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河合優美のおもらし2
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停電で停車してしまった電車内で優美は、おしっこをおもらししそうになり、もう膀胱が耐えきれずにおもらしを始めたのを指先の力で無理矢理に出口を押さえて高校2年生にもなって、おもらしするという恥ずかしすぎる事態を避けようとしていた。けれど、股間を両手で押さえ始めたときは恥ずかしさで真っ赤になっていた優美が青ざめて蒼白になり瞳の焦点までおかしくなってきて危険を感じた志澄実は万凜に協力させて、いちにのさんでおもらしさせるため優美の両手首を握っていた。
「いち」
「嫌っ…お願いっ…ぅううぅ…嫌っ…」
「にの」
「ぅうぅ…お願い、トイレまで……我慢させて…」
優美の涙が二人の手に降りかかってきた。
「さん! 優美ちゃん、力を抜いて、おもらししなさい!」
「河合センパイっ、ごめんなさい! おしっこしちゃってください!」
二人が同時に優美の手首を引く。必死に押さえていて疲れきっていた優美の腕力では二人に対抗できず、股間から指先が抜けてしまう。
「ううっ!」
それでも優美は高校生にもなって、おもらしするという自分を受け入れられず両脚を固く閉じ、最後の力で尿道を括約筋と内腿の筋肉で絞める。
「ううあっ…あはっん!」
膀胱が収縮して腹筋が息み、最後の力で抵抗している括約筋の門を攻めてくる。それは尿意というより電撃のような痛みで、尿道に電気を帯びた釘を内部から刺されているような痛みだった。痛くて、つらくて、もう我慢できない。喘ぎ声も本人の意志に関係なく漏れてしまい、まるで性交の快感に浸っているような声になった。
「あっはん! んうはっ!」
苦痛と快感が同時に襲ってくる。尿道には我慢による痛みの地獄、膀胱にはおもらしの快感の天国。気持ちいい、おしっこが膀胱から出て行く解放感、破裂しそうだった臓器が救われた心地、貯まりに貯まったおしっこを出す快感、あまりに気持ちよくて、優美の顔もあられもなく乱れて目を見開き、大きく口を開けて舌を突き出している。青ざめていた顔が快感と恥ずかしさで赤くなっていく。
「んあああっ! 漏れっんううう!」
唇と舌から唾液が糸を引いて粘って落ちる。それらは痴態のようにも見えて周囲で見ている男子たちは知らず知らずのうちに勃起しているほど、優美の姿は扇情的だった。凜として弓を構えたパンフレットの美少女が人間性の欠片も無く、ただ動物的な衝動に身を支配されている。
ジワっ…
堰を失った優美の尿道口から熱いおしっこが噴き出してきた。
シュワァァ…
もう止まらない、止めようがない。せめて下着に染み込む量で止めたいという優美の願いは虚しく、もう下着はグッショリと濡れきっていて少しも吸収してくれず、そしておしっこを止める手段も無かった。
ジュワアアアア!
おしっこの勢いが一気に増す。優美は絶頂しているように腰をクネクネと蠢かせた後、ピクピクとお尻の肉を震わせ、それからつま先立ちのまま硬直して漏らしていく。
ジャバジャバジャジャッジャ!
心と尿道が痛み、そこに加えて膀胱が解放される快感がお腹を登ってきて優美が喘ぐ。
「ふぁッ…ふああん! あぁあぁぁ…ハァ…ぁはぁぁぁ…」
泣き声のような喘ぎを漏らし、おしっこも漏らしている。内腿が温かく濡れて、温泉に浸かっているような奇妙な気持ちよさがあるけれど、おしっこおもらしを始めてしまった確かな感覚でもあって、感じたくなかった。
ピチャピチャピチャ…ビチョビチョ!
優美のスカートから小さな滝が伸び、電車の床を叩くと、すぐに水たまりをつくって、それが拡がる。脚にもおしっこの流れがからみ、腿をズブ濡れにして膝をくだり、ふくらはぎに複数の筋をつくると靴下に吸い込まれていく。優美の白い靴下が薄黄色に変色して濡れる。靴下で吸収しきれない量のおしっこが靴の中に貯まる感触を優美は足の指で感じて絶望した。
「ぅぅ……ひっく……ぐすっ……ひっく…」
もらした、全部もらしてしまった、おしっこのおもらしを高校の2年生にまでなって、してしまった、という深い絶望と激しい恥ずかしさで優美は涙が溢れて止まらない。生温かい敗北の感覚が股間の前からお尻まで拡がっていて、腿もふくらはぎも足首も情けない温かさに濡れている。見たくないのに見てしまうと、周囲の全員が優美に視線を送ってきている。見られた、おしっこのおもらしをしているところを、みんなに見られてしまった、同じ2年生の男子たちにも、先輩にも、そして年下の1年生たちにも、おしっこをおもらしする情けない女の子だと想われてる、と絶望した優美の腰から力が抜けて、おしっこの水たまりにお尻から落ちていく。
「万凜ちゃん、支えてあげて!」
「はいッ! …くっ…」
志澄実と万凜は腰が抜けた優美を支える。このままお尻から自分でつくった水たまりにビチャリと落ちてしまうと、さらにスカートがビチョビチョに濡れてしまって可哀想なので、二人は踏ん張って握っていた優美の手首を引き上げ、優美を立たせておく。おかげで水たまりには落ちなかったけれど、優美は両手をバンザイの形に挙げさせられ、晒し者のようにされてしまった。
「…うっ…ひっく……ひっく…ひーぅぅ…」
両手首を吊られた状態で優美は泣いている。膝がガクガクと震えて自分で立てない。バンザイ姿勢にされたせいでブラウスの裾があがって、おへそが露出されている。おへそもヒクヒクと泣いているように震えていて、やっと膀胱は楽になったけれど長く続いた尿意の我慢のために下腹部あたりが痛い。さらにブラウスの腋まわりは濃い汗染みができていて、左右とも手のひら二つ分ほども濡れている。股間を両手で押さえているときに流した腋汗だった。それが小麦色のブラウスを茶色に染めていて両腕を強制的に挙げさせられているので丸見えになっている。股間を押さえるために腋を閉じて流した冷や汗は大量で腋まわりを濡らした後はおもらしのように下へも染みを拡げていて裾まで達している。そして当然、おしっこの匂いと腋汗の臭気が周りに漂う。新鮮なおしっこのトウモロコシのような甘い香りと排泄物としての臭さ、弓道試合の緊張で湿った腋がおしっこ我慢の冷や汗を大量にかいた独特の匂いは、青臭い若さとツンとくる饐えたような肉の匂いだった。とてもとても恥ずかしい状態だったけれど、もう優美は混乱と絶望で状況のすべては感じていない。
「…ひーぅぅ…ひーぅぅ…」
ただ啜り泣くだけで何もできずにいた。涙を手で拭うことさえできない。泣き顔を晒して、鼻水も垂れ、失禁中に垂らしたヨダレも唇から顎にかけて汚している。顎先から涙と鼻水、唾液が混じった汁が糸を引いて滴っている。あまりに可哀想な晒し者の姿を見て他校生たちが囁く。
「あれってイジメ?」
「ありえるね」
「おもらししろって命令してたし」
ヒソヒソと囁き合いながらクスクスと笑ったりもされる。志澄実は不本意であったけれど、両手首を握ってバンザイさせていないと優美が崩れてしまうので吊ったままにする。おもらし直後のズブ濡れ状態で左右から同じ星丘高校の制服を着ている志澄実と万凜に吊られたままの優美を見せつけられて他校生たちは囁き続ける。
「トイレに行かせないとか小学生がやるイジメよね」
「星丘のキャプテンって鬼」
「あの子は河合さんだっけ。そういえば一発も的に当てられてなかったから制裁?」
「あんな制裁されたら、もう試合に顔出せないし、きっと辞めるよ、部活」
「ってか、学校を辞めたいかも」
「転校して、うちに来たり?」
「どこ逃げても県内だと噂がまわるね。おもらしさんの」
「それ見こしての制裁かな」
「鬼すぎ」
「にしても、おもらししたときの顔、アヘ顔だったよね」
「股だけじゃなくて、どうして腋もあんなに濡れてるの?」
「漏らす前に、あれだけプルプルしてれば汗もかくでしょ」
「けっこう匂うね」
「濡れ方もすごくて腋からも、おもらししたみたい」
「トリプルおもらし?」
「きゃははは! なにそれ」
声を出して笑われると、もう優美は羞恥心と絶望で気が狂いそうだった。
「トリプルおもらしがダメなら、三角失禁は?」
「サイン・コサイン・タンジェントじゃないから」
「おもらし・コもらし・腋もらし?」
「コもらし、って何?」
「大きい方」
「うわぁ……」
「あの子、いつまであのまま晒されてるんだろ」
「私だったら死にたくなるわぁ」
「超泣いてるし」
せめて顔を隠して泣きたいのに優美は両手首を握られていて、下半身には力が入らず、どうにもできない。そんな状態が数分も続いて、万凜が苦しむ。
「くうっ…私、もう限界です。肩が、ハァハァ」
「そうね、どうしよう」
万凜と志澄実は人間の体重を半分ずつ支えているので、かなり疲労してきた。けれど、手を離すと優美が水たまりに座り込むのは確実で、それは避けてあげたい。いっそ座席に座らせてあげたいものの、どの座席も高校生たちが座っているし、スカートと下着が尿で濡れているので座席を汚してしまう。立たせておくしかない。なのに優美は自力で立てないし、力の入らない人間を効率よく支える術を万凜も志澄実も知らなかった。男子に抱いてもらうわけにもいかないし、抱いた人の服まで濡れてしまう。結局、しばらくして万凜と志澄実は汗染みで濡れた優美の腋に自分たちの肩を入れて、左右から抱き支えた。
「「ハァ……ハァ……これで…なんとか…」」
二人とも腕の筋力が限界近くて手がプルプルと震えている。優美といえば、ただ泣いているだけだった。
「…ひっ…ひっく……ぐすっ…」
おもらししたのが教室や体育館なら、すぐに保健室へ連れて行ってもらえて、その場から解放されるのに、今は電車の中。しかも次の駅に到着する見込みも遠い停電で完全停車している車内なので、気持ちの逃げ場も身体の逃げ場もない。さらには平日の電車なら、おもらしを見られても、まったくの他人が多いはずなのに練習試合の後という特殊な条件なので、顔見知り程度には知っている人が多い。そして引率教員は試合後に会議をして自家用車で帰るので車両内は全員が高校生という状況だった。
