ、私がおもらししたこと、誰にも言わないでよね」
「………」
コン…コン…
了解という意味でノックしたら通じた。
「ありがとう。ホントよろしくね。おもらし2号とか言われたら最悪だし」
「っ…」
一号は私なんだ……やっぱり、みんな、私のこと、おもらし生徒会長って……と茉莉那は絶望していく。声を出したくないのに泣けてきた。
「うっ…ひっく…ぐすっ…ううっ…」
「……なんで、あなたが泣くの? ………っ、もしかして永戸さん?」
「…ひっく……ひっく…」
返事をしなくても嗚咽だけで茉莉那だとバレてしまった。
「えっと……ご、ごめんね。悪気はないし……、その……わ、私も今さっき、おもらししちゃって……あはは、つ、つらいね。……これ、精神的に凹むよね」
「…ううっ…ひっく…」
「頑張って学校に来てたんだね……えっと……ホントごめん。ごめんね、私、あなたのこと応援するから、ごめんね、ごめんね、ごめんね」
謝りながら遠ざかっていったので教室へ戻ったのだと感じる。
「…ぐすっ……ぐすっ……ひっく…」
もう何も考えられなくなり、泣いているうちに授業が終わった。すると一気に女子トイレが混む。とくに一限目の後は混雑しやすい。個室の外では行列ができているようだった。
「ぅうぅ、ごめん、漏れそうだから替わって、お願い! おもらし寸前なの!」
「はいはい、おもらししないでね、会長さんみたいに」
「あれは壮絶だったね。おもらし会長事件」
「あの人、もう学校これないでしょ」
「引きこもりか自殺かな」
「さすがに死なないかな、それじゃ、おもら死じゃん」
「なにそれ、きゃははは!」
「死禁しなきゃ、失禁だけに」
「おしっこおもらしする高校生がいるとは思わなかったわ」
「これ一生、言われるよね」
「歴代生徒会の歴史に残るんじゃない?」
「一番有名な生徒会長になるかもね」
トイレという場所柄もあって茉莉那の話題が続くし、男子がいないので本音が漏れやすい。美人投票で生徒会長になった茉莉那への嫉妬もあって耳を塞ぎたくなるような会話が繰り広げられ、泣けば個室にいることがバレるのに、泣くことを我慢できなくなった。
「…ひっく……ひっく…うう…うわああ…」
「しっ、いるのかも」
「え? なにが?」
「だから、永戸さん」
「「「「「……………」」」」」
急に静かになり、そして休み時間が終わる頃、友人二人が来てくれた。
「茉莉那ちゃん、いるの?」
「茉莉那ちゃん?」
「…ぐすっ…」
呼ばれて、やっと個室から出られた。
「教室にいけそう?」
「……無理……」
「そっか………保健室に戻ろうか」
「ごめんなさい、せっかく…」
「いいよ」
「ゆっくり立ち直って」
教室に行けず、茉莉那は保健室で一日を過ごし、帰りのスクールバスに乗った。早い時間のスクールバス便には小学生が多い。友人二人には部活があるので帰るだけなら一人で帰れると言って茉莉那は乗っているけれど、周囲は小学生ばかりなのでアウェー感が大きかった。しかも高学年はおらず四年生以下ばかりなので、まるで小学校のスクールバスに高校生が一人だけ紛れ込んでいるような状態になっている。
「………」
…………、茉莉那は、ここ数日泣きすぎたので頭がぼんやりとしている。茉莉那の前にランドセルを背負った愛歌と純子が立ったけれど、思い出す気力も無かった。愛歌は小学生がヒソヒソ話をするときらしい露骨さで、両手で口を覆い、純子の耳にキスをしそうなほど唇をつけて話す。
「純子ちゃん、すごいね、一日おしっこ我慢してるのに、平気な顔で」
「そうでもないよ。かなりギリギリ」
「明日から吉田さんと土橋さんも私たちといっしょに、おしっこ我慢してみるって。ウフフ、流行ってきたね。学校のトイレを使わないの」
「…流行っても…」
純子は複雑な顔になり、愛歌はバスが動き出すと振動が膀胱にこたえる様子で、ぴったりと膝を合わせた。
「うぅぅ…おしっこ漏れそう」
愛歌たちは浅黄色の吊りスカートを制服にしている。そのスカートから伸びた脚がつらそうにモジモジと動いている。
「愛歌ちゃん、大丈夫?」
「はぁ……やばいかも……うぅ、私、4年生にもなって、おもらししちゃったら、どうなるんだろ?」
「別に、どうもならないよ。パンツを着替えて終わり」
「それは、そうかもだけど……そういえば、純子ちゃんは、どうして男の子のパンツを穿いてるの?」
「っ、見たの?」
「さっきチラっと」
「………ナイショにしてね」
「うん。……でも、どうして?」
「なんだか、こっちの方がカッコよくない?」
「う~ん……どうかな……でも、純子ちゃんは可愛いのにカッコいいよ」
「そう?」
「女子のリーダーって感じがするし。おもらししたときも、ぜんぜん泣かなくて。女子のみんな、すごいって言ってる。クールでカッコいいって」
「ありがと♪」
少し嬉しそうに純子は笑顔になったけれど、愛歌は右手を股間に入れた。
「うぅぅ、漏っちゃう……漏っちゃうかも……あ、あ、あ!」
愛歌が小学4年生らしい小さな唇をパクパクと金魚のように動かし、おしっこ我慢の末期的な姿勢になる。右手は股間を押さえ、左手は揺れるバスの中で純子を頼りにするため肩をもたせてもらい、やや前屈みになり、そしておしっこをおもらしし始める。
「あ~っ、もう無理ぃぃ……」
ジワ~…
