最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

レナの挑発

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 「武人祭・・・・・・そうか、もうそんな季節か」

 気持ちの良い空気が流れるの中、俺の横でミランダが小さく呟いた。
 ここはいつもの魔空間で、目の前ではカイトたちがお互いと戦っている。
 カイトとメアとミーナの三人デスマッチ、フィーナとレナの遠距離バトル。
 カイトたちはともかく、フィーナの魔術とレナの弓が意外と良い勝負になってるのが面白かった。

 「ミランダは出た事はあるのか?」
 「まぁな。しかし決勝まで辿り着いたは良いが、優勝は叶わなかったんだ」
 「意外だな。あんたは結構優秀だって耳にしたんだが」

 意地悪い笑みを浮かべてミランダを見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめて頬を掻く。

 「ルビアだな? 全く・・・・・・そんな大層なものではないよ」
 「お?初めてあった時に喧嘩吹っ掛けて来た女の言葉とは思えない謙虚さだな」
 「アヤト殿・・・・・・君は結構根に持つタイプだな?」

 別に怒ってるとかそういうのではないが、やはり言いたくなってしまうのは人間の性だ。
 こいつも少し前までは「貴殿」などとよそよそしい呼び方だったが、「普通に接してくれ」と頼んだところ「君」という言い方に収まった。
 ミランダがやれやれと溜息を吐くとメアたちを見つめながら語り始める。

 「その時にはまだルノワール学園は建てられていなかった。だから私は他の学園の生徒だったんだ。その時も武人祭に団体戦で出場して決勝まで勝ち上がった。その時の私は変わらず自惚れていたからな、それも当然と思い、その決勝も勝つだろうと決め付けていた。だが蓋を開ければ相手チームの連携に私のチームメンバーはすぐに全滅して私だけが残ってしまった。もちろん善戦はしたが所詮試合。相手チームの強力な攻撃を一発受けて負けてしまった・・・・・・」

 そこで言葉を切り、俯いて落ち込む。
 そんなミランダを、というかこの空気を茶化したくなってしまった。

 「そん時のあんたなら負けたのは自分じゃなくチームメンバーが不甲斐ないせいだとでも言いそうだな」
 「・・・・・・」

 俺の言葉にミランダは何とも言えない顔をしてそっぽを向いてしまう。
 どうやら当たってしまっていたらしい。

 「言ったのかよ・・・・・・」
 「あの時の私はどうかしてたんだ・・・・・・」

 正直マゾ傲慢もどっちもどうかしてる、なんていうのは敢えて言葉にしない方がいいだろうな。

 「まぁ、そんな事もあって私の評価は下がり、次の年は出られなかったんだ」
 「なんとも面白い話だな」
 「君は・・・・・・いや、そう言ってもらえる方が気が楽でいいか」

 俺がケラケラと笑っているとミランダも苦笑する。
 それからはあまりコレと言った会話はなかったが、のんびりとした心地の良い時間が過ぎていった。
 するとミランダが重い内容の話を何気なくいきなりぶっ込んできた。


 「ところでアヤト殿、何やら我らの国ラライナとレギナンが戦争を起こすらしいが・・・・・・」

 チラチラと挙動不審にしながら聞いてくる。ちょっと鬱陶しい。

 「・・・・・・もしかして今日来た本題はソレか?」
 「まぁな。仰々しいのも良くないだろうと思って私服で来たが、貴方たちがあまりにも普通にしていたから話を切り出し辛くて・・・・・・」

 軽く笑って頬を掻くミランダ。

 「それで何が聞きたいんだ?国同士の戦争なのに俺個人のとこに来たって事は、何かあるんだろ?」

 ルークさんから事情を聞いたか、あるいはそうでなくとも手を貸せと言い出すかのどちらか。

 「ああ・・・・・・我が王から話は聞いた。貴殿にはこの絶望的な戦力差を埋める策がある、と」

 さっきまでの笑顔は消え、メアたちの方を見ながら神妙な顔をするミランダ。

 「ああ、ある。できるなら使いたくなかった策が」
 「教えてもらっても?」
 「当日までのお楽しみだ」

 お預けにしてやると残念そうに笑った。

 「戦争を楽しみになどしたくないな」
 「・・・・・・それもそうだな。だけどまぁ、秘密っつう事で。ルークさんのとこは何もしなくていいとだけ伝えてくれ」

 俺が言った言葉を聞いたミランダはありえないものでも見るような視線を向けて来た。

 「戦争なんだぞ? 人が死ぬんだぞ?」
 「かもな」
 「かもじゃない!」

 ミランダが立ち上がって憤慨する。
 しかし確かに怒ってはいるが、心配するようにその顔は歪んでもいた。

 「死なないさ。誰も死なせない。
 「・・・・・・「誰も死なない戦争」をすると? 話し合いにでも持ち込むつもりか?」

 ミランダの表情が少しだけ和らぐ。真意とまではいかなくても余計な誤解は解けたようだ。

 「いいや、下手をすれば戦争よりも悲惨な地獄を見せる事になる」
 「・・・・・・フッ、死体の山ができるよりも地獄があるのなら見てみたいものだ」

 皮肉気味に笑うミランダに軽く笑って返す。

 「実際目にして俺と初めて戦った時のような粗相するなよ?」
 「ンッ・・・・・・やっぱりアヤト殿は皆の言う通り鬼畜だな」

 そう言いつつもなんでコイツは頬を赤らめてんだよ!?
 多少の悪寒を感じながら、話がこれ以上発展しそうもないのでカイトたちの方へ視線を向ける。
 俺たちが話してる間もカイトたちはお互いに拳を混じり合っていた。

 「死ねぇぇぇい!」

 耳を傾けた第一声がメアの奇声だったのが少し残念だが。

 「なんですか死ねって!? それで割と本気で殴らないでください!」
 「死んじゃえー」
 「そっちも軽く便乗しないでーーぶほっ!」

 メアの拳はギリギリ避けるが、ミーナの飛び膝蹴りが顔面に直撃してしまうカイト。それでもめげずに立ち上がる。
 しかしカイトが前に見せた領域の兆候が今は見られないのが残念だ。
 ・・・・・・というか、いつの間にか既に二対一の男女対決になっている。
 どうせならメアと二人、ミーナと二人ってのもやってほしいんだがな・・・・・・。

 そう思いながらもう一組の方を見る。

 「■■ーーアイシクル!」
 「ッ・・・・・・やぁっ!」

 フィーナは人くらいの大きさの氷柱をいくつも出現させて容赦なくレナへと放つ。
 レナはその氷柱を走って回避しながら弓を引く。
 二、三本の矢を一気に放ち、それぞれがバラバラな曲線を描きながらも氷柱の隙間を通り抜け、フィーナのいる場所へと飛んでいった。

 「チィッ!?」

 フィーナは舌打ちをし、間一髪のところで避ける。
 しかしレナは休む間も与えようとせず、次から次へと矢を放っていた。
 それら全てが一つも外れる事なくフィーナに向かっていった。

 「クッ・・・・・・弓なんて当たらなければどうって事ないのに、全部的確に当ててくる・・・・・・! これじゃあ詠唱する時間なんて・・・・・・」

 そんな事を言いつつもフィーナはちゃっかり無詠唱の小規模魔術をチマチマと放っていた。
 しかし威力はともかく、手数と速さ、的確さで圧倒的にレナが優位に立っている。
 フィーナも負けじと魔法魔術を放つが、何せ精度が悪い。
 レナの周囲を氷漬けにして足場を悪くしてはいるが、修行の成果の一つでもあるのかレナは気にせず走行をし続けていた。

 「あー、もう! なんであんたそんなに強くなってんのよ!? 厄介ったらないわ!」
 「あ、ありがとうござい、ます! ・・・・・・フィーナ、さんも、本気出して、いいんです、よ?」
 「・・・・・・あ、そう」

 レナの謙虚な言葉にフィーナの様子が一変する。
 あ、ヤバい。
 フィーナからしたら「これで本気じゃないの?」と言われたのと同等なのだろう。
 目が本気だった。

 「いいじゃない・・・・・・本気でやってあげるわよ!」

 そう言ってポケットから俺が渡した手袋を出して着けた。
 魔力を何倍にも増幅させる効果がある手袋だ。レナや他の奴らはちょくちょく俺の渡した物を使っていたが、フィーナは中々使ってくれなかったので、やっと使ってくれたと思うと嬉しかった。
 ソレを見たレナも微笑んで持っていた弓を置き、手に着けているドレスグローブを着けた腕を前に突き出す。
 するとそこからひも状の黒いものがシュルシュルと出てきて大きな弓の形となった。
 あれから使用しているうちに使いこなせるようになっていたようだった。そう、あのドレスグローブはあの大弓を収納するケースのような存在となっているのだ。
 つまりミーナの腕に付けている双剣を収納している物と同じく擬装して持ち運べるという事でもある。
 ・・・・・・というか、レナのさっきの挑発的な発言はわざとか。
 レナの口元がほくそ笑むように口角が上がったのを見てそう理解した。
 レナがそんな積極的だった事に驚いたが、特に問題ないと放置する事に決めた。
 しかし周りはそうは思っておらず、漂う不穏な空気を感じてメアたちの動きが止まる。

 「レ、ナ・・・・・・?」
 「おい・・・・・・あれ、ヤベぇんじゃねえの?」
 「二人共・・・・・・本気?」

 メアとカイトが不安がる中、ミーナは俺の様子を伺って何かを納得したようだった。
 そしてフィーナとレナの戦いが再び始まる。

 ☆★☆★
 文章の書き方を全体的に変更してみました。
 読みにくいというコメントがあれば元に戻します。
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