「…ひっく……ううっ…うーうっ…」
おしっこは漏らしきったけれど、涙は流し続けている。ポニーテールなので泣き顔を髪が隠してくれたりもしない。穴があったら入りたいし、いっそ死にたいくらい恥ずかしかった。漏らした尿が冷たくなっていて、ベッタリと下着や靴下が気持ち悪く肌に貼りついているし、靴の中はチャプチャプと貯まっていて足の指先はヌルヌルする。
「…ぐすっ…ぐすっ…ひっく…」
「「…………」」
志澄実と万凜は慰めの言葉に困った。大丈夫と言ってあげてもつらいだろうし、仕方なかったね、と言うのも気休めにすぎない。車内は静かで、それが重苦しい。
「……ひっく…」
だんだん優美の嗚咽が減ってきた。泣くだけ泣いて、もう涙も枯れてきた様子で両脚に力も入ってくる。すべての体重を二人に支えてもらっていた状態から半分ほどは自分で立てるようになってきた。
「…ひっく…」
けれど、おもらしした事実は変わらない。下半身は冷たく濡れているし、足元には水たまりがあって冷たい事実を優美の胸に突き付けてくる。もう目立って優美を笑う他校生はいないけれど、みんな心の中で笑っている気がするし、きっと忘れてくれない。一生の恥じ晒しになってしまった。他校生たちの氏名はお互いに記憶していないけれど、星丘高校には女子弓道部員は3名しかいないし2年生は優美だけ、そして練習試合では参加者の名簿が配られているので、知ろうと思えば他校生たちも高校2年生にもなって、おしっこを電車内で漏らしたのが河合優美という女子だと知ることができる。なにより1年生たちに見られたのが恥ずかしい。優美は学校のパンフレットやホームページにも写真が載った新入生にとっては有名人なのに、おしっこを漏らすような先輩だと思われ、きっと来年の新入生にも笑い話として言われるし、これから何年も同じパンフレットを学校が使い続ける限り、この弓をカッコよく構えてる先輩はおしっこをおもらしした人、と語り継がれるに違いない。
「……ぐすっ……もうヤダ…」
さらに状況が悪化していく。優美のおもらしがつくった水たまりが、ゆっくり流れていた。電車が下り坂の途中で停車しているために車両全体にも勾配があって後方から前方へ車内の中央を流れていく。細い流れになって、ゆっくりゆっくり優美のおしっこが車内を進む。それに他校生たちも気づいていて自分たちのカバンや弓道具入れが濡れて汚されないように移動させたり、立っていた生徒は踏まないように避けている。
「…ひっく…」
モーセが海を割ったという伝承のように、おもらしの流れが人の海を割っていき、誰もが優美のおしっこを避けて後方から前方まで真っ直ぐ見通せるようになった。おしっこでカバンや靴を汚されたくない気持ちはわかるけれど、優美は自分自身が汚物のように避けられている感覚がして悲しさが増した。本当に消えてしまいたいほど、恥ずかしい。この場から逃げ出したい。なのに、どこにも行けない。どこにも逃げられない。このまま小便を漏らした実に情けない姿を晒して立っていることしかできず、また泣きそうになる。けれど、再び泣けば余計に恥ずかしいということもわかるので涙を耐える。みじめな気持ちが胸の中を駆け回り、靴の中に貯まった尿の感触がすごく気持ち悪くなってきて脱ぎ捨てたいけれど、それもできない。腿や膝は乾いてきたものの、くっきりと筋が残っていて、おもらししたのがよくわかるし、スカートは前が不格好に染みをつくったまま、きっとお尻の方も濡れている気がする。そして下着の冷たく濡れた感触は常に股間にあって離れてくれない。おもらししたのが自分だと、みじめさの地獄に落としてくる。それほど、つらいのに電車内の高校生で唯一、優美のおもらしに気づいていなかった石見は停電による緊急停車という事態に熱中していて、運転席後方にいる石見の足元まで、優美のおしっこが迫ってきたのにも気づかない。このままでは石見の靴底が濡れてしまうのに、周囲にいる白尾女子学園の生徒たちは見ているだけで何も言わない。じわじわと優美のおしっこの流れが石見の靴に達した。
ピチャ…
さすがに足元が濡れてくると、運転席と運転手の緊急業務ばかりに集中していた石見も異変に気づき、下を見る。
「ん? どうして、濡れてるんだ?」
石見が誰にともなく問い、白女の生徒は答えない。もともと石見も答えなど期待していなかった。むしろ、自分で答えを探したい性格だった。
「まさか、雨漏りか?! いや、それは無いだろう。いくら年式の古い車台でも、きちんと整備するし、塗装の塗り直しもある。いやいや、けど、赤字路線だからなぁ」
わざわざ、しゃがんで床に膝を着き、濡れ方を観察し後方から流れてきていることに気づく。
「後ろからか。雨漏りなら、けっこうな量だな。停電の原因か? いや、そもそも電気で動く電車の天井は雨漏り対策は万全だろう。でないと、致命的だ。まさに、感電死する。っ! いかん! みんな、これに触れるな!!」
そう叫ぶと石見も水たまりから飛び退く。
「ビビったァ! 靴底がゴム製でよかった。もし電気が流れていたらヤバかった。電流計でもあれば、計れるのに。ともかく、雨漏りの箇所を確かめよう」
ブツブツと常時、一人言を大きな声で続けながら石見は流れを辿って後方に歩いてくる。
「この液体、ちょっと色があるなぁ。ただの雨じゃないのか。黄色っぽい、塗料か、断熱材が溶け出してる? いや、この車体のカラーは群青色だから塗料じゃないな。いやいや、ラッピング塗装したときの残留物とか? なら、匂いがあるかな」
石見は車両の中央あたりで再び膝をつき、顔を近づけて優美のおしっこを嗅いだ。
「う~ん、雨の匂いかなァ、水っぽい。オイル臭くはないな」
「「クッププ…」」
周囲にいる他校生たちは笑いそうになるのを必死に我慢する。石見の思考は一人言のおかげで優美のおもらしと同じほど全部漏れ出している。たしかに、おもらしの場面で運転席ばかり見ていたなら、雨漏りなどのトラブルだと疑う論理もわかるし、感電を恐れるのも判断としては間違っていない。ただ、真相を知っていると、あまりに滑稽で可笑しかった。
「とにかく発生源を確かめよう」
また立ち上がった石見が後方にくる。ずっと下を見ながら歩いてきた石見の視線が優美の靴に注がれる。優美の靴は通学用の革靴なので内部にはおしっこを貯めているけれど、外側はもう乾いて濡れていない。石見には、たまたま優美が濡れたところにいたと見えた。
「ここで止まってるな。天井はどうだろう?」
石見が車内の天井を見るけれど、何も異常はない。次に視線を優美に向けてきてスカートが濡れているのに気づいた。そして泣き顔を伏せている優美に何の遠慮もなしに質問してくる。
「お、河合さん、服が濡れてるね。どういう風に濡れたか、教えてくれないか?」
「っ…」
「この液体が、どこから来たか知ってる?」
もう他校生たちは失笑を禁じ得なくなり、笑い出す。それは大笑いで車両が揺れるほどだった。優美の顔が嗚咽で引き攣る。
「ひっ……ひっく……………ひっく! うっ! うっ! うわあああああん! うわあああああん! 嫌ぁああああ! ひううううう! ううううん! あああああんん!」
すでにズタズタに傷ついていた優美の心を粉々に粉砕するような石見の言動で、もう嗚咽が胸から爆発してきて優美は大声で泣き出した。
「え? え? なんで泣くの?! どうしたの?! 河合さん? なんで? オレ、悪いこと言った?」
「うううああああん!! ひ嫌あぁあああん!!」
泣くことしかできない優美の代わりに志澄実が外の雨より冷たい目で言う。
「石見くん……あなたって人は………この状況で、わからない?」
「え、いや、漏電して皮膚がビリってなった? かなり痛い?」
「違う!! 優美ちゃんは漏らしてしまったの!」
「漏らしたって、電気を?」
「おしっこよ! バカ!!」
「おしっこを漏らした? いやいや、ご冗談を。河合さんは高校生で、おもらしなんかする歳じゃないだろ? 幼稚園児じゃあるまいし」
「本当におもらしなの! しちゃったのよ! 仕方なく!」
「ありえないだろ、それマジで。高校生だぞ? おもらしする年齢か?」
石見と志澄実の会話は、剥き出しの心臓をチェーンソーで剔って首から脳まで切り裂くように優美を傷つけた。優良校に通う高校生としてのプライドも、女の子としての羞恥心も失血死するほど血の涙を流している。あまりに大泣きする様子で、さすがに石見も気づいてきた。
「……本当に、河合さんはおしっこを漏らしたのか?」
「そうよ!」
「そうか……おもらしか……だから濡れて…、あ、えっと、すまん! すまない! ごめん、河合さん、オレは察しが悪くてさ、ごめん」
「悪すぎなのよ!」
「ホントすまない! でも、おもらししたのは仕方ない! 河合さんは泣かなくていいよ、悪くない。悪いのは車両、いや、車両も悪くない。この車両も今では貴重なものなんだ。あ、悪いのはトイレがないことだ。まあ、これには構造の問題もあるんだけど、全国でトイレがない路線は全部で…」
やっと女子を傷つけたことに気づいて謝る石見も動揺して余計に一人言が激しくなり、全国にあるトイレがない路線や時間帯について語り始めた。
「誰も聴いてないから、あっち行って! バカ!」
志澄実は泣いている優美の顔を胸に抱いて隠してやりながら石見を追い払った。追われた石見は少し考え、運転席後方に戻り管制所と連絡をとっていた運転手に声をかける。
「報告します。車内清掃事案が発生しているようです。停電対応で、お忙しいでしょうし、自分がやります。雑巾とかありませんか?」
「あ、すみませんね。お願いします」
車内清掃という単語を知っている石見に運転手はバケツと雑巾を渡してくれた。受け取った石見は床を拭き始める。車両前方から後方へと続く流れを再びさかのぼりながら、しっかりと拭き取っていく。雑巾の吸収力を超えてくるとバケツへ絞って落とす。
ギュッ…ビチャビチャ!
