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河合優美のおもらし 電車で高校2年生のとき
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高校2年生の河合優美(かわいゆうみ)は電車内で身震いしていた。
ガタン!
走行中の電車が大きく揺れたせいで、つり革を持たずに立っていた優美はバランスを崩してしまい、よろめいて足首を軽くひねっていた。
「ぅっ……っ~ぅ…」
優美は呻いて、とっさに股間を押さえそうになった右手を唇に押しあてて声を漏らすのを防いだけれど、おしっこは漏らしてしまう。
ショワ…
下着の中に生温かい感触がして優美は息を飲んで驚く。
「っ?!」
やっぱり唇ではなく股間を手で押さえればよかったと後悔しながら必死に両脚を閉じる。
「……ぅ…ぅ…」
とまって、とまって、お願い、とまって、おしっこ出ないで、おもらしなんて絶対やだ、優美の祈りが通じたのか、最悪の事態だけは避けられたようで足元に水たまりをつくったりはしなかった。
「…ハァ…ハァ…」
でも、下着が冷たくなってくる。生温かさと冷たさの混じった貼りついた気持ち悪さは、おしっこを少量でも漏らしてしまったことを本人に教えてくれている。幸い制服のスカートは無事だったし、脚も濡れていない。ほんの少しチビってしまっただけで済んでいた。スカートは小麦色なので濡れると変色して目立ってしまうし丈は県内の高校で一番短い膝上5センチが標準だった。そして学力も一番高い私立高校なので校則指導は厳しくないけれど、もともとの丈が短い上、品行方正な生徒が多く丈を縮めて太腿を露出する女生徒は数名しか校内にいない。この丈に決まったのも5年ほど前の生徒会と教師会の話し合いによる合意で決定されていて、生徒の自主性を重んじる校風だった。ただデザイナーに学校が発注したために着心地よりもデザイン性が重視されていて、濡れて変色するのは欠点だったし、夏服のブラウスまで同じ小麦色なので汗染みができる。今は夏服に移行したばかりの5月で少し寒いくらいなので汗の心配はないけれど、冷や汗と何より、おしっこが心配だった。こんな小麦色の制服でおもらしなどしてしまえば茶色く大きな染みができて不格好すぎる。しかも、デザインの可愛らしさと県内トップの高校なので周囲からは憧れの制服と見られているし、優美たち生徒も誇りに思っている。そんな制服でおしっこを漏らしてしまうなど、ありえない醜態だった。
「…ハァ…」
「大丈夫ですか? 河合センパイ」
「大丈夫? 優美ちゃん?」
そばにいた後輩と先輩が心配してくれる。同じ弓道部で練習試合の帰りなので同行中だった。日曜日の中途半端な午後の時間帯、田舎のローカル線は1両しかない編成で乗客はすべて試合に参加した県内の高校生たちで座席は埋まり、立っている生徒も多いけれど混雑というほどではなくて、車両の後方にいる優美たちから前方の運転席まで見渡せる程度だった。そして車両にトイレは無い。さきほど停車した駅で、いっそ降車して駅のトイレを使おうかと考えたけれど、一度降りると次は2時間待ち、しかも車窓から見えたホームのトイレは小さくて汚かった。そもそもホームに屋根もない、改札もない、ただのコンクリートの台座に時刻表と駅名を書いた看板が建てられ、トイレも仮設トイレ同然の一人しか入れない男女共用の和式トイレで、車窓から眺めてもその汚さが気持ち悪いくらいだった。さらに降車するとワンマン運転なので運転手に電車賃を支払う方式のため余分に交通費が要るし、屋根のないホームで雨も降り出したのに2時間も待つことになる。でも、もう次の駅にも屋根がなくても2時間待ちでも絶対に降りよう、おもらしするよりマシ、と優美は心の中で決めて、後輩と先輩に笑顔で答える。
「大丈夫です」
「でも、河合センパイ、足をひねったんじゃ?」
「あ、うん。まあ、平気」
つい平気と優美は言ったけれど、実は痛くなってきている。ただ、それ以上に膀胱の疼きが強くて、それどころではなかった。気を抜くと今にも失禁してしまいそうだった。
「…ハァ…」
「河合センパイ、これ持ってください。どうぞ」
つり革を後輩が譲ってくれる。そのつり革は他より低い位置にあるので正直ありがたい。
「ありがと、マリちゃん」
「いえ、顔色よくないですよ。そんなに痛みますか?」
後輩の鶴房万凜(つるふさまりん)が心配そうにしてくれるし、先輩の夏原志澄実(なつはらしすみ)も優美の足首を見つめてくる。
「くじいたの?」
「ちょっとだけ。でも、平気です。あと、私、用事を思い出したので次の駅で降りますね」
「用事って、このへんは何もないよ?」
志澄実はポニーテールにしている髪を左右に揺らして車窓の外を見る。外には田んぼと山しかない。コンビニさえ無い。優美もポニーテールにしている髪を揺らして否定する。
「いえ、まあ、いろいろ、あるんです」
「ふ~ん……」
納得していないけれど干渉しない志澄実は鼻を鳴らしただけだったのに、万凜は気にしてくる。
「降りて、どうするんですか? 本当に何もない地区ですよ。ね、石見(いしみ)副キャプ?」
問われた男子が答える。
「次の免松高(ましこ)駅も完全な無人駅だが、木造の駅舎は築100年を超える歴史有るもので、非常に貴重だ。よく映画のロケにも使われている。この雨の中、それはそれでいい雰囲気になる。オレも降りようかな。一眼レフを持ってくればよかった」
「「「………」」」
鉄オタに話しかけるんじゃなかった、と三人とも思った。部員は11人で女子は優美たち3人だけ、そして石見は3年生で学業の成績も学年トップな上、弓道の腕前もよくて、しかもハンサムという三拍子そろっているものの、鉄道のことになると勝手に喋り続けるという難点があり、普段からも空気の読めない人物なので女子の志澄実がキャプテンを務め、石見は副キャプテンだった。
「オレは運転席を見てくる」
「はいはい、どーぞ。でも他校生とモメないでよ」
石見の背中に志澄実が続けて言う。
「あいかわらず空気読めないっていうか……はぁぁ…」
車両内は高校ごとに集まっていて、しかも形成された習慣で学力の高い高校の生徒が車両後方、前方へいくほど底辺校という意味のない序列があった。誰もが意味がないと感じていても毎回そういう風に移動しているので逆らう生徒はいない。なのに石見は一人で運転席まで歩いていった。
「石見副キャプの空気読まない力、すごいですよね」
万凜が言った。彼女もポニーテールにしている。入学時には髪をおろしていたけれど、弓道部に入ると優美も志澄実もポニーテールだったので同調していたし、他校生も女子はポニーテールにするか、短くしている。それは弓の弦を引く都合で髪が邪魔になるからだった。同じ髪型で同じ制服の三人の違いといえば、志澄実はホットケーキのような美しい小麦色の肌で、対して万凜は色白、優美は中間色というくらいで身長も近い。優美が言う。
「石見先輩、白女(はくじょ)に邪魔そうにされてるのに……」
白尾女子(はくおじょし)学園という私立校の女子たちに石見は冷たい目で見られているけれど、熱い目で運転席の機器類と運転手の挙動を見つめているので気づいていない。志澄実がタメ息をつく。
「はぁ……石見くんの行動も、ある意味で恒例だから」
万凜が問う。
「白女と、うちの高校、仲が悪いんですか?」
問われた志澄実が人指し指を自分の唇にあてた。
「しっ、あんまり大きな声でハクジョって言わない。とくに私たち星丘(ほしおか)高校は目をつけられやすいから」
そう言いながら志澄実は万凜の耳元に唇を近づけてから囁く。
