実話おもらし「コスプレしていて電車内で漏らした私」

吉野のりこ

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第3話 ハンカチ

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私は再び高まってきた尿意と、動き出してくれない電車に困惑していたけれど、私とのツーショット写真を望んでくれた女性社員さんが、のんびりした声で言ってくる。
「それにしても、コスプレしてるだけあって可愛いね」
「…ど、どうも、…ありがとうございます」
 普段なら、もっといい笑顔で応えるのに、今は笑顔が硬くなってしまった。
「スタイルも超いいし。ウエスト超細い」
 そう言いながら、よりによって私のお腹を撫でてくる。
 ぞわっ…
 お腹を撫でられると、膀胱に振動がきて、おもらししそうな尿意が蠢いた。
「どうしたら、こんなに細くなるの?」
「ダ…ダイエット、…頑張りましたし」
 私は内股から脚をクロスさせる立ち方に変わって答えた。
「やっぱり、それしかないかぁ……でも、胸もすごい。私はダイエットすると胸から痩せるんだよね。どうやったら、そんなに残るの?」
「あはは…、これは盛ってます」
「そうだよね、やっぱりね! いくらなんでも、こんなボディはないよね。どうやって盛ってるの? ブラジャーにパット?」
「いえ、コスプレ向けのシリコンバストがあって、そのシリコンスーツを着る感じです。チョッキみたいな感じで胸全体をおおって。だから、本物の私の胸は、この3分の1も無いですよ」
「ふーん、ちょっと触らせて」
 胸を揉まれる。こういうスキンシップはコスプレ仲間でも同性ならありえるから、あまり抵抗はないし、お腹を撫でられるよりはいい。
「柔らかいね、いい感触。本物みたい」
「そういう製品ですし」
「揉まれてる感じするの?」
「いえ、ほとんど何も感じません。少しだけ圧迫感が伝わってくるくらいですよ」
「オレも揉んでいい?」
 男性社員さんも言ってくる。この人ともツーショット写真に応じたけど、撮るとき肩を抱かれたので、ちょっとイヤだった。私は困った笑顔をつくる。コスプレ中はキャラクターのイメージもあるし、レイヤーが一般人に冷たい反応をするのも私はいいとは思わないので、多少のセクハラは我慢してる。
「男の人は、さすがに、ちょっと……ごめんなさい」
「だよな」
 まだ胸を揉んでる女性社員さんが私の頭を見つめてくる。
「髪の毛はやっぱりウィッグなの?」
「はい」
「そりゃそうよね、こんな長い緑の髪。目はカラコンで。眉まで緑なんだ……こだわりを感じるわ」
「どうも、ありがとう」
「腋もキレイね、脱毛したの?」
「はい。恥ずかしいから、あんまり見ないでください」
 今は吊革を離せないので、汗ばんだ腋を見られるのは恥ずかしい。そして案の定、気づかれる。
「この寒いのに、汗かいてるけど、大丈夫? スカートも短いし、寒いでしょ」
「いくつもカイロを貼ってますから。ほら」
 私は左手のアームカバーの中が見えるように向けた。アームカバーの中にも2つ、カイロを貼ってある。でないと寒くてノースリーブで屋外なんて死んでしまう。
「へぇぇ、手が込んでるね」
「その分、電車内だと暑くて汗をかいてしまって」
 私は濡れている腋を見られるのが恥ずかしくてバックから出したハンカチで拭いた。できるなら吊革を離したいけれど、それは無理。おしっこが漏れそう。
 ぞわっ…
 ああ、おしっこ、したい。したいよ、おしっこ、漏れそうだよぉ……電車、動いてよ。
「はぁぁ…」
「おお、ハンカチまでパンツと同じ柄なんだな」
 男性社員さんがハンカチと私の股間を見比べている。慌ててスカートの裾を押さえた。うっかり吊革を持ってる分だけスカートがあがってしまうのを忘れてた。でも不幸中の幸い、おかげで左手にハンカチを持ったまま股間を押さえても変に想われない。ちょっとハンカチで押さえてショーツを拭いておく。
 うぅ……濡れたショーツが冷えてきて、余計におしっこがしたくなるよ。
 気をそらせるためにも私から質問する。
「あの…、この電車、いつになったら、動くんでしょうか? こういうこと、よくある路線なんですか?」
「正月にも雪で脱線したからなぁ。まあ、でも、そのうち動くか、代替えバスが来るんじゃないか」
「そのうちって、どのくらい?」
「それは運転手に訊いてくれ。ってか、運転手も本部の連絡待ちだろ。君は、どこまで帰るの?」
「名古屋です」
「遠っ! そんなとこから来てるのか、帰れるのか? 今日中に」
「………」
 もう帰れなくてもいい、トイレだけ、トイレだけでいいから、すぐにお願いします。
 
 
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