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夏休み

働く同族

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 ☆★ミーナ★☆


 アヤトが試合という名の一方的蹂躙を行っているのを、とばっちりが来ないよう離れて見る。
 自分たちが当人になってアヤトと戦うのは苦しいけど、側から見ると清々しく、そしてその姿に惚れ惚れする。
 そんなアヤトに私は遅れて告白した。
 メアやヘレナに先を越された時、もし自分が断られたらどうしようという考えがあったけれども、考えが見透かされたメアに後押しされた。
 結果アヤトは受け入れてくれた。
 ホッとしたのと同時に「やっぱり」と納得したのもあった。
 受け入れてもらうために全裸でアヤトに迫ったものの、本当はそんな事をしなくてもアヤトは受け入れてくれるとどこかで思っていたのかもしれない。
 嘘偽りなく伝えれば、アヤトはいつも良くも悪くも応えてくれる。無駄を省いて直接的に。
 強いだけじゃない、そんな好きも嫌いも関係なく想いを真っ直ぐに伝えてくれるところも好きになった一つになる。
 でも、結果的に言えば私もメアもアヤトの全部が好きなのかもしれない。
 だって嫌いなところが思い付かないのだから。
 強いて言えば女誑おんなたらしな困ったところがあるけれども。
 でもそれはアヤトに魅力があって、みんなそこに惹かれて好きになっているだけなのだから嫌ではない。
 試合を眺めてるメアの方を見ると惚れ惚れしたようなうっとりした様子をしてるのが窺える。
 メアもメアで盲目的に恋をしている。
 修行なんていう汗臭いもの、普通の女の子なら誰でも嫌がるし、たとえ好きな人相手でも殴られたり蹴られればそんな想いも褪せてしまうというもの。
 でも文句は言えど誰一人嫌がってる様子はなく、それどころかスキンシップの一つとしても考えているだろう。
 キツい、辛いはあっても決定的な「やめたい」という言葉を誰も言わない。
 ただ強くなりたいと言うだけの理由なら続く筈がないから。


 「・・・フフッ、なんて野生的な触れ合い・・・」


 笑いながらつい零してしまった言葉。
 しかし声が小さかったのと周囲の音が大きかったため、誰にも聞かれていなかった。
 そんな時ふと気付く。
 離れた場所で同じく観戦している自分と似た姿の者に。
 自分と同じ猫耳尻尾、足のかかとまで伸ばされた長い黒髪、試合を睨み付けるように見つめる鋭い目、私より少し小さめな身長。

 ーー猫人族。

 何故か給仕の服を着ているけど、見た事のある面影に高鳴る胸を抑えながら、人混みを掻き分けてその子の元へ向かう。
 あちらも私に気付いたようで、鋭く細められたその目が驚いたように少しだけ見開く。
 そして手を伸ばせば届く距離まで近付き、お互いしばらく言葉を発する事なく見つめる。


 「シャナ」

 「・・・ミーナ」


 私が呼び掛けてようやく言葉を口にした。
 しかしその後も再び沈黙する。
 シャナ、私の友達。
 何かに付けて競いながら、そしてその結果を褒め合いながら幼少期を過ごした記憶を思い出す。
 同族の中では一番の親友と言っても過言ではないくらいに彼女とは仲が良かった。
 だけどその記憶の中からかなり姿が変わってしまっている。
 何よりも雰囲気が違う。
 ピリピリとした、今にも敵対しそうな空気を出している。


 「シャナ?」

 「ミーナ、元気そう・・・」


 ポツリと呟いた声を聞き取る。
 その雰囲気からは意外な言葉だった。
 もっとも、それ以上に何か言いたそうだったけれど。


 「ん。シャナは・・・元気?」

 「そう・・・見える?」


 シャナのその言葉に、正直に首を横に振って答える。


 「今のシャナはなんだか怖い。手負いの獣みたいで。それと同時に、触ったら壊れそうで」

 「やっぱり、ミーナは分かるんだね。こっちに来て色んな事があった・・・ミーナなら分かるでしょ?・・・ねぇ、なんで勝手にいなくなっちゃったの?」


 変わらない雰囲気のまま問い掛けられる。
 しかしその表情は怒っているようにも、悲しんでいるように見えた。


 「驚いたよ、ミーナがいつもの場所に来なくなっちゃって。何かあったのかって聞きに行ったら「ミーナは村を出た」って。・・・なんで何も言ってくれなかったの?」

 「元々その予定だった。でもソレをシャナに言ったら止められるのが分かってた」

 「当然」

 「だから」


 村では一定の年齢に達したら成人とは別に一人前とされる。
 その際自己責任で村を出る事ができるのだが、昔からシャナは頑なに外に出ようとしなかった。
 危険なのを知ってるから。
 でも私は出たかった。
 一生をあそこで過ごす気なんてないから。
 だからシャナに何も告げなかった。

 でも何故村を出たがらなかったナタがここに・・・?


