199 / 303
武人祭
ご褒美だろ?
しおりを挟む「グウゥゥゥゥッ!?」
レナの一撃が当たる直前、ミランダは木刀で受け止めようとしたがそんな事ができる筈もなく、木刀はあっさり折れ、放たれた黒い矢がミランダの肩へと刺さってしまう。
肩を貫通した黒い矢はすぐに消え、その傷も展開された回復魔術のエリア内なのですぐに消える。
ただ一つの問題が浮上した。
ミランダが相変わらず頬を紅潮させて笑っている。肩を貫かれたにも関わらず。
気になる。凄く気になるけど見たくない。目を逸らしたい。
あんな歩く十八禁みたいな奴をこのままカイトたちに相手をさせれば、この先の展開が読める。
「もっとだ・・・・・・もっと本気で打ち込んで来いッ!!」
そう言って子供のように目をキラキラさせて笑うミランダを見てしまい、目頭を押さえて大きな溜め息を吐いてしまった。
完全にマゾ気質が前に出てやがる・・・・・・。
しかしカイトたちは特にそれに気付いた様子もなく攻撃を続けていた。
「「ハァッ!!」」
カイトは剣を捨て、フィーナと共に拳を前に突き出す。
ミランダは一歩後方に下がり回避する。それを横から刀で追撃するメア。
「ッ! メア様、そのお姿は・・・・・・!?」
今メアの姿は髪が光り、瞳が赤くなる魔人化状態だった。
前にメアが魔人化し、俺の拳骨に怯えるのが分かって以来「俺が付いていて、尚且つこの魔空間内なら」という条件付きでその刀をちょくちょく使用させているのだ。
これなら周りの被害を最小限にさせる事ができる筈だ。そんでついでに制御ができたらいいなーくらいには考えてる。
「俺の本気、受け取れミラ姉ッ!!」
メアの鋭い一閃にミランダはカイトが捨てた剣を拾って防ぐ。その一撃に吹き飛ばされ、そのまま木にぶつかりぐったりとする。
だがミランダがフラフラとしながら立ち上がって歪んだ笑みを浮かべる。あれはもはや女がしていい笑顔じゃない。
「ふ・・・・・・フフ・・・・・・フハハハハハハッ! イイ! いいですよメア様ァッ!!」
「ヒッ!?」
度の過ぎたミランダの狂気を孕んだ顔を目にしたメアも流石に怖気付き、魔人化の姿が解けて通常の姿に戻ってしまった。
何もせずメアを元に戻せるなんて・・・・・・流石頭がおかしくなっただけはある。もはやSSランクとか関係ねえ。
そこからはもうジリ貧だった。
お互い回復するとはいえ、気の持ち方がすでに違う時点でカイトたちがミランダに勝てる見込みなどなかったのだ。
無限に回復するドM。最強の種族の出来上がりである。
そしてミランダが戦いに加わってから二時間弱が経過。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・と、トラウマになりそうです・・・・・・」
「もう確定よ! アヤトやゾンビより怖かったわ・・・・・・別の意味で!」
カイトの悲鳴に近い呻き声にフィーナが憤慨に近い叫びを上げる。
さらにヘコんでる奴が若干一名。
「強い・・・・・・強いけど・・・・・・ミラ姉ってこんなんだったっけ・・・・・・!?」
手と膝を地面に突いて綺麗なorz状態で嘆くメア。
確かにメアからすれば長年一緒に暮らしてきた姉的存在が、少し見ない間に中身が劇的ビフォーアフターを遂げてるのだからそうなるだろう。
そしてメア以外も今にも死にそうなグロッキー状態なのに対し、ミランダ本人はむしろ戦いの前よりテカテカと輝いて元気に見える気がする。
せっかくの綺麗な私服が弓や剣で引き裂かれ、あられもない状態となっているが全く気にしてない様子だった。
後でルナに直してもらえばいいんだけどさ・・・・・・。
そんな格好のまま気持ち良さそうに体を伸ばすミランダ。
「いやー、本当に・・・・・・」
そう呟くとミランダは満面の笑みを浮かべて俺の方へ向く。
嫌な予感しかしない。
「アヤト殿に会えて良かった!」
「やめろ、この流れでそんな良い台詞を良い笑顔で言うんじゃない!俺がお前に会った事を後悔しちまうだろうが・・・・・・」
「何を言っているんだ、私は貴殿に出会ってあらゆるものの見方が変わり、騎士のなんたるかを理解できたのだから」
そんな教えを説いた覚えはないのだが。
ミランダが言葉を続ける。
「騎士はすなわち主君の盾。盾とは己を維持しつつ主君を守護する事。つまりどんな強く卑劣な攻撃にも耐え忍ぶという事なのだ!」
明後日の方向を見てグッと拳を握り締めてそう宣言するミランダ。
一見正当っぽく述べてるが、こいつが言うと完全に別の意味と化してしまっている。実際別の意味で言っているのだろうし。
「という事でアヤト殿!」
キリッとした表情でこっちに向き直るミランダ。この後の言葉も話の流れからなんとなく想像できてしまうのが嫌だ。
「もっと私を痛ぶ・・・・・・罵・・・・・・盾としての耐久力を鍛えてくれ!」
「おい、今完全に言い逃れのできない本音が二つほど飛び出てたぞ」
もうやだこの娘・・・・・・なんでこんな変態の素質持ってるの・・・・・・?
