最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

文字の大きさ
上 下
194 / 303
武人祭

先生を

しおりを挟む


 ☆★カイト★☆


 「・・・なんだか凄い事になってるな」


 胡座あぐらをかきながら小さく呟く。
 前方には先生の代わりとなって生徒たちの魔法魔術受ける師匠がいる。
 受けると言っても生身で受けているわけじゃなく、師匠の目の前で魔法魔術が爆発して散っているのである。
 多分空間魔術の応用なんだろうけど、他の人から見たらどうなってるのかサッパリだろう。
 実際俺の目にもそうとしか見えない。
 だからと言うのもあり、最初は遠慮していた他の生徒たちもソレを見て次々と魔法を放ち始めていた。


 「どうなってんのアレ!?」

 「アレに似てない?ほら、学園長先生が使ってたスキル!」

 「魔法無効化か!なら遠慮しなくて良いわね!」

 「えっ、それじゃあ夏休み中に課題で作った魔術の試し撃ちも・・・?」

 「ほらほら、早く次撃って!せっかく課題の成果を試せるんだから!」


 先輩たちからそんな声が聞こえて来る。
 そしてその人たちを相手にしている師匠はというとーー


 「おー撃て撃てー。お前らの夏休みの成果はそんなものかー」


 やる気のない声で喝のような言葉を投げ掛ける。
 確かに修行とは違ってただ受け身に徹するというのは暇なのかもしれないが。
 すると師匠の視線が気絶している先生に向き、「あっ」と声を漏らす。


 「おーい、誰かあの気絶してる先生を保健室ーーじゃなかった。治療室に運んでくれ。中等部でも高等部の奴でもいいから」


 師匠が言い間違えそうになったのは治療室。
 怪我をした生徒に軽い手当をする場所だ。
 師匠の世界の学校だと保健室と言うらしい。


 「「・・・・・・」」


 しかし師匠の言葉に誰も手を挙げる事はなかった。
 そんな状態に師匠が眉をひそめる。


 「え、誰もいないの?なんで?そんなにこの先生嫌われてるの?」


 いいえ、違います師匠。
 みんな先生が嫌いだとか面倒だからとかじゃなくて、師匠たちの戦いを見てみたいという好奇心から誰も行きたがらないんです。


 「仕方ねえな・・・じゃあ、カイト!それも誰かもう一人男子が付いて先生を運べ!」


 師匠に名指しされて俺のクラスのほとんどが「またお前か」という視線を向けて来た。


 「俺ですか?じゃあ・・・シン、行くぞ」

 「ん?え、俺?」


 横にいたシンに声を掛けると「なんで?」と驚いた表情をされる。
 だけどそんな事お構いなくシンの腕を強引に引っ張る。
 そうして流されるままのシンを連れて二人で担いだ。
 治療室まで運んでる途中、俺が師匠に名指しされたのが気になり過ぎているようで、シンがチラチラとこちらを見てきていた。


 「・・・言いたい事があるなら言えって」

 「あー・・・あの先輩って凄いよなーって」

 「それだけか?」

 「それだけって?」


 何か気不味いのか、直接言おうとせずオドオドしている。
 あまりに女々しく鬱陶しいので、呆れて溜息を吐きながらこっちから話を聞きやすくする事にした。


 「・・・俺とあの人がどういう関係かって思ってるんだろ?」

 「うっ・・・ま、まぁな」


 確かについ最近冒険者のSSランクになった人から当たり前のように声を掛けられるというのは気になってしょうがないのだろう。

 自慢するつもりはないが、あまり横でソワソワされても気持ち悪いだけなので白状する。


 「あの人が俺の師匠だよ」

 「・・・マジで?」

 「ああ。元々夏休み前の模擬戦の時に偶然チームが一緒になって、その時にあの人の強さを知って弟子入りしたってわけだ。おかげで今では毎日死にそうな修行を付けてもらってるよ」


