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夏休み
取り扱い注意
しおりを挟む「それじゃ、今度はコイツらを使っての修行だ」
カイトたちの魔法訓練を一旦終わらせ、ノワールとランカが作った人形の影モンスターを百前後俺の後ろに待機させる。
ちなみにミーナは魔力切れで動けないため、俺が背負っている。
「ソレって師匠たちが作ったんですか?」
「いや、俺は作ってない。というか作れない」
「えっ、師匠でもできない事あったんですか!?」
心底驚いたという感じのカイト。
俺ってそんな完璧なイメージあった?
・・・と言っても、「今は」という言葉が付くだけで魔術自体は発動できると言われた。
言ったのはノワール。
ノワールが言うにはこの魔術にはある条件が必要で、その条件とは影魔術で取り込んだ生物の数だけ作る事ができるらしい。
影魔術って言ったら多分魔族大陸の村でノワールが使ったものやグランデウスにランカが使ったものがそうだろう。
つまり、こういう奴らを作るには特定の魔術で取り込み殺さなくてはならないというわけだ。
「まぁな。そういうわけで今ここにいるのはノワールとランカが出した奴らだ」
「なんか凄いおぞましいんだけど・・・大丈夫なの?」
「おぞましいのは闇の魔術特有の特徴です。なのでこの魔術で作られた我が配下たち自体は無害で問題ないので安心してください」
フィーナの不安にランカが答える。
そしてその言葉に俺が付け足す。
「無害っつっても、今からコイツらをお前らに襲わせるんだが」
「「えっ?」」
何人かの声が重なって聞こえる。
すると間もなくノワールが指をパチンと鳴らし、待機していた影たちが動き出した。
カイトたちから「ヒッ!?」と小さく聞こえる。
それもそうだ、影たちの動きはゆっくりのっそりと歩く、まるでゾンビのようなのだから。
遅くも確実に近付いて来る影たちにたじろぎながらも武器を構えるカイトたち。
唯一ユウキだけがワクワクした表情で周囲に武器を現し、逆にあーしさんはあまりの恐怖にどうしていいか分からずパニック寸前になっていた。
そんなカイトたちの姿を俺は映画でも見てるかのようにワクワクしながら傍から見守る事にした。
ーーーー
☆★カイト★☆
師匠やノワールさんの間を抜け、ユラユラとしながらも確実にゆっくりこっちに向かって来る黒いナニカ。
強そうには見えないが背筋が凍るような悪寒に襲われる。
人のような、そして魔物のようなソレらは見てるだけで恐怖を感じさせるものだった。
しかしそれも仲間がいれば怖さも軽減されーー
「・・・あれ?」
さっきまで右にいた筈のメア先輩がいなくなっていた。
反対側も、そして周囲からもメア先輩、フィーナさん、エリさんが消えていた。
レナも俺と同様に「あれ?」と周りを見渡している。
そして見付ける。
俺たちの遥か後方に三人の後ろ姿があった。
「えぇ・・・」
「アイツら逃げやがったな・・・ノワール」
「はい。まだいくらでも出せます」
「んじゃ、とりあえず犬を三十くらいで追い掛けさせとけ」
「かしこまりました」
その会話の後に更に増え、犬の形になって俺たちの間を物凄い速さで抜けてフィーナさんたちを追い掛けて行った。
どうやら逃げたら更なる恐怖に襲われるとこだったらしい。
良かったと心の底からホッと安心していたが、いつの間にか影たちの距離が縮んですぐそこまで来ていた。
「「~~~~・・・・・・」」
ソレらからは何かボソボソと呟いているのが聞こえ、そしてーー
「■■■■■■ッ!!」
魔法や魔術の詠唱の時とはまた別の言葉を叫びながらソレらはいきなり襲って来た。
両手を前に突き出し、何も無かった顔の部分が口のように大きく広がり、まるで俺たちを食おうとしているかのようだった。
さっきまでとは違い、急に早くなったソレらに対して咄嗟の事で反応が遅れてしまった。
「カイト君!」
レナの力強い声と共に矢がソイツらの内の一匹の胸の心臓部に突き刺さった。
「ヴゥ・・・?」
「・・・嘘だろ?」
しかし突き刺さった矢を一瞥すると気にした様子もなくそのまま再び襲い掛かって来る。
驚きはしたものの、レナのおかげで今度は反応する事ができた。
「おお、注文通りか?」
「ええ、特定の部位以外に攻撃しても大したダメージにはならないようにしました。再生もしませんが、腕や足を斬り飛ばしたところで這いずってでも襲いに行くでしょう」
攻撃を躱しつつも師匠たちの言葉に耳を傾けた。
え?今なんて言った?