両手が優美のおしっこにまみれているけれど、気にしない。また拭き続ける。他人の小便を拭くなんて嫌な作業なのに石見が丁寧にやっているので他校の女子たちは少し石見に好感を覚えたけれど、一人言によってそれは掻き消える。
「こういう作業は、やっぱり光栄だな。自分が鉄道運行再開の一翼を担ってる。巨大なシステムの中の小さな歯車として、その役目を果たしてるわけだ。たとえ、汚いオシッコでも、いや、汚いというのは河合さんに失礼か。オシッコは無菌だし、これがゲロだと、より汚い作業になるけど、そこに責任感をもつのが鉄道マンだろう。さすがにサリンだと対応不能だけど、ああいうのにも対応できるよう防護服を一式おくのもいいかもしれないな。こんなローカル線でサリンテロやる団体も無いか。やっぱりゲロか、おもらしが定番になるかな。トイレの無い車両の宿命だな」
着実に床を清掃して石見は再び優美の足元まで来た。志澄実と万凜は微妙な表情で足元にいる石見を見下ろす。学年トップの成績で弓道も優秀な上にハンサムおまけに長身、しかも嫌がらずに小便を片付けてくれている。いつまでも車内の床に自分のおしっこが拡がっているのは優美としても胸が裂けそうなほど苦しかったので、それをバケツに治めてくれたのは正直ありがたい。もう少しだけ石見の性格や言動が違っていたら、優美は恥ずかしさの極みにありながらも恋に落ちたかもしれない。けれど、さきほどの言動も清掃の動機も痛すぎて目を合わせたくなかった。代わりに志澄実が礼を言っておく。
「うん、石見くん、ご苦労様。もう優美ちゃんに聞こえるところで色々言うのはやめて前の方にいて。そのバケツもって」
「了解しました。本日のご乗車ありがとうございます」
石見は濡れた手で敬礼して戻っていった。志澄実は抱いている優美の頭や背中を撫でる。もう顔を周囲に見せたくない優美は静かに抱かれ、時間を過ごした。
「……ぐすっ……」
だんだんスカートも乾いてきたし、下着もビチョ濡れだった状態からジメジメと湿っているくらいになってくれている。ただ靴の中だけは、おしっこが貯まったままで気持ち悪い。足の指がふやけている気がする。
「………ぐすっ…」
「はい、鼻かんで」
志澄実がポケットティッシュをくれた。
「落ち着いてきた?」
「……はい…」
もう感情も出尽くしたのか、号泣して疲れ果てたのか、ズキズキと痛んだ優美の心も今はボンヤリとした落ち着きの中にある。
「……」
けれど、おしっこをおもらししたばかりでなく高校生にもなって幼児のように大泣きしてしまった。その上、そんな姿を自校の生徒だけでなく他校生にまで見られてしまって、恥ずかしくて生きていける気がしない。靴の中の気持ち悪いおしっこの濡れが電車内でおもらしした女子高生という烙印を優美に焼き付けてくる。身体に変な感じがする、変な違和感がある。足の裏から股間までピリピリとしたようなキーンとしたような、自分の身体が自分のものでないような違和感だった。
「……夢なら、醒めて…」
でも現実だった。おしっこまみれになった部分が乾いてきても恥ずかしい。その恥ずかしさが違和感になって背筋や胸まで疼いてくる。他の高校生たちは黙ってスマートフォンをいじったりして時間潰ししているけれど、その頭の中には優美のおもらしの姿が記憶されているはずで、きっと家に帰ったら家族と笑いながら話すに決まってる。明日の学校でも朝一番の話題で笑われる。一番賢いはずの星丘高校の生徒がおしっこ漏らして泣いてたよ、と。不意に優美は男子部員の一人に視線を送った。同じ2年生で同じクラスの中森という男子で仲は悪くないし、からかうような性格でもない。今も目が合ったけれど、さりげなくそらしてくれた。中森には頼んでおきたい、お願いだから私のおもらしをクラスで話さないで、と。そんな優美の気持ちの動きを察したのか、志澄実が問うてくれる。
「どうかした? 優美ちゃん」
「……はい……」
優美は小声で志澄実の耳元に言う。
「中森くんに私が……失敗したこと、クラスで話さないでほしい。絶対って……言っておきたいけど……どう言えばいいか……」
おもらしを失敗と言い換えたけれど、話しているだけで鼻の奥がツンと痛くなって、また目が潤む。泣きそうになった優美の肩を撫でた志澄実はしばらく考え、大きな声で言うことにした。
「部員! 傾聴!」
弓道部のキャプテンとしての声だった。
「本日の練習試合、良い結果を残せた人もふるわなかった人も、また明日から頑張りましょう! また列車のトラブルで足止めを受け、悲しい失敗をした人もいますが、我が部に他人の失敗を笑うような人はいません! いたら退部です! いわんや学校で部外者に話すような者は弓の的にしますから、心得ておくよう!」
「「「…はい…」」」
電車内なので遠慮がちに万凜と他2人の一年生が返事したけれど、志澄実は満足しない。
「声が小さい! 全員、返事は?!」
「「「「「はい!」」」」」
今度は優美以外の部員全員が返事してくれた。志澄実は満足そうに頷き、次は車内全体に響く声を張り上げる。
「みなさま、さきほどは当校の生徒がご迷惑をおかけしました! ご迷惑の上に願いだてして、まことに恐縮ですが、どうかご容赦いただき、また何卒ご他言なさいませぬよう深く深くお願い申し上げます! 粗相をした生徒はとても傷ついており、これ以上に心の傷を負っては外に出られなくなります。どうか、その点にご配慮いただき今日のこと口の端にのぼらせぬようお頼みします!」
「「「「「……………」」」」」
誰も志澄実に返事をしないけれど、もともと返答を期待していなかったので頭をさげて締めくくる。
「以上です! どうかお願いします!」
「お願いします!」
意外にも前方にいた石見が叫んでくれた。自分が副キャプテンという立場なことを忘れていないからなのか、列車の安全運行の一部だと感じているのかはわからないけれど、志澄実としては頼もしかった。優美も泣きそうな顔で頭をさげる。
「……ぐすっ……お願いします…」
泣かないでおこうと思うのに、また涙が一筋ずつ両目から零れている。それを志澄実と万凜が左右から拭ってくれる。
「ほら、いつまでもメソメソ泣かないの」
「はいっ…ぐすっ…」
大声で志澄実が言ってくれたおかげで優美の心は半分だけ温かくなったけれど、あとの半分は濡れたままの下着と靴下からくる感触で、おもらしした子、粗相をした生徒は私なのだと思い知らされ、いつまでもいつまでも恥ずかしさが疼いている。恥ずかしさで逃げ出したいのに、ずっと閉じ込められたまま、着替えもできず立ち続けるしかない。とてもつらい時間が続いていく。
「…………」
だんだん日が傾き、車内が暗くなってきた。万凜がスマートフォンで母親に遅くなる理由を送信しつつ言う。
「夏原キャプテン、この停電、いつまで続くんでしょうね」
「さあ、どうかな。あの鉄オタに訊く気にもなれないし、運転手さんだってわからないんじゃないかな。……はぁ…」
志澄実は答えながら強めの尿意を自覚したので少し気持ちが動揺した。まだ大丈夫ではあるけれど、あと一時間くらいが限界かもしれない。万凜が冗談めいた声で言う。
「私、けっこう我慢してるんですよ、おトイレ」
「「………」」
優美と志澄実は相づちに困って黙る。万凜は冗談めかしつつも立ったまま両脚を閉じて片手で股間を押さえた。その押さえ方は冗談でなく尿意が切迫している押さえ方だった。
「あ~……つらいです。このままだと、私もおもらしするかも」
「あはは…、実は私も、きつくなってる」
志澄実が認めると、万凜は大きめの声で言う。
「黒高のトイレでする気になれなくて、そのまま電車に乗った人、女子のうちには多いと思いますよ。あと何時間も閉じ込められたら、どうなるかな?」
「「「「「……………」」」」」
他校生の女子たち数名に緊張が走る。よく見ると5人ほどの女子は座席に座って両脚を閉じている。かなり強めに閉じている子もいて、その瞳に緊張と動揺があった。うち一人は脚を組んで座っているけれど、膝を組むだけでなく足首も左右を絡めて二重に組んでいる。その様子からして限界は近そうだったし、優美が笑われているとき一切笑わずにいた気がする。他の子たちも、あまり余裕は無さそうだった。このままトイレの無い車両に閉じ込められるとなると、優美に起こった事態が自分にも起こるかもしれないという恐怖が拡がる。
「……」
逆に優美は希望を感じた。もしも幾人か優美に続いて、おもらししてくれたら優美のことを噂にしたり笑ったりする人はグッと減る。志澄実の演説でも減ってはいると感じるけれど、人の口に戸は立てられない、という故事は知っている。でも、おもらしが優美だけでなければ、むしろ今日のことは全員で秘密にしようと誓ってくれるかもしれない。たとえ、噂が流れても6人7人と漏らした中の、たまたま一番最初が優美だっただけで印象はかなり薄くなる。噂の内容も星丘高校2年の河合優美が電車内でおもらしした、という特定された個人名から、停電した車両に閉じ込められた女子高生7人がおもらしした、という不特定多数になってくれる。そんな希望を優美がもった瞬間だった。
パッ!
車両内の照明がつき、床下からモーター音が響いてくる。停電から回復したのが誰にでもわかった。明るくなった車内で優美の気持ちが暗く沈む。対照的に脚を閉じて緊張していた女子たちからは明るさと、漏らしたのは星丘高校の河合さんだけ私は無事に帰れる、という空気が拡がった。運転手からの放送が入る。
「ただいま復旧いたしました。これより運行を再開いたします。長らくお待たせして、申し訳ありませんでした」
すぐに電車が動き出した。非日常から日常が再開し、次の駅が近づいてくる。優美は降りたい気持ちと、降りても用がない事実の間で迷った。おもらし前ならトイレに駆け込むために次のダイヤが2時間待ちでも降車したけれど、今は用が無い。用を足すことはできず、漏らしきっている。けれど、この車両から一刻も早く逃げたい気持ちも強い。そんな優美の迷いに志澄実と万凜は気づいていた。
「優美ちゃん、降りる?」
「河合センパイ、降りましょうか。次の電車、けっこう追いついて早く来るんじゃないかな?」
万凜が付け足す。
「というか、降りないと私が漏らします」
降りずにターミナル駅まで乗っても、あと10分程度だったけれど、逃げ出したい気持ちでいる優美に二人とも付き合ってくれる。電車が駅に停車したので三人で前方に歩き出した。
クチュ! クチュ! クチュ!
歩き出して、優美の靴が音を立てた。おもらしのおしっこが貯まったままの靴が鳴ってしまう。その音は大きくはないはずで電車のモーター音などに掻き消されるはずなのに、優美には身体を伝わって響いてきて、足が竦むほど恥ずかしい。そして、おしっこを靴から床に零してしまわないか心配になる。加えて車両の中を後方から前方まで歩くと、今まで遠目に見ていた生徒からも間近で見られている気がして顔から火が出そうになる。左右の座席から視線を感じる。おしっこをおもらしして大泣きした女子高生の退場、まるで卒業式の花道のように用意された道は、おもらしでつくった水たまりが勾配で流れた道でもあって、石見が拭いてくれていなかったら、今もピチャピチャと踏みしめて歩かなければいけなかったし、おもらしで汚したまま逃げるのか、自分で片付けろよ、と言われたかもしれない。その点、石見に感謝はある。その石見が今は敬礼で見送ってくれるのが余計なことはしないでほしい気持ちで、いっぱいになる。さらに前方へ行くほど学力の低い高校の生徒たちのゾーンになるので、星丘高校へ通う優美たちに反感もあって心ない言葉を聞こえる程度の小声で言ってきたりする。
「なんか匂いするよね。おしっこかな?」
「クスっ、なんか臭いね」
からかわれると優美は足が竦んで泣きそうになる。志澄実は優美の前を歩いてくれていて、万凜は後ろを守ってくれている。その万凜が背後から両肩を手のひらで抱いてくれているので前に進めた。一番前まで進むと運転手と石見、そして最底辺校である白尾女子学園の女子たちがいて、運転手は業務的に優美たちの運賃を精算し、石見は言わなくていいのにターミナル駅まで乗った場合と途中下車する場合の料金差額を教えてくれたりしていて、言わなくていいと思いつつも白女の生徒たちの言葉がひどいので逆に救いになる。
「星丘って頭いいのに、おもらしするんだ?」
「学校でも漏らしてるの?」
「わんわん泣いてたね。きゃはは!」
「河合さん、久しぶりぃ」
そして知り合いもいた。同じ小学校で同じ塾だった落合香里(おちあいかおり)という子で4年生までは優美と成績は変わらなかったのに5年生から学習についていけなくなり、今では大きな差がついていて、この2年間ばかり弓道試合で顔を合わせても会話しなかったのに、ニヤニヤとした嫌な笑顔で声をかけてきた。香里はとても長い髪をブロンドに染めていて、いい匂いがするので何か高級な香水も使っている感じだったし、学習面で周囲に勝てなくなったので自分の美しさを磨いている様子で顔はメイクもあって整っている。厭味にほくそ笑んでさえ、男子なら可愛いと感じたかもしれない。そして他の白女の生徒たちと同じにスカートを極端に短くしていて、とても長いブロンド髪の方が裾より長いので後ろから見ると何も穿いていないように見える。見せつけるだけあって足も細くてキレイだったし、優美のおしっこまみれになって筋が残っている足を楽しそうに見てくる。
「河合さん、大丈夫? おもらししちゃって着替えあるの? クスっ」
言ってくることは心配している風だけれど、からかっているのが実質だった。
「……」
早く降りたい優美は軽い会釈で通り過ぎようとしたけれど、まだ香里が言ってくる。
「せっかく星丘に入っても、おしっこ漏らすなんて幼稚園からやり直せば?」
「……」
優美は無視を決め込む。どう反論しても笑われるのが目に見えていた。香里が畳みかけてくる。
「いいアダ名があるよ。おもらしするから、モラミ。ユウミじゃなくてモラミちゃん」
「っ……」
母が期待をかけてつけてくれた名を侮辱され、優美が傷ついて泣きそうになると、万凜が囁いてくる。
「あれは人の言葉を話す猿です。分数の通分もできない生き物に何か言われても気にしなくていいですよ」
かなり痛烈な学力差を誇示する発言で香里がカッとなる。
「何か言った?! そこの一年!」
「長幼の序を持ち出す前に、7かける13は?」
「え………そ、そんなの九九にないし!」
「91です。九九になくても、7かける3は21、そこに7かける10の70を足せば、ごくごく簡単な暗算になります」
「うるさい! 頭良くても、おしっこ漏らすくせに! おもらし優美! おもらし優美! 言いふらしてやる!」
香里が興奮して騒ぎ出すと、他の白女の生徒たちも叫きだした。優美たちが電車を降りても、わざわざ車窓を開けて顔を出し、言い放ってくる。
「おしっこ垂れ!」
「おもらし高校生!」
「ちゃんとトイレいけ、メス犬!」
「アヘ顔でおもらしする変態!」
「ヨダレ垂れてガイ児みたいだった!」
電車が発車するまで、捨て台詞を言えるだけ言ってやる気になった女子たちが汚い言葉で優美を辱めてくる。
「…っ…っ…」
背中を向けてホームに立っている優美が肩を震わせ、また泣き出しそうになるとますます喜んだ。
「あ、また泣く! また泣くの?!」
「おもらし優美は高校生になっても、おもらし直りまちぇーん!」
「今日も漏らして、わんわん泣きまちゅー!」
「おしっこジャー! うわーん♪ 優美また漏らしたァ!」
小学生なみの野次が余計に優美の気持ちを苛み、涙が零れてしまう。
「っ…ぅぅ…」
「河合センパイ…」
万凜は怒りで顔が赤くなり、ホームから香里たちを睨みつけ何か痛烈なことを言い返そうとしている気配になったけれど、それを志澄実がやめさせる。
「万凜ちゃん、やめておきなさい」
「……はい…でも…」
「猿はからかうと、もっと騒ぐから」
「ですね」
万凜と志澄実は黙って睨むだけにするけれど、まだ白女の女子たちは窓から何か言っている。まさに猿の狂騒で、わざわざ窓枠から上半身を出して、耳を塞いで泣き出した優美に聞こえるように大声で叫ぶ。
「おもらし優美!!」
「おしっこ河合!!」
「お勉強できてもオムツが要るの!」
「ママぁ、ママぁ、電車でシーシーしちゃったの!」
「優美ちゃん、いくつでちゅかぁ?」
稚拙でレベルの低いからかいは悪意に満ちていて、学力というふるいでランク分けされ、価値の低い人間だとされてきた香里たちの上位者への怨念は無意識下で燃え上がっていた。まるで失言した政治家を自殺に追い込むまで叩き続けるように、失禁した優美を破滅させようと追い込んでくる。
「「「おもらし優美!!!」」」
「「「おしっこ河合!!!」」」
もともと語彙が乏しい上に、一番傷つきそうなわかりやすい言葉に集約されやすい失敗を優美がしたので、それを歌にし始めた。
「「「「「おもらし優美♪ おしっこ河合♪ おもらし優美♪ おしっこ河合♪」」」」」
電車の運転手がマイクで告げてくる。
「列車が発車します。窓から顔や手を出さないでください」
「「「「「おもらし優美♪ おしっこ河合♪ おもらし優美♪ おしっこ河合♪」」」」」
香里たちは注意されてもやめない。運転手が苛立った声で注意する。
「列車が出発できません。窓から顔や手を出さないでください!」
「「「「「おもらし優美♪ おしっこ河合♪ おもらし優美♪ おしっこ河合♪」」」」」
むしろ、電車が発車できないなら好都合とばかりに、ますます上半身を窓から出して大合唱する香里たちはスカートが短いので、背後から見るとパンツ丸出しで男子たちは目のやり場に困るし、まるで車窓に赤、黄、青と色々なショーツが展示されているような状態になっている。中にはTバックを穿いている子もいて、香里も大胆なデザインでお尻の大半が見える紺色のショーツを穿いていた。白尾女子学園の制服も紺色を基調としているので、よく似合っていて香里が叫ぶ度に扇情的に揺れる。
「「「「「おもらし優美♪ おしっこ河合♪ おもらし優美♪ おしっこ河合♪」」」」」
「危険ですから、窓から顔や手を出さないでください!! 列車が発車できません!」
運転手による三度目の注意の直後だった。石見が叫んでいる白女の生徒のパンツ丸出しになっているお尻を両手で掴むと車内に力づくで引き込み、怒鳴った。
「マナーは守れよ!!」
怒鳴ると同時に拳で女子の顔面を殴った。
ガッ!