「うちは学力で県内トップでしょ。で、ハクジョは私立の底辺校なだけではなくて、全国からも知的な障碍のある女子高校生が入学してくる女子校。障碍児教育の世界では有名な高校らしくて発達障碍のある人にもいい教育をするらしいよ。けど、そのせいで普通科にも学力的に底辺の子が集まるようになって、実質的には普通科も発達障碍気味の子も多いって。でも、私立だけあって親がお金持ちのパターンもある。なんか見た感じで、わからない?」
「そういえば…」
万凜が前方にいる女子たちを見る。その視線は相手に気づかれないように観察する女子らしい視線だった。白女の制服は紺色の可愛らしい高価そうなデザインでスカート丈は長いのが標準とされている様子なのに、かなり短く改造している子も多い。一番短い生徒は上着のサマーセーターにスカートが隠れてしまい、一瞬穿いていないようにさえ見える。それでいて育ちの良い風もあって、だらしなく電車の床に座ったりはしておらず逆に見栄えを気にしている子が多い。持っているカバンやスマートフォンもデコレーションされていて、なんとなく学習ではないところに気持ちがいっているのだとわかった。そしてトップ高の優美たちとはお互いに真偽不確かな噂が出回り、曰く白女の生徒は半数が九九を言えないだとか、自分の名前以外の漢字は書けない、などがあり逆に星丘の方へは勉強中毒ばかりで、男子も握力は10キロしか無くてペンしか持たないだとか、女子は化粧も知らず髪の毛も親に結ってもらうけれど百人一首を丸暗記していたり19かける19までの九九が言えるとか、お互いを極端視していた。
「実際には、そこそこの子もいるし、こっちだって百人一首を丸暗記してるのは数人、まあ中には日本全国の鉄道を路線だけじゃなくて車両まで丸暗記してる変人もいるし、向こうにも似たような子はいて、ここだけの話、石見くんだって頭いい系の発達障碍って気がするよ。向こうにも石見くんの親友の鉄女がいて鉄道用語だけでシリトリするらしいよ、ただ学習面には一切の興味をもたないから記憶力がいいのに成績は底辺とか、そういう極端な子が多い」
さらに志澄実が付け足す。
「で、ハクジョって呼び方は悪意が無くても、昔は知的障碍者のことを白痴って言ったの。白尾は地名にすぎないけど、ようするにカブるから影でみんなが言うようになったの」
「そうですか……いかにも、な子たちですね。試合中もメイクしたりしていて見苦しかったですし」
「いかにもエンコーとか、やってそうって? その逆で頭の悪い子たちを心配した親が田舎の女子校に入れてるわけだから、見た目ほど火遊びしてないし、うちの方が共学だから彼氏持ち率は高いくらいじゃないかな」
「へぇ……」
万凜は興味をもって聴いていたけれど、優美は切羽詰まっていたし、知っている話だったので耳に入れず、ただただ尿意と戦っていた。もう漏れそうで一度チビってしまった尿道が疼くし、膀胱が熱い。涼しい顔をつくっているけれど、手のひらと腋に汗がベッタリと浮いていた。そして、つり革を持つ手に力を入れて体重の半分近くを支えるようにしている。そうやって挫いた方の足を浮かせて両脚を閉じていないと次に電車が揺れたとき、おもらしするかもしれないほど膀胱が弾けそうだった。トイレには朝から行けていない。それというのも練習試合は毎回同じ黒住(くろすみ)高校で行われるけれど、ローカル線の果てにあるような田舎高校で、屋外トイレは壊れているし、他校生が使っていいことに指定されている体育館のトイレも汚い上に和式ばかりだった。そんな黒高に毎回の試合で行くのは女子たちに不評だったけれど、田舎だけあって弓道場が広く、遠距離競技の的場も常設されている都合があって変更される予定はない。
「…ハァ…」
震えそうな唇から優美が熱い吐息を漏らすと、万凜がクスクスと笑った。
「クスっ…失礼ですけど、河合センパイ、なんだか、おもらしされたみたいですよ?」
「っ?! そ、そんなことない! 何言うの? この歳でおもらしなんかするわけないよ! マリちゃん、変なこと言わないで!」
「あ、ごめんなさい。そんな真っ赤になって気にすると、思わなくてホント、ごめんなさい」
万凜に謝られて、激しく動揺していた優美はおしっこで湿らせてしまった下着のことを言われたのではなくて、冷や汗で濡らしてしまったブラウスの腋まわりのことを言われたのだと気づいた。スカートと同じ小麦色のブラウスは濡れると色が濃くなるので、それが恥ずかしい女生徒は強く気にするし、汗取りパットをあてている子さえいた。逆に入学したばかりの一年生の中では、おもらしとそれを呼んだりして、教えてあげたり、からかったりするのが流行ってきていて、万凜は軽い気持ちで言ったけれど、優美にとっては涙が滲むほど動揺することだったので、顔が真っ赤になっている。
「………ぅぅ…」
しかも激しく動揺したので膀胱の中で、おしっこが暴れる。
「っ…」
もう漏れる、ここで漏らしてしまう、ここで漏らしたら、私はどうなるの、と優美は考えた。おしっこが溢れ出してきて下着を濡らし、すぐに脚につたってくる。つたうくらいで済まずにジャージャーと派手に着衣まま放尿してしまったら、きっと小麦色のスカートには茶色い大きな染みが前にもお尻にもできてしまう。いっそ、おもらしする瞬間だけスカートをあげたら染みはつくらずに済むけれど、パンツ丸出しでおもらしする自分の姿は死ぬほど恥ずかしい。男子たちにまでパンツを見せて、その股間からジョボジョボおしっこを漏らすくらいなら死にたい。
「っ…」
おもらしをさけるため今すぐ急いでスカートに手を入れて下着を脱いでしゃがめば、スカートもショーツも濡らさずに済む。けれど、電車内でいきなり、おしっこを始めた女子高生をみんながどう思うか、想像するだけで怖いし、そんな子がいたら変態だと思う。いっそ、おもらしする子の方がマシだけど、おもらしだって絶対にしたくない。けれど、もう膀胱が限界、とにかく次の駅まで我慢、おもらしは嫌、でも、もう力が尽きて、このまま漏らしてしまうかもしれないと思うと、うっかり涙を一粒零してしまった。その涙を見て万凜が深く謝る。
「ぁ………汗染みのこと、そんなに気にされてました? ホント、すみません、ごめんなさい。どうか、許してください、もう言いません」
「ぐすっ……いいから、もう黙ってて」
実はとても気にしている。優美がまだ1年生で新入部員だった頃、学校理事会が新しい入学案内のパンフレットやホームページで使う写真を撮るためにプロのカメラマンを校内に巡らせていて、たまたま弓道場で練習中だった優美を望遠で撮影していた。そのとき優美は小麦色の夏制服姿で弓と矢を構えていた。本来、弓道は専用の和袴で行うのが基本だったけれど、まだ優美には発注したものの届いていなかったので制服で練習していて、ちょうど夕日が差し込む加減で優美の肌や小麦色の制服が一部は金色に見える写りとなり、弓を引いて矢を頬にあてた姿も凛と美しく撮影されて本人も本当に自分なのかなと想うほど美少女に印刷された。おかげで次の1年生である万凜たちが入学してきたときは、わざわざ弓道場まで優美を見に来る1年生もいたほどで、ちょっとしたアイドル扱いをされて困惑したし、いい写りばかりでなくて習い始めたばかりの弓を引く緊張で腋に汗をかいていて、それが制服に染みているのも小さく写っていた。よく見ないとわからないけれど、一瞬を切り取った写真が固定化されて県内の中学校にもネット上にも出回っていると想うと恥ずかしかった。どちらかといえば、あがり症で弓道も練習では命中させられるのに試合では外してしまう優美は、あまり目立ちたくなかったし学校のアイドルに相応しいのは小麦色の制服が本当によく似合う志澄実だと想っている。そんなことを思い出しているうちに、万凜は重ねて謝っていた。
「……すみません…ごめんなさい…」
「はいはい、そろそろ仲直りしようね」
二人の間を取り持つように志澄実が交互にポンポンと後輩たちの頭を叩いた。万凜はそれで慰められたけれど、優美の方はわずかな衝撃でも与えてほしくない。ポンポンと頭を撫でるように叩かれただけなのに、頭頂部からの衝撃が膀胱にまで響く。
