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夏休み
想いの叫び
しおりを挟む現実感のないフワフワとした感覚。
ああ、まただ。
また俺は師匠の記憶を覗き見ている。
故意であろうとなかろうと関係無く、人の許可無く勝手に映し出されてしまう。
いつもではないにしろ、魔族大陸で死に掛けてからよく見るようになった。
ただ今回は何かが違う。
何が違う?いや、違わない筈。
暗い空間で意識の覚醒し、しばらく経ってから背景が映し出されて師匠の姿を第三者の視点で見る、いつもの流れ。
そして案の定背景が変わるーー
「おい、避けろぉぉぉ!!」
突然の叫び声。
何が起きたのかと辺りを見渡そうとしたが体が動かない。
動かない?・・・違う、動かされている。
しかしそれは操られているというより、まるで誰かの目線で見ているかのようだった。
するとフッと辺りが暗くなり、その目線が上を向くとそこにはいくつもの巨大な柱のようなものが降り注いでいた。
死を覚悟した。それが俺のものか、この体の持ち主のものなのかは分からないが。
そして巨大な柱が待ってくれる事なく落ちてきて、体中に例え難い激痛が走った。
『「あ゛あ゛ぁぁぁあぁあぁぁっ!?!?」』
いくつもの悲鳴に混じって二つの叫び声が上がったが、それが俺の声なのかこの体の持ち主の声なのか、それすらどうでもよくなる程の痛みが全身を覆った。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!
腕が、足が、頭が、指が、骨が、目が、鼻が、口が。
皮膚が剥がされ空気に直接触れるような鋭い痛みに襲われた。
ーーしかしそれでも死んでいない。死ぬ事はできないーー
死ぬ事ができない?何故?
ーー昔からそうだった。いくら死にそうな目に遭ってもギリギリのところで生き長らえるーー
だから今も。
ーーみんな口を揃えて言うだろう。「お前は幸運だった」と。「神に愛されているのだろう」と。だがそんなものーー
『「冗談じゃない」』
何度も事故に遭うのが幸運だった?その度に死んだ方がマシにな状態になるのが神に愛されるだと?
ふざけるな。
仮にこれが神の仕業なのだとしたら呪ってやる!殺してやる!
背景が切り替わる。
綺麗に整えられた道を映すユラユラとした視界。
それがしばらく続くと一軒の屋敷に入る。
多分ここが師匠の家だろうと一連の流れからこの視界が師匠のものであると理解した俺はその考えに行き着いた。
門を潜り家に入るかと思いきや、おもむろに別の方向を見つめてその方向に歩み始める。
向かったのは先程の大きな屋敷とは別の道場のような場所だった。
中に入るとその視界はキョロキョロと辺りを見渡す。
周囲の壁には無数の武器が飾られており、見慣れた物もあれば見た事のない物が多数あった。
師匠はその中にあった包丁程の大きさのナイフを一つ手に取り、ゆっくりと首へと近付けた。
あぁ・・・本当なら止めなければならない「その行為」を、俺は止める事はできない。
体が動かないからじゃない。知ってしまったからだ。
師匠がどんな気持ちで生活していたか、その気持ちを共有してしまったから。
今の俺も師匠と同じ気持ちになっている。
ーー死にたいーー
頭に響いたいつもより幼い師匠の声。
それはこの体の師匠の意思。
伝わってくる疲労と果てしない絶望感、そして諦め。
師匠の握ってるナイフを大きく振り上げて先端を突き立て、首に向けて放ったーー
「たわけがっ!!」
老人の怒号と共に横に衝撃が走り視界が暗転する。
その衝撃によって少しだけ自分の思考が返ってくる。
そうだ、これは記憶なんだ。
今の師匠があるという事はどうやっても師匠は死ぬ事ができない。たとえ自分の手で死を選ぼうとしても。
視界が、瞑っていた目がゆっくりと開かれる。
どうやら壁側まで吹き飛ばされたらしく、後頭部と背中が痛い。
少し離れた所には先程までこの手で持っていたナイフを握る師匠の祖父の姿があった。
その表情は険しく歪み、明らかに怒りを露わにしていた。
「アヤト・・・お主、今一体何をしようとしていたッ!?」
体が痺れる程の声量が道場内に響く。
自分一人に向けられた怒り。しかし師匠の体は平常心を保ち、そんな事も気にしない・・・いや、それどころかどうでも良いといった様子だった。
「もう・・・疲れた・・・」
「何をーー」
「もう疲れたっつってんだ!!」
「ッ!?」
師匠の口から祖父にも負けない声量の怒号が出た。
そのあまりの勢いに祖父もたじろぐ。
「毎日毎日死ぬ思いで過ごして・・・こんなツギハギだらけみたいな体になって、それでも生き続けなきゃいけないなんて・・・そんな生き方をするくらいならいっそ死んだ方がマシだッ!!」
師匠の惨めな、しかし悲痛の叫び。
その想いが手に力を入れ、床に指がメキメキと減り込んでいく。
「アヤト、それはーー」
「慰めもウンザリだ!ウンザリする程我慢してきた!十二年もっ!!記憶のない赤ん坊の頃でさえ体に刻み込まれてる!・・・何度・・・あと何回我慢すればいい・・・?」
「アヤト・・・」
師匠の怒りに言葉を失う祖父。
それでもまだ師匠の言葉は続き、目頭が熱くなると共に視界が徐々に霞んでいく。
「次はダンプカーか?ガスの爆発か?落石か?津波か?はたまた地割れか!?偶然に起こる筈の現象が俺一人に偶然とは思えない頻度で襲ってくるものにいつまで怯えてればいい!?どれだけ我慢すればいい!?どこまで耐えればいい!?・・・爺さんは言ったよな、強くなって達人になれば自分で対処できるようになると・・・それはいつだ?」
「・・・・・・」
「一年?十年?それとも死ぬまで?」
もし見込みがなければずっと一生?