女子相手なのに一欠片の遠慮もない鉄拳だった。さらに石見は別の女生徒のお尻を引き込み、また殴る。
「ダイヤを乱すな!! それ最低限のマナーだろ?!」
「な、何を言って…ひっ?!」
言われていることの意味はわからないけれど、さんざんに優美たちをからかったので同じ星丘高校の制服を着ている男子が怒ってくる状況は理解できなくもない。ただ、女子なので暴力はふるわれないはず、とくに男子は何もしてこない、と甘い期待をしていたのに石見の鉄拳は容赦なく強烈だった。二人目の生徒も顔面を殴られ、鼻血を出して気絶する。三人目も四人目も一撃だった。石見は弓道で鍛えてきたので膂力が強い。肩の筋肉も手首の筋肉も鉄道オタクに似合わない太さで、人を殴る訓練はしてこなかったけれど、その鉄拳は女子の顔の形を変えるほどの威力をもっていた。
「ただでさえ停電で遅延してるんだ!!」
「や、やめて! 顔は殴らないで!」
香里は引き込まれる前に友人たちが消えた異変に気づいて車内に戻り、顔面血まみれで倒れている友人たちと鬼の形相になっている石見を見て震え上がった。
「ごめんなさい! ごめんなさい! お願い、顔だけはやめて!」
香里は顔を両腕で守り、お尻を床に落として膝をあげ、脚をM字にして腹部も守った。その股間から、おしっこが漏れ出てくる。
シュー…
恐怖もあったし、香里もおもらし寸前というほどではなかったけれど、長くトイレを我慢していたので漏らし始めると大量になる。紺色のショーツは股布の部分が濡れて暗褐色に変色し、その濡れが拡がりつつ中央からは勢いよく噴き出した。
ショワァァァ…
せっかく美しく伸ばしているブロンド髪と一応は穿いていた極ミニの制服スカートもおもらしのおしっこで汚れ、香里は震えつつ謝り続ける。女子校なので、こんなときに守ってくれる男子はいない。そして石見は女子に一切の手加減をしないタイプだとわかったので、もう震えて謝るしかない。顔面を潰される、と思うと、怖くて怖くて、おしっこを漏らすだけで済まなかった。
ブっ…ブブっ…ブリブリブリ…
くぐもった音がして、おしっこと同時に大きな失禁もして、布地の少ないショーツを穿いているために、すぐに電車の床や自分の髪を汚した。
「遅延行為だけでなく車内汚染まで! もはや万死に値する!!」
「ひーーっ!! 嫌ぁぁ!!」
「石見先輩、そこまで!! そこまでっすよ!! もう十分です!!」
さすがに中森ら星丘高校の男子たちが止めに来た。まだ殴ろうとする石見を複数人で捕まえて押さえ、中森は香里の姿をスマートフォンで撮影する。
カシャ!
香里がビクリとして顔をあげた。こんな姿を撮られたことに対する抗議より恐怖が勝っている目で怯えている。中森は撮影という行為のわりに、ごく落ち着いた紳士的な声で香里に告げる。
「あんたもさ、しつこく河合さんをからかうからだろ。この写真は河合さんが無事に卒業するまでオレが管理しておく。あんたが変な噂を立てなきゃ卒業式のあとに消去してやるよ。でなきゃ、あんたもウンコ茶髪とか呼ばれるようになる」
「っ…」
「中森!! こいつには車内汚染と遅延の罪がある!! 離せ、離せよ、お前ら!」
まだ石見は怒っている。
「石見先輩、こいつに自分で清掃させますから、オレに任せてください」
中森は右手で香里の頭頂部をポンポンと優しめに叩いた。
「運転手さんにバケツと雑巾を借りて自分で片付けなよ。でないと、あの鉄オタ、あんたを殺しかねない」
「っ、か、片付ける! ちゃんと拭くから!」
「よしよし。じゃ、お互い今日のことは言いっこなしだ。それでいいか?」
「うん! うん!」
香里は這って運転手の方へ行く。運転手は流血沙汰になったので、とても困った顔をしていた。中森も香里の大小失禁より大きな問題があることは理解しているので石見に問う。
「で、石見先輩、こんな思いっきり殴って………この子たち、どうするんですか? というか、石見先輩の立場も」
問われた石見は急に冷静な顔になり、運転手に告げる。
「終点で鉄道警察を呼んでください」
「…は…はい…」
運転手が戸惑いつつ返答し、中森は驚く。
「先輩、自首するんすかっ?! もっと誤魔化すというか、もっとうまい手は…」
「は? 何を言ってるんだ、中森。オレは自首なんかしないぞ。列車の運行を妨害した卑劣な犯罪者を私人による現行犯逮捕で取り押さえただけだ」
「取り押さえたって……顔面、思いっきり…」
殴られた四人の女子は二人が気絶したまま、もう二人は意識があるけれど血だらけの顔面を押さえて呻き泣いている。香里以外にも失禁している子もいた。
「当然だ。相手は複数だったからな一人で取り押さえるには、こうしかなかった。オレは正当な制圧をしただけだ」
「……そうっすか。……まあ、先輩なら、そう言い通しそうっすね」
中森が自分の右手で自分の左肩を揉みつつ、運転手を見る。運転手も列車の運行という最大の使命を思い出し、運転席に戻った。香里は泣きながら床を拭き始めていて、この様子なら優美に何かしそうにないし、香里自身もこれから終点のターミナル駅まで床は清掃できても濡らした自分の衣服や髪は汚れたまま恥辱の時間を過ごすことになる。運転手が電車を動かす。
「出発します」
「発車おーらい!」
石見が嬉しそうに言い、ホームにいた志澄実と万凜も殴って欲しい人たちを殴ってくれたので敬愛を込めて敬礼で見送った。電車が走り去ると、急に静かになる。
「「………」」
「…ぅっ……ぅーっ…」
静かになったホームに優美の泣き声だけが響く。雨はあがっていてホームには屋根もあり、すぐそばに駅舎とトイレもあった。石見が言ったとおり築100年を超えた木造の古い古い駅舎で駅員はおらず、優美たち3人の他には誰もいない。
「…ぅーっ…ぅーっ…ひっく…」
「つらかったね。でも、石見くんが怒ってくれたから」
「すごいパンチでしたよ。マジ殴り」
「……ひっく……ううっ…」
ずっと背中を向けていた優美も誰かが香里たちを止めてくれた気配は感じていた。けれど、その前にさんざんに侮辱されて、車内の逃げられない空間からやっと解放されると思っていた気持ちをズタズタにされた。プライドも女心も地面に叩きつけられ香里たちに足踏みにされた。
「…ぐすっ……ううっ…」
ホームに立っていられず、しゃがみ込んで優美は泣き出した。しゃがんだ瞬間、膀胱が疼いて、おしっこが漏れてきた。しゃがんだことで腹部が圧迫されたのと、おもらしの後に着替えもできず下半身が冷えたことで再び3割ほど貯まっていた尿が漏れ出てきて、それを止めるはずの尿道括約筋はクタクタに疲れ果てていて無抵抗に垂れ流してしまっている。
ショー…シー…
勢いが無く弱々しい滝が優美のショーツから落ちて、乾いたホームのコンクリートに小さな水たまりをつくる。
「「………」」
しゃがみ込んだ優美を心配して自分たちもしゃがんだ志澄実と万凜が二度目のおもらしをしていることに気づいた。しゃがんだことで優美のスカートはめくれて下着が二人からも見えている。淡いブルーのショーツから、おしっこのおもらしにしては弱すぎる勢いでショロショロと滴っていた。
「……優美ちゃん、どうして…おしっこを、ここで…漏らすの…」
「河合センパイ……なんで2回も……おもらし……トイレ、すぐそこなのに…」
まるで、わざとトイレに行かず、おしっこをおもらしするのが快感だから漏らしているように見えて二人が問うと、優美は恥ずかしさの極みで、おしっこを止められない漏らしたままの姿で言い訳する。
「ううっ…出ちゃったの! ……うーぅっ…しゃがんだら漏れちゃったの! 止まんないのぉ!」
止めようとすると、肉離れした脚で走ると激痛なのと同じに尿道が痛くて力が入らない。何度も止めようとしたけれど痛いし、手で押さえて止めるのが苦しすぎるのは先刻に学んだので、もう最後まで出し切ってしまいたくて、どうせパンツも濡れているので、おもらしを続けている。しゃがんだことで地面に落ちたスカートの後ろが大きく濡れて、染みをつくっていた。
「「………」」
志澄実と万凜は何も言わないけれど、だらしなく着衣で放尿している姿をどう想われているか不安で優美は身震いする。志澄実と万凜は無茶なおしっこ我慢をしたことで、おしっこの穴が壊れてしまったのではないかと心配で優美のおもらしが続く股間を、ついついジーっと見ていてしまった。優美が漏らしたまま、真っ赤になっている顔を両手で隠す。その手からは自分のおしっこの匂いがした。
「私……わ…私…お願いだから二度もおもらししたの忘れてぇ……う、う、うええええん! うええええん! うぇえええーん!」
もう幼稚園児のように泣き出してしまって、あまりに可哀想なので志澄実と万凜は優しく背中を撫で続けた。
「いち」
「嫌っ…お願いっ…ぅううぅ…嫌っ…」
「にの」
「ぅうぅ…お願い、トイレまで……我慢させて…」
優美の涙が二人の手に降りかかってきた。
「さん! 優美ちゃん、力を抜いて、おもらししなさい!」
「河合センパイっ、ごめんなさい! おしっこしちゃってください!」
二人が同時に優美の手首を引く。必死に押さえていて疲れきっていた優美の腕力では二人に対抗できず、股間から指先が抜けてしまう。
「ううっ!」
それでも優美は高校生にもなって、おもらしするという自分を受け入れられず両脚を固く閉じ、最後の力で尿道を括約筋と内腿の筋肉で絞める。
「ううあっ…あはっん!」
膀胱が収縮して腹筋が息み、最後の力で抵抗している括約筋の門を攻めてくる。それは尿意というより電撃のような痛みで、尿道に電気を帯びた釘を内部から刺されているような痛みだった。痛くて、つらくて、もう我慢できない。喘ぎ声も本人の意志に関係なく漏れてしまい、まるで性交の快感に浸っているような声になった。
「あっはん! んうはっ!」
苦痛と快感が同時に襲ってくる。尿道には我慢による痛みの地獄、膀胱にはおもらしの快感の天国。気持ちいい、おしっこが膀胱から出て行く解放感、破裂しそうだった臓器が救われた心地、貯まりに貯まったおしっこを出す快感、あまりに気持ちよくて、優美の顔もあられもなく乱れて目を見開き、大きく口を開けて舌を突き出している。青ざめていた顔が快感と恥ずかしさで赤くなっていく。
「んあああっ! 漏れっんううう!」
唇と舌から唾液が糸を引いて粘って落ちる。それらは痴態のようにも見えて周囲で見ている男子たちは知らず知らずのうちに勃起しているほど、優美の姿は扇情的だった。凜として弓を構えたパンフレットの美少女が人間性の欠片も無く、ただ動物的な衝動に身を支配されている。
ジワっ…
堰を失った優美の尿道口から熱いおしっこが噴き出してきた。
シュワァァ…
もう止まらない、止めようがない。せめて下着に染み込む量で止めたいという優美の願いは虚しく、もう下着はグッショリと濡れきっていて少しも吸収してくれず、そしておしっこを止める手段も無かった。
ジュワアアアア!
