143 / 303
夏休み
挨拶
しおりを挟む結果的にグウェントの命に別状はなかった。
ただ首の骨がちょーーーっとヤバい事になってたので事が切れる前に回復魔術を掛けておいた。
おかげでどっからどう見ても白目剥いてだらしなく涎が垂れて気絶してるイケメン(笑)にしか見えない。
あとはこの動かない屍をグウェントと一緒に来たという使者の人たちに任せた。
理由は「拾い食いをして当たったんだろう」と伝えた。
少し訝し気な目で見てきたが、何事もなく連れ帰ってくれた。
願わくばそのまま一週間は目を覚まさないでくれるとありがたいが・・・。
というか、この世界の王ってああいう輩ばかりなのだろうか・・・いや、別にこの世界に限った話でもないけど。
貴族や王族の傲慢さって遺伝子を超えてスキルか何か発現してんじゃないの?なんて考えたり。
所変わってルークさんと話を始めようとするも、会談が終わっても多少急ぎの仕事があるとの事で客室で待機している事となった。
「・・・人の骨って・・・簡単に折れるんだな・・・」
「いや、簡単じゃないから。人の頭蓋骨にヒビを入れたり地面に埋められる程の拳を浴びせるのは簡単て言わないから」
俺の指摘に視線どころか顔を逸らすメア。
予想以上にメアに筋肉が付いていた模様。
メアがグウェントを地面に埋め込む光景を見たルークさんの豆鉄砲を食らった鳩のような顔が今でも忘れられない。
それはともかく、待ち時間の間メアが自分の腕の筋肉を確かめようと二の腕をぷにぷに触っていたり、ミーナが机の上に転がっていた手の平に収まるくらいの大きさのガラス玉を転がして遊んでいたりとダラッとした退屈な時間を待つ事三十分程が経過した頃。
ルークさんがやり遂げた顔で帰って来た。
「遅えぞジジイ」
「すまんすまん、どうしても今日中に仕上げておきたいものがあったものでな」
「まぁ、そんな急ぎの用ってわけでもないからな」
途中秘書らしき黒髪を団子に纏めた女がお茶を出してくれた。
「この方の補佐をしております、フウでございます」
和かに会釈するからは特に堅物というイメージはなく、全員分のお茶を置き終えた女はルークさんの後ろに控えた。
「その前にいいかのう?」
俺が要件を言い出す前にルークさんがストップを掛けて来た。
「何か?」
「先程の話じゃ。君は・・・メアと交際しているというのは本当かね?あの場凌ぎの嘘ではなく・・・」
「ああ、そもそも俺たちがここに来た理由は「ソレ」だからな」
緊張のためか乾いていた口にお茶を手に取り一口すすり流し込み、最初に置かれた場所より少し離れたところに置いて表情を取り繕い、背筋を伸ばしてから頭を下げる。
「報告が少々遅くなって申し訳ない。この度、メアと交際関係を持たせてもらいました。不束者ではありますが、よろしくお願いします」
「・・・・・・・・・」
無言。
誰も言葉を発しない。
聞こえるのはどこかで訓練しているであろう兵士の掛け声のみ。
いつもは気にしないであろうその声がその時だけは耳障りに聞こえる。
そんな掛け声も遠退き、静寂がその場を支配した。
何のリアクションもないがいつまでも頭を下げてるのもあれなのでそろそろ頭を上げようとしてみると。
「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
同時に驚愕の声が部屋中に響く。
何事かと顔を上げてみるとフウ以外が俺を信じられないようなものでも見ているかのように驚いた顔をしていた。
フウはその反応が分からないといった感じに辺りを見渡してオロオロとしている。
「アヤト急にどうしたんだ?もしかして変なものでもーー」
「食ってない」
「熱はーー」
「ない」
「本当にアヤト君ーー」
「だ!お前ら俺をなんだと思ってやがる!?」
メアは「そりゃ・・・なぁ?」と言ってミーナと顔を合わせる。
「下手に出てるアヤトって珍しいっていうか・・・」
「変」
ミーナの一言がいい感じに心を抉る一言を放ったところで話がズレる前に進める。
「まぁ、確かに敬語なんて得意じゃないんだが、こういう時くらいは言えるようにって練習したんだぞ?」
「よくもまぁそこまで・・・」
「他人事みたいに言ってるけどメア、お前のために頑張ってるんだからな?」
「え?あっ・・・わ、分かってるって!」
一瞬何の事か分かっていなかったようだが、それを理解するとメアは顔を赤くしてニヤニヤしてそっぽを向いた。
コイツ最近顔赤くしてばっかだな・・・。
・・・その原因が俺だというのは悪い気がしないがな。
するとルークさんも頭を深々と下げてきた。
「アヤト君の事はよく知っている・・・とまではいかないが、信頼している。それはシト様の贔屓を抜いてもそう思える。じゃからこそ言わせてもらおう。メアを・・・孫娘をよろしく頼む」
「ッ!・・・ああ、任せてくれ」
体の中にジワリと何かが染み渡っていくのを感じた。
涙などは出ていないが、これを感慨深いと言うのだろうか。
ルークさんの信頼を笑顔で答えた。
「ただ分かってるとは思うが、ミランダのような事はしないでおくれ」
「ん?・・・あ。あー・・・分かってるよ・・・」