そして師匠の口から言ってはいけない言葉が出る。
「こんな事になるなら・・・生まれて来なければ良かった!生んでほしくなかった!!」
その言葉を口にすると頭を拳骨を食らった。
速く重い一撃に顔が地面に埋まる。
「それ以上は言うと後悔する事になるぞ」
「後悔、なら・・・もうしてるけど・・・?」
埋まった頭部を地面から抜いて祖父を睨み付ける。
「その言葉を聞いた両親がどんな顔をしてもか?」
「ッ!・・・・・・」
「確かにお主の境遇は他とは比べものにならない程じゃろう。しかしそれでも生きてくれ。もし親を悲しませたくないという気持ちがあるなら、少しでも明るく振る舞ってくれ・・・」
祖父は申し訳なさそうに俯いて言う。
「随分・・・残酷な事を言うんだな・・・。俺に、生きて苦しめと・・・?」
「・・・そうじゃ」
「物理的だけじゃない、人々から非難批判されながら生活しろと・・・?」
「そうじゃ」
祖父が顔を上げると、何かを覚悟したような表情でこちらを見つめてきた。
「・・・バカらしい・・・」
ああ、本当に。
「アヤト・・・」
「・・・この後、また修行するんだろ?」
「・・・!あ、ああ・・・」
「なら・・・着替えて来る」
そう言い残してそこから立ち去る。
説得なんて優しいものじゃない。むしろ脅迫に近い祖父の願い。
息子夫婦の幸せのために、自分があたかも幸せであるように振る舞えという無茶な要望。
他者のために自らを犠牲にしろと、苦を諦め生を諦めるなという自分勝手な想い。
・・・いいだろう、どうせ死ぬ事ができない身だ。
ならばとことん道化を演じてやろう。
俺の生き様で他者が少しでも幸せになれるというなら、どんなに辛くても体を張り、神さえ笑ってバカにする道化師になってやるさ!
ーーーー
「・・・・・・う、ん?」
体の痛みで目が醒める。
寝てる間にやって来たのか、小鳥が足の上にいた。
俺が起きた声に驚き逃げたが。
体中に痛みが走る。
原因は簡単、木に寄り掛かっていたからだ。
「カイトー、お前大丈夫か?」
「あぅ・・・あ、へあぃ・・・」
すでに起きていた師匠が上から見下ろして尋ねて来る。
上手く返事ができなくて口から涎が出てる事に気付く。
慌てて口元を拭いていると師匠から呆れたように吐かれた溜息が聞こえた。
「うなされる程の幸せな夢でも見たか?」
「・・・・・・」
「おーい、カイト?まだ寝惚けてるのか?」
「・・・師匠は今・・・幸せですか?」
「どした急に?」
脈絡のない質問に首を傾げる師匠。
そうだった。俺にとってはさっきの夢の続きでも、師匠にとって見たらいきなりな話題だったな・・・。
どう話を繋げようか考えていると、その前に師匠が答えてくれる。
「・・・幸せだよ。たまに面倒事が起きたりするが、そんなの問題にならないくらいに。昔と違って心の底から楽しいと思える」
「そう、ですか・・・」
「まぁ、なんだ。そこに関しては気にしなくていい。体のあの傷はあくまで過去の、元いた世界で作った傷だからな。それにシトが余計なものを取り除いてくれたおかげでここに来てからは何の不自由もなくお前らと毎日を過ごせてるんだ。何も不満はねえさ」
その言葉通り、夢の中の記憶では見せなかった清々しい笑顔を見せてくれた。
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