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第4話 撮られた

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 おしっこを漏らしてしまいそうな私は乗り合わせた人たちとの会話をできるだけ平然とこなしているけれど、かなり切羽詰まっている。
 悟られたくないので内股にはならず、脚をクロスさせて立ち、右手で吊革を持って身体を支える。左手はハンカチを持ったまま股間を押さえているけれど、おしっこの我慢のためじゃなくて、見せパンが見えるのが恥ずかしいからという風にカモフラージュして。
「…はぁぁ…」
 それでもタメ息はでる。
 状況は最悪。
 電車は動かないし、
 この電車にトイレはないし、
 さらに、この電車、すべての座席が横長のシートで、すごく車内の見渡しがいい。
 茶色いクッションの古臭いシートが進行方向に対して直角に座るタイプだから、乗客がお互いを見通しやすい。
 そんな車両の中央に私は立っている。
 もともと乗り込んだときはドアのそばに立ったけれど、次の駅で100人ぐらいの会社員さんたちが乗ってきて、すぐに私を撮りたがったり、ツーショットを望んでくれたから、それに応じているうちに自然と車両中央に立つことになってしまった。
 今さら座れないし、座席は埋まってる。
 2両編成に約100人が乗ってるから、1両には50人。
 もっとも、このとき私は大勢の人たち、としか認識してない。
 どんどん冷静じゃなくなっていたから、人数を認識なんてできない。後になって見たニュースで車両に閉じ込められたのは100人とあったから、そうなんだと認識しただけ。
 見渡す車内の座席は埋まり、立っている人はチラホラ。
 みなさんは、この路線に乗り慣れている様子で、
 たぶん、ううん、きっと毎日乗ってる感じ、だから臨時の停車にも焦ってない。
 焦ってるのは私だけ。
 おしっこが漏れそうなのに、トイレがない。
 それなのに、また別の人が私とのツーショットを望んできた。
 それに笑顔で応じる。
 他にも勝手に撮る人がいる。
 カシャ!
 ピピッ!
 正面から撮られたり、横から撮られたり、背後から撮られてることもある。
 こういうことに普段は慣れてる。
 むしろ撮られてこそレイヤー、だと想ってる。
 だから、よっぽどローアングルからスカートの中だけをアップで撮ろうとする行為以外は笑顔で応えるようにしてる。
 今もやっぱり、私の背後からシャッター音を消して、座席に座ったままの低い位置から撮ってる人がいるのも電車の窓ガラスに反射してる姿で認識してるのよ、見せパンだからいいってものじゃないのに。
 ただ、幸いなことに、撮りたい人が撮り終わってくれると、さすがにカメラマンじゃないから次のポーズを要求されたりはしなくて、一段落してくれた。
 また女性社員さんが話しかけてくる。たぶん、この人、コスプレに興味ある系だと想う。
「本当に、すごい汗をかいてるね、そんなにカイロが熱いの?」
「は…はい…かなり…」
 違うの、
 おしっこが漏れそうで、漏れそうで、
 もう我慢の限界が近づいてくると、
 汗が噴き出してくる。
 メイクしてる顔がテカってる気がするし、
 額の汗が浮いてウィッグの前髪とくっついてる。
 吊革を持ってる右腋も汗ばんでるどころか、滴になって流れてるから上着の腋下が濡れて変色してる。淡いグレーの生地が、ちょっと濃くなったグレーに変わってる。
 汗をかいてるのは左腋も同じで、ずっとハンカチで股間を押さえてるから腋の下を見られることはないけど、汗が閉じてる腋の前後から漏れ出てきて、腕を流れてしまう。
 ポロ…ポロ…
 と、まるで、おしっこを漏らしてるみたいに、腋から汗の滴が落ちて腕を流れる。おかげでアームカバーの装飾になってる緑色の生地も濡れて変色してる。
「カイロ、外したら?」
「それは…、それで…、大変なんですよ」
 実際、カイロを外すとなるとスカートをまくったり、ネクタイを外して上着を脱いだりと、かなり大変。けど、今はもう、この姿勢から動けない。
 動いたら、漏らす。
 あれ……?
 私、詰んでない?
 もう動いたら、漏らすって……
 電車が動いても、もう……
 代替えバスが来て車両から降りることになっても、もう……
 しかも、いっぱい写真まで撮られた後……
 みんなスマフォで撮影して……
 絶対SNSにあげる……
 どうしよう……どうしよう……
 とにかく我慢……
 でも、もう無理……
 膀胱が疼くのを通りこして、痛い。
 痛くて、痛くて、おしっこ漏っちゃう……
 漏っちゃう……
 ぅぅう……ぁぁぁ…
 漏っちゃう…
 出ちゃう…
 はぅぅぅ…
 
 プシャっ!
 
 弾けるような感触があって、おもらしを自覚した。
 
 シャァァ…
 
 クロスさせた脚の付け根が温かい。
 絶望的に温かい。
 
 
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