「っ…」
漏らす、もう漏らしてしまう、あと数分、あとほんの少しなんだからお願い、と優美は頭を撫でられながら震えた。
「優美ちゃん、よしよし。汗なんて生理現象だから気にしないの。よしよし。…あれ?」
急に車内の照明が消えた。まだ日は高いので、それほど車内は暗くならないけれど、電車の床下からするモーター音まで消えた。そして、駅でもないのにブレーキをかけている。そのブレーキはガクガクと車両全体が揺れるほどの急ブレーキで、下り坂の途中で電車は完全に停車してしまった。運転手が車内放送を流してくる。
「ただいま、架線からの電気が途絶えております。おそらくは停電かと思われます。しばらく、お待ちください」
「っ…」
優美は悲鳴をあげたい気持ちだったけれど、急ブレーキの振動に耐えた直後で呼吸さえできないほど、おしっこを我慢することに集中していた。代わりのように石見が前方で叫んでいる。
「おおっ! で、どうするんですかっ? 停電の原因は? やっぱり変電設備? それとも架線に鳥獣が? 倒木って可能性もありますね。あとはトラックやクレーン車に切断されたか。で、今、この放送はバッテリーで流してるんですね!」
「………」
運転手は困った顔になっているけれど、優美の方が深刻に困っている。次の駅には駅舎があるという情報を石見がくれていたのでトイレが充実していることも期待したのに、停車してしまっては、どうにもならない。ドアを開けてもらって降車しようにも山を下っている途中で左右はコンクリート壁だけ、その上は山林だった。
「…ハァ……ぅぅ…」
いよいよ優美は苦しそうな声を漏らした。両手でつり革を持ちブラ下がるようにして両脚を閉じている。その姿勢の不自然さで、足を挫いただけではないと志澄実と万凜が気づく。
「優美ちゃん?」
「河合センパイ、……もしかして、おトイレを我慢されてますか?」
万凜が気を利かせて小声で耳元に問うてくれた。普段なら嘘はつかないところだけれど、今はチビってしまい下着が濡れている。おもらししそうで気も動転している優美は無意味な否定をする。
「…っ…違う……平気……なんでもない…」
「「………」」
本人は否定したけれど、二人とも気づいた。恥ずかしがって涙目になっているし、両脚の閉じ方は明らかにおしっこを我慢している姿で膝が震えている。両手でつり革を持つのも電車の揺れがない停車状態なら不要なことで、しかもさきほど恥ずかしがっていたと思った腋の汗染みは逆に左右とも晒しているし、その汗染みは大きくなっている。車内の気温は夏服では寒いくらいなのに汗を流すとすれば、冷や汗だろうと察しがついた。冷や汗特有の匂いもするし、夏ほど制汗スプレーを使う時期ではないので練習試合の後ということもあって優美の腋からは桃の葉に似た臭気がした。
「……優美ちゃん……」
「夏原キャプテン、どうしましょう? 河合センパイの様子からして、すごくつらそうです。もう限界なのかも……」
「…ハァっ……ハァっ……」
優美は顔を伏せて首を横に振っている。否定しても解決しないのに、もう理性を失っているようだった。いよいよ脚の閉じ方は明白になってピッタリと内腿を合わせて、やや前屈みになって膀胱をかばい、息づかいも荒い、その様子を見ているうちに優美は両足ともつま先立ちになった。前屈みの姿勢もさらに傾き、少しでも膀胱に圧力がかからないようにしている。プルプルと下半身の力はすべて尿道を閉めることに使っていて、もう体重のほとんどは両手でつり革にブラ下がっている。両腋の冷や汗はますます溢れて、万凜が袖口から覗くと優美の腋肌には汗の玉がいくつもできて、くっついては流れていく。流れの一部はブラウスに吸収されず、ぽろぽろとウエストの肌まで落ちてきてスカートに染みをつくっていた。もう完全に、おもらし寸前という様子にしか見えない。
「…優美ちゃん……困ったわね」
車内は停車しているので騒音が無くて声が響きやすく、志澄実が小声で問いかけてみる。
「おトイレを我慢してるの? 優美ちゃん、恥ずかしがらずに正直に答えて。助けを考えてあげるから」
「っ…ハァっ……ぐすっ…はい…」
半泣きの声で優美は認めた。認めると救いを求めるような涙目で志澄実を見ている。
「そっか………うん、私も我慢してるよ。黒高のトイレ、ちょっと使う気になれないからね」
「あ、実は私もです」
志澄実と万凜も慰めになるかと思って言ったけれど、その様子からして余裕があった。たいして、もう優美には余裕など皆無だったし、限界を超えつつある。
「…ハァ……ぅぅ…」
「「………」」
志澄実と万凜は周囲を見る。車両にトイレはないし、隠れる場所もない。石見に問い合わせても、運転手に頼んでも、いい返事は期待できない予感がした。
「はぁぁぅ…」
とうとう優美は片手で股間を押さえた。もう手で直接に押さえないと漏れるくらい尿意が差し迫っていて、女子としてとても恥ずかしい格好なのはわかっていても必死に股間を押さえた。そんなポーズを取ったので周囲の男子部員たちも気づくし、他校生にも一目瞭然だった。男子は遠慮して黙っているけれど、他校生の女子の中にはヒソヒソと話して笑い出す生徒もいて優美は耳まで真っ赤になっている。
「……ぅ~っ…」
つり革を持っている方の手が痺れてきて力が入らないし、優美は股間を片手ではなくて両手で押さえたくて手を離すと志澄実と万凜が支えてくれた。
「…ハァっ……ハァっ……まだ、動かないの? ……電車……ぅぅ…」
「どうなのかな……」
志澄実は車両前方を見てみるけれど、石見が興奮して運転手に話しかけているだけで事態は好転しそうにない。志澄実に鉄道の知識はないものの、車両のトラブルでないなら電気が送られてくるしか解決策は無いだろうし、こんな危険そうな場所で乗客を降ろすこともない気がする。他校の女子が小声で同輩に語る。
「あの子、漏らしそうだよ」
「顔が必死すぎ、クスクス」
小声なのに車両が静かなので三人にも聞こえてきた。優美の切羽詰まった様子に車内の高校生たちは注目してしまい、響く音は優美の苦しそうな息づかいと雨が屋根を叩く音、そして石見のマニアックな発言だけだった。志澄実が助けてやりたくて考えを巡らしてみる。そして、同じ部の男子が水筒を持っているのに視線をやった。
「………」
優美ちゃんのオシッコを水筒に入れさせてなんて田島くんも嫌に決まってるかな……誰か空のペットボトルでも持ってないかな、と志澄実が考えている様子に田島も察した。
「夏原、これ使ってもいいぞ。どうせ、古いし。もう捨てるから」
「うん、ありがとう、ごめんね、田島くん」
たとえ古くても卒業までは使うつもりだったろう水筒を志澄実は受け取り優美に問う。
「漏らしてしまう前に、これにさせてもらう?」
「…ぅぅ……ぅぅ…」
優美は小さく首を横に振った。もう本当に限界のようで近くにいる志澄実と万凜には両手で押さえている優美のスカートの股間部分が少し濡れて変色してきてしまっているのがわかった。もう手を離した瞬間に失禁してしまい、きっと下着を脱ぐ時間も無い。同じ女子として下着を脱ぐのに時間がかかるのもわかるし、ここで脱ぎたくない気持ちも理解できる。そして何より、もう間に合わず、ここで優美はおしっこをおもらしするしかない状態にまで詰んでしまったと悟った。
「「………」」
「ぅぅ…ハっ…ハっ…」
優美は強く股間を押さえて身震いする。おしっこが限界を超えて貯まってしまった膀胱が本人の意志に関係なく排泄する反射を起こしていて、次々と優美の尿道におしっこを送ってくる。その尿道も括約筋が限界を超えてしまって疲れ果て、もう力が入らない。むしろ、膀胱が収縮する反射に合わせて力が抜けて拡がってしまうし、その反射にともなって腹筋まで優美の意志を無視して息んでくる。
プシッ!
