最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

ご褒美だろ?

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 「グウゥゥゥゥッ!?」

 レナの一撃が当たる直前、ミランダは木刀で受け止めようとしたがそんな事ができる筈もなく、木刀はあっさり折れ、放たれた黒い矢がミランダの肩へと刺さってしまう。
 肩を貫通した黒い矢はすぐに消え、その傷も展開された回復魔術のエリア内なのですぐに消える。
 ただ一つの問題が浮上した。
 ミランダが相変わらず頬を紅潮させて笑っている。肩を貫かれたにも関わらず。
 気になる。凄く気になるけど見たくない。目を逸らしたい。
 あんな歩く十八禁みたいな奴をこのままカイトたちに相手をさせれば、この先の展開が読める。

 「もっとだ・・・・・・もっと本気で打ち込んで来いッ!!」

 そう言って子供のように目をキラキラさせて笑うミランダを見てしまい、目頭を押さえて大きな溜め息を吐いてしまった。
 完全にマゾ気質が前に出てやがる・・・・・・。
 しかしカイトたちは特にそれに気付いた様子もなく攻撃を続けていた。

 「「ハァッ!!」」

 カイトは剣を捨て、フィーナと共に拳を前に突き出す。
 ミランダは一歩後方に下がり回避する。それを横からで追撃するメア。

 「ッ! メア様、そのお姿は・・・・・・!?」

 今メアの姿は髪が光り、瞳が赤くなる魔人化状態だった。
 前にメアが魔人化し、俺の拳骨に怯えるのが分かって以来「俺が付いていて、尚且つこの魔空間内なら」という条件付きでその刀をちょくちょく使用させているのだ。
 これなら周りの被害を最小限にさせる事ができる筈だ。そんでついでに制御ができたらいいなーくらいには考えてる。

 「俺の本気、受け取れミラ姉ッ!!」

 メアの鋭い一閃にミランダはカイトが捨てた剣を拾って防ぐ。その一撃に吹き飛ばされ、そのまま木にぶつかりぐったりとする。
 だがミランダがフラフラとしながら立ち上がって歪んだ笑みを浮かべる。あれはもはや女がしていい笑顔じゃない。

 「ふ・・・・・・フフ・・・・・・フハハハハハハッ! イイ! いいですよメア様ァッ!!」

 「ヒッ!?」

 度の過ぎたミランダの狂気を孕んだ顔を目にしたメアも流石に怖気付き、魔人化の姿が解けて通常の姿に戻ってしまった。
 何もせずメアを元に戻せるなんて・・・・・・流石頭がおかしくなっただけはある。もはやSSランクとか関係ねえ。
 そこからはもうジリ貧だった。
 お互い回復するとはいえ、気の持ち方がすでに違う時点でカイトたちがミランダに勝てる見込みなどなかったのだ。
 無限に回復するドM。最強の種族の出来上がりである。
 そしてミランダが戦いに加わってから二時間弱が経過。

 「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・と、トラウマになりそうです・・・・・・」

 「もう確定よ! アヤトやゾンビより怖かったわ・・・・・・別の意味で!」

 カイトの悲鳴に近い呻き声にフィーナが憤慨に近い叫びを上げる。
 さらにヘコんでる奴が若干一名。

 「強い・・・・・・強いけど・・・・・・ミラ姉ってこんなんだったっけ・・・・・・!?」

 手と膝を地面に突いて綺麗なorz状態で嘆くメア。
 確かにメアからすれば長年一緒に暮らしてきた姉的存在が、少し見ない間に中身が劇的ビフォーアフターを遂げてるのだからそうなるだろう。
 そしてメア以外も今にも死にそうなグロッキー状態なのに対し、ミランダ本人はむしろ戦いの前よりテカテカと輝いて元気に見える気がする。
 せっかくの綺麗な私服が弓や剣で引き裂かれ、あられもない状態となっているが全く気にしてない様子だった。
 後でルナに直してもらえばいいんだけどさ・・・・・・。
 そんな格好のまま気持ち良さそうに体を伸ばすミランダ。

 「いやー、本当に・・・・・・」

 そう呟くとミランダは満面の笑みを浮かべて俺の方へ向く。
 嫌な予感しかしない。

 「アヤト殿に会えて良かった!」

 「やめろ、この流れでそんな良い台詞を良い笑顔で言うんじゃない!俺がお前に会った事を後悔しちまうだろうが・・・・・・」

 「何を言っているんだ、私は貴殿に出会ってあらゆるものの見方が変わり、騎士のなんたるかを理解できたのだから」

 そんな教えを説いた覚えはないのだが。
 ミランダが言葉を続ける。

 「騎士はすなわち主君の盾。盾とは己を維持しつつ主君を守護する事。つまりどんな強く卑劣な攻撃にも耐え忍ぶという事なのだ!」

 明後日の方向を見てグッと拳を握り締めてそう宣言するミランダ。
 一見正当っぽく述べてるが、こいつが言うと完全に別の意味と化してしまっている。実際別の意味で言っているのだろうし。