股間を押さえていたために浅黄色の吊りスカートが濡れて変色する。スカートの股間がドンドン濡れていき、膝の間にも滴が見えてきた。
シューー…シャァァァァ…
おしっこを本格的に漏らし始め、もう両脚も濡れるし床にも水たまりができる。
「ハァ……ハァ……しちゃったよ、おもらし……ぐすっ…」
愛歌はとても恥ずかしくなってくる。自ら進んで一日おしっこを我慢したけれど、いざおしっこおもらしをしてしまうと急に恥ずかしくなり、泣きそうになった。
「愛歌ちゃん、落ち着いて」
「ぐすっ……でも……恥ずかしい……」
おしっこで温かく濡れたパンツの感触は愛歌の子供から女性に変わりつつある羞恥心を強く刺激してきて、恥ずかしさで心臓がドキドキとする。純子は手を握ってやり囁く。
「静かにしてれば、誰も気づかれないかもしれないし」
「うん…ひっく…」
車内の小学生たちはそれぞれの雑談に夢中で、すぐに愛歌のおしっこおもらしには気づかなかった。おしっこの匂いも小学生の体臭に紛れてわかりにくい。それでも、さすがに大きな水たまりをつくってスカートを濡らしている愛歌の姿に低学年の男子が気づいた。
「あ~! おもらしぃ!」
「おもらししてる!」
「四年生なのに、おしっこ漏らしてる!」
低学年の男子ほど容赦なく叫んでくるし、スクールバスには先生は乗っていないので愛歌のクラスメート男子たちも今こそ声を大にして、からかってくる。
「うわっ、柏原が漏らした!」
「今度は柏原がおもらしだ!」
「ぅっ、うくっ…ひっく…うわあーん!」
からかわれると愛歌は嗚咽が出てきた。泣き出した愛歌の頭を片手で抱いた純子はからかっている男子たちに言う。
「黙れ!!」
「………、うるさい、お前こそ黙れ! お前も漏らしたくせに! おもらし、おもらし! おもら鹿狩!」
一喝されて一瞬はひるんだけれど、女子相手にひるんでしまった自分を恥じるように男子が攻撃してくる。
「おもら鹿狩! おもら…柏原!」
愛歌の名字はシで始まらず二文字目がシなので、うまい言い方ができなかったけれど、そんなことはどうでもいいと大声で攻撃を続ける。
「黙れと言っている!」
純子も負けずに怒鳴ると男子に蹴りを入れた。
「痛っ、てめぇ!」
蹴られた男子と純子が掴み合いのケンカになった。
「高校生のお姉さん、見てないで止めて!」
低学年の女子が茉莉那に仲裁を求めてきた。見ているようで見ていなかった茉莉那は求められたので立ち上がった。
「ケンカはやめなさい!」
高校生と小学生では腕力は圧倒的に違うので二人を引き離した。
「クソ!」
「ゲスが!」
男子と純子は悪態をつく。二人とも右手で中指だけを立てて相手に向け、左手は親指だけを立てて、その親指を下に向ける。そして右手は上へグングンあげ、左手はグングンさげる。ろくでもないジェスチャーを両手でバラバラに同時にやるのが星丘小学校では流行っていた。先生や親の前でやると、とても怒られるので今こそやれるだけやる。
「……」
女の子が……そのジェスチャーするの……まだ子供だから意味を知らないのかな……それ、おチンチンって意味だよ……犯すぞ、って……まあ、男性が男性に向けてやるのも意味的にどうかと思うけど……と茉莉那は無邪気なのか邪気だらけなのかわからない小学生のケンカを仲裁するけれど、おしっこを一日中我慢してきた純子は掴み合いで激しく動いたせいで、もう限界がくる。
シャアァアァァ…
おしっこおもらしを純子もしてしまい、男子が笑った。
「あははは! 鹿狩が、また漏らした!」
「くっ……」
「漏らした漏らした! 二人とも漏らした!」
「くっ、ぅぅ…」
純子が悔しそうに唇を噛む。泣きたくないのに涙が出てきた。
「泣いた! 鹿狩が泣いた! おもら鹿狩が泣いてる!」
「泣いてない!」
純子が乱暴に袖で目を拭いて怒鳴った。からかい続ける男子に茉莉那も怒鳴る。
「いい加減にしなさい! 傷ついてる女の子へなんてこと言うの! 君は男として最低だよ!!」
「うっさいババァ!!」
「っ…バ…」
生まれて初めてババァと言われて、茉莉那は小学生を本気で殴りそうになったけれど、さらに言われたくないことを別の男子から言われる。
「あ、こいつ、おもらし会長だ!」
「っ…」
心臓に亀裂が入ったかと感じるほど茉莉那は傷ついた。どうして知ってるの、という疑問に男子は楽しそうに答えてくる。
「兄ちゃんに聴いたぞ! お前、ナガトマリナだろ?! おしっこ漏らした会長の! ポスターの写真みたし! そっくりだ!」
茉莉那の写真は選挙ポスターとして掲示されたので出回っていた。そして、星丘学園は私立なので兄姉が先に入学していると入試選考で有利になるという不公平極まりないことが堂々とまかりとおっているし、利便性の点からも兄弟姉妹を入学させている保護者は多い。高校でおしっこおもらしした茉莉那の情報が小学校まで広まっていても不思議ではなかった。
「お前ら、おもらしーズだ!」
「おもらし会長、おもら鹿狩!」
「っ、嫌……やめて…」
茉莉那が傷ついて泣きそうになると、年上の女性を虐待できるということに男子小学生たちが興奮し、さんざんに言ってくる。
「おもらし会長! おもらし会長!」
「おしっこ垂れババァ!」
「おしっこ高校生!」
「…っ…いや……いや…っ……」
茉莉那は最大の生傷へ塩を塗り込まれて腰から力が抜け、お尻から床に座り込む。
ベチャ!