優美の身体に音が響いた。膀胱から高圧で送られてきた尿が尿道から溢れようとする音で、おもらしが始まろうとしている。
「うあぁあぁ! …ひぅぅ…」
呻いた優美がガクガクと身震いした。優美を両側から支えている志澄実と万凜には背筋をそらせて悶える優美の身体が排泄反射に負けたのだと感じた。おしっこが膀胱から出てくると、その解放感が強い快感となる。このまま排泄したい、おもらしでもいいから解放されたいと優美の脳内の一部が訴えるけれど、同じ脳内の別の部分で恥ずかしいという気持ちを司っているところが絶対にダメ、と戒めてくる。
「うううっくぅぅ…ハァハァ…」
優美は排泄反射に耐えきった。股間を押さえている指先で出口をしっかり塞いでいる。右手の人指し指と中指でスカートと下着の上から、おしっこの出口を全力で押さえていて、さらに左手の指先も重ねて押さえ、噴き出しそうなおしっこの水圧を押さえつけ、耐えている。ただ、どうしてもスカートと下着を間に挟んでいる分だけ、にじみ漏れてしまう。亀裂の入った水道管に布を巻いて手で握っても少しずつ少しずつ水が滲み出るように、おもらしが続き、スカートの変色している部分が数ミリずつ拡がっていく。膀胱はほんの少量でも排泄させてもらうと蕩けそうな解放の快感を脳へ送ってきて優美を誘惑してくる。このまま全部おしっこを出してしまおうよ、と誘ってくる。尿道は悲鳴をあげていて膀胱から高圧で尿が流し込まれてくるのに優美の指先が下着の生地で無理矢理に押さえつけて止めてしまう。おかげで尿道が破裂しそうなほど膨らみ、指1本なら入りそうなほど拡張されてしまいキリキリと激痛を発している。
「うううっ…ハァ…くううっ…ふううう…」
膀胱が排泄反射の運動を起こす度に優美は指先の力で封じ込め、ほんのわずかな時間だけ反射運動の波がおさまってくれて休息があるけれど、その休息の時間もどんどん短くなってきていて、排泄衝動が短い間隔で次々と襲ってくる。襲ってくる度に、より強い衝動、より高い水圧、より痛い苦悶になって優美を攻めている。
「うううっ! ハァ…、ううううっ!! ハァ、うううううッ!!」
おもらししたくない、こんな場所で、しかも男子も他校生もいるのに、そして優美にも県内トップの高校に通っているというプライドもあったし、女の子としての羞恥心もある。母親が名付けてくれた優美という名前は、優秀で美しい子に育ってほしい、という願いが込められていて、その期待に応えて勉強を頑張って受験に成功したし、入学案内のパンフレットにも載って星丘高校の顔になったことを母はとても喜んでくれていた。なのに、おしっこをおもらしなんかしたら、すべてが砕け散る。そんな想いで優美は尿意と戦い続け、押さえ込んでいた。
「河合センパイ……それ以上、我慢すると……」
「優美ちゃん、もういいから力を抜いて、仕方ないよ」
おもらしの心配より二人とも優美の身体が心配になってきた。両手で股間を押さえ始めたときは恥ずかしさで顔を真っ赤にしていたのに、今は血の気が引いたような白い顔色で唇も青い。蒼白と言っていい顔色だったし、目の焦点もおかしい。一点を見つめ続けたり、白目をむきそうなほど瞳が上にいったりする。呼吸と呻き声を漏らすときに唇からヨダレまで垂らしていて可哀想というより危険な状態に見える。とっくに膀胱は排泄のプロセスに入っているのに、それを手の力で押さえつけていて、優美の身体が壊れる気がする。
「優美ちゃん……けっこう指の力が強いから……私たちも…」
弓道女子の共通点として握力が強いことがあった。とくに弓を引く人指し指と中指は部活で鍛えられていく。弓の弦を引ききるには数十キロという力が必要になる。その力で、おもらしを押さえつければ確かに防げるかもしれないけれど、滲み漏らしたスカートは大きく濡れてきていて、もう手のひら大に変色しているし、おしっこの滴が腿から膝に流れ落ちてきている。すでに全部を漏らしていないだけで誰が見ても、おもらし中の女子なので我慢を続けるのは恥ずかしさを避ける意味もないし、むしろ身体にとって有害でしかないように見える。志澄実が決めた。
「もういいから、おもらししてしまいなさい」
「うううっ…うううっ…」
ありえないことを言われたという表情をして優美が首を振った。その間にも、一滴また一滴と優美の膝から、ふくらはぎにかけて、おしっこの粒が流れ落ちていく。また強い排泄の反射運動がきて、優美の膀胱が収縮し、尿道が拡張し、腹筋が息む。
「くっうあっ!!」
おしっこが噴き出しそうになるのを優美は指の力で強引に押し留め続ける。
「ハっ…はうっ…んあぁ…」
両脚を内股に閉じ、両手を股間に入れて、喘ぎながら優美がグネグネガクガクと悶えている。
ポタッ…ポタッ…
優美の涙と、おしっこが電車の床に落ちている。志澄実が優美の右手首を両手で握って万凜に言う。
「万凜ちゃん、そっちの手を持って。これ以上は膀胱が破裂しちゃうか、病気になりそうだから、おもらしさせよう」
「……は、…はい。そうですね」
少し戸惑ったけれど同意した万凜が優美の左手首を両手で握る。
「いちにのさんで」
「はい」
「っ、嫌っ…や、やめて……漏らしちゃう…」
ここまで我慢している私の邪魔をしておもらしさせるなんて信じられない、という顔になった優美が懇願したけれど、志澄実も万凜も手を離してくれない。おもらしさせられる恐怖が優美を包んだ。
ガタン!
