5 / 10
第5話 録音
しおりを挟む
弾けるような感触があって、おもらしを自覚した。
シャァァ…
クロスさせた脚の付け根が温かい。
絶望的に温かい。
私は電車内で、おしっこのおもらしに至ってしまった。
「どうかしたの? 大丈夫?」
そばにいる女性社員さんが問いかけてくる。
私が顔をこわばらせたせい、
できるだけ、顔に出さないようにしたけれど、
出ていたみたい、
シャァァ…
出る、出てる、止まってくれない、
「い、いえ…なんでも…大丈夫ですよ」
シャァァ…
取り繕いながら、私は股間を押さえているハンカチに期待した。
薄いショーツの2枚履きより、ハンカチなら吸収してくれるかもしれない、
シャァァ…
そんな淡い期待も、
私は自分の左手が温かく濡れてくることを知覚することで無駄だったと思い知る。
手が温かい。生温かい。
シュゥゥゥ…
ハンカチから、おしっこが滲み出てきて温かい。
手だけじゃない、内腿も温かい。
シュゥゥ…
お尻も温かい。
おもらししてるおしっこがショーツとハンカチの間をグルグル回って、手に滲んでくる以上の量が内腿に流れ落ちたり、お尻の奥に流れ込んだりしてる。
シュゥゥ…
クロスした脚の付け根が大洪水で、そこだけがお風呂のお湯に入ったときみたいな感覚、
そして膀胱が楽になる気持ちよさがハンパない、
このまま全部出したい、
出して楽になりたい、
脚を開いて、おしっこ出したい、
膀胱が訴えてくる。
シュゥゥ…
私は表情や仕草に出さないよう、おしっこを止めようと頑張る。
汗がドッと噴き出すのも感じた。
額の汗が流れ落ちてきて、目に入って、頬を流れて、顎先から滴になって、豊かに盛った胸にポタっと音を立てて落ちる。
「汗がすごいよ? 熱中症にならない?」
「な…なら…、平気、い、いつも、大丈夫だか…ら」
シュゥゥ…
おもらしを悟られないよう、私はクロスさせた脚の間だけを流れてくれるよう、
ニーハイがおしっこを吸収してくれて電車の床に零したりしないよう、
そして周囲の人に気づかれないよう、
立った姿勢を変えず、
おもらしを隠し続ける。
シュゥ…
やっと、
やっと、止められそう、
シュゥ…
止まって、
止めるの、
おしっこ、止めるぅぅ…
シュ……チョロ………ピタっ…
止まってくれた。
でも、足首まで濡れてるかも……
流れが拡がる。
足首からパンプスの中まで入ってくる。
内くるぶしから踵、
踵から、爪先、
靴の中に貯まって、爪先から水位があがってくる、
戻ってくる。
あっ…ぁあぁ…やだ、靴から溢れるのだけは、
お願い、靴の中で止まって、
おしっこが床に拡がったら、もう言い訳できない。
「………、おしっこをしてしまったの?」
ビクン!
