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夏休み

お試し

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 「■■■■ーー神衣」


 長い詠唱を得てミーナが魔術を発動する。
 体中に電気と風を纏い、その眩い発光でミーナの髪が白く見え、元々赤かった目が更に妖しく光る。
 まるでスーパーサ◯ヤ人だ。


 「じゃ、ついでに戦闘力も測っとくか?」

 「ん」


 ミーナは短く呟いてその場から消える。
 とは言っても実際消えたのではなく、凄まじいスピードで移動しているだけで、俺は見えているのだが。


 「え、ミーナ先輩が消えっ・・・?」

 「風だけや雷のみを纏わせた時よりも圧倒的な身体機能を向上させる「神衣」。魔術の使用自体困難な筈ですが・・・」

 「ま、ミーナは頑張り屋さんだしな!」


 疑問に思うのが面倒だったのか、メアが雑な一言で纏めていた。
 そんな会話が離れた場所から聞こえる中、ミーナが横に現れて斬り付けて来た。
 双剣で交差に斬り付けて来たその攻撃を指一本で防ぐ。


 「むぅ、これでも届かない・・・」

 「残念だったな。でも面白い技だな、ソレ」

 「でしょ?だからもう少し付き合って」

 「おう」


 軽く拳を振り抜くとミーナはすでに消えていた。
 素早く後ろに回り込まれたが、そのミーナの襟を掴んで地面に叩き付ける。
 しかしミーナは受け身を取ってダメージを軽減し、俺の腕に足を絡ませる。
 そのままポールダンスのようにクルリと動いて俺の顔に膝蹴りを入れようとする。
 直前、絡み付かれてる腕に力を込めて膨張させ、ミーナを吹き飛ばす。


 「ッ!?」

 「言ってなかったな。絡み付いて来た相手には今みたいなのも手だ。しかし今のは良かったぞ、ミーナ」

 「ん♪」


 そこから再びミーナの猛攻が続いたが、十分程が経過したところでいつもの状態に戻り、魔力切れしたランカのようにソッと横に倒れた。


 「魔力が・・・」

 「無くなったか」

 「あの技は魔力を著しく消耗しますからね。むしろ人の身で・・・いえ、猫の身でよくぞここまで持ちましたね」


 冗談を混じえながらノワールがそう言い、ミーナがフッと笑う。


 「んじゃ、次はメアだな」

 「んえ?」


 いきなり俺に指名されたからだろう、アホみたいな声を出してしまっていた。


 「えー・・・俺まだ魔法とかそこら辺・・・」

 「さっきノワールにも言われてただろ?お前は感覚でどうにかしちまう天才肌派ってやつだ。なら実践方式で鍛えた方が早い」

 「むぅ・・・まぁ、小難しく言われるよりかいいけどさ。んじゃ早速・・・」


 メアは手に持ってる刀を構えた。
 俺がその姿をジッと見てるとメアが首を傾げた。


 「どうしたんだ?」

 「・・・いや、当たり前みたいに刀構えてるけど、本当にそれでやるのか?」

 「・・・あっ。そ、そうだったな。コレじゃない方が・・・」

 「いや、試しにソレで戦ってみるか」

 「いいのか!?」


 メアが嬉しそうに目をキラキラさせて言う。
 その様子はまるで犬のようで、もう少しで犬の尻尾とかが見えそうだ。


 「ああ。どうせだし、前にプレゼントした服も着て本格的にやろうか。被害がないようここから少し離れて」


 ーーーー


 そういうわけで。
 メアに侍風の服を着させて森の中へと来た。
 この魔空間内も最初の頃と比べてかなり変化している。
 虫はあまりいないが、まるで気持ちの良い朝のような澄んだ空気が肌を撫でる。
 それはここが段々と「創られた世界」から「一つの世界」として完成しようとしている。
 ここにいるとやはり心が落ち着いてくるのは日本人だからか地球出身だからか・・・そんな場所で見慣れない服を着たメアと対峙する。
 メアの後ろ髪は動きやすいように定番のポニーテールに縛っている。
 その姿はなんというかーー