走行中の電車が大きく揺れたせいで、つり革を持たずに立っていた優美はバランスを崩してしまい、よろめいて足首を軽くひねっていた。
「ぅっ……っ~ぅ…」
優美は呻いて、とっさに股間を押さえそうになった右手を唇に押しあてて声を漏らすのを防いだけれど、おしっこは漏らしてしまう。
ショワ…
下着の中に生温かい感触がして優美は息を飲んで驚く。
「っ?!」
やっぱり唇ではなく股間を手で押さえればよかったと後悔しながら必死に両脚を閉じる。
「……ぅ…ぅ…」
とまって、とまって、お願い、とまって、おしっこ出ないで、おもらしなんて絶対やだ、優美の祈りが通じたのか、最悪の事態だけは避けられたようで足元に水たまりをつくったりはしなかった。
「…ハァ…ハァ…」
でも、下着が冷たくなってくる。生温かさと冷たさの混じった貼りついた気持ち悪さは、おしっこを少量でも漏らしてしまったことを本人に教えてくれている。幸い制服のスカートは無事だったし、脚も濡れていない。ほんの少しチビってしまっただけで済んでいた。スカートは小麦色なので濡れると変色して目立ってしまうし丈は県内の高校で一番短い膝上5センチが標準だった。そして学力も一番高い私立高校なので校則指導は厳しくないけれど、もともとの丈が短い上、品行方正な生徒が多く丈を縮めて太腿を露出する女生徒は数名しか校内にいない。この丈に決まったのも5年ほど前の生徒会と教師会の話し合いによる合意で決定されていて、生徒の自主性を重んじる校風だった。ただデザイナーに学校が発注したために着心地よりもデザイン性が重視されていて、濡れて変色するのは欠点だったし、夏服のブラウスまで同じ小麦色なので汗染みができる。今は夏服に移行したばかりの5月で少し寒いくらいなので汗の心配はないけれど、冷や汗と何より、おしっこが心配だった。こんな小麦色の制服でおもらしなどしてしまえば茶色く大きな染みができて不格好すぎる。しかも、デザインの可愛らしさと県内トップの高校なので周囲からは憧れの制服と見られているし、優美たち生徒も誇りに思っている。そんな制服でおしっこを漏らしてしまうなど、ありえない醜態だった。
「…ハァ…」
「大丈夫ですか? 河合センパイ」
「大丈夫? 優美ちゃん?」
そばにいた後輩と先輩が心配してくれる。同じ弓道部で練習試合の帰りなので同行中だった。日曜日の中途半端な午後の時間帯、田舎のローカル線は1両しかない編成で乗客はすべて試合に参加した県内の高校生たちで座席は埋まり、立っている生徒も多いけれど混雑というほどではなくて、車両の後方にいる優美たちから前方の運転席まで見渡せる程度だった。そして車両にトイレは無い。さきほど停車した駅で、いっそ降車して駅のトイレを使おうかと考えたけれど、一度降りると次は2時間待ち、しかも車窓から見えたホームのトイレは小さくて汚かった。そもそもホームに屋根もない、改札もない、ただのコンクリートの台座に時刻表と駅名を書いた看板が建てられ、トイレも仮設トイレ同然の一人しか入れない男女共用の和式トイレで、車窓から眺めてもその汚さが気持ち悪いくらいだった。さらに降車するとワンマン運転なので運転手に電車賃を支払う方式のため余分に交通費が要るし、屋根のないホームで雨も降り出したのに2時間も待つことになる。でも、もう次の駅にも屋根がなくても2時間待ちでも絶対に降りよう、おもらしするよりマシ、と優美は心の中で決めて、後輩と先輩に笑顔で答える。
「大丈夫です」
「でも、河合センパイ、足をひねったんじゃ?」
「あ、うん。まあ、平気」
つい平気と優美は言ったけれど、実は痛くなってきている。ただ、それ以上に膀胱の疼きが強くて、それどころではなかった。気を抜くと今にも失禁してしまいそうだった。
「…ハァ…」
「河合センパイ、これ持ってください。どうぞ」
つり革を後輩が譲ってくれる。そのつり革は他より低い位置にあるので正直ありがたい。
「ありがと、マリちゃん」
「いえ、顔色よくないですよ。そんなに痛みますか?」
後輩の鶴房万凜(つるふさまりん)が心配そうにしてくれるし、先輩の夏原志澄実(なつはらしすみ)も優美の足首を見つめてくる。
「くじいたの?」
「ちょっとだけ。でも、平気です。あと、私、用事を思い出したので次の駅で降りますね」
「用事って、このへんは何もないよ?」
志澄実はポニーテールにしている髪を左右に揺らして車窓の外を見る。外には田んぼと山しかない。コンビニさえ無い。優美もポニーテールにしている髪を揺らして否定する。
「いえ、まあ、いろいろ、あるんです」
「ふ~ん……」
納得していないけれど干渉しない志澄実は鼻を鳴らしただけだったのに、万凜は気にしてくる。
「降りて、どうするんですか? 本当に何もない地区ですよ。ね、石見(いしみ)副キャプ?」
問われた男子が答える。
「次の免松高(ましこ)駅も完全な無人駅だが、木造の駅舎は築100年を超える歴史有るもので、非常に貴重だ。よく映画のロケにも使われている。この雨の中、それはそれでいい雰囲気になる。オレも降りようかな。一眼レフを持ってくればよかった」
「「「………」」」
鉄オタに話しかけるんじゃなかった、と三人とも思った。部員は11人で女子は優美たち3人だけ、そして石見は3年生で学業の成績も学年トップな上、弓道の腕前もよくて、しかもハンサムという三拍子そろっているものの、鉄道のことになると勝手に喋り続けるという難点があり、普段からも空気の読めない人物なので女子の志澄実がキャプテンを務め、石見は副キャプテンだった。
「オレは運転席を見てくる」
「はいはい、どーぞ。でも他校生とモメないでよ」
石見の背中に志澄実が続けて言う。
「あいかわらず空気読めないっていうか……はぁぁ…」
車両内は高校ごとに集まっていて、しかも形成された習慣で学力の高い高校の生徒が車両後方、前方へいくほど底辺校という意味のない序列があった。誰もが意味がないと感じていても毎回そういう風に移動しているので逆らう生徒はいない。なのに石見は一人で運転席まで歩いていった。
「石見副キャプの空気読まない力、すごいですよね」
万凜が言った。彼女もポニーテールにしている。入学時には髪をおろしていたけれど、弓道部に入ると優美も志澄実もポニーテールだったので同調していたし、他校生も女子はポニーテールにするか、短くしている。それは弓の弦を引く都合で髪が邪魔になるからだった。同じ髪型で同じ制服の三人の違いといえば、志澄実はホットケーキのような美しい小麦色の肌で、対して万凜は色白、優美は中間色というくらいで身長も近い。優美が言う。
「石見先輩、白女(はくじょ)に邪魔そうにされてるのに……」
白尾女子(はくおじょし)学園という私立校の女子たちに石見は冷たい目で見られているけれど、熱い目で運転席の機器類と運転手の挙動を見つめているので気づいていない。志澄実がタメ息をつく。
「はぁ……石見くんの行動も、ある意味で恒例だから」
万凜が問う。
「白女と、うちの高校、仲が悪いんですか?」
問われた志澄実が人指し指を自分の唇にあてた。
「しっ、あんまり大きな声でハクジョって言わない。とくに私たち星丘(ほしおか)高校は目をつけられやすいから」
そう言いながら志澄実は万凜の耳元に唇を近づけてから囁く。
「うちは学力で県内トップでしょ。で、ハクジョは私立の底辺校なだけではなくて、全国からも知的な障碍のある女子高校生が入学してくる女子校。障碍児教育の世界では有名な高校らしくて発達障碍のある人にもいい教育をするらしいよ。けど、そのせいで普通科にも学力的に底辺の子が集まるようになって、実質的には普通科も発達障碍気味の子も多いって。でも、私立だけあって親がお金持ちのパターンもある。なんか見た感じで、わからない?」