特定の部位以外攻撃が効かない?
アハハーやめてくださいよー、そんな危険種の「ゾンビ」みたいな・・・ーー
「よし、まさにゾンビだな!」
ゾンビだったぁぁぁ!!
危険種「ゾンビ」。もしくはグールとも呼ぶ。
メアさんたちが戦ったと言っていたギュロスと同じ危険種に指定されている魔物。
人間の腐った死体がそのまま歩いているようなもので、生物ならなんでも襲って食らうという恐ろしい生き物。
弱点は頭を吹き飛ばせば良いのだが、時間が経つにつれて動きが俊敏になっていく傾向があるので、生まれたてか見付かる前に潰す、手に余ると感じたらすぐに逃げなくてはならない。
そして何よりも恐ろしいのは噛まれてしまったら即死し、ゾンビと同じ腐った死体となる事だ。
別に噛まれたら奴らの仲間になるとかはないが、即死な上にそんな最後を迎えたくないと誰もが思うに決まってる。
そんなゾンビを模倣したものを作るなんて・・・分かってやってるのだとしたらなんて悪趣味なのだろう・・・。
しかし、逆に言えばゾンビを模倣したのだとしたら弱点は頭で決まりだ。
・・・決まり・・・なのだが・・・。
一体のゾンビの頭を斬り飛ばし、やってくる他の影を見ると前方を埋め尽くす程ゾロゾロとやって来る。
多い。
師匠たちは百前後の数だと言っていたけれど、密集してるせいか多い気がする。
いや、そんな筈ーー
「ほら、お前ら。早く倒さねえと十分毎に五十体ずつ増やしてくからな」
そう言った師匠の傍らでノワールさんとランカさんが次々とゾンビの影を作成していた。
気のせいじゃなかったよ・・・。
「クソォォォ!!」
剣を抜いて半ばヤケクソに突っ込む。
すると横に張り付くようにユウキさんがいた。
「ユウキさん?」
「俺も加勢するよ」
「ユウキも参加するのか?」
ユウキさんの行動に疑問を持った師匠がそう問い掛ける。
「おうよ!ま、俺の場合は修行っていうより遊びに近いけど」
そう言ったユウキさんの手には拳銃が握られていた。
あの「見えない弾丸」を出す武器。
ユウキさんはソレを前方に構え、引き金を引いた。
ーーパァン!
大きな音が鳴り響く。
その武器から弾が放たれた音だ。
しかし見る限り、前からやってくる影たちの一人も倒れた様子がなかった。
それどころか横にいた筈のユウキさんが消え、斜め後ろの方で転がって倒れていた。
「「あれぇ?」」
俺とユウキさんの二人で「何故?」という疑問が頭に浮かんだ。
「はぁ・・・そりゃ素人が使ったらそうなるに決まってるだろ。動画とかで見なかったのか?素人が銃を使って顔面にぶつけたり転んだりしてたのを。慣れもしない物を本番で使えるわけねえだろ」
「えぇ、コレってそんなに反動あるの?腕がちょっと上がるだけかと思ってた・・・」
そう言って呆然と空を眺め出すユウキさん。
・・・えっ?
つまり・・・コレ全部を結局一人でやるという事に?
「■■■■■■ッ!!」
「いやぁぁぁぁ!?!?」
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