床には純子と愛歌のおしっこが水たまりになっていて、お尻をついた茉莉那のスカートとショーツを濡らしてきた。
「あ、会長が漏らした!」
「三人とも漏らした!」
「違っ、漏らしてない! 私は漏らしてないから! これ、私のおしっこじゃないから!」
二度も漏らしたと噂されるのは絶対に嫌なので茉莉那は引きつった声で叫ぶ。
「私じゃないから! 聴いて! 私じゃないの!!」
「おもらし会長!」
「おしっこババァ!」
「違う! 違うから! おもらししてない! …ぅ、ううっ、うわーんん!!」
「泣いた泣いた♪」
「高校生のくせに泣いた♪」
叫んで泣くほど、男子たちは楽しそうにイジメてくる。もう小学生と同じレベルで泣き出した茉莉那はお尻の冷たいおしっこの感触で余計に悲しくなる。
「うわあーーん! あんあん! うわーーん! あんあん!」
「「……」」
逆に純子と愛歌は涙が止まった。そこまで泣かなくてもいいのに、と思うほど茉莉那が大泣きしているので涙が止まり、二人で茉莉那を守るように男子たちの前に立った。そして二人そろって中指を立てる。もう反論しても、どうせ無駄なので黙って睨みつけた。
「おもらしーズのくせに!」
「おもらし三連星!」
男子たちは二人を泣かせようと騒ぎ立てる。あまりにうるさくて、とうとうスクールバスの運転手が車載マイクで注意してくる。
「静かにせんか! やかましい!!」
教育者ではない雇われ運転手のキレ気味の声で車内は静かになった。
「……ぐすっ…ひっく…」
もう泣いているのは茉莉那だけで純子と愛歌は泣いていない。バスが愛歌の家に近い停車場に着いた。純子が提案する。
「愛歌ちゃん、うちにおいで。いっしょに、お風呂へ入ろう」
「うん! 純子ちゃんちのお風呂大きいから好き! 露天風呂まであるし!」
「お爺ちゃんが趣味でつくったから」
「いいお爺ちゃんだね」
愛歌は停車場でおりず純子についていく。純子の家に近い停車場に着くと、純子は茉莉那を誘う。
「あなたも、そのままじゃ帰れませんよね。うちに来てください。私たちのせいで、ごめんなさい」
「…ぐすっ…でも…」
「いいから」
純子は手首を握って茉莉那を立たせ、三人で降りた。やっと男子たちから解放され、歩いて純子の家に入る。昔ながらの屋敷造りで木造門をくぐり、玄関に入ると純子は家事手伝いの老婦人を呼んで言う。
「すみません。私がおしっこを漏らして二人の服まで汚してしまったの。バスタオル3枚と洗濯をお願いします。あと、このことは母や兄にもナイショで」
「はい、はい。大変だったね」
老婦人は堂々と説明する純子ではなく、愛歌が漏らしたのだと感じたけれど、三人の顔を見ると茉莉那の目が赤いので、もしかして高校生のこの子が漏らしたのかね、と思ったものの余計なことは言わずにバスタオルと洗濯カゴを用意した。
「お爺ちゃんは露天風呂に入ってますか?」
「ご隠居様はお昼寝中ですよ」
「じゃ、起きてもお風呂は使わないでと言ってください」
「はい」
「こっちです、どうぞ」
純子は二人を案内して、屋敷の奥へ進み、旅館のような脱衣所へ入った。
「純子ちゃんちのお風呂、久しぶり。おもらししてラッキー♪」
もう立ち直っている愛歌と違い、茉莉那は気持ちが沈んでいる。いつまでも濡れたスカートとショーツでいたくないので仕方なく脱ぎ、ブラウスとブラジャーも脱いで全裸になった。
「………」
「こちらへ、どうぞ」
「……お邪魔します」
「遠慮無く、どうぞ」
三人で露天風呂に入る。個人宅なので湯船は2畳ほどの広さ、温泉ではなく地下水を湧かしていた。身体を洗って湯に浸かると、茉莉那も少しは気持ちが落ち着いた。そして、視線を感じる。純子と愛歌がおっぱいに注目してきていた。愛歌が言ってくる。
「おっぱい、大きいですね」
「……そうかな……みんな、このくらいだよ。高校生になると」
「へぇ、私たちも大きくなるかな?」
愛歌が自分の胸を撫でる。ほんの少しだけ膨らんでいる。同じ年齢の男子より、わずかに指2本分くらい厚みができていた。それは純子も同じで二人とも女性の身体へと変わりつつあった。純子が不満そうに言う。
「別に、おっぱいなんて要らない。邪魔そうだし」
「「………」」
三人で身体を温め、洗濯が終わるまで応接間で待つ。純子と愛歌はサイズが合う純子の私服を着たけれど、茉莉那は客用の浴衣なので少し恥ずかしかった。とくに純子の末兄が帰宅してくると廊下で擦れ違ったので、同じ高校に通う男女として妙な緊張感があって気持ちが騒いだ。
「「お世話になりました」」
愛歌と茉莉那が礼を言って帰り、純子は一人になる。
「………おっぱい……永戸さん……可愛い人だったなぁ…」
女子高生の裸体を思い出すと、妙な興奮があって気持ちが騒いだ。
「……」
母親にバレないよう、そして保健室へは自分のタンスにあった女児パンツを返却して、今も男児向けのパンツを穿いている。自室を出て中庭の見える廊下をグルリとまわり、リビングに入った。もともとが加賀藩の藩医をしていた鹿狩家は築300年の屋敷を何度もリホームして住んでおり、リビングは洋式になっていた。
「おはよう、純子」
「お母さん、おはよう」
助産師でもあり看護師でもある母親と、家事手伝いの老婦人が朝食を用意してくれていて、もう父親は出勤し、三人の兄たちは食べ始めたところだった。
「よぉ、純子」
「よぉ、兄貴」
長兄と同じ口調で返したのに母が注意してくる。
「純子、そういう言い方はやめなさい。女の子らしくないわ」
「……。いただきます」
純子は食べ始める。三人の兄は二浪して私立の地元医大に入った長兄、現役で地元の国立医大に四月から通っている次兄、そして星丘高校に通う末兄だった。純子が気になって問う。
「チビ兄ぃ」
「オレはもうチビじゃないぞ」
「三日前にさ、球技大会あった?」
「ああ、あった」
「そのとき、女の子の生徒会長さんが、おしっこおもらししたの知ってる?」
「まあ知ってるというか、全員が目撃したからな」