「そういえば…」
万凜が前方にいる女子たちを見る。その視線は相手に気づかれないように観察する女子らしい視線だった。白女の制服は紺色の可愛らしい高価そうなデザインでスカート丈は長いのが標準とされている様子なのに、かなり短く改造している子も多い。一番短い生徒は上着のサマーセーターにスカートが隠れてしまい、一瞬穿いていないようにさえ見える。それでいて育ちの良い風もあって、だらしなく電車の床に座ったりはしておらず逆に見栄えを気にしている子が多い。持っているカバンやスマートフォンもデコレーションされていて、なんとなく学習ではないところに気持ちがいっているのだとわかった。そしてトップ高の優美たちとはお互いに真偽不確かな噂が出回り、曰く白女の生徒は半数が九九を言えないだとか、自分の名前以外の漢字は書けない、などがあり逆に星丘の方へは勉強中毒ばかりで、男子も握力は10キロしか無くてペンしか持たないだとか、女子は化粧も知らず髪の毛も親に結ってもらうけれど百人一首を丸暗記していたり19かける19までの九九が言えるとか、お互いを極端視していた。
「実際には、そこそこの子もいるし、こっちだって百人一首を丸暗記してるのは数人、まあ中には日本全国の鉄道を路線だけじゃなくて車両まで丸暗記してる変人もいるし、向こうにも似たような子はいて、ここだけの話、石見くんだって頭いい系の発達障碍って気がするよ。向こうにも石見くんの親友の鉄女がいて鉄道用語だけでシリトリするらしいよ、ただ学習面には一切の興味をもたないから記憶力がいいのに成績は底辺とか、そういう極端な子が多い」
さらに志澄実が付け足す。
「で、ハクジョって呼び方は悪意が無くても、昔は知的障碍者のことを白痴って言ったの。白尾は地名にすぎないけど、ようするにカブるから影でみんなが言うようになったの」
「そうですか……いかにも、な子たちですね。試合中もメイクしたりしていて見苦しかったですし」
「いかにもエンコーとか、やってそうって? その逆で頭の悪い子たちを心配した親が田舎の女子校に入れてるわけだから、見た目ほど火遊びしてないし、うちの方が共学だから彼氏持ち率は高いくらいじゃないかな」
「へぇ……」
万凜は興味をもって聴いていたけれど、優美は切羽詰まっていたし、知っている話だったので耳に入れず、ただただ尿意と戦っていた。もう漏れそうで一度チビってしまった尿道が疼くし、膀胱が熱い。涼しい顔をつくっているけれど、手のひらと腋に汗がベッタリと浮いていた。そして、つり革を持つ手に力を入れて体重の半分近くを支えるようにしている。そうやって挫いた方の足を浮かせて両脚を閉じていないと次に電車が揺れたとき、おもらしするかもしれないほど膀胱が弾けそうだった。トイレには朝から行けていない。それというのも練習試合は毎回同じ黒住(くろすみ)高校で行われるけれど、ローカル線の果てにあるような田舎高校で、屋外トイレは壊れているし、他校生が使っていいことに指定されている体育館のトイレも汚い上に和式ばかりだった。そんな黒高に毎回の試合で行くのは女子たちに不評だったけれど、田舎だけあって弓道場が広く、遠距離競技の的場も常設されている都合があって変更される予定はない。
「…ハァ…」
震えそうな唇から優美が熱い吐息を漏らすと、万凜がクスクスと笑った。
「クスっ…失礼ですけど、河合センパイ、なんだか、おもらしされたみたいですよ?」
「っ?! そ、そんなことない! 何言うの? この歳でおもらしなんかするわけないよ! マリちゃん、変なこと言わないで!」
「あ、ごめんなさい。そんな真っ赤になって気にすると、思わなくてホント、ごめんなさい」
万凜に謝られて、激しく動揺していた優美はおしっこで湿らせてしまった下着のことを言われたのではなくて、冷や汗で濡らしてしまったブラウスの腋まわりのことを言われたのだと気づいた。スカートと同じ小麦色のブラウスは濡れると色が濃くなるので、それが恥ずかしい女生徒は強く気にするし、汗取りパットをあてている子さえいた。逆に入学したばかりの一年生の中では、おもらしとそれを呼んだりして、教えてあげたり、からかったりするのが流行ってきていて、万凜は軽い気持ちで言ったけれど、優美にとっては涙が滲むほど動揺することだったので、顔が真っ赤になっている。
「………ぅぅ…」
しかも激しく動揺したので膀胱の中で、おしっこが暴れる。
「っ…」
もう漏れる、ここで漏らしてしまう、ここで漏らしたら、私はどうなるの、と優美は考えた。おしっこが溢れ出してきて下着を濡らし、すぐに脚につたってくる。つたうくらいで済まずにジャージャーと派手に着衣まま放尿してしまったら、きっと小麦色のスカートには茶色い大きな染みが前にもお尻にもできてしまう。いっそ、おもらしする瞬間だけスカートをあげたら染みはつくらずに済むけれど、パンツ丸出しでおもらしする自分の姿は死ぬほど恥ずかしい。男子たちにまでパンツを見せて、その股間からジョボジョボおしっこを漏らすくらいなら死にたい。
「っ…」
おもらしをさけるため今すぐ急いでスカートに手を入れて下着を脱いでしゃがめば、スカートもショーツも濡らさずに済む。けれど、電車内でいきなり、おしっこを始めた女子高生をみんながどう思うか、想像するだけで怖いし、そんな子がいたら変態だと思う。いっそ、おもらしする子の方がマシだけど、おもらしだって絶対にしたくない。けれど、もう膀胱が限界、とにかく次の駅まで我慢、おもらしは嫌、でも、もう力が尽きて、このまま漏らしてしまうかもしれないと思うと、うっかり涙を一粒零してしまった。その涙を見て万凜が深く謝る。
「ぁ………汗染みのこと、そんなに気にされてました? ホント、すみません、ごめんなさい。どうか、許してください、もう言いません」
「ぐすっ……いいから、もう黙ってて」
実はとても気にしている。優美がまだ1年生で新入部員だった頃、学校理事会が新しい入学案内のパンフレットやホームページで使う写真を撮るためにプロのカメラマンを校内に巡らせていて、たまたま弓道場で練習中だった優美を望遠で撮影していた。そのとき優美は小麦色の夏制服姿で弓と矢を構えていた。本来、弓道は専用の和袴で行うのが基本だったけれど、まだ優美には発注したものの届いていなかったので制服で練習していて、ちょうど夕日が差し込む加減で優美の肌や小麦色の制服が一部は金色に見える写りとなり、弓を引いて矢を頬にあてた姿も凛と美しく撮影されて本人も本当に自分なのかなと想うほど美少女に印刷された。おかげで次の1年生である万凜たちが入学してきたときは、わざわざ弓道場まで優美を見に来る1年生もいたほどで、ちょっとしたアイドル扱いをされて困惑したし、いい写りばかりでなくて習い始めたばかりの弓を引く緊張で腋に汗をかいていて、それが制服に染みているのも小さく写っていた。よく見ないとわからないけれど、一瞬を切り取った写真が固定化されて県内の中学校にもネット上にも出回っていると想うと恥ずかしかった。どちらかといえば、あがり症で弓道も練習では命中させられるのに試合では外してしまう優美は、あまり目立ちたくなかったし学校のアイドルに相応しいのは小麦色の制服が本当によく似合う志澄実だと想っている。そんなことを思い出しているうちに、万凜は重ねて謝っていた。
「……すみません…ごめんなさい…」
「はいはい、そろそろ仲直りしようね」
二人の間を取り持つように志澄実が交互にポンポンと後輩たちの頭を叩いた。万凜はそれで慰められたけれど、優美の方はわずかな衝撃でも与えてほしくない。ポンポンと頭を撫でるように叩かれただけなのに、頭頂部からの衝撃が膀胱にまで響く。
「っ…」