 「寂しかったよ・・・ずっとミーナといられると思ってたのに急に消えたから。そして無気力になってしばらく過ごしているところに・・・が現れて村が焼かれた」

 「・・・アイツら?」

 「獅子族」


 目を開いて驚く。
 「獅子族」、亜人の中でも獰猛で攻撃的な性格をしている一族の一つで知られる。
 他の種族ともよくぶつかっているため、私たちみたいに大人しく過ごしたい平穏主義の種族はなるべく関わらないようにしている。


 「けどなんで・・・?」

 「知らない。アイツらはいつもどこかと喧嘩してる」

 「・・・村のみんなは?」


 一番気になっていたところを震えた声で問う。
 正直に言えば聞きたくない気持ちでいっぱいだった。
 もしもシャナのその口から「最悪」を告げられたら・・・しかしそんな事を考えても事実は変わらない。
 ただ、受け止めなくてはいけない。


 「・・・分からない。みんな散り散り。私もドワーフのところに行き着いた後すぐに人間の大陸に渡ったから」


 その答えに不安を抱えたままホッとする。
 確定はしていない。ただ答えが先延ばしされただけ。
 でも希望が潰えたわけじゃないからほんの少しだけ安心する。
 だけど、そんな私とは裏腹にシャナは悔しそうに歯軋りをする。


 「なんでいなくなったの・・・?なんで・・・なんでなんでなんでっ!!!」


 するとシャナが突然叫び出し、どこからか取り出したダガーナイフを突き付けて襲って来た。
 その行動に対し、咄嗟に腕輪に魔力を流して剣を出し受け止めた。
 ここに入る際、武器らしい武器は全て取り上げられてしまったのだが、腕輪にふんしていたアヤトからの贈り物隠し武器が早速役に立った。
 しかし勢いが強く後ろに飛ばされ、背後にあった壺に当たってしまい、落ちて砕けてしまった。


 「フーッ!!」


 声を荒げて威嚇するシャナ。
 周りから悲鳴が聞こえる。
 シャナは今周りが見えていない。このままだと誰かが怪我をするかもしれない。
 そうなったらアヤトに迷惑が掛かる。
 さっきまで戦っていたアヤトの方を横目で見ると、ぐったりしたナタリアを背負いながら驚いた表情でこっちを見ていた。
 どうやらあっちは終わったようだ。
 ならこっちもアヤトに手を出されないうちに終わらせる。
 これは私とシャナの問題だから。
 再びシャナが飛び掛かって来る。
 ナイフを受け流しながらこれ以上被害が出ないようにアヤトたちが戦っていた広場にシャナを投げ飛ばす。
 シャナも猫人族だから投げられても綺麗に着地した。
 私も広場へと行く。


 「シャナ、私は出たいから村を出た。掟にも村を出ちゃいけないなんてない。なのにシャナはどうしてそこまでするの?」

 「ミーナには・・・一緒にいてほしかった・・・ずっと。ミーナの言う通り、きっとミーナが私に伝えたら止めようとしてたと思う。でも、せめて一言は欲しかった・・・」


 シャナの頬に涙が伝う。
 感情が乱れ、子供のようにどうしていいか分からなくなってる。


 「裏切られた気がした・・・ずっと一緒にいられると信じてたミーナが何も言わずにいなくなって・・・すごく迷った。村から出ずに過ごすか、ミーナを探しに行くか」


 でも結局、故郷を失くし外に出なければならない状況となってしまったというわけだ。


 「シャナ、私たちはもう子供じゃない。誰かに付いて行ったり連れて行ったりするのはもうおしまい」

 「なんでそんな事・・・ああ、そっか・・・」


 シャナが虚ろな目でアヤトを見る。
 アヤトは「何やってんだろうコイツらは?」みたいな顔でこっちを見ていた。

 何が分かったの?


 「ミーナは他にも遊ぶ人を見つけたからなんだね・・・?」

 「・・・え?」


 シャナの言っている事が理解できなかった。
 確かに今はアヤトがいるけど、出会ったのはごく最近なのだからソレが理由になる筈がない。

 シャナの様子がどこかおかしい・・・?

 するとシャナの体がフラリとアヤトを正面に動き出す。
 先程の言葉とシャナがこれから何をしようとしているのか理解した。

 

 すぐにアヤトの正面を塞ぐようにシャナの前に立つ。


 「・・・退いて」

 「退かない」

 「邪魔するの?やっぱりアイツが・・・」

 「私と貴女の間にアヤトは関係ない。でもそれ以前に・・・あの人は私の想い人だから」

 「ッ!!」


 私の言葉を聞いて下唇を噛むシャナ。
 私ではない、後ろのアヤトへ向けて確実に敵意と嫉妬を向けていた。


 「やっぱりソイツが・・・退いて!」

 「やだ・・・!!」


 ナイフを持って突っ込んで来たシャナにこちらからも対抗する。
 素早く振られたナイフに対し片手の剣で受け止め、懐に潜り込みお腹を蹴り上げる。


 「グフッ・・・カハッ!?」

 「ごめん、シャナ。でもこれは私たちの問題だから、アヤトを巻き込ませない。勿論、周りの人たちも」


 良い感じに決まってしまい地面に転がり苦しむシャナに軽い謝罪する。
 シャナは垂れた涎を拭かないまま立ち上がり、恨めしそうに私を睨み付けた。
 ただてさえ鋭い目付きなのに睨まれたら怖い。
 昔からシャナの怒った顔は怖かったよ。


 「ミーナァ・・・!」

 「・・・ごめ」


 最後にもう一度だけ短く謝り、フラフラに立っているシャナに向かって走って頭部を横から蹴り飛ばした。
 シャナは再び転がって行き、今度は受け身を取る事なく壁に衝突して気を失ってしまう。
 多少はやり過ぎてしまったかもしれない。でもーー

 教訓の一つ。『相手が親しい者でも敵対したのなら容赦するな』

 だからシャナ・・・ホントごめ。
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