「その人、ちゃんと学校に出席してる?」
「いや、休んでる。というか、オレらが乗ってるスクールバスに、いつもなら同乗してるんだ。まあ、お前は知らなかったろうけど、昨日も一昨日も顔を見なかったから欠席したか、遅刻したかだろうな。帰りも見かけないから、遅刻のうえに早退か、やっぱり欠席なのかもな」
「不登校になりそう?」
「どうだろうな。ショックは大きいだろうからな。ってか、初等部の方まで、その話は回ってるのか。それ聴いたら余計ショックだろうな」
「ううん、オレがたまたま見かけただけ」
また母親が注意してくる。
「純子、自分のことをオレなんて言っちゃいけません」
「……」
「お返事は?」
「……はい」
返事をして朝食を食べ終わると母が髪をツインテールに結ってくれる。
「今日の髪飾りは何がいい? 可愛い輪島塗があるの、それにする? でも、なくさないでね」
「……お母さん、髪を切りたい。もっと短く」
「お願いよ、そう言わずに伸ばしていて。絶対に、その方が純子には似合ってるから」
「………」
「お願いだから勝手に自分で切ったりしないでね」
「……はい…」
幼稚園の頃、生まれた頃から一度も切られたことの無かった髪を自分で切った。うっとおしいのと、男の子のようにしたいと感じて。だけれども、母に大泣きされて以来また伸ばしている、正確には伸ばさされている。ふわりとボリュームあるツインテールが仕上がった。
「うん、可愛い。あなたは一番可愛いわよ」
「……ありがと……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ランドセルを背負ってスクールバスが停車する近所の駐車場まで歩いた。末兄は先に着いていて、妹を見ても何も言わない。純子も黙ってバスを待った。すぐにスクールバスが来て乗り込む。
「…………あ」
純子は茉莉那を見つけた。なるべく目立たないように奥の座席に座っていて二人の友人も左右にいた。見た感じでは二人は路線違いなのに不登校になりそうな茉莉那を迎えに来た様子だった。茉莉那は下を見ていて誰とも目を合わせようとしない、純子と友人二人とは目が合った。
「「………」」
茉莉那ちゃんへ何か余計なことを言ったらタダじゃすまさない、という敵愾心の強いアイコンタクトが飛んできて、純子は目をそらせて離れた席に座ったし、末兄も妹に習う。
「……」
まあ二日の欠席で済めばいい方なのかな、と純子は思い遣り、バスは動き出して次の停車場所で愛歌を含めた数人の学園生徒を乗せた。
「おはよう、純子ちゃん」
「おはよう、愛歌ちゃん」
挨拶して愛歌は隣りに座り、ヒソヒソ声で純子に囁いてくる。
「昨日、ギリギリ漏らさなかったよ。なんとか、おうちのトイレまで我慢できた」
「そう、よかったね」
「今日も一日ずっとトイレを我慢してみるね。私が成功したし彩花ちゃんと美月ちゃんも、いっしょにチャレンジしてみるって。すごくスリルがあって、この遊び、ドキドキするね」
「……遊びってわけじゃ…」
おもらししたのに泣かなかった純子のクールさに、なぜかクラスの女子たちが反応して学校のトイレを使わないということを真似してきていた。
「ウフフ、もし、おもらししちゃったら、どうしようって思うと、すごいスリル」
「……いずれ、すると思うよ、一日って、けっこうきついから。喉も渇くし」
「だよね。でも、それがまた面白い」
ヒソヒソと愛歌と純子が囁き合っているのを気配で感じた茉莉那は胃が痛くなった。スクールバスの中には高校生も中学生も小学生もいる。そして高校生は全員が、おしっこおもらしした茉莉那のことを見覚えている。
「………ぅぅ…」
雑談している学園生たちが、みんながみんな自分のことを噂話にして笑っているような気がしてきて、茉莉那は吐き気さえ覚えた。
「……やっぱり学校……行きたくない……帰りたい…」
「「茉莉那ちゃん……」」
友人二人が優しく身体を撫でて茉莉那を慰める。今のところ、誰も茉莉那を笑ったりしていないし、無関係の雑談をしたり、教科書を予習したり、音楽を聴いたりしていた。
キッ…
スクールバスが学園のロータリーに到着した。ぞろぞろと生徒たちが降り、小学生は小学校の校舎へ、中学生も高校生もそれぞれの校舎に向かっていく。茉莉那たちは一番最後に降りた。できるだけ人に出会わないように昇降口が空くタイミングを狙って校舎へ入る。
「……はぁ……気持ち悪い……吐きそう」
通学靴から上履きに履き替えるだけでも茉莉那は手が震え、おしっこおもらししたときに笑われた声がフラッシュバックしてきた。
「茉莉那ちゃん、無理そうなら、まず保健室にいこう」
「……うん……ごめん…」
とても自分の教室に向かえず、茉莉那たちは保健室へ登校した。養護教諭の提案で、とりあえず一限目は保健室で自習し、二限目の途中から教室へ出席することになり友人二人と別れた。
「……………」
何も考えたくないので茉莉那は自習に集中する。休んだ二日分のノートは友人がくれているので、それを急いで頭に入れないと授業についていけなくなる。進学校の生徒らしい真面目さで茉莉那が勉強してると、養護教諭は用事ができて出ていった。入れ替わりで男子小学生が入ってくる。入ってきた男児はズブ濡れだった。
「先生、服が濡れました。貸してください。小4の石見大輝です」
「え……、えっと…」
自分以外に誰もいないので茉莉那が戸惑う。
「あのね、今、先生、いないの。私だけ」
「そうなんだ」
「……でも、いったい、どうやったら、そんな頭からズブ濡れになるの?」
石見は頭から足の先まで、完全にズブ濡れだった。
「誰かに意地悪されたの?」
「違う。池に落ちた。校庭の」
「あ~、たしか小学校の方にはビオトープがあったね。それにしても、あれに頭から落ちる? 落ちても濡れるのは脚だけですまないの、普通。水深は30センチくらいじゃ?」
「池のそばで空き缶に乗ってたら、転がったんだ」
「缶蹴りでもしてたの?」