おしっこの勢いが一気に増す。優美は絶頂しているように腰をクネクネと蠢かせた後、ピクピクとお尻の肉を震わせ、それからつま先立ちのまま硬直して漏らしていく。
ジャバジャバジャジャッジャ!
心と尿道が痛み、そこに加えて膀胱が解放される快感がお腹を登ってきて優美が喘ぐ。
「ふぁッ…ふああん! あぁあぁぁ…ハァ…ぁはぁぁぁ…」
泣き声のような喘ぎを漏らし、おしっこも漏らしている。内腿が温かく濡れて、温泉に浸かっているような奇妙な気持ちよさがあるけれど、おしっこおもらしを始めてしまった確かな感覚でもあって、感じたくなかった。
ピチャピチャピチャ…ビチョビチョ!
優美のスカートから小さな滝が伸び、電車の床を叩くと、すぐに水たまりをつくって、それが拡がる。脚にもおしっこの流れがからみ、腿をズブ濡れにして膝をくだり、ふくらはぎに複数の筋をつくると靴下に吸い込まれていく。優美の白い靴下が薄黄色に変色して濡れる。靴下で吸収しきれない量のおしっこが靴の中に貯まる感触を優美は足の指で感じて絶望した。
「ぅぅ……ひっく……ぐすっ……ひっく…」
もらした、全部もらしてしまった、おしっこのおもらしを高校の2年生にまでなって、してしまった、という深い絶望と激しい恥ずかしさで優美は涙が溢れて止まらない。生温かい敗北の感覚が股間の前からお尻まで拡がっていて、腿もふくらはぎも足首も情けない温かさに濡れている。見たくないのに見てしまうと、周囲の全員が優美に視線を送ってきている。見られた、おしっこのおもらしをしているところを、みんなに見られてしまった、同じ2年生の男子たちにも、先輩にも、そして年下の1年生たちにも、おしっこをおもらしする情けない女の子だと想われてる、と絶望した優美の腰から力が抜けて、おしっこの水たまりにお尻から落ちていく。
「万凜ちゃん、支えてあげて!」
「はいッ! …くっ…」
志澄実と万凜は腰が抜けた優美を支える。このままお尻から自分でつくった水たまりにビチャリと落ちてしまうと、さらにスカートがビチョビチョに濡れてしまって可哀想なので、二人は踏ん張って握っていた優美の手首を引き上げ、優美を立たせておく。おかげで水たまりには落ちなかったけれど、優美は両手をバンザイの形に挙げさせられ、晒し者のようにされてしまった。
「…うっ…ひっく……ひっく…ひーぅぅ…」
両手首を吊られた状態で優美は泣いている。膝がガクガクと震えて自分で立てない。バンザイ姿勢にされたせいでブラウスの裾があがって、おへそが露出されている。おへそもヒクヒクと泣いているように震えていて、やっと膀胱は楽になったけれど長く続いた尿意の我慢のために下腹部あたりが痛い。さらにブラウスの腋まわりは濃い汗染みができていて、左右とも手のひら二つ分ほども濡れている。股間を両手で押さえているときに流した腋汗だった。それが小麦色のブラウスを茶色に染めていて両腕を強制的に挙げさせられているので丸見えになっている。股間を押さえるために腋を閉じて流した冷や汗は大量で腋まわりを濡らした後はおもらしのように下へも染みを拡げていて裾まで達している。そして当然、おしっこの匂いと腋汗の臭気が周りに漂う。新鮮なおしっこのトウモロコシのような甘い香りと排泄物としての臭さ、弓道試合の緊張で湿った腋がおしっこ我慢の冷や汗を大量にかいた独特の匂いは、青臭い若さとツンとくる饐えたような肉の匂いだった。とてもとても恥ずかしい状態だったけれど、もう優美は混乱と絶望で状況のすべては感じていない。
「…ひーぅぅ…ひーぅぅ…」
ただ啜り泣くだけで何もできずにいた。涙を手で拭うことさえできない。泣き顔を晒して、鼻水も垂れ、失禁中に垂らしたヨダレも唇から顎にかけて汚している。顎先から涙と鼻水、唾液が混じった汁が糸を引いて滴っている。あまりに可哀想な晒し者の姿を見て他校生たちが囁く。
「あれってイジメ?」
「ありえるね」
「おもらししろって命令してたし」
ヒソヒソと囁き合いながらクスクスと笑ったりもされる。志澄実は不本意であったけれど、両手首を握ってバンザイさせていないと優美が崩れてしまうので吊ったままにする。おもらし直後のズブ濡れ状態で左右から同じ星丘高校の制服を着ている志澄実と万凜に吊られたままの優美を見せつけられて他校生たちは囁き続ける。
「トイレに行かせないとか小学生がやるイジメよね」
「星丘のキャプテンって鬼」
「あの子は河合さんだっけ。そういえば一発も的に当てられてなかったから制裁?」
「あんな制裁されたら、もう試合に顔出せないし、きっと辞めるよ、部活」
「ってか、学校を辞めたいかも」
「転校して、うちに来たり?」
「どこ逃げても県内だと噂がまわるね。おもらしさんの」
「それ見こしての制裁かな」
「鬼すぎ」
「にしても、おもらししたときの顔、アヘ顔だったよね」
「股だけじゃなくて、どうして腋もあんなに濡れてるの?」
「漏らす前に、あれだけプルプルしてれば汗もかくでしょ」
「けっこう匂うね」
「濡れ方もすごくて腋からも、おもらししたみたい」
「トリプルおもらし?」
「きゃははは! なにそれ」
声を出して笑われると、もう優美は羞恥心と絶望で気が狂いそうだった。
「トリプルおもらしがダメなら、三角失禁は?」
「サイン・コサイン・タンジェントじゃないから」
「おもらし・コもらし・腋もらし?」
「コもらし、って何?」
「大きい方」
「うわぁ……」
「あの子、いつまであのまま晒されてるんだろ」
「私だったら死にたくなるわぁ」
「超泣いてるし」
せめて顔を隠して泣きたいのに優美は両手首を握られていて、下半身には力が入らず、どうにもできない。そんな状態が数分も続いて、万凜が苦しむ。
「くうっ…私、もう限界です。肩が、ハァハァ」
「そうね、どうしよう」
万凜と志澄実は人間の体重を半分ずつ支えているので、かなり疲労してきた。けれど、手を離すと優美が水たまりに座り込むのは確実で、それは避けてあげたい。いっそ座席に座らせてあげたいものの、どの座席も高校生たちが座っているし、スカートと下着が尿で濡れているので座席を汚してしまう。立たせておくしかない。なのに優美は自力で立てないし、力の入らない人間を効率よく支える術を万凜も志澄実も知らなかった。男子に抱いてもらうわけにもいかないし、抱いた人の服まで濡れてしまう。結局、しばらくして万凜と志澄実は汗染みで濡れた優美の腋に自分たちの肩を入れて、左右から抱き支えた。
「「ハァ……ハァ……これで…なんとか…」」
二人とも腕の筋力が限界近くて手がプルプルと震えている。優美といえば、ただ泣いているだけだった。
「…ひっ…ひっく……ぐすっ…」
おもらししたのが教室や体育館なら、すぐに保健室へ連れて行ってもらえて、その場から解放されるのに、今は電車の中。しかも次の駅に到着する見込みも遠い停電で完全停車している車内なので、気持ちの逃げ場も身体の逃げ場もない。さらには平日の電車なら、おもらしを見られても、まったくの他人が多いはずなのに練習試合の後という特殊な条件なので、顔見知り程度には知っている人が多い。そして引率教員は試合後に会議をして自家用車で帰るので車両内は全員が高校生という状況だった。
「…ひっく……ううっ…うーうっ…」
おしっこは漏らしきったけれど、涙は流し続けている。ポニーテールなので泣き顔を髪が隠してくれたりもしない。穴があったら入りたいし、いっそ死にたいくらい恥ずかしかった。漏らした尿が冷たくなっていて、ベッタリと下着や靴下が気持ち悪く肌に貼りついているし、靴の中はチャプチャプと貯まっていて足の指先はヌルヌルする。
「…ぐすっ…ぐすっ…ひっく…」
「「…………」」
志澄実と万凜は慰めの言葉に困った。大丈夫と言ってあげてもつらいだろうし、仕方なかったね、と言うのも気休めにすぎない。車内は静かで、それが重苦しい。
「……ひっく…」
だんだん優美の嗚咽が減ってきた。泣くだけ泣いて、もう涙も枯れてきた様子で両脚に力も入ってくる。すべての体重を二人に支えてもらっていた状態から半分ほどは自分で立てるようになってきた。
「…ひっく…」
けれど、おもらしした事実は変わらない。下半身は冷たく濡れているし、足元には水たまりがあって冷たい事実を優美の胸に突き付けてくる。もう目立って優美を笑う他校生はいないけれど、みんな心の中で笑っている気がするし、きっと忘れてくれない。一生の恥じ晒しになってしまった。他校生たちの氏名はお互いに記憶していないけれど、星丘高校には女子弓道部員は3名しかいないし2年生は優美だけ、そして練習試合では参加者の名簿が配られているので、知ろうと思えば他校生たちも高校2年生にもなって、おしっこを電車内で漏らしたのが河合優美という女子だと知ることができる。なにより1年生たちに見られたのが恥ずかしい。優美は学校のパンフレットやホームページにも写真が載った新入生にとっては有名人なのに、おしっこを漏らすような先輩だと思われ、きっと来年の新入生にも笑い話として言われるし、これから何年も同じパンフレットを学校が使い続ける限り、この弓をカッコよく構えてる先輩はおしっこをおもらしした人、と語り継がれるに違いない。
「……ぐすっ……もうヤダ…」
さらに状況が悪化していく。優美のおもらしがつくった水たまりが、ゆっくり流れていた。電車が下り坂の途中で停車しているために車両全体にも勾配があって後方から前方へ車内の中央を流れていく。細い流れになって、ゆっくりゆっくり優美のおしっこが車内を進む。それに他校生たちも気づいていて自分たちのカバンや弓道具入れが濡れて汚されないように移動させたり、立っていた生徒は踏まないように避けている。
「…ひっく…」
モーセが海を割ったという伝承のように、おもらしの流れが人の海を割っていき、誰もが優美のおしっこを避けて後方から前方まで真っ直ぐ見通せるようになった。おしっこでカバンや靴を汚されたくない気持ちはわかるけれど、優美は自分自身が汚物のように避けられている感覚がして悲しさが増した。本当に消えてしまいたいほど、恥ずかしい。この場から逃げ出したい。なのに、どこにも行けない。どこにも逃げられない。このまま小便を漏らした実に情けない姿を晒して立っていることしかできず、また泣きそうになる。けれど、再び泣けば余計に恥ずかしいということもわかるので涙を耐える。みじめな気持ちが胸の中を駆け回り、靴の中に貯まった尿の感触がすごく気持ち悪くなってきて脱ぎ捨てたいけれど、それもできない。腿や膝は乾いてきたものの、くっきりと筋が残っていて、おもらししたのがよくわかるし、スカートは前が不格好に染みをつくったまま、きっとお尻の方も濡れている気がする。そして下着の冷たく濡れた感触は常に股間にあって離れてくれない。おもらししたのが自分だと、みじめさの地獄に落としてくる。それほど、つらいのに電車内の高校生で唯一、優美のおもらしに気づいていなかった石見は停電による緊急停車という事態に熱中していて、運転席後方にいる石見の足元まで、優美のおしっこが迫ってきたのにも気づかない。このままでは石見の靴底が濡れてしまうのに、周囲にいる白尾女子学園の生徒たちは見ているだけで何も言わない。じわじわと優美のおしっこの流れが石見の靴に達した。
ピチャ…
さすがに足元が濡れてくると、運転席と運転手の緊急業務ばかりに集中していた石見も異変に気づき、下を見る。
「ん? どうして、濡れてるんだ?」
石見が誰にともなく問い、白女の生徒は答えない。もともと石見も答えなど期待していなかった。むしろ、自分で答えを探したい性格だった。
「まさか、雨漏りか?! いや、それは無いだろう。いくら年式の古い車台でも、きちんと整備するし、塗装の塗り直しもある。いやいや、けど、赤字路線だからなぁ」
わざわざ、しゃがんで床に膝を着き、濡れ方を観察し後方から流れてきていることに気づく。