漏らす、もう漏らしてしまう、あと数分、あとほんの少しなんだからお願い、と優美は頭を撫でられながら震えた。
「優美ちゃん、よしよし。汗なんて生理現象だから気にしないの。よしよし。…あれ?」
急に車内の照明が消えた。まだ日は高いので、それほど車内は暗くならないけれど、電車の床下からするモーター音まで消えた。そして、駅でもないのにブレーキをかけている。そのブレーキはガクガクと車両全体が揺れるほどの急ブレーキで、下り坂の途中で電車は完全に停車してしまった。運転手が車内放送を流してくる。
「ただいま、架線からの電気が途絶えております。おそらくは停電かと思われます。しばらく、お待ちください」
「っ…」
優美は悲鳴をあげたい気持ちだったけれど、急ブレーキの振動に耐えた直後で呼吸さえできないほど、おしっこを我慢することに集中していた。代わりのように石見が前方で叫んでいる。
「おおっ! で、どうするんですかっ? 停電の原因は? やっぱり変電設備? それとも架線に鳥獣が? 倒木って可能性もありますね。あとはトラックやクレーン車に切断されたか。で、今、この放送はバッテリーで流してるんですね!」
「………」
運転手は困った顔になっているけれど、優美の方が深刻に困っている。次の駅には駅舎があるという情報を石見がくれていたのでトイレが充実していることも期待したのに、停車してしまっては、どうにもならない。ドアを開けてもらって降車しようにも山を下っている途中で左右はコンクリート壁だけ、その上は山林だった。
「…ハァ……ぅぅ…」
いよいよ優美は苦しそうな声を漏らした。両手でつり革を持ちブラ下がるようにして両脚を閉じている。その姿勢の不自然さで、足を挫いただけではないと志澄実と万凜が気づく。
「優美ちゃん?」
「河合センパイ、……もしかして、おトイレを我慢されてますか?」
万凜が気を利かせて小声で耳元に問うてくれた。普段なら嘘はつかないところだけれど、今はチビってしまい下着が濡れている。おもらししそうで気も動転している優美は無意味な否定をする。
「…っ…違う……平気……なんでもない…」
「「………」」
本人は否定したけれど、二人とも気づいた。恥ずかしがって涙目になっているし、両脚の閉じ方は明らかにおしっこを我慢している姿で膝が震えている。両手でつり革を持つのも電車の揺れがない停車状態なら不要なことで、しかもさきほど恥ずかしがっていたと思った腋の汗染みは逆に左右とも晒しているし、その汗染みは大きくなっている。車内の気温は夏服では寒いくらいなのに汗を流すとすれば、冷や汗だろうと察しがついた。冷や汗特有の匂いもするし、夏ほど制汗スプレーを使う時期ではないので練習試合の後ということもあって優美の腋からは桃の葉に似た臭気がした。
「……優美ちゃん……」
「夏原キャプテン、どうしましょう? 河合センパイの様子からして、すごくつらそうです。もう限界なのかも……」
「…ハァっ……ハァっ……」
優美は顔を伏せて首を横に振っている。否定しても解決しないのに、もう理性を失っているようだった。いよいよ脚の閉じ方は明白になってピッタリと内腿を合わせて、やや前屈みになって膀胱をかばい、息づかいも荒い、その様子を見ているうちに優美は両足ともつま先立ちになった。前屈みの姿勢もさらに傾き、少しでも膀胱に圧力がかからないようにしている。プルプルと下半身の力はすべて尿道を閉めることに使っていて、もう体重のほとんどは両手でつり革にブラ下がっている。両腋の冷や汗はますます溢れて、万凜が袖口から覗くと優美の腋肌には汗の玉がいくつもできて、くっついては流れていく。流れの一部はブラウスに吸収されず、ぽろぽろとウエストの肌まで落ちてきてスカートに染みをつくっていた。もう完全に、おもらし寸前という様子にしか見えない。
「…優美ちゃん……困ったわね」
車内は停車しているので騒音が無くて声が響きやすく、志澄実が小声で問いかけてみる。
「おトイレを我慢してるの? 優美ちゃん、恥ずかしがらずに正直に答えて。助けを考えてあげるから」
「っ…ハァっ……ぐすっ…はい…」
半泣きの声で優美は認めた。認めると救いを求めるような涙目で志澄実を見ている。
「そっか………うん、私も我慢してるよ。黒高のトイレ、ちょっと使う気になれないからね」
「あ、実は私もです」
志澄実と万凜も慰めになるかと思って言ったけれど、その様子からして余裕があった。たいして、もう優美には余裕など皆無だったし、限界を超えつつある。
「…ハァ……ぅぅ…」
「「………」」
志澄実と万凜は周囲を見る。車両にトイレはないし、隠れる場所もない。石見に問い合わせても、運転手に頼んでも、いい返事は期待できない予感がした。
「はぁぁぅ…」
とうとう優美は片手で股間を押さえた。もう手で直接に押さえないと漏れるくらい尿意が差し迫っていて、女子としてとても恥ずかしい格好なのはわかっていても必死に股間を押さえた。そんなポーズを取ったので周囲の男子部員たちも気づくし、他校生にも一目瞭然だった。男子は遠慮して黙っているけれど、他校生の女子の中にはヒソヒソと話して笑い出す生徒もいて優美は耳まで真っ赤になっている。
「……ぅ~っ…」
つり革を持っている方の手が痺れてきて力が入らないし、優美は股間を片手ではなくて両手で押さえたくて手を離すと志澄実と万凜が支えてくれた。
「…ハァっ……ハァっ……まだ、動かないの? ……電車……ぅぅ…」
「どうなのかな……」
志澄実は車両前方を見てみるけれど、石見が興奮して運転手に話しかけているだけで事態は好転しそうにない。志澄実に鉄道の知識はないものの、車両のトラブルでないなら電気が送られてくるしか解決策は無いだろうし、こんな危険そうな場所で乗客を降ろすこともない気がする。他校の女子が小声で同輩に語る。
「あの子、漏らしそうだよ」
「顔が必死すぎ、クスクス」
小声なのに車両が静かなので三人にも聞こえてきた。優美の切羽詰まった様子に車内の高校生たちは注目してしまい、響く音は優美の苦しそうな息づかいと雨が屋根を叩く音、そして石見のマニアックな発言だけだった。志澄実が助けてやりたくて考えを巡らしてみる。そして、同じ部の男子が水筒を持っているのに視線をやった。
「………」
優美ちゃんのオシッコを水筒に入れさせてなんて田島くんも嫌に決まってるかな……誰か空のペットボトルでも持ってないかな、と志澄実が考えている様子に田島も察した。
「夏原、これ使ってもいいぞ。どうせ、古いし。もう捨てるから」
「うん、ありがとう、ごめんね、田島くん」
たとえ古くても卒業までは使うつもりだったろう水筒を志澄実は受け取り優美に問う。
「漏らしてしまう前に、これにさせてもらう?」
「…ぅぅ……ぅぅ…」
優美は小さく首を横に振った。もう本当に限界のようで近くにいる志澄実と万凜には両手で押さえている優美のスカートの股間部分が少し濡れて変色してきてしまっているのがわかった。もう手を離した瞬間に失禁してしまい、きっと下着を脱ぐ時間も無い。同じ女子として下着を脱ぐのに時間がかかるのもわかるし、ここで脱ぎたくない気持ちも理解できる。そして何より、もう間に合わず、ここで優美はおしっこをおもらしするしかない状態にまで詰んでしまったと悟った。
「「………」」
「ぅぅ…ハっ…ハっ…」
優美は強く股間を押さえて身震いする。おしっこが限界を超えて貯まってしまった膀胱が本人の意志に関係なく排泄する反射を起こしていて、次々と優美の尿道におしっこを送ってくる。その尿道も括約筋が限界を超えてしまって疲れ果て、もう力が入らない。むしろ、膀胱が収縮する反射に合わせて力が抜けて拡がってしまうし、その反射にともなって腹筋まで優美の意志を無視して息んでくる。
プシッ!