と私の心臓が縮まる質問をされた。
「ぃ、いえ! なんでもないです!」
「…………」
黙った女性社員さんの視線が私の下半身に落ちている。男性社員さんまで見てくる。
「あ、漏らしたのか?」
「いえ、ち、ちがいます。……あ…汗! 汗です!」
「「………」」
「暑くて、暑くて、すごく汗、かいちゃって。あはは、汗ですよ、これ」
「「………」」
「ほ、ほら! 私ってシリコンのスーツを着てるって言いましたよね。ほら、これ!」
「「………」」
「ほら、こんなにスーツの中、汗でびっしょりになって、それが下に流れ落ちてくるんですよ」
私は男の人もいるのに、ベストの腋口を引っ張って、シリコンバストの内側を見せた。
シリコンバストは一切の通気性がないから、汗をかいたら、そのままこもる。
とくに今みたいに焦ってしまうと、もうスーツ内は汗で肌がふやけるほど、
それを強調するように見せて二人を納得させた。
納得させた……
納得してもらった……
そういう風に、私の脳内は、そのとき記憶している。
けれど、記録では違う。
実はそのときの録音がある。
その録音から忠実に文字を起こすと、こうなる。
女性社員の声「汗がすごいよ? 熱中症にならない?」
私の声「なな、な、…へいひ…いぃ、いも…」
女性社員の小声「この子、大丈夫かな? 様子が変じゃない?」
男性社員の小声「そういうキャラとか?」
女性社員の小声「なりきりにしても変」
男性社員の小声「なりきり、ってなに?」
女性社員の声「……あ………、あなた、もしかして、おしっこをしてしまったの?」
私の声「ぃ、いひっ、なうなうい、いいう!」
女性社員の沈黙
男性社員の声「あ~、漏らしたのか?」
私の声「いへ! いへええ! ひが、ひが、…あへ、あへ! あへへふえ、うえ!」
二人の沈黙
遠くから小学生女児の声「コスプレの人が、おしっこもらしてるみたい」
私の声「ぁ、あふくて! 暑くふぇ! ヒッ…、すごくてあへ、ふぁひ、ヒッ…あひひ、あへ、こへ!」
二人の沈黙
私の声「ふほ、ふふぉ! ヒッ…私、ヒッ…ひりこふ、ふうぅぅ、ひえ、ヒッ…いい、いい、ふほっ、こへ!」
二人の沈黙
私の声「ほ、ほほ、こらにスースの中、汗でびび、びび、ヒッ…そへへしがになへれうんへふふ! ヒッ…」
途中から入るヒッって声は、半泣きになってる嗚咽。
泣いてないつもりだったけれど、
おもらしがバレてないつもりだったけれど、
納得してもらったつもりだったけれど、
録音を聴くと。
ただただ、おしっこを漏らしたのを認めたくなくて、
見苦しく言い訳をしようとしていても、もう日本語も話せてないバカな子がそこにいるだけ、
泣き出す一歩手前の声で、何言ってるかわからないバカな子、
おしっこもらしたみじめな子、
それが私だった。
シャァァ…
クロスさせた脚の付け根が温かい。
絶望的に温かい。
私は電車内で、おしっこのおもらしに至ってしまった。
「どうかしたの? 大丈夫?」
そばにいる女性社員さんが問いかけてくる。
私が顔をこわばらせたせい、
できるだけ、顔に出さないようにしたけれど、
出ていたみたい、
シャァァ…
出る、出てる、止まってくれない、
「い、いえ…なんでも…大丈夫ですよ」
シャァァ…
取り繕いながら、私は股間を押さえているハンカチに期待した。
薄いショーツの2枚履きより、ハンカチなら吸収してくれるかもしれない、
シャァァ…
そんな淡い期待も、
私は自分の左手が温かく濡れてくることを知覚することで無駄だったと思い知る。
手が温かい。生温かい。
シュゥゥゥ…
ハンカチから、おしっこが滲み出てきて温かい。
手だけじゃない、内腿も温かい。
シュゥゥ…
お尻も温かい。
おもらししてるおしっこがショーツとハンカチの間をグルグル回って、手に滲んでくる以上の量が内腿に流れ落ちたり、お尻の奥に流れ込んだりしてる。
シュゥゥ…
クロスした脚の付け根が大洪水で、そこだけがお風呂のお湯に入ったときみたいな感覚、
そして膀胱が楽になる気持ちよさがハンパない、
このまま全部出したい、
出して楽になりたい、
脚を開いて、おしっこ出したい、
膀胱が訴えてくる。
シュゥゥ…
私は表情や仕草に出さないよう、おしっこを止めようと頑張る。
汗がドッと噴き出すのも感じた。
額の汗が流れ落ちてきて、目に入って、頬を流れて、顎先から滴になって、豊かに盛った胸にポタっと音を立てて落ちる。
「汗がすごいよ? 熱中症にならない?」
「な…なら…、平気、い、いつも、大丈夫だか…ら」
シュゥゥ…
おもらしを悟られないよう、私はクロスさせた脚の間だけを流れてくれるよう、
ニーハイがおしっこを吸収してくれて電車の床に零したりしないよう、
そして周囲の人に気づかれないよう、
立った姿勢を変えず、
おもらしを隠し続ける。
シュゥ…
やっと、
やっと、止められそう、
シュゥ…
止まって、
止めるの、
おしっこ、止めるぅぅ…
シュ……チョロ………ピタっ…
止まってくれた。
でも、足首まで濡れてるかも……
流れが拡がる。
足首からパンプスの中まで入ってくる。
内くるぶしから踵、
踵から、爪先、
靴の中に貯まって、爪先から水位があがってくる、
戻ってくる。
あっ…ぁあぁ…やだ、靴から溢れるのだけは、
お願い、靴の中で止まって、
おしっこが床に拡がったら、もう言い訳できない。
「………、おしっこをしてしまったの?」
ビクン!