 「という事でアヤト殿!」

 キリッとした表情でこっちに向き直るミランダ。この後の言葉も話の流れからなんとなく想像できてしまうのが嫌だ。

 「もっと私を痛ぶ・・・・・・ののし・・・・・・盾としての耐久力を鍛えてくれ!」

 「おい、今完全に言い逃れのできない本音が二つほど飛び出てたぞ」

 もうやだこの娘・・・・・・なんでこんな変態の素質持ってるの・・・・・・?
 親の顔が見てみたい・・・・・・いやダメだ。
 忘れかけてたけど俺、ミランダをボコボコにしたからこうなってるのであって、多分親に会ったらきっと怒鳴られ殴られる。
 それにもし同じ性質ドMだったらもう手が付けられない。というか付けたくない、触りたくない。
 まぁ、アルニアが普通っぽいからミランダだけだとは思うが。
 ・・・・・・って、なんで俺がミランダの事で悩まにゃならんのだ?
 そもそもアイツが売ってきた喧嘩だ。
 決闘だってやり過ぎと言ってもルールの範囲内で俺は正々堂々と相手をして打ちのめした。今の性格だって変にはなってるが前より丸くなってマシになってる。
 何も後ろめたい事なんて・・・・・・。

 「どうしたのだ、アヤト殿?」

 考え事をしている俺を心配したのか、堂々と目の前に立つミランダ。

 「もしかしてこれから私をどう痛ぶろうか考えてくれているのか?ならば私からのリスエストは前の決闘と同じように完膚なきまでに叩き潰してくれるか、それかこの回復魔術を解除して私の手足を縛り、殴ったり蹴ったりと少しずつ痛みを与えてくれたりするとゾクゾクするのだが・・・・・・」

 ミランダは頬に手を添えてポッと赤らめる。
 心配してくれてるのかと少しでも思った俺がバカでした。
 ああ、ダメだ。このドMを俺が作ってしまったと考えたら何もかも後ろめたく思えてしまう・・・・・・。

 「・・・・・・とりあえず、服着替えて来い」

 「お? ・・・・・・ああ、それもそうだな。こんな格好で殿方の前に出るなど、恥知らずと呼ばれてしまうな」

 「いや、もうすでに・・・・・・やっぱなんでもない」

 「ん?」

 俺が何を言い掛けたか気になったミランダだが、「もうすでに色々手遅れだ」という言葉を敢えて飲み込んだ。
 手遅れっちゃ手遅れだが、まだそういう常識が頭にあるなら何も言わない方がいい。
 下手な言葉を言って逆に吹っ切れられると、もう本当に見捨てるしかなくなる。

 「そういえばあのお屋敷には鎧の類はあったかな?」

 「ん?ああ、一応保管されてるな。俺たちは使う予定がないから放置してあるが。・・・・・・まさか?」

 「とりあえずその鎧を貸してもらい、手合わせしましょう!」

 ああ、やっぱり・・・・・・もうこれは諦めるしかないのか。
 呆れながらも空間魔術で直接保管されてる場所に繋げ、鎧を取り出し渡す。
 頭から足までの一式が揃った鎧。胴には何かの紋様の刺繍が入ったマントが付けられている。

 「ほう、これは・・・・・・」

 ミランダが珍しく真剣な顔で渡された鎧を眺め、感心するような声を漏らす。
 俺の目からはそうでもないが、業物だったり珍しいものだったりしたのだろうか?

 「何か面白いものでも付いてたか?」

 「まぁ、面白いという意味では確かに見付けた。これを見てくれ」

 ミランダが胴の部分を取って見せて来る。しかし何か珍しいものがあるわけでもない。
 何を見せたいのか分からないので聞く事にした。

 「何かあったのか?俺の目からじゃ他より劣った造りになってる事くらいしか・・・・・・」

 「そう、それだ。これは私や他の騎士、それに冒険者が着ているような鎧よりも脆い。それによく見ると少しだけ装飾品が付けられているだろう?」

 ミランダの言葉通り、パッと見は分からないくらいに少ないが、首の部分と手首のところに小さな宝石が埋め込まれてるのが見える。

 「これは一応見栄は張っているが、「私自身は戦う気がない」という意思表示してると捉えられるんだ」

 「・・・・・・なるほど。つまりあの屋敷の元の主人は相当良い性格をしてたってわけだ。まぁ、学園に自分のためだけに屋敷を建てるような奴だもんな」

 「確かにそういう輩もいるにはいるな・・・・・・」

 そう言って俺の言葉に苦笑いで返すミランダ。どうやら心当たりがあるようだ。
 まぁ、だからと言ってなんだというわけでもないが。
 そうしているうちにミランダがすでに鎧の着用を終えたようだった。

 「では始めようか、アヤト殿!!」

 「あー・・・・・・いや、相手は俺じゃない」

 ミランダは「へ?」と間の抜けた声を出した。

 「アヤト殿ではないなら一体・・・・・・?」

 ミランダは小さく「ノワール殿かヘレナ殿だろうか?」と呟いているが違う。
 俺は手をパンッと音を立てて合わせる。

 「よし、お前ら! これから回復魔術を解除してミランダと戦ってもらう! !!」

 「・・・・・・え? ま、待て、アヤト殿・・・・・・メア様たちはさっきまで十分に戦っていたぞ!? それをこれからが本番のような言い方を・・・・・・」

 「『本番のような』じゃない。本番だ」

 そう言ってカイトたちを指差す。その光景にミランダは思わず息を飲んだ。
 カイトたちはふらりと立ち上がると、息を切らしていたさっきまでとはまるで別人のような表情をしていた。

 「これは・・・・・・一体どういう事だ・・・・・・!?」

 「仮にも俺の弟子だ。さっきまでのは準備運動だったに決まってるだろ。・・・・・・まぁ、メアの状態が解けたのだけは予想外だったが」

 最初よりもギアがかかって復活したカイトたちを見て困惑してるミランダに木刀じゃない新しい剣を渡す。
 そんなミランダは不安と期待に満ちた恍惚とした顔でこっちを見てきたので、俺は笑顔で答える。

 「逝ってこい♪」
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