親の顔が見てみたい・・・・・・いやダメだ。
忘れかけてたけど俺、ミランダをボコボコにしたからこうなってるのであって、多分親に会ったらきっと怒鳴られ殴られる。
それにもし同じ性質だったらもう手が付けられない。というか付けたくない、触りたくない。
まぁ、アルニアが普通っぽいからミランダだけだとは思うが。
・・・・・・って、なんで俺がミランダの事で悩まにゃならんのだ?
そもそもアイツが売ってきた喧嘩だ。
決闘だってやり過ぎと言ってもルールの範囲内で俺は正々堂々と相手をして打ちのめした。今の性格だって変にはなってるが前より丸くなってマシになってる。
何も後ろめたい事なんて・・・・・・。
「どうしたのだ、アヤト殿?」
考え事をしている俺を心配したのか、堂々と目の前に立つミランダ。
「もしかしてこれから私をどう痛ぶろうか考えてくれているのか?ならば私からのリスエストは前の決闘と同じように完膚なきまでに叩き潰してくれるか、それかこの回復魔術を解除して私の手足を縛り、殴ったり蹴ったりと少しずつ痛みを与えてくれたりするとゾクゾクするのだが・・・・・・」
ミランダは頬に手を添えてポッと赤らめる。
心配してくれてるのかと少しでも思った俺がバカでした。
ああ、ダメだ。このドMを俺が作ってしまったと考えたら何もかも後ろめたく思えてしまう・・・・・・。
「・・・・・・とりあえず、服着替えて来い」
「お? ・・・・・・ああ、それもそうだな。こんな格好で殿方の前に出るなど、恥知らずと呼ばれてしまうな」
「いや、もうすでに・・・・・・やっぱなんでもない」
「ん?」
俺が何を言い掛けたか気になったミランダだが、「もうすでに色々手遅れだ」という言葉を敢えて飲み込んだ。
手遅れっちゃ手遅れだが、まだそういう常識が頭にあるなら何も言わない方がいい。
下手な言葉を言って逆に吹っ切れられると、もう本当に見捨てるしかなくなる。
「そういえばあのお屋敷には鎧の類はあったかな?」
「ん?ああ、一応保管されてるな。俺たちは使う予定がないから放置してあるが。・・・・・・まさか?」
「とりあえずその鎧を貸してもらい、手合わせしましょう!」
ああ、やっぱり・・・・・・もうこれは諦めるしかないのか。
呆れながらも空間魔術で直接保管されてる場所に繋げ、鎧を取り出し渡す。
頭から足までの一式が揃った鎧。胴には何かの紋様の刺繍が入ったマントが付けられている。
「ほう、これは・・・・・・」
ミランダが珍しく真剣な顔で渡された鎧を眺め、感心するような声を漏らす。
俺の目からはそうでもないが、業物だったり珍しいものだったりしたのだろうか?
「何か面白いものでも付いてたか?」
「まぁ、面白いという意味では確かに見付けた。これを見てくれ」
ミランダが胴の部分を取って見せて来る。しかし何か珍しいものがあるわけでもない。
何を見せたいのか分からないので聞く事にした。
「何かあったのか?俺の目からじゃ他より劣った造りになってる事くらいしか・・・・・・」
「そう、それだ。これは私や他の騎士、それに冒険者が着ているような鎧よりも脆い。それによく見ると少しだけ装飾品が付けられているだろう?」
ミランダの言葉通り、パッと見は分からないくらいに少ないが、首の部分と手首のところに小さな宝石が埋め込まれてるのが見える。
「これは一応見栄は張っているが、「私自身は戦う気がない」という意思表示してると捉えられるんだ」
「・・・・・・なるほど。つまりあの屋敷の元の主人は相当良い性格をしてたってわけだ。まぁ、学園に自分のためだけに屋敷を建てるような奴だもんな」
「確かにそういう輩もいるにはいるな・・・・・・」
そう言って俺の言葉に苦笑いで返すミランダ。どうやら心当たりがあるようだ。
まぁ、だからと言ってなんだというわけでもないが。
そうしているうちにミランダがすでに鎧の着用を終えたようだった。
「では始めようか、アヤト殿!!」
「あー・・・・・・いや、相手は俺じゃない」
ミランダは「へ?」と間の抜けた声を出した。
「アヤト殿ではないなら一体・・・・・・?」
ミランダは小さく「ノワール殿かヘレナ殿だろうか?」と呟いているが違う。
俺は死にかけているカイトたちの方を向いて手をパンッと音を立てて合わせる。
「よし、お前ら! これから回復魔術を解除してミランダと戦ってもらう! 全力で挑め!!」
「・・・・・・え? ま、待て、アヤト殿・・・・・・メア様たちはさっきまで十分に戦っていたぞ!? それをこれからが本番のような言い方を・・・・・・」
「『本番のような』じゃない。本番だ」
そう言ってカイトたちを指差す。その光景にミランダは思わず息を飲んだ。
カイトたちはふらりと立ち上がると、息を切らしていたさっきまでとはまるで別人のような表情をしていた。
「これは・・・・・・一体どういう事だ・・・・・・!?」
「仮にも俺の弟子だ。さっきまでのは準備運動だったに決まってるだろ。・・・・・・まぁ、メアの状態が解けたのだけは予想外だったが」
最初よりもギアがかかって復活したカイトたちを見て困惑してるミランダに木刀じゃない新しい剣を渡す。
そんなミランダは不安と期待に満ちた恍惚とした顔でこっちを見てきたので、俺は笑顔で答える。
「逝ってこい♪」
0
お気に入りに追加
7,106
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。


【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。