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武人祭
返事
しおりを挟む人気のない校舎裏。
校舎の影が強いせいか夏だというのにヒンヤリとした風が吹く場所。
そんな場所で俺は正面にいる少女と対峙している。
相手の少女は今にも泣き出してしまいそうな真っ赤な顔をして伏せてしまっていた。
その少女が何を覚悟したのか、俯いていた顔を上げて真っ直ぐ見つめて来る。
そしてその重い口を開けーー
「・・・本当に来ていただけたんですね」
「まぁな。あんま逃げるのは好きじゃないし」
「あ、ありがとうございます!朝も伝えましたが・・・もう一度伝えさせていただいてもよろしいでしゅうか?」
相当緊張しているらしく、予想以上にかしこまった話し方で更に噛みながらそう言った。
少女も今の失態を恥じて赤かった顔を更に赤くして茹でダコのような顔になってしまった。
その少女は朝の告白騒動の発端となった一番最初に告白して来た奴だ。
俺は特に茶化す事なく頷いた。
するとにっこりと笑みを浮かべて小さく再び「ありがとうございます」と呟かれる。
「では今一度」
すぅっと少女が大きく息を吸い、そして真剣な眼差しで俺を見据える。
「貴方の事が好きです。私と・・・私と付き合ってください!」
渾身の一撃とも言うべき大声で告白を叫ばれる。
全ての息を吐き出したようで、言い切った後息切れを起こしていた。
まさに彼女にとって今世紀最大の告白なのだろう。
一応少女の呼吸が整うまで待ち、そして俺も告げる。
「ありがとうな、そんな一生懸命に。だからその想いに応えよう。悪い、お前とは付き合えない」
「・・・・・・そう、ですか。いえ、私なんかの告白に付き合っていただきありがとうございます!」
俺が伝えた言葉に少女は大粒の涙をポロポロと流しながら笑みを作った。
「「なんか」とか言うな。ソレが本物なら人の想いに格差なんてない。だから伝えられた事を誇れ。そんで「次がある」と図太く生きろ。そうすれば次の糧となるさ」
俺の言葉に返事はなく、少女は頭をぺこりと下げてその場から去って行った。
少女を見送ると手を腰に当てて軽く溜息を吐いてしまう。
告白された側もする側程じゃないにせよ疲れる。
贅沢な文句ではあるとは思うが、「どう言えば相手を傷付けないで済むか」と考えてしまう。
断る時点で傷付けてしまう事は確定しているのだが、それでも言葉を選ばなければならない。
せめて、あの少女が次の恋に進めるように。
「お疲れ」
俺の後ろからミーナに声を掛けられる。
振り向くと他の面子も顔を揃えて立っている。
カイトやレナは少し恥ずかしがっているのか赤面していて、ノワールとココアは物珍しそうに、メアは何故か申し訳なさそうなど悲しい表情をしていた。
ヘレナは特にコレといった興味もなさそうにしているのは・・・まぁ、いつもの事だ。
「・・・良かったのか?今の子結構可愛かったけど」
何を血迷ったのか、メアがそう言った。
コイツは俺にハーレム王にでもさせる野望でもあるのだろうか?
なんて考えが頭をよぎりながらも分かり切った答える。
「当たり前だ。知らない奴を見た目だけでOKするわけねえだろ・・・それよりも用は済んだんだからさっさと帰るぞ」
「アレ、今の人だけですか?朝はあんなに・・・」
カイトが心配そうに聞いて来る。
コイツは優しいから全員一人一人に断りを入れようとするだろうな。
そして一部のからかっている奴らにバカにされて落ち込む、と。
・・・とはいえ、人の感情を察する事ができなければ俺もどうなった事だかな。
「さっきの奴だけだよ、本気だったのは。他の奴は便乗して言っただけ適当な奴だったから別にいいだろ」
「・・・本気じゃ、なかったんだな・・・」
横に来たメアが俺の腕にギュッと力強く自分の腕を絡ませて来る。
顔は俯いて分からないが、なんとなく怒ってるような感じがした。
「他の女から告られても嫉妬しないのに告白が本気じゃなかったら怒るとか・・・俺の知ってる女の反応とかなり違うと思うんだが?」
「そうか?・・・確かに普通は嫉妬とかするかもだけど、俺は・・・好きな男が告白されたりしてたら「やっぱり俺が好きになったのは間違ってなかったんだな~」って気持ちになるし、好きでもないのに告ってんのとか見ると・・・なんか腹立つ」
「・・・なんか凄いッスね、メア先輩って」
「う、ん・・・純粋に師匠、を好きなんだな、って分かるね・・・」
カイトもレナも顔が赤くなってしまっている。
その後ろではノワールたちが微笑ましい光景を見るような顔をしていた。
「うふふ、私にも負けない純粋な愛ですわ♪」
「愛でしたらヘレナたちも負けていません」
「もちろんです!そこら辺の小娘に負ける筈ありませんし、メア様にだって負けていませんわ♪」
そんな楽しそうな談笑が聞こえる中、俺たちは俺たちの屋敷へと着いた。
ーーーー
「あ、おかえり兄さん!」
「おかえりなさいませ、旦那様。私たちもただいま戻りました」
家に入ると玄関のところで早速ノクトとイリーナに出会った。
イリーナの言う通りノクトたちも丁度今帰ったようで、靴を脱ごうとしてる最中だった。
奥からはウルとルウ、クリララがやって来る。
「おかえりなさいませです(なの)!」
「皆さんおかえりなさいだで。ご飯はどうする?」
「そうだな・・・腹はまだ大丈夫だからもう少し時間をズラして作ってくれ」
「また修行だか?」
「おう。だから作るのは二時間くらい後でいいぞ」
「ほいほい。あんま怪我しないようにーーって、そげな心配要らんか」
「怪我するわけない」という意味ではなく「回復魔術で治るかからという意味で言うクリララ。
「まぁな」とだけ言って靴を脱いで家に上がる。
するとすぐに玄関の扉がノックされた。
その音に釣られたのか、居間からユウキとエリが顔を覗かせる。
「おー、おかえりー。って、ノクトとイリーナさんも帰ったんだ?・・・どしたん?」
扉のノックが気になって玄関にいるメンバーが全員そっちに目を向けている事が気になったユウキが聞く。
グレイたちなどはこの家から出る筈がないし、そもそもここに住んでいる奴らはノックなどしない。帰ったら扉を開けてただいまを言うだけ。
だとするとここに住んでる奴じゃない。
誰だろうと扉を開けてみると、そこにはアルニアとミランダが立っていた。
「やぁ」
「また寄らせてもらせてもらったぞ」
「・・・いらっしゃい」
「どうした?」とか「なんでここにいるの?」という質問はもうし飽きた。
夏休み中もだが、毎回この姉妹がやって来て言う言葉は大体「たまたま偶然近くに来たから」などだ。
ミランダなんて最近来る時の格好が完全に女性らしくなっている辺り、もはや騎士の仕事を忘れてるんじゃないかとも思う。
それにどうせ今日も来たくて来たんだろうから何も言わない。
来ちまったんなら修行に付き合ってもらうだけだ。
「・・・とりあえず飯と修行、付き合ってもらうぞ」
「うんっ!」
「ミランダ様。またお料理の方を・・・」
「ああ、任せてくれイリーナ殿」
アルニアとミランダを加え、俺たちも着替えた後に魔空間へ行く。
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