優美の身体に音が響いた。膀胱から高圧で送られてきた尿が尿道から溢れようとする音で、おもらしが始まろうとしている。
「うあぁあぁ! …ひぅぅ…」
呻いた優美がガクガクと身震いした。優美を両側から支えている志澄実と万凜には背筋をそらせて悶える優美の身体が排泄反射に負けたのだと感じた。おしっこが膀胱から出てくると、その解放感が強い快感となる。このまま排泄したい、おもらしでもいいから解放されたいと優美の脳内の一部が訴えるけれど、同じ脳内の別の部分で恥ずかしいという気持ちを司っているところが絶対にダメ、と戒めてくる。
「うううっくぅぅ…ハァハァ…」
優美は排泄反射に耐えきった。股間を押さえている指先で出口をしっかり塞いでいる。右手の人指し指と中指でスカートと下着の上から、おしっこの出口を全力で押さえていて、さらに左手の指先も重ねて押さえ、噴き出しそうなおしっこの水圧を押さえつけ、耐えている。ただ、どうしてもスカートと下着を間に挟んでいる分だけ、にじみ漏れてしまう。亀裂の入った水道管に布を巻いて手で握っても少しずつ少しずつ水が滲み出るように、おもらしが続き、スカートの変色している部分が数ミリずつ拡がっていく。膀胱はほんの少量でも排泄させてもらうと蕩けそうな解放の快感を脳へ送ってきて優美を誘惑してくる。このまま全部おしっこを出してしまおうよ、と誘ってくる。尿道は悲鳴をあげていて膀胱から高圧で尿が流し込まれてくるのに優美の指先が下着の生地で無理矢理に押さえつけて止めてしまう。おかげで尿道が破裂しそうなほど膨らみ、指1本なら入りそうなほど拡張されてしまいキリキリと激痛を発している。
「うううっ…ハァ…くううっ…ふううう…」
膀胱が排泄反射の運動を起こす度に優美は指先の力で封じ込め、ほんのわずかな時間だけ反射運動の波がおさまってくれて休息があるけれど、その休息の時間もどんどん短くなってきていて、排泄衝動が短い間隔で次々と襲ってくる。襲ってくる度に、より強い衝動、より高い水圧、より痛い苦悶になって優美を攻めている。
「うううっ! ハァ…、ううううっ!! ハァ、うううううッ!!」
おもらししたくない、こんな場所で、しかも男子も他校生もいるのに、そして優美にも県内トップの高校に通っているというプライドもあったし、女の子としての羞恥心もある。母親が名付けてくれた優美という名前は、優秀で美しい子に育ってほしい、という願いが込められていて、その期待に応えて勉強を頑張って受験に成功したし、入学案内のパンフレットにも載って星丘高校の顔になったことを母はとても喜んでくれていた。なのに、おしっこをおもらしなんかしたら、すべてが砕け散る。そんな想いで優美は尿意と戦い続け、押さえ込んでいた。
「河合センパイ……それ以上、我慢すると……」
「優美ちゃん、もういいから力を抜いて、仕方ないよ」
おもらしの心配より二人とも優美の身体が心配になってきた。両手で股間を押さえ始めたときは恥ずかしさで顔を真っ赤にしていたのに、今は血の気が引いたような白い顔色で唇も青い。蒼白と言っていい顔色だったし、目の焦点もおかしい。一点を見つめ続けたり、白目をむきそうなほど瞳が上にいったりする。呼吸と呻き声を漏らすときに唇からヨダレまで垂らしていて可哀想というより危険な状態に見える。とっくに膀胱は排泄のプロセスに入っているのに、それを手の力で押さえつけていて、優美の身体が壊れる気がする。
「優美ちゃん……けっこう指の力が強いから……私たちも…」
弓道女子の共通点として握力が強いことがあった。とくに弓を引く人指し指と中指は部活で鍛えられていく。弓の弦を引ききるには数十キロという力が必要になる。その力で、おもらしを押さえつければ確かに防げるかもしれないけれど、滲み漏らしたスカートは大きく濡れてきていて、もう手のひら大に変色しているし、おしっこの滴が腿から膝に流れ落ちてきている。すでに全部を漏らしていないだけで誰が見ても、おもらし中の女子なので我慢を続けるのは恥ずかしさを避ける意味もないし、むしろ身体にとって有害でしかないように見える。志澄実が決めた。
「もういいから、おもらししてしまいなさい」
「うううっ…うううっ…」
ありえないことを言われたという表情をして優美が首を振った。その間にも、一滴また一滴と優美の膝から、ふくらはぎにかけて、おしっこの粒が流れ落ちていく。また強い排泄の反射運動がきて、優美の膀胱が収縮し、尿道が拡張し、腹筋が息む。
「くっうあっ!!」
おしっこが噴き出しそうになるのを優美は指の力で強引に押し留め続ける。
「ハっ…はうっ…んあぁ…」
両脚を内股に閉じ、両手を股間に入れて、喘ぎながら優美がグネグネガクガクと悶えている。
ポタッ…ポタッ…
優美の涙と、おしっこが電車の床に落ちている。志澄実が優美の右手首を両手で握って万凜に言う。
「万凜ちゃん、そっちの手を持って。これ以上は膀胱が破裂しちゃうか、病気になりそうだから、おもらしさせよう」
「……は、…はい。そうですね」
少し戸惑ったけれど同意した万凜が優美の左手首を両手で握る。
「いちにのさんで」
「はい」
「っ、嫌っ…や、やめて……漏らしちゃう…」
ここまで我慢している私の邪魔をしておもらしさせるなんて信じられない、という顔になった優美が懇願したけれど、志澄実も万凜も手を離してくれない。おもらしさせられる恐怖が優美を包んだ。
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