と私の心臓が縮まる質問をされた。
「ぃ、いえ! なんでもないです!」
「…………」
黙った女性社員さんの視線が私の下半身に落ちている。男性社員さんまで見てくる。
「あ、漏らしたのか?」
「いえ、ち、ちがいます。……あ…汗! 汗です!」
「「………」」
「暑くて、暑くて、すごく汗、かいちゃって。あはは、汗ですよ、これ」
「「………」」
「ほ、ほら! 私ってシリコンのスーツを着てるって言いましたよね。ほら、これ!」
「「………」」
「ほら、こんなにスーツの中、汗でびっしょりになって、それが下に流れ落ちてくるんですよ」
私は男の人もいるのに、ベストの腋口を引っ張って、シリコンバストの内側を見せた。
シリコンバストは一切の通気性がないから、汗をかいたら、そのままこもる。
とくに今みたいに焦ってしまうと、もうスーツ内は汗で肌がふやけるほど、
それを強調するように見せて二人を納得させた。
納得させた……
納得してもらった……
そういう風に、私の脳内は、そのとき記憶している。
けれど、記録では違う。
実はそのときの録音がある。
その録音から忠実に文字を起こすと、こうなる。
女性社員の声「汗がすごいよ? 熱中症にならない?」
私の声「なな、な、…へいひ…いぃ、いも…」
女性社員の小声「この子、大丈夫かな? 様子が変じゃない?」
男性社員の小声「そういうキャラとか?」
女性社員の小声「なりきりにしても変」
男性社員の小声「なりきり、ってなに?」
女性社員の声「……あ………、あなた、もしかして、おしっこをしてしまったの?」
私の声「ぃ、いひっ、なうなうい、いいう!」
女性社員の沈黙
男性社員の声「あ~、漏らしたのか?」
私の声「いへ! いへええ! ひが、ひが、…あへ、あへ! あへへふえ、うえ!」
二人の沈黙
遠くから小学生女児の声「コスプレの人が、おしっこもらしてるみたい」
私の声「ぁ、あふくて! 暑くふぇ! ヒッ…、すごくてあへ、ふぁひ、ヒッ…あひひ、あへ、こへ!」
二人の沈黙
私の声「ふほ、ふふぉ! ヒッ…私、ヒッ…ひりこふ、ふうぅぅ、ひえ、ヒッ…いい、いい、ふほっ、こへ!」
二人の沈黙
私の声「ほ、ほほ、こらにスースの中、汗でびび、びび、ヒッ…そへへしがになへれうんへふふ! ヒッ…」
途中から入るヒッって声は、半泣きになってる嗚咽。
泣いてないつもりだったけれど、
おもらしがバレてないつもりだったけれど、
納得してもらったつもりだったけれど、
録音を聴くと。
ただただ、おしっこを漏らしたのを認めたくなくて、
見苦しく言い訳をしようとしていても、もう日本語も話せてないバカな子がそこにいるだけ、
泣き出す一歩手前の声で、何言ってるかわからないバカな子、
おしっこもらしたみじめな子、
それが私だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる