197 / 303
武人祭
レナの挑発
しおりを挟む「武人祭・・・・・・そうか、もうそんな季節か」
気持ちの良い空気が流れるの中、俺の横でミランダが小さく呟いた。
ここはいつもの魔空間で、目の前ではカイトたちがお互いと戦っている。
カイトとメアとミーナの三人デスマッチ、フィーナとレナの遠距離バトル。
カイトたちはともかく、フィーナの魔術とレナの弓が意外と良い勝負になってるのが面白かった。
「ミランダは出た事はあるのか?」
「まぁな。しかし決勝まで辿り着いたは良いが、優勝は叶わなかったんだ」
「意外だな。あんたは結構優秀だって耳にしたんだが」
意地悪い笑みを浮かべてミランダを見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめて頬を掻く。
「ルビアだな? 全く・・・・・・そんな大層なものではないよ」
「お?初めてあった時に喧嘩吹っ掛けて来た女の言葉とは思えない謙虚さだな」
「アヤト殿・・・・・・君は結構根に持つタイプだな?」
別に怒ってるとかそういうのではないが、やはり言いたくなってしまうのは人間の性だ。
こいつも少し前までは「貴殿」などとよそよそしい呼び方だったが、「普通に接してくれ」と頼んだところ「君」という言い方に収まった。
ミランダがやれやれと溜息を吐くとメアたちを見つめながら語り始める。
「その時にはまだルノワール学園は建てられていなかった。だから私は他の学園の生徒だったんだ。その時も武人祭に団体戦で出場して決勝まで勝ち上がった。その時の私は変わらず自惚れていたからな、それも当然と思い、その決勝も勝つだろうと決め付けていた。だが蓋を開ければ相手チームの連携に私のチームメンバーはすぐに全滅して私だけが残ってしまった。もちろん善戦はしたが所詮試合。相手チームの強力な攻撃を一発受けて負けてしまった・・・・・・」
そこで言葉を切り、俯いて落ち込む。
そんなミランダを、というかこの空気を茶化したくなってしまった。
「そん時のあんたなら負けたのは自分じゃなくチームメンバーが不甲斐ないせいだとでも言いそうだな」
「・・・・・・」
俺の言葉にミランダは何とも言えない顔をしてそっぽを向いてしまう。
どうやら当たってしまっていたらしい。
「言ったのかよ・・・・・・」
「あの時の私はどうかしてたんだ・・・・・・」
正直今も昔もどっちもどうかしてる、なんていうのは敢えて言葉にしない方がいいだろうな。
「まぁ、そんな事もあって私の評価は下がり、次の年は出られなかったんだ」
「なんとも面白い話だな」
「君は・・・・・・いや、そう言ってもらえる方が気が楽でいいか」
俺がケラケラと笑っているとミランダも苦笑する。
それからはあまりコレと言った会話はなかったが、のんびりとした心地の良い時間が過ぎていった。
するとミランダが重い内容の話を何気なくいきなりぶっ込んできた。
「ところでアヤト殿、何やら我らの国ラライナとレギナンが戦争を起こすらしいが・・・・・・」
チラチラと挙動不審にしながら聞いてくる。ちょっと鬱陶しい。
「・・・・・・もしかして今日来た本題はソレか?」
「まぁな。仰々しいのも良くないだろうと思って私服で来たが、貴方たちがあまりにも普通にしていたから話を切り出し辛くて・・・・・・」
軽く笑って頬を掻くミランダ。
「それで何が聞きたいんだ?国同士の戦争なのに俺個人のとこに来たって事は、何かあるんだろ?」
ルークさんから事情を聞いたか、あるいはそうでなくとも手を貸せと言い出すかのどちらか。
「ああ・・・・・・我が王から話は聞いた。貴殿にはこの絶望的な戦力差を埋める策がある、と」
さっきまでの笑顔は消え、メアたちの方を見ながら神妙な顔をするミランダ。
「ああ、ある。できるなら使いたくなかった策が」
「教えてもらっても?」
「当日までのお楽しみだ」
お預けにしてやると残念そうに笑った。
「戦争を楽しみになどしたくないな」
「・・・・・・それもそうだな。だけどまぁ、秘密っつう事で。ルークさんのとこは何もしなくていいとだけ伝えてくれ」
俺が言った言葉を聞いたミランダはありえないものでも見るような視線を向けて来た。
「戦争なんだぞ? 人が死ぬんだぞ?」
「かもな」
「かもじゃない!」
ミランダが立ち上がって憤慨する。
しかし確かに怒ってはいるが、心配するようにその顔は歪んでもいた。
「死なないさ。誰も死なせない。そういう策なんだから」
「・・・・・・「誰も死なない戦争」をすると? 話し合いにでも持ち込むつもりか?」
ミランダの表情が少しだけ和らぐ。真意とまではいかなくても余計な誤解は解けたようだ。
「いいや、下手をすれば戦争よりも悲惨な地獄を見せる事になる」
「・・・・・・フッ、死体の山ができるよりも地獄があるのなら見てみたいものだ」
皮肉気味に笑うミランダに軽く笑って返す。
「実際目にして俺と初めて戦った時のような粗相するなよ?」
「ンッ・・・・・・やっぱりアヤト殿は皆の言う通り鬼畜だな」
そう言いつつもなんでコイツは頬を赤らめてんだよ!?
多少の悪寒を感じながら、話がこれ以上発展しそうもないのでカイトたちの方へ視線を向ける。
俺たちが話してる間もカイトたちはお互いに拳を混じり合っていた。
「死ねぇぇぇい!」
耳を傾けた第一声がメアの奇声だったのが少し残念だが。
「なんですか死ねって!? それで割と本気で殴らないでください!」
「死んじゃえー」
「そっちも軽く便乗しないでーーぶほっ!」
メアの拳はギリギリ避けるが、ミーナの飛び膝蹴りが顔面に直撃してしまうカイト。それでもめげずに立ち上がる。
しかしカイトが前に見せた領域の兆候が今は見られないのが残念だ。
・・・・・・というか、いつの間にか既に二対一の男女対決になっている。
どうせならメアと二人、ミーナと二人ってのもやってほしいんだがな・・・・・・。
そう思いながらもう一組の方を見る。
「■■ーーアイシクル!」
「ッ・・・・・・やぁっ!」
フィーナは人くらいの大きさの氷柱をいくつも出現させて容赦なくレナへと放つ。
レナはその氷柱を走って回避しながら弓を引く。
二、三本の矢を一気に放ち、それぞれがバラバラな曲線を描きながらも氷柱の隙間を通り抜け、フィーナのいる場所へと飛んでいった。
「チィッ!?」
フィーナは舌打ちをし、間一髪のところで避ける。
しかしレナは休む間も与えようとせず、次から次へと矢を放っていた。
それら全てが一つも外れる事なくフィーナに向かっていった。
「クッ・・・・・・弓なんて当たらなければどうって事ないのに、全部的確に当ててくる・・・・・・! これじゃあ詠唱する時間なんて・・・・・・」
そんな事を言いつつもフィーナはちゃっかり無詠唱の小規模魔術をチマチマと放っていた。
しかし威力はともかく、手数と速さ、的確さで圧倒的にレナが優位に立っている。
フィーナも負けじと魔法魔術を放つが、何せ精度が悪い。
レナの周囲を氷漬けにして足場を悪くしてはいるが、修行の成果の一つでもあるのかレナは気にせず走行をし続けていた。
「あー、もう! なんであんたそんなに強くなってんのよ!? 厄介ったらないわ!」
「あ、ありがとうござい、ます! ・・・・・・フィーナ、さんも、本気出して、いいんです、よ?」
「・・・・・・あ、そう」
レナの謙虚な言葉にフィーナの様子が一変する。
あ、ヤバい。
フィーナからしたら「これで本気じゃないの?」と言われたのと同等なのだろう。
目が本気だった。
「いいじゃない・・・・・・本気でやってあげるわよ!」
そう言ってポケットから俺が渡した手袋を出して着けた。
魔力を何倍にも増幅させる効果がある手袋だ。レナや他の奴らはちょくちょく俺の渡した物を使っていたが、フィーナは中々使ってくれなかったので、やっと使ってくれたと思うと嬉しかった。
ソレを見たレナも微笑んで持っていた弓を置き、手に着けているドレスグローブを着けた腕を前に突き出す。
するとそこから紐状の黒いものがシュルシュルと出てきて大きな弓の形となった。
あれから使用しているうちに使いこなせるようになっていたようだった。そう、あのドレスグローブはあの大弓を収納するケースのような存在となっているのだ。
つまりミーナの腕に付けている双剣を収納している物と同じく擬装して持ち運べるという事でもある。
・・・・・・というか、レナのさっきの挑発的な発言はわざとか。
レナの口元がほくそ笑むように口角が上がったのを見てそう理解した。
レナがそんな積極的だった事に驚いたが、特に問題ないと放置する事に決めた。
しかし周りはそうは思っておらず、漂う不穏な空気を感じてメアたちの動きが止まる。
「レ、ナ・・・・・・?」
「おい・・・・・・あれ、ヤベぇんじゃねえの?」
「二人共・・・・・・本気?」
メアとカイトが不安がる中、ミーナは俺の様子を伺って何かを納得したようだった。
そしてフィーナとレナの戦いが再び始まる。
☆★☆★
文章の書き方を全体的に変更してみました。
読みにくいというコメントがあれば元に戻します。
0
お気に入りに追加
7,103
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強超人は異世界にてスマホを使う
萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。
そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた――
「……いや草」
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。