「違う。リニアの浮遊感を体験してみたくて、池のふちをリニア路線にして空き缶をならべて歩いたんだ」
「……それ、ほぼ確実に池に落ちるんじゃ……」
どうにも石見にしか理解できない必要性があって何かを実験したようだった。
「はくしゅん!」
「そのままだと風邪ひいちゃうね。ちょっと待って、バスタオルもってくるから、服を脱いで」
茉莉那は棚を開けてみる。自分がおもらしして入室したときは泣いてばかりいたので覚えていないけれど、生徒会長なので少しは把握していた。
「たしか、このへんにあったはず。あと、着替えも」
バスタオルと男児に合いそうな着替えも用意できた。そして振り返ると石見は全裸だった。
「……はい、タオル」
「ありがとうございます」
「………」
小学生のおチンチンって……こんなに小さくて可愛いんだ……私の小指もないくらい……あんまり見ちゃ悪いかな……と茉莉那は戸惑う。石見は思春期前の男児らしく何も気にせず茉莉那の前で身体を拭いている。頭をゴシゴシと拭いていると、下半身がプルプルと揺れて可愛かった。思わず、ちょっと摘んでみたくなる。
「……」
ダメダメ、それってセクハラだし……これが男女逆だったら、どうしようもないロリコン事件になるもん、と茉莉那は17歳の自分が10歳で無防備な石見に何かするのを戒めた。もしも年齢と性別が逆転して、17歳の石見が10歳の茉莉那に触れるとしたら、それは汚点にしかならないし、事件だった。茉莉那の背後で扉が開いて養護教諭が戻ってきた。
「石見くん、またリニアごっこをしたのね」
「今度は3メートル進みました」
「もうやめなさい。永戸さん、ありがとうね」
「いえ」
どうやら、いつものことらしく処理を養護教諭に任せて茉莉那は自習を再開する。石見のおかげで落ち込んでいた気分は少し軽くなっている。着替えが終わった石見は不思議そうに茉莉那を見てきた。
「お姉さん、どこか身体の具合が悪いの? なんで、ここで勉強を?」
「ぇ………っと、……ちょっと熱があるの」
おしっこおもらしをして教室に行けないとは言えなくて茉莉那は嘘をついた。もちろん養護教諭は聞き流してくれるし、石見も疑わない。
「そっか、お大事に。どうも、ありがとう。じゃ」
「じゃあね」
「列車はただいま復旧いたしました。発車オーライ、出発進行」
「「………」」
茉莉那と養護教諭が見送る中、石見は走っていった。
「私も教室に行ってみます」
少し勇気が出た茉莉那は二限目ではなく一限目の途中から授業に参加してみることにして、保健室から高校の校舎に入った。
「………」
授業中の校舎は静かで廊下には誰もいない。
「………おトイレ……いっておこう……万一のため…」
朝起きてトイレに行ったし、家を出る前にもトイレに入ったので、まったく尿意は無かったけれど、不安から茉莉那は女子トイレに入った。個室に入り、カバンを棚に置く。私立学校の女子トイレは充実していて、カバンや小物を置く棚もそれぞれの個室にあり、掃除も生徒が当番でするだけでなく外部の業者が土日に行っているので清潔感もある。
「………はぁ…」
胃が再び少し痛くなってきた。手も指先が震えてくる。その手をスカートに入れて下着を脱ぐ。ショーツを膝までおろして便座に座った。
チョロ…
おしっこが少しだけ出た。
「………ぐすっ…」
おしっこおもらしを全校生徒の前でした瞬間の光景がまた蘇ってきた。まだ我慢できると思っていたのにマイクを握って挨拶を始めた途端、おしっこが噴き出してきて、もう止められなかった。何が起こっているのか、自分でも理解できなかったし、理解したくなかった。あっという間に下着の中が洪水になって、その洪水がハーフパンツも濡らして足元に水たまりをつくった。
「……ぅぅ…」
全校生徒の視線が自分の股間に集まってきて、シーンと静まりかえった。おしっこおもらしした自分を全員が見ていた。そして男子の誰かが何か言って、大爆笑が起こった。ドッとみんなが笑い、茉莉那は腰が抜けた。お尻がビッチャッと音を立てて水たまりに浸かった。濡れた股間が恥ずかしくて泣いた。生徒会長という注目される存在なのに、おしっこおもらしをしてしまい、もう泣くしかなかった。
「…ぐすっ…」
家に帰ってからも泣いたし、翌朝も起きようとしても泣けてきた。友達が迎えに来てくれても部屋を出られなかった。二日目になって涙が枯れたし、やっと三日目になって学校に来られたけれど、教室が怖い。養護教諭の提案では、授業中の静かさの中、そっと教室へ後方から入れば、誰も何も言わないから大丈夫、とのことだった。でも怖い。みんながおもらしした生徒会長がやっと出席してきたと内心で思うに違いない。だからといって休み時間に入るのも怖い。みんなが雑談している中、そっと教室へ入れば、来たよ、来たよ、おもらし生徒会長、と小声で言われるような気がする。
「……これから一年なんて絶対無理……」
しかも生徒会長という役割上、これからも全校生徒の前に何度も立たなければいけない。一学期末の終業式でも、二学期の始業式でも、文化祭でも体育祭でも、あらゆる場面で全校生徒の前に、おしっこおもらしした生徒会長という視線を浴びて立たなければいけない。恥ずかしくて死にたくなる。吐きそうだった。
「…ハァ………ハァ……」
なかなか茉莉那が個室から出られずにいると、誰かが女子トイレに駆け込んでくる足音がした。
「やだ、漏れる、漏れる!」
おしっこを我慢しながら駆け込んできたようで急いでいる。
「っ、ぅーーーっ…」
パシャパシャパシャ…
間に合わなかったようで、おしっこおもらしになり床とおしっこが音を立てている。
「……あぁ……もう、やだ………この歳でおもらしとか……ホント……マジで…ぐすっ…だいたい、この学校の制度が悪い……」
「………」