「後ろからか。雨漏りなら、けっこうな量だな。停電の原因か? いや、そもそも電気で動く電車の天井は雨漏り対策は万全だろう。でないと、致命的だ。まさに、感電死する。っ! いかん! みんな、これに触れるな!!」
そう叫ぶと石見も水たまりから飛び退く。
「ビビったァ! 靴底がゴム製でよかった。もし電気が流れていたらヤバかった。電流計でもあれば、計れるのに。ともかく、雨漏りの箇所を確かめよう」
ブツブツと常時、一人言を大きな声で続けながら石見は流れを辿って後方に歩いてくる。
「この液体、ちょっと色があるなぁ。ただの雨じゃないのか。黄色っぽい、塗料か、断熱材が溶け出してる? いや、この車体のカラーは群青色だから塗料じゃないな。いやいや、ラッピング塗装したときの残留物とか? なら、匂いがあるかな」
石見は車両の中央あたりで再び膝をつき、顔を近づけて優美のおしっこを嗅いだ。
「う~ん、雨の匂いかなァ、水っぽい。オイル臭くはないな」
「「クッププ…」」
周囲にいる他校生たちは笑いそうになるのを必死に我慢する。石見の思考は一人言のおかげで優美のおもらしと同じほど全部漏れ出している。たしかに、おもらしの場面で運転席ばかり見ていたなら、雨漏りなどのトラブルだと疑う論理もわかるし、感電を恐れるのも判断としては間違っていない。ただ、真相を知っていると、あまりに滑稽で可笑しかった。
「とにかく発生源を確かめよう」
また立ち上がった石見が後方にくる。ずっと下を見ながら歩いてきた石見の視線が優美の靴に注がれる。優美の靴は通学用の革靴なので内部にはおしっこを貯めているけれど、外側はもう乾いて濡れていない。石見には、たまたま優美が濡れたところにいたと見えた。
「ここで止まってるな。天井はどうだろう?」
石見が車内の天井を見るけれど、何も異常はない。次に視線を優美に向けてきてスカートが濡れているのに気づいた。そして泣き顔を伏せている優美に何の遠慮もなしに質問してくる。
「お、河合さん、服が濡れてるね。どういう風に濡れたか、教えてくれないか?」
「っ…」
「この液体が、どこから来たか知ってる?」
もう他校生たちは失笑を禁じ得なくなり、笑い出す。それは大笑いで車両が揺れるほどだった。優美の顔が嗚咽で引き攣る。
「ひっ……ひっく……………ひっく! うっ! うっ! うわあああああん! うわあああああん! 嫌ぁああああ! ひううううう! ううううん! あああああんん!」
すでにズタズタに傷ついていた優美の心を粉々に粉砕するような石見の言動で、もう嗚咽が胸から爆発してきて優美は大声で泣き出した。
「え? え? なんで泣くの?! どうしたの?! 河合さん? なんで? オレ、悪いこと言った?」
「うううああああん!! ひ嫌あぁあああん!!」
泣くことしかできない優美の代わりに志澄実が外の雨より冷たい目で言う。
「石見くん……あなたって人は………この状況で、わからない?」
「え、いや、漏電して皮膚がビリってなった? かなり痛い?」
「違う!! 優美ちゃんは漏らしてしまったの!」
「漏らしたって、電気を?」
「おしっこよ! バカ!!」
「おしっこを漏らした? いやいや、ご冗談を。河合さんは高校生で、おもらしなんかする歳じゃないだろ? 幼稚園児じゃあるまいし」
「本当におもらしなの! しちゃったのよ! 仕方なく!」
「ありえないだろ、それマジで。高校生だぞ? おもらしする年齢か?」
石見と志澄実の会話は、剥き出しの心臓をチェーンソーで剔って首から脳まで切り裂くように優美を傷つけた。優良校に通う高校生としてのプライドも、女の子としての羞恥心も失血死するほど血の涙を流している。あまりに大泣きする様子で、さすがに石見も気づいてきた。
「……本当に、河合さんはおしっこを漏らしたのか?」
「そうよ!」
「そうか……おもらしか……だから濡れて…、あ、えっと、すまん! すまない! ごめん、河合さん、オレは察しが悪くてさ、ごめん」
「悪すぎなのよ!」
「ホントすまない! でも、おもらししたのは仕方ない! 河合さんは泣かなくていいよ、悪くない。悪いのは車両、いや、車両も悪くない。この車両も今では貴重なものなんだ。あ、悪いのはトイレがないことだ。まあ、これには構造の問題もあるんだけど、全国でトイレがない路線は全部で…」
やっと女子を傷つけたことに気づいて謝る石見も動揺して余計に一人言が激しくなり、全国にあるトイレがない路線や時間帯について語り始めた。
「誰も聴いてないから、あっち行って! バカ!」
志澄実は泣いている優美の顔を胸に抱いて隠してやりながら石見を追い払った。追われた石見は少し考え、運転席後方に戻り管制所と連絡をとっていた運転手に声をかける。
「報告します。車内清掃事案が発生しているようです。停電対応で、お忙しいでしょうし、自分がやります。雑巾とかありませんか?」
「あ、すみませんね。お願いします」
車内清掃という単語を知っている石見に運転手はバケツと雑巾を渡してくれた。受け取った石見は床を拭き始める。車両前方から後方へと続く流れを再びさかのぼりながら、しっかりと拭き取っていく。雑巾の吸収力を超えてくるとバケツへ絞って落とす。
ギュッ…ビチャビチャ!
両手が優美のおしっこにまみれているけれど、気にしない。また拭き続ける。他人の小便を拭くなんて嫌な作業なのに石見が丁寧にやっているので他校の女子たちは少し石見に好感を覚えたけれど、一人言によってそれは掻き消える。
「こういう作業は、やっぱり光栄だな。自分が鉄道運行再開の一翼を担ってる。巨大なシステムの中の小さな歯車として、その役目を果たしてるわけだ。たとえ、汚いオシッコでも、いや、汚いというのは河合さんに失礼か。オシッコは無菌だし、これがゲロだと、より汚い作業になるけど、そこに責任感をもつのが鉄道マンだろう。さすがにサリンだと対応不能だけど、ああいうのにも対応できるよう防護服を一式おくのもいいかもしれないな。こんなローカル線でサリンテロやる団体も無いか。やっぱりゲロか、おもらしが定番になるかな。トイレの無い車両の宿命だな」
着実に床を清掃して石見は再び優美の足元まで来た。志澄実と万凜は微妙な表情で足元にいる石見を見下ろす。学年トップの成績で弓道も優秀な上にハンサムおまけに長身、しかも嫌がらずに小便を片付けてくれている。いつまでも車内の床に自分のおしっこが拡がっているのは優美としても胸が裂けそうなほど苦しかったので、それをバケツに治めてくれたのは正直ありがたい。もう少しだけ石見の性格や言動が違っていたら、優美は恥ずかしさの極みにありながらも恋に落ちたかもしれない。けれど、さきほどの言動も清掃の動機も痛すぎて目を合わせたくなかった。代わりに志澄実が礼を言っておく。
「うん、石見くん、ご苦労様。もう優美ちゃんに聞こえるところで色々言うのはやめて前の方にいて。そのバケツもって」
「了解しました。本日のご乗車ありがとうございます」
石見は濡れた手で敬礼して戻っていった。志澄実は抱いている優美の頭や背中を撫でる。もう顔を周囲に見せたくない優美は静かに抱かれ、時間を過ごした。
「……ぐすっ……」
だんだんスカートも乾いてきたし、下着もビチョ濡れだった状態からジメジメと湿っているくらいになってくれている。ただ靴の中だけは、おしっこが貯まったままで気持ち悪い。足の指がふやけている気がする。
「………ぐすっ…」
「はい、鼻かんで」
志澄実がポケットティッシュをくれた。
「落ち着いてきた?」
「……はい…」
もう感情も出尽くしたのか、号泣して疲れ果てたのか、ズキズキと痛んだ優美の心も今はボンヤリとした落ち着きの中にある。
「……」
けれど、おしっこをおもらししたばかりでなく高校生にもなって幼児のように大泣きしてしまった。その上、そんな姿を自校の生徒だけでなく他校生にまで見られてしまって、恥ずかしくて生きていける気がしない。靴の中の気持ち悪いおしっこの濡れが電車内でおもらしした女子高生という烙印を優美に焼き付けてくる。身体に変な感じがする、変な違和感がある。足の裏から股間までピリピリとしたようなキーンとしたような、自分の身体が自分のものでないような違和感だった。
「……夢なら、醒めて…」
でも現実だった。おしっこまみれになった部分が乾いてきても恥ずかしい。その恥ずかしさが違和感になって背筋や胸まで疼いてくる。他の高校生たちは黙ってスマートフォンをいじったりして時間潰ししているけれど、その頭の中には優美のおもらしの姿が記憶されているはずで、きっと家に帰ったら家族と笑いながら話すに決まってる。明日の学校でも朝一番の話題で笑われる。一番賢いはずの星丘高校の生徒がおしっこ漏らして泣いてたよ、と。不意に優美は男子部員の一人に視線を送った。同じ2年生で同じクラスの中森という男子で仲は悪くないし、からかうような性格でもない。今も目が合ったけれど、さりげなくそらしてくれた。中森には頼んでおきたい、お願いだから私のおもらしをクラスで話さないで、と。そんな優美の気持ちの動きを察したのか、志澄実が問うてくれる。
「どうかした? 優美ちゃん」
「……はい……」
優美は小声で志澄実の耳元に言う。
「中森くんに私が……失敗したこと、クラスで話さないでほしい。絶対って……言っておきたいけど……どう言えばいいか……」
おもらしを失敗と言い換えたけれど、話しているだけで鼻の奥がツンと痛くなって、また目が潤む。泣きそうになった優美の肩を撫でた志澄実はしばらく考え、大きな声で言うことにした。
「部員! 傾聴!」
弓道部のキャプテンとしての声だった。
「本日の練習試合、良い結果を残せた人もふるわなかった人も、また明日から頑張りましょう! また列車のトラブルで足止めを受け、悲しい失敗をした人もいますが、我が部に他人の失敗を笑うような人はいません! いたら退部です! いわんや学校で部外者に話すような者は弓の的にしますから、心得ておくよう!」
「「「…はい…」」」
電車内なので遠慮がちに万凜と他2人の一年生が返事したけれど、志澄実は満足しない。
「声が小さい! 全員、返事は?!」
「「「「「はい!」」」」」
今度は優美以外の部員全員が返事してくれた。志澄実は満足そうに頷き、次は車内全体に響く声を張り上げる。
「みなさま、さきほどは当校の生徒がご迷惑をおかけしました! ご迷惑の上に願いだてして、まことに恐縮ですが、どうかご容赦いただき、また何卒ご他言なさいませぬよう深く深くお願い申し上げます! 粗相をした生徒はとても傷ついており、これ以上に心の傷を負っては外に出られなくなります。どうか、その点にご配慮いただき今日のこと口の端にのぼらせぬようお頼みします!」
「「「「「……………」」」」」
誰も志澄実に返事をしないけれど、もともと返答を期待していなかったので頭をさげて締めくくる。
「以上です! どうかお願いします!」
「お願いします!」
意外にも前方にいた石見が叫んでくれた。自分が副キャプテンという立場なことを忘れていないからなのか、列車の安全運行の一部だと感じているのかはわからないけれど、志澄実としては頼もしかった。優美も泣きそうな顔で頭をさげる。
「……ぐすっ……お願いします…」
泣かないでおこうと思うのに、また涙が一筋ずつ両目から零れている。それを志澄実と万凜が左右から拭ってくれる。
「ほら、いつまでもメソメソ泣かないの」
「はいっ…ぐすっ…」
大声で志澄実が言ってくれたおかげで優美の心は半分だけ温かくなったけれど、あとの半分は濡れたままの下着と靴下からくる感触で、おもらしした子、粗相をした生徒は私なのだと思い知らされ、いつまでもいつまでも恥ずかしさが疼いている。恥ずかしさで逃げ出したいのに、ずっと閉じ込められたまま、着替えもできず立ち続けるしかない。とてもつらい時間が続いていく。
