実話おもらし「コスプレしていて電車内で漏らした私」

吉野のりこ

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第5話 録音

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 弾けるような感触があって、おもらしを自覚した。
 シャァァ…
 クロスさせた脚の付け根が温かい。
 絶望的に温かい。
 私は電車内で、おしっこのおもらしに至ってしまった。
「どうかしたの? 大丈夫?」
 そばにいる女性社員さんが問いかけてくる。
 私が顔をこわばらせたせい、
 できるだけ、顔に出さないようにしたけれど、
 出ていたみたい、
 シャァァ…
 出る、出てる、止まってくれない、
「い、いえ…なんでも…大丈夫ですよ」
 シャァァ…
 取り繕いながら、私は股間を押さえているハンカチに期待した。
 薄いショーツの2枚履きより、ハンカチなら吸収してくれるかもしれない、
 シャァァ…
 そんな淡い期待も、
 私は自分の左手が温かく濡れてくることを知覚することで無駄だったと思い知る。
 手が温かい。生温かい。
 シュゥゥゥ…
 ハンカチから、おしっこが滲み出てきて温かい。
 手だけじゃない、内腿も温かい。
 シュゥゥ…
 お尻も温かい。
 おもらししてるおしっこがショーツとハンカチの間をグルグル回って、手に滲んでくる以上の量が内腿に流れ落ちたり、お尻の奥に流れ込んだりしてる。
 シュゥゥ…
 クロスした脚の付け根が大洪水で、そこだけがお風呂のお湯に入ったときみたいな感覚、
 そして膀胱が楽になる気持ちよさがハンパない、
 このまま全部出したい、
 出して楽になりたい、
 脚を開いて、おしっこ出したい、
 膀胱が訴えてくる。
 シュゥゥ…
 私は表情や仕草に出さないよう、おしっこを止めようと頑張る。
 汗がドッと噴き出すのも感じた。
 額の汗が流れ落ちてきて、目に入って、頬を流れて、顎先から滴になって、豊かに盛った胸にポタっと音を立てて落ちる。
「汗がすごいよ? 熱中症にならない?」
「な…なら…、平気、い、いつも、大丈夫だか…ら」
 シュゥゥ…
 おもらしを悟られないよう、私はクロスさせた脚の間だけを流れてくれるよう、
 ニーハイがおしっこを吸収してくれて電車の床に零したりしないよう、
 そして周囲の人に気づかれないよう、
 立った姿勢を変えず、
 おもらしを隠し続ける。
 シュゥ…
 やっと、
 やっと、止められそう、
 シュゥ…
 止まって、
 止めるの、
 おしっこ、止めるぅぅ…
 シュ……チョロ………ピタっ…
 止まってくれた。
 でも、足首まで濡れてるかも……
 流れが拡がる。
 足首からパンプスの中まで入ってくる。
 内くるぶしから踵、
 踵から、爪先、
 靴の中に貯まって、爪先から水位があがってくる、
 戻ってくる。
 あっ…ぁあぁ…やだ、靴から溢れるのだけは、
 お願い、靴の中で止まって、
 おしっこが床に拡がったら、もう言い訳できない。
「………、おしっこをしてしまったの?」
 ビクン!
 と私の心臓が縮まる質問をされた。
「ぃ、いえ! なんでもないです!」
「…………」
 黙った女性社員さんの視線が私の下半身に落ちている。男性社員さんまで見てくる。
「あ、漏らしたのか?」
「いえ、ち、ちがいます。……あ…汗! 汗です!」
「「………」」
「暑くて、暑くて、すごく汗、かいちゃって。あはは、汗ですよ、これ」
「「………」」
「ほ、ほら! 私ってシリコンのスーツを着てるって言いましたよね。ほら、これ!」
「「………」」
「ほら、こんなにスーツの中、汗でびっしょりになって、それが下に流れ落ちてくるんですよ」
 私は男の人もいるのに、ベストの腋口を引っ張って、シリコンバストの内側を見せた。
 シリコンバストは一切の通気性がないから、汗をかいたら、そのままこもる。
 とくに今みたいに焦ってしまうと、もうスーツ内は汗で肌がふやけるほど、
 それを強調するように見せて二人を納得させた。
 
 納得させた……
 納得してもらった……
 そういう風に、私の脳内は、そのとき記憶している。
 けれど、記録では違う。
 実はそのときの録音がある。
 その録音から忠実に文字を起こすと、こうなる。
女性社員の声「汗がすごいよ? 熱中症にならない?」
私の声「なな、な、…へいひ…いぃ、いも…」
女性社員の小声「この子、大丈夫かな? 様子が変じゃない?」
男性社員の小声「そういうキャラとか?」
女性社員の小声「なりきりにしても変」
男性社員の小声「なりきり、ってなに?」
女性社員の声「……あ………、あなた、もしかして、おしっこをしてしまったの?」
私の声「ぃ、いひっ、なうなうい、いいう!」
女性社員の沈黙
男性社員の声「あ~、漏らしたのか?」
私の声「いへ! いへええ! ひが、ひが、…あへ、あへ! あへへふえ、うえ!」
二人の沈黙
遠くから小学生女児の声「コスプレの人が、おしっこもらしてるみたい」
私の声「ぁ、あふくて! 暑くふぇ! ヒッ…、すごくてあへ、ふぁひ、ヒッ…あひひ、あへ、こへ!」
二人の沈黙
私の声「ふほ、ふふぉ! ヒッ…私、ヒッ…ひりこふ、ふうぅぅ、ひえ、ヒッ…いい、いい、ふほっ、こへ!」
二人の沈黙
私の声「ほ、ほほ、こらにスースの中、汗でびび、びび、ヒッ…そへへしがになへれうんへふふ! ヒッ…」
 途中から入るヒッって声は、半泣きになってる嗚咽。
 泣いてないつもりだったけれど、
 おもらしがバレてないつもりだったけれど、
 納得してもらったつもりだったけれど、
 録音を聴くと。
 ただただ、おしっこを漏らしたのを認めたくなくて、
 見苦しく言い訳をしようとしていても、もう日本語も話せてないバカな子がそこにいるだけ、
 泣き出す一歩手前の声で、何言ってるかわからないバカな子、
 おしっこもらしたみじめな子、
 それが私だった。
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