 軽く苦笑いして言う。
 確かに死にそうではあるが嫌ではない。
 確実に前までできなかった事ができるようになり、自分が強くなっているのが感じられる。
 そして同時に、師匠の底知れない強さを実感する。
 師匠以外の人と手合わせしてみて自分の強さを確認し、そして師匠と戦い己の無力さを確認する。
 その繰り返しだ。
 どれだけ手を伸ばそうとも届く気がしない感覚。
 でもだからこそ、その底なしの強さに俺は惚れたんだ。


 「運か・・・いや、でもやっぱそこまでの向上心は俺にはねえよ。仮に俺があの人と同じチームになったとしても、「弟子にしてください」なんて言わなかっただろうな」

 「だったらそんなんでズルいとか言ってんじゃねえよ」

 「ズルいもんはズルいだろ!それに・・・なぁ?」


 するとシンはニヤニヤとしながら意味深な事を言う。
 その時にちょっとイラッと来たのは言うまでもない。


 「なんだよ」

 「その人んとこであんな可愛い子と知り合ったんだろ?」

 「可愛い子・・・?」


 一瞬本気で「誰?」と思ってしまったが、チユキさんが教室にやって来て騒ぎを起こした事を思い出し、「ああ!」と大きめの声を出してしまった。
 シンの言っている可愛い子とは多分チユキさんの事だろう。
 見た目は確かに可愛らしいが、本性を知っている俺たちからすれば「可愛いい」というより「恐ろしい」だったので、すぐには気が付かなかった。


 「チユキさんの事か・・・言っとくけどあの人俺たちより年上だからな?」


 それも十、二十歳どころじゃない年上のお方だ。


 「そっか、年上のお姉さんか!小さいのに年上で可愛いとか羨ましいな!」

 「あ、そう。なんならあの人の愛情をお前にも分けてやりてえよ」

 「何をー!?彼女ができたからって調子に乗りやがって!」


 いや、本当に。
 自分を殺した相手に愛されるとか、普通全力で逃げたくなるだろ。
 俺が逃げないのは師匠がいる安心感とチユキさんからは逃げられないという確信があるからだ。
 あの人なら文字通り地の果てまで追い掛けて来そう。
 そんな会話をしていると担いでいる先生から「うぅ・・・」と呻き声が聞こえた。


 「・・・ここ、は・・・?」

 「あっ、先生。気が付きました?」

 「君たちは・・・中等部の・・・」

 「カイトです。歩けますか?」

 「あ、ああ・・・俺は一体?」


 多少フラフラして危なっかしかったが、先生はなんとか体勢を持ち直して立った。


 「先生は師匠との・・・高等部のアヤト先輩と戦って負けたんですよ」

 「そうか・・・俺はあの子に何をされたか分からなかったが、お前たちは見えたか?」

 「いいえ、全く」


 先にシンが答える。
 恐らくあの場にいたほとんどの生徒が見えていなかったのだろう。
 しかし少なくとも俺はなんとなく見えていた。


 「先生の首に手刀が当てられてましたよ」

 「何?君には見えていたのか!?」

 「・・・まぁ」


 だってここ最近毎日間近で見てますもん。
 そりゃ嫌でも見えるようになりますよ、はい。


 「それはともかく。どうします?今先生を治療室に運ぼうとしていた途中でしたが」

 「あ、ああ・・・そうだな。一旦休ませてもらうとするか。・・・いやだが、授業が・・・」

 「一応今アヤト先輩が代わりに授業っぽい事をしていますよ」

 「そうかそうか!あの生徒には色々と悪い事をしてしまったな!しかしこのままでは授業にならないだろう。あとは自習だと伝えてくれ」

 「分かりました。・・・先生も治療室に行った時に生徒にやられたなんて言わないでくださいよ?」

 「もちろんだとも!俺としても敗けた事よりも生徒に勝負を仕掛けた事がバレたら減給されちまうからな!いやだが、本当に良い経験になった!アッハッハッハッハッ!!」


 調子が戻った先生は豪快に笑いながら自分の足で治療室へと向かった。
 だったらやらなきゃいいのに、と思いながらシンと共に体育館へ帰る。
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。 そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた―― 「……いや草」

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。