「…………」
だんだん日が傾き、車内が暗くなってきた。万凜がスマートフォンで母親に遅くなる理由を送信しつつ言う。
「夏原キャプテン、この停電、いつまで続くんでしょうね」
「さあ、どうかな。あの鉄オタに訊く気にもなれないし、運転手さんだってわからないんじゃないかな。……はぁ…」
志澄実は答えながら強めの尿意を自覚したので少し気持ちが動揺した。まだ大丈夫ではあるけれど、あと一時間くらいが限界かもしれない。万凜が冗談めいた声で言う。
「私、けっこう我慢してるんですよ、おトイレ」
「「………」」
優美と志澄実は相づちに困って黙る。万凜は冗談めかしつつも立ったまま両脚を閉じて片手で股間を押さえた。その押さえ方は冗談でなく尿意が切迫している押さえ方だった。
「あ~……つらいです。このままだと、私もおもらしするかも」
「あはは…、実は私も、きつくなってる」
志澄実が認めると、万凜は大きめの声で言う。
「黒高のトイレでする気になれなくて、そのまま電車に乗った人、女子のうちには多いと思いますよ。あと何時間も閉じ込められたら、どうなるかな?」
「「「「「……………」」」」」
他校生の女子たち数名に緊張が走る。よく見ると5人ほどの女子は座席に座って両脚を閉じている。かなり強めに閉じている子もいて、その瞳に緊張と動揺があった。うち一人は脚を組んで座っているけれど、膝を組むだけでなく足首も左右を絡めて二重に組んでいる。その様子からして限界は近そうだったし、優美が笑われているとき一切笑わずにいた気がする。他の子たちも、あまり余裕は無さそうだった。このままトイレの無い車両に閉じ込められるとなると、優美に起こった事態が自分にも起こるかもしれないという恐怖が拡がる。
「……」
逆に優美は希望を感じた。もしも幾人か優美に続いて、おもらししてくれたら優美のことを噂にしたり笑ったりする人はグッと減る。志澄実の演説でも減ってはいると感じるけれど、人の口に戸は立てられない、という故事は知っている。でも、おもらしが優美だけでなければ、むしろ今日のことは全員で秘密にしようと誓ってくれるかもしれない。たとえ、噂が流れても6人7人と漏らした中の、たまたま一番最初が優美だっただけで印象はかなり薄くなる。噂の内容も星丘高校2年の河合優美が電車内でおもらしした、という特定された個人名から、停電した車両に閉じ込められた女子高生7人がおもらしした、という不特定多数になってくれる。そんな希望を優美がもった瞬間だった。
パッ!
車両内の照明がつき、床下からモーター音が響いてくる。停電から回復したのが誰にでもわかった。明るくなった車内で優美の気持ちが暗く沈む。対照的に脚を閉じて緊張していた女子たちからは明るさと、漏らしたのは星丘高校の河合さんだけ私は無事に帰れる、という空気が拡がった。運転手からの放送が入る。
「ただいま復旧いたしました。これより運行を再開いたします。長らくお待たせして、申し訳ありませんでした」
すぐに電車が動き出した。非日常から日常が再開し、次の駅が近づいてくる。優美は降りたい気持ちと、降りても用がない事実の間で迷った。おもらし前ならトイレに駆け込むために次のダイヤが2時間待ちでも降車したけれど、今は用が無い。用を足すことはできず、漏らしきっている。けれど、この車両から一刻も早く逃げたい気持ちも強い。そんな優美の迷いに志澄実と万凜は気づいていた。
「優美ちゃん、降りる?」
「河合センパイ、降りましょうか。次の電車、けっこう追いついて早く来るんじゃないかな?」
万凜が付け足す。
「というか、降りないと私が漏らします」
降りずにターミナル駅まで乗っても、あと10分程度だったけれど、逃げ出したい気持ちでいる優美に二人とも付き合ってくれる。電車が駅に停車したので三人で前方に歩き出した。
クチュ! クチュ! クチュ!
歩き出して、優美の靴が音を立てた。おもらしのおしっこが貯まったままの靴が鳴ってしまう。その音は大きくはないはずで電車のモーター音などに掻き消されるはずなのに、優美には身体を伝わって響いてきて、足が竦むほど恥ずかしい。そして、おしっこを靴から床に零してしまわないか心配になる。加えて車両の中を後方から前方まで歩くと、今まで遠目に見ていた生徒からも間近で見られている気がして顔から火が出そうになる。左右の座席から視線を感じる。おしっこをおもらしして大泣きした女子高生の退場、まるで卒業式の花道のように用意された道は、おもらしでつくった水たまりが勾配で流れた道でもあって、石見が拭いてくれていなかったら、今もピチャピチャと踏みしめて歩かなければいけなかったし、おもらしで汚したまま逃げるのか、自分で片付けろよ、と言われたかもしれない。その点、石見に感謝はある。その石見が今は敬礼で見送ってくれるのが余計なことはしないでほしい気持ちで、いっぱいになる。さらに前方へ行くほど学力の低い高校の生徒たちのゾーンになるので、星丘高校へ通う優美たちに反感もあって心ない言葉を聞こえる程度の小声で言ってきたりする。
「なんか匂いするよね。おしっこかな?」
「クスっ、なんか臭いね」
からかわれると優美は足が竦んで泣きそうになる。志澄実は優美の前を歩いてくれていて、万凜は後ろを守ってくれている。その万凜が背後から両肩を手のひらで抱いてくれているので前に進めた。一番前まで進むと運転手と石見、そして最底辺校である白尾女子学園の女子たちがいて、運転手は業務的に優美たちの運賃を精算し、石見は言わなくていいのにターミナル駅まで乗った場合と途中下車する場合の料金差額を教えてくれたりしていて、言わなくていいと思いつつも白女の生徒たちの言葉がひどいので逆に救いになる。
「星丘って頭いいのに、おもらしするんだ?」
「学校でも漏らしてるの?」
「わんわん泣いてたね。きゃはは!」
「河合さん、久しぶりぃ」
そして知り合いもいた。同じ小学校で同じ塾だった落合香里(おちあいかおり)という子で4年生までは優美と成績は変わらなかったのに5年生から学習についていけなくなり、今では大きな差がついていて、この2年間ばかり弓道試合で顔を合わせても会話しなかったのに、ニヤニヤとした嫌な笑顔で声をかけてきた。香里はとても長い髪をブロンドに染めていて、いい匂いがするので何か高級な香水も使っている感じだったし、学習面で周囲に勝てなくなったので自分の美しさを磨いている様子で顔はメイクもあって整っている。厭味にほくそ笑んでさえ、男子なら可愛いと感じたかもしれない。そして他の白女の生徒たちと同じにスカートを極端に短くしていて、とても長いブロンド髪の方が裾より長いので後ろから見ると何も穿いていないように見える。見せつけるだけあって足も細くてキレイだったし、優美のおしっこまみれになって筋が残っている足を楽しそうに見てくる。
「河合さん、大丈夫? おもらししちゃって着替えあるの? クスっ」
言ってくることは心配している風だけれど、からかっているのが実質だった。
「……」
早く降りたい優美は軽い会釈で通り過ぎようとしたけれど、まだ香里が言ってくる。
「せっかく星丘に入っても、おしっこ漏らすなんて幼稚園からやり直せば?」
「……」
優美は無視を決め込む。どう反論しても笑われるのが目に見えていた。香里が畳みかけてくる。
「いいアダ名があるよ。おもらしするから、モラミ。ユウミじゃなくてモラミちゃん」
「っ……」
母が期待をかけてつけてくれた名を侮辱され、優美が傷ついて泣きそうになると、万凜が囁いてくる。
「あれは人の言葉を話す猿です。分数の通分もできない生き物に何か言われても気にしなくていいですよ」
かなり痛烈な学力差を誇示する発言で香里がカッとなる。
「何か言った?! そこの一年!」
「長幼の序を持ち出す前に、7かける13は?」
「え………そ、そんなの九九にないし!」
「91です。九九になくても、7かける3は21、そこに7かける10の70を足せば、ごくごく簡単な暗算になります」
「うるさい! 頭良くても、おしっこ漏らすくせに! おもらし優美! おもらし優美! 言いふらしてやる!」
香里が興奮して騒ぎ出すと、他の白女の生徒たちも叫きだした。優美たちが電車を降りても、わざわざ車窓を開けて顔を出し、言い放ってくる。
「おしっこ垂れ!」
「おもらし高校生!」
「ちゃんとトイレいけ、メス犬!」
「アヘ顔でおもらしする変態!」
「ヨダレ垂れてガイ児みたいだった!」
電車が発車するまで、捨て台詞を言えるだけ言ってやる気になった女子たちが汚い言葉で優美を辱めてくる。
「…っ…っ…」
背中を向けてホームに立っている優美が肩を震わせ、また泣き出しそうになるとますます喜んだ。
「あ、また泣く! また泣くの?!」
「おもらし優美は高校生になっても、おもらし直りまちぇーん!」
「今日も漏らして、わんわん泣きまちゅー!」
「おしっこジャー! うわーん♪ 優美また漏らしたァ!」
小学生なみの野次が余計に優美の気持ちを苛み、涙が零れてしまう。
「っ…ぅぅ…」
「河合センパイ…」
万凜は怒りで顔が赤くなり、ホームから香里たちを睨みつけ何か痛烈なことを言い返そうとしている気配になったけれど、それを志澄実がやめさせる。
「万凜ちゃん、やめておきなさい」
「……はい…でも…」
「猿はからかうと、もっと騒ぐから」
「ですね」
万凜と志澄実は黙って睨むだけにするけれど、まだ白女の女子たちは窓から何か言っている。まさに猿の狂騒で、わざわざ窓枠から上半身を出して、耳を塞いで泣き出した優美に聞こえるように大声で叫ぶ。
「おもらし優美!!」
「おしっこ河合!!」
「お勉強できてもオムツが要るの!」
「ママぁ、ママぁ、電車でシーシーしちゃったの!」
「優美ちゃん、いくつでちゅかぁ?」
稚拙でレベルの低いからかいは悪意に満ちていて、学力というふるいでランク分けされ、価値の低い人間だとされてきた香里たちの上位者への怨念は無意識下で燃え上がっていた。まるで失言した政治家を自殺に追い込むまで叩き続けるように、失禁した優美を破滅させようと追い込んでくる。
「「「おもらし優美!!!」」」
「「「おしっこ河合!!!」」」
もともと語彙が乏しい上に、一番傷つきそうなわかりやすい言葉に集約されやすい失敗を優美がしたので、それを歌にし始めた。
「「「「「おもらし優美♪ おしっこ河合♪ おもらし優美♪ おしっこ河合♪」」」」」
電車の運転手がマイクで告げてくる。
「列車が発車します。窓から顔や手を出さないでください」
「「「「「おもらし優美♪ おしっこ河合♪ おもらし優美♪ おしっこ河合♪」」」」」
香里たちは注意されてもやめない。運転手が苛立った声で注意する。
「列車が出発できません。窓から顔や手を出さないでください!」
「「「「「おもらし優美♪ おしっこ河合♪ おもらし優美♪ おしっこ河合♪」」」」」
むしろ、電車が発車できないなら好都合とばかりに、ますます上半身を窓から出して大合唱する香里たちはスカートが短いので、背後から見るとパンツ丸出しで男子たちは目のやり場に困るし、まるで車窓に赤、黄、青と色々なショーツが展示されているような状態になっている。中にはTバックを穿いている子もいて、香里も大胆なデザインでお尻の大半が見える紺色のショーツを穿いていた。白尾女子学園の制服も紺色を基調としているので、よく似合っていて香里が叫ぶ度に扇情的に揺れる。
「「「「「おもらし優美♪ おしっこ河合♪ おもらし優美♪ おしっこ河合♪」」」」」
「危険ですから、窓から顔や手を出さないでください!! 列車が発車できません!」
運転手による三度目の注意の直後だった。石見が叫んでいる白女の生徒のパンツ丸出しになっているお尻を両手で掴むと車内に力づくで引き込み、怒鳴った。
「マナーは守れよ!!」
怒鳴ると同時に拳で女子の顔面を殴った。
ガッ!