ルークさんの目を正面から見れない。ギリギリ眉間などを見て誤魔化してるが、修行などでいつもボコボコにしてる俺が信頼に満ちた目と合わせられる筈がない。
ボロが出る前に話を逸らす。
「じゃあ、これで護衛の依頼は終わりだな」
「「え?」」
ルークさんとメアが再び驚いた顔で俺を見る。
「驚く事ないだろ。メアを守るのにもう「護衛」である必要はないんだ」
俺の言葉の意味をすぐに理解したメアは「あっ・・・」と声を漏らし、嬉しそうにはにかんだ。
「同じ屋敷に住んでる。メアはべったりくっ付いて四六時中ほぼ一緒。もう護衛である必要がねえだろ」
「・・・それもそうじゃのう」
まぁ、収入源が減るのが惜しくないと言えば嘘になるけれど、金銭面に関してそんな必要ではないので特に気にする事でもない。
「しかし給料分の資金はこれからも送らせてもらうぞ」
「ん?護衛の依頼もしてないのにか?」
「これからは何かと入り用になるじゃろ。それとメアのお小遣い分じゃ」
「ハハッ、それは拒むわけにはいかないな」
「俺をダシに使うなよ・・・」
メアの苦笑いに俺とルークさんはひとしきり笑い、一旦落ち着いたところでルークさんが意地悪な笑みを浮かべる。
「さて、関連した話でもう一つあるのじゃが・・・他にも「候補」がいるのかな?」
その目線はミーナを捉えていた。
確実に分かった上でそう言っている。
大きく溜息を吐いて答える。
「まぁな。一応合意の上ではあるが・・・」
「抵抗がある、か?」
「当然。一夫多妻なんて俺の世界じゃ、一部の地域を除けばありえない話だからな」
そもそも金銭目的でなければ、人間の独占欲がソレを許す筈もなく成り立つ筈がないのだ。
いくらお互いが仲の良い者同士でも、メアとミーナのように考え方が一致して共有するなんてありえない・・・と思ってた。
現に奪い合いなどなく、あるとしてもどちらかが俺に抱き付いたりと過剰なスキンシップを取っているともう片方が羨ましがって同じ事をしてくるくらいだ。
・・・うん、この前いきなりメアにキスされて、それを見ていたミーナも近寄って来てキスされたのにはビックリした。
喧嘩しないのはいいが、これだと休む暇がなさそうだとなんとなく思う。
「感動的な話の後に二股発覚みたいで気乗りしないが・・・まぁ、そういう事だ」
「そうか。いや、女性をそれだけ受け入れるだけの器量があって、大切な孫娘を蔑ろにしないのであれば儂は構わんよ」
「それは約束しよう」
「うむ。・・・ちなみに他に受け入れる予定の女性は・・・」
「いるわけないだろう・・・ミーナだって予想外だってのに・・・」
「え?」
「え?」
メアの「なんで?」みたいな顔に、俺も「何が?」という想いを込めて返す。
「他にもいそうじゃねえか?アヤトの事好きそうな奴」
「例えば?」
「フィーナ」
「うん」
「ヘレナっち」
「うん」
「イリーナさん」
「うん?」
「アルニア先輩」
「うん・・・」
「ミラ姐」
「・・・うん」
「ラピィやセレスさんにシャード先生」
「・・・・・・うん」
「ペルディア」
「・・・・・・まぁ」
「ランカ」
「・・・あ、うん」
「ルビア学園長先生」
「おいちょっと待て。もうその範囲まで行くと今まで会ったギルド娘や宿屋娘まで入っちまうじゃねえか。それだと本当にあーしさんに言われた通りただのクズになっちまうよ」
「冗談だって。・・・まぁ、学園長はちょっと可哀想だから貰ってやってくれと思わなくもないけど」
「・・・流石に同情で貰う気はねえぞ」
0
お気に入りに追加
7,075
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします
リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。
違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。
真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。
──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。
大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。
いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ!
淑女の時間は終わりました。
これからは──ブチギレタイムと致します!!
======
筆者定番の勢いだけで書いた小説。
主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。
処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。
矛盾点とか指摘したら負けです(?)
何でもオッケーな心の広い方向けです。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。