それは茉莉那も同感だった。入学試験も各期末試験も途中退席しなければ10点加点される。そして、普段の授業も一度も途中退席しなければ10点加点されるけれど、一度退席するごとに1点加点が引かれる。加点されないのは相対的には減点されるのと同義なので、多くの生徒がギリギリまで我慢する。なるべく授業を大切にするよう、という意味合いは理解できる。とくに公立中学にいたときは授業中に好き勝手歩き回る生徒がいたし、男子は何度もオシッコと言ったりして授業妨害した。そういう質の悪い生徒は星丘高校には一人もいないし、そもそも学力が足りないので入学できない。真面目な生徒ばかりなのに、途中退席で1点減点と言われると、こういう悲劇は起こりやすかった。
「……ぐすっ……ひっく……よかった……誰にも見られなくて……」
「………」
私なんか全校生徒に………と茉莉那が思っているうちに、おしっこおもらしした女子は個室で下着と靴下を脱いで、洗面台で洗っている。
「スカート濡れてないよね………仕方ないノーパンで……靴下は履いておいた方がいいよね。でないとバレる」
隠蔽工作をしている様子だった。衣服が整うと、おしっこの水たまりを片付け始める。奥の掃除用具入れからホースを出して床を水道で流し始めた。
「……そこ、誰か入ってるの?」
「っ…」
茉莉那が個室に入っていることに今になって気づいたようで問われた。
「誰か、いるんでしょ?」
「……」
声にして返事をすると茉莉那だとバレるので、軽くノックする。
コン…コン…
「いるんだ………あのさ、私がおもらししたこと、誰にも言わないでよね」
「………」
コン…コン…
了解という意味でノックしたら通じた。
「ありがとう。ホントよろしくね。おもらし2号とか言われたら最悪だし」
「っ…」
一号は私なんだ……やっぱり、みんな、私のこと、おもらし生徒会長って……と茉莉那は絶望していく。声を出したくないのに泣けてきた。
「うっ…ひっく…ぐすっ…ううっ…」
「……なんで、あなたが泣くの? ………っ、もしかして永戸さん?」
「…ひっく……ひっく…」
返事をしなくても嗚咽だけで茉莉那だとバレてしまった。
「えっと……ご、ごめんね。悪気はないし……、その……わ、私も今さっき、おもらししちゃって……あはは、つ、つらいね。……これ、精神的に凹むよね」
「…ううっ…ひっく…」
「頑張って学校に来てたんだね……えっと……ホントごめん。ごめんね、私、あなたのこと応援するから、ごめんね、ごめんね、ごめんね」
謝りながら遠ざかっていったので教室へ戻ったのだと感じる。
「…ぐすっ……ぐすっ……ひっく…」
もう何も考えられなくなり、泣いているうちに授業が終わった。すると一気に女子トイレが混む。とくに一限目の後は混雑しやすい。個室の外では行列ができているようだった。
「ぅうぅ、ごめん、漏れそうだから替わって、お願い! おもらし寸前なの!」
「はいはい、おもらししないでね、会長さんみたいに」
「あれは壮絶だったね。おもらし会長事件」
「あの人、もう学校これないでしょ」
「引きこもりか自殺かな」
「さすがに死なないかな、それじゃ、おもら死じゃん」
「なにそれ、きゃははは!」
「死禁しなきゃ、失禁だけに」
「おしっこおもらしする高校生がいるとは思わなかったわ」
「これ一生、言われるよね」
「歴代生徒会の歴史に残るんじゃない?」
「一番有名な生徒会長になるかもね」
トイレという場所柄もあって茉莉那の話題が続くし、男子がいないので本音が漏れやすい。美人投票で生徒会長になった茉莉那への嫉妬もあって耳を塞ぎたくなるような会話が繰り広げられ、泣けば個室にいることがバレるのに、泣くことを我慢できなくなった。
「…ひっく……ひっく…うう…うわああ…」
「しっ、いるのかも」
「え? なにが?」
「だから、永戸さん」
「「「「「……………」」」」」
急に静かになり、そして休み時間が終わる頃、友人二人が来てくれた。
「茉莉那ちゃん、いるの?」
「茉莉那ちゃん?」
「…ぐすっ…」
呼ばれて、やっと個室から出られた。
「教室にいけそう?」
「……無理……」
「そっか………保健室に戻ろうか」
「ごめんなさい、せっかく…」
「いいよ」
「ゆっくり立ち直って」
教室に行けず、茉莉那は保健室で一日を過ごし、帰りのスクールバスに乗った。早い時間のスクールバス便には小学生が多い。友人二人には部活があるので帰るだけなら一人で帰れると言って茉莉那は乗っているけれど、周囲は小学生ばかりなのでアウェー感が大きかった。しかも高学年はおらず四年生以下ばかりなので、まるで小学校のスクールバスに高校生が一人だけ紛れ込んでいるような状態になっている。
「………」
…………、茉莉那は、ここ数日泣きすぎたので頭がぼんやりとしている。茉莉那の前にランドセルを背負った愛歌と純子が立ったけれど、思い出す気力も無かった。愛歌は小学生がヒソヒソ話をするときらしい露骨さで、両手で口を覆い、純子の耳にキスをしそうなほど唇をつけて話す。
「純子ちゃん、すごいね、一日おしっこ我慢してるのに、平気な顔で」
「そうでもないよ。かなりギリギリ」
「明日から吉田さんと土橋さんも私たちといっしょに、おしっこ我慢してみるって。ウフフ、流行ってきたね。学校のトイレを使わないの」
「…流行っても…」
純子は複雑な顔になり、愛歌はバスが動き出すと振動が膀胱にこたえる様子で、ぴったりと膝を合わせた。
「うぅぅ…おしっこ漏れそう」
愛歌たちは浅黄色の吊りスカートを制服にしている。そのスカートから伸びた脚がつらそうにモジモジと動いている。
「愛歌ちゃん、大丈夫?」
「はぁ……やばいかも……うぅ、私、4年生にもなって、おもらししちゃったら、どうなるんだろ?」
「別に、どうもならないよ。パンツを着替えて終わり」
「それは、そうかもだけど……そういえば、純子ちゃんは、どうして男の子のパンツを穿いてるの?」
「っ、見たの?」
「さっきチラっと」
「………ナイショにしてね」
「うん。……でも、どうして?」
「なんだか、こっちの方がカッコよくない?」
「う~ん……どうかな……でも、純子ちゃんは可愛いのにカッコいいよ」
「そう?」