 「似合ってるじゃないか」

 「そ、そうか?なら良かった♪」


 前回着させた時に言えなかった素直な感想を言葉にすると、メアは頬を染めてニッと笑って見せた。


 「ま、とにかく・・・行くぜ?」


 そう言って刀を鞘から抜く。
 メアはその鞘を捨てるでもなく腰に差すでもなく、もう一本の武器としてもう片方に持った。
 ミーナの双剣スタイルのように。
 そして構える事なくすぐにこちらに向かって来た。

 魔人化は・・・まだ大丈夫みたいだな。

 いつもの様子のメアが刀を振り下ろし、同時に鞘で突いて来る。
 まだ雑さはあるが、俺がミーナに言った事を実践しようとしているのが目に見えた。


 「なんかやっぱ慣れねえな・・・」

 「そりゃあまぁ、いつも剣だけを両手片手で振り回してた奴が急に両手に何か持ったってすぐに馴染むわけじゃないからな。もしそのスタイルで行くなら慣らす必要があるな」

 「んー・・・コレ、腰に下げるのは邪魔だし、でも地面に捨てるわけにもいかないし・・・」

 「収納庫に入れとけば?」

 「・・・ああ、そっか!」


 そのための収納庫なのに気付かなかったのか・・・。

 抜けてるメアをほのぼのしながら見てると、何かを考え込むように唸っていた。


 「どうした?」

 「・・・うん、やっぱいいや!このままで行く!」


 そう言って鞘を逆手に持ち構えた。
 そして再び姿勢を低くしてのの突進。
 先に鞘で打ち上げ、回転して刀で斬り付けて来る。
 そして気のせいか、さっきよりも若干スピードが上がってるような・・・


 「・・・・・・ハハッ」


 気のせいじゃなかった。
 嘲笑するように僅かに笑い、
 メアの様子が目に見えて変化してるのが分かった。
 赤くなった瞳孔、ほのかに光る金色の髪、歪な笑み。
 コレが恐らく魔人化、になる一歩直前だろう。
 証拠に徐々に速さと力強さが上がっていた。


 「おい、メア。今意識はあるか?」

 「・・・?おう、あるぜ。なんか段々楽しくなってきたしな!」


 メアが楽しそうなのはいつもの事だからあまり変わらないとして。
 どちらかと言えば別の意味で気分が高揚してるのだろう。
 メアの技に鋭さが増し、まだ気にする程でもないが殺気が混じるようになっていた。
 そして短い詠唱を唱え、その刀に黒い炎が宿す。


 「■■ーー黒炎王刀」


 更になってきたメアが刀を大きく振り上げて下ろす。
 離れた場所から何をしてるのかと思うと、刀から黒い斬撃が飛ばされた。
 縦に飛んできたソレを半身で避けると後ろにあった木に当たり、燃えるというより溶けて消えていた。

 師匠というか、仮にも恋人相手になんちゅうもんを放ってんだアイツは・・・。

 その後も数発俺に向かって放ち続け、当たらないと分かるとすぐに近接戦に変えて近付いて来た。
 こちらも溶かされたくないので、チユキと同じ強力な氷の属性付与を拳に付けて応戦する。
 無意識に属性付与を使いこなしてる辺り、やはりメアは実際に戦った方が収穫が多いらしい。
 ・・・もしかしたらコレが魔人化による自動的なものかもしれないが。
 そして攻撃の中に蹴りや肘打ちなどを混ぜて来た。
 その一つ一つがどれも岩を砕くような威力で、一瞬グウェントが頭を潰された時の光景を思い出してしまった。
 今のこの威力でアイツの頭に放てば本当に砕けたんじゃないかという期待と残念な思いがあった。
 するとそんなところにナルシャがやって来た。


 「アハハッ、なんか面白い事になってんじゃん!俺も混ぜろよッ!」


 俺とメアの戦いを嗅ぎ付けて来たナルシャはメアを見てすぐに殴り掛かって行った。
 一瞬止めに入ろうかとも思ったけど、ある意味良い刺激になるかもしれないから、まずは放置する事にしてみた。
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