女子相手なのに一欠片の遠慮もない鉄拳だった。さらに石見は別の女生徒のお尻を引き込み、また殴る。
「ダイヤを乱すな!! それ最低限のマナーだろ?!」
「な、何を言って…ひっ?!」
言われていることの意味はわからないけれど、さんざんに優美たちをからかったので同じ星丘高校の制服を着ている男子が怒ってくる状況は理解できなくもない。ただ、女子なので暴力はふるわれないはず、とくに男子は何もしてこない、と甘い期待をしていたのに石見の鉄拳は容赦なく強烈だった。二人目の生徒も顔面を殴られ、鼻血を出して気絶する。三人目も四人目も一撃だった。石見は弓道で鍛えてきたので膂力が強い。肩の筋肉も手首の筋肉も鉄道オタクに似合わない太さで、人を殴る訓練はしてこなかったけれど、その鉄拳は女子の顔の形を変えるほどの威力をもっていた。
「ただでさえ停電で遅延してるんだ!!」
「や、やめて! 顔は殴らないで!」
香里は引き込まれる前に友人たちが消えた異変に気づいて車内に戻り、顔面血まみれで倒れている友人たちと鬼の形相になっている石見を見て震え上がった。
「ごめんなさい! ごめんなさい! お願い、顔だけはやめて!」
香里は顔を両腕で守り、お尻を床に落として膝をあげ、脚をM字にして腹部も守った。その股間から、おしっこが漏れ出てくる。
シュー…
恐怖もあったし、香里もおもらし寸前というほどではなかったけれど、長くトイレを我慢していたので漏らし始めると大量になる。紺色のショーツは股布の部分が濡れて暗褐色に変色し、その濡れが拡がりつつ中央からは勢いよく噴き出した。
ショワァァァ…
せっかく美しく伸ばしているブロンド髪と一応は穿いていた極ミニの制服スカートもおもらしのおしっこで汚れ、香里は震えつつ謝り続ける。女子校なので、こんなときに守ってくれる男子はいない。そして石見は女子に一切の手加減をしないタイプだとわかったので、もう震えて謝るしかない。顔面を潰される、と思うと、怖くて怖くて、おしっこを漏らすだけで済まなかった。
ブっ…ブブっ…ブリブリブリ…
くぐもった音がして、おしっこと同時に大きな失禁もして、布地の少ないショーツを穿いているために、すぐに電車の床や自分の髪を汚した。
「遅延行為だけでなく車内汚染まで! もはや万死に値する!!」
「ひーーっ!! 嫌ぁぁ!!」
「石見先輩、そこまで!! そこまでっすよ!! もう十分です!!」
さすがに中森ら星丘高校の男子たちが止めに来た。まだ殴ろうとする石見を複数人で捕まえて押さえ、中森は香里の姿をスマートフォンで撮影する。
カシャ!
香里がビクリとして顔をあげた。こんな姿を撮られたことに対する抗議より恐怖が勝っている目で怯えている。中森は撮影という行為のわりに、ごく落ち着いた紳士的な声で香里に告げる。
「あんたもさ、しつこく河合さんをからかうからだろ。この写真は河合さんが無事に卒業するまでオレが管理しておく。あんたが変な噂を立てなきゃ卒業式のあとに消去してやるよ。でなきゃ、あんたもウンコ茶髪とか呼ばれるようになる」
「っ…」
「中森!! こいつには車内汚染と遅延の罪がある!! 離せ、離せよ、お前ら!」
まだ石見は怒っている。
「石見先輩、こいつに自分で清掃させますから、オレに任せてください」
中森は右手で香里の頭頂部をポンポンと優しめに叩いた。
「運転手さんにバケツと雑巾を借りて自分で片付けなよ。でないと、あの鉄オタ、あんたを殺しかねない」
「っ、か、片付ける! ちゃんと拭くから!」
「よしよし。じゃ、お互い今日のことは言いっこなしだ。それでいいか?」
「うん! うん!」
香里は這って運転手の方へ行く。運転手は流血沙汰になったので、とても困った顔をしていた。中森も香里の大小失禁より大きな問題があることは理解しているので石見に問う。
「で、石見先輩、こんな思いっきり殴って………この子たち、どうするんですか? というか、石見先輩の立場も」
問われた石見は急に冷静な顔になり、運転手に告げる。
「終点で鉄道警察を呼んでください」
「…は…はい…」
運転手が戸惑いつつ返答し、中森は驚く。
「先輩、自首するんすかっ?! もっと誤魔化すというか、もっとうまい手は…」
「は? 何を言ってるんだ、中森。オレは自首なんかしないぞ。列車の運行を妨害した卑劣な犯罪者を私人による現行犯逮捕で取り押さえただけだ」
「取り押さえたって……顔面、思いっきり…」
殴られた四人の女子は二人が気絶したまま、もう二人は意識があるけれど血だらけの顔面を押さえて呻き泣いている。香里以外にも失禁している子もいた。
「当然だ。相手は複数だったからな一人で取り押さえるには、こうしかなかった。オレは正当な制圧をしただけだ」
「……そうっすか。……まあ、先輩なら、そう言い通しそうっすね」
中森が自分の右手で自分の左肩を揉みつつ、運転手を見る。運転手も列車の運行という最大の使命を思い出し、運転席に戻った。香里は泣きながら床を拭き始めていて、この様子なら優美に何かしそうにないし、香里自身もこれから終点のターミナル駅まで床は清掃できても濡らした自分の衣服や髪は汚れたまま恥辱の時間を過ごすことになる。運転手が電車を動かす。
「出発します」
「発車おーらい!」
石見が嬉しそうに言い、ホームにいた志澄実と万凜も殴って欲しい人たちを殴ってくれたので敬愛を込めて敬礼で見送った。電車が走り去ると、急に静かになる。
「「………」」
「…ぅっ……ぅーっ…」
静かになったホームに優美の泣き声だけが響く。雨はあがっていてホームには屋根もあり、すぐそばに駅舎とトイレもあった。石見が言ったとおり築100年を超えた木造の古い古い駅舎で駅員はおらず、優美たち3人の他には誰もいない。
「…ぅーっ…ぅーっ…ひっく…」
「つらかったね。でも、石見くんが怒ってくれたから」
「すごいパンチでしたよ。マジ殴り」
「……ひっく……ううっ…」
ずっと背中を向けていた優美も誰かが香里たちを止めてくれた気配は感じていた。けれど、その前にさんざんに侮辱されて、車内の逃げられない空間からやっと解放されると思っていた気持ちをズタズタにされた。プライドも女心も地面に叩きつけられ香里たちに足踏みにされた。
「…ぐすっ……ううっ…」
ホームに立っていられず、しゃがみ込んで優美は泣き出した。しゃがんだ瞬間、膀胱が疼いて、おしっこが漏れてきた。しゃがんだことで腹部が圧迫されたのと、おもらしの後に着替えもできず下半身が冷えたことで再び3割ほど貯まっていた尿が漏れ出てきて、それを止めるはずの尿道括約筋はクタクタに疲れ果てていて無抵抗に垂れ流してしまっている。
ショー…シー…
勢いが無く弱々しい滝が優美のショーツから落ちて、乾いたホームのコンクリートに小さな水たまりをつくる。
「「………」」
しゃがみ込んだ優美を心配して自分たちもしゃがんだ志澄実と万凜が二度目のおもらしをしていることに気づいた。しゃがんだことで優美のスカートはめくれて下着が二人からも見えている。淡いブルーのショーツから、おしっこのおもらしにしては弱すぎる勢いでショロショロと滴っていた。
「……優美ちゃん、どうして…おしっこを、ここで…漏らすの…」
「河合センパイ……なんで2回も……おもらし……トイレ、すぐそこなのに…」
まるで、わざとトイレに行かず、おしっこをおもらしするのが快感だから漏らしているように見えて二人が問うと、優美は恥ずかしさの極みで、おしっこを止められない漏らしたままの姿で言い訳する。
「ううっ…出ちゃったの! ……うーぅっ…しゃがんだら漏れちゃったの! 止まんないのぉ!」
止めようとすると、肉離れした脚で走ると激痛なのと同じに尿道が痛くて力が入らない。何度も止めようとしたけれど痛いし、手で押さえて止めるのが苦しすぎるのは先刻に学んだので、もう最後まで出し切ってしまいたくて、どうせパンツも濡れているので、おもらしを続けている。しゃがんだことで地面に落ちたスカートの後ろが大きく濡れて、染みをつくっていた。
「「………」」
志澄実と万凜は何も言わないけれど、だらしなく着衣で放尿している姿をどう想われているか不安で優美は身震いする。志澄実と万凜は無茶なおしっこ我慢をしたことで、おしっこの穴が壊れてしまったのではないかと心配で優美のおもらしが続く股間を、ついついジーっと見ていてしまった。優美が漏らしたまま、真っ赤になっている顔を両手で隠す。その手からは自分のおしっこの匂いがした。
「私……わ…私…お願いだから二度もおもらししたの忘れてぇ……う、う、うええええん! うええええん! うぇえええーん!」
もう幼稚園児のように泣き出してしまって、あまりに可哀想なので志澄実と万凜は優しく背中を撫で続けた。
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