「女子のリーダーって感じがするし。おもらししたときも、ぜんぜん泣かなくて。女子のみんな、すごいって言ってる。クールでカッコいいって」
「ありがと♪」
少し嬉しそうに純子は笑顔になったけれど、愛歌は右手を股間に入れた。
「うぅぅ、漏っちゃう……漏っちゃうかも……あ、あ、あ!」
愛歌が小学4年生らしい小さな唇をパクパクと金魚のように動かし、おしっこ我慢の末期的な姿勢になる。右手は股間を押さえ、左手は揺れるバスの中で純子を頼りにするため肩をもたせてもらい、やや前屈みになり、そしておしっこをおもらしし始める。
「あ~っ、もう無理ぃぃ……」
ジワ~…
股間を押さえていたために浅黄色の吊りスカートが濡れて変色する。スカートの股間がドンドン濡れていき、膝の間にも滴が見えてきた。
シューー…シャァァァァ…
おしっこを本格的に漏らし始め、もう両脚も濡れるし床にも水たまりができる。
「ハァ……ハァ……しちゃったよ、おもらし……ぐすっ…」
愛歌はとても恥ずかしくなってくる。自ら進んで一日おしっこを我慢したけれど、いざおしっこおもらしをしてしまうと急に恥ずかしくなり、泣きそうになった。
「愛歌ちゃん、落ち着いて」
「ぐすっ……でも……恥ずかしい……」
おしっこで温かく濡れたパンツの感触は愛歌の子供から女性に変わりつつある羞恥心を強く刺激してきて、恥ずかしさで心臓がドキドキとする。純子は手を握ってやり囁く。
「静かにしてれば、誰も気づかれないかもしれないし」
「うん…ひっく…」
車内の小学生たちはそれぞれの雑談に夢中で、すぐに愛歌のおしっこおもらしには気づかなかった。おしっこの匂いも小学生の体臭に紛れてわかりにくい。それでも、さすがに大きな水たまりをつくってスカートを濡らしている愛歌の姿に低学年の男子が気づいた。
「あ~! おもらしぃ!」
「おもらししてる!」
「四年生なのに、おしっこ漏らしてる!」
低学年の男子ほど容赦なく叫んでくるし、スクールバスには先生は乗っていないので愛歌のクラスメート男子たちも今こそ声を大にして、からかってくる。
「うわっ、柏原が漏らした!」
「今度は柏原がおもらしだ!」
「ぅっ、うくっ…ひっく…うわあーん!」
からかわれると愛歌は嗚咽が出てきた。泣き出した愛歌の頭を片手で抱いた純子はからかっている男子たちに言う。
「黙れ!!」
「………、うるさい、お前こそ黙れ! お前も漏らしたくせに! おもらし、おもらし! おもら鹿狩!」
一喝されて一瞬はひるんだけれど、女子相手にひるんでしまった自分を恥じるように男子が攻撃してくる。
「おもら鹿狩! おもら…柏原!」
愛歌の名字はシで始まらず二文字目がシなので、うまい言い方ができなかったけれど、そんなことはどうでもいいと大声で攻撃を続ける。
「黙れと言っている!」
純子も負けずに怒鳴ると男子に蹴りを入れた。
「痛っ、てめぇ!」
蹴られた男子と純子が掴み合いのケンカになった。
「高校生のお姉さん、見てないで止めて!」
低学年の女子が茉莉那に仲裁を求めてきた。見ているようで見ていなかった茉莉那は求められたので立ち上がった。
「ケンカはやめなさい!」
高校生と小学生では腕力は圧倒的に違うので二人を引き離した。
「クソ!」
「ゲスが!」
男子と純子は悪態をつく。二人とも右手で中指だけを立てて相手に向け、左手は親指だけを立てて、その親指を下に向ける。そして右手は上へグングンあげ、左手はグングンさげる。ろくでもないジェスチャーを両手でバラバラに同時にやるのが星丘小学校では流行っていた。先生や親の前でやると、とても怒られるので今こそやれるだけやる。
「……」
女の子が……そのジェスチャーするの……まだ子供だから意味を知らないのかな……それ、おチンチンって意味だよ……犯すぞ、って……まあ、男性が男性に向けてやるのも意味的にどうかと思うけど……と茉莉那は無邪気なのか邪気だらけなのかわからない小学生のケンカを仲裁するけれど、おしっこを一日中我慢してきた純子は掴み合いで激しく動いたせいで、もう限界がくる。
シャアァアァァ…
おしっこおもらしを純子もしてしまい、男子が笑った。
「あははは! 鹿狩が、また漏らした!」
「くっ……」
「漏らした漏らした! 二人とも漏らした!」
「くっ、ぅぅ…」
純子が悔しそうに唇を噛む。泣きたくないのに涙が出てきた。
「泣いた! 鹿狩が泣いた! おもら鹿狩が泣いてる!」
「泣いてない!」
純子が乱暴に袖で目を拭いて怒鳴った。からかい続ける男子に茉莉那も怒鳴る。
「いい加減にしなさい! 傷ついてる女の子へなんてこと言うの! 君は男として最低だよ!!」
「うっさいババァ!!」
「っ…バ…」
生まれて初めてババァと言われて、茉莉那は小学生を本気で殴りそうになったけれど、さらに言われたくないことを別の男子から言われる。
「あ、こいつ、おもらし会長だ!」
「っ…」
心臓に亀裂が入ったかと感じるほど茉莉那は傷ついた。どうして知ってるの、という疑問に男子は楽しそうに答えてくる。
「兄ちゃんに聴いたぞ! お前、ナガトマリナだろ?! おしっこ漏らした会長の! ポスターの写真みたし! そっくりだ!」
茉莉那の写真は選挙ポスターとして掲示されたので出回っていた。そして、星丘学園は私立なので兄姉が先に入学していると入試選考で有利になるという不公平極まりないことが堂々とまかりとおっているし、利便性の点からも兄弟姉妹を入学させている保護者は多い。高校でおしっこおもらしした茉莉那の情報が小学校まで広まっていても不思議ではなかった。
「お前ら、おもらしーズだ!」
「おもらし会長、おもら鹿狩!」
「っ、嫌……やめて…」
茉莉那が傷ついて泣きそうになると、年上の女性を虐待できるということに男子小学生たちが興奮し、さんざんに言ってくる。
「おもらし会長! おもらし会長!」
「おしっこ垂れババァ!」
「おしっこ高校生!」
「…っ…いや……いや…っ……」
茉莉那は最大の生傷へ塩を塗り込まれて腰から力が抜け、お尻から床に座り込む。
ベチャ!
床には純子と愛歌のおしっこが水たまりになっていて、お尻をついた茉莉那のスカートとショーツを濡らしてきた。
「あ、会長が漏らした!」
「三人とも漏らした!」
「違っ、漏らしてない! 私は漏らしてないから! これ、私のおしっこじゃないから!」
二度も漏らしたと噂されるのは絶対に嫌なので茉莉那は引きつった声で叫ぶ。
「私じゃないから! 聴いて! 私じゃないの!!」
「おもらし会長!」
「おしっこババァ!」
「違う! 違うから! おもらししてない! …ぅ、ううっ、うわーんん!!」
「泣いた泣いた♪」
「高校生のくせに泣いた♪」
叫んで泣くほど、男子たちは楽しそうにイジメてくる。もう小学生と同じレベルで泣き出した茉莉那はお尻の冷たいおしっこの感触で余計に悲しくなる。
「うわあーーん! あんあん! うわーーん! あんあん!」
「「……」」
逆に純子と愛歌は涙が止まった。そこまで泣かなくてもいいのに、と思うほど茉莉那が大泣きしているので涙が止まり、二人で茉莉那を守るように男子たちの前に立った。そして二人そろって中指を立てる。もう反論しても、どうせ無駄なので黙って睨みつけた。
「おもらしーズのくせに!」
「おもらし三連星!」
男子たちは二人を泣かせようと騒ぎ立てる。あまりにうるさくて、とうとうスクールバスの運転手が車載マイクで注意してくる。
「静かにせんか! やかましい!!」
教育者ではない雇われ運転手のキレ気味の声で車内は静かになった。
「……ぐすっ…ひっく…」
もう泣いているのは茉莉那だけで純子と愛歌は泣いていない。バスが愛歌の家に近い停車場に着いた。純子が提案する。
「愛歌ちゃん、うちにおいで。いっしょに、お風呂へ入ろう」
「うん! 純子ちゃんちのお風呂大きいから好き! 露天風呂まであるし!」
「お爺ちゃんが趣味でつくったから」
「いいお爺ちゃんだね」
愛歌は停車場でおりず純子についていく。純子の家に近い停車場に着くと、純子は茉莉那を誘う。
「あなたも、そのままじゃ帰れませんよね。うちに来てください。私たちのせいで、ごめんなさい」
「…ぐすっ…でも…」
「いいから」
純子は手首を握って茉莉那を立たせ、三人で降りた。やっと男子たちから解放され、歩いて純子の家に入る。昔ながらの屋敷造りで木造門をくぐり、玄関に入ると純子は家事手伝いの老婦人を呼んで言う。
「すみません。私がおしっこを漏らして二人の服まで汚してしまったの。バスタオル3枚と洗濯をお願いします。あと、このことは母や兄にもナイショで」
「はい、はい。大変だったね」
老婦人は堂々と説明する純子ではなく、愛歌が漏らしたのだと感じたけれど、三人の顔を見ると茉莉那の目が赤いので、もしかして高校生のこの子が漏らしたのかね、と思ったものの余計なことは言わずにバスタオルと洗濯カゴを用意した。
「お爺ちゃんは露天風呂に入ってますか?」
「ご隠居様はお昼寝中ですよ」
「じゃ、起きてもお風呂は使わないでと言ってください」
「はい」
「こっちです、どうぞ」
純子は二人を案内して、屋敷の奥へ進み、旅館のような脱衣所へ入った。
「純子ちゃんちのお風呂、久しぶり。おもらししてラッキー♪」
もう立ち直っている愛歌と違い、茉莉那は気持ちが沈んでいる。いつまでも濡れたスカートとショーツでいたくないので仕方なく脱ぎ、ブラウスとブラジャーも脱いで全裸になった。
「………」
「こちらへ、どうぞ」
「……お邪魔します」
「遠慮無く、どうぞ」
三人で露天風呂に入る。個人宅なので湯船は2畳ほどの広さ、温泉ではなく地下水を湧かしていた。身体を洗って湯に浸かると、茉莉那も少しは気持ちが落ち着いた。そして、視線を感じる。純子と愛歌がおっぱいに注目してきていた。愛歌が言ってくる。
「おっぱい、大きいですね」
「……そうかな……みんな、このくらいだよ。高校生になると」
「へぇ、私たちも大きくなるかな?」
愛歌が自分の胸を撫でる。ほんの少しだけ膨らんでいる。同じ年齢の男子より、わずかに指2本分くらい厚みができていた。それは純子も同じで二人とも女性の身体へと変わりつつあった。純子が不満そうに言う。
「別に、おっぱいなんて要らない。邪魔そうだし」
「「………」」
三人で身体を温め、洗濯が終わるまで応接間で待つ。純子と愛歌はサイズが合う純子の私服を着たけれど、茉莉那は客用の浴衣なので少し恥ずかしかった。とくに純子の末兄が帰宅してくると廊下で擦れ違ったので、同じ高校に通う男女として妙な緊張感があって気持ちが騒いだ。
「「お世話になりました」」
愛歌と茉莉那が礼を言って帰り、純子は一人になる。
「………おっぱい……永戸さん……可愛い人だったなぁ…」
女子高生の裸体を思い出すと、妙な興奮があって気持ちが騒いだ。
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